2011年12月21日

”Wicking”という言葉の変遷

 ”Wicking”は、もともと燈芯に油が滲み込む現象を指す言葉だ。”毛細管現象”を表す学術用語でもある。
 最近は、燈芯という言葉すら知らない人が増えてきた。行燈(あんどんと読む)の中には油を入れる皿があり、その皿にはある植物の茎の芯を取出したものが置いてある。菜種油を入れると芯に吸い込まれ、その先に火を付けると明かりが得られる。
 西洋では毛糸を使った。薄い金属の容器に豚の脂身を入れ、毛糸を置き、それを何らかの方法で加熱する。アラジンの魔法のランプでは、磨くと「ランプの精」が現れるという訳が日本では定着しているが、英語では”rub”である。これはこするという動詞であって、摩擦熱で油(正確には脂と言うべきである)を融かしているはずだ。フランス語版やドイツ語版でも同様である。融けて液状になった脂は毛糸に滲み込み、それは火を付けられる状態になったことを意味する。

 さて本題のwickingだが、最近はプリント基板上のハンダ付けで余分なハンダを取ることをそのように呼んでいる。Solder-Wickという商品まである。何のことはない、フラックスを塗った銅の平編み線である。これを押し付けてコテで加熱すると余分なハンダが吸い取られる。鉄道模型の世界でも使う人が居るようだ。プロは使わない。余分なハンダはコテで取る。重力を使って、低いところにハンダを集めるのだ。コテを当ててワークをひっくり返す。見事に余分なハンダはコテに戻る。コテがハンダでよく濡れているからである。プロのハンダゴテは、ハンダで光っているのだ。
 また、プリント基板の上に小さな部品を置き、練りハンダを置いて電気炉に入れるのが最近の電機業界のハンダ付けである。その時、部品の温度分布の違いや、ハンダによる「ぬれやすさ」の違いで、特定の場所にハンダが毛細管現象で吸い込まれたり、場合によっては部品が浮き上がったりするのもウィッキングと呼ばれる。

 電気配線で撚り線をハンダ付けすると、必ずウィッキングが起こるので、昔は電線をハンダ付けしたところから 2 cm ほど行ったところで固定した。そうすれば固くなって折れ易い点に応力が集中するのを避けることができた。電線を結束するのは、こういう意味があった。最近は圧着端子ばかりで結束の意味を考えることが無くなったようだ。


 炭素棒ハンダ付け電源は、次々と完成・試用レポートが入っている。皆さん一様に驚かれている。部分的に加熱できるので歪まないとか、大きなロストワックス鋳物を完全にハンダ付けできると仰る。

 「温度フューズの接続を圧着端子で行った」というレポートも戴いた。本来、それが正解である。ただ、普通の方は工具をお持ちでないので、ハンダ付けする方法をご紹介したわけである。

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