2017年10月22日

続 pine wood soap-box car

pine wood car dervy そこにあったどの車も低重心にしていた。それが正しいと信じているのだろう。筆者はコースの出発部分に目を付けた。かなりの角度で持ち上がっている。ある程度進むと平坦になってゴールだ。

 重心が車体中央にあると出発時に稼げる位置エネルギィが少ない。車体後部に重心を持って行けば、持ち上げられる量が大きくなるから、蓄積されるエネルギィが大きくなるはずだ。あまり後ろに持って行くと前輪が浮いてしまって脱輪するから、錘を移動して、重心をホィール・ベースの 4/5 に持って行った。もちろん4つの車輪のうち、最もよく廻るもの2つを後ろに付けることにする。

 次に支給された車輪とクギを使わねばならないから、クギをよく研磨した。そのクギが通りそうなちょうど良い太さのパイプがあったので、タイヤの中心に差し込んだ。友人宅で旋盤を借りて作業したから、心は出ている。釘を挿して、歯磨き粉を入れて空回しした。少し黒い汁が出たところで研磨完了で、よく洗っておいた。
 車輪に自由度があればいろいろな工夫ができそうだが、それは許されていない。重い車輪にすると軸の摩擦が減るが、慣性モーメントが大きくなる。いろいろなことを考えねばならないだろう。

 次の土曜日の朝、子供たちにこれまでのことを話し、組んでミシン油を注した。
廊下で滑らせると素晴らしい走りであった。摩擦を減らすことは大切である。

 午後にボーイスカウトの集会に行って、エントリィした。車体は子供の描いたとおりのややクラシックなフォーミュラ・カァの形で、銀色に塗った。”No.1”と書いたものを貼っておいた。

 新人は順位の低いところから始まる。当初の試合では順当に勝ち進んだ。そのあたりではまともに走らない車ばかりだったので、こちらの性能には誰も気が付かなかったようだ。順当に勝ち進んでベスト8になると、皆よくできた車ばかりだ。

 最終の決勝では、1馬身以上の差をつけて優勝した。2位になった子供が悔しがって、再レースをすることになったが、やはり同じように差をつけて勝った。地区別の大会だったので、ご近所の人たちは大喜びで勝利を祝ってくれた。
 しかし、なぜ速いのかを質問する人はいなかったのが、不思議だった。翌日、大学で親しい物理の教授にその話をすると、非常に面白がって、筆者の戦術を褒めてくれた。
 翌週彼は、「コースの形をどのような形にすると、いちばん短時間でゴールに到着するようになるか」という問題を作って、学生にやらせていたようだ。


コメント一覧

1. Posted by YUNO   2017年10月22日 11:09
なぜ誰も質問しなかったか、ですが、材料が安価で品質も均一でないため、当時は運の要素が大きいと皆が考えていたのだろうと思います。
決勝で再レースが行われたという点から見ても、観客も参加者も運を信じていたことがわかります。
このエピソードで気になるのは、むしろ2位の車にどのような工夫があったか、です。今となっては確かめようのないことですが、科学的にチューニングされた車に肉薄するには、運だけではないテクニックを何か持っていたはずです。それがわかれば、さらに速い車が作れたかも知れません。
2. Posted by skt   2017年10月22日 17:42
摩擦の軽減は当然のこととして、なるほど、位置エネルギーでしたか。
コースの大きさ(長さと高さ)に対しての車の大きさがどれほどのものか感覚的にわからなかったので、そこまでは気がつきませんでした。あらためてなるほどです。
どちらかというと、写真と図で斜路から水平路に移る箇所の曲率を見て、そこでの姿勢の変化によるショック?をどれだけ軽減できるかの方が気になり、ホイールベースを長くしたらと考えましたが、あまり効果はなさそうかな?
3. Posted by 一式陸攻   2017年10月22日 19:00
当方もskt様と同じく勾配から水平部への渡りについて考えていました。
このような工夫は言われれば分かりますが自力では出せませんでした。

やはり内部の損失を考慮することは重要ですね。
昔読んだ本にそれぞれ未開封の凍らせたコーヒー缶と常温のコーヒー缶、坂道で転がすとどちら速いかという問いがあり、答えは凍らせた方でした。
曰く、凍らせていない方は中身が缶の中で回転するので損失になる、と。
4. Posted by 一式陸攻   2017年10月23日 13:52
誤りがあったので訂正します。
速く転がるのは常温の方でした。
凍っている方は中身ごと回転するため慣性モーメントが大きいのに対して常温の方は中身は回転せず缶だけ転がるのでより速いです。
コメントに誤りがあり申し訳ありませんでした。
5. Posted by dda40x   2017年10月24日 22:11
二位の車の軸受には、やはりパイプが嵌まっていました。
位置エネルギィを考えていたのは筆者だけでしたが、そののちには皆がやるようになりました。インターネット時代になると、様々な工夫が公表されるようになったからです。

車輛の質量は、理想的には速度と無関係です。しかし摩擦が多少あると、様子が違ってきます。

缶を凍らせるとどうなるかという問題は、そう簡単な話ではありませんね。条件によってどちらにもなります。
極めて緩やかな坂の時と、極めて急な坂では起こることが全く違いますからね。

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