2021年01月14日
scientific であるということ (7)
「実物通り」という言葉は、ある種の魔力を持っているように感じる。客観的にものを考えられない人にとっては、あこがれの対象であり、崇拝したい考え方のようだ。
先日某所の組立式レイアウトを更新するということで、古いものを引き取ってきた。実は、当博物館3階の空きスペースに試験運転場を作ろうということになって、有志が動き始めたのだ。(博物館の本線上では試験運転はできない。ギヤボックスのない車輛は油を撒き散らすから入線できないので、より気楽に運転できる周回線路の設置を要望されていた。)
見ると、曲線の部分のゲージがかなり広い。軌間31.75 mmのところ、33 mmほどもある。どうしてかと聞くと、
「スラックが付けてあるんだそうだ。」と言う。
どんな基準で付けたのだろうと訝しげに見ている友人に、誰かが答えた。
「国鉄の技師の〇〇氏が、本物の計算式で付けたと言っていたから、完璧なんだそうだよ。」
こうなると、もうパラノイアとしか思えない。技師氏はどんなデータを入力してこの数字を出したのだろう。国鉄に半径94mの本線があったのだろうか。軌間は31.75 × 45 = 1429 ≒ 標準軌となるが、それを考えたのだろうか。模型のフランジの形、高さを考慮したのだろうか。模型の線路の数値を実物の計算式に入れたようだ。何もかも虚構であって、めちゃくちゃであった。ここまで軌間が広いと、はまり込む車輪もあったようだが、Low-Dはタイヤ幅が狭くないので、かろうじて助かっている。
模型の軌間はスラックを内包しているということが、分からないらしい。車輪ゲージとの差を”ユルミ”というらしいが、これはかなり大きい。Low-Dではそれをかなり減らしている。その結果チェックゲージを保ちつつ、バックゲージ (back to back) を広くでき、フランジウェイを狭くできる。当然、走りも安定する。
この結論を見せても、「素人は黙っていろ!」という態度であった。本物縮小主義者は、大体似たような傾向を持つ。しかし、どちらが素人なのかはすぐにわかってしまい、Low-Dは売れ続けた。一方、模型は実物とは異なるのだが、技師氏は最期まで非を認めなかった。彼の死後、線路は改善され、事故は減った。

TMS誌21号(1950年)には、MCB台車の製作記事が伊藤剛氏によって書かれている。揺れ枕の話が出ているが、そこには、模型の揺れ枕は手で押すと動くのが良いが、「實物と同じ揺れ方はしません。(これをスケール効果といゝます)…」と書いてある。現代でも「揺れ枕を本物のように作った」、とご自慢の車輛を見るが、単なる自己満足の域を出ない。伊藤剛氏は揺れ枕吊りを天井まで伸ばしたものを作ってみたそうだが、それでも全然足らないと言っていた。この時代から、実物を縮小しても動作は異なると書いてあるのに、学習しない人は多く存在する。
現代においても「実物通りに作られている」と言うと、平伏する人は多い。運転性能は怪しい。車輪規格を実物に合わせた(つもり)かもしれないが、模型の軌間は実物通りではない。摩擦係数も異なる。どうするのだろう。
先日某所の組立式レイアウトを更新するということで、古いものを引き取ってきた。実は、当博物館3階の空きスペースに試験運転場を作ろうということになって、有志が動き始めたのだ。(博物館の本線上では試験運転はできない。ギヤボックスのない車輛は油を撒き散らすから入線できないので、より気楽に運転できる周回線路の設置を要望されていた。)
見ると、曲線の部分のゲージがかなり広い。軌間31.75 mmのところ、33 mmほどもある。どうしてかと聞くと、
「スラックが付けてあるんだそうだ。」と言う。
どんな基準で付けたのだろうと訝しげに見ている友人に、誰かが答えた。
「国鉄の技師の〇〇氏が、本物の計算式で付けたと言っていたから、完璧なんだそうだよ。」
こうなると、もうパラノイアとしか思えない。技師氏はどんなデータを入力してこの数字を出したのだろう。国鉄に半径94mの本線があったのだろうか。軌間は31.75 × 45 = 1429 ≒ 標準軌となるが、それを考えたのだろうか。模型のフランジの形、高さを考慮したのだろうか。模型の線路の数値を実物の計算式に入れたようだ。何もかも虚構であって、めちゃくちゃであった。ここまで軌間が広いと、はまり込む車輪もあったようだが、Low-Dはタイヤ幅が狭くないので、かろうじて助かっている。
模型の軌間はスラックを内包しているということが、分からないらしい。車輪ゲージとの差を”ユルミ”というらしいが、これはかなり大きい。Low-Dではそれをかなり減らしている。その結果チェックゲージを保ちつつ、バックゲージ (back to back) を広くでき、フランジウェイを狭くできる。当然、走りも安定する。
この結論を見せても、「素人は黙っていろ!」という態度であった。本物縮小主義者は、大体似たような傾向を持つ。しかし、どちらが素人なのかはすぐにわかってしまい、Low-Dは売れ続けた。一方、模型は実物とは異なるのだが、技師氏は最期まで非を認めなかった。彼の死後、線路は改善され、事故は減った。

TMS誌21号(1950年)には、MCB台車の製作記事が伊藤剛氏によって書かれている。揺れ枕の話が出ているが、そこには、模型の揺れ枕は手で押すと動くのが良いが、「實物と同じ揺れ方はしません。(これをスケール効果といゝます)…」と書いてある。現代でも「揺れ枕を本物のように作った」、とご自慢の車輛を見るが、単なる自己満足の域を出ない。伊藤剛氏は揺れ枕吊りを天井まで伸ばしたものを作ってみたそうだが、それでも全然足らないと言っていた。この時代から、実物を縮小しても動作は異なると書いてあるのに、学習しない人は多く存在する。現代においても「実物通りに作られている」と言うと、平伏する人は多い。運転性能は怪しい。車輪規格を実物に合わせた(つもり)かもしれないが、模型の軌間は実物通りではない。摩擦係数も異なる。どうするのだろう。
コメント一覧
1. Posted by MS 2021年01月18日 08:01
スラックは内包されているという表現は面白いです。
要するに考えても無駄だということですね。
計算してみると、1067÷87.1=12.26(mm)、1067÷45=23.7(mm)でかなりの狂いがあります。その中を走らせるわけですから、当然遊び(ユルミ)が必要です。それは実物より大きいわけですから、考えても無駄なのに、「考えると自分が鉄道技師になったような幻想が味わえるから楽しい」人たちが、それを現実に適用できると思うわけです。
おっしゃるようにこれはパラノイアでしょう。
このブログを読み返すと、ためになることがたくさん書いてあります。「遠心力という言葉を使った記事はすべて怪しい」は、本当にその通りですね。よそにはたくさんありますけど。。。
要するに考えても無駄だということですね。
計算してみると、1067÷87.1=12.26(mm)、1067÷45=23.7(mm)でかなりの狂いがあります。その中を走らせるわけですから、当然遊び(ユルミ)が必要です。それは実物より大きいわけですから、考えても無駄なのに、「考えると自分が鉄道技師になったような幻想が味わえるから楽しい」人たちが、それを現実に適用できると思うわけです。
おっしゃるようにこれはパラノイアでしょう。
このブログを読み返すと、ためになることがたくさん書いてあります。「遠心力という言葉を使った記事はすべて怪しい」は、本当にその通りですね。よそにはたくさんありますけど。。。
2. Posted by 老模型人 2021年01月18日 09:12
伊藤剛氏の記事を拝見しました。その時代から、模型は実物とは違うことを力説されていたのですね。
私たちはTMSを読んで育ち、教科書として使ってきました。その中にこんな記事があったとは知りませんでした。もっとも、それは私が生まれた頃ですから仕方ないのですが、その後の記事にこの種のことはあったようには思いません。皆さん、写実主義に凝り固まって、実物通りに作ったという記事ばかりでしたね。
私自身はおかしいなとは思いましたが、理屈を考えるところまではいきませんでした。
このブログを数年前に知り、いつも感心して見ています。最近の模型と実物の記事は、模型をたしなむ人全員が読むべき記事です。無駄な労力をかけて間違ったものを作ることから解放されます。今後とも素晴らしい記事をお願いします。
私たちはTMSを読んで育ち、教科書として使ってきました。その中にこんな記事があったとは知りませんでした。もっとも、それは私が生まれた頃ですから仕方ないのですが、その後の記事にこの種のことはあったようには思いません。皆さん、写実主義に凝り固まって、実物通りに作ったという記事ばかりでしたね。
私自身はおかしいなとは思いましたが、理屈を考えるところまではいきませんでした。
このブログを数年前に知り、いつも感心して見ています。最近の模型と実物の記事は、模型をたしなむ人全員が読むべき記事です。無駄な労力をかけて間違ったものを作ることから解放されます。今後とも素晴らしい記事をお願いします。