2021年09月

2021年09月29日

博物館の入場者

 博物館は、開館を目指して細部の工事を急いでいる。運営委員になってくださる方々とは、随時会って意見を交換している。
 合葉氏の「見せると分かる」という意見はその通りであるが、どうやって見せるかということを話し合った。

 博物館での走行を見せるだけなら、動画をたくさん配信すれば、かなりの部分は解決する。最近はリモートでの仕事が多くなっているので、そのような手段はいくらでもある。こちらは経済的に困っているわけでもないので、入場料収入がなくても、なんら問題ない。

 この博物館には貴重な資料がたくさんある。研究者もいるので、そのような方とは直接の対話を大切にしたい。

 関係者と協議すると、入場者は紹介者がいる場合に限るとか、事前登録した人だけにすべきだという案が出て来た。来た人は自由に見られるというのは、思わぬ事故のもとであると言う。多人数で来られると何があるか分からないので、入場人数を制限するとか、考えねばならないことは沢山ある。

 筆者は門戸は広く開けておきたいと考えている。特に若年層に対する啓蒙活動はやりたい。これは、伊藤 剛氏、合葉博治氏の大切にされていた精神である。

 しかし、理解できないこともある。しばらく前のことだ。「余分な車輪があれば譲ってほしい」という連絡がコメントを通じてあった。若い人のようなので、助けてあげたいと思った。ジャンク箱を探して、希望のものをある程度揃え、発送先の氏名、住所、電話番号を知らせるように返信したら、
「知らない人にそのようなことを教えることは危険ですから、出来ません。」
という返信があった。

 これからは、この種のおかしな人が増えてくるのだろうか。そういう人が押しかけてくるのであれば、無制限な公開は避けざるを得ない。地元の警察と今後の話をした。 

2021年09月27日

補強板を作る

 先回の ”girth” を作るときは、シアとリヴェット打出し機を使った。先頃導入のシアは、このような同じ幅の板を切り出すのに便利である。あっという間に出来る。

riveting machine2riveting machine リヴェットはこの器械で打出した。最初は x,y の座標で位置決めする大掛かりな機械(英国製)で打出し始めたが、何回か間違えたので、それは断念した。この器械では奥行きを制限しているが、左右は手で滑らせる。金属板にケガいても見えにくいので、ガイドの上にテープを貼り、それに目盛りを描いた。実に簡単で、あっという間に4本できた。

 リヴェットを打出すと、t 0.3のブラスの板は反るので、金床に置いてゴムハンマで凸部の上から叩く。数回叩くと真っ直ぐになる。
 45度切りは、シアのテーブル上に引かれた線を使った。極めて楽である。 

 接着はエポキシを用い、錘を載せた。その時、位置がずれるのを防ぐために、マスキングテープで仮留めした。わずかに反った状態で、中心付近をブロックで押さえて錘を積み、5分待てば出来上がりだ。
 この状態で点検し、はみ出した接着剤があれば取り除く。まだ軟らかいので、可能である。 

2021年09月25日

caboose を作る 7

DL&H caboose これは D&H デラウェア&ハドスン のカブースである。木造車は末期には様々な改造を受けていた。窓を塞いだり、増設したりしている。そればかりではない。この個体は、鋼板を使って補強している。ターンバックルを締める部分から、車体の端までを補強しているのだ。

 木造車だから、事故での衝撃には弱い。最大限の補強を施したのだろう。diagonal braceである。この種の帯をgirthと呼んだのを聞いたことがあるが、辞書を引いてもよくわからない。 
 床下のターンバックルは、このサイズだとクイーンポストは1本である。締め方でポストが傾くのではないかと思うが、全長が短いので、締める量は少なく、許される範囲かもしれない。あるいは、ロッド末端のナットを締めれば解決するだろう。

DL&H caboose roof これもキュポラの天井板はブラスに作り替えた。裏に薄鉄板を張り、磁石で留めている。Φ2.5の小さなネオジム磁石なのだが、1つで十分な力がある。屋根上には機関車との通信用の灯火がある。これはエポキシのイモ付けでは弱い。細い針金を貫通させてハンダ付けし、ソフトメタル鋳物にあけた穴に差し込んでエポキシ接着剤で留めた。そう簡単には取れないはずだ。

3 rollersround anvil 屋根板は3本ローラで曲げ、端の曲げられない部分は太い丸金床(Φ52)の上でゴムハンマで叩いて曲げた。




 しばらくは天気が良いので、塗装の季節である。全部で15輛塗る準備が整った。塗料を準備している。これはいわゆるカブース・レッドで塗る。

 これで、木製カブースの製作は終了したはずである。何かの間違いで未組みが発見されないことを祈りたい。この種のキットは、craftsman kit と呼ばれる。1960年代にはO, HOとも、かなりの数が発売されていた。今でも手に入るものもある。ご興味があれば、求められるとよい。下地処理に時間を掛け、エポキシ接着剤を用いれば素晴らしいものが出来る。その他の接着剤では壊れやすい。特に瞬間接着剤(ACC)で組むと、壊れやすく、壊れたときに修復が難しい。


2021年09月23日

caboose を作る 6

PRR ND 8-wheel このカブースもAmbroid製品である。ペンシルヴェイニア鉄道(PRR)の4輪仕様または8輪仕様とあった。NDタイプと呼ばれた。就役当初は長いリーフ・スプリングの4輪であったが、後に一部は8輪に改装された。

 木造車であるので、キュポラにはブレイスが付けられている。これは屋根に固定して、キュポラは上に抜けるようにした。もちろん位置決めピンを入れてある。

 これを作り始めた40年前は、走行性能の劣る2軸車は避けたかった。今だったら等角逆捻り機構を付けたであろう。
 ボルスタを付けて貨車用台車を付けて8輪とした。しかし、それは実物の形とは全く異なり、やる気が失せた。しまい込んで35年目に3D print で正しい形の台車が手に入り、日の目を見た。
 
 PRRのカブースは、デッキ部分にある種の共通性があり、それらしく見えるように作った。最近のエポキシ接着剤は扱いやすい。鋳物製の梯子のような直立する部品も、割合簡単に付けられる。端面に塗って部品を直立させ、テープなどで仮留めするとそのまま固まる。余分は、溶剤を付けた綿棒で拭き取れば良い。もちろん端面は平らに削って、接触面積を大きくすることが肝要である。接着剤の厚みを最小限にすることだ。点接触では、いくら接着剤がその周りにあっても、剥がれる。

 この色も茶色味を帯びた赤である。昔のディカールが所定の性能を保持しているかは、すでに怪しい。

2021年09月21日

caboose を作る 5

Ambroid NP caboose これはNorthern Pacific 鉄道のカブースである。24 ft(7.3m)だから、かなり短い。内野日出男氏が、TMSに 4-8-4(Northern)を発表したときの背景にも写っている。これはQuality Craftではなく、その前身のAmbroidの製品である。木部の仕上がりがとても素晴らしい。
 内野氏はすぐ組み立てたが、筆者は部品を紛失して、それが見つかるまで10年以上頓挫していた。その後、部品が見つかってからも30年ほど進展しなかった。今回十数時間掛けて、生地完成まで持ち込んだ。調査して、キットの図面に描いてない部分も作った。

Ambroid cement Ambroid は、接着剤のブランドである。日本では、昔のセメダインCが近い。溶剤にニトロセルロースを溶かしたものだが、かなり可塑剤が入っているように思う。パリッとは剥がれにくいところが優秀である。金属もかなりよく付くが、キュポラの4隅が、今回珍しくも剥がれた。再度、エポキシ接着剤で付けたので、大丈夫だろう。

 ある人によると、接着剤の販売促進用にキットを売り出したと言うが、それはかなり信憑性のない話だと思う。それ以前にこの種の木製クラフツマン・キットはいくつかあり、それにはAmbroid Cementを使え、と書いてあった。おそらく、Ambroid の経営者の中に鉄道模型の趣味のある人が居た、というのが真相だろう。Ambroid とは、「琥珀のようなもの」という意味である。色はやや飴色で琥珀に似ている。固まったものも少し柔らかい。
 琥珀とは、古代の植物の樹液が埋もれて出来たものである。要するに松ヤニを長時間蒸し焼きにしたようなもので、宝石ではあるが有機物である。

 木製キットを組むにはエポキシ接着剤が良い。エポキシは混合直後はかなり粘度が低く、流れて沁み込みやすい。デッキの縦の針金を端梁に接着するときは、それを利用する。木材に孔をあけて針金で出来た手摺を差して、根本に少し接着剤を置く。2分経ってから見ると、孔に流れ込んで針金の周りには無くなっている。入らなかった残りは、綿棒に溶剤を付けて拭き取る。綿棒を一定方向に回転させるのがコツだ。そうしないと綿の繊維が抜けて残ってしまう。溶剤は、スプレイの液を用いれば良い。 

 この種のキットは、もう組める人が少なくなった。一時期は奪い合いになるほど売れたが、現在では e-bay などでよく見かける、しかし特定の機種は全く出てこない。HOもあるが、素材の粗さが相対的に2倍になるので、表面処理はなかなか大変であろう。もともとはOスケールから始まったので、自ずから限界はある。 


2021年09月19日

caboose を作る 4

PRR N6A 気になっているカブースにPRR N6Aがある。これもQuality Craft の製品で、木部の寸法が正確である。すなわち車体はすぐに組めるが、そのまま放置されていた。その先は、相も変わらず難行苦行である。キュポラはソフトメタル製である。突き合わせ部を正確に45度に削り、隙間なく組めるかを確認する。輪ゴムで縛ってエポキシ接着剤で留めた。天井の梁を作り、ネオジム磁石を埋め込む。屋根板はブラスで作り、裏に薄鉄板を貼る。こうすれば密着し、隙間もなくなる。

 キュポラを支えるブレイスを取り付け、細かい手摺を付けていく、この作業が一番大変で、午後全部を費やすことになった。

 デッキの手摺は細いブラスの帯板に孔をあけ、リン青銅線を差し込んでハンダ付けする。細い帯板の中心に孔を開けるには、このOptical Center Punchが有効である。完全に真ん中にあくので気持ちがよい。もちろん細い穴をあけるには、この高速電気ドリルが必要だ。 

 組み終わると、苦労も忘れる。赤く塗ることにした。PRRは時期により、様々な塗りがある。赤かった時期も、その赤はいわゆるカブース・レッドではない。わずかに茶色味を帯びた赤である。

2021年09月17日

余分なハンダを取る

 このカブースの屋根は、木製だったが、ブラスに作り替えた。細かい手摺等を接着しても、取れてしまう可能性が高いからだ。

 板に孔をあけて、手摺の針金を突っ込み、ハンダ付けする。ハンダは十分に付け、孔の中外によく廻っていることを確認する。こうしておけば、まず取れることが無い。余分のハンダはどうやって取るべきだろうか

minimizing slolder 殆どの人はキサゲで落とし、ワイヤブラシで磨くことを考えるだろう。筆者は熱いコテで下から加熱する。2秒で終わる。この方法をやってみせると、大抵の人は目を丸くして驚く。

 融けたハンダは液体であり、コテはハンダを吸い取るのだ。重力で流れ込むのである。条件として、コテの表面がよくハンダでぬれていることである。ガリガリに錆びていては、うまく行くわけがない。

 もう一つの条件は、ハンダが完全に融けなければならないということである。63%スズの共晶ハンダであれば、融けた瞬間に完全な液体になるので、ハンダゴテに吸い込まれる。共晶でないときは、ザラザラしている状態(こしあん状態)があって、融け切るまで流れにくい。

minimizing solder 筆者は、殆どの場合、共晶ハンダしか使わない。その理由を聞いた人がいるが、このハンダ吸い取り術が、簡単に使えるからである。この写真の矢印の部分が、吸い込んだ後である。孔に挿した針金の周りに、富士山の裾野のようにハンダが残るが、その他はすべてコテに回収される。下はこれから処理する所である。
 ハンダはブラスの板の表面に残っているが、めっき程度の厚みで、気になる人は削ればよいが、その意義があるかどうかは人によるだろう。

 筆者はハンダを削るということをあまりしない。ブラスに傷がつくのが嫌なのだ。塗装すると見えてしまう。このめっき程度の膜は塗装するとほとんど見えなくなる。



 400号あたりのTMSのミキストに山崎氏が、この操作を書いていたのを覚えている。それも一回きりで、その後全く出て来なかったと思う。普通のハンダを使う限り、この吸い込み法は、よほど大きなコテを使わない限りうまくいかない。おそらく、やった人が成功しなかったので、広まらなかったのではないか。 

 祖父江氏は、流れ作業で作ったものを、順次ひっくり返してハンダを吸い取っていた。その手捌きがあまりにも見事で、見とれていたことを思い出す。大きなコテでハンダをたっぷり溜め込むのだ。溜まったハンダは回収して再度使える。みなさんもお試しあれ。これが出来ると、キサゲの量が1/10になる。先日クラブで紹介したところ、評判が良かった。
 クラブ員の中にはハンダ付けのプロ(電子回路製作)も居るので、色々と補足して戴いて、充実したプレゼンテイションであった。 

2021年09月15日

Flanger

DL&H FlangerDL&H Flanger2 レイル間の雪を削る車輌である。スノウプラウを通してから、この車輌の出番である。分岐の無い線区を掃除する。途中に踏切があると大事故になるから、その線区を熟知した人を乗せる必要がある。

OCT.1973 MR この種類の車輌の説明が1973年10月号のModel Railroaderにあった。何度も読んだのでよく覚えている。本物は、レイルの内側を深くえぐるようになっているのだ。
 自作しようと思っていたが、1985年頃 Quality Craftから発売されたので、購入した。製品はこの図の方式ではなく、スキの部分が軌間に嵌るようになっている。ここが低いと実感的だが、当たると脱線する。

 この車輌も着工から30年以上掛かっている。目立つところに置かないとやる気が出ないと思ったので、陳列棚の一番前に置いたが、それでも20年ほど手を付けなかった。無意識に目を逸らせていたのだ。近年、台車を3Dプリントで作れたので、少し手を加えて生地完成まで持ち込んだ。近々塗装する。塗色が意外な色で、驚いている。一般的には、L&HR(リーハイ & ハドスン リヴァ)は青を基調色としている。

 多雪地方の車輛には興味がある。住んでいる地域は冬に積雪がある。日本海側からの雪道(峠を通って雪が吹いてくる通路)の下なので、北陸で豪雪があると、こちらにも少し降るのだ。標高がやや高いので、たまに大雪になることもある。天気図を見て、粉雪が降ることが確定すると、庭に仮設の線路を敷く。雪掻車を出動させて除雪をするのは楽しい。
 とはいえ、Oスケールでも、除雪は難しいものだ。スノウプラウにはシリコーン・スプレイを施し、ぬれを悪くさせると、なんとか掻き分けられるようになる。HO以下ではまず無理であろう。さすがに1番ゲージくらいになると、かなり実感的になっている。

 一時期、本当に除雪できるロータリィ除雪車を作ろうと思っていた。簡単そうに見えても、確実に除雪できるようにしようと思うと、かなり難しい事がわかった。電気ドリルの先にワイヤブラシのディスクを付けて、試してみた。模型のサイズでは、雪がロータまで届きにくいことが判明し、あきらめた。雪の粒子は小さくならないので、絡み合って「粘りけ」のようなものが発生し、雪掻車の左右の出っ張りで全体が押されて行く。粉雪であってもほとんどうまくいかない。この動画では、こんなに低温であっても、1番ゲージでさえも苦労しているのがよく分かる。このあたりのことは、Rheologyという学問領域にある。要するに、流れるものなのに剪断に抵抗するのである。ご興味のある方は、勉強されると面白い発見があるだろう。 

2021年09月13日

ゴム弾性 2 

 生ゴムは、中に反応性の高い二重結合をかなり含んでいるのですが、それは自分では反応しません。数%の硫黄を練り込んで加熱すると、長い分子間に適度な架橋が起こり、今までは弱い分子間力だけで束縛されていたのが、部分的に強力な共有結合で結び付けられるようになります。ある程度の自由な動きと、限界まで引っ張ったときの共有結合による束縛が両立する都合の良い構造になるわけです。輪ゴムを引っ張ると、最初はゴム分子の主鎖の高分子がほどけるにつれて長くなり、そのうちに硫黄の共有結合が限界を示します。それ以上引っ張ると切れてしまうでしょう。手を離せば、ゴムの分子は、存在確率がより高い、くしゃくしゃの状態に戻ろうとして縮みます。温度が高いと、分子運動が大きくなり、よりくしゃくしゃになろうとして弾力が強くなります。すなわち、弾力は絶対温度に正比例します。フックという物理学者はそれを見て、「ゴムは気体である」という有名な冗談を吐きました。

 考えてみれば、ゴム風船は縮もうとし、気体は膨張しようとします。運良く、その向きが逆ですから、風船の大きさは一定に保たれます。もしも、その向きが同じであれば、急速に膨張して爆発するか、収縮してしまいます。風船を加熱すると、気体は膨張しますがゴム弾性は増大するので、あまり大きさが変わらないのが興味深いところです。模様の付いた風船を膨らませて、一部をヘアドライヤで加熱すると、そこだけ縮むのがわかります。人の顔が描いてあれば、局部的に加熱して、しかめっ面をさせることも可能でしょう。

 すべての長大な分子(高分子)には、分子間力がある程度あるので、生ゴムのような性質を持ちます。シリコーンでは、-O-Si-O-C-O-Si-のような主鎖の間に架橋を起こさせなければなりません。一番簡単なのは過酸化物を加えることです。酸素による架橋が起き、安定化しますが、その安定度が非常に大きく、いかなる方法でも、主鎖が切れない状態で架橋を切ることは出来ません。(終わり)


 というわけで、シリコーン・ゴムが曲がっているのに力を掛けても、加熱しても、形は変わらない。製造時にまっすぐ保つしかないのである。水平に置けば潰れていくであろうし、垂直では伸びてしまうであろう。水平に保持した細いパイプの中でゆっくり回転させるしかなさそうだが、決して出来ないというほどのものでもない。これを実用化できれば、称賛を得るであろう。このままではだめだ。  
 最近連絡をもらった友人からは、シリコーンゴムは外れやすいとのことだ。摩擦が小さいので、軸から抜けてしまうのだろう。あまり優秀な材料とは思えなくなってきた。


2021年09月11日

ゴム弾性 1

 結縁氏からのゴムについての質問に、詳しく説明した返事を送ったところ、その説明はブログで公開する価値がある、とのことであった。一般人はゴムの構造についてほとんど知らない、と感じられたのであろう。
 手紙に少し補足したものを、ここに示すことにする。

 加硫というプロセスは、非常にうまく出来ていて、よくこんな方法を思い付いたものだと、いつも感心します。ゴムタイヤは熱いアスファルトの上を走っても、高圧の空気を充填しても、弾力は保たれますが、永久的な変形はありません。必ず元の形に戻ります。
 天然ゴム自身は、そこそこに弾力がありますが、チューインガムのようなものです。当然、夏はべとつき、冬はパリパリになってしまうので、ゴムというものは発見されてから100年以上も、うまい使い途が見つけ出せなかったのです。

 アメリカの図書館でこんな話を読みました。
 Goodyearという人は、ゴムの改良に勤しんで、全財産を使い果たしました。いよいよ明日は家を追い出されるというときに、ヤケを起こして、実験材料を蹴り飛ばしました。たまたま、そこにあった焼けたストーブの上に硫黄との混合物が落ちて焦げ始めたので、あわてて払い落としました。するとその塊は生き物のように跳ね返り、実に適当な弾力を示すことがわかったのです。次の日に、債権者たちに実演して見せて、それで窮地を乗り切ったと言います。たまにはヒステリィも効果があるのでしょう。(結局の所、Goodyear はブランド名には残りましたが、企業家としては失敗したようです。)

 加硫は米語では vulcanization(英語では  vulcanisation)と言います。火山 volcano と関係がありそうな綴りですね。熱と硫黄を使うのでその名がついたのです。


2021年09月09日

木製貨車をブラスで作る

 木の板を隙間なく張った側面を再現するには、ブラスの板に細かい溝を彫らねばならない。そのための専用の工具もあるので、簡単ではある。しかし、その後の処理をどうするかについては、説明を見たことが無いように思う。
 圧延された金属板には、目には見えないが、表面には残留応力がある。それを溝彫りによって断ち切ると、反りくり返ってしまう。その補正は難しい。エッチングも同じことである。片面に模様がつくと、反りくり返る。模様のとおりに、裏から見ても分かる凹凸が残る。また、腐食の速度も場所によって異なるので、表面の彫りの状態が不均一となる。
 これを防ぐために、エッチングを施す前にブラスの板は、焼き鈍される。だから、エッチングされた板は腰がなく、くたくたである。以前にも述べたように、細いアングルは縦溝をエッチングして曲げてあるので、話にならないほど、くたくたである。きちんとしたプレス型上で曲げて加工硬化させたものとは、比較できないほど駄目である。

Look inside さて、最近よく登場するF氏は、金属加工には深い造詣のある方で、次のような手法で解決している。木板張りを表現するために、裏表に同様な溝を彫ってある。こうすれば打ち消し合って、板は曲がらない。もちろんすべての溝が同程度の深さでなければならないのは言うまでもない。この方法で、腰が強く、扱いやすい側板ができる。
 伊藤 剛氏の遺作の修理は、F氏により、この板を使ってなされた。

 サンドブラストを掛けても、残留応力で反ることがある。日本のメーカで、サンドブラストを導入した頃、テンダの表面をそれで綺麗にしたのだそうだ。すると全て反ってしまって、作り直さざるを得なくなった。本当はハンダ付けが上手な人が作って、キサゲでわずかに余分なハンダを削って仕上げる程度が良かったのだ。しかしサンドブラストで梨地になると高級感があったのだそうだ。韓国製はエッチングした板を使っているから、反らない。その代わり、剛性がなく、重いものを鷲掴みにすると歪んでしまう。

2021年09月07日

caboose を作る 3

Nickel Plate Road このNickel Plate 鉄道のカブースは、長年探していたものだ。45年以上前から様々な媒体で写真を見たが、キットは全く見つからなかった。塗装が可愛らしいので、購入者がすぐ組んでしまうのだろう。
 人気があるので、後継のGroor Craftが再生産に踏み切ったのは30年ほど前だ。一瞬で完売した。これは友人に頼んで入手したものだ。

 作りは、Quality Craft(Weaver)の手法を踏襲しているが、多少寸法精度が良くない。特に厚みが怪しいから、よく考えて作らないといけない。何も難しいことはないが、図面だけからの情報では、満足の行く形にはなりにくい。要するに図面があまり良くないし、また板の厚さが正確とは言い難い。接着剤はエポキシを使うと、時間がかかるが、沁み込んで固まるので、丈夫なものができる。

 白い部分のディカールは、白帯全体を貼るようになっているが、成功の確率は小さい。文字部分だけを貼るつもりだ。

 この模型の下塗りはオイルステインである。アメリカで普通に売っている家具用オイルステインに漬けて、完全に沁み込ませ、それを乾燥硬化させた。中で固まっているので、上塗り塗料が沁み込まない。普通はラッカ・サーフェサを塗るが、それは表面だけに載っている。中まで固いわけではない。中で固まる油を沁み込ませてあれば、サンドペイパで削っても具合が良いことが多い。またカビが生えなくなるというのも、大きな利点である。
 オイルステインはアマニ油でできているので、樹脂化する。日本で市販されているのは樹脂分が少ないから、これと同じ結果は出しにくいだろう。床に塗る透明塗料は沁み込んで固まるので、そちらをお勧めする。

 これで、塗装できるカブースは6輛となった。しかし未完成カブースは木製4輛、ブラス製6輛ほどある。先は長い。

2021年09月05日

caboose を作る 2

SF caboose このカブースはSanta Fe の木造車である。30年ほど前、Quality Craft 社(現Weaver) のカブースのキットをかなりたくさん購入した。見つけ次第、全車種である。機関車を持っている鉄道のカブースは、すべて手に入れたことになる。社長のBob Weaver氏を訪ねて話を聞き、興味を持った事が大きい。1970年の発売時のキャッチフレーズは、
 You can say, "I built it."
であった。確かにまともに作ると最短で4日ほど掛かるが、当時の他のキットと比べると格段に素晴らしかった。
 キュポラ部分はソフトメタルの鋳造品であるから、重心が高くなる。床に錘を貼って重心を下げた。

SF cabooses Santa Feは、木造も鋼製も同じ形をしている。3輛ある。 左から順に木製、US Hobbies(安達製作所製)、Lobaughである。色も同じでTuscan Redトスカーナ地方の屋根の色)になる。大抵の場合、屋根まで同じ色だ。

Lobaugh SF caboose 次は、Lobaughのを完成させねばならない。オリジナルのブラスの屋根を切り抜き、キュポラを脱着出来るようにした。こうしておかないと窓ガラスが貼れない。切り抜かれた屋根板は、孔の廻りが細くなって折れてしまうので、補強材を入れた。このキットは快削のブラス製であって、かなり硬い材料である。糸鋸でサクサクと切れて気持ちが良い。現物が走っていた時代に作られたものだから、寸法は正しいはずだ。 しかもLobaughはサンフランシスコの会社だから、現物を毎日見られた。

 Santa Feは、Wigwag という手旗信号のようなものをキュポラに付けていた時期がある。丸い板2枚を上げ下げして、機関車との交信をした。どのような交信内容だったのかは、調査中である。機関車側からは汽笛で返答だろうか。

2021年09月03日

caboose を作る 1

 組み掛けたまま20年以上放置されている貨車群を、毎日少しづつ手を加えて完成させている。目立つ所にたくさん置いてあるカブース群を、なんとかしたい。しばらく前に数輛完成させたが、まだまだ沢山ある。その中でもこのN&Wの木製カブースは手が掛かるので、敬遠されていた。着手してから、かれこれ30年は経っている。

 なぜ敬遠されたのかは、話すと長い。もともとは日本製のブラス製品を探していたが、手に入らず、たまたま見つけたこのQualty Craft (現Weaver) の木製キットを組み始めた。図面には何も描いてないが、このカブースの屋根は尋常ではない。多雨地域の鉄道であり、キュポラの屋根の僅かな庇(ひさし)にも、樋が付いている。その先は縦樋になり、車体全体の樋に落ちる。更にその先は、デッキの角の丸柱の中の空間を利用して、ステップ脇を通り、下に捨てるようになっている。

N&W wood caboose もっと思い切った構造にすればよいのに、手間を掛けた樋で、それを作るのは面倒であった。全体がブラス製なら、樋をハンダ付けしてしまえるので簡単である。木製のボディに、ハンダ付けして作った細い樋をどうやって取り付けるか、頭を悩ました。これで25年ほど遅れたような気がする。
 目立たないところに孔をあけ、金属樋から生やしたピンを挿し込んでエポキシ接着剤で固定した。なんと面倒な製作法であろうか。やっている自分が呆れるほどの手間を掛け、ようやく生地完成である。木部を捨てて、ブラスで作ればよかったのだ。

 やはりブラス製が簡単である。ハンダ付けなら一瞬で終わる。固定ジグを作り、テープで仮留めして1時間待ち、その部品同士をハンダで結合するといううんざりする方法で作った。フラックスは最小限にし、保護シートを置いてハンダ付けする。接合したらすぐに水洗する。下塗りがしてあるので、水は表面だけに付くが、沁み込むとまずいのですぐに払い、風を当てて乾燥する。

 キュポラの脇の4本のナット締めが興味深い。これは、キュポラからの監視要員が足を出して座る座席を固定するものである。

 色は赤いのだが、それをどこまで塗るか決めねばならない。屋根まで赤い時期があったのだ。屋根は当然褪色し、埃が積もって赤みは薄くなっている。黒っぽくすると楽だが、どうするかまだ決めていない。


2021年09月01日

クハ サハ

 国鉄の電車のクとサという記号の解釈は、諸説あるようだ。クはくっついているとか、サは差し込まれて走るからだとか、もっともらしい解説がある。それではモは何を元に作られた言葉なのだろう。
 もっともらしいからモなのか?そんなことを言う人は居まい。しかし、クとサの説明から考えるとそれでも良いではないかということになってしまう。すなわち、上記の説明は怪しい。出典を書いてあるが、それも実に怪しい。

 伊藤 剛氏は、20年ほど前、
「その種の説明をする人がいるから、ますます誤解が大きくなるのですよ。」
と、以下のような説明をしてくれた。

「最初に言わなければならないのは、これらはすべて英語から来ているということです。モーター・カーの、これは簡単ですね。はコントロール・カーのクです。なになに?コですって。発音はクォントロールだったのですよ。最近はコントロールですが、昔はクァ、クィ、ク、クェ、クォと発音する人はたくさんいました。汽罐車の漢字のルビ(ふりがな)にも、きくわんしゃ”と書いてあったくらいなんですからね。
 日本語のカ行の外国語表記には ”Q” の文字を使って、qua, qui, qu,  que, quo としたほうが良いと言った人も居たのです。最近の本に書いてあるような、『くっついて走る』は、当然間違いです。

 は難しいでしょうね。これはsubordinate carです。意味は追随する人、家来のことです。英語の辞書には、a person under the authority or control of another within an organization とあります。ほら、コントロールと対になっているでしょう。
 この言葉は、昔の教育勅語の英訳にありましたよ。”汝臣民は、父母に孝行を尽くし・・・” の英語訳の最初には、”Thou subordinate shall ‥‥”とありました。お前達付随車は、・・・という意味ではないですけど、まあそういう意味です。」

 英語に堪能な方だったので、様々な例を引き合いにして説明戴いた。ともかく、この分野の言葉は英語から来ていることは、間違いない。それを日本語の怪しい言葉で満足しているのは、明らかにおかしい。インターネットによって、その怪しい解釈を撒き散らすのは、やめるべきだ。


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