化学

2025年04月11日

続々 塗装剥がし

アセトン 結局、3回目を有機溶剤で実施した。再度 シンナ + アセトン の混合液を作り、硬い刷毛でこすった。比率は体積比で 3:4 とした。


 アセトンを入れる理由を質問された。アセトンはいわゆる極性溶媒で、分子に電気的な偏り(δ+δ−)がある。水分子が電気的な偏りを持つことは誰でも知っていることで、かなりの種類の物質を溶かす力がある。しかし水を弾く物質に対してはそれを溶かすことは無理である。例えば油を塗った物質では水は弾かれてしまい、その物質を溶かすことは出来ない。

塗装剥がしに用いられる溶媒 ガソリン(オクタンなど)やナフサなどの炭化水素は油を溶かす(希釈力)。その時ガソリン等に混じる極性のある溶媒が入っていたとしたら、様々な固まったものを溶かす力(溶解力)があるはずである。それがラッカ・シンナである。
 ラッカ・シンナには各種のエステル(酢酸エチル等)が入っている。エステルは極性があり、なおかつこれらはガソリンなどの炭化水素によく溶ける。
 ガソリンのように揮発性が大きいものだと引火して火事になりやすいので、適当な沸点範囲の炭化水素と混ぜるのが普通だ。ベース材としてはトルエン、o-キシレンなどが選ばれる。これらは分子の形が完全に対称ではなく、多少の極性がある。

 そこに極性が非常に大きなアセトンを足すと、固まった塗料の表面の電気的に偏った極性のある部分にくっつく。そしてそれをトルエンが取り囲んで引き離すというわけだ。シンナの中の極性分子を増やしてやるとエポキシなどの高分子も溶けやすくなるのだ。ただ、アセトンは蒸発しやすく、100%のアセトンでは使いにくい。
 

stripped かなり強くこすったので、刷毛は擦り切れてしまったが、塗料は 99% 以上取れた。あとは磨き砂で丁寧に擦れば、ブラスの光沢が戻るであろう。この作業は外で行った。かなりの風があったので、近所にはあまり迷惑を掛けていないはずだ。 

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2024年07月21日

バナナの熟成

 読者の方が興味深い感想を送って下さったので、紹介させて戴く。コメントも合わせて御読み戴きたい。

私が子供の頃(昭和30年中〜末頃)は、バナナは輸入果物ゆえにかなりの高級品で、一般には「病気の時の滋養」としてしか口にできないものであったと聞いております。ところが、我が家では結構な頻度で食卓に上がり、特別なものという感覚はありませんでした。

これは我が家が裕福だったというわけではありません。父親が神戸港の港湾職員で小型船の運転をしていた関係で、熟れて食べ頃のものをタダでもらって来ていたからです。

当時は、船でも冷蔵設備が整っていなかったので、バナナは完熟前の青い物を収穫して船積みし、船倉内で蒸らして成を行っていました。このため船倉内で食べ頃になったバナナは、店頭に並ぶ頃には変色して商品価値が無くなる(実は、このタイミングのバナナが一番うまいのですが)ので大量に船上から神戸港内に廃棄しておりました。この廃棄するバナナをもらって来て(もちろん海に捨てる前のものです)お相伴に与かっていたというわけです。現在は、温度管理の向上や食品ロスの観点からこのような事は行われていない筈ですが、貴ブログの記事を拝読して、ふと懐かしく思い出した次第です。

 この投稿によると、船の中でむらしていたそうであるが、筆者が見たのは青くて固いバナナが運ばれて来て、それを地下の室(むろ)にぶら下げていたのである。間違って船の倉庫で熟成してしまったのを廃棄していたのかもしれない。そこのところが不明だが、興味深い調査の題材を与えて下さったと感謝している。

 また、青いバナナについては、「轟沈」という軍歌にもあるそうだ。

 
かわいい魚雷と一緒に積んだ青いバナナも黄色く熟れた。男所帯はきままなものよ。髭も生えます。無精髭。




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2023年05月17日

改装工事

 キッチンのカウンタ・トップは36インチ(915 mm)であり、そこに下駄を履かせた路盤を置き、高さ1 mの線路を作った。これは1978年ころから作ってあったが、改装前の高さは850 mmであった。少しでも持ち上げると見やすくて具合が良いことがわかった。
 
 ポイントを5つと小さな転車台を設置して、機関車の入換ができるようにした。長さ 7 mほどで、なかお・ゆたか氏製作の機関庫界隈の拡大版のようなものであった。最終的には少し曲線を作って10 m強の長さにしたが、マンション住まいではそれが限界であった。神戸の魚田真一郎氏がたびたび来訪して、高効率ギヤの運転を堪能していた。しばらくすると魚田氏は同じような線路(13 m長)を作って、楽しむようになった。そのポイントは、筆者が作った。
 発車後手元のスロットルのプラグを抜き取っても、電源がその電圧を保持するので走って行き、先方で差し込むとそのままコントロールが出来た。これらは日本初のウォーク・アラウンド方式であったことは間違いない。

 その4年後、現在の家の地下室にレイアウトを作ったが、設計する時のポイントの条件、緩和曲線などの基本的なデータはここで得た。それが32年前である。

new window sash and oak floor 国が補助金を出しているので、窓は断熱ガラスの窓枠に取り替えた。例の二酸化炭素による気温上昇の話だ。  
 断熱性の向上により、化石燃料の使用量を減らす事ができるので、外国に流れていく金を減らして内需に向けるわけだ。怪しい話に乗せられて、多額の国富を流出させている。一番得をしている国はロシアなのだが、誰もそれを言わないのは理解しがたい。要するに国土が狭くて人口が多く、工業が発展している国は二酸化炭素排出権を買わねばならないのだ。
 価値のないものを買うということを少しでも減らすために補助金を出したらしいが、根本的解決ではない。
 1億7000万年前、地球上の二酸化炭素は今の2倍以上あったことが確かめられている。その時の気温は今より7度も低かったのだ。さてこれをどう説明するのか。
 太陽の活動は一定ではないから、その影響としか考えられないのだ。地球人にとっては自らの活動で改善できることではない。おそらくあと数年で小氷河期がやってくるだろうが、二酸化炭素をばらまいても効果はない。

 新しいサッシは素晴らしい遮音性能があるので、国道からの騒音がなくなり、住みやすくなる。エアコンを最新型にしたら、とてもよく効くようになり、電気代を節約できる。

 傷んだ床の一部は削って研ぎ直し、再度塗り直した。3/4インチ(19 mm)の厚さがあるので、1 mmほど削ってもなんら問題ない。

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2022年12月30日

続々 塩化亜鉛を作る

 容器を冷やしながら塩酸を少しずつ入れる。かなりの発熱があり、塩化水素ガスが飛び出すので、外でやるべきである。冬は熱が逃げやすく都合が良い。飛び出した塩化水素は空気中の水蒸気を凝縮させて霧にするので、白い湯気が出るように見える。

 量の比率であるが、亜鉛 30 gに対する濃塩酸の計算上の体積は 76 ml 程だが、揮発して逃げる分を見越すと 80 ml が良いだろう。筆者の場合は、塩酸の残量から反応させる亜鉛の量を計算した。

 反応容器を一晩放置し、完全に溶けたのを確認する。銅線を引き上げると、還元的雰囲気にあったので綺麗なピンク色をしている。この銅線を入れないと、1週間放置しても、全くと言ってよいほど、溶けない。トタン板の場合は亜鉛がなくなって鉄板になる。空気が入るので、酸化が進み、鉄は錆びるだろう。ここで亜鉛の量は意外と少ないので、ほとんど塩酸のフラックスができる。それは効果がとても良いので驚くはずである。祖父江氏は最後まで塩化亜鉛を使わず、希塩酸しか使わなかった。

 これで手持ちの塩酸は無くなってしまった。今後どうやって入手するかだが、かなり難しそうだ。 

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2022年12月28日

続 塩化亜鉛を作る

 全ての金属固体が反応を助けるわけではない。積極的に阻害するもの(昔は逆触媒と言った)も、いくつかある。鉛、亜鉛、カドミウム、水銀などである。よく考えてみると、これらは全て電池の負極構成物質である。電池を休ませている時に、負極物質が電解液と勝手に反応(要するに電池を作動させていないときに亜鉛極が溶けてしまう)しては困るので、これらを用いていれば電極が反応せず、保存ができる。すなわち実用電池にはこれらを使わざるを得ないのだ。

 話は元に戻る。亜鉛はこれらの阻害剤の一つである。すなわち、亜鉛表面では水素ガスが発生しにくいので、結果として亜鉛は酸には溶けないのだ。そうでなければボルタ電池は成立しない。このあたりのことが、日本の高等学校の教科書ではかなりいい加減に扱われているので、混乱を引き起こしている。
 亜鉛を酸に溶かすには、触媒として何かが必要である。プラチナの指輪があれば、放り込めば良い。溶けることはない。(昔、それをネタにして笑いを誘う、傑作な入試問題があった。)

高純度亜鉛 と 銅線銅線を入れる あるいは製品でも良い。少し能力が落ちるが線でも構わない。筆者は、左の写真のように銅の撚り線の一端を捻り、他方を開いて放り込む。表面積が大きいので効果は大きい。右の写真は、塩酸はまだ入れていない状態で容器を覗き込んだ様子。亜鉛は微粉末で溶解速度が大きい。


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2022年12月26日

塩化亜鉛を作る

 塩化亜鉛の在庫が枯渇してきた。友人が来ると所望されるので少しずつ渡しているうちに、無くなってしまったのだ。
 金属亜鉛の粉末はたくさんある。塩酸に溶かすことができれば出来上がりなのだが、その塩酸が手に入らない。10%を超える塩酸は劇物である。毒物劇物を扱っている老舗の薬局も減ってきた。さらに地下鉄サリン事件があってからは取り締まりが厳しくなり、買えない。こちらは専門家であると言っても、駄目なものは駄目で、売ってくれない。
 半分諦めていたのだが、40年前に買った濃塩酸の瓶が見つかった。少し残っていたので、これを使うことにした。

 中学、高校では「亜鉛は塩酸に溶ける」と教えている。実際にやってみると、それは正しくない事がわかる。反応しないのだ。
 読者諸氏の中には、「昔中学の時に実験をやった。ちゃんと溶けたぞ。」と言う人もいるだろう。それは、その亜鉛が99.5%程度で、あまり純粋でなかったからだ。あるいは塩酸に不純物が入っていたからである。いい加減な実験ではうまくいくが、純粋な亜鉛(電気亜鉛という)に不純物の無い塩酸を注ぐと反応しない
 この理屈は、やや高度な説明が必要である。化学の先生に聞いても、きちんと答えられる人は少数だろう。

水素の発生 結論を言うと、「亜鉛表面上の水素過電圧が大きいから」だ。亜鉛はイオン化傾向が大きいから水和イオンになりやすく、電子を残して飛び出そうとする。・・・(1)式

 残る電子は水素イオンとくっついて水素原子になる     ・・・(2)式

が、生じた水素原子が2個くっついて分子になる      ・・・(3)式 
には、触媒が要る

 簡単に言えば、電荷によって結合する反応は瞬時に起きるが、電荷の無い原子同士はそう簡単には結び付かない。何かの触媒表面が必要である。いくつかの説明のモデルがあるが、全て固体が必要である。
 ニッケルとか鉄、炭素、パラジウム、白金などがあると具合が良い。不純な亜鉛には鉄や炭素が含まれているので、偶然にもうまくいったのだ。トタン板を塩酸に浸すという古典的方法がうまくいくのも、母材の鉄の存在が大きく寄与しているわけだが、それには誰も気付かない。 

 電気分解で水素を発生させるときも、極板を選ばないと高電圧をかける必要があり、損失が大きい。食塩水の電解では陰極に鉄板を用いる理由はこれである。その時、鉄がその食塩水の中で全く錆びない理由もついでに考えて戴きたい。最近はもっと優秀な素材を、陰極板に用いるようになった。      

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2022年09月26日

カビの処置

NP caboose (2) 某所で長らく放置されていたカブースの処理を引き受けてしまった。かなり長期間放置してあったらしく、元の色がわからないくらいひどくかびていた。触ると取れるかと思ったがそうでもない。


 カビはかなり強く食い込んでいる。このカブースは木製で、菌が木質の奥まで食い込んでいるのだ。普通に洗ったのでは取れない。
 思い切って、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(いわゆる塩素サラシ剤)を全体に塗りつけ、歯ブラシで擦った。あっという間に取れるが、塗料もかなり剥がれた。仕方ない。

 内側にも液が入ったが好都合だ。さっと振って行き渡らせた。1分間なじませて、全体を流水で洗った。振り回して水滴を飛ばし、空気清浄機の吹き出し口に載せて30分乾かした。

NP caboose (1) エアコンが効いているので湿度は低く、すぐ乾いた。塗料はかなり剥げているが、かえって実感的かも知れない。一部は塗り直さねばならない。本物でもそういうこともあるだろうから、これで良いことにする。

 多少の残りはあるが、カビは死んでいるので、無理には取らなくて良い。 

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2022年06月26日

ガスの充填

gas torch ガスバーナは各種持っている。小型のはこれである。半分壊れているが、手直しして使っている。いずれ修理するが、このままでも使えないことはない。自動着火なので便利である。



gas refill (1) やや中型のはこれである。45年ほど前、時計部品屋で買ったロウ付け用のものでボンベはナイロン製である。空になると充填に行った。裏でなにかやっていた。覗くとLPGボンベをひっくり返してガスの液体を入れている。その充填ホースを買えばできるので、取り寄せてもらった。以来40年近く使っている。

gas refill (4) 庭のデッキの上にあるバーベキュウ・セットの熱源はLPGである。35年前、アメリカで定価60ドル位だったものを夏の終わりに29ドルで買ったものだ。雨ざらしなので徐々に傷んできた。下半分を友人の鉄工所でステンレスで作り直してもらったものだ。豪勢である。ガスバーナ部分は消耗品なので何度も取り替えている。レギュレータも更新した。ボンベは 5 kg入のを買った。

gas refill (2) ボンベのネジは左ネジで、奥まったところにあるから、この工具Crow Footを使うと廻し易い。昔はネジが日米共通だったが、最近はアメリカが規格を変えたので、直輸入品は使えなくなったようだ。 



 5 kgのボンベをひっくり返して、液体部分を出す。コツとしては、充填元のボンベの温度は高い方が良く、小さいボンベは冷蔵庫で冷しておくことである。こうすれば、蒸気圧の差で、2〜3秒で充填される

gas refill (3) この写真では指一本で押さえているが、実際には両手で押し付けないとガスが漏れて撒き散らされる。この作業は風のある時に外でやるべきだ。 

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2022年06月10日

ロックタイトの劣化の原因

 先日の記事に対するコメントで、劣化の話が出ていた。この件に関しては、いくつか連絡を戴いたが、どれも「◯✕番は固まりやすい」というものであった。その情報を重ねてみても、そこに意味があるとは思えない。実際に起きたことなのだろうが、条件がすべて異なるので、参考にはならない。客観的な情報が必要である。自分が見たものが、世の中の全てではない。

 メーカが公表しているのは、金属との接触を避けるということである。塗布の助けとなるものを使うときに、金属ではなく、プラスティックか木材を用いるべきである。
 筆者は、厚手のポリエチレンフィルムの上に一滴出し、それをつまようじで取って、目的物に塗る。出したものを使い切るようにし、余ったものは捨てる。こうすれば、金属粉の混入は無い。

 光に当てないようにするのも必要なことである。遮光瓶には入っているが、瓶の口の部分は光が通る。

 冷蔵することは良いことだろうが、筆者の場合、室温(エアコンが効いている状態)で20年以上全く問題ない。


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2022年06月08日

ギヤボックスの変形?

 ギヤボックス購入者から意外な質問があった。

 ギヤボックスの外形を削る必要があって、水研ぎをした。組立てたら、噛み合わせが渋くなった。

 というものである。これは想定外の操作である。水研ぎをしたとあるが、水研ぎとは何が目的なのかを考えねばならない。耐熱性の低い塗装、素材を研磨するときは、摩擦熱の影響を減らすために水を付ける。もちろん削り粉の始末が楽になる、ということも否定できないが、第一の目的は冷却である。一方、ナイロンは耐熱性のある素材で、摩擦熱程度では何ら問題ない。

 この件の原因であるが、次のようなことであろう。
 ナイロンは水との親和力が大きい。水を含むと内部の結合状態(水素結合)に変化が起きて、塑性変形(クリープ等)が起こりやすい。力を入れて押し付けて削るので、微妙な寸法変化が起こるだろう。それをそのまま乾燥すると軸距離の変化が見られるということであろう。言うまでもないが、組み合わせ面を削ってはいけない。

 削るときは乾燥状態で、とお願いしたい。これはマニュアルに補筆せねばならないだろう。

 その購入者からは、削らなくてもよい、薄いギヤボックスの製作を迫られている。それは、色々な点で難しい。

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2021年09月13日

ゴム弾性 2 

 生ゴムは、中に反応性の高い二重結合をかなり含んでいるのですが、それは自分では反応しません。数%の硫黄を練り込んで加熱すると、長い分子間に適度な架橋が起こり、今までは弱い分子間力だけで束縛されていたのが、部分的に強力な共有結合で結び付けられるようになります。ある程度の自由な動きと、限界まで引っ張ったときの共有結合による束縛が両立する都合の良い構造になるわけです。輪ゴムを引っ張ると、最初はゴム分子の主鎖の高分子がほどけるにつれて長くなり、そのうちに硫黄の共有結合が限界を示します。それ以上引っ張ると切れてしまうでしょう。手を離せば、ゴムの分子は、存在確率がより高い、くしゃくしゃの状態に戻ろうとして縮みます。温度が高いと、分子運動が大きくなり、よりくしゃくしゃになろうとして弾力が強くなります。すなわち、弾力は絶対温度に正比例します。フックという物理学者はそれを見て、「ゴムは気体である」という有名な冗談を吐きました。

 考えてみれば、ゴム風船は縮もうとし、気体は膨張しようとします。運良く、その向きが逆ですから、風船の大きさは一定に保たれます。もしも、その向きが同じであれば、急速に膨張して爆発するか、収縮してしまいます。風船を加熱すると、気体は膨張しますがゴム弾性は増大するので、あまり大きさが変わらないのが興味深いところです。模様の付いた風船を膨らませて、一部をヘアドライヤで加熱すると、そこだけ縮むのがわかります。人の顔が描いてあれば、局部的に加熱して、しかめっ面をさせることも可能でしょう。

 すべての長大な分子(高分子)には、分子間力がある程度あるので、生ゴムのような性質を持ちます。シリコーンでは、-O-Si-O-C-O-Si-のような主鎖の間に架橋を起こさせなければなりません。一番簡単なのは過酸化物を加えることです。酸素による架橋が起き、安定化しますが、その安定度が非常に大きく、いかなる方法でも、主鎖が切れない状態で架橋を切ることは出来ません。(終わり)


 というわけで、シリコーン・ゴムが曲がっているのに力を掛けても、加熱しても、形は変わらない。製造時にまっすぐ保つしかないのである。水平に置けば潰れていくであろうし、垂直では伸びてしまうであろう。水平に保持した細いパイプの中でゆっくり回転させるしかなさそうだが、決して出来ないというほどのものでもない。これを実用化できれば、称賛を得るであろう。このままではだめだ。  
 最近連絡をもらった友人からは、シリコーンゴムは外れやすいとのことだ。摩擦が小さいので、軸から抜けてしまうのだろう。あまり優秀な材料とは思えなくなってきた。


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2021年09月11日

ゴム弾性 1

 結縁氏からのゴムについての質問に、詳しく説明した返事を送ったところ、その説明はブログで公開する価値がある、とのことであった。一般人はゴムの構造についてほとんど知らない、と感じられたのであろう。
 手紙に少し補足したものを、ここに示すことにする。

 加硫というプロセスは、非常にうまく出来ていて、よくこんな方法を思い付いたものだと、いつも感心します。ゴムタイヤは熱いアスファルトの上を走っても、高圧の空気を充填しても、弾力は保たれますが、永久的な変形はありません。必ず元の形に戻ります。
 天然ゴム自身は、そこそこに弾力がありますが、チューインガムのようなものです。当然、夏はべとつき、冬はパリパリになってしまうので、ゴムというものは発見されてから100年以上も、うまい使い途が見つけ出せなかったのです。

 アメリカの図書館でこんな話を読みました。
 Goodyearという人は、ゴムの改良に勤しんで、全財産を使い果たしました。いよいよ明日は家を追い出されるというときに、ヤケを起こして、実験材料を蹴り飛ばしました。たまたま、そこにあった焼けたストーブの上に硫黄との混合物が落ちて焦げ始めたので、あわてて払い落としました。するとその塊は生き物のように跳ね返り、実に適当な弾力を示すことがわかったのです。次の日に、債権者たちに実演して見せて、それで窮地を乗り切ったと言います。たまにはヒステリィも効果があるのでしょう。(結局の所、Goodyear はブランド名には残りましたが、企業家としては失敗したようです。)

 加硫は米語では vulcanization(英語では  vulcanisation)と言います。火山 volcano と関係がありそうな綴りですね。熱と硫黄を使うのでその名がついたのです。


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2021年08月20日

シリコーン・チューブについて

 様々な情報が寄せられた。その中でやや視点が異なるものがあったので紹介したい。あまりにも長いので短くした。一式陸攻氏のコメントに対するものである。

 ギヤボックスのウォーム軸端とモータ軸端との距離が小さいと、チューブのそこそこある剛性がトルクアームの役割を多少担っているので、前後進で差が出にくいという運の良い状況になっていたのではないかと思われます。そういう場合は少ないのですが、その方は一般的に通用すると思い込んだのでしょう。
 対する一式陸攻氏は、その運の良い状態がそこにあることに気付かずに、一般論を話しているので噛み合わなかったものと思われます。

 おそらくこの推測は当っていると思うが、いずれにせよ、軽負荷のときに限られる。重負荷ではゴムは捻じられてあらぬ形になる。この件については後述する。
 それでは軽負荷であれば万々歳なのか。軽負荷ではゴムの巻き癖の影響が、相対的に無視できなくなるだろう。01175氏のコメントにあったように、ギヤボックスがコトコトと動いているのに気付かないだけなのかもしれない。
 大型の 4-8-4 や 2-10-4 に装備するものとして適切かどうかは、自明であろう。もちろんボイラに十分補重して、勾配で長い列車を牽かせることを考えて欲しい。

 もしも、イモンが金に糸目を付けずに良いものを提供するという信念を持っているなら、シリコーンゴムのチューブをまっすぐ作って(決して不可能ではない)売ればよいのである。

silicon and silicone Silicon シリコンとSilicone シリコーンの現物の比較である。シリコンは、硬い結晶である。特定の方向には、エッチングしやすいので、ダイヤモンドの砥石刃で薄く切り、模様を焼き付けてエッチングしたり、特定の元素を沁み込ませたりする。これは切り残した部分。
 対するシリコーンはゴム状である。シリコーンは雨が入らないように絞り出して使う防水シール材である。英語の発音も似ている。前者はスィリカンで、3つ目の母音はなくなって2音節になることが多い。後者は語尾をコウンと発音する3音節の言葉である。どちらもアクセントは前にあるからややこしい。


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2021年06月09日

耐薬品手袋

gloveschemical-resistant glove いつも行くバッタ屋で見つけた。以前は意外と高値で売っていたが、数分の1に値下がりしていた 。売れなかったのだろう。サイズは小であったが、十分な大きさである。全部買い占めた。まともに買えばかなり高価である。


 Ansellはもともとはダンロップが作ったゴム手袋製造会社だったが、現在では医薬品製造用を始めとして、あらゆる用途の防護服、フィルタなどを作る多国籍企業である。
 この手袋は、ほとんどすべての薬品、溶剤に対し、耐性がある。模型工作で有効なのは、塗装剥がしと、めっきである。

 塗装剥がしは、ブレーキフルードを使うが、9割は取れてもあと少しが取りにくい。ラッカーシンナを深皿に取り、刷毛で軽くこすると溶けてしまう。その時車体を手で持つと、あとで臭くて仕方がないし、健康にも宜しくない。この手袋をはめていると、シンナーの中に指先が入っても平気である。かなり荒っぽい作業も、安心してできる。手が汚れないのがありがたい。

 めっきは、あまり安全とは言えない薬品も使うので、手に付けないようにせねばならない。

 風向きを考えるだけで、安心して作業できる、手袋をよく使ってくたびれてきたら、車の整備に使う。エンジンオイルを抜くときには、汚れなくて助かる。その時使用した手袋は、迷わず廃棄する。

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2021年02月11日

漏電

 信号機が完成したので、DCC本線で4-8-4の牽く旅客列車を走らせて悦に入っていた。ところが、ある日突然ショートしていると表示され、2週間の運休を余儀なくされた。
 
 列車全体を退避させ、ディジタル抵抗計を接続してみると、両レイル間にはわずか 1.5 Ω 〜 2 Ω程度の抵抗しかない。12 Vを掛ければ数アンペア以上流れることになる。1.3 Aで制限しているので、当然ショートと認識される。

 突然のことで原因がわからず、二日ほど考えた。敏感なディジタル抵抗計で全線にわたって抵抗を調べた。もちろんセクションごとのフィーダをすべて外してからである。そうすると、10 mほどのセクションの抵抗が少なく、他は十分な抵抗がある。3年ほど前にネズミが侵入して小便をした辺りである。ということはその尿の成分の塩が残っている可能性がある。

 高性能な抵抗計は、 3 Vを掛けて、被検知部分に発生する電圧を調べる。その抵抗の読みは、接続した瞬間は小さいが急速に大きくなって一定値になった。金属を接続したときとは明らかに違う。抵抗値が時間が経つと大きくなるのだ。オシロスコープにつなぐとおもしろそうだったが、筆者の真空管式のオシロスコープはかなり前に捨ててしまったのだ。

 1.5 V電源のテスタをつなぐと、抵抗はゆっくり大きくなり、抵抗値は前者より大きい。電圧によって伝導率が違うのである。これが何を意味するかは、興味深い。電気化学の教材に適する。

 これは金属導体内の電子の移動による通電ではないということだ。イオンが動いていると結論せざるを得ない。電気分解が始まれば電流は一定になる。電気分解電圧に達していなければ、そこで通電は見かけ上、停まるはずだ。ところがDCCは12 Vの交流である。イオンはあっちに行ったり、こっちに戻ったりしているはずだから、電流は通じる。しかし、ガスが発生したり、金属が腐食したりすることはないだろう。

 ともかく、漏電は塩(”えん”と発音)によるものだということが分かった。何の塩かはよくわからないが、ニッケルや銅の塩化物は潮解性である。これは乾くことが無いことを意味する。空気中の水分を集めて湿っているのだ。

 線路に掃除機を掛け、ごみやほこりを完全に清掃し、ネズミの小便によると思しき汚れの発見に努めた。事件の後、掃除をしたので殆ど痕跡は消えていたが、3か所それらしきところが見つかった。水を掛けてブラシでこすり、紙タオルで吸い取った。これを数回繰り返すと、残存する塩を十分に少なくできる。

 ネズミ侵入事件が起こった時、穴があることを知り、それはモルタルで埋め、建物の内外にネズミを捕獲する装置を多数置いたところ駆除に成功し、それ以降は問題ないものと思っていたが、年を経てこのような事件が起こったのは意外であった。


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2020年12月11日

ステンレス容器 塩水漬け

removing broken drill bit in stainless steel bowl この方法を編み出したのは筆者である。しかし10年以上前にやったきりで、そのチャンスがしばらく無かった。それは通称 ”ガラ”を使うようになったので、タップを折ることが無くなったからだ。しかし、今回は少し違う事案だ。

 台車枠の鋳物に、軸箱護をネジ留めするための下孔をあける時に、折ったのだ。高速ボール盤を使っているので孔は簡単にあくが、中に鬆(す)があったようで、がくんと中に落ち込んだ時に折れた。高速ボール盤といえども、送りは無造作ではいけない、という良い例だろう。(写真の左上の部分の裏側に折れて刺さっている。)

 当時の韓国製の鋳物は見えない鬆がある場合があった。おそらく、熔湯を入れる速度が大き過ぎるのだろう。埋没材が削れて落ち込むのだが、それが浮力を得て上がって来るが、途中で引っ掛かってその分が空洞になる。もっとも埋没材はそこに残っているが、脆いのでドリル刃は一瞬で通過し、その先の金属に当たる。

 今回の失敗例をよく観察すると、ドリル刃は穴の中で斜めに刺さっている。すなわち、空洞を通過した後の向こう側の金属が斜面だったのだろう。それに乗り上げて、ドリル刃は横這いし折れた、と解釈した。

 ステンレス塩水漬けの方法は、「蒸機を作ろう」にも掲載され、利用する人が多くなったのは喜ばしい。しかし、相変わらず「溶けない」という文句が来る。
 ステンレス容器を使わない人が居るのには驚く。これはステンレスを使うことに意味があるので、プラスティック容器ではうまく行かないのは当然だ。書いてある通りにやらないと意味がないということを理解しない人は少なくない。
 また超硬のドリル刃を折り込んだという相談も時々あるが、それは諦めて戴く以外ない。切り取って埋め金をするしかないだろう。相手がブラスであれば、超硬を使う理由は見つからない。

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2020年09月30日

GTEL

 GTELとはGas Turbine Electric Locomotiveである。ヂーテルと発音する。アメリカ中探しても、UP以外の大量採用例はない。 

 どうしてGTELが登場したのかという理由は、燃料の安さということに行きつく。ガスタービンというものは連続燃焼であり、燃えるものなら何でもエネルギィに変えることができる。天然ガスだろうが、石炭ガスだろうが、重油だろうが構わない。ただし効率はそれほど高くないから、燃料が安いということが条件となる。
 戦後のアメリカでは低品質の重油がとても安かった。Bunker Cというグレードのものが極端に安かったらしい。これは石油を蒸留して順にガソリン、灯油、軽油、軽重油を取った残りで、常温では流動しにくいが、温度を上げれば流動するというものであった。1950年頃は原油の15%ほどがこの残渣油であり、船で燃やす以外の用途があまり無かった。その中でも最低級のものは極めて安価だったらしい。
 これを使えれば、大きな経費節減となる。一方、当時のディーゼル・エンジンはそれほど高性能ではなく、また故障も多かった。そういう時代に、次世代のエンジンとしてガスタービンは華々しく登場したのだ。
 もう一つのファクタとして、UP本線の沿線には海がないことである。潮風に含まれているナトリウムイオンは、重油の中のバナジウムと結合し、タービンブレード上にガラス状のバナジン酸ナトリウムとなって析出する。UPでは、その種の心配がなかったからだ。ガスタービン動力の船はその問題をクリアするのに、苦労している。

 その後、石油化学が進歩すると同時に、プラスティックが大量消費される時代が来た。プラスティックの原料はエチレンである。エチレンは、その重油を高温で触媒に接触させて分解する(steam cracking)と、容易に得られるようになった。するとタダ同然だった重油が価値を持ち始め、燃料費を節約することができなくなってしまった。
 また、安い重油を燃やすと燃え残りもあり、それがタービンの羽根に付着することもあって、意外と保守費も掛かるものであった。

 燃料費の高騰につれディーゼルエンジンの価値が増し、高性能エンジンの開発と高効率で保守不要のオルタネータ、シリコン整流器の採用により、1960年代末にはGTELの時代は終わった。


 筆者はその機関士であったTom Harvey に、運転状況等を詳しくインタヴュウしているので、紹介していこう。ガスタービン機関車の運転に関する記事は世界中見ても稀なことであるから、徐々に進めていきたい。

8500HP GTEL まず、運転マニュアルを見てみよう。これは意外にページ数が少ない。言い換えると、運転に際してはあまり難しいことがなかったようだ。


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2020年09月10日

Solvaset の有効成分

Solvaset 最近、栗生氏の掲示板でディカールの柔軟剤ソルヴァセットの成分について、アメリカの掲示板の投稿を再録していた。



 ソルヴァセットの成分が何なのかは、永らく謎であった。筆者のハナマトグラフィでは、グリコールエーテルではなかろうか程度の認識であった。水に溶ける有機物はそれほど多くはないので、そのあたりだろうと思った。さりとてそれを分析するほどのこともなく、買った方が安いのでそれで十分満足していた。ソルヴァセットの溶解力はかなり強く、多く付けるとディカールの膜が溶けるから注意せねばならない。家庭用強力洗剤にもアルコールエーテルが含まれている。

Solvaset しばらく前にアメリカで買って来た瓶のラベルに、
methoxy-2-propanol, methoxy-1-propanol
と表示があったので、当たらずとも遠からずであった。(正確には、前者は1-methoxy-2-propanolと書くべきであるが、間違うことも無いだろう。)

 昨年思い切って分析にかけてみたところ、methoxy-2-propanolが99%以上であった。この形の分子ができやすいし、また安定である。1の方は痕跡程度であった。成分表示に書く必要もないほどだ。
 2の方は光学異性体の混合物(*は不斉炭素原子) になっているはずだが、そんなことは、この際、どうでも良い。 500 gが5000円ほどで買えるが、あまりにも多すぎる。市販品の濃度なら100人で分けても余る。その手間を考えれば、市販の瓶入りを買うべきだ。


butyl cellosolve ブチルセロソルヴという話も出ている。これも水といかなる比率でも混じり合う。これにもディカール柔軟剤の機能はあるだろうが、乾燥がかなり遅い。このブチル基は直鎖だが、これが枝分かれしているとさらに溶解力が強くなるはずだ。これらはラッカ・シンナに少量含まれていることがある。
 これを多めに含ませたものが、リターダ・シンナである。ブチルセロソルヴを混ぜると蒸発速度が小さくなるので、気化熱で塗膜が白くなるのを防ぐことができる。湿気が多い季節には使うべきラッカ・シンナである。
 セロソルヴの意味はニトロセルロース系のラッカーを溶かすことができるものという意味である。ソルヴァセットを付け過ぎると塗装が溶けるのは当然である。心配な人は水で薄めると安心だ。


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2020年08月19日

日光浴

decal before 友人のF氏が持参した美しいタンク車のディカールの縁が、黄ばんでいる。かなり気にしている。確かに素晴らしい貨車だが、文字の周りが黄色になっているから、いかにもディカールが変色しました、という感じである。

 これを消すうまい方法はないか、と問うので、筆者のやっている方法を伝授した。これは昔アメリカの雑誌で見たような記憶があるが、誰に聞いても知らないと言う。railtruck氏も同じようなことをおっしゃったような気がする。氏はプラスティックの専門家であるから、筆者の貴重な情報源である。

decal  after 直射日光に晒すのだ。紫外線をある程度浴びさせると、黄色の部分は無色になる。彼は大喜びで写真を送って来た。
「いったいこれはどういうわけなのだ。日に当たれば黄色くなると思った。」


褪色 この説明は難しい。一般論で言えば、紫外線を浴びせると色が付くものと、消えるものがある。色が付いてそれが消えないものは、専門用語を使うと「共軛系が長いもの」である。芳香族系のものはまず消えない。フェノールがキノンになったりすると、もうダメである。そういう場合は、赤みを帯びるものが多い。要するに保存中に赤くなってしまったものは、何をしようが元には戻らないものが多い。
 一方、黄色になったものは、酸化によって2重結合が増したもので、短い共軛系であろう。これは紫外線によって、さらに酸化されて共軛系が消滅することがある。調子に乗って当て過ぎると、分子の基本部分の結合が壊れて崩れてしまうから、夏の日差しで2時間が限度である。それで消えなければ、諦めるべきだ。

 ”共軛”という漢字は、現在の化学の教科書には”共役”と書いてあるが、正しい文字を使いたい。なぜかというと、これを「キョウエキ」と読んでしまう人がかなりの比率で居るからだ。「キョウヤク」が正しい。
 高校の数学で、共役複素数を「キョウエキ複素数」と習った人がかなり居るだろうが、それは完全な間違いで、そんな数学の教師は失格である。軛はくびきである。「くびきをともにす」と読み下すべきで、2頭の牛がペアになって車や鋤を牽くことを指す。教えている言葉の意味さえ調べない無能な教師が、かなり居るということだ。筆者の高校の時の数学教師は、すべて駄目であった。英語ではconjugateと云う。ラテン語で、con は「共に」、jungare は「軛」でズバリである。
 
 
 上の共軛系とは、炭素間2重結合が2つあるいはそれ以上並んでいることを指す。黄ばみは、それ以外にC=O 2重結合の存在も寄与している。 

beforeafter 詳しい理屈は大学院以上のレヴェルの話で、言えることは、ディカールの黄ばみは2時間の日干しで直る可能性が高い。しかし、夏の日差しは強く、プラスティック製品は高温で歪むかもしれないから、冬の方が良いだろう。やり過ぎるとディカールそのものが傷む可能性があるから、外に出し忘れないようにして戴きたい。

 うまく行くものとそうでないものがあることを承知の上で、試行をお願いしたい。

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2020年07月20日

続 3D print についてのコメント

 コメントでYoutubeを紹介してあったので、見た。大変面白い。出来たものを加熱している。"annealing"という言葉を使っているのも興味深い。これは本来の意味から離れて、別の概念を紹介するためにわざと使っているものである。正しい用語とは言えない。丈夫になることを言っている。本来の意味は、金属が様々な原因で硬くなったのを、加熱して軟らかくすることである。原子の再配列をすることだ。ここでは高分子の再配列により、堅くしている。
 ちなみに、”annealed” という言葉は、中村修二氏の青色LEDの特許に関する紛争で、「これはすでにannealed ideaであって…」と相手側が反論しているのを見た覚えがある。突出した考え方ではなく、時間が経って既にありきたりの方法だと主張しているのであった。結果としてそれは認められなかったようだが、面白い用法だと思った。 

 シャツをくしゃくしゃと箱に詰めるよりも畳んで詰めるとたくさん入るという実例を示している。これは筆者もよく使う説明の方法で、結晶化によって密度が増大することを理解しやすくする。この動画をご覧になるとよい。英語は平易で、字幕も出るからわかりやすい。

 筆者の記事にもあるが、ポリエチレンが結晶化すると、密度はかなり増大する。結晶化という現象は、目の前で起こるとなるほどとは思うが、ほとんどの人はそれを見たことはない。
 インターネットなどでそれを知ると、”それが最初から自分の頭の中にあったように勘違いする”人が多い世の中になったと、昔のコメントに書いてあったが、本当にその通りである。拙ブログのコメントにも、まさにその実例がたくさん来る。

 今後AIが進歩すれば、機械が瞬時に探し出してくれるようなことを、さも「自分はこの分野には詳しいのです」、と言わんばかりにコメントを送って来る。こちらは長年の経験でそういうことはすぐわかる。そういうことを理解している人の数は極めて少ないものなのだ。 

 話は元に戻るが、この動画はなかなか面白い。経験したことの中の、使える部分をうまく抽出している。寸法を保つということを放棄して、強度増大を主眼にしているのだ。

 PLAとはポリ乳酸である。一時期、生分解性があると売り込んでいたが、それはそれほどでもなく、最近は別の観点での売り込みがなされる。

 筆者のアメリカの友人からは、「台車を3Dプリントで作ったから、お前も買え」という話が時々来るが、正しい材料を使ったものはほとんど無い。


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2020年07月18日

3D print についてのコメント

 過去数回3Dプリントについて書いてきた。コメント、私信が大変多く、注目されている内容であることが分かった。

 筆者は職業柄、材料を見ればどのような性質であって、長時間の後にはどうなるかは大体見当がつく。模型を作る人はそういうことには無頓着で、形ができれば満足するのだろう。3Dプリントが現実のものになってくると、様々なものが出て来る。10年後にはどうなるかなどとはだれも考えていないのではないか。

 アメリカの話だが、絶縁車輪の製法が変わったのは1960年代である。それまではベークライトが主体であった。その後ナイロンになった。ナイロンは優れた素材であるが、ただ一つ具合の悪いことがあった。それは削った時のクズが切れないのである。カミソリ状のものでそのクズを切り落とさないとみっともない。大変な手間がかかった。
 次に出て来たのはDelrinである。これは射出成型で作りやすく、そのスリーヴを嵌めて圧入するのは簡単である。また、それによってスリーヴが割れることもない。微妙に塑性変形して圧力を保ち、抜け止めに貢献する。要するに press fit が容易である。
 これに成功して鉄道模型界ではデルリン製(通称POM製)の歯車がたくさん作られたが、かなりの部分で応力割れが見られた。デルリンの歯車に無造作にシャフトを圧入したのである。5年位で割れてダメになった。

 現在ではこの方法は避けるべき方法として、かなり知られている。筆者はどうしてもこの部品を使わねばならないところには割れるボスの部分に金属製の環(タガみたいなもの)を嵌めている。こうすると殆ど場合助かる。以前紹介したチェイン・ドライヴのスプロケットではそうしている。要するに、中外から圧力がかかっていると、大丈夫だということだ。


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2020年07月14日

続々 3D プリンタに用いる樹脂

 ナイロンにはいろいろな種類がある。普通は6,6-ナイロンである。この6は、単位物質の炭素数による。作りやすい物が良いので、ベンゼン環の炭素数が保存される6から始まった。今はもっと安いものが原料に使われるが、6という数字は変わらない。現在では、8とか10という数字を含むナイロンもあるが、強度は6,6には敵わない。ナイロンを作ったのはCarothersという天才だが、最初に作られたものが、最終的に最も優れたものであったというのは、凄いことである。カラザースは立体構造を考え、分子間に働く水素結合が最も無理なく形成されるのは、6,6の場合であることに気が付いたのであった。今でこそ、分子設計という概念があるが、1930年代にそれを実現したのは、素晴らしいことである。

 これは実質的に流動し始める温度が268 ℃であり、とても高い。3Dプリンタではもう少し低い温度で融けるものが良い。炭素数の多いナイロンの中には、200 ℃近辺で流動するものもあり、それを使っている。

 粉体にレーザを当てて、瞬間的に融かして固めるので、どうしても多孔質になる。即ち、表面がざらざらし、油が浸み込みやすい。ざらざら感を無くすには、サーフェサを塗って研ぐしかない。大物で表面に平面があれば楽だが、そうでないとなかなか大変である。つるりとした感じを与えるものは、また異なる造形法であるが、高価格である。
 そういう点ではOスケールは鑑賞距離が大きいので有利である。遠くからしか見ないので、台車のざらつきなど、ほとんど見えはしない。  



   台車にナイロンを使う理由を聞かれたので、答えようと思った。基礎から説明する必要があり、3回分を充てた。 この手の話は化学に縁のない人には非常に説明しがたく、何回も書き直した。3Dプリントはかなりあちこちで使われているが、その説明を見ると首をかしげるものが多い。
 決してABSは万能ではなく、クリープの起きにくい材料を使うことの重要性を強調しておきたい。

 筆者は、本質的にプラスティック製車輛は避けたい種類の人間である。長い時間の後にも製造時と変わらぬ性能を持つ模型を作りたい。車体がプラスティックの機関車は僅かにあるが、下廻りはすべて金属で作り直してある。車重が2 kgもあれば、プラスティックだけでできていると徐々にクリープしていく。下廻りに用いる材料はブラスが主体で、熱硬化性の樹脂(3次元網目構造を持つ)のみを絶縁材に用いている。

 車輪の絶縁に用いる材料はPOMである。これがABSであると恐ろしい結果を招くだろうことは、お分かりかと思う。筆者は、接着剤も永く持つもの以外は絶対に使わない。エポキシ か スーパーXである。塗料も、より長持ちするエナメル系を用いている。

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2020年07月12日

続 3D プリンタで用いる樹脂

 ポリエチレンはどうだろう。柔らかく、しなやかな買い物袋を想像すれば良い。流れて役に立ちそうもないが、意外なことにポリエチレンは結晶性なのである。結晶性の物は、高分子鎖のあちこちで、同種の分子鎖が寄り添い、固まって動かなくなっているのだ。そう言えば、ポリエチレンシートは、僅かに白く濁っている。原則的には、分子鎖が近づきやすく、横に大きな突起がない高分子が結晶性を持つことになっている。

 ポリエチレンのフィルムを切って短冊にし、それをゆっくり引き延ばしてみよう。白くなって、引っ張っても切れにくくなるはずだ。引っ張られて長い分子が整列し、分子間距離が小さくなって結晶し始めたのである。結晶化が進むと白く濁るのだ。その時、熱くなる。自由な分子運動ができなくなるので、エネルギィを捨てざるを得ないからだ。荷造り用として売られているプラスティックの薄いテープ状のギシギシした紐は、まさにこれである。ほとんど伸びない。長さ方向には極めて強いが、縦裂きは容易だ。長さ方向にずらすには、結晶構造内の分子間力を全長に亘って同時に切る必要があるが、縦に裂くと、一つづつ切れば良いからである。この紐状のものを加熱すると、くちゃくちゃと縮む。エネルギィが与えられ、分子が束縛から解き放たれて自由に動いたからだ。結晶化すると少し密度は大きくなる。包装用紐の巻いたものは、意外に重いことに気が付くだろう。 

 ポリエチレンは何もしなければ結晶化しにくいので軟らかいし、軸受部分の摩擦による発熱にはとても耐えられない。無理やり伸ばさない限り(これを延伸という)結晶化しない。また、耐熱性がなく、塗装、接着の困難さにより、模型材料には使われることはない。

 他にはポリプロピレンがある。これは形が異なるものが3種あり、その一つは極めて優秀な結晶性を示し、身の周りにたくさん使われているが、模型用には適さない。接着塗装が難しいのだ。ポリプロピレン製のコンテナなどは、重い物を載せても形が崩れない。

 さて、模型用として実用的な結晶性プラスティックの例を挙げよう。POM(デルリン、ジュラコンなど)、ナイロンなどが有名である。これらはある温度で急に融けるように見える。それまでは、形はほとんど変化しない。隣の分子と固く結びついているからである。即ち、常温では流れにくい。歯車、カム、リンクなどに適する。

 台車の材料は結晶性プラスティックであったほうが良い。Oスケールの場合、軸重は5 N(約500 gw)を超える場合がある。放置されていても台車がヘタることがあってはならない。もしこれがポリスチレンなら、徐々に歪み始めて、20年もすれば、あらぬ形になる可能性がある。


 いわゆるPETボトル(これをペットボトルと言うのは正しいとは言い難く、外国では通用しない場合が多い。英語では、ピー・イー・ティー・ボトルという)は透明だが、ある温度に保つと白く濁って堅くなる。結晶化したのである。一部のボトルのネジ部が白いのはこの方法による。ネジが内部の圧力によって抜けないようになっている。

 3Dプリンタでは、ナイロンが適する。ナイロンはとても堅く、摩擦も少ないから台車に適する。ただ、ナイロンは水に濡らすと、流れる可能性がある。要するに、濡れた状態で極端に大きな力を掛けると、塑性変形する可能性があるのだ。水に対する親和力が強く、水和により分子間力が弱まってしまう。高分子どうしを結び付けていた水素結合が水との結合に振り向けられるからだ。
 染色は容易だ。染料は水と同じく、この高分子に電気的引力で付きやすいからである。


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2020年07月10日

3D プリンタで用いる樹脂

 3Dプリンタでいろいろなものを作ってみた。細かい造作を必要とするものはアクリル樹脂で作ったが、台車はそうはいかない。台車にはいつも力が掛かっている。要するに車重を支えているし、走行時は様々な角度から加速度が与えられるから、瞬間的にはかなり大きな力が掛かる。へたらない材料で作る必要がある。



 合成樹脂は熱可塑性熱硬化性に分かれる。前者はいわゆるプラスティックであり、加熱すると流動する。後者はベークライトで代表されるような加熱しても融けない樹脂である。元々は、plasticとは、こねて形を作れるという意味である。漢字の塑という字に相当する。

 さらに熱可塑性樹脂は、非晶性結晶性とに分かれる。
 
 非晶性のものは、力を入れると少しずつ伸びていく。伸びたものは元に戻らない。塑性変形するのだ。また温めてやると徐々に柔らかくなり、形が変わる。融点がない。即ち、ある温度で急に液状になるということはない。冷やすとその形を保ちながら収縮する場合が多い。
 普通の人が想像するプラスティックはこれに類する挙動を示す。これを「流れる固体」と称する場合がある。常温では固体のようにふるまうが、大きな力を掛けると少しずつ変形する。温度を上げると見るからに流体であるが、低温ではその粘性が極端に大きく、固体に見える。このようなものを台車に使うとどうなるだろう。長い年月が過ぎると、台車は少しずつ撓み、ボルスタは線路面まで下がるだろう(いわゆるクリープが起きる)。
 常温でその粘りけが無視できるくらい固いもので作ったものが、いわゆるプラスティック・モデルである。これは夏の暑い日でも垂れてくることはない。しかし力を掛けていると徐々に変形するはずだ。80 ℃以上ではくたくたになることがある。それには、ポリスチレンという樹脂が使われている。
 軽い物なら良いが、重い物を支えると変形するわけである。また、温度を上げて200 ℃以上にすると極めて流動しやすくなり、ポンプで型に押し込むことができる。これが injection mold 射出成型 だ。非晶性のものは高分子の側鎖が大きく、お互いに近づきにくいものが多い。たとえば、ポリスチレンでは大きなベンゼン環が飛び出していて、邪魔をしている。より耐熱性を持たせたものはABSである。

 ここまでを読むと、不思議な気がするに違いない。HO、N のプラスティック車輛にはABSが使ってあるが、へたっているようには見えない。
 それは車重が小さく、目に見える変形を起こすほどの力が掛かっていないからである。しかし、何十年何百年も経てば少しずつ変形するはずである。しかし、人間の寿命はそれほど長くはないかもしれないから、それで良いことになっているわけだ。しかし、早く変形する模型もあるだろうし、長生きする人もいる。また、エアコンのない部屋に放置するということもあるかも知れない。

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2020年02月09日

sealed beam

 シールド・ビームという言葉とC62とが結びつく人は、60歳以上かもしれない。北海道に渡ったC62は、シールド・ビームを補助前照灯として付けていた。常磐線のカマも一部付けていた。

 シールド・ビームは、既に、あまり使われない言葉になってしまった。自動車のヘッドライトには必ず使われていた時代があるし、電車その他の鉄道車輛にも全面的に使用されていた時期がある。現在はHID か LEDになってしまったから、自動車のヘッドライトは、自由な形にできる時代になった。

 歴史を繙いてみると、アメリカでは1940年から、シールドビーム化が始まった。交通機関の車輛にはこれを使わなければならなくなったのだ。既に設計が始まっていたものには猶予されたらしい。即ち戦後製造されたものには、ほぼ全部に使われている。1980年代までその法律は生きていて、シールド・ビームの種類が限られているから、自動車のヘッドライト周りはその形が限られていた。即ちデザインの自由度が、かなり制限されていたのだ。 
 筆者は70年代にアメリカに居て、それに気づいた。どうして車の前頭部がもう少し形の良いものにできないものか、と知人の自動車業界人に聞くと、シールド・ビームの形が決まっているからだということが分かったのだ。

 シールドビームはレンズ、反射鏡付き電球である。ガラスの枚数が一つ少ないし、その間に埃が溜まることが無いので光量が増す。しかし、ハロゲン電球を使えば、より効率が高くなるので、シールド・ビームの利点は意味がなくなる。
 ハロゲン電球は、フィラメントと電球のガラスとの距離がある程度小さくないと意味がない。ガラス面が350 ℃くらいになると、蒸発したタングステンが再度戻って来るようになっているのだ。このあたりのことは、化学熱力学の良い教材となる。
 即ち、小さなハロゲン電球とレンズ、集光鏡、プリズムとの組み合わせになった。そうすると対向車に対する減光をせずとも、確実な遮光により、目眩みを低減できるようになった。これは自動車の話であるが、鉄道でもある程度は共通する。

 鉄道車輛においては、今までの径のヘッドライト筐体を使おうと思うと、2つの電球が入る。NYCのナイアガラは水平に2個入れている。縦の配置の機関車もある。縦横はどうでも良いので、今回製作の機関車では縦にした。小さなLEDを二つ並べた。電球色なのだが、色が白っぽい。本当はシールド・ビームの色温度はやや低いので黄色っぽくなければならない。何かで色を付けてみるべきかもしれない。

 以前 Big Boy の前照灯切れの話を書いたが、ディーゼル電気機関車のシールドビームはとても切れにくくなったそうだ。しかも2つあるから、片方切れてもすぐには取り替えなくて良いのだそうだ。

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2019年12月05日

japan

IMG_20191204_0002_page-0001 japanとは何を意味するか。大文字ではない "j" で始まるのが、今回の題材である。
 chinaは陶磁器なら、japanは何だろう。常識的には漆(うるし)であろう。

 Union Pacific 鉄道 の古文書を漁っていて、見つけた。1930年頃の客車の内外装に関する文献だ。BURNT SIENNA IN JAPAN とか DARK OLIVE IN JAPAN という名前でそこら中に出て来る。

 Siennaはイタリアの地名で、トスカーナ地方の都市である。地面の色は鉄の酸化物のせいで赤っぽい。それを焼いたものは赤褐色の顔料である。それを漆に分散させたものを使っていたことになる。
 vehicleという言葉が見える。これは乗り物という意味で使う場合が多いが、何かを乗せているもの、即ち溶かしているもの、分散媒という意味である。ペンキで言えば、顔料を沈まないように分散させている油である。1920年代に、漆がそんなにアメリカに輸出されていたとは知らなかった。

 漆はもともとの色があり、他の色の顔料を混ぜて色を出すのはかなり難しかったはずだ。筆者が知っているのは、昭和の初めにレーキ顔料(アルミニウム水酸化物などと共に沈殿させたもの)を混ぜる技術が見つかって、黒、赤以外のものができるようになったことだ。それが同時にアメリカの客車の塗料に使われていたとは驚いた。漆の持つ艶、耐久性が評価されたのであろう。

 この古文書は、蒸気機関車の塗装の変遷を調べるために手に入れたもので、いずれ発表するが、いくつか思わぬ発見があった。

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2019年07月02日

エア・コンプレッサの出口

 梅雨時は湿度が高い。当然のことながら、空気を圧縮すると、その中に含まれる水が凝縮する。この記事を読んで心配になって、連絡した。理屈はよくわかっていらっしゃる方なので、問題はなかったが、もう少し広く知らせておかねばならないと思い、記事を書くことにした。水滴を含む空気が噴出すると、塗装面は悲惨な状態になるだろう。

 ほとんどの方は、飽和蒸気圧という概念をよく理解していないだろうと思われる。飽和蒸気圧は温度のみの関数で、その数値以上の蒸気圧は存在しないから、それ以上では、水は凝結する。これは梅雨時だけではない。真冬でも十分に凝縮する。

 例えば、大気圧で 27℃、湿度92%の空気には 25 mmHg の水蒸気が含まれる。それを圧縮して4気圧(圧力計の読みでは、最初が0気圧だから 3気圧)にすると、仮定される水蒸気圧は 100 mmHgになる。そのような状態は許されないので、27℃ での許される値、27 mmHg になるまで凝縮する。
 こう書くと、何だ簡単じゃないか、水滴ができて水が取り除かれたんだ、と思う人は多いが、実際にはそれ程単純ではない。

 気体を圧縮すると熱くなる。物理の時間にその理屈は習うだろう。分子の運動エネルギが増大するのだ。即ち、温度はかなり高いので、凝縮する量は僅かである。
 蒸気機関車の空気溜めの前の蛇管は、その熱い空気を冷やすためである。空気溜めの温度はなるべく低いほど良い。こうして、中には水が溜まる。仕業検査の時には、空気溜めのドレン・コックを開け、水を抜くのは当然である。凝縮水は、油とともに噴出する。

 塗装をされる方は、コンプレッサは買ってもエアタンクを持たない人が多い、と聞く。それは決して良くない。エアタンクは圧力の脈動を防ぐためと思っている人が多いが、実際は、水を分離するために必要である。
 連続使用するとタンクも熱くなるので、扇風機で冷やすのも手だ。途中のパイプを水冷(できれば氷冷)すると完璧だ。

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2019年06月30日

Signal Red

UP cabooseSignal Red カブースの手摺り、はしご等は赤の警戒色に塗られている。この色が、日本で売っている塗料の中には見つからない。
 20年ほど前、赤の塗料をいくつか買って、条件を整えて色見本を作った。ある程度の面積を持つもの、線に塗ったものなどの見え具合を調べた。どれも不合格であった。昔撮ったコダクロームのスライドと比べると、その色は微妙に違ったのだ。
 この色は単純な赤より、僅かに橙色に寄っている。黄色を混ぜると、明らかに彩度が落ちるのが分かるから混合色ではだめだ。単一物でこの色を持つものは、一つしかない。

 Floquilの Signal Red という色がある。この色はずばりである。30年前、本物のカブースの廃車体から、塗料を削り取って、分析に掛けたところ、カドミウムが入っていた。カドミウム・レッドだ。カドミウムの硫化物 カドミウム・イエロゥ は黄色で、道路の追い越し禁止表示に使われていた。カドミウムと、硫黄の同族元素のセレンとの化合物は、この特徴的な赤を作り出す。陽に当っても褪色せず、その顔料がある限り、鮮やかな赤を示す。このフロクイルの塗料はカドミウム・レッドを含み、貴重なものであったが、もう手に入らない。

brake handlebrake handle24017_Backhead_20040426 UPの蒸気機関車のあちこちのハンドル類にはカドミウム・レッドが塗られていた。筆者が所蔵しているBig Boyのブレーキハンドルにも、塗られている。5枚目の写真はWikipedia からお借りしている。日本でも明治・大正期の一部の機関車には赤いハンドルがあったそうだ。

 最近はドイツを中心に広がった下らない環境保護団体の活動のせいで、カドミウムを使うことが禁止されてしまった。カドミウムは摂取してはならない、と主張している。本当にカドミウムが全く入っていない物しか食べなければ、人間は発育不良になる。カドミウムは人類にとって、微量必須元素である。あちこちで使われたものは、少しずつ溶けて現在の日本がある。
 道路の黄色の線の色が、最近は少し変わってきたことに気が付かれた人も居るだろう。有機物になったのだ。そうなると、徐々にカドミウムの不足が顕著になるだろう。筆者はいずれ、「カドミウム強化米」というものが発売されるとみている、というのは悪い冗談だが、決して起こりえないことではない。カドミウムは骨の中のカルシウムの代謝には必要なのである。多すぎるといけないが、なくては困るものなのだ。

 シグナル・レッドの残りが少ない。アメリカの市場でも枯渇している。なくなれば自分で顔料から作るしかない。あるいは油絵具から抽出することになる。

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2019年03月24日

大陸横断鉄道?

 仕事があってアメリカに行った。その後、フロリダの友人を訪ねた。建設中のレイアウトを見せて貰いがてら、しばらく居候する予定であった。
 日程調整をしていたら、メイルが来て、
「友人がキャンセルした。興味があればクルーズに行かないか?大陸横断鉄道を見よう。全線を1日で見られるんだぞ。」
と言う。筆者はクルーズなどには縁がなく、どんなものか見当もつかなかったが、破格の価格らしいのでOKし、パスポートのコピーを送り、飛行機の切符を押さえた。
cruise ships 結局、友人宅には1泊させてもらっただけで、港に行った。大きな船が4隻も居て、その中の最大の船に乗った。
 排水量は8万トンだという。乗客は2100人、乗員は800人だそうだ。船は巨大で、先回見た空母よりはるかに大きい。中は11階建で、劇場、プール2つ、食堂5つ、バー4つ、カジノ、テニスコート、ヘリポートその他なんでもある。エレヴェータは客用だけで14本ある。船内を一周するだけで1日掛かりである。
 食事はピザから中華料理、フランス料理のフルコースまで何でもあり、殆どが運賃の中に含まれている。酒類は注文して後日清算である。

 驚いたのは水がいくらでも使えることである。昔の客船は、プールがあってもその水は海水であったそうだが、これは真水である。船内で、海水から水を作り出しているのである。蒸発凝縮をさせるのではなく、逆浸透という方法であって、前者の1/80のエネルギィで作れる。
 トイレは飛行機のような真空吸引型で、食堂、洗濯室の排水と同時に船内の浄化槽で生分解して放出するらしい。

 表題の大陸横断鉄道については、最初、全く意味が分からなかった。それは彼の謎かけであった。さて何であろうか。

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2018年12月09日

反応速度

 寒くなってきた。暖房を入れるのだが、経費節減で、一人で作業している時はエアコンを作動させない。木工作業など、体を動かす時は、多少寒いくらいの方が効率が良いこともある。

 接着剤の硬化速度が明らかに小さくなる。エポキシはもちろんのこと、木工用の接着剤も固まるのが遅くなる。木工用は夏なら、3時間で接着完了であるが、5時間は見なければならない。スーパーXも固まりにくい。

 二液エポキシ接着剤は多用しているが、5分間型でも10分ほどは固まらない。working time (ずらしたりすることができる時間)が長いので、一度に作業する量を二倍程度にすることができる。 ある意味では都合が良い。
 ワーキング・タイムが長いものは木材には適する。繊維の間に浸み込んで硬化するので、非常に強く付く。

 反応速度は常温付近では、10度違うと2倍程度になるというのが化学の常識である。今日は 13 ℃であった。いつもは 24 ℃ほどであるから、ちょうど2倍程度の時間が掛るということだ。

 エポキシ接着剤を塗り、ワークを置いてテープで仮留めをする。ゆがんでいないことを確認して、重しを載せたり、クランプ締める。戸締りと電源Offを確認して帰宅する。翌朝になれば固まっている。


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2018年09月16日

ダイヤモンド・ホィール vs. 鋼

 最近はダイヤモンド工具が安い。百均の店に行くと様々な先端工具がある。さすがにダイヤモンド・ホィールは見たことが無いが、通販で購入すると安くて驚く。

 鋼材(鉄合金)をダイヤモンドホィールで切る話を、時々ウェブ上で見かけることがある。ご本人は気が付いていないようだが、あまり感心しない話である。ダイヤモンドは鉄と反応するからである。高温では炭化鉄になってしまう。

 例えば、モータのシャフトを切る時、ダイヤモンド・ホィールの直径を測定してから切ると、切断後少し小さくなっていることに気が付く。減るのは当然だと思う人もいるが、切断砥石を使った時は減り方が少ないはずだ。しかも速く切れる。

 ダイヤモンド・ヤスリで鉄合金を削るのはダメなのかと聞かれることもあるが、それは構わない。要するに温度が問題なのだ。赤熱したり、火花が散っているようではいけない。ヤスリ掛けでは、そんな温度にはならないから問題ない。

 旋盤でダイヤモンド工具を使う人は、アマチュアではいないだろうが、ゆっくり廻す分には問題ない。ダイヤモンドは熱伝導率が極めて大きいので、赤熱することはないはずだ。余談だが、こんな事例がある。

 そんな大きなものは持ったことは無いが、ダイヤモンドの薄板を温かい指で挟んで、氷に触れさせると、氷は融けてダイヤモンドが食い込んでいく。指は冷たさを感じる。ダイヤモンドは金属よりはるかに熱を伝えやすいものである。


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2017年08月29日

帰国

 歳を取ってくると、外国に行くのがだんだん億劫になる。時差の調整が難しくなるからだ。今回のアメリカ行きでは3つの仕事があったが、うまく、ひとつながりに出来たので、時差の影響を最小限に出来た。
 レンタカーは3回借りて、合計1万キロ走ったことになる。テキサスの友人宅には1週間も居候し、あちこちのレイアウトを見て、楽しく過ごした。帰国直前にあった皆既日食も、日本からの来訪者を交えて、最も皆既食の長い場所(イリノイ州マリオン)に陣取り、堪能した。

prominence 皆既食は初めての経験であったので、いくつか面白い経験をした。まず、太陽からの輻射が極端に減ると、気温が、かなり低下する。食が始まってしばらくすると、太陽が半分くらいしか見えなくなる。今まで炎天下で焼けていた車の表面を触っても、気温ほどになり、熱くない。3/4ほどになると、車は冷たい。明け方に車を触ると冷たいのと同等の温度である。多少暗くなっても、人間の目にはあまり暗くなったとは感じないが、輻射は確実に減っているのだ。
corona 皆既食になった瞬間、星がいくつか見え、周りから大歓声が起きた。地平線が見えるような平らな場所だったので、周囲360度が黎明時のようになり、地面に沿った部分だけがわずかに明るかった。気温が急速に下がり、夜中のようであった。

 何らかの原因で日照が減ると、寒冷化する。過去の地球の歴史の中で、火山の爆発などで粉塵が多量に巻上げられた場合、その後の何年かは氷河期のようになる。現在温暖化しているのは太陽の活動が活発化しているのが原因で、二酸化炭素濃度とは関係がない。1億7千年ほど前には、二酸化炭素濃度は現在の2倍以上もあったことを示す化石が見つかっているが、当時の気温は現在よりはるかに低かったことが別の化石で証明されている。

 良識ある科学者はそれを主張しているが、政治家には科学者が少ないらしく、世界中で詐欺同然の二酸化炭素排出権の売買が行われている。一番得をするのは誰かと考えてみれば良い。それは国土面積の大きな国で、人口密度が小さい国だ。ロシアは、黙っていても金が入る。概算だが、日本は過去に17兆円ほどドブに捨てているようだ。
 二酸化炭素は空気中に0.038%ある。それが0.039%になったとして何が変化するのだろう。10万個の粒子のうち38個が、39個になると大きな変化が起こると思う人が居るのだろうか。コメ粒で考えれば、そのような差は全く認識できないと考える人が普通だ。
 二酸化炭素の濃度が今よりはるかに少なかった産業革命初頭でも、小氷河期と温暖期が何度も来ている。これも温暖化ガスの考え方では、全く説明はつかない。

 一つだけ確実に言えることは、二酸化炭素濃度が増すと、穀物の収量が大幅に増える。ある資料によると、コメは二酸化炭素濃度が現在の値の0.1%増大で、収量は1%増す。これは喜ばしいことではある。日食のあと、このようなことを考えていた。

 留守中、拙ブログを読みに来て下さる方が、一定数いらっしゃることに気が付いた。いつもの6割ほどの方が、いらっしゃる。その数はほとんど一定であることは興味深い。pv(ページ・ヴュウ)ではなく、uu(ユニーク・ユーザ)の数を話題にしている。pvは機械的に処理される数だから、参考にはならない。一文字更新しただけでも、2倍以上にも増えるものだ。pv数が多いと言って喜んでいてはいけないのだ。uuの数を話題にしているウェブサイトは少ない。

 写真は Dr.T.S 撮影 

2017年07月05日

ハンダ付けとフラックス

 台車の内側でハンダ付けする必要があった。すでに車輪が付けてあり、外すのがとても面倒である。薄い板バネに中間車軸のキャノン・ボックスを付けねばならなかった。こういう時は、フラックスが間違って飛散する事からの防護をしなければならない。濡れタオルでマスクする方法もあるが、狭いところでやや困難である。飽和溶液を使って炭素棒で加熱すれば全く飛ばさないでもできるが、この場所ではそれが使えない。間違って飛散させて仕舞う可能性だってある。

 こういう時のための秘策がある。僅かの塩酸が入ったタイプのフラックスがある。それを少し塗りつけてしばらく待つ。30秒も経てば、塗った部分の色が変わる。ブラスが溶けているのだ。高校の教科書には、塩酸は銅を溶かさないと書いてあるが、それは試験管中での話だ。空気中ならよく溶かすことができる。薄い塩酸に酸素が溶け込み、酸化剤として機能する。酸素の働きであるから、少し息を吹きかけると、さらに反応速度が大きくなる。塩化水素は薄い水溶液からは蒸発しにくいから、臭いもない。

 そこでフラックスをティッシュに浸み込ませて取り除く。そこにコテで融かしたハンダを触れさせると、ハンダはフラックスを塗ったところだけに、薄く広がる。要するに、ハンダめっきをすることができる。この時、フラックスはほとんど残っていないので、飛散することはないと考えて良い。

 コツは薄く塗ることである。薄いと、酸素がよく届く。事前に金属表面の酸化被膜は軽くヤスリを掛けて除いておくことは不可欠だ。ティッシュで液体を取り除いてから、時間を置いてはいけない。30秒以内が良い。ティッシュは直接ごみ箱に捨てないでとっておき、あとで水ですすいでから捨てる。含ませたまま乾かすと、塩化水素が逃げやすく、周りの何かが錆びやすくなる。

 相手にもハンダめっきしておいて、重ねてコテを押し当てると、ハンダ付けは完了だ。ごく微量のフラックスが付いているので、さっと水洗いすると終了である。ボールベアリングを付けたまま洗っても、潤滑油があるので、水は浸み込まない。すぐに水を切り、タオルで水を吸い取って、強い風を当てて乾かせば良い。

 この方法をお試しあれ。図面を広げた上でハンダ付けしても安全である。


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2017年02月25日

顔料

UP caboose このところ、黄色塗料の使用頻度が多い。この色だけは、フロクイルの塗料に敵うものはない。隠蔽力が抜群である。一回塗りで、下地の色を完全に隠せる。
 隠蔽力は、顔料粒子の屈折率の大きさに関係がある。ダイヤモンドが良く輝くのと同じで、屈折率が高いものは隠ぺい力が高い。この色は硫化カドミウムの色である。カドミウム・イエロゥだ。クロム・イエロゥ(クロム酸鉛)とは少し色調が異なる。

 最近カドミウムに対する風当たりが強く、多分そのせいでフロクイルは廃業してしまった。飲むものではないのだから、問題ないのだが、風評というのは恐ろしい。化学への理解がない人はカドミウムという言葉だけで悪いものと決めつけている。硫化カドミウムはほとんど水に溶けない。
 こう書くと、「少しは溶けるのではないか」と勢いづく、いわゆる自称環境保護派の人が多いが、その程度の濃度は生物にはむしろ必要な濃度である。カドミウムは人類にとって不可欠元素であることを知らないのだ。これはカルシウムの代謝に大いに関係がある。カドミウム濃度が高いと、異常を起こし、骨折の原因になる。これがイタイイタイ病であった。
 それはカドミウムイオンが水に溶ける形で流出したことによるものであって、硫化カドミウムとは直接関係がない。硫化カドミウムは酸にも溶けにくいので、酸性雨の降る環境でも安全である。厳密にカドミウムを制限するのならば、道路の黄色の線にも硫化カドミウムを使うことを反対するべきなのに、それは誰もしない。ドイツはそうしているらしいが、結果として間違っている。 

ATO-912-1-2 次はこれを塗ろうと思っている。この写真はAtlas社のカタログからお借りしている。ディカールはかねてより用意してある。他にも5台のゴンドラ(無蓋車)が待っている。 

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2017年02月15日

EJ&Eのboxcar

EJ&E2 この貨車の色について画材屋で調べたところ、ぴったりの色があった。
 viridianは緑の顔料である。水酸化クロムのことだ。クロムと言っても、3価クロムで、安全である。
 昔のペンキの顔料は特定の色しかない。それを混ぜて使うこともあるが、概してそのままを塗っていた。南海電車の緑は、まさにこの色である。

EJ&E ビリジアンの顔料を手に入れなければならない。なければ作るつもりだったが、友人が「『ガイアカラー』という塗料は純色と言っている。要するに単色の顔料だけの塗料ではないか。」と言う。
 早速買ってきた。試し塗りをすると近い色だ。修正を施す必要はなく、そのまま塗っても良い範囲にあると結論した。

 思い切って既存の文字、図案だけをマスクして塗った。結果は上々で、艶だけが異なる。
 後で適当に艶を消し、軽いウェザリングを施せば、十分である。Harmonのところから来たときは、どうなるものかと心配したが、意外と簡単な方法で解決した。
 本物の色はかなり褪せて、白く見える。それもよいかもしれない。この貨車が、当鉄道で最後のアサンの貨車である。厳密にいうとAthearnタイプである。製造はシカゴのオール・ネイションである。この種の模型は戦前からあったのだが、それを洗練した形にまとめたのがアサンである。
 木箱の表面(屋根、妻、側面)に薄いブラスの板を貼り付けて作られている。触ると冷たくて、金属の触感がある。木箱はすべて長持ちするエポキシ樹脂で固めてあるから、100年以上持つであろう。もともとの設計では側板などを細い釘で留めるようになっているが、徐々に緩むことが多いので、スーパーXで貼り付けてある。十分な補重がしてあるので、走りは重厚である。 

 EJ&EはElgin, Joliet and Eastern鉄道である。シカゴの内部を通らず回り道をすれば、却って早く着くという路線だ。Harmonにとっては思い出深い鉄道であったと思う。だからこそ早く色を塗って、奥さんに報告したかったのだ。上記リンクの写真は昔の色の機関車で、現在はオレンジ一色である。

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2016年08月21日

Russian Iron の表現

 この方法は膜が薄いところが良い。電着した膜は加熱によって硬化させる。おそらく、熱硬化性樹脂(エポキシ系か)を用いている。低温ハンダを使うと、ばらばらになるかもしれない。
 常識的にはマイナス極に析出させるはずだ。陽極には溶けにくい金属が良いが、ステンレス板で十分だ。電圧はそれほど問題にはならない。適当に調節すればよい。模型用の電源で十分だ。電流は少ない。

 この方法では、色が自由に選べるので、黒染めの代用になるかもしれない。あらかじめニッケルめっきを施すと色が良くなるだろう。アメリカの機関車の一部にはラシアン・アイアン風の緑色のボイラ・ジャケットがある。それも簡単に再現できるはずだ。 

 先回の黒い被膜の機関車も、この方法で仕上げる方法が可能だろう。 塗装に依らない機関車の仕上げの時代が来るかもしれない。
 HO以下のサイズなら、全体を容易に液の中に沈める ことができる。凹凸があると、凹んだ部分は電界が小さくなるので、やや不利だが、それも工夫によって克服できる範囲にあるとみている。相対する電極をとがらせて、その近くに持って行けばよいのである。電界を狭い範囲だけ大きくするわけだ。

2016年08月17日

Russian Iron

Greenfield Village (10) ラシアン・アイアンの処理の仕方の説明を探しても、なかなか見つかるものではない。もうすでに誰もやっていないからだ。
 博物館での再生処理は秘伝の方法でやっているのだろうが、公表されているとは思えない。 古い文献を当たると、それらしいものが見つかる。
 筆者の祖父が使っていた金属便覧昭和25年版には、 400 ℃ で融解した硝石(硝酸カリウム)に清浄な鉄板を浸すと書いてある。
 硝酸カリウムの融点は 333 ℃ だから、それほど高くない。ハンダごての先の温度のほうが高い。るつぼに硝酸カリウムを入れて融かし、磨いた釘を入れると確かに酸化被膜が付き、青みを帯びた艶のある被膜ができる。高温の硝酸カリウムは徐々に分解して酸素を放つので、それが鉄に結び付くのだ。
 しかし、これを大きな鉄板に施そうと思うとなかなか大変だ。どういう装置でやっているのだろう。 
 
 出来たものを、油を付けてぼろきれで磨くと、さらに艶が出る。青い色は干渉膜の色だろうから、削らないように拭く程度だろう。昔の機械式の掛時計のゼンマイ・バネの色が近いが、あれはすぐ錆びてしまう。おそらく、緻密な膜ではないのだ。その点、ラシアン・アイアンは屋外で使っても大丈夫だ。

 模型に塗ってあるのをたまに見るが、艶消しになっていることがある。これは明らかな間違いだ。本物はピカピカだ。そうでないと錆びてしまう。塗装で再現するのは難しいが、銀塗装して磨き、さらに透明青塗料を掛けるぐらいしか思いつかない。プラスティック模型の世界には達人がいらっしゃるだろうから、テクニックを紹介してほしいものだ。

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2016年05月26日

oil stain

 オイル・ステインが浸み込んだぼろきれは、丸めておくと、とても熱くなる。要するに、空気と接触させて酸素が十分に溶け込んだ状態で表面積を減少させるから、熱が閉じ込められる。
 オイルステインの主成分の不飽和脂肪酸を含む油脂は、酸素と結合し、樹脂化する。その反応は、発熱的(exo-thermic) である。拡げてあれば、酸素はよく化合するが、その時発生する熱は逃げやすい。丸めると、中の熱は逃げられない。

 実際にやって、この現象を確認した。30分くらいでぶすぶすと煙が出てくる。発火するまでには至らなかったが、周りに燃えやすい物があれば極めて危険だ。アメリカの家具屋で見ていると、そのぼろきれをすぐに水に漬ける。たくさん溜まると拡げて乾かし、燃やしてしまう。砂漠の中であるからすぐ乾いた。
 一回ごと燃やせばよいのにと思ったが、油で濡れたものを燃やすと、炎が大きくなって危険なのだ。

 日本でこの種のオイルステインをあまり見ない。塗料と異なるのは顔料粒子の大きさと、fillerと呼ばれる塗膜構成剤の有無である。フィラは塗膜の厚みを作り出し、その膜内で顔料が特定の波長の光を散乱して色を出す。いわゆるペンキにはフィラが大量に入っている。ステインにはフィラが無く、顔料粒子だけになる。たまに染料も含まれている。binder 固着剤はフィラおよび顔料を固着させるもので、油脂や各種の合成樹脂等が用いられる。

 シンナに顔料を分散させることができたとしても、それを塗ると顔料が相手に載るだけで、触れば落ちてしまう。それを防ぐために、オイルステインにはバインダとして、酸素と反応して樹脂化する油脂を薄めて用いている。塗ると、揮発成分はすぐに蒸発し、残留した油脂が徐々に固まっていく。

 オイルステインだけしか塗っていない家具は肌触りが悪く、また、汚れが付きやすい。その上に厚い塗膜を構成するワニスを塗れば、美しい家具となるわけだ。 我々の使う枕木は触る必要もなく、艶消しのほうが良いので、上塗りをする必要はない。

 日本製のオイルステインは、油脂分が少なく、合成樹脂を主体としているらしい。すなわち、火事にはなりにくいようだ。

2016年04月30日

ハンダ付けフラックス

 先日の記事で、飽和溶液を使うと跳ねないということを書いた。我が国では薄めて使うのが常識になっているようだ。

 40年ほど前、ある実験で、筆者は何を熱媒体とすべきかを調べていたことがある。例えて言えば、鍋の中に加熱したいものを入れて直接煮るのではなく、何かの液体を入れて、二重鍋で間接的に加熱する方法を調べていたのだ。
 水では100℃で沸騰が起こる。てんぷら油では200℃くらいまでは平気だ。それ以上になると、あまり良いものがない。危ないが、濃硫酸を熱媒体に使うと、300℃まで大丈夫だ。もっと高い物は、ハンダなどの熔融金属を使う。その中で塩化亜鉛飽和水溶液が320℃まで大丈夫だという文献を見つけたのだ。やってみると本当に沸騰しないが、ガラスのビーカはその温度では少し変形した。

 ハンダ付けは実質的に300℃以下で行われるから、跳ねないハンダ付けができる。ハンダは金属の隙間を埋め、完璧に付く。洗うのは水中で歯ブラシでこすれば完璧だ。飽和溶液は空気中の水を集めるから、徐々に薄まる。だからこそ結晶が下に沈んでいる上澄みを使うのだ。小さいスポイトを使って吸い出す。

電気機関車の作り方 このコピィは、山北藤一郎氏の「電気機関車の作り方」という本の一部である。水で薄めている。塩酸に金属亜鉛を溶かしているから、飽和溶液にはならない。そのままでも薄いが、さらに薄めてしまっている。
 どうもこの辺に薄めるという操作のルーツがありそうだ。いろいろ調べているが、濃いのを使うという記事はまず見ない。
 

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2016年04月06日

続 ハンダ付け用フラックスの仕組み 

 最近は塩化アンモニウムを含むものが出てきた。筆者はこれを入れることもあるが、入れないことの方が多い。塩化アンモニウムは分解しやすい化合物である。加熱によって200 ℃以下で分解してアンモニアと塩化水素になる。アンモニアは50℃以上では水の中に溶けていられないので、すぐに放り出される。すなわちアンモニア臭がする。アンモニアの分子量は小さいので、直ちに拡散し、どこかに行ってしまうが、臭うこともあるだろう。

 化学式を出すと拒否反応を示す人もいるので、日本語で説明する。

  塩化アンモニウム + 水   ⇄   塩化水素 + アンモニア↑

という、どちらにも進む反応(化学平衡)がある。高温ではこの平衡が右にずれる。そうすると、ガスが発生して(↑で示している)右辺の物質がなくなるので、右辺の物質(ここではアンモニア)を生み出す方向に平衡が移動せざるを得ない。すなわち塩化水素が生成するのでハンダ付けが容易になる。
 
 残った塩化水素は先回の説明のように、金属表面をきれいにするが、多少はガスになって飛び出す。すなわち、外でやるべきだ。室内では包丁が錆びたり、アルミ・サッシュが傷む元になる。塩化アンモニウムが入っているものは、とにかく多少臭う。 

 面倒なことをたくさん書いたが、塩酸の代わりにあまり臭いがしないものを使っているということである。
  

2016年04月04日

ハンダ付け用フラックスの仕組み

 今野氏のブログでフラックスの話が出た。ご指名で少し解説をさせて戴く。
 
 ハンダ付けをするには新しい金属面を出さねばならない。そこに融けたハンダが接触すれば、合金化が起こり、金属結合ができる。以前にも書いたが、それはアメルガメイションであり、スズ特有の性質を利用している。
 新しい金属面が出ればハンダ付けが可能だから、酸化されやすいアルミニウムもハンダごての先でがりがりと擦れば、ハンダ付けが可能である。もちろんこの操作は融けたハンダの池の中で行わねばならない。すべての面を均等に擦って新しい金属面を出すのは、かなり難しい。そこで超音波などを当てて、酸化被膜を壊すわけだ。工業的にはこの方法を採っている。

 相手がブラスや鉄の場合には、ある程度の酸化被膜を取ってから、フラックスを塗ると、酸性であるから酸化被膜が溶ける。そういう意味で、塩基性のフラックスは考えにくい。通常の金属の中では、亜鉛、スズ、鉛程度しか塩基と反応するものは無いし、その反応速度も極端に小さい。

 プロは塩酸(塩化水素という刺激のある酸性の気体を水に溶かしたもの)を用いる。塩化水素という気体は水分子と強く結びつくので、 塩酸は高温でも塩化水素がかなり逃げ出しにくい。 しかし多少は飛び出してあちこちの金属類を錆びさせる。塩酸は金属酸化物をよくぬらし、ハンダが浸み込むのを助ける。
 塩化亜鉛はどうだろう。塩化亜鉛の飽和水溶液は、その沸点が300 ℃を超える。ということは蒸発しない。これを用いれば、ハンダ付けの時に飛び散ることがないはずだ。塩化亜鉛はわずかに加水分解して、酸化亜鉛と塩酸になる。このうちの塩酸がフラックスの効果を発揮する。酸化物を溶かして、新しい金属表面を出すのだ。塩化水素は少量しか発生しないし、直ちに金属酸化物と反応するので、飛び出す量は少ない。すなわちあまり臭いがしない。

 ここで大切なのは飽和溶液を使うことだ。ほとんどの方は薄めて使うとおっしゃるが、本当はそれは正しい用法とは言えない。 結晶が沈んでいる上澄みを使うのが良い。少量でよいのだ。薄めたものは沸騰するから、ビチビチと飛び跳ねて、周りのものが錆びる。沸騰して水が飛んでいくと、飽和溶液になって安定化する。すなわち薄めると、大半が無駄に飛んでいくのである。飽和溶液を使うと、跳ねないことに気が付くだろう。
 しかし、場合によって弾かれてしまうことがある。それは下地処理が不十分なのだ。界面活性剤(要するに洗剤)を少し足すと、ぬれを良くするから、フラックスが良く付着するようになる。筆者はトイレの酸性洗剤を一滴足すが、これは妙な香料が入っていて、臭い。
 筆者は、塩化亜鉛を使うハンダ付けする時は必ず外のデッキの上でやる。家の中でやると、鉄レイルが錆びる。         

2016年03月31日

track cleaning car

track cleaning car 線路が微妙に汚れてきた。なんとなく粘りのある汚れが付いている。おそらくハンダ付けの時に発生するフラックスのフューム(煙霧)だ。ヤニ入りハンダを配線の時に使う。空気の流通を良くして行うので、その時に発生する煙の大半は外に出されるが、完全ではないのだろう。
 こういう汚れを取るにはリモネンに敵うものは無い。リモネンはテルペンといって、植物の樹脂を作る基本成分の分子である。厳密に言うと、リモネンはその基本成分の分子が二つからなる。ヤニはかなりの数の分子が重合したものである。構造が似ているので溶かしやすいのである。

track cleaning car 2 リモネンをレイルに塗って汚れを取るには、この track cleaning car を用いる。ペイント・ローラを切ったものを用意し、中に錘を入れる。筆者は大きめのナットを入れる。その時、回転しにくいように軸と直角方向に、その軸を向ける。 転がすと、中で「ドテドテ」とナットが踊るのが良い。アメリカでは鉛の散弾を入れる人もいるし、もう少し細かいネジ(雄ネジ)を入れる人もいる。要するに、簡単に転がってはいけないのだ。
 この筆者の例では、押すとローラが多少滑っているようだ。これぐらいが良い。

 機関車の前に置いて、リモネンを10 mLほど垂らして、ローラを濡らす。機関車で押すと、レールが濡れているので激しくスリップする。すなわち、動輪もきれいになる。一巡りすると乾くが、またローラがリモネンを塗りつける。これを数回繰り返すとローラはかなり汚れてくる。濡れているうちに、洗浄スプレィで汚れを落としてしまう。新聞紙に汚れた液を落とし、それが蒸発した跡を見ると、茶色の粘りのあるものがついている。

 リモネンが良いのは、毒性が事実上無いというところだ。多少なら飲んでも問題ない。ミカンの皮の油だ。子供の頃、これを手に塗ったことを覚えている。これを付けると輪ゴムがクタクタになった。ゴムと共通の基本成分を持つからである。

 線路が綺麗になると、走行が安定する。サウンド装置の音も良くなる。レイアウト全体が、さわやかなオレンジの香りで包まれる。

2014年05月15日

ハンダゴテの手入れ

 昔、ハンダゴテはアカエというブランドのものを使っていた。剣先型の鏝であって、使っていると先の方のハンダが付いているところはよいが、その直後の部分が極端に錆びて細くなった。仕方がないのでそこで切り落し、全体を成形して使った。その時、虫眼鏡で見て驚いたことに、鏝には無数に細かい穴があった。

 父が言うには、「安物のコテは銅鋳物のコテ先だからス(鬆)が入っている。それを叩き潰さねばならない。」ということで、「貸してみろ。」と取り上げられた。

 火鉢の炭で焼いて還元し、金槌で丁寧に叩いた。そしてまた加熱して叩いてを繰り返した。その処理をしたコテは長持ちした。
「プロ用のコテは銅の角材から作っているから、持ちが違う。」と父は言った。「しかも炭壺に突っ込んでいるから、いつも還元されているんだ。」

 その後塩化亜鉛をフラックスに使うようになると、またもや尖端のハンダが載っているところは良いが、その直後が錆びやすかった。キノコのような形だ。どうやら保管中に錆びるようだった。塩化亜鉛の溶液が付いているからだ。塩化亜鉛は潮解性であって、湿気を寄せ付けいつも湿っているから、錆びてくるのだ。
 しかし水洗すれば簡単に取れる。試しに洗ってみたところ、錆びはほとんど完全に防がれて、コテ先が細くなることもなくなった。

 ハンダゴテは抽斗にしまいたいのだが、熱いと待たねばならない。水道の流水で洗うとたちまち冷えて、すぐにしまえるのが具合良かった。水気があると良くないので、尖端を完全に冷やし、ヒーター部は多少温かい状態でしまうと、水気が完全に飛んでちょうど良かった。

 叩くと加工硬化して腐食しやすくなるという説が出てきたが、それは常温で電解液に浸した時のことで、ここでは関係ない。加工硬化の効果は、釘を海水程度の食塩水にひたひたに浸すと頭と先だけが錆びるという現象を説明できる。しかし高温で水のないハンダゴテには適用できない。しかもハンダゴテの使用温度ではすでに焼き鈍されている
 一方、釘の頭と先はカッタで切り、ハンマーで打たれているから、加工硬化しているのだ。

 他にもいくつかの説があるようだが、長持ちさせる効き目としてはを無くすこと、良く洗うことが大きく、他のファクターは無視できる。 

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2014年02月24日

鉄道模型の発煙装置

smoke generator ライオネル、メルクリン、MTHあたりで使われているのは流動パラフィンとかプロピレングリコールである。いずれも常温での蒸気圧はかなり小さく(蒸発しにくい)、100℃以下で十分大きな蒸気圧を持つ(プラスティックが融けない程度の温度でよく蒸発する)物質である。後者はヒータの設計をよく考えて、部分的に150℃くらいまで加熱される部分があると、よりうまく行くはずだ。
 これらの液体を加熱すると発生する蒸気は当然無色透明で見えないが、空気中で急速に冷えて白い湯気に見える。前者は放置してもいずれ蒸発して無くなるが、後者は蒸発しにくい。

 流動パラフィンは吸い込んでも全く害はない。皮膚につけても大丈夫だ。それでもご心配の方このページを読まれると良い。日本語版は説明が少ない。
 プロピレングリコールは食品添加物であるし、害はない。ただ蒸発しにくいのでべとつくが、水に極めてよく溶けるので、水拭きするか、流水でさっと洗えば良い。
 筆者は霧を吹いて、綿棒で拭き取る。べとつきがあると、カビるのではないかと心配される方もあろうが、カビは生えない。この種の化合物は防カビ剤として機能する。濃いと浸透圧が大きくなり、生物が繁殖できないのである。

 写真は01175氏ご提供のサンプルを試運転中のもの。
 

 <追記>
 01175氏から詳しい情報を戴いた。プロピレングリコールはBachman が使っているそうである。
 メルクリンが使っているゾイテ社の発煙液はよりさらさらしているリグロインのように見えるとのこと。
 流動パラフィンよりもうちょっと分子量を小さいものがリグロインである。尤も、沸点で分けているので分子量はややばらつきがあるだろう。同じ分子量でも分子の形によって分子間力が異なり、沸点が違うからだ。
 
 ここに動画があるのでご覧戴きたい。上の写真はかなり発煙して、残り少なくなった時のもので、本当はもっと発煙量が多い。 



2014年02月22日

舞台のスモーク

 舞台やスタジオで用いられるドライアイスによる霧の発生のメカニズムを考えてみよう。

 コツはぬるま湯を用いることである。ドライアイスは水よりずっと重いので、下に沈む。ぬるま湯から熱を吸収し、盛んに二酸化炭素の気体を発生する。ぬるま湯からは、その温度での飽和水蒸気圧が発生し、それがドライアイスによって急速に冷やされる。これが冷水だと、蒸気圧が小さく、水滴となるべき水蒸気の供給量が少ないから、うまくいかない。

 この方法はプロセスは全く異なるが、断熱膨張と同じ結果をもたらす。すなわち、微細な水滴が気体中に浮いている状態を作るのである。要するに、温かい水から発生した大量の水蒸気が冷やされて、水滴になったのである。

 この方法でも湯気は出来るが、如何せん、二酸化炭素は空気より重いので、蒸気機関車の白い煙を再現することはとてもできない。

 残るは超音波霧化器である。これは技術が確立されているし、特許もすでに切れているので、いくらでも応用できる。発煙材が水なので、全く問題ない。
 しかし、鉄道模型分野ではあまり見ない。オモチャの分野では時々見る。おそらく、鉄道模型での主戦場となるHO、Nでは体積が確保できないのであろう。

 霧化器の心臓部を見ると、水面に下から超音波を当て、水面を振動させる。すると水が揺すぶられて、水滴を発生する。この部分に指を突っ込むと熱く感じる。実際には熱くないのだが、神経を刺激して熱く感じさせるのだろう。健康には良いとは言えないので、そういうことはしないほうが良い。
 この部分が高さ3cmは必要で、HO以下には入りそうもないのだ。


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2014年02月20日

続 水蒸気と湯気

 蒸気機関車のボイラー内の圧力は高い。温度は200 ℃を上回る。さらに加熱されるが、それはこの問題とはあまり関係がない。シリンダ内で仕事をしたのち、やや圧力、温度が下がった水蒸気は煙室内のノズルから煙突へと噴き出す。この時、煙室内の空気が蒸気の噴出によって吸い出され、火室の通風が良くなって燃焼を助ける。

 日本型蒸気機関車には排気膨張箱という不思議な箱があって、排気の脈動を抑えるという言い伝えがあったそうだが、実際には役に立たなかった。諸外国の機関車でそのようなものを付けている例はまず見ない。排気音が、小気味よく弾けるように聞こえるのはそれが無いからである。
「背圧が少ない方が、仕事量が大きくなって効率は上がる」
というのが物理学的な思考である。一部の古い国鉄の機関車はこの膨張箱を付けていなかったので、明らかに排気音が異なった。走りだすとき、パッ、パッ、パッという音がした。

凝結開始 さて、蒸気機関車の排気はどうして白く見えるのであろうか。
 排気はおそらく大気圧の1.5倍ほどの圧力をもっているはずだ。温度は120℃ほどだろう。それが大気の中に放出される。すると、水蒸気は急速に膨張し、大気を押し退ける。その時仕事をしてしまうので、温度が下がる。
 すると、その下がった温度で許される飽和水蒸気圧は小さく、たくさん存在する(濃度の高い)水蒸気の大半は、凝縮して水滴にならざるを得ない。すなわち断熱膨張が起きた結果、水蒸気の濃度が高いまま、温度が下がったのである。

 グラフの右の部分から、左へと行くわけだ。実際には排気は空気と混じって薄められるので、やや下の方に行く。また、このような過渡現象は直線上ではなく、複雑な曲線上にあるはずだが、そのことはここでは無視する。

 「断熱膨張」がキィワードである。この言葉が無いと、説明が出来ない。
 
 結論を言うと、ボイラを持たない模型からは湯気は発生させられない。先回に書いたボイラもどきの蒸気発生器は、大気圧下でやっている限り、湯気は見えない。2,3気圧のボイラがあれば、盛大に湯気を上げて走る模型になるだろうが、怖くてそんなことはできない。

 昨年、伊藤剛氏にお会いした時、氏も同じ質問を受けたことがあると仰っていた。その時、断熱膨張という言葉が出たので、さすがだと思った。

2014年02月18日

水蒸気と湯気 

 最近の大雪でこの種のニュースは見かけないが、毎年寒さが厳しくなると、新聞に必ず載る写真とその不可解な説明がある。
 たいていは子供たちが口から白い湯気を出して、「蒸気機関車みたいだ!」と喜んでいる場面だ。その解説には必ず、「白い水蒸気を口から出して…」とある。新聞記者は理科の勉強が足らないのが露呈している。

蒸気圧曲線

 水蒸気は見えない見えるのは湯気(水滴)である。我々は常に口や鼻から水蒸気を出しているが、室内でそれらが見えることはない。室温で許される最大の蒸気の圧力(濃度)はかなり大きく、口から出る水蒸気はすぐに空気と混じりあって薄められ、体温から室温まで下がっても凝縮するには至らない。

 寒い風呂場で湯船の蓋を開けた瞬間には、湯気(水滴)が見られる。湯船の上の空間の温度は高く、そこで許される水蒸気の濃度は大きいので、冷たい空気に触れると、その気温で許される水蒸気の濃度以上の水蒸気は凝縮しざるをえないからだ。
 そのうちに風呂場の気温が上がって来ると、湯気は生じなくなる。その気温ではたくさんの蒸気の存在が許されるからだ。

 20年ほど前、友人から相談があった。
「蒸気機関車の煙室内に、小さな電気湯沸かし器のようなものを作って入れてみたのだけども、ちっとも白い湯気が出ない。」と言うのだ。
 この種の間違いは複数回見た。
「真冬の凍える室内なら見えるだろうが、20〜25 ℃の空調の効いた部屋では、望み薄だね。」
と言うと、随分がっかりされたようだ。

 蒸気機関車の排気はどうして白く見えるのであろうか。真夏でも煙突から多少は白く見える煙を出すし、ドレインを吐き出している時は、かなりの距離まで湯気が噴出する。

 グラフは水蒸気圧曲線である。このウェブサイトからお借りした。

2013年12月16日

続々々々々 Lucin Cutoff

GreatSalt Lake  Lucin Cutoff この築堤の建設により、湖は大きく3つの部分に分かれた。北西部には流入する川がほとんどない。また、塩砂漠とつながっている。したがって、塩分が異常に濃くなってしまった。そこでは、塩湖に生息していた赤い小さなエビは絶滅した。


 一番大きな流入河川は北東部からのBear Riverである。北東部の湾は土砂で埋まり、とても浅いので塩田が発達している。深さ1mほどの見渡す限りの塩田に湖水を導き入れ、太陽光をよく吸収するように青い染料を溶かす。放置しておけば塩が析出するので、それをブルドーザでかき集めて出来上がりである。ブルドーザのキャタピラ(クローラ)は塩水に浸かり、エンジン部分と人間だけが水面から出ている。仕事が終わって陸地に上がってくると、キャタピラは全く錆びていない。飽和食塩水中には酸素が溶けにくいので、錆が発生しないのだ。使用しない時にしばらく外に置いてあると、多少錆びる。

 水面の上下は、降雨量によって決まる。80年代の水面上昇により、Causeway(築堤)は大幅に積み増しを余儀なくされた。防波堤になった貨車は、もう見ることができない。完全に埋められてしまったのだ。
 南北の水面差が大きくなると、築堤に掛かる力も大きくなって、不安だ。製塩業者は湖水の塩分が減少して、商売が上がったりだと訴訟になった。結局のところ、築堤を一部破り、橋を架けて南北の水が通じるようにした。

2003 drought Great Salt Lake その後2003年には異常渇水に見舞われ、湖面は大幅に下がった。この衛星写真を見ると、北東部の湾は事実上干上がり、Antelope島は完全に地続きになっている。莫大な投資で持ち上げた線路も、意味がなくなった。現在は史上最低位に近くなっている
 
 この湖は大きさが九州程度で、深さが7、8m程度らしい。もちろん水位が高くなると、10m以上の深さになる。流入と蒸発のバランスが取れていれば良いのだが、たまにそれがずれると、人間はあたふたするのだ。流出河川のない湖は、往々にしてこのようなことになる。

2013年11月04日

FMC

Green River Castle Rock 3 駅の反対側まで行って、Castle Rockを見るとこんな具合だ。限られた平地の大部分が鉄道によって占められている。山地の中の川で、鉄道の補給駅としてはここしかない。川はコロラド川の支流で、大した水量はないが、年中流れている。
 駅の構内は線が曲がっていて見通しは利かない。ヤードでの仕立て作業は、難しそうだ。貨車の7割がカヴァードホッパである。その大半にはFMCというロゴが大きく書いてある。

FMC1 GPSと衛星写真で大体の見当をつけて、出掛けた。Green Riverから西に15マイルほどのランプを降りると、そこはまさにワイオミングである。何もない。しばらく北に走ると煙突が見えてきて、工場があることが分かる。
 UPの本線は北に曲がっているから、本線沿いである。

FMC3FMC2FMC4FMC6




 何もないところに突然このような施設が現れる。これは世界最大のソーダ灰の鉱山である。高校の化学でソルベー法なるものを習った人も多いだろう。昔はガラスの原料である炭酸ナトリウムは、かなり苦労して作っていたが、現在は天然品を用いる。
 この地域は石油が出る場所が多いので、石油掘りをしていたところ、地下に分厚いトロナ鉱(炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムの1:1の化合物)の鉱床があることがわかった。一説によると現在の需要量で5万年分だそうだ。大陸横断鉄道の本線の脇に見つかったので、輸送は簡単である。

 水はコロラド川から取り、燃料は近くの天然ガスを使っている。いくらでもとれるのだから、気楽なものである。FMCはFood Machine Corporation だったかの頭文字である。本業がこちらになってしまい、元の会社名の意味が無くなった。

2012年01月06日

続々 Etchant

 エッチャントは酸性のものばかりではない。アンモニア水でも効果がある。昭和40年代のTMSにも載っていたように記憶する。アンモニアは酸化剤があれば銅と良く反応する。
 昔の冷凍機はアンモニアを使用していた。その中に空気が混入していると、銅パイプは腐食されてしまう。故障した冷凍機の中には、青い結晶が見つかることがあった。それは銅イオンとアンモニアとの化合物である。

ammonia as a ligand 要は金属が溶ければ良いので、「酸化剤 + 溶解を助けるもの」 があればよい。アンモニアは銅、亜鉛、ニッケル、銀に対して良く働く、錯イオンをつくる配位子(ligand)である。鉄、鉛やスズとは反応しないので、青銅、快削黄銅、ステンレス鋼、炭素鋼などには意味がない。 酸化剤としては酸素でも十分であるが、酸素を供給しようとして空気を吹き込むとするとアンモニアが逃げてしまう。それを避けるには低温にするので反応速度が小さくてうまくいかない。
 過酸化水素を加えれば低温でも働く。生成する液が銅をたくさん含んでいれば、極めて濃い藍色になり、美しい。
 快削黄銅は鉛を含み、多少反応しにくい。スズを含んだ合金も困難だ。

 非酸性エッチャントの必要性を感じている。アンモニアより効果が大きく、また蒸発しにくく、さらに臭いが無いものが欲しい。ある程度の候補は見つかっているので、検証実験をする。公表するからには、毒性が低いものでなければならない。
 いずれアマチュア用として良い候補を用意できるだろう。

 もう25年も前に「醤油で機関車を洗うときれいになる」ということを、所属クラブで発表した。これには誰も乗ってこなかった。会報には”Hint of the Mouth" という題でコラムに載った。そのタイトルのつづりがMonthではなく、Mouthだったので、真に受ける人が減ったのかとも思ったのだが、そうではなく、本当に誰も興味がなかったのだ。

 醤油には各種のアミノ酸が含まれ、それらは銅イオンとかなり安定な錯イオン(キレート)を作るので、酸素の助けを借りて銅を溶かす。10円玉を醤油で拭くときれいになる事実をご存知の方も多いだろう。
 もちろん、「醤油+過酸化水素水」 でもよく働く。

dda40x at 01:06コメント(4) この記事をクリップ!
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