工学

2006年10月15日

鋳造方案

wax injector 鋳造方案(casting design) という言葉を御存知の方は少ないだろう。

 湯口から流し込まれた熔解金属は鋳型の末端まで融けたまま流し込まれて固まる。そのとき冷え方が急で、金属結晶が析出しながら流れると粗雑な鋳物になる。温度が高すぎると固まるときに縮んで皺が入ったりひびが入ったりする。

 理想的なのは、末端に入ったときは融けているがやがて固まり始め、続々と融けた金属が注ぎ込まれて、固まるときに体積が減った分だけ補充されるようにすることである。

途中に体積の多い空間(湯溜り)を作り、融けた金属がそこに十分にあれば凝固に伴う収縮を補償するという考え方もできるし、先端に行くほど細くなるようにすればよいという考え方もできる。

 簡単に言えばそうなるがこれは非常に難しい。このようなことを考慮して、よい鋳物を作るように湯口を決め、押し湯(融けた金属が高く注ぎ込まれて、圧力が掛かるようにすること)、湯溜りを決めることを鋳造方案という。

 現在でもこの鋳造方案の完全な決定法はない。鋳造現場の技術者が指示する。鋳造方案を考えるだけで一生を費やすほどの難しい仕事である。スーパーコンピュータがあっても解決することではないようだ。これはある程度の指針を出すソフトである。

このなかにタービン鋳造時の湯流れをシミュレイションする動画がある。これは押し湯を大きく取る工夫をしている。

 実際の湯流れはこのように単純ではないらしい。



 写真はワックスをゴム型に注入するときに用いる注型機である。保温しながら圧力を掛け、ゴム型を押し付けると瞬時に注入される。ノズルに工夫がある。

2006年10月14日

印象を採る

a74fd4bc.jpg 一言で印象を採るといっても、極端な格差がある。機械部品の場合は表面が多少粗雑でも問題ない、歯科の技工の場合は噛み合わせの問題があり精度が要求される。
 さらに高精度な印象採取に挑まれた方がある。

 N社の最高顧問のO氏である。O氏は25年ほど前、クライスラ社からの依頼でレザーそのものの感触を持つ自動車のステアリング・ホイールを作られた方である。また布地そのものを印象採取して、金型に転写し射出成形することができるようにされたのもこの方の業績である。また。当時出始めていた、ターボ・チャージャのタービンの鋳造も、この方の指導のもとでなされた。セラミック・タービンはO氏によって開発された。

 運のよいことに、御子息の紹介で弟子入りがかなった。シリコンゴムによる印象採取の基本的な理屈はこの方から教わった。また、高性能な電気炉を自ら設計製作される方で、それもお世話願った。熔解炉もO氏自ら作って下さったものである。

 O氏の下で1年ほど教えていただいた。その間見せて戴いたヴィデオの中に、ロストワックスがいかにに高精度に出来るかというデモンストレイションがあった。フランスのVTRである。ピストルを鋳造し、そのまま湯口が付いている状態で組み立てて、発射するというのがあった。これには驚嘆した。

 これは何を物語るか。
  |鮟未澆蓮∩瓦謄灰鵐肇蹇璽襪任る
  ▲優厳蠹まで全て鋳造で可能であること
  8λ瓩靴覆ても鋳肌そのものを平滑にすることが可能であること 

 模型用では専ら外装部品しか必要でないが、この技術が適用可能であるなら蒸気機関車のフレイムを一体鋳造することは不可能ではない。全てのネジ穴もネジが切ってある状態で鋳造することができれば面白い。本物の鋳鋼台枠を再現するのである。
 それにはかなりのリサーチが必要であるが、将来やってみたいことの一つである。

 熔解する温度、鋳型の温度管理が大切であるのは言うまでもないが、もう一つの困難がある。

2006年10月13日

原型からゴム型を作る

ea687956.jpg 原型は何で作っても良い時代になった。以前はハンダ付けでは駄目で銀ロウ付けをしなければならなかったが、技術革新で楽な時代になった。

 まずブラスなどで作りたいものの3%ほど大きい原型を作る。この3%は「鋳縮み」という。このとき湯口(融けた金属が通る道筋)をどこにするか決めるのだが、それにはかなり面倒なことを考えねばならない。鋳縮み量は形によるので、一概には言えない。

 それを生ゴムとともに箱に押し込み、圧力を掛けて160℃くらいに加熱する。すると生ゴムの「加硫」という現象が起き、柔らかい生ゴムが弾性体になる。この装置は電気アイロンとクランプで自作できる。それをナイフで切り開き、原型をつくる。切り開く時は、後でずれないよう、ジグザグに切る。

 加硫の温度が200℃であると、ハンダが融ける場合があるので、銀ロウ付けをしなければならない。そののちに、より低温で加硫できるようになり、ハンダ付けでもよいことになった。

 現在はRTVといって、室温(Room Temperature)で加硫(Vulcanize)できるシリコンゴムが主流になっている。これを使えば、相手がプラスチックでも印象をとることができる。いくつかのブランドが日本製にもあるが、筆者はフランス製のものを使っている。寸法変化が少ないのと弾力が桁違いに良いからである。

 そのゴム型を開いて空気抜きのパウダーを塗る。ゴム型からワックス注入時、空気が抜けやすくする。ゴムの隙間から空気が抜けるが、ロウは抜けない。このパウダーの塗り方にもいろいろなノウハウがあるようだ。

 ワックスを融かして圧力を掛け、ゴム型に注入する。このときゴム型が変形しないよう、うまく押さえ込みながら入れるわけである。この操作をWax Injectionといい、専用の機械がある。ノズルが非常にうまく出来ていて、押すと瞬時に注入される。ゴム型が冷たければロウは数秒で固まる。ロウはいろいろなタイプがあるが、固まったとき硬くなるタイプを用いると、プラスティックで出来ているかの如くパリパリのものができる。また、固まっても柔らかいものもある。ロウは何種類もある。
 
 中空のものを作る時は工夫して、中子(なかご)を抜くように作る。写真は、その中子の丸棒付きのゴム型である。灰色の台ごと外して、ロウ型を抜き取る。

2006年10月12日

ロストワックス鋳造法

Billの工房 錆について書き始めたら、読者数が3割以上も増えたので驚いている。また、いろいろな方からコメント、メイルを戴き、感謝している。

 取り挙げる内容についてはいくつかリクエストもあり、その順に書いていく。
 
 最初の頃のロストワックス鋳造の話を読まれた方から、もっと詳しく書くよう要請があったので、しばらくはその話をしたい。

 ロストワックスは熱によってロウを流し出して作った空隙に、融けた金属を流し込む鋳造法である。厳密にはinvestment鋳造法という。investmentとは詰めたものという意味である。ここでは石膏などの材料をいう。

 まず、このウェブサイトをご覧戴きたい。これは宝飾用銀製品を作る方法を示している。ただ、テクニックを紹介しているだけで、技術的なことは何も明らかにされていない。写真を見て判ることは、ピンクのロウを加工して造形し、埋没材(investment)に埋め、乾燥、加熱してロウを流し出す。焼成して熱いうちに融けた銀合金を何らかの方法で強制的に流し込み、その後、その鋳型ごと水中に投下して破砕する。磨いて出来上がりというだけである。

 技能的にはこれでよいが、技術的にはかなりの工夫が必要である。わが国では「技能」という言葉と「技術」という言葉が混同されている場合が多い。殆どの場合「技能」と言うべきところを「技術」と表現しているように感じている。

 「技能」は経験のあることを間違いなく実行する能力であり、「技術」は経験のないことまで、持っている知識を活用して演繹する能力である。いわば、科学的思考力を用いて見えない山の向こうを透視する能力であるとも言える。

 
 鋳造ほど難しいものはないと思う。筆者は3人の優れた鋳造技術者に出会った。
 最初はBillである。彼は「一応大学には行ったのだ。でもあそこで教えることは知っていることばかりで、意味がなかったからやめたよ。」と言っていた。確かに金属加工、鋳造、鍛造については大変な知識の持ち主で、新しい情報も雑誌で得ていた。何を聞いても、非常に筋の通った答が返ってきて、いつも感心した。
 プラスティックを使った鋳造法はかなり古くからやっていたようだ。

2006年10月06日

ダイナミック・ブレーキ

6afb4bf1.jpg ダイナミックブレーキについては9月5日の記事で少し触れたが、さらに詳しく書けという御要望を戴いている。

 下り坂をブレーキ無しで下るのは不可能だ。軸受けがローラベアリングになると摩擦がほとんどなく、空気抵抗だけといってもよい位の状態になる。機関車の後ろには1万トンの列車がある。抑速ブレーキが必要である。機械式(摩擦)ブレーキではすぐに焼けてしまう。

 幸い電気式ディーゼル機関車は各軸にモータが付いているので、それを発電機にすれば、電気ブレーキが効くことになる。このときモータの界磁には励磁電流が必要である。補助発電機で起こした電気で励磁して発電する。作られた電力はエンジンの上部に取り付けた抵抗グリッド(抵抗器でできたバーベキュー網状のもの)に通す。発生した熱は、ファンで大気中に放出される。

 そのファンはモータで発電された電力で廻る。GP9では1番と3番のモータで作られた電力で廻ると書いてある。すなわち、力行状態では止まっている。
 ダイナミック・ブレーキを作動させたときだけ廻る。その回転音はブレーキのノッチ切り替えによって変化する。
 ベアリングの寿命を考えると、止まっているときに衝撃があると痛みやすいようにも思うが、風でいつも少しずつは廻っているので、問題はないのだろう。

 どんな機関車にも付いているわけではなく、本線上に長大な勾配がある路線のみに採用されている。発注時に取り付けるかどうかを決める。

 ギヤ比もいくつかの組み合わせが用意されていて、旅客用・貨物用、線区の勾配などを考慮して発注できるようになっている。

 運転マニュアルを見ると冷却液の調合も指定されている。-60℃までのグラフがあるのはさすが大陸横断鉄道を持つ国である。

 筆者が体験した最低気温は、自宅裏庭で-37℃、標高3300mのスキー場で-57℃である。そのグラフはハッタリではない。

 写真はKemtron社製のロストワックス鋳物である。さすがに45年前のものなので少々古臭い。右は自作のWinterization Hatchである。 

2006年10月03日

放熱ファンのルーバー

e6c58f3c.jpg 内野氏と話した思い出の中に、放熱ファン・ルーバの放射状の部材がどうして少しねじれているかということがある。

 写真はGP7の放熱ファンである。この鋳物は誰が作ったものかは知らない。多分PSCの鋳物であろう。良い形をしている。完全な放射状ではなく、わずかにずれている。中心部が少々時計廻りに回転している。どうしてだろうか。

 何人かでわいわい話していた時だ。内野氏と筆者の見解が一致した。最近、伊藤剛氏に確認したところ、それでよいということであったので公表したい。

 放熱ファンに限らず、使用時に温度差があるときは、材料の伸縮を逃がす方策をとらねばならない。この場合、温度が上昇すると放射状の部材は膨張して長くなる。すると中心部がわずかに右廻りに回転することになる。

 このような設計法は、工場のいたるところで見られる。蒸気パイプが大きくΩ(オメガ)状に曲げられているのもそれである。

 当然のことながら、蒸気機関車のポイラの支えも伸びを逃がすようになっている。鉄橋の自由端の伸び縮みはとても無視できない量だ。最近はその伸縮を逃がす支えが、摩擦の少ない特殊樹脂で出来ていてローラは使われていないそうだ。

 そんな話から始まって、ありとあらゆる工業製品とその加工の話を伺ったのがつい昨日のような気がする。

 
 
 浮津信一朗氏からも内野氏の早すぎる死を悼むコメントが寄せられた。

Recent Comments
Archives
Recent TrackBacks
Categories
  • ライブドアブログ