2009年09月

2009年09月30日

エアコンダクト

air-conditioned Pullman アメリカでは1930年代からエアコンの装備が大々的に始まった。プルマン寝台車、食堂車、展望車はすべてエアコン付きになった。



air-conditioner duct ダブルルーフ(monitor roofという)の車輌には屋根上に枠を作って断熱ダクトを這わせた。
冷気は各室に送られ、ガラリから廊下に漏れる。廊下の隅にリターン・ダクトがあって、吸気を再冷却して送られる。

air-conditioner duct2 個室寝台の場合はダクトは片方だけだが、開放寝台では両側にダクトがあるので、事実上丸屋根になる。

 冷房装置は床下につりさげられる。かなりの大きさである。このような列車を牽くのはかなりの抵抗があったに違いない。
 その後、ディーゼル発電機を積む機種も出てきたが、当初は車輪からの動力採取であった。

 1輌60トン以上の重い列車を牽いて走る機関車は、かなりの出力がなければならない。30年代の最先端の旅客用機関車は3000馬力級であった。冬は蒸気暖房をまかない、夏はエアコン駆動をしなければならないのだから、ボイラ能力にはかなりの余裕がなければならなかった。

2009年09月28日

Ayres の室内用品

Ayres Scale Modelsdesk, table and chairs Ayresはカリフォルニアの会社である。地元の良質の松材を使った客室家具を提供していた。ルータを使って溝を掘っただけのことであるが、両袖机とか食堂車のテーブル、安楽椅子などを販売していた。
 どれも単純明快の形をしているが、色を塗って小物を取り付けると、なかなか良い。

 実は筆者は、室内装置がまだ足らないのでルータを使って量産しようと思っている。そのためにはこの会社の製品はデザインが単純で楽である。

 ルータはルータテーブルにとりつけて、材料をガイドに沿って滑らせる。大昔に29ドルだったかで買ったルータは、ベアリングの精度もよく、まだ十分に使える。
 筆者のルータテーブルは板金製の安物であるが、このような用途には十分使える。刃物も何種類かあるので、プルマンの開放寝台は簡単にできそうだ。

 問題は材料の木である。ルータに掛ける木材は、裂けにくく粘りのない木が適する。その点ではシーダか松、あるいはレッドウッドが良い。この松の芯材は、ヤニが少ない。レッドウッドは最近高価であるが、家を建てたときの残材が少しあるのでそれを有効利用してみたい。

2009年09月26日

続々 Walthers の客車キット

Walthers' castings for passenger cars ウォルサーズはこんなものまで製品化していた。これはプルマンの車内に掛ける背広や帽子である。鞄もある。
 右はコウチの鉛合金製の椅子である。あまりにも重くて不評であった。のちにやや薄い鋳物を他社が売り出したのでそれも使う。やはり車内装置は木製かプラスティックに限る。

 他にシャワー・ルームから顔を出す美女?とかあまり感心しないものもあった。シャワー・ルームのある車輌は限られていて、business car, private car位のものである。NYCにはあったように思うが、UPには無かったように思う。


Roof End Casting 屋根の端の丸みを付けるのは製作者の仕事であるが、その上端の縁取りを付けるのは難しい。この鉛合金のひげを付けると簡単に完成する。削るときのガイドにもなる。30年ほど前から、模型人はこのような細工をすることを面倒がって、このキットは売れなくなった。HOの方は先端部だけプラスティックの一体モールドにしたが、それでも面倒な人が多く、結局屋根はプラスティックの完成品になった。

 この鉛合金のひげは中古市場で大変高価である。糸ハンダを曲げれば済むことなのに、これを買わねば出来ないと思っている人が多いということなのだろう。

2009年09月24日

続 Walthers の客車キット

Pullman interior Walthersのキットは1940年頃からあるそうだ。戦争中も売っていたという。室内装置も同時に発売されていた。見つけると、これまた中身も見ずに全部買う。時々、椅子以外のお宝も入っていることがある。






 
Pullman seats プルマンの車内は木製の椅子(左の写真)が大半であるが、コウチ(座席車)は重いホワイトメタル製である。1輌分で300gもある。床板に強固に接着しないと、ばらばらとはがれて気分が悪い。
 概して客車は貨車より重く、平均1300gほどもあるが、コウチはさらに重い。6軸で割ると軸重が200g以上であるから、ボール・ベアリングが必要である。

chair moulding そのコウチ用の椅子で極端に軽いものを作った人がいた。作者の名前は不明だが、これはあちこちで見るので、かなり大量に作ったものだろう。
 ルータで形を作ったもので、それを輪切りにするとリクライニング・シートになる。丸鋸で切ると刃の厚みの分がもったいないので、マイタ・ボックス中でアサリの無い胴付き鋸で切る。
 木材はシーダである。鉛筆の木の部分と言えばお分かり戴けるだろう。



筆者註 ルータはrouterのことであり、回転する工具で木材に型刃物の形に彫り込む道具である。不思議なのは、発音が"ラウタ"であることだ。末尾のrを抜いたrouteはルートと発音するのだからルータでもよさそうなものである。
 西部の方に行くとrouteもラウトと発音する人に出会う。聞いてみると、「ルートというのはフランス語だ。ラウトがアメリカンな発音である。」と言う。真偽のほどはわからない。


2009年09月22日

Walthers の客車キット

Walther's kit 2Walthers' kitWalthers' kit 3






 ここに登場する客車は大半がWalthersのキットである。筆者はかなりの数のキットを持っている。すべて一山いくらで購入したものである。
 Swap Meetで山になっているのを、初日一番に行って一山を中身も見ずに買い、ホテルの部屋で点検する。要らないのをその日に自分のブースで安値で処分する、というやり方でプルマンを全種複数台集めた。

 これらのキットは1950年頃、売り出されたもので70年代まで売られていた。HOもあったので、椙山氏のためにたくさん購入して送った。
 構造はブリキの側板、バスウッドの屋根と床板、ホワイトメタルの文鎮のような妻板である。それほど精密ではないが、客車は数で勝負であるからこれで十分だ。

 屋根はゲージを作って妻の丸味を削り出す。ダブルルーフの形状は意外と複雑で手間がかかる。削り過ぎるとパテを盛って修正する。
 エアコンが付いている車輌はダクトを付けねばならず、なかなか面倒である。目止めして塗装する。
 床下機器は角材、丸棒、ホワイトメタルでごく適当に作る。台車はかなり怪しい形状の亜鉛ダイキャストが指定になっている。
 最近は希少品種になったようで、出物は少ない。オークションでは高値で落札される。

 先日の関西合運で仮組みのキットを披露したが、どなたもかなり驚かれていた。「こんな粗雑なキットでは…」と思われた方もいらっしゃるであろう。しかし色を塗ってディカールを貼れば十分価値がある。
実は筆者自身も当初は価値は低いと思っていた。しかし友人のレイアウト上で列車が走っているのを見て、その考えを改めた。レイアウト上で走らせるには十二分である。

2009年09月20日

続々々々 UP7001の牽く列車

observation platform この車輌の最後部には見慣れぬものが付いている。マーカーランプを点橙させるための導光装置である。

 今でこそLEDでマーカーランプを光らせることは容易であるが、小さな電球の入手が不可能であった時代にはこの方法しかなかった。50年代のTMSに、この方法が「MRより」として紹介されていたと思う。確かルーサイトという名前を使ってあったように覚えている。
 有機ガラスにはいくつかのブランドがあり、プレキシグラスなどが有名である。写真の方法でも光はかろうじて導かれる。すべて全反射させるためには曲げ方に工夫が必要であるが、効率を考えることもないので、これで良しとする。

 この導光装置を見てぎょっとする人も多いが、走らせているときには、あまり不都合を感じない。なかなかうまい設計である。
 オークションでこの車輌を見つけたが、誰も応札しない。その理由はこの導光装置が大写しになっていたからである。確かにこの角度から見ると不細工である。
 筆者はむしろ導光装置に興味があって応札した。最低価格での入手であった。

 室内装置が完全に壊れていたのでいずれ作り直す予定である。室内装置は当時の製品を探し出すことができた。ソフトメタルと木でできている。正しく塗装して、照明をつければかなり素晴らしくなるだろう。

 DCCを使えば、これらの個室の一つずつの照明を個別に点滅させることも容易である。モータ駆動部分が焼けて不良になったデコーダはこのような用途に使うことができるから、捨てることはない。

2009年09月18日

続々々 UP7001の牽く列車

3 comp't 2 Dr.Rm Observation3 comp't 2 Dr.Rm Observation 2 展望車には個室も付いている。いわゆるdrawing room である。この車輌には2室ある。ドローイング・ルームとは何かという論議があったが、製図室ではない。

 この言葉はもともとBritish(イギリス語)で「控えの間が付いた客間」ということらしい。鉄道用語としては、ベッドが三つ以上あり、二間続きになる部屋というわけで、隣のコンパートメントとつなげることができるものを指す。ベッドをたたむとある程度の大きさの部屋となり、会議もできる。

 以前見たアメリカ映画では、社長はドローイング・ルームに居て、秘書はコンパートメントに控えている。打ち合わせは社長の部屋で行うという場面があった。題名は覚えていない。
 
 客船の中を見ると、同じような間取りの部屋がある。横浜港に繋留してある氷川丸の一等船室がよく似ていたように思う。古いホテルにも同じような間取りのものがある。
 コンパートメントには、各室にトイレと洗面台がある。この車輌には6組付いている。

 この車輌はオークションで破格の値段で落としたもので、あまり出来が良いとは言えないがそつなくまとまっている。50年代に組んだものらしい。当時は接着剤が良くなかったので釘とネジとを使って組んである。したがって多少の凸凹があるが、気になるほどではない。

2009年09月16日

続々 UP7001 の牽く列車

UP CoachUP Coach2


 これもHarriman屋根の車体である。このキットはWalthersの製品で1940年代のブリキ側板の製品である。屋根、床板は木製、台車は亜鉛ダイキャストである。幌の軟らかさ、腰の強さには驚く。写真でお分かりのように妻から直立しているが、極めて軟らかく、またプラスティック板の骨が入っているので、リブがぴんと立って形が良い。

 スワップ・ミートで丹念に探して、あるだけ買って来る。20台分位は確保したので在庫のキット分くらいはある。

 この車体も中古品で窓ガラスが汚いのは実感的である。色はプルマン・グリーンである。これは諸説あって、UPの戦前色はオリヴ・グリーンであったとか、いやプルマン色であったと、議論は尽きない。

 台車は軸箱可動ではない。3軸なので中央軸穴をやや大きく作ってごまかしてある。側枠はイコライズしている。要するに中央軸を何らかの方法でスプリングで支えれば、目的は達成できる。

 そのために中央軸用の中空軸にボールベアリングを嵌めたものは用意してある。いずれ取り換えるが、今回は間に合わない。


2009年09月14日

続 UP7001の牽く列車

Harriman baggageHarriman baggage 2 


これは baggage である。荷物車は先回述べたように、郵便車を守る防壁の役割を果たす。郵便車と荷物車はヘッドエンド・ イクウィップメントと呼ばれる。

 UPにはないが、NYCには座席車との合造車もあった。その合造車はcolored people のためのものであったそうだ。東部は南北戦争以前から黒人を奴隷として扱うことを禁じていた。しかし、特急に白人に混じって黒人が座るのは、多くの点で問題が起こると考えていたらしい。一度だけちらりと見た写真には黒人しか乗っていないものだった。
 その種の写真はアメリカの歴史の恥部であり、あまり公表されていないのでなかなか見るチャンスがない。南部では黒人は特急には乗ることもできなかった。西部では黒人が少ない時代であったので、荷物車に乗せていたという話を聞いたことがある。すなわち、一部の荷物車には座席が付いていたというのだ。さすがにこの種の写真は見たことがない。

 さて、この荷物車の屋根は丸い。これはHarriman roof と呼ばれる。鉄道王ハリマンは自ら車輌製作にも乗り出し、この種の丸屋根の車輌を多く作った。故椙山満氏のお好きであった車輌群である。
 この車輌はアメリカ人が組み立てたもので、カンザス・シティに乗り入れる車輌を見て作ったと言っていた。その人が亡くなる直前に譲り受けたものである。
この車輌はプルマン・グリーンである。貫通幌にご注目戴きたい。この幌はゴム製である。極めて薄いクロロプレン・ゴムで出来ていて、いつまでも劣化しない。
 古いTMSで故宍戸圭一氏がアメリカ訪問記で書かれていた製品そのものである。骨が入っていて断面を確保している。どう考えても車齢45年以上であるが、ゴムは軟らかく、つながった状態でSカーヴを通っても問題ない。
 普通のゴム製の物は20年でパリパリになったから、ずいぶんな違いである。

2009年09月12日

UP7001の牽く列車

UP postal car 2UP postal car 



 筆者が直接聞いた範囲では、UPの大陸横断本線上を旅客機として定期運行していたのは1930年代までである。そののちはチャレンジャ、4-8-4などがその任に当たった。
 支線の優等列車の牽引機としては戦後まで使われていた。カンザスシティ行きの急行列車は毎日この機種によって運転されていた。
 この車輌はRalph Brown のキットから作られた郵便車である。この車輌だけ色がやや明るい。これは椙山満氏の助言による。確かに、映画を見せてもらうと郵便車だけ色がやや明るいのがあった。プルマングリーンでなく、オリヴグリーンに近かった。

mail catcher 太いステップ、明かり採りのスリガラス、大きなメイル・キャッチャが目立つ。このメール・キャッチャは回転させて外に飛び出させることができる。その機能を優先させたため、実物のある部分が省略されている。それはハンドルである。たいして目立たないから良いと思ったが、やはり機能よりも外観を優先させておけばよかったと反省している。腕を出して走ることはあり得ないからである。
 当然ながら、メイル・キャッチャの位置は、台車のキングピン位置にある。

 ガラス保護のブラス・バーはジグを作って嵌めこんだ。車輪はLow-Dに取り換えたばかりなので、色が塗ってないのはご容赦願いたい。編成中、荷物車の前に郵便車を置く。これは強盗対策であるそうだ。荷物車の貫通路は鎖錠され客車の方から、郵便車には行けないようになっている。

2009年09月10日

続 UP7001

train #7001 Young氏はChicago & Northwestern鉄道の従業員であったそうだ。だから、発音は"ヤング式”が正しい。時々ユング式と書いてある本を見るがドイツ名ではない。
 リターン・クランク、エキセントリック・ロッドがクランクピンから片持ちで飛び出しているため、強度的に問題があると考えた。ダイナミック・バランスの問題もあった。  
 90度違いの反対側のピストンの動きをとらえるという着想は素晴らしい。ヴァルヴ・タイミング・イヴェント(弁の動き)も正確無比になる。
 ワルシャート式のヴァルヴ・タイミング・イヴェントは完全に正確ではないが、ヤング式は完全である。CNWと業務提携していたUPにはヤング式が多い。しかし、その後40年代になるとワルシャートが多くなるのはなぜか。
 それは当時の材質に大きな問題があったからだ。主台枠を左右に貫通してヴァルヴ・イヴェントを伝えるシャフトには、捻じりが掛かる。太さは大したことが無いから、常に正逆に捻じられて、最終的に疲労破壊する。つまり、疲労しにくい材料を使える時代ではなかったから、使えなかったのだ。現在なら、そういう材料はある。理論的には優れているので、これを使いたかったはずである。

 先回のリンク先の動画は定数が固定されていて逆転ができない。カットオフを早くしたときのインジケータ線図も出ないので面白くない。こちらのサイトの10Dを開くと完全な動画が得られる。定数を変えると面白い動きが楽しめる。

 DCCにするとこのようなナンバーボードの点灯も、別個に楽しめる。キャブの室内灯も点けられ、愚行権を十分に行使できる。
 
 愚行権については私信も含め、多くのコメントを戴いている。いずれ、場所を改めて扱いたい。
 

2009年09月08日

UP7001

UP7000 4-8-2 近々ある関西合運に何か持って来るべしという話があり、あわててまとめたのがこのUP7001が牽く列車である。 

 
UP7000 UPのマウンテン 4-8-2は4輌持っている。
 製造当時はハリマンの影響下にあったから、SPもUPも同じ基本設計で出来ている。実はLobaughの製品はSPのMT3なのである。それをUP7000に改造した。

この機関車は、稲見氏の製造である。祖父江氏がMT3, MT4を作り、それを稲見武夫氏が増産してUPにしたわけだ。数が少なく入手は難しいが、高価ではない。長く待っていればたまに出る。US Hobbiesから発売されたままの商品はあまりにものっぺりしていて面白くない。これはかなり加工してある。
 実物はALCOのスケネクタディ工場製で、当時世界最大のマウンテンであった。その後もっと重いマウンテンが出現したのでその座を譲った。

 この機関車は当時のUPの機関車の中で最も重く、導入に際しては橋梁、築堤などすべてを補強しなければならなかった。当初は特急牽引機として華々しくデヴュウしたが、動輪径が73インチとやや小さく、他社が80インチ動輪を特急牽引機に採用し始めてからは、あまり評価が高いとは言えなかった。 戦後、UPはシャーマン・ヒルの補機としてUP5000(2-10-2)と共に使用していた。

 実物は、Young式ヴァルヴギヤを持っていたが、のちにワルシャート式に換装されている。この模型はワルシャートである。
 ヤング式は賢い方法で、90度ずれたヴァルヴモーションを取り出すのに反対側のクランクから採っている。ワルシャートではリターンクランクから採っているが、反対側から採れば機構が簡単になり、ずれもなくなる。
 というのはヴァルヴモーションがクロスヘッドから採られているからである。この方法なら、誤差がゼロになる。リターンクランクから採ったのでは最前部と最後部は正しいが、途中は位相が微妙に狂うはずだ。

 LoboughのUP7000はヤング式で作られている。いずれお見せできるが、下廻りは完全なスクラッチ・ビルトである。

2009年09月06日

続 愚行権

 筆者の世代はTMSしかない時代を生きてきた。小学生高学年からTMSを読んで育ったのだ。買ってくると、興味のある部分を父に見せ、話をした。

 技術者であった父はおおむね肯定的であったが、伝動機構、サスペンション、軸受については、全く取り合わなかった。「こんなものを読んでいると馬鹿になる。」

 ウォームギヤが逆駆動できる件と、ピヴォット軸受には注油が必要という件については、以前書いた。
 しかし大多数の人は、ウォームギヤは逆駆動できない、ピヴォットには油を差してはいけないと信じてしまっただろう。

 こんなことは、工学を勉強した人には当然のことである。それが指摘されるまでに何十年もかかった。指導者の勉強不足、慢心がその原因であったことは論を待たない。読者にも知識を持っていた人は居たであろうが、筆者の父と同じように軽蔑していたのであろう。したがって、雑誌の誌面にそれが表れることもなかった。

 指導者の資質は大切である。ある程度の力を持っていなければならないのは当然であるが、謙虚に識者の意見を伺うということはもっと大切である。支配欲のある人はこの仕事に適さない。年をとると、その部分が急速に大きくなる人がいる。そうなると自分を客観視できない。

 遊びの世界ではあるが、正しいこととそうでないことのの区別を付けられない人は、退場して戴くほかないだろう。

2009年09月04日

愚行権

 愚行権という言葉は一般には知られていないようだ。日本語に取り入れられて20年も経っていないであろう。英語では "The right to do wrong (things)" と言うのだそうだ。
 これは、「人に迷惑をかけない限り、個人の自由は最大限に守られる」という公理から導かれる権利である。憲法の幸福追及権に含まれる。

 筆者の友人で38歳でコロンビア大学の教育学の教授になった男(日本人)がいる。当時、彼が「日本には愚行権がないも同然だ。」と言うので、そこではじめて知った次第である。
 彼は「民主主義と愚行権はともにある。」と言った。「たとえば麻薬だ。日本では持つことも吸うことも違法だ。売るのも当然違法だ。アメリカでは、売る者は厳罰に処せられるけど、買う方はほとんどの州で許されている。」
 例が悪いが、確かにそうだ。
「君の好きな鉄道模型も、北朝鮮あたりでは非合法だろうね。日本だって戦争中はその様な趣味は資源の無駄とか軟弱だとか言って、白い目で見られただろう。」ときた。

 それを聞いて悟ったのは、この種の趣味は明らかに愚行の中に入るのだろうということだ。しかし、我々はそれを十分楽しむことができる。汽車を作って刑務所に叩き込まれることもないし、明らかに間違ったことを記事に書いても許される。しかし、編集者にはそれがない。麻薬の売人と同じになるからだ。
 雑誌は年少者も読む。判断力の乏しい者に間違ったことを教えることになりかねない。編集者の責任は重大だ。昔、筆者がマスコミ関係者と付き合っていた時に、飲むと彼らがいつも同じことを言う。
「メディアの責任は重大だ。」「編集者の資質は教養の一語に尽きる。」
 おそらく、彼らの先輩たちに繰り返し聞かされているのだろう。しかし、最近の記事を見ると、その教養という点で疑問符が付く記事が多い。読者はそれに対して声を上げなければならない。

2009年09月02日

続 不思議な表現

 もう一つは線路の半径についてである。小さい半径の線路の上を走れる限界を調べて、80mmであったので…というくだりがあった。それは結構である。だから内側のレイルの半径を決めて作図した話が載っている。作者はそれが正しいと信じているのだから、それはそれで良い。

 ところが編集者が、いかにもそれに感心したように書いているではないか。これはおかしい。世界中の鉄道のうち、どこかに内側の半径を表示するものがあるのだろうか。
 しかもその内側レイルの外側なのか内側なのかの表示もない。工作の手間を考えるとレイルのベースの部分の寸法を出す方が楽である。何かおかしい。

 これが不思議で、誰かに話そうと思っていたところ、クラブの例会で伊藤剛氏にお会いした。氏は開口一番、この話を振って来られた。
「作者はそう思い込んでいるのだろうが、編集者がいかにも感心したように書いているのはおかしいです。」
 全く、筆者と同じ意見であった。「おお、あなたもそう思いますか。よかった、よかった。dda40xさんがそれでいいと言ったら、どうしようと思っていたよ。鉄道は中心線で物を考えるのです。ゲージは変化することもあるからね。今度会ったら言っとこう。でもしばらく行かないから忘れちゃうね。」
 
 メディアに携わる人たちには、相当の責任がある。常識のない編集者は読者に害を与える可能性がある。いくら趣味の本と言えども、「本当はこうだ」と言えない編集者など存在する意味がない。

 やはり、査読者が必要なようだ。 

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