物理

2025年04月05日

再度 饋電について

 先頃饋電について書いたが、色々な場所でお会いした方々から感想を聞かせて戴いた。

 一言で言うと「とても良い記事」だそうだ。箇条書きにすると、
・この国の模型人は、ほとんど誰もそんなことを考えていなかった。
・指摘されたことは全て事実で、饋電の理屈と方法を知らねば克服できない。
・大きなレイアウトだけの問題ではない。小さなレイアウトでも正しく饋電されていなければ問題が起こるはずだ。
・レイルの素材について再考する時期に来た。

 洋白材をレイルに使ったのは日本が最初らしい。カツミにいた高橋 淑氏が、伸銅屋の店先に山になっていた注文流れのギターのフレットを見て閃き、その再利用法としてレイルを作ってみた。篠原模型店に使うように勧めたところ大ヒットしたらしい。それまではブラスレイルを使うのが世界の主流であったのだ。
 今となっては取り返しがつかないが、その余剰材料が白銅であったなら、もう少し電気抵抗が少なかったであろう。 

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2024年11月16日

UP 2-8-0

 この機種はC57と呼ばれることが多いが、様々なヴァリエイションがある。この模型がどの形式をプロトタイプとしているのかは不明だが、Max Gray はカリフォルニアの会社だったから、西海岸のどこかにあったものを参考にしていた筈だ。

916-Victorian-Railways-Aus-Vauclain-Compound-2-8-0-No.V499 弁装置も各種ある。ボールドウィンで作られたものの中には、Vauclain Compound もあった。ヴォークレイン複式は往復動慣性質量が大きく、高速では走れなかった。アイデア倒れで、多少効率が良くても、使いにくいものであったらしい。メンテナンス・コストも大きかったので、後に大半が標準型に改造されている。 
 この絵はこのサイトからお借りしている。これはオーストラリアに輸出されたもののようだが、いかにもアメリカ的なデザインである。 

 さて、筆者の模型のことであるが、キャブ前方のドアは開放とした。すなわち夏仕様である。窓枠は緑にした。この種の小さな機関車は相対的にキャブが大きいので、中を覗き込まれてしまう。すなわち、「室内は室外である」わけで、ある程度は作っておかねばならない。火室後部は丸見えであるから、先回の Rawlins で撮った写真を基にまとめた。正確ではないが、それらしく見えるようにしただけである。

 ウェザリングは最少にして、やや艶のある状態を楽しむことにした。 

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2024年03月28日

surface tension

 先日の記事で、Tavata氏がコメントを投稿された。それには「微小パーツがコテに吸い付けられて動いてしまう」とあった。これはまさしく表面張力の影響である。
 この趣味をやっていて初めて、正しい表面張力に関する意見を戴いたことになる。 今までは例によって、ハンダが融けて沁み込む時に「表面張力が小さくなっている」などの間違った表現を書いているのが普通であったのだ。

 それに対する筆者のコメントをお読み戴けただろうか。コメントにしては珍しく、「いいね」のような印がたくさんついている。
 この動画はいつも見ているイチケン氏のエレクトロニクス講座で、筆者の好きな動画だ。練りハンダを置いて、そこに微小部品を並べる。下からヒータでハンダの融点付近までゆっくり加熱すると、ハンダが融けて上に載っている部品は吸い付けられる。多少ずれていても、所定の方向に整列してハンダ付けが完了する。これが表面張力の威力である。融けた金属の表面張力はきわめて大きいということを実感できる。

 中学校までの理科で大まかな知識は得られる。観察は大事だ。持っている知識と照らし合わせて、どの理論が適用されるとこの現象が説明できるかということを考えねばならない。
 最初から考えるのを放棄して、人の言うことを鵜呑みにする人があまりにも多い。また、「理屈はそれが好きな人が考えれば良いことで自分は関係ない」と公言する人も居る。しかし間違った理論を広めて良いはずはない。

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2024年01月24日

The engine equipped with inertia emphasizer II

 新登場のパシフィックをクラブの新年会に持って行き、2m の線路上だったが往復運転を披露した。興味のある人には運転をしてもらった。

「運転はすごく難しいですね。機関車ってこんなに重いのかって、初めてわかりましたよ。」
 世界に2輌しかない機関車である。

 今回は等価慣性質量が 200 kgもあるので、パシフィックでは場合によっては発車が難しい。テンダが極端に重いので、テンダ車輪がレイルの継ぎ目に落ち込んでいると、それが引掛かってしまい動き出しにくい。前回のテンダより、車輪径が小さいこともその影響を大きくしている。鉄レイルなので滑りにくいはずなのだが、それでもよく滑る。

 低電圧で巡航してそのまま逆転を掛けると、動輪はゆっくり逆回転して止まる。車体が止まった瞬間に電圧をゼロにすると実感的だ。止まっても逆回転しているのは、かなりドジな感じがするからだ。

 そのまま電圧をすこし上げるとゆっくり起動して後退する。わずかに電圧を上げるとシュルシュルとスリップする。この機関車はこのままでは軽過ぎだ。すこし補重するべきである。駆動力にはかなり余裕があるので、軸重を1割程度増やすだけで、キビキビした動きになるであろう。 

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2024年01月16日

inertia emphasizer

 最近ある会合で、筆者の慣性増大装置を搭載した機関車の実演を行った。発車時に動輪が空転するのを見て、友人がこう言った。
「スリップしますね。dda40xさんの機関車らしくないじゃないですか。」
 これには驚いた。その方は筆者と同世代の人だったので、当然実物の機関車がスリップする状況を見ていたはずだと思ったが、東京の育ちで蒸気機関車が走るのを、ほとんど見たことがないとのことだった。彼は電気機関車ファンである。
 筆者は田舎育ちで、機関車はスリップするのが当然だと思っていたから、これにはいささかショックを受けた。朝の快速列車が遅れると、回復運転のための猛ダッシュでは、かなりの空転が見られた。機関士は加減弁を上手に操り、派手な空転はさせなかったが、音を聞いていると空転しているのが分かった。毎朝駅に行って、その快速列車の発車を見てから幼稚園に行っていたのだ。


HO ジャンク箱にHOの慣性増大装置らしきものがあった。これは Walthers のカタログに載っていたことを覚えている。多分Roundhouseの製品だ。左にモータがあり、右はハズミ車のつもりらしい。これでは駄目だ。径が小さいし、回転数も足らない。増速が望ましい。角速度が増せば、その2乗で効く。
 工夫をすれば、径はこの2倍程度にはなる。これも径の2乗で効くから4倍ほどになるだろうし、軸受も細いものを使えばその効果を損なうこともない。とにかくこのままでは駄目である。かえって無い方が摩擦の点で有利かもしれないとさえ思った。軸はダイキャストの鋳肌そのままである。研磨した鋼製にするべきだ。
 下手な工夫で損失を生んでいる典型的な例であろう。 

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2023年11月25日

慣性を大きくするのは簡単!?

 しばらく前のことである。ある会合に慣性増大装置を付けた4-8-4を持って行き、単機でスリップさせて見せた。何人かの方がそれを見て、興味深そうであった。実際にスロットルを持たせてみると、慣性が大きすぎて怖いという意見もあった。

 そこに登場したある方が、表題の言葉を放った。
「こんなのはテンダを重くすりゃあ簡単にできる。俺のは機関車に自動クラッチが付けてあるからな。どこまででも滑って行くよ。」
と言う。筆者は二の句が継げなかった。その人は続けて言った。
「俺は設計をやっているからな。計算は強いんだ。あんたは計算して作ってる?」これには参った。

「簡単に見えるけど無理ですね。やってご覧なさいよ。」と言うと、「テンダにボールベアリングをつけて重くするだけだろ。やらなくたってできることはわかるんだ。」と言って行ってしまった。かなりリニアな人である。 

 簡単な算数をしてみよう。このテンダに、重い材料の代表の劣化ウラン(密度約19 g/立方cm)を詰めたとすると約16 kgになる。16 kgは重そうに聞こえるが、このテンダの等価慣性質量の1/10以下である。しかし、その質量で軸がへたらないように設計できるのだろうか。また線路は耐えるのだろうか。
 劣化ウランは日本では手に入らない。ウランの単体は酸素と反応して発火するから密閉容器に入れる必要がある。金では高価過ぎるから、タングステンを使うのが順当だろう。しかし全く質量が足らない。

 筆者の10輌編成の客車列車も約16 kgである。摩擦は非常に少ない。それを牽いて巡航しているときに、逆回転ブレーキを掛けて滑らかに止めるのは難しい。ガクンと止まる。機関車の摩擦力が相対的に大きいからだ。

 その人はHOの人らしい。そのサイズではテンダはどう頑張っても 2 kgくらいしかないだろう。しかしそれでもHOの模型としては異常に重い。車軸の設計はどうするのだろう。

 これもファンタジィの世界である。夢を見るのは自由だが、それを口にするとどのような評価を受けるか、という想像力が欠けている。何の設計をしているのかは知らないが、交通機関でないことを祈りたい。

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2023年11月21日

ATSF Pacific (rebuilt)

Santa Fe Heavy Pacific (1)Santa Fe Heavy Pacific (2) Santa Feのパシフィックが完成し、お披露目をした。今回のテンダは慣性モーメントを構造が許す最大限にしたので、等価慣性質量は204 kgとなり、前回の値を大幅に上廻った。と同時に機関車の動輪上重量が少ないので、動輪の空転が甚だしく、仮設線路の不具合があると、単機でも出発が困難なほどであった。
 と同時に惰行時のブレーキのスリップ、逆転ブレーキは容易に再現でき、昔の鳥羽駅でのC51の曲芸を堪能できる。右の写真はNortherns484氏の撮影。

 今回の慣性モーメントの算出は前回と同様にできるはずだった。昔の物理計算を思い出しつつ、「角加速度を積分すればできるはず」と取り組んだが、かなり頭が錆びついていて3日ほど考え込んだ。ラジアンは無次元であることを思い出すのに2日も掛かった、というお粗末。
 間に合わないので、工学エキスパートのT氏に助けを求めた。朝9時半にメイルを送ったところ、12時半にはサラサラと手書きの計算結果が来てしまった。昼休みにやって下さったようだ。プロには敵わない。

 今後の調整としては、動輪上重量を今の 1.5倍まで増やしたい。そうすると、もう少しキビキビとした動きになるはずだ。
 先回は超大型の4-8-4で動輪上に2.7 kg載っていた。今回は大型とは言え、パシフィックで動輪上には1.3 kgしか載っていない。これでは単機でも起動に苦労するのは当然だ。

 実物のデータを記しておこう。機関車より重いテンダを付け、砂漠の中で長距離を
無停車で走る急行列車に用いられた。1919年製、1936〜47年更新改造 
 ボイラ圧力 15.2気圧   
 機関車質量 154トン
 動輪軸重   31トン
 テンダ質量 180トン
 テンダ軸重 30トン
 水積載量   78トン
 重油積載量  30トン 


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2023年08月31日

摩擦の少なさ

 見学者の中には博士号を持つ者も何人か居たので、摩擦についてわいわいと議論があった。最初はボールベアリングだろうという話だったが、「こんな大きさではボールベアリングの効果よりも、中のグリースの抵抗のほうが大きいよ。」と言うのが居て、ピヴォット軸受に違いないという結論が出た。さすがに優秀である。
 しかし、そんな細いものでは壊れやすいし、寿命が短いという意見が出た。そこで、台車を分解して車輪を外したものを見せた。
 POMまたはナイロンの円錐軸受で、ステンレスのピヴォット・コーンを承けるというやり方には、全員が驚いた。軸重が 100 gw以下すなわち、1箇所あたり 50 gw以下では何の問題もなく30年も走っているというと、絶句した。

 どうやってその結論に到達したのか、という質問があった。
「いや、僕が見つけたわけではないよ。アメリカの Athearnという模型屋がこの台車枠に、普通鋼のピヴォット軸を使っていたが、錆び易かった。先端が錆びてしまうと、鉄の酸化物は研磨剤だから、擦り減ってしまう。錆びない材料に置き換えたら、長持ちする筈だと考えただけさ。それと少量のモリブデン・グリースによる潤滑だね。」と答えた。 

 先輪がなぜ動輪より小さいのかという質問をすると、幾何学的なことだから、みな夢中になって考えていた。そういうところは高校時代と同じだ。 よくできる奴らが集中したクラスだった。 

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2023年06月12日

レイルを内側に傾ける

 友人から「レイルを内側に傾けるのは、牽引力増大に効果があるだろうか。」と、電話があった。
 これは45年ほど前に実験した。その記憶は薄れつつあるが、結論は単純である。効果なしだ。

 即時に結論を言ったので、友人は驚いていた。「どうしてだろう、実物は効果があるんだ。」と不満そうである。 

 その理屈は単純だ。実物ほど接触圧が大きくないので、模型の車輪とレイルは弾性変形することがほとんど無いからである。実物ファンの方は実物と同じ理屈があるはずだと思うだろうが、それもファンタジィである。

 目には見えにくいが、実物の機関車のタイヤとレイルは弾性変形して喰い込む。レイルが垂直に置いてあれば、レイルヘッドの角の部分の圧力が非常に大きくなる。レイルが傾いていれば、それが多少は小さくなる。
 摩擦力は圧力が小さいうちは圧力に比例するが、大きくなると直線から外れてくる。実用的な最大牽引力は、微妙に滑っている状態のことを指すのだろうと思う。つまり、動摩擦と静止摩擦の境目の話である。
 一方、被牽引車の摩擦も変化する。レイルに車輪がめり込むほどの圧力があると、逆に転動摩擦は増えてしまう。

 こういうことが模型でも起こって欲しいと考えるのだろうが、無理な相談である。車輪やレイルが極端に軟らかいと起こり得るかもしれないが、走りは極端に悪くなるだろう。
 よく走る車輌のタイヤは十分に硬くなければならない。同時にレイルも硬い材料が望ましい。筆者は鋼レイルを用いている。錆びないかと心配する人は多いが、窓を開放していないので錆びにくい。 

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2023年04月23日

牽引力ってなんだろう

 最近「牽引力を測定しました」という記事目立つ。中身はかなり疑問符がつく。

 牽引力は機関車に固有のものである。通常は乾燥した平面の線路上で測定する。勾配上では当然減少する。

 その記事では客貨車を牽いて坂を登らせ、機関車の後ろに付けた測定器で得た数値をテレメータ化して送っている。「牽引力を測定した」とあるが、それは牽引力でも何でも無い。その列車の曲線上、および勾配上での牽引抵抗である。
 ”測定”された数字がぱらぱらと変化するから楽しいが、意味があるとも思えない。バネ秤に糸を付けて引っ張れば、どの地点の抵抗が一番大きいかはすぐわかる。「変化することがわかった」とあるが、変化しないわけはないのだ。
 曲線、勾配、被牽引車の特性がごちゃ混ぜでは、測定は限りなく不可能に近い。これはケチを付けているのでは無い。正しい自然科学の探究の姿勢を持ちたいと主張しているのである。

 (上記のリンク内の文言はすでに修正済み。またこの原稿を事前に今野氏にはお見せしている。) 

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2023年04月09日

ユーレイという亡霊

 最近、ユーレイという言葉がウェブ上によく出てくる。すでに死語だと思っていたのだが、これだけ頻繁に出てくると気分が良くない。
 1960年代のTMSなどによく出ていた。要するに客車、貨車などに動力を入れ、機関車の非力を補うものである。昔はDCCなどはなかったから、機関車とユーレイは同調せず、ガーガーと後ろの方で唸っていたのをよく見た。

 要するに列車の抵抗が非常に大きく、機関車だけでは牽けないということである。本来は客貨車の抵抗を減じることを真っ先にすべきである。それでも牽けないのは、そもそもその勾配ではその列車を牽くことが出来ない条件にある。勾配の緩和、急曲線の廃止、勾配用の機関車の導入など、本物の条件そのままである。模型での解決方法なら、ゴムタイヤの装着もあるだろう。
 異常に重い全金属製客車を数輌も軽量機関車に牽かせて急坂を登らせるのは、全く無理な相談なのだ。

 まずは牽かれるものの責任を追求してから、こういうことを考えるべきである。筆者のレイアウトで120輌を牽かせて坂を登らせて見せると、
「何台の貨車に動力が仕掛けてあるのですか。」
と聞く人がかなり多い。列車全体を手で押させると仰天する。
「なんでこんなに摩擦が少ないのですか。」
 やろうと思えば出来る範囲にあることなのである。それをどうしてやらないかが、理解しがたい。クラブの目標として掲げて取り組めば、すぐ解決するだろう。もっとも、勾配線の無いクラブではその必要性を感じにくいかもしれない。勾配線を装備すべきである。

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2023年02月24日

続 FEF4 のデモ運転

 動輪があまりにも軽やかに空転するので、この機関車はとても軽いに違いないと思った人も居た。機関車を持たせると仰天した。3.2 kgもあり、牽引力は 7 N もある。そう簡単には滑らないはずなのだ。

 テンダも 3 kg強あるが、軸重はやや小さいが伝導軸が多いので、多少滑りにくい。その結果、動輪のほうが先に滑ることになる。 

 短い線路では運転は難しいので、付き添って運転指導した。勝手に触ると事故を起こすので、それは釘を差しておいた。

 会場の奥の方で運転したのだが、観客席から見ていて、声を掛けて戴いた方も居た。
「この機関車の運転が見られるとは思わなかった。」と感謝された。「まさに実物のような動きですね。」とおっしゃる。特に、ブレーキを掛けて動輪が止まったまま滑っていくのには驚かれた。止まる前に逆電圧を少し高めると逆回転するのは、
「実に面白い。」とのことだった。
 この動画は1月に名古屋模型鉄道クラブで撮影したものだ。オリジナル画像はなめらかで良いのだが、Youtubeの動画は動きがぎこちない。どうしたものかと悩んでいる。

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2023年02月08日

牽引力コンテスト

a contest 古いTMSを整理している。たまたま開いた号に、表題の記事があって、とても驚いた。40年ほど前の記事だから仕方ないが、あまりにも滑稽なところがあって、少々呆れたというところが正直な感想である。

 例によって、「重くする + 駆動軸を増やす」のオンパレードである。そこには物理的な思考というものがあるようには見えない。小学生の発想から抜け出していないのだ。駆動軸を全て連動させるべきだという話もない。

 被牽引車の摩擦を小さくするのが、最も建設的な方向性であるが、この当時から誰もそちらを向かないようだ。この記事の最後には、台車にバネでキングピンを軸にして捻りを掛け、フランジの摩擦で牽引力を稼ぐという、トンデモ・アイデアの作品が紹介してある。それで「ポイントを脱線せずに渡った」とは一言も書いていない。それは編集部の責務であるはずだと思うが、いかがであろうか。

 
 実物の鉄道は「摩擦が少ない」ということを最大限に利用している。札幌の地下鉄は華々しくゴムタイヤ付きでデヴュウしたが、その電力消費の大きさには、開通当初から驚きの声が上がっている。しかし、マスコミがどういうわけか褒めそやしたので、効率が悪くてもあちこちで採用され始めた。ゴムタイヤの消費もかなりのものであると同時に粉塵がたくさん撒き散らされていると聞く。環境には決して良いとは言い難い。 

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2022年12月04日

ニュートン を使う

 測定された値は誰でも認知することができる単位系で発表されるべきである。
「何ニュートンですか?」との質問には、「ニュートンはわかりません。」という答であって、愕然とした。

 世の中がcgs単位系からMKS単位系に切り替わったのは一体何十年前だろうか。最近は車のタイヤの空気を補充に行っても、パスカルを理解しないと入れられない。

 1 Nの大きさを知るのは物理教育の大事な局面だ。小さなリンゴを探す。100 gほどの小粒を紐で吊り、その紐を滑車で90度曲げて横から引く。これが1 Nだ。滑車を使わないと縦方向の力で、「質量」の概念から逃げ切れない。横に引けば、「力」であることが誰でも分かる。
 100 gのリンゴはあまりないので、ミカンで良い。ニュートンがリンゴが落ちるのを見てニュートン力学を構築したという故事に絡めているだけのことで、リンゴを題材にしたのには大した意味はない。

 現在、ニュートンを理解しない人は、すでに現役の世代にはいないはずである。”グラム重” を使っているのは、定年退職者以上の世代であろう。これでは消え去っていく老人のお遊びで終わってしまう。我々は次の世代のために、基礎を作っておかねばならない。そのためには、測定に対して正しい理解を持つことが不可欠である。

 前々回紹介したような怪しいグラフを見ると、測定について理解していない人は何か意味があるかのように取ってしまうかもしれないが、そこには何もない。鉄道模型誌にも正しい物理的理解を助ける記事が必要である。1年ほど前に載った牽引力を調べたという表も意味不明であった。
 
 雑誌には、正しい情報を載せるべきである。能力ある方を査読者にするように強く働きかけるべきである。


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2022年11月30日

続 測定をするということ

 その実験は何が目的なのか、を考えない人は実験をしても発表する意味がない。見せられても当惑するだけだ。

ある”測定値”「牽引力を調べる実験をしました」とあるので見ると、こんなグラフがあった。これを見た瞬間に読もうとする力が萎えてしまった。これが結論だそうだ。このグラフは張力測定器を貨車に積んで、出てきた値をコンピュータの画面に出しただけのものである。これは多次元のファクタが ”ごった煮” になったもので、この中から牽引力の次元の測定値だけを取り出すのは極めて難しい。だからと言って取り出さずにそのまま見せて良い訳はない。
 このグラフは単に、「測定器のスウィッチを入れました」というだけのものである。中学生にノギスを持たせて、何かの大きさを計測させると、とんでもない”測定結果”を持ってくる。それと大差ない。

 測定というものは難しいものだ。筆者は測定の専門家だったこともある。他分野でそれをしていたが、かなりの熟練が必要だ。
 あるデータを取ろうと思うと、最初にやることはまず2つある。
・ゼロ点が出るか。(これはそれほど難しくない時代になった)
・化学で言えば、基準物質を作り、そのデータが必ず毎回同じになるかを調べる。もし結果がずれていれば、何がそのずれの原因なのかを究明せねばならない。基準物質のみならず、計測器の誤差も考える。

 後者は非常に難しい。その基準物質を精製し、安定に保存するだけでも一苦労だ。この模型の場合で言えば、牽かせる車輌が完全な平面上でどの程度の抵抗があるのかを測定することである。10数輛を牽かせていたようだが、個別のデータを取る必要がある。それをどのようなつなぎ方をしても一定の張力で一定の速度を保っているかを調べねばならない。むしろ、機械ブレーキを積み、一定の摩擦力で抵抗を作り出すという手を用いれば1輌で済むから簡単であろう。

 連結器のナックルというものは意外に撓みやすく、張力を掛けると多少伸びる。すなわち列車には固有振動数があるのかも知れない。激しい乱高下が示されているが、そのファクタが無視できない可能性がある。このような測定をしたいなら、測定用の負荷を作り出す専用列車を仕立てる必要があるだろう。多数輛による列車であるなら、連結器はガタのない剛性の大きな材料を使用すべきだ。 
        

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2022年11月28日

測定をするということ

 測定というものは、その結果がどうなるかを予測して行うものである。結果が見当もつかないものは測定できないのだ。

 最近の話題では牽引力を測定するという事例があった。牽引力を縦軸に、時間を横軸にとると、どのようなグラフになるだろうか。出発時は牽引力をゼロとする。次の 4つの中から選んでみよう。

4つのグラフ ここで大半の人は B を選ぶはずだ。停止している機関車がゆっくり動き始めると連結器がピンと張り、列車が動き出すだろう。他のグラフでは、その数値が表す挙動を考えると、そんなグラフはあり得ないと思うのが普通だ。       

 こうして B のグラフを予測して実験し、それから外れるようなら何がその原因なのかを調べねばならない。測定値が負であれば、線路が水平でないとしか考えられない。測定値が一定値で動かなければ、定常状態である。定常状態を作り出すにはどうしたら良いか、も考えておかねばならない。
 ここまで読むと、「思った通りの結果が出るように実験する」と勘違いする人が出てきそうだが、それは捏造であって論外である。

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2022年11月26日

慣性増大装置の今後の展開

 先日のKKCの会合で披露された3種の慣性増大装置についていろいろな意見を頂戴している。否定的な意見はないが、「HOの作例が思ったほどではなかった。」という感想を戴いた。

 作者のT氏も認めているように、小さなものは本物の挙動との乖離が大きくなる。慣性モーメントは大きさの関数であるので、小さくなると極端に不利であり、一方、摩擦というものは小さくしにくい。ボールベアリングは摩擦を減らすと信じている人も多いが、中のグリースの撹拌抵抗は無視できない。また、軸の径はそれほど小さく出来ないので、相対的に抵抗は大きくなる。
 それでもある程度の効果は見られ、この動画でもそれは分かる。

 摩擦を減らす工夫が必要であるので、ある方法をヒントとして差上げたところ、たちまちそれを実用化する方策を立てられたようだ。楽しみである。  

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2022年11月18日

続 慣性増大装置

 この動きについて、いろいろな人から感想を戴いた。実物の鉄道の慣性の大きさ(すなわち、摩擦の少なさ)には改めて感じ入るものがある、というものが多かった。

HO gauge momentum emphasizer これはHOゲージ用である。T氏が作ったものだ。最初はこの径の材料を挽く旋盤がなかったので、5円玉を重ねて作った。次に筆者に連絡があったので、ちょうど良い材料を挽いて差し上げた。軽く動くが、如何せん、小さいので素晴らしい効果と言えるほどではない。しかし、1 mほどは惰行する。
小形の4-4-0あたりに牽かせると、逆回転ブレーキを実現できるはずだ。
 設計をさらに工夫すると、もっと軽く動くようになると思う。

 今回は大型のマウンテン(4-8-2)しかないので、とてもその慣性を実感するほどのことは出来なかった。そのマウンテンはHO用の高効率ギヤを搭載し、極めて滑らかに走る。低速も高速も自在で、しかも静粛なことこの上ない。

 ある人が見ていて、走行音がしないのには驚いたようだ。高効率ギヤの組見本を触って、その滑らかさ、静粛性に感嘆した。押したときの感触にも驚いたようだ。
まがい物とは全く違いますね。モータが付いていないような感触です。」
と言う。実際には押すと発電してライトが点く。

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2022年11月16日

慣性増大装置

 13日のKKCの総会で、3種の慣性増大装置を披露した。

 OゲージはいつものFEF4ではあるが、例の「逆起電力キャンセラ」を追加搭載している。逆回転ブレーキが、熟練しなくても出来る様になった。等価慣性質量は170 kgで変化はない。

G gauge momentum emphasizer 今回はA氏にお借りしたGゲージの補助テンダを披露した。質量は約 5 kgだが、等価慣性質量は 700 kgである。要するに軽自動車ほどの質量を、摩擦の非常に小さな台車に載せているのと同等である。押しても動かない。しばらく力を入れていると、少しずつ動き、止まらない。長さ5.4 mの線路をゆっくりと端から端まで転がった。ギヤはOゲージ用の高効率3条ウォームである。全く無音で動力採取、放出が出来る。チェインは2本掛けで、計4本ある。2本ではとても持たない。各2本を、位相を半分ずらして取り付けている。本物のような鋼製のチェインであれば、このようなことをすると直ちに壊れるが、この模型のチェインはPOM製で少し伸びるのだ。だからこの形が音の点で最良となる。 

 A氏は自宅庭に敷いた線路で運転しているが、この車輌は実物換算350 mの惰走をしたそうだ。曲線上の記録であるから、直線なら実際はもっと走るはずだ。

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2022年11月04日

ヒステリシス

 histeresis ヒステリシスは、物理の時間に出てくる。磁気ヒステリシスという言葉に記憶がある方も多いはずだ。

駆動ヒステリシス この模型の挙動をグラフにするとこうなるだろう。印加電圧を横軸に、動輪回転数を縦軸にとる。分巻特性のマグネットモータだから電圧で問題なかろう。通常型の場合は、ある程度の電圧を掛けないと動かないから、原点からしばらくは横に行く。伝達部の様々な障碍を乗り越えると、途端に回転が始まり、その速度は大きい。その後は滑らかに加速していくだろうが、起動時の挙動は面白くない。減速時は起動時ほどではないが、あるところで突然止まってしまうであろう。
 逆転時は、これまた困ったことが起こるかもしれない。「往きはよいよい、還りはこわい」で、そう簡単には動かないかもしれない。このグラフではそれを強調している。
 実際には、このグラフが逆になっていることもあるだろう。すなわち後退はよく走るが、前進はちょっと…という場合である。

 一方、「高効率ギヤ + 六角ジョイント + トルクアーム」では赤線のようになる。囲まれた部分の面積は小さい。この面積(積分値)は損失に比例する。
 損失は少ないに越したことはない。


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2022年09月20日

inertial separator hatch  

filling silver solderinertial separator on DDA40X Bill Melisが作ってくれたロストワックス鋳物に、この薄い箱形部材がある。ディーゼル電機機関車の屋根に付ける部品である。先回の写真の右端に見える。

 この下には空気清浄装置がある。普通のフィルタではない。高速の空気の通路を曲げると、重い粒子は慣性でまっすぐ進もうとするから、外へ飛び出すところを捕捉する。いわゆるinertial filterである。最近の真空掃除機は、この原理をさらに進化させた装置を付けているものが増えてきた。
 機関車では、駆動モータの冷却用に大量の空気を吸い込むので、普通のフィルタではすぐ詰まってしまう。砂漠地帯ではこれは深刻な問題であり、処理をしないと駆動モータの中に砂塵が溜まって焼損する。
 エンジンの吸気は更に細かい塵を除くために、いわゆる濾過装置を2段目に用いている。これは自動車用と同等の構造である。

 この種の機関車では、その捕捉した塵を含む空気を屋根上の孔から吹き出させている。この部品はその装置を覆う屋根で、少し膨らませている。

 その部品の斜面の傾斜は、45度以下のものが多い。緩いものは40度弱である。Billの部品ではそれが60度もある。少し削って緩やかにしたいが、肉が薄いので削ると分解してしまう。

inertial separator hatch 中に何か、貼れば良いのだ。角線の角を削いで、銀ハンダで付ける。たっぷりハンダを流してから削ると、ハンダの色が見えるほどになる。貼らなかったら悲惨なことになっただろう。

 削った蓋を付けるのは、63%ハンダである。ガスバーナで予熱してから部品を載せて、例の押えを効かせる。150 Wのコテで、わずかの63%ハンダを融かして当てると、さっと沁み込んで終了である。銀ハンダは融けない。
 4x30の ブラス平角棒を削って作ったものは、DD35A用に使う。これは少し幅が狭い。ガスバーナーで焙って付ける。こういうときも、屋根の板には孔をたくさんあけて、ハンダが完全に廻ったことを裏側から確かめる。 


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2022年05月25日

続 吊掛け駆動

 吊掛けの目的は、モータの重さの半減にある。すなわち、車軸の横にモータが来ることになっていて、半分を台枠に持たせている

 35年ほど昔、吊掛け式と称する模型電気機関車を、見せられた。それには、各モータが動軸の上にあった。すなわち、モータの全重量が車軸に掛かる。これでは吊掛け駆動ではない。軸距離が小さく、モータが入らないから、そうしたのだ。本物は歯車が無い機関車として有名であった。界磁が、線路に近いところにあって、犬釘、継目板などを吸着してしまい、事故を起こしがちであった。伊藤 剛氏の解説によると、保線の線路工夫が置いたままにしたスパナを巻き込んでしまったそうだ。
 12軸の動輪軸に12個のモータが付いていた。当時は模型用として、そんなに小さなモータが手に入らなかったので、上に積んで、スパーギヤ駆動にしたのだ。これはまずい。

 しばらく前の話題のGG1も同時に見たが、一つの軸の真上に2つのモータが直接載っていた(もちろんカルダンドライヴではない)。
 どちらも吊掛け式と謳っていたが、全くのおもちゃ的構造であって、吊掛け式の概念からは、遠く外れている。モータの質量が全て車軸の上に載っているというのは、情けない間違いだ。どちらも、本物の知識を十分に持っていると自慢する方の模型だったので、言うべき言葉がなかった。小さな模型だから壊れないが、大きな本物であれば、たちまち軸が折れてしまうだろう。

 要するに、見かけだけを表す模型でも良いのだが、本物の構造を良く知った上で、「模型的簡略法をやってみました」と言うのは、良いだろう。しかし「本物の通り」のわけがない。 

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2022年02月06日

続 「蒸機を作ろう」

more Building Steam Engines 今野氏の主宰するKKCの新刊書が発行された。筆者も微力ながらお手伝いしている。

 この新刊の目玉は、最初にある「縮尺の物理学」である。このブログの読者にとっては、何度も聞いた話であろう。
 筆者が書いた文章ではわかりにくいらしい。様々な質問が来て、丁寧に答えたつもりでも意を尽くし切れなかったようだ。書籍にして残そうと思うと 、それには専門家のわかりやすい説明を必要としていた。そこで、力のある執筆者にお願いして、書いて戴いた。ぜひとも読んで戴きたい。

 飛行機の模型を作っている人は、実物を縮尺したものはうまく飛ばないということを、感覚的に知っている。それは気体分子まで縮尺された空間を飛ばすことが出来ないからだ。翼に当たる分子は、相対的に巨大である。
 模型も同じであって、原子まで縮小されることは無いので、小さな部品を作ると、それは異常な堅さとなる。たわみというものがほとんど無いわけである。だから、模型の機関車は、鷲掴みすることが可能だ。本物なら、たちどころにペチャンコである。

 今回の本の記事では、急曲線を走っても脱線しない理由、カントが無意味な理由なども、計算値を出して示している。式の展開が上手で、何の関数になるかということをズバリと見える形で示している。

 これを読んで理解すれば、本物通り!と自慢することが本当に価値のあることかどうか、が分かる人が増えるだろう。
 真によく走り、脱線せず、実感的な動きを再現するには何が必要なのかを考えるチャンスになると信ずる。ろくに走りもしない機関車を評価することも、減っていくであろう。

 また、正しいユニヴァーサル・ジョイントの使い方とか、低抵抗車輪の効果についても客観的な記事がある。これらはメーカ側に対する助言であるとも言える。

 コロナ禍で人の動きが制限されていた中、ウェブ会議で編集した本である。筆者のコンピュータでは互換性に問題があって、細かい文字配列が再現できていないことがわかり、ほとんどのレイアウト(割り振り)を今野氏にして戴いたのは、申し訳ないことであった。また、今回の裏方の大黒柱は、northerns484氏である。様々なことに助力戴いた。また、筆者の原稿の拙い絵も、全て描き替えて戴いている。


 今回の書籍の編集中、動画を見られるようにQRコードを付けるように提案があった。これは優れたアイデアで、すぐ見られる。新たに撮り直した動画もあり、ぜひご覧戴きたい。

 価格は2500円(送料は370円)である。申込みは、
   konno#m1.bstream.jp  (#を@に変換)
に連絡されたい。まとめての取寄せは、筆者も代行する。

 この2500円という価格は、いささか安過ぎる。つまらぬ雑誌が1000円もする時代なのである。もう少し高くても良かったと個人的には思う。旧刊の方もまだ多少売れ残りがあるそうなので、一緒に購入されると良いだろう。その場合でも送料は変わらないはずだ。     

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2021年12月28日

続 走らないものも鉄道模型か?

 先頃、表題の記事を発表したところ、異常に多くのアクセスが有り、少々驚いた。ほとんど誰も興味を示さないだろう、と思いながら書いた記事であったのだ。
 コメントは少なかったが、会った友人たちが「ズバリだね。もっと書くべきだよ。」と言う。

 今野氏のブログにも、引用されたようだ。今野氏は、走りにはうるさい方である。筆者は、「おそらく世界で一番、走りにうるさい人(ある友人談)」だそうで、「走らないものを載せるな」という点では、共通する認識を持っていると感じている。 
 最近の模型誌で、走りについて書いてあるのを見たことがない。しばらく前、意味が取りにくい牽引力の表があったが、編集部には物理を理解する人がいないように感じた。分かる人がいれば、もう少しまともな記事になったと思う。

TMS Jan 2122 今野氏の記事には、今月号のTMSの記事について書いてあった。筆者は田舎に住んでいるので、TMSなどの雑誌には接触するチャンスが限られている。先日所用で出掛けた折に、大きな書店に寄って求めた。機械室ドアの開くディーゼル機関車の記事があった。なるほど、このことかと読んだが、得るところは少ない。
 逆に、これを真似する人が増えるのではないかと思った。やってみると分かるが、実用性は無いし、事故が起こる。要するに壊れやすいのだ。
 ディスプレイ用に開きっ放しのものは作ったことがあるが、異なる範疇に属する話題だ。また、車輪の裏が塗ってないのには驚く。また、除雪装置の先端はレイルに触らないように出来ているのだろうか。

 筆者は、あちこちの蓋が開くのは好きではない。完成品で開くものは、すべて固定する。塗装が剥げやすいのと、その蓋などを亡失しやすいのだ。祖父江氏が、超絶技巧の製品を出したときにも、そのことを危惧した。祖父江氏は、一度はやめると言明したが、後に絶妙な構造のバネと鎖で、蓋を拘束したものを作った。やはり蓋が開いて、内部の構造が見えると嬉しいのだろう。実は、その内部は二人でDenverの博物館で攀じ登って撮った写真が元になっているから、筆者にも多少の責任はある。Big Boyの砂撒き装置など、あまり資料はないのだから。しかし、砂箱の蓋を開けると砂が見えないというのは、奇妙なもので、あまり感動しない。
 祖父江氏は、蝶番で開くものを閉じたときに完全に面が合うように、しかも扉の作動限界が実物と同じになるように作った。ハンドルを廻せば、ちゃんとロックされる。そこは、流石であるとしか言いようがない。今回のHOの作品とは、ちょいと違う。 

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2021年11月28日

本物はどのように動くか

 本物は重い。この4-8-4は、テンダを含めて400トン強もある。機関車が起動するということは、その質量を持つ物体が動き始めるということだ。徐々にしか動かない。この模型では、その動きを見ることができる。普通の模型は、電圧を掛けると、すっと動き始める。しかし、UP850はじわっと動く。その瞬間、電流は0.5 Aほどである。筆者の普通の機関車は0.1 A以下で動くのであるが、5倍も電流を喰っている。
 そのエネルギィは、フライホイールに注入されて蓄積されているのだ。巡航速度になると、電流は0.1 A以下である。制動時には電流は逆方向に流れる。発電しているのだ。その電流をダイオードで阻止してあれば、かなり惰行する。

 この様子を展示会で再現するように求められた。動かすと拍手喝采である。SS氏は、
「止まるときには、ブレーキシュウのきしり音が聞こえるようだ。」
と言った。なかなか止まらないのだ。

 その後で、T氏が、
「機関車だけで発進するのと、テンダをつないだ状態の発進とを比較してはどうか。」
と提案した。なるほどと思い、切離した。当鉄道の機関車群は、40年前から機関車だけで走るようになっている。
 機関車だけだとすいすいと走り、動きは滑らかだが、模型の動きである。動輪も滑らない。テンダを連結すると、途端に本物の動きになる。スロットルを開けるとじわりと動き、その開け具合が大きいと、動輪が半回転スリップして動いていく。
 これは数人が見ていただけだったが、皆歓声を上げて喜んだ。分かる人には分かるのである。雑誌社の人が分からないのは悲しい。
「分かるわけないよ」と言った人が何人かいるが、分かってもらわねばならない。 

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2021年11月24日

気が付く人

 先日の会合でのことである。何か面白いものは無いかと見て回っているうちに、筆者の展示にいらした方があった。機関車が、ゆっくりと前後進していた。
「あっ」と声を上げ、「ありえない!」と叫んだ。膝をついて見ている。
「一体これは何なのですか。実物の動きですよ。実物の起動停止の再現ができるのですね。DCCのなにかの機能の工夫ですか? いやそんなことではこれは出来ない!」 
と興奮していた。素晴らしい感性の持ち主である。本物をじっくり見たことがあり、普通の模型の動きとの違いに気が付いている方なのだ。模型の世界しか見ない人が多い中で、この方の考察は素晴らしかった。

 筆者は、ヒントを与えずにゆっくり動かすだけで、彼の考察の進展を見ていた。2分ほど掛かって、
「テンダ内に増速したフライホィールが入っているに違いない。」と正解を出した。素晴らしい方である。
「しかし、この静粛性はどうやって確保しているのだろう。」と考え込んでいた。問題点はそこなのである。よくぞ気が付かれたと思う。

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2021年11月22日

続 実物のような動き

 モータ軸にフライホィールを付けるというのは、モータの性能が悪く、均一な回転が出来ないとか、駆動系の出来が悪くて微妙なひっかかりがあるときの弥縫策(びほうさく)である、と剛氏はおっしゃった。根本的な解決ではないということである。また、モータに付いているものは、走行中は良いが、起動停止が不自然であるともおっしゃった。

 機関車の他の部分で慣性モーメントを稼がねばならないから、テンダ内に増速したフライホイールを付けたらどうか、と筆者は、提案した。剛氏は、大きく眼を見開いて、
「それだよ ! それしか無いね !!」
と興奮した。
「作って見せてよ。dda40xさんならできるでしょう!」
とおっしゃるので、頷かざるを得なかった。しかし、ギヤをたくさん使って、どのように効率を下げずに静かに駆動するかは、結構大きな問題であった。遊星ギヤを使う増速なども考えていたが、結局はウォームギヤの逆駆動とチェインによる方法に落ち着いたのは、ご覧の通り。より高性能なウォームギヤ・セットが出来たので、使ってみたのだ。静粛であることは類を見ない。正確な歯型を持つということは大切である。見かけだけの歯車も、世の中には存在している。

 その後、剛氏とは時々この話題で盛り上がった。ディーゼル電気機関車巨大な増速フライホィールを付けたのを持って行った。
「やっぱりこれですよね !  早くテンダに付けて見せて下さいよ。」と催促された。それから30年も掛かり、剛氏にお見せできなかったのは、残念であった。 

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2021年11月20日

実物のような動き

 先日のKKCの展示会でUP850の走行を披露した。主催者のリクエストが有ったので、長い展示スペイスを戴き、往復運転をして見せた。その展示会の出席者は、かなりレヴェルの高い人ばかりで、走行を見て、その違いに気が付く人が多かったのは喜ばしいことだった。

 10分ほどのスピーチの場も与えられたので、歴史的な背景の説明が出来た。その中で、35年ほど前の伊藤剛氏との会話を紹介したが、かなり驚かれたようだ。

setoden1setoden2 剛氏はOJゲージの瀬戸電を作られた。その動きは尋常ではない。木造の電車が、ガタガタギシギシと動く様子を再現していた。側板・妻板にはガタがあり、急停車すると平行四辺形になる。自作モータは軸が垂直に付き、そのアーマチュアが大きなフライホイールになっていた。直捲モータだから、軽いブラシしか抵抗がないので廻り続ける。すなわち、モータ自身に大きな慣性モーメントを持たせている。そのモータの磁路については製作時に打診があり、たまたま筆者の案と剛氏の案が一致した。
 剛氏は、
「どうしてあなたはこんな考え方をしたのか。」と問うた。
「父に聞いた話を思い出しただけです。」と答えると、かなり驚かれたようだった。

 もちろん、大きな慣性モーメントのおかげで、起動もゆっくりだ。巡航速度から電源をOFFにすると、「山口さんちのツトムくん」を歌い終わるまで廻っていた。(図はTMS 400, 401号より)

 運転状況を拝見していると、剛氏はこう言われた。
「もうお分かりとは思うけど、これは邪道です。動力系の慣性モーメントが最小になるように設計するのが常識です。それなのにモータ自身の慣性モーメントを最大にしているのは、おかしなものなのですよ。専門家の皆さんからは叱られそうですね。最近の模型では、機関車の中にフライホィールを付けて滑らかに走るようにしているものが多いのですが、正確に言えば、あれは間違いなのですよ。駆動系以外の慣性を大きくする工夫が必要なのです。誰もそんなことを考えようともしないのですけどね。今回は単車ですから、勘弁してよね。」
  
 電車はゆっくりと惰行して、素晴らしい走りだった。車体はゆらゆらとピッチングし、急停車すると車体がゆがんで、拍手喝采であった。 

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2021年06月29日

車軸の太さ

 M10000の改造依頼があったSE氏に完成した部品を送ったら、その日のうちに組付けして、youtubeにupされていた。あまりにも素早くて、驚いた。

 当方としての心配箇所は、付随車の台車の摩擦だった。送られてきた台車の車軸の回転は悪く、機関車の牽引力では牽けないだろうという感触があった。油を替えてみようと思い付いて、洗浄スプレーで溶剤を吹き付けた。もちろん回転させながら、念入りに洗った。乾燥後、Wako'sのエンジンオイルを注し、しばらく回転させて馴染ませた。再度洗って注油した。かなり軽くなったような気がする。200 gの錘を載せて斜面で調べると1.56%でも滑り降りる。 
 油は低粘度であるが、ミシン油より粘い。車のエンジンオイルを替えた時に缶の中に少し残ったのを取っておいたものだ。これでなくてはならぬと言うものではないが、適当な粘度で具合が良い。

 軸の太さ(半径比、テコ比)については、友人たちからいろいろな話題が出た。分かっている人にとっては当然のことだが、初めての人もいるだろうから、少し話をしたい。

 小学生のころ、インディアンが馬で引き摺って荷物を移動させる様子をテレビで見た。簡単なソリの片方を持ち上げて馬で牽かせるのだ。一緒に見ていた父は、「車輪にするとどうして楽に牽けるか、分かるか?」と聞いた。

 もちろんこの問題では、ソリには油を注す条件であり、それと比較するわけだ。これは小学生には難しい質問であった。答は、「車軸が細いから」であった。
 説明は、車軸の直径を車輪の直径の半分にするとどうなるか、から始まった。摩擦部分の速度が半分になるから、熱になるエネルギィが半分になる。それなら1/10にしたらどうなるというわけで、「車軸は折れない限り細くしたほうが有利だ」という結論を導いた。
 それ以来、車軸は硬い材料を用い、できる限り細くしている。潤滑は最重要項目である。


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2021年04月28日

14輌編成

express train Hato ようやく台車取替が終了したので、郵便車、荷物車も含めた14輌をつないだ状態での、要求される引張力を測定した。井上豊氏からは、たまにそういう編成もあったと聞いた。外国人の団体があると、荷物車が追加されるそうで、重くて大変だったそうだ。
 走行抵抗について正確に測定した。とても小さい。先回の測定時には、台車のブレーキがタイヤに当たっていたものが多かった。
 3Dプリントでは、ブレーキがぎりぎりのところに出力されるので、当たっていても分からない。今回はブレーキを確実に離して、より滑らかに動くようにして測定した。

 14輌編成に対して要求される引張力は、平坦な直線路では 0.2 N(約20 gf)という、信じられないほどの小さな値となった。単純な計算で分かるように、直線では0.3%の勾配で滑り降りるということだ。

 1.56%勾配、3000 mmRでは、必要な引張力は 1.9 N(185 g重)であった。この勾配では、曲線で抵抗があるにもかかわらず、手を離すと列車全体が勝手に滑り降りていき、猛烈な速度になる。

 機関車に要求される引張力は、185 × 1.2 = 222 gfで、摩擦係数を0.2とすると、機関車の動輪上重量は 1100 g重ほどあれば良い。先輪を含めて機関車の質量は1.6 kgで十分である。1.56%勾配をスケールスピード70 km/hで登るとすると、機関車自身の質量を押し上げる仕事率を含めても、1 Wほどの出力があればよい。
 全伝達効率が3割としても、3 Wの出力で足りることになる。実際にはもっと良いので、2 Wでもよいだろう。ということは、勾配を登るときの電流値は0.2 A強である 。

 実際には全車に照明を付けるので、0.6 Aほど喰うことになるだろう。 

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2021年04月26日

軽い機関車でたくさん牽く

 先の記事で、軽い機関車になるということを書いたが、それについてのコメント、私信をたくさん戴いた。表題の概念は、機関車の持つべき特性のうち最大のものであり、実物の世界では、ありとあらゆる方法で、それを実現すべく取り組んできた。 しかし模型の世界では外見ばかりで、実効性のある設計法にはほとんどお目にかからない。


 今回の列車に必要な牽引力は、列車の現物があるから、勾配、曲線上での数値がすぐ測定できる。過去の経験では、引張力はその数字の2割増しであれば、確実な運転ができる。
 摩擦係数から、機関車の動輪上重量は直ちに算出されるから、先従輪の軸重を足せば、機関車の質量はすぐ求まる。この辺りは中学校の理科の題材であろう。

 問題は、機関車の伝導方式である。OJ、Oゲージの電気機関車では各軸モータ、吊掛け式がもてはやされる。実感的なのだそうだ。ところがどの作品を見せて戴いても、用いているモータのトルクは小さく、しかもギヤ比が小さいものが大半である。スリップしない。ギヤが見えているものがほとんどだ。油は飛ぶし、綿ぼこりを巻き込む。

 スリップしない機関車はモータが焼ける設計時にそこを押さえていないと、重負荷を掛けられない。やはり勾配線で長大列車を牽かせたことが無いから、気が付いていないのではないか。
 
 さらに大事なことを言えば、動軸が連動していない。模型であるから、伝導方式は実物の通りにする必要はない。全動軸を連動させれば、静止摩擦係数による摩擦力の限界まで引張れる。すなわち軽い機関車でたくさん牽けるのだ。そこを考えた模型には、なかなかお目に掛からない。

 電気機関車の動輪が個別にスリップする様子を見たい人が居る、とは思えない。そもそもスリップしないのだ。以前は連動すると押しても動かなかったが、3条ウォームがあるから、押せばいとも簡単に動く。 

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2021年04月16日

EF58の牽く特急列車

 1.56%の勾配、半径2900 mmの線路上での牽引に必要な引張力を測定した。小さなモータを使っても十分である。設計は簡単だ。

Hato pullled by EF58 旧車体のEF58が来ているので、その下廻りを新製すればよい。簡単な工作である。昔のOゲージであるが、新しい生命を吹き込まれて、素晴らしい走りを披露できるはずだ。昭和28年(1953年)当時の編成である。詳しい情報を集めている。

 このカツミ製の電気機関車はとても重い。6 kg弱もある。当時は客車の軸受がでたらめなので、機関車には最大限に補重し、最強力のスーパー20モータを2台搭載している。起動電流は、5 Aをはるかに上廻るようだ。手元の3 A 電源では動かせない。中身を全部捨てて、新たなメカニズムを搭載する。
 現代の機関車は、0.1 Aで軽く起動する。軽く作れるので、勾配線上で自身を持ち上げるのに必要なエネルギィも小さくなる。勾配のあるレイアウトは少ないので、本当の実力がわかりにくい。ただ重い機関車では意味がないことはすぐには見えないから、そのまま満足してしまう例が多いと感じる。
 
 この機関車の改良工事に関する唯一の問題は、Φ27のスポーク動輪を調達することである。良好な形状のフランジを持つ車輪が必要だ。

 スポークを持つ先輪は、一体のLow-Dでは作れない。ステンレスタイヤを作って嵌めなければならない。8枚挽くのは、かなり面倒だ。できないことはないが、難しい作業だ。しかしこれも、タイヤの頒布希望者があれば可能になるかもしれない。

  当博物館においては、唯一の国鉄型車輌となる。いずれ、C62もやって来る予定であるので、その下廻りの改造部品を用意している。鋼タイヤの動輪と差し替える。蒸機の場合は、動輪上重量を大きくせねばならない。機関車は2.5 kg以上になるだろうから、テンダを含めると3.2 kgほどになるはずだ。その先従輪、テンダ車輪はLow-Dになる。これは、プレート車輪だから簡単だ。


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2021年03月09日

続 double slip mechanism

double slip mechanism4 テコの長さを 2:1 に内分する点を回転軸としてみよう。そうすると腕の長さが違うので、力は 1:2 となり目的を達する。
 一方がある程度動いて、目的地点まで到達すると支点となり、他方が別の目的地点に向かって動く。
 下の図の左端が目的地に到着すると右端が上に行き、同時に回転軸も上に、その 2/3 移動する。トルクを与えている軸が動くことになるのだ。これは問題だ。

 軸にはモータが付いている。モータはある程度動くと同時に、反トルクを受け持つ何らかの機構を持たねばならない。しかもテコの作動面とモータの位置は、上下にある程度離れているから、反トルク承けの構造は捻りに耐える工夫が必要である。そうなると、かなり難しい構造を覚悟せねばならない。

 トルクアームをどうすべきか、あるいは小さなギヤボックスを付けて、トルクチューブにするか、それともつまらぬことを考えずにテコを延長するか、しばらく悩んでいた。
 皆さんならどうされるだろう。 

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2021年03月07日

double slip mechanism

 いくつかお答を戴いている。フレッド折澤様が正解で、その他の方は部分的に良くても、うまくいかないこともあるので不正解とした。

double slip mechanism この図を見て戴きたい。上の図は単純な天秤棒で、2倍の荷重が掛かっている方に近いところを押せば、すべてが均等に押される。
 中の図はテコを右に延長したものである。テコの右端を下に押すと、左端が動作を終えて引っ掛かり、支点となる。すると中心の部分が作用点になる。2点を2倍の力で押すから、すべての点が均等の力で押されることになる。
 下の図では、中の2点が支点となった状態である。左の作用点は力点と同じ力となり、中点は2倍となるが、2点に分配されて均等になるというわけだ。

 これらの動作中、長孔は何ら力が掛かっていないので、不要である。実はその部分は、単にスライドするだけの滑り子を作ってある。

 テコを延長するのが最も簡単な解決法だが、偶力が働いているのだから、トルクと置き換えできる。    


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2021年01月12日

scientific であるということ (6)

 次元という概念は難しいと思われがちで、敬遠する人は多いが、そんなことはない。日常生活では、時間という次元を含む概念は多く存在する。

 速度は時間当たりの距離変化で、加速度は時間当たりの速度変化である。月給という概念も、ひと月という時間当たりの給金と考えれば、そう難しい話でもない。しかし、昇給があると加速度を感じるかどうかは、微妙である。

 しばらく前の天秤…の件も、剛体の組み合わせでの変位を考えているときに、弾性梁を入れると言い始めたわけだ。弾性があると時間当たりの変位は遅れが生じ、その変位の遅れは、のちに放出されたエネルギィで面倒な動きになる。それを何らかのダンピングを利かせた機構で緩和せねばならない。そういうことを総合的に考えるのは人間の頭ではとても無理だから、とりあえず弾性体を分離し、時間の次元を外して、剛体だけでコマ送りのいくつかの場面での釣り合いを考えるのである。それを最初から弾性梁を導入しようというのであるから、これまたファンタジィに取り込まれているのである。

 議論を始める前に、この話はどの次元での話か、を決めない人とは議論ができないというのはこういうことである。相手が知らない概念を出して、こけ脅しする人も居るが、それは古い手である。実際には、自分自身も理解していない場合もあるようだ。 


 牽引力を測定すると機関車の出力がわかると信じていた人が居た。1950年のModel Railroaderの記事に、それがあった。
 情けないことに時間の次元が抜けていて、全く意味不明の記事であったが、情けないことに、TMSにはその受け売りがそのまま書いてあった。高校一年の物理の教科書レベルの理解ができていない。当時の伊藤 剛氏のクラブ会報での対応は実に見事であったが、TMSには訂正記事は載らなかったように思う。訂正は必要なことだが、尻ぬぐいをしない人たちが雑誌を作っている。

 これは遠い昔の話だと思っていたが、最近もウェブ上にその種の記事があるそうで、進歩が無いことに驚いている。

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2021年01月04日

scientific であるということ (2)

 開発から25年を経て、Low-D の追試が行われている。高梨氏とは何回かお話したが、意図的に内容については話さなかった。予断を与えるといけないからだ。高梨氏もサイエンティストなのでその点はわきまえていて、答を聞くということは一切無かった。そういう意味でも、極めて客観的な実験である。

 結論としては、筆者のLow-Dと全くと言ってよいほど、同じになった。これは何を物語るのだろう。

 今まで、筆者の実験結果を否定する論調の記事がいくつかあった。自称技術者なのに、実験をしていない。摩擦係数すら測定していない。そこにあるのは、否定せねばならないという感情だけである。どうやら実物業界の方は、実物理論が模型に適用されると信じているらしい。線路の曲率も、質量も、材質も異なるものにも、同じ理論が完全に適用されると思っているのだ。Low-Dの車輪断面では乗り心地が悪い、とまで書いた人が居て、失笑した。

 O scaleの世界では、もうそのようなことを言う時代はとっくに過ぎ去って、無風ないし僅かの追い風状態である。むしろ、他の車輪を手に入れることが難しく、かつそれが高価であるから、この車輪が欲しいのだそうだ。安くて性能が良いので、注文が多い。国内では、すでにデファクト・スタンダードになっている。

 HOの人たちは、「HOでは実現が難しい」と思い込んでいた人が多かった。実験してみれば良いのに誰も手を付けない。観察は難しいことではないが、やる人が居なかった。この国の教育では、観察から始まる考察によって、正しい推論を得る訓練が少ないのではないか。答の出し方しか興味のない人が多い。しかも、それは必ず答が用意されている問題を解くことである。

 高梨氏が、
「やってみたい。」
とおっしゃったので、
「どうぞご自由になさってください。私の記事は、ある程度参考にはなるかもしれませんが、HOではまた別の解があるかもしれませんね。」
 と答えた。先入観を植え付けるといけないので、それ以上、何も言わないことにしたのだ。 

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2021年01月02日

scientific であるということ (1)

 先日のコメントでサイエンティフィックという言葉を出したら、反応した方が何人かいらした。どなたも肯定的で、もっと詳しく書いたらどうかということであった。(太字を強く発音する)

 筆者は、サイエンティストのはしくれである。客観性のあるもののみを追求してきた。世の中にはいろいろな人が居て、主観的なことをゴリ押しして恥じない人が居る。また歴史を無視して捏造したり、自称専門家でも、サイエンスを無視する人が居る。


 例えばこういう例を考える。ある人がAを見て、それに対する評価がXであったとする。その人がAをもう一度見せられた時に、Yという評価をするならば、そういう人とはお付き合いしかねる。その2回のチャンスに大きな時間的距離があった場合は、持っている知識の理解度が変化しているからそういうことはありうるが、1週間で評価が変わるのは理解しがたい。その変化の説明を求めると、たいての場合、支離滅裂だ。
 何回でも同じ評価をする人が、サイエンティストだ。しかも他のサイエンティストに聞いてみても、同じ答えが返って来る。同じでなければならないのだ。
 実験をしても、その結果はいつも同一でなければならない。再現性の無い実験では意味がない。


 筆者は低抵抗車輪の開発に数年掛けている。その間、様々な仮説を立てて実験し、どの方法が最も良い結果を生むかを調べた。各国の車輪、規格を調べて表を作り、現物を入手して全く同じ軸受で試験した。車輪は快削材で出来ているので、フランジ形状の変更は簡単だ。摩擦係数もいろいろな組み合わせで調べた。レイルとの当たり具合を望遠鏡で覗き、フランジが当らないフランジ角を、曲線半径ごとに確認した。

 旋盤屋をなだめすかして仕事をさせ、300軸作ったのが最初のロットである。それを使って走行試験をして、吉岡精一氏、魚田真一郎氏らに配り、使用感を聞いた。結果は「極めて優秀」であった。その後、何度か再生産され現在までに4万軸程出ていった。利潤は無い。工場は3箇所目である。工場は相次いで倒産して蓄積されたノウハウが失われたが、工作機械の進歩で、より素晴らしい仕上がりのものが得られるようになった。同じ図面を持って行くと同じものが出来るのは、サイエンティフィックである。昔はそうでもなかった。”腕”が必要な仕事であったのだ。


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2020年12月17日

またまた天秤棒…

 できれば触れるのを避けたかったのだが、コメントでぐさりと刺されてしまったので触れない訳にはいかなくなった。その通りである。コメント主は鋭い方だ。

 例の天秤棒ナントカはイコライザではないのである。この台車は弾性のある材料でできているので、かなり自由に捻られる。ただしボルスタが撓んだりしないように設計してある。

 奇しくも、筆者の愛車の前輪スタビライザ・リンクが傷んで、異音がし始めたところである。交換せねばならない。試しに右前輪だけを、整備用の斜面を登らせ、最大限持ち上げてバネを底衝きさせてみると、スタビライザは限界まで捻られた。その時、タイヤに掛かる力は右前と左後が極大値に達し、残りの2輪の輪重はかなり減る。これを「イコライズされている」と言う訳にはいかないのは、当然だ。スタビライザが無いと、左前のタイヤにはほとんど力が、掛からなくなるはずだが、それを多少緩和しているに過ぎない。

 この試作台車の一輪の下に何かを挟んで、キングピンに錘を載せると、同じようなことになる。ボルスタのキングピンは僅かに傾く。もっとも、線路の不整は極めて小さい量なので、輪重変化は少なく、ほとんど同一であろう。その範囲ではイコライザと言っても良いのかもしれないが、それは単なる言葉遊びである。

 この件については解決済みであるが、いまだにくすぶっている人も居るようだ。要は定義域の問題で、身勝手な定義を振り回しているということだろう。


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2020年12月13日

続々 Sofue Joint

 1本ピンのSofue Jointはトルクを伝えているのではない。変位を伝えているのだ。この説明をどのように書けば一番わかりやすいか、といろいろ考えた。

 早い話が、クランクを手で廻していることと同じなのである。フライス盤のZ軸高さを決めるネジのクランクは、本体が重くないと廻せない。小型のフライスでは押さえつけないと、本体が踊ってしまうだろう。
 いつも有用なコメントを送って戴くTavata氏も、「氷かきのクランクと同じ」という解釈を送って来られた。確かにこれも、本体を押さえ込んで足を踏ん張って廻さなければならない。

 頑丈な構造体の中に、ある半径のクランクがあって、他方の腕でそれが廻されているわけだ。沢山の腕で廻すと考えると、多気筒の星形エンジンも似ているだろう。
 丈夫な構造体を作る余裕があれば、製作は容易で、動作は確実である。微妙な芯ずれが許されるのは、製作者にとってはありがたいことだ。

 今回製作中の機関車に組み込むかは思案中である。

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2020年09月08日

続々 模型を作ると…

 模型と実物の違いは何度も扱ってきたが、果たしてどの程度の読者がそれについて理解しているか、また興味を示すかは不明である。しかし、レイアウト上を列車を牽いて走らせている人は、すぐに理解し、改善策があればすぐ実行に移すだろう。
 故人となられたが、閑林憲一氏はその素晴らしい実例であった。すべての車輌を sprung で equalized とし、自宅レイアウトでポイントをくねくねと渡らせてご満悦であった。走行性能を上げることは、外観をいじくり回すことよりはるかに大切である、ということをクラブ員にいつも語っていらした方であった。

 さて、読者の方から長文のメイルを戴いた。少し短くして掲載する許可を得たので転載する。理論と現実のギャップについて書かれている。 

 16番以下のモデルを中心に遊んでいる人には、丁寧に説明されても大スケールや実物での素材強度や挙動を想像するのは難しいのではと思います。

 TMSは、ほぼ16番模型趣味工作専門誌としてやってきて、一般実用機械工学的な知識情報からのアプローチは、編集部としても読者の要求からもあまり顧みられなかったということがあるのかもしれません。

 私の場合もイコライザやバネには興味を持っていろいろと試してみたりもしましたが、絶対的に質量が小さなHOスケール(16.5mm、9mm gauge)Nスケールでは、実用上殆ど意味が無いということを感じて、私のスクラッチの動力は、欧州型模型製品のように縦軸方向に少しガタのある固定軸方式に決めています。もちろん集電のためにできる限りウェイトは積みますが、挙動に影響を与えるような質量では全くありません。影響が出るようなスピードで走らせることもありませんから。

 16番の世界で精巧なイコライザーを組み込んだ作品を作られている方々はたくさんおられますが、それは特殊な世界のように感じます。
 最近は、小さなスケールでもフライホイールを採用する製品が増えてきたことで、質量、慣性に関心を持つ人は増えてきているのではと思いますが、それでも車輌自体の走行性や挙動と結びつける人はまだまだ少ないでしょうし、実際のところそれを理解する必要性も実用性もないのだから、それでいいのではとも思っています。すこしさみしい気がしないでもないですが、ここで指摘してもあまり良いことがあるような気がしません。
  

 これには返事を差し上げたが、その要旨は、下記の通りである。
 誰も興味がなさそうに見えても、この種の主張は必要である。模型誌が書かない以上、誰かが理解し実際に作ってみてその効果を確かめることができるように、最大限の改善の実例は発表しておくべきである。軽便列車ではその違いはあまり感じられないだろうが、本線上を機関車に牽かれて走る長大列車では、その差は極めて大きいのである。



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2020年09月06日

続 模型を作ると…

 学生の頃、生物の講義で筆者の質問に対して講師が展開した話が、実に面白かったことを覚えている。
 それは生物が巨大化できる限界の話である。豪州のジャングルだったか、しかとは覚えがないが、とても太いミミズが居るらしい。長さが3 mくらいで胴回りは10 cmくらいだそうだ。
 動きは遅く、危険なものではないとのことだったが、それより太いものは存在しないということだった。その根拠は、心臓を持たず酸素を体の隅々まで運ぶことができないから、体表面から吸収した酸素が内部まで届く限界が2 cm以下らしい。これが蛇なら心臓を持つので、動作は機敏である。
 ついでに恐竜はどこまで大きくなれるものかという質問に対しては、骨の材質が現在の爬虫類と同じなら、既に限界を超えていたという。恐竜の骨を見ると骨折しているものが多いそうだ。自重を支えきれないのだ。大きなものは壊れやすいという実例を見たことになる。そのことをアメリカにある恐竜の博物館で聞いてみた。ほとんどの個体で大腿骨にひびが入っているのが見つかるらしい。
 ゴジラほど大きなものはありえないのは自明だ。

 
 T氏が送ってくれたURLを開くと、2乗3乗則について興味深い話があった。是非お読み戴きたい。大きなものは壊れやすく、小さなものは頑丈だ。しかし、小さなものは慣性が小さく、慣性のある動きはどうしても作れない。電子的な疑似制御ではない機械的な方法で慣性を増やした動きを再現するには、高速回転のフライホィールしかないのだ。このあたりのことはこのブログで何度も紹介しているのだが、理解戴けない人が少なからずいる。

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2020年09月04日

模型を作ると…

 模型と実物は違う。筆者は高校生の時に兄からその話を聞いた。兄は航空分野に居た。飛行機の設計時に用いる風洞実験の話を聞くと、Reynolds Numberというものを導入するのだ、と説明してくれた。模型にぶつかる空気の粒子も、実物にぶつかる空気の粒子と同じだからだ。気体分子は縮小できないことを忘れてはならない。また、ヤング率が一定だから縮小模型は相対的に堅くなるということも、その時知った。

「お前の作っている模型はオモチャだ。本物はもっと柔らかい。レイルも、枕木も、砂利も柔らかい。車体なんて、手で持ったら潰れるようでなければ、本物のような動きはしない。」とも言った。

 模型は実物の1次近似寸法を縮尺通りに作れば、動きも含めて、すべてを実物通りに縮小近似できる)だと主張するようなおめでたい人も居るから、模型界は進歩しない。模型は手で持つからある程度の堅さが必要であるが、下廻りは最大限の柔軟性を持たせねばならない。ところが、「イコライザさえあれば、バネは不要である」という、とんでもない迷信が、大手を振ってのさばっている。これについてはTMSなどで「そうではない」という記事を見たことがない。

 小さなHO以下の軽い模型は壊れにくいだろうが、少し重い模型は、バネ無しでは、すぐにヘタってくるのが分かる。またポイントのフログがてきめんに傷む。HOでさえも、バネが利いている車輛の走行音の軽さには、驚くはずだ。何らかの緩衝機能がないと、壊れていくのである。
 ゴムでも良いのだ。何かの緩衝材が入っていると音は極端に小さくなり、車輛は長持ちする。これは井上豊氏が研究していた。その続きをやれと言われていたが、重ね板バネの効果を確かめ、ゴム板による台車キングピン支持で消音効果があることを立証した程度である。

 模型のカーヴでの挙動について、「遠心力」という言葉を用いている記事はすべて誤りと言ってよい。高校1年の物理の教科書を開いて計算すれば、愕然とする人は多いはずだ。考慮する必要がないことは明白である。即ち、カントは気分の問題である。傾いていると気持ちが良い、という程度のことである。また、自然振り子電車は、実現できるわけがないことは自明だ。

 いつも的確な指摘を下さる工学エキスパートのT氏から、興味深い記事を送って戴いたので紹介したい。

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2020年02月13日

続 慣性

 動画はご覧戴けただろうか。午前中、公開までの審査時間が掛かって、見ることができないという苦情を戴いたが、昼過ぎには見えるようになっていた。この頃は投稿された動画の内容を審査するのだそうだ。人間と機械で見るそうだが、大変な話だ。 

 今回の慣性増大装置付きテンダを作っている時、何人かの友人に見せた。すぐに真価を読み取って、期待してくれた人は多かった。しかし、完成したものを見せると、その動きには驚嘆した。こんなに慣性が大きいとは思わなかったと言う。慣性モーメントの計算は事前にある程度してあったので、筆者としては大体予想通りであった。途中で、回転体を軽くせねば事故が起こることが分かった。それで変更したことに関しては、やや心配した。小さなスプロケットを使う羽目になったので、効率が低下するからだ。結果としては十分な効果があった。

 また、メイルで概要を伝えただけなのに、「ケガに気を付けてください」と書いて来て下さった人はSG氏だ。慣性の大きなものを扱っていらっしゃるから、よく分かるのだろう。確かに高速で廻っているフライホィールに、何かが巻きこまれると、大変なことになる。そう簡単には止まらないからだ。過去のSG氏の作品には小さいながらよく動くナロゥの機関車がある。モータの回転数の数倍の速さで小さなフライホィールが廻っている。

 今、ここに170 kgの錘があるとする、と言っても実感が湧かないだろう。それならこれはどうだろう。小型の梵鐘程度の物体がぶら下がっている。小型といっても170 kgもある。それをつっ突いて振幅 2 cmほどで揺らす。堅い壁の近くにぶら下がっていて、揺れて壁に触りそうな状況を考える。その隙間に指を突っ込むと・・・
 そんな馬鹿なことをする人は居ないが、やれば指は潰れる可能性がある。重いものは危ないのである。それと同等の慣性を持つ模型車輛が走るのだ。

 今回のテンダは、車輪が滑るから安全である。もしラック式の模型であれば、極めて危険だ。車輪が滑らないから、連結時に指を挟むと大けがである。
 設計時に様々な計算をした。チェインが先に切れるか、車輪が滑るかを知りたかったのである。重いとチェインが切れることは予測できた。もちろん、4軸から動力採取している方だ。
 
 Low-Dはステンレス製なので、摩擦はやや少ない。動画でテンダだけを押し付けて動かす場面があるが、摩擦を大きくするためである。押さえ付けておいて速く動かして加速すると、チェインが変な音を立て始めるのを感じる。また、強く押し付けて無理に加速すると、たちまち切れるだろう。

 慣性を軽く見ると、事故の元であるのは間違いない。


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2020年02月11日

慣性

 昔は駅ごとに貨物取扱があって、何輌かの貨車が止まっていた。日通の倉庫もあり、貨物用に起重機(古い言い回しだ)もあった。貨車移動機もあって、入換をしていた。押された貨車は切り離され、200 mほど先まで滑って行った。途中で係員が飛び乗って、足でブレーキを踏んだ。
 子供のころ、それがやりたくて同じような線路を敷き、軸受に油を注して押したが、全く走っていかない。父に聞くと、「はずみ車を入れれば何とかなるが、お前にはまだ無理だ。」と言われた。

 おもちゃの自動車を押した。いわゆるフリクション・ドライヴである。床に押し付けて前進させると、ぴゅーと走っていく。なるほどとは思ったが、これを全ての貨車に付けることができるとは思えなかった。

 要するに、模型の慣性はとても小さい。1/48なら、慣性による滑走距離も1/48になるということは、以前示した通りである。小さな体積に詰め込んだものにエネルギィを蓄え、見かけ上の慣性を表現するのは、このはずみ車以外ない。DCC運転では、ある程度の慣性表現ができるが、それは電気的に作られた見かけの慣性である。物理的な慣性の方がはるかに実感的である。
 幸い、高効率のウォームギヤの逆駆動により無音で増速でき、チェインでさらに増速できたので、比較的軽く、また、小さくまとめることができた。

 テンダはオリジナルで1.3 kgある。砂鋳物の台車であってかなり重い。それに丈夫な支持台とはずみ車が付いているので2.4 kgほどである。補強には材料を100 gほど使った。重くないと摩擦力が稼げないが、重過ぎると摩擦力が増え、チェインに負担が掛かる。

 テンダの先台車は、2軸から動力を採取している。一方、5軸台車の方は4軸から動力を採取しているので、後者のトルクは2倍である。後部のチェインには前部の2倍の張力が掛かる。ここにはスペイスがあるので、いずれスプロケットを増設して、2本掛けにする。そうしないと、加減速の時のチェインの音を小さくできない。

 こんなに小さなフライホィールなのに、回転速度が大きいので、蓄えられるエネルギィは大きい。機関車の起動時、テンダ無しなら1.3 V、75 mAで動き出すのに、
4 V 80 mA必要だ。非常に重い列車を引っ張っているかのようだ。もちろん動き出したら、ほとんど電流は喰わない。
 このフライホィールは570 gほどしかないが、170 kgの錘と同等の慣性を持つ。大人の男性2人強の静止質量が、摩擦の無い台車に載っていると思えば良い。出発時、ある速度に到達するまでの間、かなりの時間、力を入れて引張り続けなければならない。高校で物理を習った時、F = ma を実感させる実験を見たことがあるかもしれない。重い物を早く加速するには、大きな力が必要である。細い紐で引張ると、切れてしまう。
  
 この模型で、その紐に相当するのはチェインである。初めの作例よりフライホィールを小さくしたのは、全体を軽くして摩擦力を減らし、トルクを制限する必要があったからである。元のままではチェインは、いずれ切れると予測された。それほど、この慣性は大きいのだ。

 慣性モーメントの計算は久しくやったことがなく、 かなり手間取った。
 S氏やT氏の助けもあり、慣性の値を確定させることができた。当初の筆者の計算値は、10%ほど小さめであったが、加速時のチェインの張力は、見当が付いたので質量を小さくした。作品が戻ってきたら、チェインの補強をするつもりだ。ここを歯車にすれば良かったのに、との能天気なご意見も戴いたが、それでは事故時に修復不能なダメージを受ける。工作機械にベルト伝導が用いられているのと同じである。チェインは、電気器具で言えば、フューズの役割も持っていることになる。 

 走行状況を Youtube にUPした。とりあえず英語版だけである。 

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2020年01月20日

慣性モーメント

Flywheel (2) このテンダは全軸コイルバネ懸架である。錘を載せていくと、3 kgでバネが完全に沈み込む。即ち、2.4 kgほどに仕上げないとバネの意味がない。そのあたりではバネがよく利いている感じがする。摩擦係数から、取り出せる最大トルクが分かり、フライホィールの慣性モーメントから、テンダ車輪がスリップしない最大の加速度が計算できる。物理が得意な人なら、自力で計算できるだろう。ギヤ比は3: 23 で、チェインでの増速は 15:20 であるから、増速率は 10.2 倍である。チェインの場合は歯数に公約数があっても、ほとんどの場合問題にならない。

 ウォームによる増速は無音である。当初はチェインが枠に当たる音がしていたが、それは完全に修整できた。ごくわずかのチェインの音がするが、気になるほどでもない。大きな円筒が高速で廻るのはなかなか壮観である。それは発電タービン音のヒューンという音に似ているが、テンダの車体を被せると殆ど聞こえない。聞こえるのは車輪の転動音である。

first generationsecond generation 当初は左の写真のような大きなフライホィールを廻していたが、やや重過ぎることが分かり、小さくしたと同時に、回転数を上げた。回転数を上げれば、その2乗で効くので、最終段の 4/3倍は 1.78倍の効果を生み出した。即ち、フライホィールの長さを56%にしても、慣性モーメントは元の値と同じである。重いフライホィールは衝撃に対して弱いから、少しでも軽くするべきである。留めネジ(ホロゥ・セットスクリュウ)の短いのが見つからず、とりあえず撮った写真である。現在は短いものを用いている。

 事前にある程度の計算は必要であるが、結論は摩擦係数の比より明白である。動輪は鉄タイヤで、テンダはステンレスタイヤであるから、摩擦係数は異なる。機関車動輪上重量が2.0 kg以下であると、動輪がテンダ車輪より先にスリップする。機関車の質量は、その数字を満たす範囲にある。


 機関車の質量は3.0 kg程度が良いことが分かった。大まかに機関車の質量を積算すると、おおよそ2.8 kg見当なので、200 gほどの補重で足りる。35年前作った時は、牽引力の限界を計算して1.2 kgほど足したが、今回はかなり軽くなる。重心位置の補正錘程度でよいことが分かった。先従輪には十分な軸重を与えて、復元を利かせている。
 前回は機関車の動輪のスリップ限界をモータの焼けない電流値から算出したが、今回はテンダのスリップ限界がすべてを決める。動輪は余力を持ってスリップしてもらうことになっている。重客車列車を牽かせるが、十分な引張力があることは確かめられている。但し、運転は習熟した者しかできないはずだ。駅で所定の位置に止めるのは、難しい。

 筆者が何をしたいかは、読者諸賢には既にお分かりだろう。

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2019年09月05日

再度 慣性について

 むすこたかなし氏の記事を読まれた感想を、たくさんの方から戴いた。

 Tavata氏が、見かけの慣性はスケールに応じて小さくなるという証明をされている。その通りなのだ。

 模型を作られる方の中で、模型は本物とは違うと考えた上で作られる方は少ない。特に実物から入った方には、縮小したものを作るとそれが実物のように動く、と勘違いしている人が多いように思う。非常に細かいところまで作って悦に入っているのだが、走りが良いものには、あまりお目に掛からない。あちこちの運転会に行って、走りを見ているが、ギィギィゴロゴロと走る車輛が多い。

 小さい模型は惰力を再現させることが難しい。管 晴彦氏のナロゥゲージの小型機関車が走るところを、ご覧になった方もいらっしゃるだろう。素晴らしい慣性を見せてくれる。HOスケールでここまでの慣性を持たせるために、管氏はモータ軸と同軸のフライホィールを増速している。径が小さいので、高回転にする以外、慣性モーメントの効果を大きくする方法はないのだ。

 縮小模型の慣性は小さい。高校1年程度の簡単な物理計算であるから、模型を作る人は一応やっておくべきだろう。
 摩擦を減らし、質量を大きくし、回転数を上げる。この三つを同時に組合せれば、見かけ上の慣性が増大し、素晴らしい走りを再現できるであろう。筆者が考案した、慣性が本物のように有るテンダの試作機は8割がた出来ているが、博物館が開業するまでは完成できない。

 どんなに精密につくられた模型も、よく走る模型には敵わないということは、椙山 満氏のレイアウト上で体感している。HOの世界では、井上 豊氏の作られた模型の走りが群を抜いて良かった。高校生の時にそれを見せて戴き、その時に受けたインパクトが、現在にまでつながっている。

 2月からの罵詈雑言を含めて多量のコメントを受け取っているが、その中に、
「走行性能ばかりを言うのはおかしい。よく走らなくても良いではないか。」
と書いて来た方があった。
 こういう方が 12 mmゲージ陣営の中にどの程度いらっしゃるのかは知らないが、非常にまずいことだと思う。

 管氏のリンクを更新した。完成時の動画はこちらにある。 (9/6/2019)

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2019年01月04日

蒸気機関車の音の再生

618_0131 正月に音楽家の友人に招かれて、演奏を聞いた。彼は仕事をやめた後、専用の建物でジャズの教室、演奏会を開いている。設備は相当なものである。各種のオーディオ装置を完備し、レコードは1万枚弱を持っている。彼はもともと電気工学出身で、オーディオは専門家であった。
 レコード再生には非接触のレーザ光によるプレイヤを用い、 特殊な真空管アンプを通して聴く。スピーカはイギリス製の何とかという珍しいブランドだ。巨大な超低音再生スピーカもある。それを入れたり切ったりして、効果を確かめながら聞いた。

 筆者は、アンプはFETがベストという結論を持っているので、真空管アンプ至上主義者からは睨まれている。それは物理学的な考察の結果であり、情緒的なものではない。少なくともFETは安い。安くていい音がすれば良いではないかということだ。
 それはともかく、今回は彼のオーディオ装置を通して聞かせて貰うことになった。真空管アンプ特有の音がし、それはそれで楽しめた。

618_0129 筆者を招待したので、友人は蒸気機関車の音を収録したレコードを特別に用意して、待っていた。全員の前でそれを再生した。素晴らしい臨場感で、感動した。
 Santa Feの最終蒸気運転のレコードで、4-8-4がロスアンジェルスからパサディナを抜け、カホン峠を行く様子が収められている。B面にはデイライトとキャブ・フォワードの音も入っている。後者はスリップして、音がずれていく様子が分かる。
 我が家でいつも聞いているCD再生音とは、根本的に違うと感じた。ここからは彼の講釈である。

 CDは20,000 Hz以上の周波数をカットしている。しかしレコードはそうではない。極端な低周波も高周波も一応、物理的に可能な範囲を収録している。その部分はHi-Fiではないかもしれないが、ゼロではない。
 音響効果が考えてある部屋でそれを再生すると、様々なものに当り、共振させ、耳に入る。共振は倍音、半音その他いろいろな成分を持っている。それが総合されて耳に入るので、臨場感が生まれる。この音をヘッドフォンで聴くと、面白くない。反響、共鳴がほとんど期待できないからだ。


 臨場感は本物と同じという意味ではない。本物ではないが、聞いた人に「そうかもしれないという感じ」を与えるような響きを生じることらしい。彼の意見に完全に同意はできないが、かなり説得力のある説明であった。ちなみに筆者は聴力試験の結果、12,000Hz以上はほとんど聞こえていないらしいが、違いは感じた。

 帰宅後、手持ちの蒸気機関車の録音を全部聞いた。頭の中は排気音と汽笛で満たされた。DCCの再生音とは違う。もちろんPFM方式とも根本的に違う。
 
 余韻に浸っているうちに、様々なことが頭の中を巡り、しばらく前のMRに載っていたオーディオ方式を試してみたくなってきた。それは、車載DCC以外に、固定されたDCCからの音声のうち、重低音部分を重低音専用スピーカを経て、レイアウト全体にばらまくというアイデアだ。低音は指向性がないので、一箇所あれば有効だ。
 ディーゼル・エンジンの腹の皮がぶるぶると共振するような重低音を味わうことができる筈だが、隣の家のガラス戸が震えるかもしれない。面白そうだ。

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2018年10月12日

ブレーキ

 鉄道のブレーキは自動車に比べれば効きにくい。摩擦係数を考えれば自明だが、それが分からない人が居た。

 川端氏の体験談だ。関西線八田駅近くで、単機回送のC57を運転していたところ、踏切にトラックが入り込んでエンストしたらしい。すぐに急ブレーキを掛けたが間に合わず、トラックをはねた。そのトラックはばらばらになり、運転手は即死した。

 処理は終わったと思ったが、検察庁から二度も呼び出しが来た。そのトラックを見つけてからブレーキを掛けるまでの時間を問われたそうだ。すぐに掛けたと言っても信用しない。
「列車を牽いているならまだしも、単機回送なのだから直ちにブレーキを掛ければ、急停止できるはずだ。ぶつかっても仕方がないと、漫然とした運転をしていたに違いない。」
とその検事は嫌疑をかけ、主張を曲げない。
「どんなに急ブレーキを掛けても、止まれないものは止まれない。」
と言っても聞かない。話は平行線をたどり、実際に運転して現場検証をすることになった。

「はいそうですか、どうぞ。」
とやってみたところ、絶対に停止出来ないことが分かり、そのまま”嫌疑なし”で不問となったそうである。

 その検事は当時の県知事の甥であることをひけらかしたそうで、「腹の立つ奴だったなぁ」という感想であった。
 機関車が急ブレーキでつんのめるように止まることを想像すると、漫画のような珍妙な光景が思い浮かぶ。どうしてこんなことが分からないのか、筆者には理解できない。 

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2017年12月29日

続 困った3条ウォームギヤ

 問題の3条ウォームをお借りした。

triple-thread worm gear setcorrect triple-thread worm 径が大きく8mmほどある。この進み角は9度ほどだ。
 大昔の2条ウォームがこれ(右)である。直径は、6 mmほどである。この進み角は11度強である。
 3条なのに、2条より緩い角度なのである。困ったものだ。

 この2条ウォームギヤは逆駆動できる。両端にスラスト・ベアリングを付けたらかなり楽に動いたが、効率はそれほど高くないことが分かったので、採用しなかった。 

 左のウォームにはネジ穴がある。理解できない発想だ。こういうものを押しネジで締めると偏心するから、ろくでもないことになる。ロレットを切って圧入するか、ロックタイトを使うべきである。

 この怪しいウォーム・ギヤのセットは、さる高名な模型人が諸元を決めて発注されたようだ。その書簡の一部も発見された。作って売った模型屋の言い訳の手紙のコピィもある。どうしてこういうことになるのだろう。

 3条ウォームにするということだけしか考えていない。3条にすると2条の時と何が違うのかを考えていないのだ。モヂュールが同じで、同じピッチ円なら、進み角が大きくなる。こんなに径が大きければ意味がないことは明白だが、おかしいとは気づいていない。設計者に「動かないじゃないか。」と文句を言う人がいたらしいが、設計がおかしいじゃないかと言った人はいないのだそうだ。

 そのグループ内にこのギヤが頒布されたようで、皆「動かない!」で不満が溜まった。結局、「3条ウォームはインチキである。」ということになったそうだ。
 よく動くものがあり、その写真もあるのだから、比べて検証すれば良いのだが、それもしない。相手を非難するだけでは、何の進歩もない。しかし一部の人達はカツミ製の輸出用ギヤボックス(祖父江氏設計)を手に入れ、よく動くと重用している。そのギヤは筆者設計で、進み角は17度である。

 このあたりのことを見聞きすると、この国の模型人の、物理に関する理解度が知れてしまう。機関車が走るのも、止まっているのもすべて物理の法則による。工作の上手、下手とは異なる次元の、極めて大切なものが抜け落ちている。それは物理という言葉で表す必要もないほど、単純明快なことなのだ。小学校の理科の範囲である。今までの方式でうまく行かなかった原因がどこにあるのか、を考える姿勢が問題なのだ。 


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2017年11月23日

等角逆捻り機構のあり方

 先回で、T氏による解説が終わった。
 客観的であって、自説を売り込もうとか、俺は専門家だぞ、というところが全くない素晴らしい考察であったので、掲載させて戴いた。これで、この範疇のことは一応の決着が付いたように思う。小難しい学術用語は極力排除して戴いてあるので、誰にでも読めると思った。
 本来、こういう原稿はTMSに載せるべきであったが、もうすでにそういうこともできなくなりそうだ。

 過去に何回も論じたことだが、イコライザとバネは切り離して考えるべきである。議論の前に、ルールを決めなければいけない。自分の都合の良い方向に話を持って行くために、異なる次元のものを持ち込もうとする人がいるからだ。

 弾性梁というものを持ち出したい人もいるが、それは「バネ」と「イコライザ」を同時に用いている。
 世の中のどんなものも、完全な剛体ではない。しかし剛体と考えて理屈を考えようと言っている。その部材は多少撓むのなら、そのファクタを、別に「バネ」として考えるべきだ。しかし、模型のように小さなものは、事実上剛体として考えて良いのである。ヤング率が一定だから、モーメントが小さい時は曲がらないと考えて、何ら問題ではない。
 「バネ」は曲がるような形に作られている。コイルバネをよく見て戴きたい。細かく見ればよく分かるように、原理はトーション・バーなのだが、それを極端に長くしてあって、微小区間での捩じりは目に見えない。しかし全体では、その総和としての伸びが観察できるほどになっている。

 さて、天秤棒…は作ってみるまでもなかったが、簡単な実証モデルを作ってみた。作動状況は極めて良くなかった。「使い分け提案」にもあったように、車体の慣性モーメントの小さな、軽いモデルには使えるのかもしれないが、Oスケールでは全く駄目である。車体がプルプルと小刻みに振動し、おもちゃ以下の状態である。
 バネで台車を留めた車輌は、この天秤棒…と力学的に等価であるが、調整すれば良い走りを示すし、揺れ加減も具合が良い。ダンピング(振動を減衰させること)のおかげである。
 普段ダンピングを考えない人は多いが、それは摩擦の多い模型が大半だということの裏返しなのである。摩擦を減らすと、ダンピングが必要であることが分かる。
 理屈をこねるばかりでなく、実証モデルを作ってみられたい。しかし、それをしない人が多過ぎるのである。実験は大切だ。 

 コメントを寄せて戴きたい。

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