内野日出男

2025年05月05日

続々々 Bill Melis氏の GTEL

 この機関車はある中古屋から来たリストの中から見付けた。その店はこの機関車の素性がわからなかったのだ。ただ、UP 3-unit gas turbine built from scratch とだけ書いてあった。
 電話してみると裏にBMという刻印があることが判明し、その情報だけで買う決心をしたのだ。価格は韓国製の1/2以下であった。ちょうど内野日出男氏を案内してアメリカに行った時に、筆者の友人宅を送り先に指定して受け取った。

 内野氏はこの細工を見て唸った。「『俺にはできない。』とは言わないが、大した腕だ。」と感心したことを覚えている。
 どのような経緯でこの模型が売りに出されたのかは知る由もないが、運良く博物館に収蔵することが出来たのは本当に嬉しいことだった。

B unit & tenderamerican-rails.com gtel テンダは機関車より幅が広い。なぜかということは文献から見付け出すことはできなかったが、廃車になった蒸機用テンダに保温用のジャケットをかぶせた分だけ幅が広いのである。Melis氏は実測している。右の実物の写真はこのウェブサイトからお借りしている。
UP 3-unit GTEL's wide tender ごく一部の例を除き、大半の既製品はここが間違っていて機関車と同じ幅だ。この模型はAlco Models という会社の製品で、珍しく正しいテンダを付けている。
 

Bill Melis' turbine 8 この天井の歩み板は全て Melis氏の手で作り出されたものだ。実物より多少粗いピッチになっているが、それほど気にならない。 
 
 この種の工作は日本ではまず見ない。3Dプリントができる世の中になったので、さらにやる人は居なくなっただろう。

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2023年06月18日

続 博物館を充実させよという意見

 さらに友人は続けた。公的な施設に寄贈すると、どうなってしまったか分からなくなる。

 それはその通りである。たまたまその地方公共団体の首長が友人であったりすると、受け入れられるのだが、その人が失職したり、死去したりするとアウトである。すばらしい模型も倉庫で朽ち果ててしまう。その実例はよく聞く。横浜の市電博物館の例もどうなってしまったのか、よく分からない。 

 土屋氏はそのことを随分気に掛けていた。預かったものを展示するに当たり、公的機関と連携しないこと、共同経営者を入れないことを約束させられた。
苦しくても一人でやれ。次の世代の経営者を指名して、全責任を負わせよ。個人は信用できるが、市や町は信用できない。共同経営者は、意見が合わないと出て行ってしまうが、その時に半分持って行かれる」とのことだ。

 当博物館はコロナ禍で開店休業状態であったが、ぼちぼちと見学希望者がある。身元を確認した上で、来て戴いている。この博物館は、「誰でもどうぞ見てください。」というものではないので、事前にある程度の審査をして、お断りすることもありうる。
 内野氏の作品を見たい方が多いのは、興味深い。全作品を収蔵していると同時に、細かいジグ、工具も展示している。単なる”形見分け”ではない。蔵書、手描きの資料もすべて保存してある。これは博物館でなければできないことである。

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2023年04月21日

歩み板の取付

内野氏の歩み板 これもTMSに発表されている。これは参考になった。機関車は重く、下手に触ると壊れてしまう。ここにもあるが、人の機関車を無造作に掴む人が居る。大抵はHOの人だ。HOならば軽いし小さいので、どこを持っても壊れることはない。Oでは3 kgから4 kg 程もある。関節機であれば 6 kgもある場合もある。それを握られたらたまったものではない。人のものは触らないというのが鉄則なのだが、無造作に持とうとする人は跡を絶たない

 あるコンテストで筆者の機関車がわしづかみにされている証拠写真が有った。その後ろにはそれを見ても気にせずニヤニヤしている人まで写っている。その箱には持ち方を大きな字で説明した紙を入れてあったが、ラニングボードはひん曲げられ、あらぬ姿で返ってきた。
 骨は入れてあったが、歩み板そのものは薄いので曲がってしまったのだ。骨の部分は尖っているので、そこを避けて持ったようで、あまり意味はなかった。それを見て、ある友人は、「歩み板の裏側に見えないようにトゲをたくさん付けておくと良いかな。」と言った。  

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2023年04月19日

4-8-4 のイコライジング

内野氏のイコライジング 内野氏のNP A2 4-8-4のイコライジングの説明だ。TMSに発表された図の下書きである。接触部を細くして、作動時の抵抗を減らしつつ、テコ比を正確に保っているのはすばらしい。 



 当初重ね板バネを作るつもりだったが、あまり見えないので、ソリッドのバネ様のものを作って試したところ、調子がよく、バネは要らないということになってしまったようだ。これはその後、事あるたびに内野氏と、バネが利くようにすべきことを話した。結局のところ、内野氏が走らせている環境では、バネの効果が見えなかったようだ。

 筆者のように、高軸重で長い列車を牽いてある程度の速度で走らせると、バネなしで良いと言うのはいささか乱暴であることに気づくはずだ。そのうち、前述の細くした部分は潰れてしまうであろう。重ね板バネの緩衝能力はすばらしい。祖父江氏はその種のバネを採用した機関車を何度も作っているので、
「冗談じゃねぇよ。『バネなしでいいんだ』なんて言う奴ぁ、ろくに走らせちゃぁいねえんだよ。ガンガン走らせたら壊れっちまうぜ。」と言った。

 内野氏はこの機関車に筆者の高効率ギヤを装備して、重ね板バネに改造するつもりだったが、間に合わなかった。  

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2023年04月17日

4-4-0のイコライジング

4-4-0のイコライジング 井上豊氏にこのイコライジングについて教えて戴いていたので、この記事がTMSに載った時は「ああ載っている」程度の認識であった。筆者のHOの友人は完全には理解しなかったようだ。


 当時入手できた4-4-0は100%が先台車にコイルスプリングを付けていて、奇妙な動きをしていた。バネが強過ぎるのでボイラ内に錘が入っていて、それがちょうど釣り合うため、ひょこひょこと上下動して奇妙なものであった。
 動輪に入っているバネが程よい硬さなら、先台車のバネをなくすると同時に、高さ調整のワッシャだけにすると良くなると伝えたら、彼は早速やった。うまくいったそうだ。外した錘を叩き伸ばしてキャブ内に積んだので、牽引力も増したようだ。
 さらに動輪をイコライズするだけで、抜群の走りになるはずだし、テンダの重さの前半分を引っ掛けるようにすると、牽引力が増すと伝えた。その後のことは詳しくは聞いていないが、やったはずだ。

 この種の工夫は、理屈がわかっていれば、如何ようにも膨らむ。しかし、この話がTMSに載った後も、製品でこの方法を取ったのは見たことがないし、アマチュアの作品もおかしなものが大半だった。
 先ごろ、クラブの会員で4-4-0を作られた方が居たので、お知らせした。結果は上々のようで嬉しい。  


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2023年04月15日

位相合わせの方法

 内野氏の位相合わせ法この方法はTMSに載っていた。筆者も何回もやっている。クランクピンが円筒形であるから、楽である。

 HO以下では、クランクピンがネジ込みである可能性が高く、うまくいくかはよくわからない。 
 上盤とあるのは定盤の書き間違いである。清書の時に間違えたようだ。下書きは合っていたのだ。  

 結局のところ、筆者は津田駒の万力を安く手に入れたので、それで専用の位相合わせ機を作った。今、蒸気機関車用の歯車を作っているので、それができればやりたい機種が目白押しで並んでいる。
 アメリカの友人からの要望もあるので、待ち遠しい。

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2023年04月13日

クリートを作る

内野氏 内野氏には様々なことを教えて戴いたが、この方法は衝撃的であったことを今でも思い出す。

 誰でも見比べることはやるだろうが、すべてを並べて見比べるというのは素晴らしい方法である。(必要数+2)個を作り、良くないものを 2個捨てると、とても具合が良い。

 この図はTMSにも載っていたので記憶されている方も多いだろう。筆者は壊れた機関車を、安価で手に入れて修復するのが趣味なので、煙室戸がない時の修復法はこの方法に限る。とてもうまくいく。 

 貨車の部品でも、たくさん同じものが必要な時はこの方法は便利だ。 

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2023年04月11日

蒸気溜 および 砂箱を作る  

How to make domes and sand boxes 内野氏のファイルを整理している。かなりの部分は雑誌に発表されたもののようだが、中には未発表のものがあるのでそれを適宜掲載したい。

 最近のむすこたかなし氏のブログで扱われた内容である。蒸気溜の裾をどうするかの問題である。祖父江氏によると、
「一輌しか作らねぇんだったら、ハンダの丸みが簡単だよぉ。塗れば分かりゃしねぇや。10輌までなら、裾を曲げてヤスリ掛けだぁ。」
 ということで、筆者はその2つの方法でやってきた。

 今回の内野氏の方法とほぼ同じである。異なるのは最後の丸みを付けたペンチで、筆者は歯科の技工用の安物のペンチのセットを使っている。凹面と凸面が組み合わさるものだ。手元にあるものはインド製とある。

追記:この技法はTMS348号に載っているとお知らせを戴いた。  

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2023年03月30日

続々々 ナンセンス集

 ・外国の車輌はインチのものさしを持っていないと良い模型ができない。

 これは誰が言ったか見当がつく。筆者もそれを聞かされたが、全く無意味である。実物を測るときには、インチのノギス、巻尺を持って行くと、その数値が読み取りやすいのは事実だ。手摺の太さ、板の厚さがすぐわかる。しかし、それを模型化する時にその数字に従ってインチで作る人はいまい。縮尺が1/48であれば、大きな寸法はインチ尺でケガけるが、小さなものは無意味だ。塗料の厚みもあるので、ある程度のところで妥協して太さ、厚さを決めねばならない。日本型OJは 1/45 であるから、いったいどうやったというのだろう。なにか人に自慢できる部分がないかを考え、膨らませたのだ。むなしい話である。

 ・キリンスをかけると、ハンダはきれいに取れる。

 これは極めて怪しい話である。キリンス(硝酸と硫酸の混合液)の溶解速度は、
  ブラス>ハンダ
である。すなわち、ハンダが無くなるまで待っていると、本体が薄くなる。しかもハンダの下は腐食されないので段になる。その段が無くなるまで漬けると、本体は極めて薄くなるだろう。 

  
 その他、たくさんあるが、今回はこの辺で終わりにしたい。 

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2023年03月24日

ナンセンス集

 内野氏のファイルの中に「ナンセンス集」があった。それは模型の集会に参加した時に出た会話の中から、とんでもないものを抜書きしたものである。鉛筆の色が微妙に異なるものがあるので、何回も分けて書き込まれたものに違いない。やってはいけないこと、常識がないことを知らない人が得意そうに語ったことを、書き留めてあるのだ。模型人は工学を修めた人ばかりではないので、仕方ないが、中学校の理科の範囲で解決することばかりである。モノを言う前に考えて欲しかったと考えるのは、筆者だけだろうか。

・凸電の床板は厚くないと垂れ下がってしまう
  最初何を言っているのが全くわからなかった。多分上廻りを薄板で作り、側板が不連続だから剛性がない。だから厚い床板で曲がらないようにする必要があると言いたかったのであろう。
 実物の構造を見れば、上廻りの剛性など無いに等しい。下廻りの剛性を上げる工夫など、訳はない。 

・台車のスプリングは3つを硬く、1つを柔らかくすると良い
  何をか言わんや、である。静止状態なら凸凹の線路上で落ち着くであろうが、走らせたらとんでもないことになる。このメモが作られたのは30年ほど前であろうと推測する。ところが10年ほど前にもこれを得意そうに言う人を見た。同一人物かどうかは知らないが、付ける薬がない。その人は3箇所をバネなしにしても良いのだとまで言っていた。 

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2023年03月14日

続々 模型製作技法

棒材の端部ツブシ治具 手摺などの取付部のディテールの作り方である。板を挟んで仕上がりの厚みをコントロールしている。これは便利である。

 筆者は万力を使っている。印をつけた線材を所定の深さまで万力の口金に挟み、所定の角度までハンドルを廻して潰す。この方法では、動かす範囲を調整しなければならないことがニ回あるので、ばらつきが大きく、失敗する可能性が高い。 
 
 当てて挟む鋼片の角を丸く落としてあるのも、良いアイデアである。こういうところまで注意が行き届いているのは素晴らしい。この方法でやれば、大量生産ができるだろう。  

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2023年03月12日

続 模型製作技法

シャーリング切断後の処理 シァで切ったものは、くるくるとねじれている。それを補正するには逆にねじれば良いと思う人は多い。確かにそうなのだが、そのねじる量を見極めるのが難しい。

 ねじり過ぎたり、足らなかったりする。この引張る方法は簡単である。筆者もよくやる。伸びる量は僅かだが、一発でできるし、出来たものは硬い。加工硬化が起きるからだ。
 プライヤに銜えて、ゴンと引けば終了である。その衝撃が効く。

手摺、ステップ等の曲げ治具 手摺などの長さを揃えて作る方法である。このジグを持っていれば、何も考えなくても同じ寸法のものができる。筆者は、ラジオペンチにヤスリで彫り込んで印をつけてある。しかし、こちらの方法のほうが便利である。ただし、HO以下の細いものに限る。Φ0.8程度だと、孔がすぐに大きくなってくる。鋼製のジグが必要だろう。 

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2023年03月10日

模型製作技法

 内野日出男氏の資料を丹念に読んでいる。時々、原稿の下書きのようなものが出て来る。何かの雑誌等で発表されているものかも知れないが、オリジナルの原稿には味があり、少しずつ発表して行きたい。これは夫人の希望でもある。

曲げボイラー ボイラの材料を切り出し、丸棒に巻き付けて所定の径にする。その時の切り出し寸法についての注意である。板の中心部の長さを切り出すようにとある。板厚くらいは誤差範囲だろうと思うと、意外にその差は大きく、きっちり嵌まるはずの煙室戸が落ちて来たりする。

余分ハンダの吸い取り法 ハンダの吸い取り法である。内野氏はこのような丸線を使っていらした。筆者は、最初は甲丸線(半分削った丸線)を使って少しでも吸い取り量が多くなるようにしていた。そのうち、平編線を使うようになって、この方法は忘れていた。

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2023年03月04日

louver を作る

 内野日出男氏の工具を整理している。こまごました手作りの工具の中にそれが見つかった。

louver cutter1 これはプレスによるルーヴァである。本物は総型で一発だろうが、模型の場合は1つづつ送りながら抜く。左は下から見ている状態で、右は上からである。


 模型を見ているので、やり方はそれしかないことは分かる。しかし、その工具を作り、実際にやるにはかなりの困難がある。筆者は自分で作らざるを得なくなったときにできるかどうか、かなり怪しい。オス型が回転してはいけないのだ。しかも剪断するわけだから、刃の位置は極めて正確に決まらなければならない。

louver cutter2 このメス型は作るルーヴァの大きさに合わせて作ってある。その細い孔の一辺が刃物になっているのだ。最初に抜いたワークを当てて位置決めするわけだ。細い孔の一面だけが、刃になっている。

 
 少し錆びているので、刃を傷めないようにサビを取る必要がある。うまく出来ている型なので、しばし見とれていた。

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2023年01月17日

続 内野日出男氏のD62

Mr.Uchino's D62 (5)Mr.Uchino's D62 (3) Tavata氏、春岡電鉄氏が正解である。寸法を測ってみると全長は200 mm強で、1/100である。線路が見当たらず、探し回って載せた線路が大きなヒントになってしまった。枕木部分を消すと、もう少し難しくなったかも知れない。


Mr.Uchino's D62 (1) この機関車の話は内野氏から聞いていたが、現物が出てくるとは思わなかった。小さな箱に入っていたので、気が付くまでに時間が掛かった。 

 1/100というサイズは他に例がないので、列車を走らせて楽しむことは出来ず、ただ作ってみただけで終わった。鉄道模型は仲間が必要であると悟ったそうだ。

Mr.Uchino's D62 (6) Mr.Uchino's D62 (7)共通のゲージ、共通の(似通った)縮尺が必要である。独善的な模型は孤立するのだ。


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2023年01月15日

内野氏の工夫

 I氏より、とれいん誌の1996年11・12月号に内野氏の工作技法メモが載っていると連絡があった。
pull to expand 今回の edgewise に絡んで、リヴェットのピッチを合わせる方法も開陳されている。これは割合知られたアイデアのようだ。祖父江氏も「引っ張って合わせりゃいいんだよ。」と言っていたし、筆者もそうしていた。

 旧型国電などのドア上のリヴェットである。エッジワイズで作った部品にリヴェットを打ち、ヘッダを張るときに問題になるのだが、調整はわけない。金属は伸び易いものなのだ。

 人間の眼は、平行とは垂直はよく認識するからごまかせないが、長さは絶対値を認識していない。相対的な値としてしか認識しないから、このような方法が成立する。 

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2023年01月13日

続 edgewise

 早速 F氏から連絡があり、写真をいくつか送って戴いた。大学の工房に鉄の帯やアングルをRに曲げる工具があり、それを参考に帯をどうすれば曲げられるかと考えました、とある。

Mr..F's method (2) この写真では木の板に孔をあけ、そこに段を付けたブラス棒を差し込み、クランプで軽く締めながら、帯板を挟んで曲げる。板にはどこまで曲げるかを描いてある。戻りがあるので、90度なら100度曲げる必要がある。


Mr..F's method (1) 孔をあけるためのジグである。棒(rung という)を差し込む位置が正確に決まる。




Mr..F's method (3) 図面をコピィして貼っておけば、その通りのものが作りやすい。 




 
 エッジワイズは難しい技法ではない。曲げる瞬間に加工硬化するので、多少の力が掛かっても、曲がりにくい。もしこれがエッチングによる切り抜きであると、あまりにもクタクタで、まっすぐに取り付けることさえ難しいだろう。 

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2023年01月11日

edgewise

edgewize  (3) 内野氏はポケットからこの曲がったハシゴの材料を出して筆者に見せた。
「どうやって作ったか分かる?」

 筆者はピンと来た。糸鋸で切り抜いたのなら、わざわざ見せまい。そんな事例はいくらでも紹介されているのだから。

edgewize  (1) そこで筆者は答えた。
「ジグで挟んでおいて、引きながら曲げたのではありませんか?」
 内野氏は口を大きく開いて驚いた。
「知ってるのか!」

 そのようなやり取りがあってから、筆者は内野氏とは非常に親しくさせて戴いたように思う 。この方法は小学生の頃から父から聞いていた。大きな変圧器、モータ等の巻線はこの方法で作る。
 「エッジワイズというのだ。」と父は教えてくれた。「丸い線を巻くと隙間が大きくて損なのだ。角線を巻けば隙間はかなり少なくなるからな。」

edgewize  (2) "edgewise"という言葉は英語ではたまに出てくるが、角線を曲げるということに使うのは特殊な場合で、日常には遭遇しない使い方である。この言葉が戦前から日本に伝わっていたということは、イギリスか、アメリカからその概念が輸入されていたわけである。模型の世界では使われていなかったようだ。

 祖父江氏は抜き型で作ったものを使っていた。数の問題があるからそのほうが安上がりだったのかもしれない。プレスは、時間が節約できるからだ。穴まで同時に抜いていた。 

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2023年01月09日

内野日出男氏のD62

Mr.Uchino's D62 (4)Mr.Uchino's D62 (2) 内野氏宅からお預かりしている物の点検は、ようやく最終段階に来た。

 これは一体何であろうか。寸法は伏せて写真をお見せする。ゲージ、縮尺を当てて戴きたい。

 内野氏はこれを1968年に作った、と箱に記してある。そのころのTMSを調べているが、記事には載っていないようだ。それから55年も経とうとしている。この掲載記事が雑誌にあれば、お知らせ願いたい。 

 連結器はKadeeを用いている。石炭は半分ほど剥がれているので、これは修復したい。ホコリがついているので清掃して陳列する。場合によっては塗装のタッチアップをすべきかもしれない。

 とにかく、フル・スクラッチ・ビルトである。もちろん動輪も手作りであり、これは内野氏がユニマットを入手してまもなくの作品である。 

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2022年10月31日

内野氏の輪心製作

 内野氏の工作手順を紹介する記事を公開しているが、思わぬ手応えがあって、筆者は驚いている。いろいろな方から感想を戴く。もっと見せてくれとの意見が多い。
 達人の手の内を見せる記事には価値があるということだ。プロの手の内はなかなか見ることができないから、内野氏のような上級アマチュアの仕事は、チャンスがあれば見ておきたい。

wheel center 左はインデックスで孔をあけた状態である。中は切り抜いて、スポークを丸く削り出した状態で、鋳型として完成した状態だ。右は鋳こんだロストワックス鋳物である。スポークの丸みが実感的にできている。
      
wheel center plan 図面があるが、この輪心のものであるかどうかは、確証がない。上手な図面で、さすがに専門家である。スポークのテーパを指定する断面を描いている。


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2022年10月19日

続 内野氏の動輪の構成

driver counter balance weight 輪心の厚み方向からの撮影である。カウンタ・バランス、クランクは 6 mm厚の板を嵌めたので、同じ高さであるはずだが、カウンタ・バランスにはさらに 1 mmの板を貼り足してある。

 この鋳物ができたら、旋盤上でクランクだけ挽くのである。全周廻すとカウンタ・バランスが削れてしまうので、チャックハンドルを差して、45度位の範囲だけを手で往復させて削る。大変そうだが、それほど難しくはない。ただ、バイトはよく切れるものを使わないといけない。

 カウンタ・バランス・ウェイトが大きく飛び出していると、非常に迫力がある。Oゲージは実物より1.8 mm弱、線路幅が広いので、下手にこれをやると、破綻する場合が多い。微妙にシリンダ中心を移動したり、クロスヘッドの裏を削ったり、というような様々な工夫でごまかすことが必要であった。内野氏もそこには気を遣っていた。 

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2022年10月17日

内野氏の動輪の構成

driver center これはDM&IRの2-8-8-4の動輪を作るプロセスを示している。旋盤で挽いた輪心に、概略の形を鉛筆で描いてある。そうして色々なやり方で、形にするべく試行していたのだ。


 クランクやカウンタ・バランス・ウェイトを貼り付けて、旋盤で挽き落とす方法も試したようだ。結局は、結果には不満であった。クランクを厚板から切り抜いて、孔に落とし込んでハンダ付けしている。

crank この板は 6 mmの厚さだ。実に見事に切り抜かれている。左は完成した鋳物の原型である。これは変色していないから、シリコーンゴム(RTV)でゴム型を作ったのであろう。生ゴムで型を取ると、加硫時に発生する硫黄化合物の蒸気で、ブラスは黒く変色する。 
 
 カウンタ・バランスも同様に切り抜いて嵌め込まれている。嵌め込んでから、裏を削って肉を盗んである。そうしないと、ヒケが出て、表面が凹んでしまうからだ。一方、クランク部は旋盤で表面を削るから 多少のヒケは問題ではなくなる。バランス・ウェイトは鋳肌のままである。 

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2022年10月13日

内野氏の糸鋸作業

coping saw 内野氏の”抜きカス”を拾って来てある。これが何の部品になったのかは、しかと覚えがない。このようなものを大量に正確に抜くのは難しいと思うが、内野氏は鼻歌交じりでスイスイと抜いていた。鋸刃は 4/0 だった。
 ある友人は、「その鼻歌に秘密がある」と言う。糸鋸はリズムが必要だ。いつも同じように引かないと、引っかかる。そのリズムの元が鼻歌だと主張する。そうかもしれない。
 最近はそれを思い出して、実行している。なかなか良い。

wheel center blank 右はインデックスで穴あけをしたあと、糸鋸で抜いてスポークを作る直前の状態である。左は何をするつもりであったのだろうか。

 祖父江氏の工房を訪問したときも、このような状態のものがあった。糸鋸を通して、筆者と喋りながら抜くのだ。ほとんどワークを見ていないような感じがした。そのスポークの仕上げはキサゲであった。

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2022年10月11日

続々々 内野日出男氏の工作

 内野氏の工作の上手さは、糸鋸、ヤスリがけ、旋盤、ハンダ付けである。要するに、金属加工の本質を深く理解しているということ以外には、筆者は何も言うことができない。   
 内野氏がどのようにしてそのような能力を身に付けたのかは、よくわからない。ご実家はその種の仕事をしていたわけではない。特定の誰かからテクニックを学んだということでもないようだ。翻訳家の日吉菊雄氏とは、家が近くで親しかったとは聞いている。

 遺された工具類を点検すると、全てのヤスリのsafe edgeは見事に研ぎ上げられている。旋盤も良いものだが、特別なものではない。
 糸鋸は荒い目の物が多い。#1程度の刃がたくさんある。これでステンレスを切ると、かなり早く切れる。糸鋸の枠も極めて普遍的に売っているもので、特に変わりはない。

 筆者も若い頃は目が良かったので、糸鋸加工は得意だった。内野氏達と話していたとき、ケガキ線に沿って切るとき、どこを切るかという話で盛り上がった。内野氏が「ケガキ線を半分残すんだ。」と言ったので、皆が納得したことを思い出す。

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2022年10月09日

続々 内野日出男氏の工作

brake shoe(1) これはブレーキ・シュウである。本物のようにアームがシュウの溝の中に納まる。これを旋盤で挽いてヤスリで削り出してある。難しいのは、8個取りの角度を等しくすることだ。


brake shoe(2) 違う角度から見てみよう。溝がよく見える。8個の穴は自作のインデックス装置で位置を決める。内野氏は48歯の歯車を用いていた。48は、2、3、4、6、8でも12でも割り切れるから、便利な数字である。旋盤のねじ切り用の歯車を用いている。

 indexing device(1)歯の溝にはまる割出しクサビはブラス製で、バネが付いていた。三つ爪のチャックに銜えたワークを、所定の数の歯を飛ばして廻す。所定の角度を廻してドリルで孔をあける。3爪スクロールチャックは、ユニマットのものだ。中心のネジはM12-P1である。 

indexing device(2) 歯車を外したところである。クサビを保持する部分は、歯車の大きさに合わせて前後出来るようにしてある。すなわち割出し数に合わせた設定ができる。しかし、ほとんどの場合、48歯で用は足りるだろう。回転しないように軸を固定する装置はついていないが、小径の穴をあける程度だから、問題はない。フライスを使うと回転してしまうだろう。

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2022年10月07日

続 内野日出男氏の工作

side rods これはDM&IR鉄道の2-8-8-4サイドロッドである。厚さ 3 mmのステンレス板を糸鋸で切り抜いている。穴あけして概略を切ってからヤスリがけして正確な外形にする。それをフライスで削って薄くし、スリットを入れ、相手と組み合わせて関節とする。

side rods (2) 余分にいくつか作って、良いものを選んだのだろうが、余っているものも素晴らしい出来である。
 ロッドにステンレスを選んだのは、単純に色の問題である。内野氏も、洋白の色は好きではなかった。

 このステンレスは、SUS430であろうと思う。磁石に付く。それほど硬くないから、糸鋸で切れる。多少の油を付けると切り易いが、ブラスの2倍ほどの時間がかかる。切り粉は磁石で完全に集められる。

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2022年10月05日

内野日出男氏の工作

 抽斗の中に、内野氏から戴いたいくつかの仕掛かり品、失敗作(とてもそうは見えない)をしまってあった。久しぶりに中を確認している。

headlite(1) ヘッドライトである。ロストワックスの既製品は気に入らないので自作されたのだ。反射鏡が洋白で削り出してある。それが本体のブラスのブロックにはめ込まれる。
 このアイデアには参った。洋白は白いので、めっきをしなくてもそのまま反射鏡になる。

headlight(3) 組み合わせるとぴったり合う。ハンダを滲み込ませれば、そのまま出来上がりだ。見本にした出来の悪いロストワックス鋳物とは雲泥の差だ。



headlite (2) この鋳物は特に出来が悪い。その後の製品はかなり良くなっている。その元型を誰が作ったかは不明だが、アメリカ人にも特別な才能を持った人が居るようだ。昔聞いた話だが、そのような人に鋳物メーカが頼んで作ってもらうときは、現金・領収書無しだそうだ。支払い側が、その経費をどうやって捻出していたのかは分からないが、かなりの金額だったようだ。

 筆者もある機関車のテンダ台車のブレーキ梁の元型を作ったことがある。祖父江氏の依頼だった。時間がないから頼む、ということだった。大変光栄なことであり、対価はあえて貰わなかった。

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2022年09月28日

ケガキ用ノギス

 ケガキにはノギスを多用する。本当はやってはいけないのだろうが、この方法を採用する人は多いはずだ。この方法は昔からTMSにも書いてあった。

Mr.Go Ito's 伊藤 剛氏のノギスである。両方の爪を削ってある。すなわち、右でケガき、左でもケガくことができる。剛氏の遺品にはこの種の工夫が多い。外寸法測定側(下)だけが削ってある。



Mr.Uchino's これは内野日出男氏のケガキ用ノギスである。片方を短くし、尖らせてある。照明の具合が悪く、影になってしまったことをお詫びする。上側の爪と同じような形である。
 これは理にかなっている。長い方を深く保てるので、距離が斜めにならない。すなわち正確にケガける。
 不思議なのは、内寸法測定側も同じように削ってあることだ。内寸法側でケガくことは少ないと思う。孔の縁に沿って一定の距離で線を引く事があるのだろうか。それほど機会はないものと思われる。  

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2022年02月26日

「続 蒸機を作ろう」の評判

 この本が発売されて1月になる。お会いするどの方からも、面白いという言葉を戴く。やはり、巻頭の「縮尺の物理学」の評判が良い。
 殆どの方はこのブログの読者なので、言わんとすることがすでに頭の中にある、という事も大きいだろう。しかし、それを差し引いても、今回の本の記事は、素晴らしい。異なる視点から見ているので、分かりやすいのだ。  

 今野氏が、商業誌の書評中、「縮尺の物理学」が面白いと書いてあるとおっしゃるので、街まで出て、購入してきた。
 TMSの3月号である。
縮尺の物理学」は非常に興味深い内容で、工作派や蒸機ファンでなくても「考えるモデラー」であれば一読の価値あり、とあった。編集に携わった人間としては、このような評価を受けるのは、とても嬉しい。

 この書評を書いた人が、編集部のどなたなのかは知らないが、このように感じた方が編集部に居られるということは、大きな救いである

 奇しくもこの号には、著者の谷川氏のアルゼンチンの機関車の記事がある。その記事を見て少々驚いた。ちょうど一年前谷川氏から、この機関車の写真が載っている鉄道ファン誌を持っていないか、と問い合わせがあったのだ。博物館の書棚を探し、1ページの記事ではあったが、すぐに複写して送った。それがこのような形になって、発表されていたのだ。大変嬉しいニュースであった。

 その頃、筆者は新たな慣性増大装置を開発したので、秋に締め切られるTMSコンペに出して、審査員を瞠目させてみようと思った。直前に気が付いたが、HO以下しか応募できない事がわかった。
Hideo Uchino HOkutan #16 たとえ出せたとしても、走りなど見ないようだからどうでも良かったが、このような書評を書く人が居るのなら、また話は変わって来るかも知れない。HO以下という制限は、不可解だ。1982年にTMS賞を受けた内野日出男氏の北炭16号機関車は、OJゲージである。 


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2021年09月21日

caboose を作る 5

Ambroid NP caboose これはNorthern Pacific 鉄道のカブースである。24 ft(7.3m)だから、かなり短い。内野日出男氏が、TMSに 4-8-4(Northern)を発表したときの背景にも写っている。これはQuality Craftではなく、その前身のAmbroidの製品である。木部の仕上がりがとても素晴らしい。
 内野氏はすぐ組み立てたが、筆者は部品を紛失して、それが見つかるまで10年以上頓挫していた。その後、部品が見つかってからも30年ほど進展しなかった。今回十数時間掛けて、生地完成まで持ち込んだ。調査して、キットの図面に描いてない部分も作った。

Ambroid cement Ambroid は、接着剤のブランドである。日本では、昔のセメダインCが近い。溶剤にニトロセルロースを溶かしたものだが、かなり可塑剤が入っているように思う。パリッとは剥がれにくいところが優秀である。金属もかなりよく付くが、キュポラの4隅が、今回珍しくも剥がれた。再度、エポキシ接着剤で付けたので、大丈夫だろう。

 ある人によると、接着剤の販売促進用にキットを売り出したと言うが、それはかなり信憑性のない話だと思う。それ以前にこの種の木製クラフツマン・キットはいくつかあり、それにはAmbroid Cementを使え、と書いてあった。おそらく、Ambroid の経営者の中に鉄道模型の趣味のある人が居た、というのが真相だろう。Ambroid とは、「琥珀のようなもの」という意味である。色はやや飴色で琥珀に似ている。固まったものも少し柔らかい。
 琥珀とは、古代の植物の樹液が埋もれて出来たものである。要するに松ヤニを長時間蒸し焼きにしたようなもので、宝石ではあるが有機物である。

 木製キットを組むにはエポキシ接着剤が良い。エポキシは混合直後はかなり粘度が低く、流れて沁み込みやすい。デッキの縦の針金を端梁に接着するときは、それを利用する。木材に孔をあけて針金で出来た手摺を差して、根本に少し接着剤を置く。2分経ってから見ると、孔に流れ込んで針金の周りには無くなっている。入らなかった残りは、綿棒に溶剤を付けて拭き取る。綿棒を一定方向に回転させるのがコツだ。そうしないと綿の繊維が抜けて残ってしまう。溶剤は、スプレイの液を用いれば良い。 

 この種のキットは、もう組める人が少なくなった。一時期は奪い合いになるほど売れたが、現在では e-bay などでよく見かける、しかし特定の機種は全く出てこない。HOもあるが、素材の粗さが相対的に2倍になるので、表面処理はなかなか大変であろう。もともとはOスケールから始まったので、自ずから限界はある。 


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2013年07月09日

続々 Bob Longnecker氏のこと

 内野日出男氏はアマチュアではあったが、その抜きんでた腕を生かして、模型店のパイロットモデルの製作のアルバイトをしていた。
 PFM‐KodamaのK-27の試作時に、内野氏は温めたアイデアを全て詰め込んだのだそうだ。それを見て驚嘆したのが、PFMの技術顧問をしていたボブであった。あわてて日本にやって来て、作者の内野氏と会ったと言う。それ以来、極めて親密な関係を保っていた。

 内野氏は建築士であるから、その作品には機構的に怪しいところはない。そこがボブの眼に叶ったのである。TMSの旧号にはいくつかの作品が載っている。TMSの山崎氏は作品を見て、かなりショックを受けたらしい。どれもアマチュアの作品ではないレベルだったからだ。
 OJの作品が多い。軌道楽会では主力メンバーであった。個別の機種を挙げるのは控えたいが、模型店のパイロットモデル製作は非常に多い。 

 ボブは当時開発されたばかりのコアレス・モータを日本に初めて持ち込んだ。それを内野氏に渡して、機関車に搭載した。内野氏は、二つのモータの線を結んで廻した。するとあたかも軸がつながっているように、片方廻すともう一方が回転するのを見て、驚いた。
 筆者が内野氏との知遇を得たのは1980年頃だと思う。東京駅の地下で吉岡精一氏に紹介された。お勤めの都庁から近いのでそこを選んだのだ。ビールを飲みながら楽しくお話を聞かせて戴いた。その時もボブの話が出た。

「シアトルに行きたいから、その時は頼むよ。」ということであったが、互いに多忙で、それが実現したのは20年後であった。

 しばらく休載する。実は避けられない用事があってアメリカに来ている。10日ほどで帰る予定である。


2013年07月05日

Bob Longnecker氏のこと

 内野日出男氏はBob Longnecker氏とは1968年くらいからの知り合いだった。お互いに趣味のことであるから十分意思疎通は可能であったので、筆者が間に入る必要もなかった。
 Bobは内野氏の腕をとても高く評価し、内野氏はBobの頭脳に惚れ込んでいた。

 ボブは東京の下町の工場を内野氏と歩いて、ヤスリ工場を訪ねている。名前は失念したが、あるヤスリ職人の腕をとても高く評価していた。身振り手振りを交えて、機械が上下し、手で送りながら歯を付けて行く様子を再現された。また、焼き入れをするとき、味噌を塗るとか泥を塗るとかという工夫について色々考察をされていた。

 日本刀を焼き入れするときには特別な泥を塗るということは知っていた。欧米では硝石とか食塩を混ぜたものを塗るらしい。馬糞を塗るという話も出てきた。
 直接水に接するより、泥や塩を介して接する方がよく冷えるというのは面白い現象である。水蒸気の膜が出来にくいのだそうだ。

 ボブは筆者の3条ウォームの記事については良くご存知で、「理屈は分かっていても誰も作らなかったのだ。コアレスモータを使うという発想がなかったんだね。そこが最大の発明だよ。」と仰った。
 同じ線路に2輌の機関車を置き、1輌を押すともう1輌も動くという話をすると、「想像するのは簡単だが、実際に動くと興奮するだろう。」と言った。その通りであると思った。

 ボブとは、2003年にSeattleで再会している。その時は内野氏夫妻を案内しての旅で、御自宅にお邪魔した。Sam Furukawa氏には大変にお世話になった。

2013年06月29日

JAM

 筆者はJAMという組織についてほとんど知識がない。 

 10年以上前にJAMが発足したとき、大きな期待を持って出向いた。内野日出男氏から、ロングネッカも来るから、是非来るように、と連絡があったのだ。確か新宿のNSビルだったと思う。
 鉄道模型の催しは業者主催が普通であったが、JAMは違うというように事前に発表されていた。そんなことがうまくできるものかなという心配があった。
 蓋を開けて見ると、金を出したのは業者であったと聞いた。東京の一等地である程度の場所を借りるためには金が要る。仕方がないのだけれども、少しずつアマチュア主導の方に転換して行ったのだろうか。その後、大阪開催時以外ほとんど行っていないので、詳しくは分からない。毎年の開催時にちょうど仕事があったり、海外に行かねばならないことがあり、つい行きそびれている。今年は久し振りに行けるはずだ。

 アメリカのコンヴェンションはアマチュア主導である。カリフォルニア、ニューヨーク、ワシントンDCいずれも完全にアマチュア団体が運営している。シカゴだけは少し異なり、Hill's Hobby Shopの主催であったが、徐々にアマチュアに運営が任されて行った。テキサスの場合は極端で、Lorell Joiner氏が全てを請けた。ジョイナ氏は大富豪であって、会場代、晩餐会、その他全てを個人で負担した。これはかなり珍しい例であるが、当時かなりの評判になった。

 アメリカの場合は、日本とは違って会場代がそれほど高くない。入場料を20ドルから35ドル位取るだけで、十分賄えるらしい。会場を提供するホテルにはまとまった数の宿泊客があるので、部屋代のみならず飲食代で落とされる金も大きい。現に筆者もホテルのバァで、かなり飲んでいる。その分も含めての契約なので、会場費は安く上がるということだ。

 日本の場合も、もう少し田舎の、大ホールが付設されたホテルを借り切れば、かなり安く上がるのではないかと思う。先日浜松の駅近くのホテルに泊まった際、そのようなことを感じた。浜松以外にも、そのような場所は在りそうだ。

2009年03月02日

続 余裕について

 イコライザの記事が始まってから読者数が急に増えて、驚いている。コメントも過去最高の頻度で戴いている。掲載分以外にも多数戴いているが、私信であり掲載は控えている。
 
 雑誌の存在価値についての記事については、多くの方から「同感だ」というご意見を頂戴した。中には現行のままで十分で満足しているというご意見も頂戴している。
 全てを紹介したいが、これまた私信でありそれも叶わぬ。

「余裕」のある人の作品はなぜ良いのか。一言で言えば、他者の批評が取り入れられているからである。
 伊藤剛氏が「クラブに入っていない人の作品には偏りがあります。」と50年も前に仰っている。その通りなのだ。自分はこうだと思っても、思わぬ間違いもあるし、より良いアイデアもありうるからである。
 人に軽微な間違いを指摘されて逆上するようではいけない。感謝せねばならないはずだ。

 栗生氏のブログのコメントを読み、考えさせられた。確かに紙の雑誌は、見るつもりのない記事も一応は目に入る。Web では全く目に入らない。いわゆる一覧が出来ないのである。
 基礎知識を正しく解説したものが必要という発言もその下にあった。これも確かに必要だ。

 実は手元に吉岡精一、内野日出男両氏の手によるイコライザの解説書がある。実物の知識から模型的工夫までの実用的な解説書である。両氏にはすでに許諾を得てあるので、いずれ発表したい。

2009年02月28日

余裕について

 「余裕がある」という言葉は誤解を招く可能性があるので、はっきりさせておきたい。筆者の考える「余裕」とは次のようなものである。

・少なくとも、走らせる線路を持ち、走らせる時間がある。(後者が大事)
・コンテストで上位に入賞させるのが目的で模型を作るのではない。結果としてコンテストに応募することはある。
・工学的な素養がある。少なくとも中学校の理科を100%理解し、応用できる資質を持つ。
・模型屋以外に、工具屋、素材屋に自分で行く事ができる。
・鉄道以外の分野の趣味人とお付き合いできる。
・自分のアイデアを公表する。
・他人の指摘を素直に受け入れる。
・友人と助け合う。

 筆者のお付き合いしている模型人で、これらの点を全て満たしている人たちの作品はすばらしい。
 模型雑誌の編集方針はこれらの方向性とは異なるように感じる。その雑誌を頂点とするヒエラルキィを構成し、ある価値観を植えつけようとしているように感じた。趣味というものは人間の持つ「遊び」の部分である。人さまざまであって当然だ。

 椙山満氏は四十年以上前に仰った。「コンテストは魔物だ。
 コンテストにおいて上位入賞すると、全てが正しかったように勘違いする。中身が間違っていようが、主催者の勘違いで選ばれた結果だけが一人歩きする。
「主催者もはじめは気が付いてませんでしたが、あれは記事集めの道具なんですよ。」と椙山氏は何度も仰った。
 ところが入賞すると、何もなかったところに「権威」が誕生するのである。その権威が新たな権威を作り出す。しかし、ほとんどの人はそれに疑問を感じない。おかしなものでも、それを再現することが正しいことだと、一般読者に思わせるのだ。

 内野日出男氏も仰った。
「人のアイデアを盗んででも、作って出そうとする。ひどい話だぜ。事後でもいいから、『使わせてもらいました。ありがとうございました。』の一言ぐらいあって、当然だよ。」

 コンテストは日本の模型界に多少の進歩を与えたには違いないが、それ以上の混乱を残したように、筆者は感じている。

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2009年02月26日

続々々 雑誌の存在価値

 今年もO Scale Westに参加した。詳しくはNortherns4-8-4氏の報告をご覧戴くとしよう。この未曾有(みぞう)の不況下では趣味界も影響を受けていると思ったが、意外にもほとんど影響が見られなかった。

 要するに、皆さん余裕があるのだ。余裕の中からしか良いものは生まれない。出版社も余裕がある。同業他社を押しのけてなどという雰囲気は微塵もない。
 だからこそ、その記事には余裕が感じられる。瑣末なことはあまり書いてない。これは昔から感じていることだ。大きな方針を力強く推し進めていく編集方針は敬服に値する。

 日本の雑誌にそのようなところがあるだろうか。DCCにしても、これ以上の制御方式は存在しないことが、何年も前から明白になっているにもかかわらず、DCCを強く薦めるという記事などない。
 散発的には載るが、やや偏向した記事であったと思う。世の中には多数の機種があるのだから、せめて主な数機種を比較検討した記事があってもおかしくない。
 発煙装置にしても、DCCであれば電力はいくらでも使える。大昔の発煙装置の回顧など全く意味がないが、編集者がそれを書きたがるというのは問題だと思う。そんなことを書くくらいなら、現代の発煙装置について1行でも書くべきだろう。

 イコライズについても全く同様で、こうやりましたという記事はあるが、イコライズするとはどういうことなのかについては、ほとんど例がない。僅かに内野日出男氏の記事にさわりがある程度である。しかしバネとの関連の記事は全くない。

2006年12月28日

小さいスプリングをはめる時の工夫

installing small springs 久しぶりに台車を組み立てた。

 小さなコイル・スプリングを片方に3つずつ押し込んでやらねばならない。以前は大きなポリ袋の中でやっていた。というのは、間違ってスプリングを飛ばすとたちまち紛失してしまうからである。しかしポリ袋の中は見にくく、能率が悪い。

 あるウェブ・サイトを見ていたら、面白い方法が紹介されていた。まず針と長い糸でスプリングを全部通してじゅず状にしてしまう。そしてスプリングを適当な工具で台車に押し込む。間違って飛ばしても、手元に落ちる。すべて糸の長さの範囲内だ。
 スプリングを嵌めたら、糸を抜くと出来上がりというものであった。

 ちょっとしたアイデアであるがきわめて効果的で、ひとつも失うことなく120本のスプリングが納まった。

 このアイデアをあるウェブサイトで紹介したところ、内野日出男氏が「素晴らしい!」と激賞してくれた。「いや、私のアイデアではないのですよ。」と申し上げたら、「素晴らしいアイデアを紹介するのが素晴らしい。」ということであった、

 どのサイトだったかの記憶がない。アメリカのサイトであったことだけは覚えている。どなたかご存知であればお教え願いたい。


追記
 Google で、"install spring truck thread" と検索すると沢山出てきたが、みな孫引きであった。私が5年ほど前に見た記事は見つからなかった。 Dec.31,2006
  

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2006年11月15日

コアレスモータとの出会い

コアレス・モータ そうこうしているうちに、祖父江欣平氏の工房を訪ねることがあった。祖父江氏は滑らかな運転が可能な駆動装置を長年追求されていて、双方向クラッチも試作されていたのだ。のちに、このクラッチは井上豊氏の記事で紹介された。

 そこで、コアレスモータを見せてくれた。氏は「模型クラブの会合で見せてもらったから、買った」と嬉しそうに見せてくれたのだ。これぞ探していたモータだ。鉄心がないから、マグネットの吸着もない。要するにコッギングがない。今思えば、内野日出男氏に見せてもらったのだろうと思われる。内野氏は1971年にLongnecker氏からコアレスモータを貰ったそうだ。

 逆駆動が簡単にできる。筆者も小さいものを二つ買ってみて、そのリード線を直列につないで片方の軸を廻してみた。なんともう一つのモータの軸も回転するではないか。効率が90%近いとこういうことが起こるのかと、感心した。

 仕様書を読み解き、自分の機関車に適合するかどうかを調べた。ギヤ比は何とかなるが、出力が足らない。当時の手持ちの貨車40輌を引き出すのに必要な力を測定すると、起動できることは分かったが、3%の勾配はとても登れないことが分かった。

 仕様書を見ていくと、かなり大きいのが見つかった。捲線の多い低回転モータで、12 Vでの無負荷回転数が5400rpm、トルクが106 mNmと大きいものである。負荷を掛けたときの回転の落ち方も少ないものであった。価格は目の玉が飛び出るほど高かったが、満足のいくものであった。これを使えば、いつか逆駆動ができるギヤができたとき、押して動く機関車ができることになる。

 コアレスモータを扱う商社で、いったいどんな顧客がいるのか聞いてみた。最大のお得意様は防衛関係だという。ミサイルの制御システムは応答が速くなければならないので、慣性モーメントの小さいコアレスモータが求められるというのだ。

 二番目のお得意様はと聞くと「それは貴方だ。」という。今まで何人か来たけど、10台以上買った客は貴方しかいないという。

 しばらくはその地位を守っていたそうだ。

 余談だが、ロールスロイスのエアコンの風向きを変えるフィンを左右に首を振らせるモータが、その会社のコアレスモータだったと教えてくれた人がある。

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2006年10月02日

訃報

9dffc2fa.jpg   内野日出男氏が亡くなった。68歳だった。

 氏とは25年ほどお付き合いをさせて戴いた。まだ都庁の建築課にお勤めの頃であった。東京駅八重洲口でお会いした時、豪快なビールの飲み方に驚いた記憶がある。

 「遊びにおいでよ」と誘われて、ご自宅にお邪魔した。
 工作台に0.8 mmの真鍮板を置き、コンパスで半径3 cmほどの円を描かれた。

 ドリルでその円周上に孔をあけ、糸鋸の刃を通したのだ。何をされるのかと思いきや、突然鼻歌交じりで、さくさくと円周を切り始めたのである。

 「ほら、廻してご覧なさいよ。」とおっしゃる。机の上に真鍮板を置き、円板をその穴の中に置く。指先で廻すと、どこにも引っかからずにするすると廻るではないか。円周上のどの部分も隙間が均等で、真円と言ってよい仕上がりであった。

 自宅に帰ってやってみたが、これはとても難しい芸当であることが分かった。内野氏の達人ぶりを示す良い例で、友人にこの話をすると皆さんとても驚かれる。

 また旋盤工作の名人で特殊なヤトイを自作されたりして、その工夫は筆者も活用させて戴いている。

 懸架装置のイコライズはもちろん本物通りにも作られるが、量産品用の簡易三点支持装置(某模型店が特許と言っている)は内野氏のアイデアである。また、曲線で伸縮して車輌隙間を狭く見せるカプラも内野氏のアイデアである。これは某模型店が勝手に特許を出願し、内野氏は怒った。

 オリジナルのアイデアを大切にされる方で、私もいくつかお褒めに与ったものがあり、懐かしい思い出である。

 その他鉄道模型界に多大な貢献をされ、アメリカの模型界にもMainline Modeler誌を通じて大きな影響を与えられた。
 3年前ご夫婦で訪米される時案内をさせて戴いたが、その後体調を崩され一昨日の悲報となった。
 
 まことに残念なことである。



写真は2003年2月、シアトル市内から空港へ向かうリムジン車中でのひとコマである。左は筆者(の腕)。

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2006年08月31日

全面ハンダ付け

6c82176a.jpg 日本では、「ハンダ付けがうまい人はハンダの量が少ない」という変な定義があるようだ。確かに、ハンダが全く見えない作品も目にする。たいしたものではあるが、Billの基準ではそれは失格である。
 ハンダは接合面のすべてに流すべし。そうでない時にはやり直しをせよと迫る。「ちょい付けでいいではないか」と言うと、「中のフラックスが洗い落とせないから錆びる」と言う。

 写真はディーゼルの機械室側版の扉部分を貼り付けた様子である。こんなところは力が掛かるところではないから、ほんのちょっと付けてあればよいのだが、大きなコテでとろとろと流して、このようにせよと言う。しかも最初にハンダを全面に塗っておいて(tinningという)クランプではさみ、バーナで予熱してから 200 Wのコテを当てる。訳なくできるが、結構な量のハンダを消費する。しかも穴ばかりでなく、穴と穴の中間をよく加熱せよとうるさい。中間にハンダがついているのは、その加熱の伝熱用である。
 手前の面の貼り付けられた板の周りにハンダが少しはみ出しているのがお分かりであろうか。ここまでやってから、ハンダを削り取らねばならない。

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ここでハンダゴテの持ち方について、日米の達人のテクニックが一致したことを報告させていただく。

 みなさんはハンダゴテをどのような持ち方をされて居られるか。Billも、日本の達人祖父江欣平氏も内野日出男氏もコテ先が小指側に来るように握る。決して包丁をもつときのような持ち方はしない。机に向かって座り、肘を机に突き、コテを押し下げる。歯科の先生方が治療中に道具をどんな持ち方をして居られるか、よくご覧いただきたい。この握り方は、力が入り、なおかつ手が滑って失敗することがない握り方である。肘をつけるのが最大の秘訣である。ある程度以上の大きさのものをハンダ付けするときはこの方法に限る。

 はみ出したハンダをキサゲで削り取るときの持ち方も全く同様である。この方法で削れば、驚くほど調子よく、また正確に削れる。鉛筆を持つ時のような持ち方では、力は入らないし、うっかりと滑らせて失敗しやすい。

 あちこちの会場で開かれるハンダ付け教室を覗いても、ここの部分の指導は完璧だとはとても思えない。


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