潤滑

2022年01月17日

続 面圧を下げる

 表題の記事を書いてから会った何人かの方が、もっと詳しく書くべきだと言う。動軸にはボールベアリングを入れるべきだと信じている人が多いが、そんなものはHOの大きさでは意味がないと言う。それより、正しい軸箱を装備して、適切な潤滑をするほうが、ずっと価値があると力説する。

 畏友U氏はボールエンドミルを使い、僅かな隙間を得るために、少しずらして刃物を通したのだそうだ。いずれにせよ、そのあとで1200番以上のサンドペーパで磨く必要がある。
 筆者はLobaughの軸受を再度洗って、潤滑油を入れ直した。素晴らしい滑りで、ボールベアリングと同等である。

2120 2Kawai HO 21202120 いつも有用な情報を下さる01175氏から、またもや貴重な写真を送って戴いた。
 カワイモデルの特製品の2120だそうだ。軸受には円筒を使っている。バネが掛かる部分にはバネ座も用意されているから、用意周到だ。注油すると非常によく走るとのことである。この種の知見がTMSに紹介してあったとは思えない。

 話は変わって、電車用のいわゆるインサイドギヤの車軸部分は板そのものが軸受である。当然油膜切れである。油はすぐに黒い汁になる。がたがたになるのは早かった。筆者はそこに厚板を貼り付け、孔を開け直した。黒い汁はあまり出なくなったから、その部分は解決したのだが、ジャーナル部の抵抗が大きく、効果は見えなかった。


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2021年11月08日

面圧を下げる

 滑り軸受(いわゆる普通の軸受)は、金属同士の直接の接触を避けるため、油膜を生成するような設計が求められる。ところが模型の軸受には、それが完全に無視されているものが多々ある。

 台枠を切り欠いて、軸を嵌めただけのものや、軸を簡易イコライザで直接押さえるものがある。これでは接触圧が高すぎて、油膜は切れてしまう。先に述べたように、軸の径の2倍半というのが軸受の設計の基本だそうだから、模型の蒸気機関車の場合は、軸の全長に亘る軸箱が望ましいことになる。

 このことを書いたら、根拠なく異論を唱える人もあったが、何人かの方から「当然だ」という意見を戴いた。機械設計に携わった人たちばかりだ。模型化にあたっての実践例があれば、その結果を知りたいと思っていた。

 先日、畏友U氏から、「あの樋型軸受を作ったら、大変効果があった」という報告を戴いた。リーマを通して割ったのではなく、ボールエンドミルを使ったそうである。ある程度の研磨が必要だろうが、とにかく滑りが大変良いそうで、こちらとしても嬉しい。
 その後、実物の保守に関わっていた方からも情報を戴いた。本物でもよく使ってあるそうだ。取替が楽なのだそうだ。これは模型についても言える。動輪をバラさなくても軸箱をニッパなどで切り捨てて、新しい樋型軸受を嵌めれば良いのだ。

 油膜を保持するには、面圧が大きくならないようにすることだ。狭い面積の軸箱ではうまくいくはずはないのだ。このあたりにも、日本の理科教育の欠陥が露呈していると思う。 

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2021年08月26日

樋型軸受

 一般的な模型機関車は、軸箱を持っている。それらは左右独立しているから、厚みが少ない。

「軸受」という専門書を図書館で読んだところ、軸受の厚みは軸径の2.5倍以上必要とあった。HOで言えば、Φ3 の軸に対し、7.5 mmを要求している訳だ。左右で 15 mmだから、ほとんど軌間に近くなる。それならば、左右を繋いで、角棒に孔をあけたものを使えば良い。この厚みが油膜を保持し、金属同士の接触を防ぐのだ。真ん中に孔を一つあけて、注油口とする。この孔は上向きが良い。パイプを挿して横に持ち出せば、注油が楽である。

Yutaka Inoue2 動輪を抜くのが面倒な場合は、樋状の軸受を使うべきだ。最近、この軸受を装着することを人に勧めている。押して動く3条ウォームを付けたHO用ギヤボックスの試作をしているので、それを装着した機関車の改良に用いてもらうためだ。全軸ボールベアリング化せねばならないと思っている人もいるが、この方法でそれに準じた性能が出せる。井上豊氏の記事では、ボールべアリングの外径が大きいので、台枠下端よりも下がった位置まで軸箱を張り出させる構造になっている。この樋状軸受なら、そのような加工は不要である。 
 もちろん内部はリーマを通してから、下側の余分なところを削り落とす。

 HOの B,Cタンク機関車の前の軸を一点で支えたいなら、この樋状軸受の上にレイル方向に溝を付けて、そこを押さえれば足りるだろう。軸そのものを押さえる方法が一般的だが、摩擦が大きいから避けるべきである。

Lobaugh drivers この種の軸受はアメリカでたまに見る。単なる角材に孔をあけただけのものは Lobaugh の製品に付いていた。これに油を注すと、ボールベアリングを装着したのかと思うほど、よく滑る。油膜の効果は大きい。油は低粘度のエンジンオイルを用いると、素晴らしい効果を示す。 

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2017年10月24日

続々 pine wood soap-box car

 どうしてこのような話を書くのかというと、鉄道模型は走らねばならないからである。見かけがよく出来ていても、牽けない列車では良くない。
 よく走り、壊れず、脱線しない。この三つがないと面白くないだろう。物理的な考察は必要だ。

 pine wood car derby でも全く一緒だ。
「形は素晴らしく、色も凝った仕上がりにしてある。素晴らしい流線形にしてある。でも走らない。」では駄目だろう。
 個別の理論はあちこちで聞く。「車輪とレイルとの接触点ではヘルツ応力が・・・」とか、様々な蘊蓄を聞くが、模型には関係のない話だ。
 様々な工学的知見は、その応用される領域では考慮せざるを得ないが、模型のような小さな力しか掛からないところで、そんな話をしても仕方がない。このような蘊蓄を語る人の模型が素晴らしいかというと、それとは関係なさそうだ。筆者も本物の様にレイルを内側に傾けると良い事があるかと思ったが、実験してみると、まったく変化はなかった。

 車を流線形にすると速くなるか、というのと同じだ。この程度の速度では真四角の車でも結果は同じである。何の効き目が大きいかということを見つけ出せないと、問題は解決しない。 


 先日例の数学者と久しぶりに会って話をした。よもやま話の中で、突然微分方程式の話をし始めた。彼曰く、
「話の中で、相手が『微分方程式で解かないとダメなんだ。』とか言い始めたら、その人の話は疑ってかかったほうが良い。」と言う。

 あまりにも唐突な話で付いていけなかった。
「そうなのかい?」
「世の中のほとんどの現象は、頭を使えばそんなものを使わなくても解けるし、微分方程式の大半は解けない。近似値しか求まらないんだ。話をごまかすためにその言葉が出てくるんだよ。気を付けるべきだ。」
 彼がそんな話を突然振ってきた背景も話してくれた。

 そうかもしれない。思い当たる話は筆者にもある。その件は、自分自身で微分方程式なしで単純な解析問題として解けたのだった。

 関西合運と自動車レースは関係なさそうだが、大いに関係があった。

2017年10月20日

pine wood soap-box car

 Pinewood Derby Trackコースを見せてもらった。こんな形である。出発地点はかなりの角度で持ち上がっていて、押えを外すと数台が同時に発車する。写真はグーグルからお借りしている。
 動力はない。位置エネルギィを運動エネルギィに変えて、後は摩擦で速度が減衰していく。ただそれだけである。単純極まりないが、走りを見ていて閃いた。

 速い車は摩擦が少ないのは当然だが、コースの形を考慮している人はいない。車体の質量は最大値が決まっている。車輪・車軸は支給されたものを使う。車体幅、長さ、高さには制限があるが、色、装飾には何ら制限はない。

 息子たちにレースへの出場の話をすると、盛り上がった。速いのを作ってくれと言うのだ。それでは絵を描けと言うと、大きな羽根を付けたロケットエンジン推進のものを描いた。制限にひっかかるので、それは却下した。それでは、と描いたのはよくあるタイプのものであった。でも後ろに小さい羽根を付けてくれと頼まれた。形を良くすると速くなると信じているのだろう。先をとがらせるという注文も受けた。

 筆者の頭の中にはあるアイデアが固まっていた。物理的に勝つ方法だ。 

2017年10月18日

走りについて

 会場を一巡りして気が付くのは、油切れの車輛があることだ。キーキー言うのだが、それを見とがめる人が居ないというのは、不思議である。
 筆者はあの音は生理的に受け付けない。すぐに退散したが、そのまま運転したのだろうか。
 フル編成の客車列車があるのだが、重くて牽けない。「機関車に力がない」という表現を聞いたが、そうではないはずだ。すべて牽かれるものの責任だ。客車の台車をよく整備して注油すれば、直ちに解決するはずだ。 
 中学校の理科の問題なのだが、解決は難しそうだ。凄じく細密な車輛もいくつかあったが、走りは見ていない。

 帰宅した晩に、先述の木片を見つけた。その木片と会場で見た車輛との関係が結びついた。 
 あれは子供の同級生の親から渡されたものだ。近々ある行事があるので、準備してくれというのだ。
 はじめは何か分からなかった。土曜日の午後、集会所に行くと子供も親も何人か居て、あることをやっている。見せてもらったのは自動車の模型である。走行用のコースも作ってある。毎年使っているのだろう。組立式であった。木製でかなり大規模なものだ。

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2016年01月18日

クランクピンの潤滑

 模型蒸気機関車の中で、一番潤滑に気を使うのはクランクピンである。力が掛かるし、保油装置が無いから、すぐ油切れを起こす。
 ロッドはブラスのドロップ打ち抜きで、厚さはせいぜい2.5 mmである。ピンの太さは Φ4 が多い。車輪より半径が小さいから、テコ比で力が倍増している。普通の潤滑油では効かない。

 筆者はロッドにボールベアリングを入れるようになる前は、スリーブを入れた。接触面積を大きくし、面圧を下げる。少しでも油がたまりやすくした。潤滑油はモリブデングリスだ。このような、圧力が大きな部分では、極圧剤が入っていないと意味がない。モリブデンは有効である。

 最近、K氏から「ベルハンマー」という潤滑油を戴いた。巷では人気なのだそうだ。極圧剤が入っているようで、ロッドに注すと、起動電流が10%以上低下する。しかし、連続3時間以上運転すると、電流が急上昇する。 そのままではモータが焼けるし、電源もシャットダウンされてしまう。ロッドに指を触れると、少し温かさを感じる。
 機関車を重ねたタオルの上に倒し、ロッド廻りを溶剤スプレィで洗う。溶剤は黒い粉とともに下に落ちる。白い紙を敷いて置くと、どれぐらい出たかよくわかる。ガーゼで溶剤を拭き取り、ヘアドライヤで乾かす。自然乾燥すると、気化熱で水滴が付くからである。
 ベルハンマーを細い棒に付け、クランクピンの隙間に吸収させる。3条ウォームのおかげで手で動輪を廻せるから、こういう時は楽だ。すべてのピンに注油し、スライドするピストンロッドや弁棒にも潤滑油を注す。 

 これで完了である。走らせると、電流値は激減する。8Vで平坦線を巡航させると、軽負荷であるから0.3A程度になる。以前は0.5Aほども喰ったのにである。効果はあるが意外に寿命が短い。

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2015年10月16日

保油機構

倉石榮夫氏 先日行われた関西合運で倉石榮夫氏の市電を拝見した。昨年は体調が良くなく欠席されたそうだが、今年はお元気そうで、新作を披露された。

 久しぶりであったので、いろいろな機構についてお話しさせて戴いた。倉石氏は農業機械の設計をされていた技術者で、機構学の要諦はすべて押さえていらっしゃる。しかも実践に基づいた知識の持ち主で、理論だけの方とは違う。

oil level 電車のギヤは、しばらく前に提供させて戴いた。ギヤボックス完備で油を撒き散らさない。
「保油機構は大したことありません。」
とおっしゃるが、素晴らしい。聞けばシャフトは鋼製で、研磨してあるそうだ。ギヤボックスは図のような構造で、油が入っている。
 ひっくり返して注油すれば、1年以上は持つそうだ。この曲がったパイプがみそである。取付け位置は歯車の中心から外してあるから、歯車によって撒き散らされない。
 倉石氏の模型は小さな機械として、輝いていた。正しい鉄道模型である。

 日本の模型は長らくブラス軸にブラス軸受で保油機構なしというのが普通だった。
「あんなもの、ダメですよ。」
とのことである。それはそうであろう。筆者もすぐ磨り減る歯車と軸受で迷惑した。専門家の目がどこにも行き届いていなかった。当時のモータは軸受が鉄板についていて、界磁の磁界がバイパスされて、最初から弱め界磁になっている。これには参った。当時、伊藤剛氏はその状態を憂えていた。

 結局、全てを捨てて始めたのが現在につながった。昭和20、30年代の日本の模型界をリードした人たちの不作為の罪は無視できない。

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2015年05月22日

switch machine

Challenger Switch MachineChallenger Switch machine Box コンピュータを更新する際に一部の写真等が行くえ不明になってしまった。そのうち出て来るだろうと思って探しているうちに、いくつかの興味深い写真を見つけた。 

 これは1950年代のOゲージ用のポイントマシンである。HO にも使えるとは書いてある。
 全長15 cmもある。3 Aくらいで小気味よく作動する。アメリカの好景気の時代に作られたもので、材料をふんだんに使い、職人が手作りで仕上げたものだ。おそらく、製造者は電気部品製造に従事していたのであろう。基本を正しく守り、インチキはない。

 今でも古いレイアウトにはこれが使われているのを見る。以前紹介したのはB29爆撃機の爆弾倉を開くロータリィ・リレィを流用したものだ。時代は違うが、これも確実に作動し、何十年ももつだろう。

 アメリカのOスケールのショウに行って、古いものを山積みしている店で丹念に探すと、このようなものがいくつか見つかる。昔のModel Railroaderの広告に載っていても現物を見ることができなかったものばかりだ。

 買ったらすぐに作動を確認したが、潤滑がないので、磨り減るだろうと思った。さりとて、油を差すと埃を寄せて却ってダメになりそうだ。こういう時は固体潤滑に限る。早い話が鉛筆の芯の粉である。6Bの芯を刃物で削って粉にし、それを摺動部、回転部に押し込む。動きが格段に良くなる。ここで紙やすりを使って粉にする人をたまに見かけるが、絶対に避けるべきである。砥粒が剥がれ落ちて混じり、中で磨り減りを助長する。

 この種の潤滑材は最近は鍵屋さんで見かける。鍵穴に入れるのだ。スプレィ式のを見たことがある。粉末が出るらしい。

 以前液体潤滑剤の宣伝で、油を鍵穴に噴霧するのを見たことがあるが、あれは決してやってはいけない。その場は良いが、二週間もすると埃を寄せて固まり、まったく作動しなくなることがある。そういう場合は錠を分解してシリンダを揮発油でよく洗って乾かす必要がある。もちろんそのあとで固体潤滑材をまぶしてやる。

 KadeeのGreas-emという商品は、まさにグラファイト粉末であって、6Bの芯と同等である。

2014年01月16日

潤滑油

 最近、「〇〇ローラー」という輪軸の話を聞いた。もう30年近く売られているものらしいのだが、効果があるのかどうかが良く分からない。
 ボール・ベアリングのような構造なのだが、アウタ・レースとインナ・レースがデルリン(ポリアセタール)なのだそうだ。ボールが入っているのだが、リテーナが無いのだそうだ。
 ボール・ベアリングはリテーナがないと玉が、擦れ合って具合が悪い。グリースが入っているのでもないそうで、ありえない話ではある。

 その現物を見ていないので、どのようなもので、どの程度の性能を持つものかはわからない。いずれ、この話を聞かせてくれた友人が、客観的なテストをされるのだろうと期待している。

 HOの皆さんは、牽かれるものの摩擦低減についてあまり熱心でないように思う。運転会に行っても、さほど長くない編成を、機関車がスリップしながら牽くのを見る場合がある。潤滑油を替えるだけでも、かなりの効果がある場合が多いはずだ。定量的な実験結果が、全く発表されないのも不思議である。
「△△輌牽いた。」という話は聞くが、全質量が何キログラムで、起動勾配がどれくらいのなのかが知りたい。

 摩擦を測定するのは簡単で、斜面を作れば良い。撓まない程度の剛性のある路盤の下に何か挟んで、勾配を作り、起動する限界を探れば良い。
 静止時から動き出す勾配と、動いている車輌が止まらない勾配を測定しなければならない。

 筆者のピボット軸受には、必ずモリブデン・グリスを少量入れてある。軸受がポリアセタールであれば、潤滑油が要らないと信じている人は多いが、測定してみると潤滑油の有無で1.5倍ほどの違いがある。潤滑は必要である。
 ほとんどの人には十分小さい値で、問題がないのだろうが、筆者にとっては軽く動く車輌でないと100輌編成が牽けないので、そこは譲ることができない。

2010年10月13日

”まねる”ということ

"まねる"ということは、学ぶということでもある。まねられるということは、それが優れていることの証明でもあるのだから、決して悪いことばかりではない。
 さて、筆者は長年「鉄道模型を科学する」という姿勢で楽しんできた。いくつかの工夫は製品化されて、鉄道模型のレベルアップに貢献したという自負もある。

 しかしその"まね"の質には問題があり、過去にいくつか指摘してきた。
 まねるのであるならば、完全な形でまねをして欲しいと考える。押して動くウォーム・ギヤも13mmゲージで製品が出ている。しかしその歯数は割り切れる組み合わせになっている。歯数が「互いに素」でないと良い結果が出にくいと、発表した雑誌の記事にも書いておいたが無視されている。スラスト・ボール・ベアリングも使ってあるが、ラジアル・ベアリングのインナレースにも当たっているから無用の摩擦が生じる。
 この写真を見ればスラストベアリングの方が大きいので、その段差でスラストを受け持たせ、ラジアル軸受は接触していないことぐらいわかるはずだ。
 模型といえども小さな機械であるから、設計者の意図を汲むべきである。それが読みとれないのならば真似などしない方がよい。似ていれば同じような性能だろうというのは、根本的に間違っている。設計者は、限られた条件の中で最大の効率を発揮するように設計している。
 その押して動くウォーム・ギヤは怪しげなグリースを詰めて売られているようだ。これも記事の中にきちんと書いておいたモリブデン・グリースを使わねば所定の効率が出ない。最近はモリブデン・グリースなど安いものであり、簡単に手に入る。しかしそれを使わないのは一体何だろうか。そんなことはどうでも良いことである、と思っているのであろう。潤滑は奥が深い。調査の結果、それを使わなければならないと書いてあるのだから、ひとまずそれを使って、それから次の段階に行くときは、別の工夫をしても良いはずだ。その時は当然比較試験をしてどちらが優れているかを調べた上の話だ。

国鉄の図面による3気筒弁装置 話は変わるが、先日関西合運で1番ゲージのC62を3気筒にした機関車を見せて戴いた。C53のグレスリー・リンクをそのまま載せていらっしゃる。あまりにも細く、驚いた。図面通りですとおっしゃるのだが、その図面を描いた人の素養を疑う。アメリカから輸入されたALCO製C52のリンクは太い。魚腹のように丸く作り、曲げに対して耐えられるようになっている。それと比べてあまりにも細い上に、軽め穴まで開けてある。これでは剛性が無いのは当然だ。このような薄い部分の軽め穴など、ほとんど効果はない。

Mr.Sofue's SP5000 これは祖父江欣平氏製作によるAlco製のSP5000である。試作時の写真が出てきたので、掲載する。実物のSP5000 と C52 の製作時期はほとんど同時であり、動輪径も同様である。この太さにご注意戴きたい。十二分に強度を持たせている。
 
 C53がどうして短命に終わったかはいくつか原因がある。その中の大きな部分はこの剛性の足らないリンクにあると思う。このような構造では高速時に大きな撓みが出て、ヴァルヴ・イヴェント(弁を動かすタイミング)に遅れが出る。軸受が少しでも減れば、それはとんでもない動きを始めるであろう。
 C53の設計者がこの部分を設計するとき、オリジナルの部品の通りに作っておけば、異なる結果になったであろうと思う。この手のとんでもない設計は近代日本の形成過程に多く存在するが、その間違いのプロセスを検証するということはほとんどなされていない。写真は土橋和雄氏撮影。

2006年11月19日

互いに素

FEF2, FEF3 歯数が『互いに素』であるというのはどんな意味をもたらすであろう。ここが、このギヤの最大のノウハウである。アメリカで売り出された韓国製のものには40:4というものもあったそうだそうだ。これでは駄目だ。

 よく見るスパーギヤの歯数比に40:20などがある。これは最も避けるべき組合わせである。必ず同じ歯が、小歯車の回転2回に1回当たることになる。何かのきずがついたり、異物を噛み込んだりしていると、いつまでもその影響から逃れることはできない。エンジンの場合、多気筒ならさほど問題はないが、単気筒の場合はピストンからの打撃がいつも同じ歯に当たると、偏摩耗してしまうし、その前に疲労して歯が折れるだろう。

 それでは40:19であったらどうであろうか。互いに素であるから、全ての歯が異なる組み合わせで当たるであろう。

 実用機械では歯車の組合わせはこのような比になっている。自動車の変速機のギヤ比を調べてみれば直ちに分かることだ。決して割り切れない比率になっている。ぜんまい式掛時計の、長針短針の関係を作る歯車(日の裏歯車という)を除くすべての歯車はこの組合わせを採用している。そうでないと、時計は引っかかって止まってしまう。

 これは英語で"harmonic wear"すなわち『調和のとれた減り方』を期待できる組合わせである。また、材質としては歯数の少ない方を硬い材料で、多い方を軟かい材料で作らねばならない。

 このようなことは機械工学の常識である。実はそのことは、技術者であった父から教えられたことだ。模型においてはその点が極めて怪しい。ゴロゴロという音がするものは、ギヤトレインの設計が間違っている可能性が高い。

 面白いことに、アメリカには日本製の模型の動力装置を取り替えることを生業としている人たちがいる。さすがにその人たちの製品を点検してみると、歯数の比は『互いに素』である。この点では合格である。

 彼らは日本の模型をかなり馬鹿にしている。露骨に「日本には機械工学の分かる奴はいないらしい」と言う。そういう連中に、この押して動くギヤを見せてやると、息を飲む。言うべき言葉が見つからないらしい。

 しかし、みな同じことを言う。「下り坂では暴走するだろう」と。「電気ブレーキが効く」と言うと、「下り坂で止まっていることができるか」と聞いてくる。

 「モータの焼けない程度の電流を流しておけば、問題なく止まっていられる」と答えると、「そんなバカな」と信じない。単三電池一本をつないでやって見せると、「そんな高級なモータを使うのはばかげている。」と捨て台詞を残して行ってしまった。

 現在では、コアレスモータはそんなに高いものではなくなったし、DCCなら、ブレーキを作動させることぐらいわけない。。

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2006年11月14日

逆駆動可能なウォームギヤ

3-thread worm gear set その頃、仮設レイアウトで40輌ほどの運転をしていた。2,3台しかない機関車を徹底的にいじくり回して楽しんでいたのだ。滑らかに起動から停車できるようにはなった。

 あるとき、父と模型の話をしていた。父も昔は模型が好きだった様だ。
「ウォームギヤは逆駆動できないから…」と切り出すと、「そんなことはない。ねじれが急角度なら逆に動くはずだ。」という。
 確かに、オルゴールのガヴァナのウォーム、車のステアリングのウォーム、いずれも逆駆動している。

 図書館で歯車の本を調べてみて驚いた。ウォームは逆駆動できると明記してある。むしろ、そのあとに続く文章にはもっと驚いた。「セルフロックを望む場合は(要するに、逆駆動ができないようにするには)進み角を4度以下にすることが必要」とあったのだ。

 つまり、鉄道模型のギヤは、わざわざ逆駆動できない角度のものを作っていたわけだ。

 後に、アメリカ製の模型のギヤを調べて驚いたことにはそのほとんどが逆駆動可能な設計であったことだ。そのほうがギヤの効率が高くなることにも気がついた。

 
 しかし、仮によいギヤの設計ができたとしても、逆駆動されるモータがあのマグネットモータでは無理である。どうしてもよいモータを探さねばならない。場合によってはそのようなモータを作る必要もあるだろう。直捲モータなら抵抗は少ない。

 探しているうちに髭剃り用の直捲モータを見つけたので捲き線をほどいて、捲き直してみた。ある程度は軽く廻るが、とても軽やかとは言えないものであった。これでは駄目だ。

2006年11月11日

軸受

ball bearng 学生時代に、「軸受」という本を読んで愕然としたことがある。「軸受の厚さは、軸径の2.5倍必要である」と書いてあったからである。要するに油膜を形成するためにはそれだけの幅が必要だということだ。

 2mmの軸なら5mmの厚さ、3mmなら7.5mmの厚さが必要である。模型のどこにそんな軸受があるというのだ。

 当時私が見た限りにおいては、せいぜい1mm厚の板に穴をあけて軸を通し、油を注すという程度だ。これでは軸受ではない。

 ピボット軸受というものもあり、TMSには「油をさしてはいけない」とまで書いてあった。

 近くの時計屋の息子と仲が良かったので、時計職人のおじいさんに聞いてみた。答は、「軸受で油を注さなくてもいいものなど無い。」ということであった。宝石を付けた軸受でさえも、石油ベンジンで薄めた油を注す。ベンジンを揮発させると、薄い油の膜ができる。

 やはりピボットにも油を注すべきだと思い、時計に倣ってほんの少しの薄めた油をさしてみた。摩擦は1/3くらいになった。

 車軸が通る軸穴に厚い板を貼り重ね、穴をあけてリーマを通した。油を注してみると、摩擦など無いかの如くするすると走った。

 しかし、軸箱のためのスペースは確保しにくい。ボールベアリングを入れたいと思った。そうすれば薄い軸箱ができる。近くにベアリングの代理店があり、ショウウィンドウを覗くと小さなベアリングがあった。価格を聞いて耳を疑った。とても高価であった。

 それから10年ほど経ち、ミニチュアベアリングの価格がかなり下がったことを新聞で知った。1つ250円くらいになっていた。蒸気機関車に使うと良さそうだと思い、まずテンダ台車の換装から始めた。素晴らしい性能に驚いた。普通の線路の上では停止させておくことは難しい。水準器代わりになるほど、よく転がった。手歯止めが必要だった。

 ついで、先従台車にも取り付けた。動軸については治具が無かったので外注した。すると、起動電流が1/2になった。要するにモータさえ廻れば、走るようになったわけだ。ここまで来ると、モータの性能が大きくかかわってくる。ブラシ圧力を調整し、軸受の心が本当に出ているかを確認した。ギヤを溶剤で洗い、軽い油を入れて調節した。すると電流はさらに減少し1/4になった。

 低電流走行の可能性に気がついたのは、この瞬間である。

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2006年11月10日

潤滑油の構造

 penetration oil潤滑は油であればすべて可能なのかという疑問がある。潤滑油は石油ではないのか。

 1859年、アメリカのペンシルバニア州で石油が噴出したとき、その用途について議論百出したが、結局、それまでの動物油、植物油由来の灯油をケロシンという石油由来の物質に切り替えただけで、あとの成分は何の用途も見出せなかったそうだ。わずかに高沸点の半流動油がやけどに塗ると、空気に触れなくて痛みを和らげることになっただけである。これは今でもヴァセリンと言う名前で売られている。ガソリンの用途など、自動車が現れるまで見当もつかなかったようだ。

 荷馬車の軸受の潤滑油は動物性油脂しか効果がないことが知られていた。ところが、その厄介物の石油に動物性油脂を少し混ぜるだけで、潤滑油として大変効果があるということが分かった。

 いわゆる油脂は脂肪酸RCOOHとグリセリンのエステルという化合物である。脂肪酸は酸の一種なので金属とは反応する。ここで金属をMとするとM-OOCRという結合を作るだろう。すると金属に無数の脂肪酸が化学的に付着したものが生じる。いわば、小川の川底に無数の水草が生えて覆われた様な状態になる。このような小川のなかを歩くのは滑りやすくて難しいことが実感できる。Rの部分は大きな炭化水素基で、石油とは同類である。

 つまり、金属と何の関係もなかった石油が、脂肪酸の仲立ちで金属と結びついたのである。水草のおかげで、その上を滑っていく別の金属は直接の接触を避けられる。また水草は簡単に抜け落ちることもない。現在ではその様に解釈されているが、昔は経験的に知られていただけに過ぎない。
 
 自動車のエンジンの中とか日本の蒸気機関車の軸受は全て流体摩擦のはずだ。そうでなければ直ちに焼きつく。
その昔、井上豊氏が国鉄の指導機関士だった昭和20年代、新車を受領すると、試運転は彼の仕事だったそうだ。「新米に任せるとすぐ軸受を焼きつかせる。」と、何十台と慣らし乗りをしたと聞いた。コツは燃費が悪くても、フルギヤで走らせることだそうだ。軸受合金の当り面が平滑化するまでは油膜が切れやすいので、力が脈動する掛かり方をするような運転をしてはいけないのだ。

まさに境界潤滑への移行を避けた運転法である。そののち極圧剤が開発されてからは、こんな話は意味が無くなったようだ。

写真は車の修理用に使っている浸透性油 

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2006年11月09日

歯車の潤滑

M5 Worm gear set ウォーム歯車は、スパーギヤに比べて摩擦が多いので、極圧剤が配合された潤滑剤を使用すべきである。自動車のハイポイド・ギヤ(FR車のデフ・オイル)には極圧剤が入っている。これと二硫化モリブデンを使用すればうまくいくはずである。

 模型用の潤滑剤としてテフロン入りグリースと称する物が市場にある。筆者はこれに対して大きな疑問を抱いている。

 テフロンは極圧潤滑には向かないはずだ。層状構造をもたないからである。黒鉛は層状構造を持つが、誰も歯車潤滑剤としては使用しない。黒鉛は50気圧で流動する。鉛筆の芯が滑らかに文字を書けるのは、紙上の摩擦で、瞬間的に50気圧程度の圧力が容易に生じうるからである。

 余談であるが、鍵穴に鍵が挿しにくくなったときは、この黒鉛の粉を使うのが正しい解決法だ。CRCなどを噴射すれば一時的には解決するが、後日ますますひどい状態になる。油分が埃を集めるからである。アメリカで鍵屋に行くと、この黒鉛粉末を噴射するスプレイ(と言っても単なるゴム製の浣腸器みたいなもの)が売られている。ヤスリで軟らかい鉛筆を粉にして、なすり込めば十分である。

 二硫化モリブデンは層状構造を持ち、それが極めて大きな圧力に耐え、層間のすべりを生じながら金属同士の直接接触を阻止する。自動車用品店に行けば、ワイパ・ゴムのビビリを防ぐと称するゴムへの塗布スプレイがある。あれは二硫化モリブデンが主成分である。新しくギヤボックスを組んだときは、それを歯面に付けて、軽く負荷を掛けて慣らし運転すると。数分でよくなじむようになり音が極端に静かになる。

 日本の模型の歯車は、ブラス同士の組み合わせというのが多いが、これは歯車の常識に反する。同じ材質同士では摩擦が大きいことが証明されている。歯車の本を見れば、最適な組み合わせとして、快削鋼とリン青銅の組み合わせが紹介されているはずだ。
 プラスティックの歯車を使うのであれば、熱の逃げやすい金属と互い違いにするべきなのに、守られていない場合が多い。熱は瞬時に発生し、それが逃げられないと歯面の変形を引き起こす。小さいから大丈夫と思っても、ちょっとした過負荷で極めて短時間に起こりうる。お手元の機関車で異音がするものがあれば、多分それが原因だろう。 

 写真は電車の制御機駆動用のウォームギヤ(の廃品)

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2006年11月08日

潤滑

hypoid gear oil 潤滑には大きく分けて流体潤滑と境界潤滑がある。

前者は油膜を挟んで摩擦面同士が離れている状態である。荷重に対して摩擦面を浮かせている力は、潤滑油の粘性とか圧送される油圧、摩擦面で発生する圧力である。自動車のエンジンの内部はすべてこれだ。テフロンとか二硫化モリブデン粒子を入れた潤滑強化剤というのがあるが、効果は疑問視されている。事実アメリカでは焼き付き事故があり、訴訟が起きて販売できなくなったと言う話を聞いたことがある。日本では○○○ロロンとかいう名で販売されているようだ。使うと却って油膜切れの原因になるという報告もある。

 本物の蒸気機関車の潤滑はすべてこの流体潤滑である。仕業点検のときに、シリンダの上部、少し後ろのオイルポンプに油をなみなみと注ぎ、グリス・ニップルからグリス・ガンで押し込んでいた。懐かしい風情である。

 後者は大きな圧力が加わった摩擦面での潤滑である。この領域では摩擦面が滑りやすい物質に変化していないと潤滑されない。 摩擦面が直接に擦れあうと高温になる。ここにハロゲン化合物が存在すると、熱により金属と化合し、膜を作って滑りやすくなる。これが極圧剤と呼ばれるオイル添加剤である。極圧添加剤は塩素系炭化水素、硫黄化合物、リン化合物で、デフ・オイルには普通に添加されている。焼き付く寸前、高温になると効果が発揮されるのだ。

 デフ・オイル特にハイポイド・ギヤ用と書いてあるものは必ず塩素系化合物が含まれていて、最近は焼却時にダイオキシン発生源発生源としてマークされている。
 ここで簡単な化学実験をひとつ。よく磨いた10円玉にデフ・オイルを一滴落とし、裏からハンダごてで温めるみられよ。たちまち変色して銅の色が黒く変化する。これが極圧剤の効果である。

 模型ではギヤが焼けることはまず無いだろうから、このような極圧剤は効果を期待できない。また、これはエンジンオイルには配合されていない。

 二硫化モリブデンは極圧潤滑剤のひとつだが、固体潤滑といって固体そのものが滑りやすいものである。鉛筆の芯の黒鉛もそうだ。
 面状結晶が滑りあうのである。黒鉛は高圧には耐えないが二硫化モリブデンは極めて高圧に耐える。

 筆者は粉を塗りつけて軽くなじませ、全体に広がったところで極めて軟らかい極圧グリースを塗っている。それが混合されたものも使っているが、大差ない。

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