2020年08月11日

セレン整流器の耐圧

 昔アメリカで聞いた解釈によると、「セレン整流器の耐圧によって、自動車の電圧が12 Vに決まった」のだそうだ。12 V化は、1953年から始まったという。電圧が高いほどクランキング(スタータ・モータを廻す) 電流が減るから電線を細くできて、効率が良い。歴史的な順序は間違ってはいないから、説得力はある。

 鉛蓄電池の充電での最高電圧が2.26 Vであるから、その6倍で13.6 V、電圧降下分2 Vを足すと15.6 Vである。交流が正弦波であれば、電圧の最大値は√2倍で22 Vとなり、許される最大電圧に近い。6 Vの車の時代が長かったが、それは亜酸化銅整流器の耐圧とも関係があるのかもしれない。しかしその頃はジェネレータの時代で、直流発電をしていたから、因果関係は希薄だ。現在はオルタネータで、三相交流発電である。ばらすとダイオードが6個付いている。

 最近の車には12 V でない車が出て来た。48V車である。トラックはしばらく前から24 Vである。PHVでは数百 Vであるが、主回路に異常が起きた時には切り離され、非常用クランキングは補助の12 Vバッテリィで行って、ガソリンのみで家まで帰れるようになっている。直流の48 Vは感電の可能性がある電圧だ。汗をかいていると危ないと思う。

 我々が楽しんでいる鉄道模型の電圧が自動車用の充電装置から決められたものであれば、その起源はやはりセレン整流器の耐圧ということになる。実験室で使う直流電源のことをエリミネータと言っていた時代がある。これは battery eliminator のことであり、鉛蓄電池が無くても通電実験ができる装置という意味であった。出力はAC16 V、DC12 Vであったものが多い。これがパワーパックの原点である可能性は高い。

 電圧は直接目で見えるものではないから、様々な素子の性能で決まったものが多いのは、歴史的事実である。例えば 1 Volt という電圧は、初期の実用電池であるダニエル電池の電圧で決められたことは、意外と知られていないが電気化学史上の事実である。一方、真空管のヒータ電圧12.6 Vは、鉛蓄電池の6個直列満充電時の電圧であることは有名である。


 現在はシリコン整流器が常識である。これは電圧降下が小さいので、発熱も小さく効率が高い。また耐圧が250 V以上あるものが大半で、既にそういうことを考える必要はほとんどなくなってしまった。

 筆者は、高校生の時にシリコンダイオードを初めて手に入れた。12 A規格の製品で、放熱器にネジ込んで使うタイプだった。当時は高価で、4つも買えなかったから、トランスをセンタータップにして、ダイオードを節約した耐圧が大きいからこそ、できるのである。セレンでは2段にしないと壊れる。即ち、その枚数はブリッジ接続の枚数と同じになってしまい、ダイオードの数の節約はできないわけだ。それに比べれば、センタータップとシリコンダイオードの組合わせでは、はるかに効率が良くなることを知って、感動したことを覚えている。
 セレンより電圧降下が少なく、さらに半分の数で済んだから、DC出力電圧が高くなった。また放熱器は大きいものを作ったのに、全く熱くならなかったので拍子抜けした。きっと熱くなると思い込んでいたのだ。
 センタータップ方式の電源を鉄道模型に使った例は、国内ではまず無いだろうと思う。

 この電源を用いたトランジスタ・スロットルを椙山氏のところに持ち込んで披露した。国鉄の電気技師のH氏が操作してとても気に入り、椙山氏のレイアウトの4台あるキャブを、全て作り替えた。但し、シリコンダイオード・ブリッジを採用した。


〔追記〕 セレン整流器は徐々に進化し、その終末期には耐圧が36 V以上に達したようである。また電圧降下も小さくなっているそうだ。そうなると18V車が可能になるが、 シリコンダイオードが普及すると同時にオルタネータが標準装備されて、ブリッジ接続のセレン整流器は姿を消した。8/16/20

コメント一覧

2. Posted by セレン君   2020年08月11日 15:21
或る鉄道車両工場やバス等の自動車工場では、バッテリーの感電導通注意を喚起するためにDC42V以上を『死にボルト』と言っていました。本当は電流だと思いますが、この職場の出身者は旧海軍の船や潜水艦を整備してた人が沢山流れていた職場でした。まあ大らかな時代だったのでしょう。
3. Posted by Tavata   2020年08月12日 18:54
その当時の技術的制約で決まった要件が、その制約が無くなってからも生き続けるというのは面白いですね。セレン整流器は現代では何のメリットもないので、高値で取り引きされているのは不思議です。(形を鑑賞するコレクター的なものでしょうか?)
DC42Vを「死にボルト」というのは今でも聞きます。もちろん厳密性はないのですが、人体の抵抗値(機器に触れる手からアースされた足まで)が1kΩ程度(もちろん乾燥湿潤などの条件によって何倍も変化する)、致死電流値が50mAくらいと考えれば、理にかなった数字です。
4. Posted by dda40x   2020年08月12日 22:03
 おっしゃるように、セレン整流器には今や何の価値もありません。耐圧が低いので、使い途がないのです。高値を付けておくと、何かの間違いで買う人があるのを期待しているのでしょうね。
 直流は死にやすいので注意が必要です。交流は100 Vでもビリビリするだけで助かる場合が多いのですが、直流は一瞬で死ぬ場合が多いのです。アメリカの電気椅子は交流ですから死ぬまで時間が掛かります。48V車がどうして認可されたのかは分かりません。明らかに危ない電圧です。
 1980年頃に、鉄道模型の電圧を24V化するという話を、TMSのヤマ氏が書いていたことを思い出します。理屈をあまり良く理解していないのが分かる文章でした。当時はモータの高性能化が進んでいる時で、間もなく立ち消えになりました。
 
 高校、大学などで使うエリミネータにはまだセレンが入っているのでしょうか。シリコン・ダイオードブリッジとの入替は容易なので、するべきでしょうね。
5. Posted by Tavata   2020年08月12日 22:59
鉄道模型の24V化は初めて聞きました。
かなり昔(戦前?)のAC100Vを直接レールに流す3線式Oゲージは見たことがあります。
鉄道模型の直流電圧制御では、最高電圧を変えても、あまり意味が無い気がします。
電圧を大きく、電流値を小さくして、大レイアウトでの電圧降下を少なくする意図かもしれませんが、結局は常用速度でのレール電圧を高くするシステムにしなければ意味をなさないと思います。
6. Posted by dda40x   2020年08月13日 22:15
 山崎喜陽氏は24 V化の話を書いていましたが、実際に困るのは低速での発進で、24 Vにしても一緒です。その直前に売り出されたメルクリンのZゲージは10 Vですから、その矛盾もあります。
その点、DCCになると12 Vが常に掛かっていますから、とても有利です。また交流というのも大きな利点です。埃が付きにくくなります。
10. Posted by 森井     2020年08月13日 23:32
DCCの電圧は12Vとは限りません。
NMRA のS-9.1では、7V〜22Vということになっています。
8. Posted by ゆうえん・こうじ   2020年08月14日 00:40
メルクリンのZゲージが10Vだったのは、小型モーターの規格品では耐圧が低いものが多いということもあったのではないでしょうか。今でもHOナローゲージなどの小型車両では、定格6~9Vの小型モーターが、そのままあるいは抵抗を直列に入れて使用されているのを散見します。
DCCであれば、モーター出力電圧を変えるようなデコーダーを作れば、電圧変換によるロスはあるものの、モーターの電圧定格は6Vでも24Vでも自由になると思います。定電圧回路による降圧、DC-DCコンバーターでの電圧変換、DCCは交流だから倍圧整流という手もありますね。
現在のデコーダーはほとんど価格や大きさの制約もあると思いますが、走行電流は線路の電圧をそのままPWMでモーターを制御しています。そのためDCCパワーパックの線路電圧が違うと同じ速度操作でもスピードが変わってしまいます。
9. Posted by 01175   2020年08月14日 05:48
 山崎喜陽氏はTMS(昭和27年増刊号)のミキストでMR1952年3月号所載の記事を紹介しています。それは24ボルトのトランスから2組の片極のみのセレンとレオスタットを用いて+とーの半波脈流を別々に出し、それぞれに対応したセレンを搭載した2列車を同時に運転するというものです。原著(?)は参照しておりませんが、もし、実際にやったことだとしたらセレンは堪えたのでしょうか?
11. Posted by ゆうえん・こうじ   2020年08月14日 10:24
追加
DCCで同じ速度指令でも、線路電圧によって速度が違うというの解消する方法は、モーター出力電圧を一定にする回路をデコーダーに搭載する他に、BEMFなどでモーター回転数を検知してフィードバックをかける方法がありますね。現在は後者を使う方法が多いように思います。
12. Posted by dda40x   2020年08月14日 11:03
 セレン整流器の耐圧については分からないところがあります。Marn-o-Statはセンタータップのトランスを使用しており、セレンが合計2枚しかないのです。ということは瞬間的には50 Vほど掛かる計算ですが、持ったようなのです。
 それならば01175様の半波方式も可能かもしれません。セレンの耐圧25 Vというのは多数枚を直列にしたものの耐圧を枚数で割ったもので、どれくらいの安全率を見込んでいるかはわかりません。模型であればそれで命を落とすことはないでしょうから、安全率は低いはずです。

 様々な文献を見ましたところ、耐圧は製造所によって異なるようです。最終的に公称35 V以上のものができたようです。これなら自動車の電圧は18 Vが可能です。

 速度を一定に保つ機能は、小ゲージでは大切でしょうね。逆に当博物館の場合は出力を一定にして、上り坂ではゆっくり喘ぎ、下り坂では滑り降りる、という情景を再現できます。

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