2024年10月
2024年10月31日
続 coach interior


問題は乗客だ。前回 M10000 で大半の在庫の乗客を動員してしまったので、手持ちが少ない。乗客は意外と高価なもので、人件費がかさむ。


伊藤 剛氏は、「室内は室外である。」という名言を残されている。「窓の外から見える部分は、最低限作りなさいよ。」ということなのだ。
見えないところは省略しても構わないが、「外から見えるところが作ってないと奇妙なものですよね。」ということだ。
2024年10月29日
coach interior



早速組立てて塗装の準備で並べた。塗装してから薄い金属板に接着して並べれば良い。それを客車の側面からそっと押し込み接着する。
あとは洗面所部分をそれらしく作るだけだ。屋根は外れないから、向こう側の面の便器、洗面台などは作る必要はない。
(読者の方から、昭和30年代の国鉄固定編成特急の方向転換法を詳しく述べたウェブサイトを紹介戴いたので掲載します。)
2024年10月27日
続 coach
このキットは不思議な構成で、屋根板と床板を妻板にネジ留めするようになっている。床板に妻板を付けるのは簡単であったが、屋根板をどうやってつけるのか、どこにも説明がない。下側から木ネジを締めるのだが、床にネジ廻しを通す孔を開けねばネジを締められない。
細い穴を通してネジを締めるとしても、側板を先に付けるとネジを保持する方法が無い。どう考えても、片方の側板はあとから嵌め込むようにしないと無理であった。
側板はブリキ(鉄板)なので、磁石を使って落ちないようにできる。側板の重さはアングルで床板に掛け、上の幕板部分を磁石で付けた。強力なネオジム磁石で付いているから、そう簡単には外れないはずだ。

2024年10月25日
coach

この客車は Union Pacific 鉄道の普通車で、急行列車には前方に1,2輌入っていた。急行列車は上級のプルマン寝台車が主で、食堂車、展望車がつながれていた。2等車の乗客は食堂車には行けなかった時代があったという話を聞いたことがある。軽食を売る売店が付いた車輌もある時代以降はあったようだ。それが無かった時代では、停車駅で食べるものを買わねばならない。飲料水は洗面所にあったようだ。
また、2等車の前には荷物車があり、前方の郵便車に行けなくなっている。強盗を防ぐためだ。
台車は2軸である。既製品では満足できなかったので 3Dプリントの新作である。バネは金属バネを入れた。細いのでいかにも作動するように見える。
窓ガラスは小さく、プルマンに比べるとガラスの質が明らかに落ちる。平面度が低く、外が見えにくい。この模型の窓ガラスは、コンビニ弁当の容器の透明部分を切り出して使っているが、それでも綺麗過ぎる。もう少し汚いガラスが欲しい。本物はかなり緑っぽく、泡も入っている。
その時代のガラスを見たことが無い世代が99%以上になった。
2024年10月23日
SUNOCO

日本製ではあったがハンダが全く廻っていず、全てチョン付けであったのでショックでバラバラになったのだ。タンク胴の板もタンクエンドも焼き鈍された 0.3 mm板で、ぺこぺこに凹んでいた。
全部捨てて、使ったのはわずかのロストワックス鋳物だけだ。それも質が悪いものは捨てた。
連結器座は厚板を用い、フライスで削ってタンク胴に密着させたので、フレイム・レスの構造で非常に丈夫になった。勢いを付けてぶつけても、生き残る。この短い部品の内部の空間に鉛活字を詰め込んで重くしたが、450 gしかない。この長さであれば 550 gほど欲しかった。いつも思うことだが、タンク車は質量の想定が難しい。タンクにはあとで錘を積めないから、組立前に質量を予想せねばならない。これは意外と難しい。
全質量の90%以上をスクラッチから作った。タンク胴は 0.4 mmの板を丸め、エンドは仏壇屋で見付けた分厚いろうそく立てから作った。運良くぴったりの大きさであった。丈夫なタンク・ボディになった。連結器座を取り付け、完全にハンダを流してから、2箇所孔をあけて内部を洗浄した。その穴は錘を接着して塞いだ。
タンク上のプラットフォームは適当な網目板があったので利用した。
ハシゴを丈夫に作りたかった。照明塔を作った時のステンレス部品の残りをハンダ付けして組んだ。断面がH字型になり、きわめて丈夫になった。下端はタンク体に支えを付けたので倒しても壊れない。立派なハシゴになったので、旧製品とは品格が違って見える。

Dr.Yがカスタムのディカールを作って下さった。素晴らしい出来で嬉しくなってしまった。いろいろな思い出が甦った。
(最近画面上の写真が異常に大きくなり、小さくする工夫が出来ない。見苦しい点をお詫びする。)
2024年10月21日
続々 レイアウト分類学の連載を終えて
どうして日本にはクラブレイアウトが無いのでしょうか。歴史あるクラブにもクラブハウスがありません。大都市ならいざ知らず、地方都市なら、そのような目的の建物を手に入れることは決して難しいことではありません。
このブログでも紹介されていたように、田舎にある廃業したホテルなど、20台以上駐められる駐車場がある大きな建物が数百万円で手に入ります。雨漏りさえしていなければ大きなレイアウトを作れますし、泊まり込んで楽しむこともできるでしょう。
組立式の勾配の無いレイアウトでぐるぐる巡りをさせているようでは、牽引力という概念さえ無くなっていきますよ。
最近はNPO法人が比較的簡単に設立できるので、法人格を持ったクラブができると良いなと思います。クラブハウスを持ち、普段はそこで楽しんで、年に数回、公民館などで公開運転をすれば新規会員の募集もできるでしょう。
社会学を学びたいと考えます。それには大きなレイアウトが必要ですが、そのようなレイアウトはどこにもありません。個人宅で遊ばせて戴くわけにもいかないでしょう。クラブレイアウトが不可欠と思います。どうして日本にはないのでしょう。法人格を持ったクラブができないのはなぜなのでしょう。どのクラブでも勾配の無い平坦線の組立線路です。dda40xさんのような勾配のあるレイアウトで長大編成を走らせたいのです。また、昔の特急のように機関車がフル編成の客車を牽く場面を見たいのです。
2024年10月19日
続 レイアウト分類学の連載を終えて
時々このブログに登場するY氏から、長文の意見を戴いたので紹介したい。
過去に日本人が作ってきた多くのレイアウトは上記分類の「美術を楽しむ」に近く、風景の中を走行する列車を眺める事を目指しているように思います。ここではコントロールする事より、自動運転を含めスムーズに走り続ける事が必要になります。
「レイアウト」周辺の概念として scenery section と dioramaがあります。小さく切り取った風景の中に置かれた動かない車両、草生(む)した線路のみを鑑賞するscenery section や dioramaはまるで「盆栽」であり、「日本人のDNAに刻まれた趣味」であるように感じます。本来「レイアウト」は車両の走行が目的で、車輌が動かない小規模な情景模型を scenery section や diorama と呼ぶはずのものが、博物館などでは多数の車両が動く大規模なレイアウトを dioramaと呼ぶ場合も多々見られます。これら曖昧さを許す現象を含め、私は日本のレイアウトを「美術を楽しむ」と言うより「鉄道のある風景を楽しむ」と解釈します。日本のDCCが音に価値を求めるのも同じ理由だと思います。
「社会学を楽しむ」は、広いスペースを用意できるごく一部の方を除き、日本の住宅事情と生活習慣では困難だと思います。日本人が思い浮かべるレイアウトは、運転するのは自分一人か、例外的に多くても2〜3人でしょう。日本人の性格がアメリカ人ほど社交的ではない事、ホームパーティの習慣が無い事も影響している様に思います。
TMSは紙媒体であるため動きと音を表現できず、写真で勝負するしかないため、機能を伴わない精密さや視覚的驚きに偏った記事が数多くありました。この点ではscenery section や diorama は良い記事になります。もちろん編集者の「動きに対する意識」が不足していたと思いますが、そのTMS編集者もTMSで育ったのでしょう。同じくTMSで育った読者にとって「額縁レイアウト」も鉄道模型であることは何の疑問も無いと思います。今はTMS以外にも鉄道模型に関する雑誌も増え、ネットの発展もあり、さらにYouTube addressを雑誌に掲載する例も見られるので、動きを重視するモデラーが増えることが期待できます。
以上の様な日本の鉄道模型界の特徴を否定してみても意味が無く、むしろ「物理学を楽しむ」「数学を楽しむ」「社会学を楽しむ」がこんなに楽しいのだよと笑顔で示し、今までにない新たな楽しみ方に気付かせる事が重要だと思います。今後レイアウトを作ろうとする人に新しい視点を提供する意味において、これらの分類学は有意義です。皆が心の中に持つ現状のレイアウトへのモヤモヤとした不全感・不満に対し、明確な概念を提示する事が新たな思想のレイアウトを作るきっかけになれば面白いと思います。
今の時代、「物理学を楽しむ」「数学を楽しむ」「社会学を楽しむ」で成功した人はネット上に発表するでしょうし、そうすればその楽しさが伝染していくと思います。
2024年10月17日
レイアウト分類学の連載を終えて
著者はいったいどういう経験をした人なのか、と気になったそうだ。彼は非常に広い視野をお持ちの方である。筆者のレイアウト建設に際しても、様々な分野で助力戴いた。
実のところ、筆者は博物館のレイアウトをもう少し凝った作りにするつもりだった。当初は寸法を少し勘違いしていて、建物にもう少し奥行きがあると思っていた。そうすると85輌編成がすべて勾配に載り、単機では牽けなくなる。補機を付けての登坂になり、ふもとには補機のための機関車だまりが必要になる。頂上には補機を外して一時退避する線路が必要になり、渡り線を通って回送することとなる。UPのシャーマン・ヒルで実際に行われていたことをやるつもりだった。
この操作を3人で行うことを考えていたのだが、勾配が短くなりその必要がなくなってしまった。補機は3輌用意し、連結器を遠隔開放するメカニズムもいくつか試してあった。
Union Pacific 鉄道ではカブースを補機の後ろに付けることにしていた。巨大な機関車で押すので、何かの事故で脱線があった時カブースが潰されないようにする配慮だ。そうするとそのカブースを一旦外して補機だけ抜き取るわけで、その操作は意外と面倒である。この操作を最適化する方法も含めて、線路配置を考えていた。さらに後押しの推進力で貨車が脱線しないように様々なデータを採り、準備していたのだが実現できなかった。
日本では珍しい ”社会学の楽しみがあるレイアウト” になる予定だったのだが、長さ不足で実現できず、残念であった。
2024年10月15日
続々 レイアウトを作ろうとする人へ
材の縦の高さが増すと、撓みにくいから梁に使える。我が家の床は 2x10材を用いて支えている。スパンは 3.2 m、ピッチは 305 mmで、床は19 mm合板 + 19 mmのオーク・プランクである。歩くとその剛性が感じられる。撓みは実測できないほど小さいから、転ぶと痛い。
だから、レイアウトの場合には主梁として短い 2 x 8 を用い、長手方向のジョイスト(小梁)として角スタッドを置く。さらに15 mmのランバーコアを敷けば、非常に剛性の大きな平面を作ることができる。しかも安価である。最近の木材の価格は、信じられないほど上昇している。
2024年10月13日
続 レイアウトを作ろうとする人へ
確実に言えることは、わが国ではレイアウトを作った人の絶対数が少ない。過去の事例を遠くで見ただけで、その剛性を実感していないのだ。台枠に乗ってみればいかにそれが脆弱なものかわかるはずだ。工事中には上に乗る必要がある。完全に復帰する撓みならば問題ないが、その時すでに不可逆的な変形があれば、その台枠は廃棄するべきである。(乗ってミシッと音がすると、一部が壊れた音である。完全には元に戻らないと考えて良い。木ネジだけで組んであると、この音がするが、接着剤が使用してあればかなり持つ。)
「『それは dda40xさんのようなOゲージをやっている人の話で、HOやNには関係ないでしょう』と言った人が居る」という話が出て来たが、「それはおかしい」と言ってくれたのには救われた。
「だってさ、同じように撓んでもHOなら、相対的に2倍、Nなら4倍近く、大きく感じるわけだろう?」
その通りなのである。小ゲージなら、より精密に水平を出す工夫が必要なのだ。こういうことが分からないのは、自分で手を動かしてレイアウトを作ったことが無いからだ。本を見て、自分もそれを作った気分になっているからだろう。
さらに本音も聞けた。
「あの人はうるさい人で、言っていることは理想論であって僕らには関係ない。」と言う人がいるらしい。決してそうではない。
上と重複するが、
「ラフでも構わないOゲージで精密な路盤を作らねば結果が出ないのだから、より細かいゲージであればもっと精密に作るべきなのだよね。」と言ってくれた方が何人かあったので少し安心した。
「貴方は鉄レイルを使っていて錆びないか?」という質問も多かった。これについては、窓から入る空気の中の塩の話をすると非常に興奮する人が多い。
海岸から100 kmまでは風送塩がある。日本でそれ以上の距離がある地域は極めて限られている。長野県の茅野辺りの直径15 kmほどの範囲だけである。「その地域に日本の精密機械産業が集積している。」と言うと、みな膝を打つ。先人は、よくぞこの地域を探り当てたものだ。
レイアウトの場合は窓を開けず、エアコンで湿度を55%以下に保ち、空気清浄機を24時間動かせば、錆びさせないことは可能である。塩化亜鉛を使ったハンダ付けは外でやるべきだ。
2024年10月11日
レイアウトを作ろうとする人へ
「今までのレイアウトの作り方で良い、と思っている人が多いのは問題だね。もう60年くらい同じことをやっているじゃないか。」
たしかにその通りだが、TMSの特集シリーズくらいしか参考書がないから、進歩が無いのだ。材料や施工について知識のある人がほとんど居なかったわけだ。
「Model Railroaderに紹介された L-girder は剛性が足らないよ。」
これも、他に比べる対象が無いのでその弱さに気付かないということだろう。この発言の方は実際に作って確かめている。
「路盤が波打っているのはよく見るね。著名なレイアウトなんだが、行くとそこが気になるよ。最近、高効率ギヤを付けた機関車を持って行くと、波打っているのが極端によく分かるんだ。今まではガリゴリ走る機関車ばかりだったので、それに気が付かなかったのだよね。」
これは高効率ギヤの実力をよく把握された方のご意見である。低速で負荷を掛けて滑らかに走っていると、僅かな走行抵抗の変化が速度変化として現れるというわけだ。
「路盤の高さも高い方が良いということに気付いたよ。今からでも少し持ち上げてみる。実はね、僕の友人がdda40xさんのレイアウトは『Oゲージだから高くしてある。』と言うんだ。それはおかしいよね。HOはさらに高くすべきだし、Nはもっと上げなきゃね。」と言う。
この人はよく分かっていらっしゃると感じた。”鑑賞距離”という概念が身に付いている人である。HOはOより近くで見るはずだ。
また、実際に鉄道を見る角度を思い出すべきであろう。せいぜい跨線橋の高さからしか見ていない。
電車の模型で屋根に凝っている人が多いのはなぜか、ということを話題にする人も居た。どうやらこの辺に答がありそうだ。
実際にレイアウトを持ち上げた人の話をした。下にものを置くスペイスが増えるのは良いことだと感じる人は多い。
2024年10月09日
M10000の走行
最初は引っ掛かった。どういうわけかショートしたのだ。そんな筈はない。ショートしないように全車輌の極性を統一し、集電は動力台車からしか採っていないのだから。すなわち絶縁車輪がどこかに当たる以外のショートはあり得ない。 博物館の1.56%の勾配と8番分岐とを含む線路を問題なく周回したので、あり得ない事態であった。
机の上に置いて真横から見るとその原因が判明した。台車上の連接部を支える厚いゴムのワッシャが無い。運んで来る途中で落としたのだ。それで車体が沈んで絶縁車輪に触ったわけだ。
仕方がないので、そこにあった段ボールを切ってワッシャ状に切り、中心に穴をあけてセンターピンに押し込んだ。車体を載せると快調に走ってくれた。3車体あり、全ブラス製で重いが、動力台車は一つで十分だ。試運転では1.56%の坂を難なく登った。電流は 50 mAと 少なく、手放しで放置しても大丈夫だ。現に博物館では放置して数時間走っていた。上向きのライトは面白いと感じた人が多い。
会場のエンドレスを音もなく走り、1時間ほど周回していた。側線に入れた後、誰かの電気機関車が走っていた。
その後、再度本線上を10周ほど廻った。昼休みも走行のまま放置して問題はないものと判断した。食事に行って帰ってくると、電源が切られていた。聞くと、途中でスリップして走行不能になったのだそうだ。あり得ないことだ。

当博物館のレイアウトには持込み制限があって、ギヤボックスがないものや車輪が油で汚れているものは入線禁止である。それについて厳し過ぎると言う人は多いが、この現実を見れば納得戴けるに違いない。よその家に土足で入ることは許されない。
2024年10月07日
UP M10000



就役当時の話が伝わっている。この色の組合わせは”マスタードを載せたホットドッグ”と言われたそうだ。ケチャップが少しはみ出しているようにも見える。 これは地上を飛ぶ飛行機であり、車体はアルミ合金で作られていた。、


すべての車輌が同極であるので、ショートの可能性は極めて低い。全金属製車輌であるからこの点は考慮しておくべきである。
UPの蒸気機関車と並べると、断面積が小さいのには驚く。大型トラックと普通車ほどの違いがある。高さがかなり低く、最高部で3.65 mしかない。エンジンはV12気筒で粗製ガソリンを燃料として600馬力を出す。最高速度は110マイル/時(約176 km/h)であった。運転席には両手、両脚の圧力を検知する装置(いわゆるデッドマン)があり、力を抜くと急ブレーキが掛かるようになっていた。しかし、それでは鼻をほじることもできない。
また、ブレーキは滑走防止機能が付けられていて、最短距離で止めることができたそうだ。
今回のブログの写真その他の情報は、当時のUPのパンフレットを持っている友人から送ってもらった。感謝する。
2024年10月05日
レイアウト分類学 まとめ
「鉄道模型」と「模型鉄道」
この国でこの趣味を「鉄道模型」と呼ぶのはなぜか、といつも思う。この趣味の黎明期にあった「模型鉄道」という呼び方の方が、この趣味の本質を伝えているように感じている。
「鉄道模型」と言ってしまうと、車輌やレイアウトの「もの」の側面だけが強調されてしまい、「動き」の側面が薄まってしまうのではないだろうか。日本でレイアウトの建設例が少ないのは、住宅事情の問題もあろうが、実はこの名称がこの趣味の楽しみ方に制約を加えてしまったのではないか、とさえ思うことがある。
実物の鉄道の「動き」を模型の世界において再現する、ということこそがこの趣味の主眼であるべきだと強く思う。例えばアメリカ型HOなら、実物の 1/87 の世界を作るのではなく、「16.5 mmの線路幅の鉄道を作る」という前提で、車輌やレイアウトを作る、という発想が根底にあるべきだと思う。これが「模型鉄道」と呼んだ方がしっくり来る、と考える理由だ。
アメリカではこの趣味の名称は model railroading である。railroad、つまり鉄道が主体となっていることに加えて ”ing” が付いていることで、組織運営や経営までも含む様々な鉄道の運行に関する活動を広く楽しむことを意図している、と感じる。
連載記事はこれで終わった。私信により多くのご意見を戴いているので、後日まとめて発表したい。また、コメントは随時掲載しているのでご投稿願う。
2024年10月03日
レイアウト分類学 6
社会学を楽しむ
「数学を楽しむ」のところで書いた通り、アメリカの多くのレイアウトが入換を楽しむことを目的としている。大規模なレイアウトになると、多人数で運転会を開催し、複数の列車を同時に走らせる。そこでは、列車を運転する人、列車の位置を把握して通行権を的確に管理する人、複雑なヤード部分の列車の出入りを管理・操作する人など、多くの人が関与する。 簡略化されているとはいえ、これらの役割は本物の鉄道会社と同じである。模型の世界の鉄道の一員として、自分がその運営に参加しているのだ、という意識を持ってそれぞれの役割を楽しむことができる。参加者一人一人がそれぞれの役割を果たし、お互いを信頼して円滑なコミュニケーションを図った上で、全員が一つのチームとして機能する必要がある。このような楽しみ方を志向するレイアウトを、「社会学を楽しむ」と分類する。
上述したRick Fortin氏のレイアウトは、個人所有ではあるが、同好の志が集まり、運転会を開催している。これは運転会に参加するメンバー用のDCCスロットルが格納されている様子である。
余談とはなるが、日本では自動運転を志向する人が多いように感じる。技術的にはチャレンジングで、大変興味深いテーマではあるが、上記のアメリカ式の運転会のようにチームで運転をするという楽しみを知らずに、そちらを先に志向するのはいかがなものか、と思う。
物議を醸しそうなことをさらに書くと、アメリカでDCCが普及しているのは、このような「多人数で複数の列車を同時に走らせる」ことがDCに比べてはるかに簡単にできるからである。実感的なサウンドからDCCに入る人も多いが、それはDCCの大きな魅力の一つではあるが、本質ではないと思う。
極論を言えば、DCCの本質は「2つの列車が正面衝突する可能性のある運転ができること」である、と私は思っている。そういう可能性があるからこそ、本物の鉄道のように列車の運行を考え、レイアウトでの運転の仕方を考えることができる、というのがDCCの最も重要な意義だと思うのだ。
2024年10月01日
レイアウト分類学 5
交通工学・都市工学を楽しむ
アメリカには、“protolancing”もしくは“proto-freelancing”と呼ばれる分類のレイアウトが多数存在ある。実物の鉄道のプラクティスに従ってフリーランスのレイアウトを構築するもので、よくあるのは、現存する(した)鉄道の支線を新たに建設するとの想定のもと、時代をいつごろにするか、沿線のどの街を通すか、地理的にどこに線路を配置するか、などを考証して作るものである。
上述の「歴史学を楽しむ」レイアウトに通ずる点もあるが、新たな鉄道を建設する訳だから、その社会的・経済的な意味合い、どのような列車を走らせるかの妥当性を、自分が鉄道会社を経営する立場で構想することに面白さがあるのだ。このようなレイアウトを「交通工学・都市工学を楽しむ」と分類する。
Rick Fortin氏のレイアウトは、AT&SFがサンフランシスコ・ベイエリアからポートランドまで線路を延長したとの想定の下、カリフォルニア州のチーコ(Chico)という街からマクラウド(McCloud)という街までをモデル化したものだ。建設にあたり、実際に沿線のいくつかの場所に行って現地調査もしたそうだ。
基本は運転を楽しむ display layout であるが、沿線の様子に合わせたストラクチャが配置されている。
最後の写真は、当時建設が進んでいたInterstate 5で、スポーツカーを運転していた女性が速度超過で警察に捕まっている風景だ。女性の進出が本格的になってきたころを再現している。服装はホットパンツで、物珍しいので警官がぞろぞろと出て来たという想定である。