2015年04月04日
”self-taught”
最近、吉岡精一氏の遺された膨大な研究日誌を少しずつ解読している。段ボールに10箱以上もあり、全てを読むには3年ほど掛かりそうだ。
吉岡氏は物理を、御子息の高校の教科書を元に勉強したと仰った。戦争中は勉強どころではなく、軍事教練と芋掘りばかりであったそうだ。全て、御自分一人で勉強されたのだ。
昔、筆者はアメリカで表題の言葉に出会った。
「天才は全て self-taught である。」
文字通り、自学自習のことである。
それを聞いて、その時はピンと来なかったが、吉岡氏に会って、「これだ!」と思った。
学校に行って教えて貰うと秀才にはなれるだろうが、天才にはなれない。天才は本人の内部から溢れて来る力によって、事を成すのである。 ここに吉岡氏の実験ノートがある。広告の裏にびっしりとデータが書いてある。斜面を転がり落ちる傾斜角の測定結果である。次の紙にはモータの性能の測定結果がある。
購入したもの全てをこのように測定し、機関車の効率を調べ、軸受の摩擦を知る。グラフを作って解析するのだ。お宅に伺うと、いつも斜面で機関車の性能を調べていらした。試験に必要な測定具は全て自作である。
筆者が作ったものを見せると、1週間貸せと云うことになって、たちまち各種のデータを付けて返ってきた。それが3条ウォームであり、ステンレス製のピヴォット軸であった。
工学は「こうするとうまくいく」と云う帰納の集大成であるが、吉岡氏は理学の立場から解析し、演繹していたのだ。
イコライジングの考え方も、根本のところを知り、それを広げていくプロセスを拝見したが、それは吉岡氏ならではである。
吉岡式線路は、ほぞ組の工夫もさることながら、最も素晴らしいのは分岐の分割位置である。これは周期関数の1周期の捉え方の問題で、数学的な発想が必要である。今回の博物館のレイアウトでその現物をたくさん並べたので、ご覧戴きたい。