2014年09月15日

続々々々々々 土屋 巖氏の死去

 祖父江氏を土屋氏に紹介してから3年ほど経った頃の話である。

「dda40xさん、祖父江氏は仕事がないと言っている。改造だけでは面白くないらしい。彼は機関車を作りたいんだ。でも、資本が無い。出してくれないかという話もあるが、それよりも、あの人をうちの会社に取り込んでしまいたい。会社の定款を多少変更しなければならないが、今でも1/1の モデル作りをしているんだから、そのままでも行けるかもしれない。」
「えっ、祖父江氏を雇うということですか?」
「いや、工場長ということではどうだろう。模型部門を独立させて、社員を何人か移動させる。中には好きなのも居るからね。工場には週2日ほど来てもらうという案ではどうだ。」
「祖父江氏は『自分の工場の中にある道具がないと仕事ができない』と言って、アメリカ移住の話も断ったのですから、難しいと思いますよ。」
「それなら、うちの会社の近くに、そっくり家ごと引っ越してもらうのはどうだろう。祖父江氏の図面は全て買い取り、NCの機械に掛けられるように、うちの社員に描き変えさせて保存する。」

 祖父江氏はあまり気乗りがしなかったようだ。
 しかし、土屋氏は諦めきれず、機関車を三次元測定器に掛け、NC彫刻機で彫り出して複製を作ったりしていた。そこで分かったことは、祖父江氏の図面と、出来上がった模型との間には僅かの差があったことだ。
 図面通りに彫り出したモデルと、製品とでは微妙な違いがあるのだ。

 土屋氏は矯めつ眇めつ、モデルと製品とを比べて、
「製品の方が良い。この差は祖父江氏の感性から来ている。これは図面通りに作ったらこうなる、というものではないんだ。要するに、無形文化財だな。彼は天才なんだ。祖父江氏が死んだら、もうおしまいだ。同じことを出来る人はいない。工場を作っても駄目だな。」

 その後土屋氏は、祖父江氏の持っている能力を全て模型という形にして、移し替えるという哲学で接した。必要なものは全て揃えて渡し、祖父江氏の好きなように工作をさせたのである。正しい意味のパトロンである。祖父江氏はそれに応え、素晴らしい仕事を残した。

「うちには祖父江氏の能力が具現化した模型が揃っている。これは素晴らしいコレクションだよ。」と土屋氏は満足であった。


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