低抵抗車輪

2023年12月29日

flanger

L&HR flanger これは除雪車の一種のフランジャである。線路内の雪を取り除く。踏切などでは鋤を持ち上げねばならないから、線路事情を熟知している人を乗務させる。
 まだ警戒塗装などは不完全である。黄色は床下まで塗ってあるようにも見える。グラブアイアン(手で掴むハシゴの横棒)が曲がっているのと、キュポラの支えが取れているのは修復する。
 この種の車輌は走らせることはまず無いから、Low-D車輪を付けていると事故の元である。いずれ高抵抗車輪に取り替える。

 先のクラブの年次総会で平岡幸三氏をゲストとしてお招きし、図面の描き方について講演をして戴いた。素晴らしいお話で、一同感じ入った。
 その後で平岡氏は筆者のブースにいらしたので、慣性増大装置、高効率ギヤの実演をお見せした。慣性を増大させて蒸気機関車の動輪が、単機でも正逆方向にスリップすることについては、「こういう発想はありませんでしたね。実に面白い。」と述べられた。3条ウォームギヤを逆駆動させて、静粛な増速機構として利用しているのは賢い方法だとお褒め戴いた。

 その後で低抵抗車輪を付けた3Dプリントのナイロン製台車をご覧になって、愕然とされた。
「これはボールべアリングの動きではないですね。」と見破られたのは流石である。「これは凄い!信じがたいほど滑らかな動きです。」
と仰った。一見平面に見える机の上に置くとするすると動き出し、机の中央付近で行ったり来たりする。机が撓んで真ん中が多少低いからだ。
「精度の高い水準器程度の勾配検出能力がありますね。これほど軽く動くなら、軽い貨車の百輌編成くらいは牽くでしょう。」と仰ったので、「ブラス製の120輌編成(約45 kg)を牽いて1.56%の勾配、230 mmの標高差を乗り越えて走ります。」と言うと驚かれた。動画をご覧になったと連絡を受けた。
 モータ、ギヤ、軸、軸受、車輪のすべてを改善するとどうなるか、ということに挑んだのを評価して戴けたのは嬉しい。

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2023年11月15日

スポーク車輪

spoked wheel center (1) 3Dプリントで輪心を作ってみた。1次試作品である。これは銜え代が少なく、コレットで銜えるのが少々難しかった。2次試作品は少し長くしたから大丈夫だろう。


Nylon's difficulty 旋盤で削ると切り粉が出るが、ナイロン製であるとそれが切れにくい。糸のように繋がって出て、それを切るのが面倒だ
 
 バイトをよく研いで切れ味を最高に良くしても、結果は変わらない。この点ではデルリン(POMの一種)は優秀である。それを「快削性がある」という表現をするのには少々疑問があるが、とにかく削り粉が切れて出てくる。

 スポークが細くて実感的ではあるが、この車輪は剛性が足らない。車軸を持って車輪を触ると、軸がタイヤ裏面に対して垂直でなくなるのだ。もちろん力を緩めれば元に戻るが、少々ドキリとする。
 ということは動輪には使えそうもない。蒸気機関車の動輪のような大きなものはとても無理である。最近の電気機関車のようなボックス動輪でも、工夫をしないと剛性が足らないだろう。やはり3Dで作ったプラスティックの原型を金属に置き換える事が必要なのかもしれない。

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2023年09月24日

絶縁車輪を組む

 輪心に、絶縁紙を巻き付けて貼らねばならない。簡単そうに見えても、これにはかなりの骨(コツ)がある。完全な接着がされていないと、タイヤを押し込んだ時にばらばらになる。また、タイヤの内側には微妙なテーパが付けてある。押し込み始めには全周が嵌まっていなければならないのだ。

 瞬間接着剤で貼る手もあるが、全てを均等に密着させて貼るのは、かなり難しいのではないだろうか。筆者は下記の方法で貼る。

pinching insulator 絶縁紙を細く切るが、厳密に幅を合わせる必要はない。長さは、[所定の寸法+5 mm]に切り、末端を折る。
 そこをつまんだ時に、全体に張力が与えられるような位置を折るのだ。エポキシ接着剤を塗り、巻き付けてつまむ。このまま10分置くとほぼ固まる。そこで、外してつまんだところを切り取る。重ならないように長さを正確に決めて切る。その部分を押さえるようにクランプで締める。この時は、接着剤はまだ完全には固まってはいないので、押し込まれて滑らかにつながる。長さが足らなくなって、わずかの隙間が空いても構わない。
 写真左は輪心表側である。クイル駆動のレリーフを貼るために、凹凸をサンダで削り取ってある。右は裏側である。裏のボスは、祖父江氏の手法であり、張り出している。当然、この車軸はその分短い。この写真でも分かるように、絶縁紙は少し裏側にはみ出している。後で切り落とすから、気にする必要はない。 

 接着剤の硬化後、よく切れるナイフで、はみ出した絶縁紙や接着剤を落とす。全体に軽くヤスリをかけて、押し込み側の角を落としておく
 平らな金床(かなとこ)の上に置き、タイヤをゴムハンマで丹念に叩き、少しずつ沈める。裏が面一(ツライチ)になったら出来上がりである。絶縁紙が少しめくれた所があれば、エポキシ接着剤を爪楊枝で押し込み、固まったら削り取る。この作業の時、踏面、フランジにはヤスリ等を当ててはいけない。

 この作業は両手指がエポキシまみれになるので、あまり好きな作業ではない。横に溶剤スプレイを置いて、紙タオルの小さく切ったものを湿らせて拭き取る。とても手間のかかる作業である。

 プロの手法はその点は大したものだ。おそらく、速度が2桁以上違う。

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2023年09月18日

17.5 mm車輪の台車群

 17.5 mm Low-D車輪を作った。インチで言えば、33インチである。これはピヴォット軸で、貨車の車輪として大量の注文がある。いつもはアメリカから一度に数百も注文が来るが、今回はまだ静かだ。先に国内で捌けるだろう。ピヴォット台車の存在を知らない人が多いが、3Dプリントで色々なものを作っている。日本型も製作は可能であろう。

 caboose trucksこれらはカブース用台車である。あまり良い製品がないので、作ったのだ。まだコイルバネが入れてない。
 左から、UPのwood beam を用いたものである。樫の木で骨組を作った台車である。静かだったという話があるが、それは疑わしい。脱線すると壊れたという話もある。
 中はBettendorf 社製の leaf spring 付きの台車で、緩衝力があり、乗り心地が良かったそうである。 
 右はUPの高速台車である。ボルスタ・アンカ がついている。これもコイルバネはまだ入れていない状態だ。コイルバネは形だけのものである。


apssenger truck & freight truck 左は軽量連接客車用の台車だ。1935年にUPの49erの新車輌用に開発されたもので、車輪径は34インチである。カンザス州の工場で作られた。
 
passenger truck ブレーキ装置が斜めに付いていて、これをブラスで作ったら、一体何個のロストワックス鋳物を積み重ねなければならないか、考えただけで疲れる。内部のバネまで再現されていて、素晴らしい。わずかにひねる事ができるので、脱線しにくい。

 ナイロン素材の柔軟性は素晴らしく、バネがなくても極めて優秀な弾性を持つ。走行音は静かだ。


National type B springplankless truck 右はNational B type springplankless truckである。普通の台車にはコイルバネを受ける座板が左右を結んでいるが、それをなくして軽量化したものだ。UPのタンク車にはたくさん採用されていた。

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2023年09月12日

続 車輪を作る

 たまたま3Dの師のS氏がやって来たのでその話題を出すと、「それは諦めるべきだ。ナイロンの成形品を作るべし。」との御宣託で、鋳物の加工をやめることにした。この鋳物は市販品よりはずっとまともなものであったが、しょうがない。

 カツミの市販品の車輪は、1950年代にロクロ屋で家内工業で作っていたのだ。ネジはガラで切った。手で持ってネジを立て、斜めに入れば逆に傾けて切り、最後にまっすぐ通して出来上がりとしていた。このような怪しい作り方なので、ネジがガタガタなのは当然だ。
 
fastebing wheel center 車軸は、ローレットを切ったものを用意してあるので、話は簡単である。問題は3D成形品の表面の粗さである。タイヤがはまりにくいかも知れない。廻しておいてサンドペーパを当てれば良い。その廻す方法を考えた。旋盤を持っていない人でもできるという条件だ。それは銜え代(くわえしろ)を外側に付けておくことである。

 電気ドリルのチャックに銜えて廻すわけだ。表面がきれいになって所定の寸法になっていれば、タイヤに押し込んで出来上がりだ。もし緩むのが心配なら、スーパーXを塗れば固着する。銜え代は切り離すわけだが、よく切れる薄刃のニッパで落とせるようにしておけば良い。もちろん銜え代は輪心の外側である。その部分は見えにくいし、精度が要らない。切ったあとは何らかの方法で削るのは良いだろう。軸のジャーナル部は段付きになっているから、ボールベアリングがはまる位置は、輪心とは無関係に決まる。

 この方法を用いれば、カツミの怪しいスポーク形状とは縁が切れるわけだ。Low-Dのスポーク車輪を欲しがる人が多いので、かなりの需要を満たせる。もちろんOゲージ、OJゲージ用を用意している。バックゲージはOでは29.0 mm、OJでは21.5 mmである。また、タイヤ幅は 4 mm、3.5 mmである。 これらの数字は Low-D を機能させるための数字であって、守らないと脱線する可能性がある。


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2023年09月10日

車輪を作る

 Low-Dの再生産をすることが出来た。しばらく枯渇状態であったから、多くの方から注文を受けていた。価格はかなり高くなった。電気代、切削油、金属材料その他の値上がりが大きいので仕方がない。

spoked wheel center 通常の車輪とは別に、今回は一念発起して、スポーク車輪の生産をすることにした。カツミ製の Φ19車輪の輪心を利用して出来ないかというアイデアであった。
 軸穴がΦ3のブラス鋳物(特注品らしい)をかなりの量、手に入れてあった。通常の商品は、M4-P0.75 の怪しいネジ穴があいていた。ガタガタでお話にならない。締め込むと奥に当たってまっすぐにはなるが、ネジのガタが大きく、心が出ない。走らせると車体がわずかに上下する。台車を組んで、ゆるい斜面を転がすと明らかに速度が変化する。こんなものは駄目である。

truing old wheel ネジの切ってないこの車輪は心が出ているので、これを使えないかと工夫した。Φ19のコレットに軽く銜え、竹べら法で平面を出し、締め付ける。このとき、穴にまっすぐなΦ3のシャフトを挿しておくと、フレがよく分かる。フランジ面を0.25 mm削り、この面を基準面とする。軸穴は振れていない。裏返してネジを突き出させたヤトイに締める。トルクを与えるためにピンを一本打つ。表を0.25mm削り、外周を所定の寸法(タイヤの内法)に削り落とす。絶縁を入れるときは、その分を余分に削る。

 かなりの手間である。4枚やっただけでアゴが出てしまった。こんなことはやっていられない。

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2023年09月02日

続 摩擦の少なさ

 軸受は大きなファクタであるが、もっと大きな損失を作るものがフランジ形状だということを話した。模型の曲線は実物より遥かに急なので、フランジが当たると損失が大きい。だから、フランジが当たりにくい形状にし、フィレット部分を大きなRとして、微妙な乗り上がりで行路差を取り戻すことを簡単に説明した。

 これは非常に説明しにくいことなので、最後尾のカブースを切り離し、坂の頂上から転がした。ゆっくり転がり始めたが、直線部分になると、極めて速くなった。そのまま曲線に入ると微妙に減速し、貨物列車の最後尾に絶妙な速度で連結された。
 これは非常に良いデモンストレイションであったようで、曲線での抵抗の存在を知らせることが出来た。

 もしこれが普通のフランジであったら、曲線上では半分も滑っていかないという例を見せたかったが、その様な車輪は処分したので出来なかった。ただ、K国製の車輪とLow-Dとは比較して見せた。
 左右の車輪径の差が 1/100 mm以下であるという点には驚いたようだ。
「並の工業製品のレヴェルではないね。」ということだった。

 この博物館は模型の博物館ではなく、物理の応用例を示す博物館と標榜したほうが良いと言う者が居た。
「これを見て、力学を考える糧とすべきだ。見ても何も感じない人は
その道を諦めたほうが良い。」と言う。
「評判は良いだろ?」と聞かれたので、
「いや、中にはフランジ形状について、今だに否定する論陣を張っている人も居るんだ。」と答えると、
「見に来れば良いのに。」と言う。
「実は見に来たんだけどね・・・」

 全員が、救いがたいという顔をした。 

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2023年08月09日

続 Low-D 再生産

 車輪の精度について無頓着な人は多い。某運転会に行った友人からこんな報告を受けた。

「30年以上前のKTMの車輪が一番精度が良い。」と頷き合っている人たちが居たそうだ。何を見てそう言ったのか知らないが、友人の弁では、
「要するに、彼らはLow-Dを見たことがないからだ。いや、見ても分からないのではないか。」と言う。

 他社製の車輪をマイクロメータで測定し、顕微鏡で挽目を見ると、その粗さには驚く。ノギスで測っても、径の違いが分かるものもある。また、軸と車輪を結びつけるネジが粗く、しかも心が出ているとは言えないから、走りは悲惨だ。またジャーナル部分は太く、半径比が小さいので回転抵抗は大きい。

 Oゲージの線路上で異常に静かな車輌群が走っていれば、気が付く人は居るはずだ。筆者が、
「OJでは少ないから、見たことが無いのじゃなかろうか。」と言うと、
「いや、あの場にはOJの線路もあり、Low-D装着の電車が走っていたよ。でも気付かなかったんだ。」ということであった。これではお手上げである。

 要するに、これは観測能力の問題である。すなわち違いが分かる人ではないわけだ。もう少し若いときに高精度な車輪を見ていれば、考え方も変わっただろうが、すでに手遅れなのだろうか。

 実はその中のお二人は会ったことがある。OJ版のLow-Dを見せたこともあり、走っているのも見ていたことを憶えている。しかし、その静かさ、動揺の無さには気付かなかった。恐れ入ったのは、別れ際に、
「サンプルを寄越せよ。テストしてやるから。」と言ったのだ。
これを聞いて、とてもお相手は出来ないと思い、早々に退散したのが5年ほど前だ。自宅に走行用の線路を持たないようでは、音の問題は観測できないだろう。その点では、吉岡氏は別格であった
 
 走らせていない人には、車輌の性能は比較できない。 

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2023年08月07日

Low-D 再生産 

 しばらく供給が途絶えていたLow-D車輪を再生産している。  

 三菱のジェット機がどういうわけか離陸できなくなり、そのプロジェクトに参加していた工場が、アオリを食らって倒産した。厳密には廃業と言ったほうが正しい。要求に応じて高価な工作機械を買ったが、注文が来なくなり、仕事をやめざるを得なかったのだ。その工場の挽物の品質は最高で、ネジの精度はこの世のものとは思えないほど素晴らしかった。ネジが締まるというのはこういうことなのだ、と分かる精度である。ぎゅっと締まるようなネジはまがい物である。角度にして1度半以下の回転でコツンと締まって緩まないそういうネジを作れる機械は稀で、その廃業によってこちらはとても困った。その機械を持っている工場を探さねばならなかったからだ。

 幸いにも見つかり、交渉の末、再生産に漕ぎ着けた。ウクライナ戦争の影響はここにも出ていて、単価は6割以上、上がった。しかし新たな工夫ができ、より精密な圧入装置を用意して組立工場に渡したので、振れは完全に防げる。

 前回の製作では廃業寸前で、製品の組立てにやや問題があり、一部を廃棄する羽目になった。今回は、飛躍的に精密に組める工夫をしたので、正確なものを供給できる。

 しばらくの間、国内の供給が途絶えた間に、ヤフオクでは転売で利ザヤを稼ぐ人が何人か居たが、まもなく不可能になろう。十分な供給体制が整ったからだ。数多くの転売があったということは、すでにデファクト・スタンダードになったということである。また、その価格でも買う人が居たということは、その価値が十分に在ったという証明でもある。

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2022年04月21日

続 高性能な車輪

 先週、クラブの例会に行ったときのことである。走っていたある電車の音が異常に小さい。ガラガラ走る車輌の中で、その静かさは際立っていた。しかも全く揺れを感じない走りだ。どこの車輪を使っているのだろうと持ち主に聞くと、「あなたの車輪ですよ。」と言われてしまった。それなら納得である。

 同じようなことが、昨年の静岡のトレインフェスタでもあった。非常に静かに、安定した走りを示す電車が、OJゲージの線路を走っていた。全ての車輌が異常に静かなのだ。OJでこんなに静かなのは初めて見た

 OJの車輪は自分で挽く人が多いので、高性能のCNC旋盤による車輪踏面の仕上げ面とは、やや異なる。卓上旋盤のスピンドルの精度は、一部の特殊な例外を除いて、決して高くない。2/100 から 3/100 mmの振れはある。筆者の車輪の振れは、1/100 mm以下である。数あるCNC旋盤の中でも、最高の性能を持つものを使用しているからだ。こういう理由で、音の差は明白で、走行安定性の点でも無視できない差が生じる。車輪や歯車は、作る工作機械の精度がそのまま製品に現れるから、工場を選ばねばならない。Low-D車輪を作る工場は、三菱のジェット機が失速して、廃業してしまった。困ったことになったが、ある方の紹介で、良い機械を持つ工場を紹介してもらえることになった。

 さて、そのOJグループの人に聞いてみると、「ある方が非常に安く作ってくれたので、大量に買いました。どうしてそんなに安く、良いものを売るのか不思議です。変わった方ですよ。普通では考えられないことです。」と言った。
 そういえば前の年に、そんな注文があったことを思い出し、名札を見せると、彼らはとても驚いた。
「変人かも知れないですね。ただ、これを広めたいだけですよ。」
と言うと恐縮していた。ともかく、当方の目的を達していることは確かである。OJの車輪は、吉岡精一氏の設計により、バックゲージは21.5 mmである。

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2022年04月19日

高性能な車輪

 たかが模型と言えども、これは精密機械である。そのあたりの模型に使ってあるものとは、一桁以上精度が違う。だからこそ、この性能を出せるのだ。ガリガリゴリゴリ走る模型で良いなら、そういう部品を使えば良いことである。しかしその人は、再度接触して来て、売ってくれと言う。その理由を問うと、「安いから。」だそうだ。言葉が出ない。60年前の歯車を渡して、それきりにした。

 車輪についても同様のことを言う人が居る。Low-Dは、低価格で提供して、利益は事実上ない。他の市販品より遥かに安く、性能は比べ物にならないくらい良い。だから、他のメーカは撤退してしまった。すなわち、当方の車輪で寡占の状態である。de facto standard(事実上の規格)になった。これは、当初考えた作戦通りに推移したわけだ。30年前、吉岡精一氏と話した通りになった。安く高性能なものがあれば、自然にそうなる。 

 すでにヤフオクでも売買されている。しかし価格は頒布価格よりかなり高い。ということは少し値上げしても良いのかもしれない。

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2021年04月18日

スポーク車輪

 スポーク車輪の製造要請がある。先輪などの外見を要求される部分には不可欠だ。気持ちはよくわかるが、なかなか踏み出せない。
 最大の問題点は数である。
 製造所には、タイヤは最低1000個なければ注文できない。500軸分である。ところが、現実に届いている注文は50軸ほどだ。

 次の問題は輪心となるべきカツミ製の砂鋳物の19 mm車輪の精度不良である。これのばらつきがすさまじく大きい。厚みは時期によってかなり異なる。
 ネジは、今では珍しいM4-P0.75という1950年代の規格である。それがまともに切ってあればまだしも、通称「ガラ」で切っているのだ。でたらめに手で持ってタップを通していたようだ。廻してみてあまりにも振れが大きいときは、再度逆に傾けて切った跡が見られる。ネジ穴がガタガタでお話にならないのだ。車軸の当たり面で向きが揃うという感じである。これでは心が出るわけがない。
 このでたらめな車輪を使っていては、進歩はあり得ないと感じた。Low-Dの必要性を感じたのは、この現実を見たからである。細かいネジを採用するか、圧入しかなかったのだ。

 ネジ部は完全にさらい、新たな材料を差し込んで再度ネジを切り直すべきだ。今なら細目のネジを切るべきだろう。当然車軸は新製だ。

 こうなると手間もかかるし、金額的にもかなりかかる。旋盤上で専用コレットを使ってネジを切るという作業をすると、1時間で最大20軸程度しかできないだろう。実際にやってみて、素人には難しそうだということも分かった。さりとて、その仕事を引き請けることは、時間が無いのでできない。設備を貸すので、弁当持ちでやってきて1日中作業する、という人は受け容れても良いが、それもしばらくはできない。

 今回のTR47用にはスポークの無いものを用いているが、この種のウィングバネの台車では、スポークであるかどうかは全く気にならない。TR23では多少気になるが、スポークでないものもあったらしいから、気にしないことにした。

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2021年04月14日

OJ用 Low-D 車輪

 Low-Dを再生産するときに、OJも作ってくれという要望があった。車輪厚さを 3.5 mmとして、バックゲージを 21.5 mmとした以外は、Oスケールと同一である。これは吉岡精一氏の助言を受け容れた設計である。車軸はΦ4である。絶縁側は圧入、他方はネジ込みである。また、ジャーナル部はΦ1.5のボールベアリングが嵌まるようになっている。
 実は 、発注数を間違えて、長軸(先回の台車に使用)が多少余っている。ご希望の方にはお頒けする。 コメント欄を通じて申し込まれたい。email address は本文中に書いて戴かないと、こちらでは読めない。短軸もあるが、これは数が少ない。

 OJのレイアウト上で試運転させてもらったが、極めて快調であった。ポイント上の挙動も全く問題ない。普通の車輪との転がり抵抗の違いは、顕著である。特に曲線上の挙動は全く別物である、との評価を得た。走行音がとても静かであることも特筆すべきことである。めっきされたものとは、大いに異なる。

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2021年01月18日

続 むすこたかなし氏の実験 

 動画の撮り方が上手で、説得力がある。また、前車輪がフィレットに乗り上げていると、軸が傾くというのは、非常にうまい写真である。こういうのを見て、「個人的見解」に賛同する人は、もういないだろう。

 車輪については過去にいくつかの論評があるが、どれも実験とは言えないレヴェルのものばかりだ。実験とは何を調べたいのかを考えて計画されるべきものである。

 車輪にマジックインキを塗り、剥げた場所を確認するというのは、筆者も何回もやったことである。また10年も毎日運転していれば、どこが当たっているかは、光ってよくわかるようになる。大半径のフィレットの効果は非常に大きい。ブラス製車輪はすり減ってコンタが変化するが、硬いステンレス車輪では摩耗は無視できる。

 アメリカの富豪は大量に買ってくれて驚いたが、日本でもすべての車輛を Low-D にするという目標で、すでに数百輛を交換された方もいる。レイアウトで走らせている人は、既存の車輪ではとても満足できないのだ。

 高梨氏が今後どのような展開をされるかを、期待したい。低抵抗車輪を付ければ、長いフル編成をユーレイなしで楽に牽けるだろう。しかも旋盤の精度が高ければ、きわめて静かだ。それを運転会で見せることができれば、訴求力は大きい。

 模型雑誌を見ると、技巧をこらした細密車輛が毎回載っているが、走行性能については疑問だ。走らせていない人にとっては、それで充分なのだろうが、高度な運転性能を持つことを見せれば、大きなインパクトを与えることが可能だろう。
 また、細密度について言えば、どんな細密車輛でも、時計細工に比べれば一桁粗いと感じる。そういう意味では中途半端なものである。時計旋盤を持っていると自慢する人は居るが、作品をじっくり拝見したいものだ。

 高梨氏の研究により、HOゲージの世界にも、新しい光が射す可能性が高いと見ている。

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2021年01月16日

むすこたかなし氏の実験

 ブログでの連載記事が始まってから、毎回の更新がとても楽しみであったと同時に、異なる結果が出るのではないかという、期待と不安があった。
 すべての段階で、筆者の歩んだ筋道を全く同じように歩まれた。なかでも、旋盤を使って旋削していく様子は、緊迫感があった。

 高梨氏はサイエンティストであるから、実験の手順が正しい。この報告は、今後いろいろな場面での模範となるべき例である。意味のない実験をしても気が付かない場合もあるから、参考にされたい。

 基礎実験は手間がかかる。その多大な手間を惜しまず、丹念に一つの次元を少しずつ変化させ、データを取っている。先の伊藤剛氏の実験も、簡単なことなのだが、やらない人が大半だ。
 データ取りの仕事は単調でつまらない。やらねばならないことではあるが、それをしない人は多い。この場面で二つの次元を変化させるようでは、何の価値もない

 筆者も30年前、かなりの時間を掛けてデータを取った。サンプルを作るのが大変であった。サンプルはたくさん作って、所定の寸法のものを選り出し、実験の再現性を高めた。

 車輪を均一に作るのはなかなか難しい。総型バイトを使うのは駄目である。負荷が大きく、組んだ車輪など挽けるわけがない。
 小型の旋盤ではうまくいかない。フィレットは、先を調整した剣先バイトで作る。拡大鏡と特殊なスケールが必要だった。高梨氏は先端Rの決定に、スローアウェイ・バイトの丸みを利用している。これはうまい工夫だ。
 踏面の勾配を決めて、フィレットまで一気に旋削している。これは筆者と同じである。基本を守ったやり方で、負荷が小さく、削り面がきれいである。

 総型バイトを過信する人は多いが、結果は見えている。失敗例はアメリカでもよく見た。挽き目が残るようでは、車輪として用をなさない。総型バイトを特注したと自慢する人は居たが、挽き目を見せてもらったことはない。
 そういう筆者も1つだけ、細いヤスリから総型バイトを作った。削ってできたフランジの角を落とすためのものである。この部分は適当で良く、表裏両面を早く旋削できることに価値があった。

 旋盤作業は熟練が要る。高い旋盤を欲しがる人が居るが、要は骨(コツ)であって、価格はあまり関係ない。うまい人の作業を横から見ていないと、進歩できない。最近は、youtube で素晴らしい例がたくさん見つかるので、見るべきである。それと、旋盤を買ったままで使う人が多いが、一度ばらして整備すべきである。それと、どんどん改造して、自分の”工具”として使えるようにした方が良い。筆者の機械は殆ど原型を留めていない。

 車輪を挽くのは大変だ、と述べた。機関車の動輪8枚を挽くくらいは、やるかもしれないが、貨車の車輪を1000軸挽くのは不可能である。こういうところでケチるのは間違いで、量産屋に発注するべきだ。昨今は不景気で、引き受けてくれるところはあるはずだ。最近の機械の精度は驚くべきものがある。
 今回の発注でできた車輪の径、厚みは1/100 mm以下の誤差範囲である。マイクロメータでも測定できない程度のばらつきしかない。精度の高い車輪を装着すると、それだけで走行抵抗が減少する


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2021年01月10日

scientific であるということ (5)

 誰がやっても同じ結果になることを、「再現性がある」と言う。再現性がないものはサイエンティフィックではない。それはマジックかもしれないし、錯覚かもしれない。

 筆者は、サイエンティフィックでない人とはお付き合いできない。それは、物理や化学をしっかり勉強していない人とは付き合わない、という意味ではない。「正しいことは何か」を追求し、なおかつ物事の論理性を大切にし、客観性のある人でなければ、議論しても噛み合わないからだ。例えば、ある話をしているときに、それとは異なる次元の話をしようとする人がいる。


 しばらく前にこういうことがあった。石炭の燃焼熱は、無煙炭(anthracite アンスラサイト)のそれが一番大きく、瀝青炭(bituminous coal ビチューミナス・コール)のそれはやや小さい。燃焼熱の定義は、完全燃焼のプロセスで得られる熱量である。そこには時間の次元は入っていない。酸素を十分に与えて、ゆっくり燃焼させたときの値だ。

 ところが、蒸気機関車での燃焼はそういうものではない。どんどんくべると揮発分が出て、それに火がついて大きな明るい炎を作り、その輻射熱で加熱している。そのためには煉瓦アーチで炎を大きく曲げることが必要で、燃焼室が大きいほど有利である。当然煙も出て不完全燃焼しているが、早く燃える燃料は機関車の出力増大に直結する。出力(仕事率)の次元は、時間当たりのエネルギィであるから、多少燃焼熱が小さい瀝青炭であっても、燃焼速度が大きければ出力が大きくなるのである。それなのに、その人は「無煙炭を燃やす機関車の出力が小さいのは、燃焼熱が小さいからだ」と言って聞かない。燃焼熱は最大であることぐらい、理科年表を見れば載っている。含まれている炭素分が多いからだ。データを読み、何が問題かを正しく捉える姿勢が無いと、議論の入り口まででさえ、たどり着けない。

 これは極めて客観的な話であるのに、先入観に左右されている。次元というものに対する理解がないため、聞く耳を持たない状態であって、大変疲れた。多分、その方は今でも自分の間違いには気付いていないだろう。不思議なのは、その方が実物業界(もちろん技術系)の方であったことだ。


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2021年01月08日

scientific であるということ (4)

 先回の4つのファクタは、35年ほど前、吉岡精一氏から与えられた課題の答である。整理して提出すると、「よし、合格!」と言われた。吉岡氏は、絶対に答を言わない人である。問題を出して答えさせ、そのプロセスを検証するのが趣味であった。これは、取りも直さず、ご自分の答を確認していたのだ。
 その中で異なる材質の組み合わせによる摩擦係数の低減は、氏も気付いていなかったことで、「知らなかった」と正直におっしゃったのには敬服した。そういう点でも客観的な方であった。知ったかぶりは決してしなかったのだ。

 その後フィレット半径、フランジ角の選定のプロセスを黙ってごらんになって、決定版ができたときに、「俺のと同じになった。」と言われた。
 これこそが、サイエンティフィックなプロセスである。誰がやっても同じ結論に到達するのである。吉岡氏は自分の理論が正しいかどうかを、筆者に証明させたのである。その間、ヒントは全く与えず、遠くでニコニコして見ていたのであった。
 また、車輪直径公差を2/100 mm以下にできたので、転がしても左右に偏ることは無くなった。それも抵抗の低減に大いに寄与している。これは吉岡氏の考えた範囲をはるかに超えていた。

 最初の1万軸の頒布以降、これに関する論議は全くなく、採用してとてもうまくいくという賛同者と、根拠無く批判する人の二つに分かれた。前者が圧倒的に多いのは、当然である。使ってみればわかることなのである。

 しかし自分で実験もせずに批判する人が居るのは、理解しがたい。実験して、良い結果が出ることを確かめてあるのだから、口先だけで否定できると思うのは、無理筋である。いまだにLow-Dの大きなフィレット半径の効用を、「個人的見解」と書いて否定しているサイトがあるのには、驚きを禁じ得ない。 すでに3人が独立に証明しているのだ。否定するならそれなりの実験結果が必要であり、それが無ければ単なる知ったかぶりのホラ吹きであろう。模型は実物の一次近似であるというファンタジィに取り込まれて、酔っているのだ。
 2点接触についても、重い実物における損失と、軽い模型での損失を比べれば、模型では無視できない。しかも線路の曲率を考慮していない。

 今回の高梨氏の研究着手に際して、筆者は吉岡氏の態度をそのまま踏襲した。導いてはいけないのだ。
 着実に同じプロセスをたどって、三回目の証明に至ったのはご覧のとおりで、感動した。


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2021年01月06日

scientific であるということ (3)

 低抵抗を得るというのは、いくつかのファクタを小さくすることである。

1.フランジがレイルを擦ることによる抵抗
2.行路差による摩擦
3.摩擦係数
4.2点接触による速度差から生じる損失

 これらの中で一番大きいのは、1.である。NMRAのRP25は実物の形態を少しでも真似すべきという幻想にとらわれた結果であって、中世ゴシック建築のアーチにある ogive(オーヂャイヴと発音)をとり入れている。形にこだわって性能を落としているのだ。プラグマティズムとは正反対の方向にある。
 示されている数字はでたらめで、絵が描けないものがあるが、それすら無視して強行している。描けるものについては、筆者の作図によればフランジ角は、79度である。この角度は大きい。描けないものについて、彼らは間違いを認めない。情けない限りである。こんな部局は潰すべきだ。

 2.の行路差は、意外に大きい。模型の線路の曲率が大きい(急カーヴ)ので余計に影響が大きくなる。踏面のテーパでは賄いきれないから、行路差を補償するのは別の要因(フィレット)の効用が大きい。また、2軸台車では後ろの車輪は外周レイルには接触しないから、行路差は殆どそのまま出る。

 3.の転がり抵抗は静止摩擦抵抗の関数である。静止摩擦係数が大きいものは転がり抵抗も大きい。なるべく堅い材質のレイルと堅い車輪との組み合わせが、良い結果を生む。さらに異なる材質の組み合わせが、ベストの結果をもたらす。
 行路差の損失は、摩擦係数が小さいほど小さくなるのは自明だ。 

 4.の 2点接触は、二つの意味を持つ。最初は1.のフランジの接触である。フランジの先が触るような車輪は脱線機そのものであるから、全く考慮に値しない。捨てるべきである。次はフィレット付近の接触(RP25で見られる)である。レイルヘッドの半径と比べて相当に大きな半径のフィレットを与えておけば、いつも1点接触になり、抵抗は大幅に減る。
 このあたりのことについては、実物形状を縮小することにのみ価値を認めている人、また、実物理論を出して来る人は、引き下がらない。このあたりの2点接触は、速度差が小さいから無視できるなどと断言している人まで居る。1点接触にする工夫ができれば、はるかに勝るものができることを否定するのである。全くもってサイエンティフィックでない。実物では無理でも、模型なら1点接触は可能なのだ。レイルも車輪も十分に堅く、潰れることがないからだ。 

 「フィレットは接触圧でレイル・車輪が破壊されるのを防ぐためのものである。」という主張には参った。この種の知識を振りかざして模型に対しても適用すべきだと言う人は、模型作りをするべきではなさそうだ。

 我々は模型を走らせたいのであって、実物を走らせたいのではないのだ。このように現実とファンタジィの区別がつかない人とは、話ができない。ここで言うファンタジィとは、実物を縮小した世界に縮小された自分も存在し、実物の理論が100%適用される世界に生きているという妄想の世界である。縮小模型は本物とは異なる挙動をするという常識が欠落している人の生み出す幻想だ。

 実物理論を模型に適用するというのは、ほとんどの場合において、サイエンティフィックではない。

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2021年01月04日

scientific であるということ (2)

 開発から25年を経て、Low-D の追試が行われている。高梨氏とは何回かお話したが、意図的に内容については話さなかった。予断を与えるといけないからだ。高梨氏もサイエンティストなのでその点はわきまえていて、答を聞くということは一切無かった。そういう意味でも、極めて客観的な実験である。

 結論としては、筆者のLow-Dと全くと言ってよいほど、同じになった。これは何を物語るのだろう。

 今まで、筆者の実験結果を否定する論調の記事がいくつかあった。自称技術者なのに、実験をしていない。摩擦係数すら測定していない。そこにあるのは、否定せねばならないという感情だけである。どうやら実物業界の方は、実物理論が模型に適用されると信じているらしい。線路の曲率も、質量も、材質も異なるものにも、同じ理論が完全に適用されると思っているのだ。Low-Dの車輪断面では乗り心地が悪い、とまで書いた人が居て、失笑した。

 O scaleの世界では、もうそのようなことを言う時代はとっくに過ぎ去って、無風ないし僅かの追い風状態である。むしろ、他の車輪を手に入れることが難しく、かつそれが高価であるから、この車輪が欲しいのだそうだ。安くて性能が良いので、注文が多い。国内では、すでにデファクト・スタンダードになっている。

 HOの人たちは、「HOでは実現が難しい」と思い込んでいた人が多かった。実験してみれば良いのに誰も手を付けない。観察は難しいことではないが、やる人が居なかった。この国の教育では、観察から始まる考察によって、正しい推論を得る訓練が少ないのではないか。答の出し方しか興味のない人が多い。しかも、それは必ず答が用意されている問題を解くことである。

 高梨氏が、
「やってみたい。」
とおっしゃったので、
「どうぞご自由になさってください。私の記事は、ある程度参考にはなるかもしれませんが、HOではまた別の解があるかもしれませんね。」
 と答えた。先入観を植え付けるといけないので、それ以上、何も言わないことにしたのだ。 

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2021年01月02日

scientific であるということ (1)

 先日のコメントでサイエンティフィックという言葉を出したら、反応した方が何人かいらした。どなたも肯定的で、もっと詳しく書いたらどうかということであった。(太字を強く発音する)

 筆者は、サイエンティストのはしくれである。客観性のあるもののみを追求してきた。世の中にはいろいろな人が居て、主観的なことをゴリ押しして恥じない人が居る。また歴史を無視して捏造したり、自称専門家でも、サイエンスを無視する人が居る。


 例えばこういう例を考える。ある人がAを見て、それに対する評価がXであったとする。その人がAをもう一度見せられた時に、Yという評価をするならば、そういう人とはお付き合いしかねる。その2回のチャンスに大きな時間的距離があった場合は、持っている知識の理解度が変化しているからそういうことはありうるが、1週間で評価が変わるのは理解しがたい。その変化の説明を求めると、たいての場合、支離滅裂だ。
 何回でも同じ評価をする人が、サイエンティストだ。しかも他のサイエンティストに聞いてみても、同じ答えが返って来る。同じでなければならないのだ。
 実験をしても、その結果はいつも同一でなければならない。再現性の無い実験では意味がない。


 筆者は低抵抗車輪の開発に数年掛けている。その間、様々な仮説を立てて実験し、どの方法が最も良い結果を生むかを調べた。各国の車輪、規格を調べて表を作り、現物を入手して全く同じ軸受で試験した。車輪は快削材で出来ているので、フランジ形状の変更は簡単だ。摩擦係数もいろいろな組み合わせで調べた。レイルとの当たり具合を望遠鏡で覗き、フランジが当らないフランジ角を、曲線半径ごとに確認した。

 旋盤屋をなだめすかして仕事をさせ、300軸作ったのが最初のロットである。それを使って走行試験をして、吉岡精一氏、魚田真一郎氏らに配り、使用感を聞いた。結果は「極めて優秀」であった。その後、何度か再生産され現在までに4万軸程出ていった。利潤は無い。工場は3箇所目である。工場は相次いで倒産して蓄積されたノウハウが失われたが、工作機械の進歩で、より素晴らしい仕上がりのものが得られるようになった。同じ図面を持って行くと同じものが出来るのは、サイエンティフィックである。昔はそうでもなかった。”腕”が必要な仕事であったのだ。


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2020年11月29日

続 "しょうなんでんしゃ"の記事

 実物車輌がレイルの上に載っている時、車輪、レイルともにわずかに凹む。その量は目には見えない程度だが、確実に凹む。これは弾性変形である。
 D型蒸機機関車の動輪半径は小さく、C型蒸気機関車では大きい。同じ粘着重量でもD型の方が粘着力がある。それは動輪が小さいことによる。半径が小さいもので押すとよく凹むのである。それによって摩擦力は増大する。米国の入替え機には、動輪が極端に小さなものがあったが、それはこの摩擦力が大きいことを狙ったものだったのかもしれない。

 こういう話が模型でも通用するだろうか。ここまで書けばお分かりのように、模型では、軸重による線路の弾性変形などは完全に無視しうる範囲にある。しかし、こういう話をとくとくと語る模型人が居る。それは実物の話なのだが、模型でも起きていると言うのだ。それを信ずる人も、信じがたい話だが、多少は居る。この種のファンタジィから出られない人なのだ。   

「実物をそのまま縮小した模型」というのもよく聞くフレイズだ。本人は正しいと思っているが、車輪の厚みを考えていないから、台車の内側に当たる。昔、吉岡精一氏は、「実物を縮小したら模型になると思っている人は、ソリッドモデルでも作っていなさい。」と言った。その通りなのだが、この現代においてもその呪縛から逃れられない人はかなり居る。
 吉岡氏はさらに続けた。「実物の図面を持って来て、それを元に作るというのは、実は難しいことではないんだよ。頭を使う必要がないからね。走る模型を作るには頭が要る、ということが分からない人は多いんだよ。」

 Low-Dの設計にはかなりの時間を掛けている。初めは2次元の図面だけで判断していたが、後に3Dの画面で覗けるようになった。設計は完全に正しく、最初のロット1万軸は、国内外でたちまち捌けた 。曲線での抵抗は格段に減り、神戸の運転会で好評を得て、国内ではデファクト・スタンダードになった。その後増産され、3万5000軸強が出て行った。アメリカの富豪は一人で4000軸も買った。利益を考えていないから、価格は十分に安いが、受注は製造所の景気に左右されるところが問題だ。

 模型の線路は十分に堅く、凹まない。車輪も凹まないから、うまく設計すれば1点接触に出来る。RP25ではそれができない。  

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2020年11月27日

"しょうなんでんしゃ"の記事

 むすこたかなし氏の連載記事が興味深い。HOの様々な車輪を調べてよく転がるものを選び、さらに曲線上の挙動を観察している。そして、フランジが曲線上で当たる実例を詳細に調べている。

 筆者が2014年に15年以上の検証実績を発表したが、それに関する追試の報告は全くなかった。今回が最初の追試であると思われる。Oゲージはさておき、HOでの挙動は実例がなく、興味深い。
 
 勾配を下っている途中の曲線上で止まってしまう実例を、紹介している。中にはそういうのもあるだろう。フランジが団子のような格好の、RP25準拠風のものだ。フランジが当りやすい形をしている。フランジを内側に押すと、しばらく転がって、また止まるというのが、実に面白い。これは、フランジが問題点であることを示している。

 この種の追試は大歓迎だ。追試もしないで批判をする人がかなりあったが、そういう人は、学校で理科の時間に何をしていたのだろう。「観察する」ということが、最も大切なことである。観察した上での考察は価値があるが、先入観のみで語る人が多くいるのには驚いた。しかもそれは自称専門家の方が多い。
 今回はかなり細かく観察している。むすこたかなし氏は全く専門家でないので、より客観性が高まっている。

 軸受を改良してもフランジの改良をしなければ、ほとんど利益がない。また、タイヤは摩擦係数の小さな金属でないと脱線しやすくなる。摩擦係数が小さければ、フランジ近辺の摩擦損失も小さくなる。そういう意味でステンレス素材は望ましいのだが、これについては今まで誰も反応しなかった。

 何度も書くが、めっき製品は外見を良くしているだけで、走行音は小さくない。チャンスがあれば、めっき面を電子顕微鏡で見てみるとよい。どの程度の粗粒面かが分かる。どなたか電子顕微鏡にコネクションのある方は、写真を発表されたい。

 HOは車輪径が小さく、Oに比べるとテコ比で損をしているはずである。テコの原理によって、車輪径と軸の半径比が大きいほど軽く廻せるのだピヴォット軸受がなぜ軽く廻るかというのは、まさにこのテコ比を利用している

 要するに、軸受部を相応に細くできないから、緩い勾配では動き出しにくい。O scaleでは、そのタンジェントが0.0023の勾配で動き始めるものもある。またここでの実験では、まだステンレス車輪を使っていないので、その分の損失もあるだろう。

 実物業界の方で、模型も実物と同じ理屈だとおっしゃる人が居るが、曲率、材質、質量が異なるものでも同じと言い張るのだろうか。それなら証拠を出すべきであろう。模型は実物とは異なるのだ。
 模型は実物を小さくしたものである、というのはファンタジィである。 

 今後の展開を期待する。 

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2020年07月06日

Low-D 再生産

 しばらく枯渇状態が続いていたので、希望された方にはご迷惑をお掛けしていた。本来は順調に供給できるはずであったが、製造所の都合で受注できなくなっていた。
 製造所は航空機産業の拡大で多忙になり、仕事を受け付けてもらえなかったが、最近のCOVID19で航空機不況に陥り、干上がりそうな気配になっていた。この製造所の技術力は、航空機製造に参入する試験に通っているので、間違いはない。いくつかの製造所で作ったのを比べたが、最も高品質で、是非ともここで作りたかった。いつも不況に陥ると筆者が注文するので、彼らにとってはありがたい客ではある。そのうち好況になると、またはじき出される可能性はないわけでもない。

 今回はアメリカの富豪たちからの注文も溜まっていたので、一気に片づける。持って行ってやることはできないが、貨物で送ってやれば良いことである。

 同時にOJゲージ用の注文が来ていた。25年ほど前、吉岡精一氏の設計の試作を行っている。500軸しか作らなかったが、仲間内で捌けたようだ。それを再生産したいのだ。バックゲージは21.5 mmである。OJ用の車輪は厚みが少し薄い。#137 (3.5 mm)である。フランジの規格はLow-D と同じで 1 mmx1 mmである。フランジ厚みの基準点は、吉岡方式でP点を採っている。こういうところに実物知識を持ち出して批判する人がいるが、勘違いも甚だしい。模型は実物とは違うということを、理解できない人は多い。Low-Dは、模型として最高の性能を出すことしか考えていない。 
 
Low-D OJ用長軸型 (4)Low-D OJ用長軸型 (3)Low-D OJ用長軸型 (2)Low-D OJ用長軸型 (1) 長軸のサンプルが残っていたので寸法を示す。軸端部は Φ2.0であったが、Φ1.5にする予定だ。そうすると小さな軸箱にも入る。

 スポーク車輪は作らない。今専門家が検討しているが、3Dプリントという方法もありうる。これなら、スポークも波状の輪心も思うままだ。


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2019年12月07日

HOゲージャの訪問

 HOの友人が夫人を伴って来訪した。
 かねてから、夫人はこの博物館のレイアウトのことを聞かされていたので、「どうしても見たい」といらしたようだ。120輌が音もなく発車し、ドラフト音を響かせながら坂を登って降りて来るのをご覧になって、大変驚かれたようだ。
 御亭主に、「どうしてうちのは短いのに、ここは長くても牽けるの。」と質問された。彼の自宅のレイアウトには、電車を中心に車輛が走っている。

「すべてが違うんだよ。車輪旋削の精度、材質、軸受の精度、歯車の設計、モータの種類、すべてが全く異なるのだ。」と彼が答えると、「HOでもできないの」と聞く。
「残念ながらそういう車輪を作る人が居ない。誰か作らないかなと待っているんだけど誰も作らないから無理だ。」と彼が言うと、残念そうな顔をされた。

「『誰かが作らないかな』と思っていても、駄目さ。自分で作らなきゃ。そういう工場はいくつか伝手があるから、紹介しようか。」と切り出したけど、話はそれ以上進まなかった。

 どうして誰もやらないのだろう。研究結果は発表されているので、HO用のヴァージョンを作るだけのことだ。半分の大きさにすると、いくつか予想外のことが出てくるかもしれないが、少なくとも、めっきされた車輪よりはずっと静かになる。

 動力車用の40インチの車輪のネジの嵌め外しを、して貰った。さすがに技術者だけあって、その違いに気が付いた。
「このネジは高精度だ。こんなのは他に例がない。」
 全くガタがないネジで、締まるとき、コツンと当たるともう動かない。軽く締めただけで、そう簡単には緩まない。細目のM4ネジである。車輪の製造所が胸を張って「世界最高峰のネジです。」と自慢したネジである。左右の車輪径が1/100mmの桁まで合っているし、バックゲージ(back to back)のばらつきがない。
 それを言うと、彼は、
「ここまで来ると模型じゃないな。精密機械だね。この静かさには参るね。HOはオモチャかな。オモチャから脱却したいもんだ。」と言った。

 彼は、筆者が上廻りの出来具合にはあまり興味がないことを、良く知っている。模型屋には殆ど行かないと聞いて、夫人はどこに行くのかと聞いた。
「クズ屋です。廃金属回収の店に行くと、楽しいものがたくさん見つかりますから、洗いざらい買ってきます。工作した残りのクズは持って行って売ります。50 kg買って40 kg以上売りますよ。」
と言うと、ずいぶん驚いた。ブラス専用の屑箱をお見せすると、納得されたようだ。


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2019年01月16日

続々 finescale とは

 ゲージは縮尺値に正確でなくても、筆者はあまり拘らない。ただ、広い場合には、蒸気機関車の設計で困ることが多い。タイヤ厚も本物より大きいので、ロッドの収まりが良くない。クロスヘッドを外に動かして、ピストンロッドの中心からわずか外に出す例が多い。そうしないと走らない。Oスケールは、実物より6%強広い。

 車輪の厚さについてこだわる人が多い。薄くなければファインではないと信じているのだろう。ポイントさえなければそれでも良いのだ。実際にはポイントがあるから、フログの欠線部のことを考えねばならない。

 Low-Dの設計では、欠線部で落ちないことが優先順序のかなり高いところにあった。だから、車輪厚さはやや厚い。既製品の中には意外と薄いものもある。それらは、ことごとくフログの欠線部にはまる。フログは削れて凹み、ますます落ち込む。それは、Oスケールでは決して無視できない。通過頻度の高い本線では深刻な問題だ。筆者のダブルスリップを滑らかに通過する動画を見て、
「ありえない静かさだ。」
と言った人は多いが、
「なぜか?」
と問うた人は少ない。

Wheelsets この写真をご覧戴きたい。NWSL や ATLASと、Low-Dとの違いである。アメリカ人は薄い車輪が好きな人が多い。それがどういう結果をもたらすか、は考えない人が多いようだ。説明してやっても、半分は上の空だ。しかし、現実にLow-Dだけの車輛群を走らせてやると、仰天する。あまりにも静かで、ポイントで動揺しないからだ。この写真を撮るとき、手前から向こうに並べたものを望遠レンズで斜めに撮っているので、上の方はより狭く見える。手前の三つは同じゲージである。

Proto48 vs HO wheel Proto48の車輪が少し見つかった。こんな感じである。右はHOの13.5 mm径車輪だ。フランジはHOより薄い。
 これが間違いなく走る線路を用意するのはなかなか大変なようだ。先日ポイントのフログは8番と書いたが、それは標準軌の場合である。狭軌ではもっと大きな番手が必要になる。作図して確かめられると良い。作図をしない人が多いらしく、この質問は多い。作図は必要最小限のことである。

 ファインスケールという言葉を持ち出す人は、自分の提唱している車輪規格を売り込みたいのだろう。それは他より優れている、と信じているのだろう。決してそうではないのだが気が付いていない。売り込みたいがゆえに、禁じ手に手を出している。ファインを考えるなら、線路規格と同時に考えねばならないのだが、そこまで頭は廻っていないとみえる。

 車輪の形状は長年の積み重ねで、このような状態に決まってきたわけだ。「よく走る」ということを考えると、ファインな車輪というのは、様々な点で問題が大きくなる。その点、大阪合運でお会いするHOJCのグループの方達は、よくやっていらっしゃると思う。筆者は、そこまではとてもできない。
 すべてをゼロから始めたからこそできるのだ。Oスケールには100年以上の歴史があり、ある程度形が決まってからの数十年の遺産があるので、それらとの共存を考えると Low-D しか方法がなかった。当博物館の線路はRP25が来ても通るようになっている。そこに Low-D を通している。非常に静かである。大きな軸重の機関車が来ると、ドスドスという音がするが、落ち込んでいるのではない。
 Proto48の連中はあまり深く考えずに、実物の完全縮尺をしたので、問題が噴出している。 

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2019年01月14日

続 finescale とは

 早速いくつかコメントとメイルを戴いている。そのすべてが筆者が予想していた方達からであった。HOスケールとは何かという計算方法を教えてくださった方もあるが、その程度のことはわきまえている。
 先回は、筆者は意図的にフランジ高について書いた。そうすれば、それについてきっとたくさん書き込みがあるだろうと思っていたのだ。
 実は、ファインか否かはフランジ高にはあまり関係がない。フランジ厚さを論じなければならないのだ。厚さを決めると、高さは必然的に決まる。この事は殆どの方が気が付いていない。NMRAのおかしなフランジ形状でなければすぐ決まってしまう。

 フランジ厚さが薄くなって、フランジウェイが狭くなるとファイン化するのである。back to back バックゲージは広くなる。Low-Dの形状を決める時は、そこで吉岡氏と意見が一致した。
「そこに気付いた模型人に会ったのは、君が初めてだ。」
と言われた。
 既存の車輪との整合性を保ちつつ、よりフログを狭めることができる。非対称フランジウェイを採用すれば、もっと良くなる。タイヤの厚さは、この際あまり関係がない。

 先回の写真をご覧になった方から、
「ATLASはファインなのですか?」
と聞かれた。ファインではないのだが、横のとんでもない車輪を見ると、ファインに見えてしまう。実はその比較が大切なのだ。
 鉄道模型が進歩してきた過程の中で、コースから脱却してより実感的な車輛、線路へと舵を切ったのだ。現在ほとんどの皆さんが楽しんでいる鉄道模型は、かなりファイン化しているのである。もちろん、Low-Dはファイン化しているが、いわゆるファインではない。走行性能向上を第一目的としているので、譲れないところもあるからだ。
 十分にファインであると感じるのは、コースとの対比をしているからである。
 
 ”fine” と ”ファイン”の違いについては意外な質問を戴いた。これについて、他意はない。お気づきの方もいらっしゃるだろうが、当ブログでは、話題になる概念について最初はローマ字綴りを書き、あとから出てきたときには、カタカナで近い発音を示している。

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2018年09月22日

roller bearing trucks

 この台車枠は素晴らしい。過去のKTMのどの台車とも違う合金が使ってある。やや重い亜鉛合金なのだが、色が白い。シルミンのような色である。かなり快削性がある。
symington-could trucks 説明書にはvirgin Zamakとあり、劣化しないとある。その軸受はグラファイト粉末を入れた Delrin ということで、鋼製軸との摩擦を減少させ、10年間の保証を謳っている。この種の文章は鉄道模型界では極めて異例である。車輪は鋼製で黒色処理がしてあり、減りにくいとある。それは10年ほど走らせているから、よく分かっている。 また、振れもない。

modifying trucks 筆者はこの軸径がΦ1.5であることに目を付け、内径1.5、外形4.0のボ−ルベアリングを大量に持っているので、嵌めてみようと思い立ったのだ。デルリンに嵌め込むのは難しい。小さなものを加工しても心が出ないのである。ブラスの棒から挽き出した。筆者は同じものを12個以上作る作業はしないことにしている。これは8個だから良いだろうと思ったが、ベアリングがきちんと嵌まるような加工は難しく、20個ほど作って良いものを選んだ。さらに外からベアリング・キャップが嵌まるので、それからも控えなければならない。

 ロックタイトで固定した。液が中に入らぬよう最深の注意を払って組み立て、放置して固まるのを待った。結果は成功であったが、とても疲れた。

 板バネは少し加工してコイルスプリングの代わりに入れ、これはスーパーXで固定した。カブースに付けて試走させた。合格であった。  

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2018年09月20日

Japanese market

 KTMという会社は、戦後長らく輸出用には最高のものを、国内需要には二級品をというポリシィを持ち続けて来た。ライアン氏による鶴の一声で、輸出用には厚い板を用いた工芸品を作ったが、国内向けはIMPの時代のままと言ってよいものしか売り出さなかったのだ。

for Japanese market このUS Hobbies向けの台車も、その路線を踏襲している。国内でこのローラ・ベアリング台車を手にしたのは1970年代の最後だと思う。いやな色をした車輪でフランジが直立に近く作られていた。こんなものでは満足できなかった。一組手に入れただけで、そのまま抽斗に入れて20年以上経った。

KTM case 2005年頃に土屋巖氏とアメリカに行ったとき、この台車のアメリカ仕様を大量に手に入れた。それには、随分良い車輪が付いていた。箱はいかにもアメリカ製のポリスチレンの綺麗な箱で、大きなKTMのロゴが金色で箔押しされていた。既に韓国製の時代になり、日本製は過去のものとして人気がなくなって、割安であった。価値の分からない人は多いのだ。

without bearing cap 軸は細く Φ1.5で、熱処理した軸である。硬い。軸受はデルリン(ポリアセタール)で摩擦が少なく、無潤滑でも行ける。軸の先端には、ローラ・ベアリングのキャップが嵌まっていて、それが回転するのが見える。RP25の枠組みの中にある。
 ボールベアリングやピヴォット軸受には負けるが、かなり優秀な転がりを示す。無給油で1%の坂を転がった。注油して重いものを載せると、0.75%以下で転がった。決して悪くない転がりだ。 

pseudo Low-Dpseudo Low-D2 この2枚の写真をご覧戴きたい。鉄レイルの上をよく走らせてあるので、黒色処理が磨り減っているが、フランジに触っている形跡がない。フィレットのRはかなり大きい。フランジ角も小さい。Low-Dと同じ考え方である。

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2018年06月12日

O Scale West での講演 2

 3条ウォームの特質で一番大切なのは、高効率を求めると、同時に逆駆動ができるようになるということである。決して逆駆動だけが目的ではなかったと言いたかったのだ。音のことも強調した。
「スパー・ギヤ、べヴェル・ギヤ・ドライヴでは蒸気機関車がヒューと音を立てて走るから許せない。」と述べると、皆納得した。ウォームの静粛性には敵わない。

 一部の人達は「祖父江ドライヴは歯車比が小さいから、牽引力がない」と勘違いしているが、それはモータが小さいだけである。高価だが12 Wクラスのモータを入れれば、UPの4-8-4が重いプルマンを12輌牽いて1.6 %の勾配を駆け上がることができる。その様子を動画で見せると、皆愕然とした。全効率は60 %弱であると言った。低ギヤ比の方が効率が良いことと、祖父江ドライヴには 15 W の伝達能力があるということを強調した。

「そういうモータはいくらぐらいのものだろう?」と聞く。
「場合によるが定価は300〜500ドルくらいだろう。」と言うと驚いた。
「高級なスポーツカーでは、その製造原価のうち、エンジンは40%くらい、トランスミッションが20%くらいを占めるのだから、当然ではないか?」と言うと妙に納得した。

B&O EM-1 + 125cars + caboose 次いで、126輌編成がドッグボーンを周回して機関車とカブースが逆向きになって平行になった状態を見せた。その状態でカブースを後ろに引く。約 0.7 mほど引くと連結器の隙間(slack)が伸び切って、機関車が後ろに引張られて動く。今度はカブースを前方に押して行くと、スラックが閉じて機関車が前に押される。
 この場面は非常に感動的で、会場内は騒然となった。
 機関車が軽く動くから驚いたのではない。そんなことは承知の上だ。126輌の貨車の連結部のスラックが波のように伝播し、押し寄せてくるところが感動的なのだ。皆大拍手である。動画を再演した。
「ありえないシーンだ。」と叫んだ者もいた。
 これを実現するために貨車の台車を全て取り替え、Low-D車輪に取り換えたからである。それを説明すると、場内は静寂に包まれた。その手間とコストを考えたのだ。

drag そこでこの図を示した。
「誰しもボールベアリングを使うと摩擦が減ると信じている。ところがボールベアリングにはグリースが詰まっているから、負荷が小さいときはピヴォット軸に負けている。軸重が4 oz. (約 100 g)を超えると初めてボールベアリングの効果が表れる。」
と言うと、これまた大ショックだったようだ。
「ここにある貨車はすべて16 oz(455 g)以下だから、ボールベアリングは全く使っていない。」

 そこでLow-Dを付けた貨車を短い 2 mほどの線路上で転がした。極めて静かに慣性を見せつけて走った。これにはみなとても驚いた。
「実物の貨車は、摩擦式軸受の場合 5 ‰以下の坂で動き始めることになっている。しかしこれは3 ‰ でも動く」
と言うと、さらに驚いた。
 ただし、実物は慣性が48倍あるから、その動きとは違うは説明した。これは少々難しかったかもしれない。   

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2017年10月28日

続 物理的考察

 先日博物館に、元国鉄で当時の新型特急の保守に当たっておられた高齢の方の来訪を受けた。現場をお見せすると、列車の規模にかなり驚かれたようだ。アメリカの鉄道には接することが無かったそうなので、それは当然だろう。

 最初の質問は、「フランジの摩耗にはどのように対処しているか。」であった。実物はフランジで曲がっているのだ。それは当然だが、この博物館の模型は違う。

「模型の線路の曲率は大きいので、フランジが当たると抵抗が大きくて走れませんし、仰るように磨り減ります。ここではフランジの手前のフィレット部分を大きくして当たらないようにしています。」と答えた。非常に不思議そうであった。
 実物関係者はだいたい同じ質問をする。実物と模型は違うのである。遠心力は無視できる。計算をするとすぐ分かるが、フランジに押し付けられることはない。同じだと思う人もいるようだが、実験しなくてもわかることだ。フランジが触るのは、ポイントで尖端レイルによって曲がる瞬間だけである。それも10番以上では、ほとんど触らない。

 カント (superelevation) も然りである。これについては以前にも書いた。カントは単に見栄えを良くするだけである。
 このように実物と模型は違うのであるが、自説を曲げない人はいる。走るところを見れば一目瞭然なのであるが、見たくないのだ。模型は実物と同じというファンタジィから抜けられないらしい。

 ところでRM Models の最新号に、筆者の作品が載っているそうだ。関西合運の記事の右上の方にあるとのことだが、田舎に住んでいるので本屋がなく、まだ見ていない。


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2017年10月16日

関西合運

OBJ 今年も出掛けた。何か新作を持って来いということなので、半年前に作った Old Black Joe と貨車2輌だけを持って行った。本当は塗るばかりまで完成したPullmanの8輌編成を持って行くはずだったのだが、ついに天候不順で塗れなかった。


 Oゲージのレイアウトは舞台床面に平で置いてある。高さが無いので残念である。せめて30cmでも持ち上げることができればかなり良いのだが、会場の都合でできないらしい。持って行ったものは陳列台に飾ってあったのだが、鎮目氏が、「走らせて見せてくれ」と言うので、彼のスクラッチビルトのタンク車14輌を牽くことになった。見物人は牽かないだろうと思ったらしいが、するすると牽き出し、順調に加速した。
 高効率のモータと効率の良いドライヴのなせる業である。全くと言ってよいほど無音で走った。貨車は1輌が 600g 弱ある。軸受はピヴォットではなく、プレーンである。Φ2のステンレス軸をブラスの軸受で受けている。よく注油されているから、かなり摩擦は少ない。

 ステンレスは摩擦が小さい金属なので、よく研磨してあれば、かなり抵抗は少ない。平坦線なので、軸受の摩擦抵抗と曲線抵抗である。Low-Dであるから、曲線抵抗はかなり小さい筈だ。暗算で必要な牽引力を計算した。1.0から1.4 N程度だろうと推測したが、もっと小さかった。
 機関車はΦ25のステンレスLow-Dを流用しているので、牽引力は少なく1.3 N 弱だ。モータの出力から計算して、補重してあるので、ぎりぎりのところでスリップしてモータが焼けないようになっている。直線では牽き出せるが、曲線では引っ掛かるかもしれないと思った。しかし、かなり余裕を持って走った。鎮目氏はLow-Dの効果を見て、感慨深げであった。  

 板バネが効いていて、フログを渡る音が重々しい。ここに等角逆捻り機構だけを使うと、軸重が大きい時は、ゴトゴト、コツコツという音がする。もちろんバネを介せば、問題ない。
 機関車が全く左右に振れない事にもご注目戴きたい。車輪の精度が高いから、二軸車でも安定している。また、重ね板バネの緩衝のおかげでもある。コイルバネではこうはいかず、ふらふらする。電流は、起動時で130 mA、巡航時で60 mA 程度である。


2017年04月26日

OSR May/June 2017

 最近号の O Scale Resource にLow-D の記事が載っている。毎号載せてくれるのは有難いが、少し頻度が高すぎる。編集者の要望に応えて原稿を送っておいたものだ。まだほかにも、いくつか送ってある。
 また、99%以上、書いたそのままが載っている。"to" を一箇所抜いたのと、複数形を2箇所直しただけだ。編集者は良く書けていると褒めてくれるのだが、こちらとしては今様の英語にして欲しい。筆者が英語を勉強して50年近く経ち、アメリカから帰ってもう25年以上経つのだから。
 
 外国人の書いた英語の雰囲気を味わって欲しいらしい。 アメリカ人の友達に聞くと、古風な言い回しがあるそうだが、違和感はないとは言っている。しかし、筆者自身は読み返すと少々気になるところがある。今はこう言わないような気がする、と感じるのだ。自分の書いた英語なのだから責任を持て、と言う人もいるだろうが、原稿をコンピュータ画面で見るのと、このような冊子風になったものを見るのとは、少々感じ方が違うのはやむを得ない。

 ステンレスの摩擦係数が小さいから、フランジ角を小さくでき、その結果線路の不整による脱線が起こりにくくなったことを強調した。Big Boyなどのセンティピード・テンダが脱線しやすいのは、これを使えば直ると書いておいたのだが、果たしてどの程度の人が興味を持つのだろう。

 滑走データも付けておいた。最後の写真は非常に多くのことを語ってくれる。これを見てフランジが触っていないということが明白になる。過去にいろんなことを言ってきた人がいるが、これを見せるとたちまち黙ってしまう。それほど雄弁 (eloquent) な写真である。動かぬ証拠である。
 フランジの接触による損失は大きい。先日RP25を付けた車輌が1輌発掘されたので、よく整備して滑走させた。車輪は溶剤スプレイでよく洗い、油気をなくした。線路も溶剤でよく拭き、油気を取った。
 下り坂を滑走させたが、カーヴの途中でキーッという音がして驚いた。フランジの音だ。フランジが擦れてそんな音を立てたのだ。ステンレスの摩擦係数が小さいとは言え、音がするようでは、とんでもない損失を生んでいる。フランジでカーヴを曲がるのは、模型では避けるべき間違いだ。

 実験をせずに、分かったようなことを言う人は多い。出来るものなら、やって見せて欲しい。

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2017年01月02日

謹賀新年

rainbow 大変きれいな虹が出た。晴天だったが、風が強く、山の向こうの雲から雨粒が飛んできたのだ。空に掛かる部分が100%見える虹は珍しい。よく見ると左上に二重の虹がある。
 虹が虫偏なのは興味深い。虫は爬虫類の「虫」で、トカゲすなわち「龍」を指す。「工」は橋を架けることである。要するに龍が空を渡って橋のようになることを指すのだ。

Lionel 正月は孫と甥の子供たちが来るので、何か用意せねばならない。今年はLionelの線路を敷き、貨物列車1編成を用意した。
 O27という急曲線で、嫌がるかと思ったが、子供たちはよく遊んだ。機関車はライオネルの純正品でない Williams の6軸ディーゼルを走らせた。この機関車は不評であった。ウォームギヤが1条で、押しても動かないからだ。
 子供たちは手で押して走らないものは嫌がる。貨車はピヴォット軸受付きで、実によく転がる。急曲線でもくるくると惰性で廻る。左右は別回転ではない。レイルは洋白製の普通のレイルの形をしていて、いわゆるチューブラ・レイルではない。車輪は円錐面二つで構成された荒っぽい作りだ。曲線では多少は抵抗が増えるが、それほどひどいものではない。フランジが触っていないからだろう。 要するに一点接触に近いのだ。

2016年02月19日

続々 視察団の来訪 

 レイアウトで117輌を牽引するのを目の当たりに見た時、ある方がぼそっとつぶやいた。
「ブログでいろいろな意見があると書いていたけど、この車輪でなければこれは牽けないよ。論より証拠だ。」 

 後で皆さんにお一人ずつ、坂の頂上で機関車から切り離された列車を手で引張って戴いた。大体5.5 Nの引張力だ。約 550 gをぶら下げたとき、手にかかる力だ。
「おっ、重い。重いけど軽いね。」
 変な表現だが、これを物理学用語に翻訳すると、
「慣性質量は大きいが、摩擦が少ないからゆっくりと加速する分には大きな力は要らない。」
である。坂を引き上げる力は当然必要だが、摩擦が少ないから、損失は少ない。

 下り坂では機関車は貨車に押されて降りていく。どんどん加速するのがわかる。日本の機関車は絶気するが、アメリカの機関車は絶気運転をしない。うんとカットオフを早めてパラパラという音をさせながら下る。バイパス弁がない物が大半だからだ。

 貨車は大半がバネを介して支えられている。たかが貨車と侮ってはいけない。たくさんあるから、ポイントのフログに与える衝撃力の総和は大きい。バネがないと傷みやすい。ポイントはすべて非対称フランジウェイを持つので、かなり落ち込みは少ないが、そうでない場合は顕著にフログが傷む。

 線路面が床から120 cm強あるのは、評判が良い。
「確かにこれは列車を見ている高さだね。これが80 cmだったら高いビルから見下ろすことになるね。」
 高架部分は145 cmあるので、背が足らない人もいるかもしれない。実はそれを狙っている。そこには古いレイルを使っている。そうせざるを得ない状況であったので、目立たない位置に使ったわけだ。

 レイアウトを作ろうとしている方は、架台の構造を調べて、写真を撮って帰られた。 金属製の梁を使うのが流行るかもしれない。

2016年01月30日

RP25との対比実験

RP25とLow-D もうすべて廃棄したはずのRP25が見つかった。使用済みのは、すべてアメリカの友人が欲しがったので渡してしまい、日本には存在しないと思っていた。
 タンク車を50輌博物館に移籍した。その中に、1輌だけ取替え忘れたものが見つかったのだ。交換するだけでは面白くないから、再度比較実験をしてみた。

 車軸寸法は現行のLow-Dと同じである。外して溶剤でグリスを拭き取り、踏面、フランジをよく清掃した。フランジに汚れが付いていないことを確認する。軸穴も洗って拭き取り、新しいモリブデン・グリスを少量塗って、再組立てする。

 RP25車をエンドレス上の最高地点から自由に滑走させて、到達地点を調べた。手で押すと誤差が生じるから、自分で自然に動き出す位置を選んで印をつけた。実験は12回行い、最大値と最小値を捨て、平均値を求めた。到達地点は15 cmくらいの範囲に収まる。
 次にLow-D車である。先ほどの車輛と全く同じように整備し、自由滑走させた。直線部分の加速は同等であるが、曲線を回る速度が明らかに大きい。到達地点は5.4 m先であった。これもばらつきは15 cm以内である。
 タンク車を走らせる向きは、当然同じにしている。車輪以外、すべて同一の条件である。

 RP25車輪を拡大鏡で覗くと、明らかにフランジが擦っている跡が見える。レイル側面の汚れが付着して、接触面ではそれがこすれている。ここまで来ればもう反論はできまい。
 この実験は公開で行ってもよい。何度でもできる。

・Low-Dはフランジで曲がってはいない。
・フランジが擦ると抵抗が大きい。
・模型と本物は異なる原理で曲がっていることがあっても不思議ではない。


 これでLow-Dに対する誹謗中傷は収まると信じたい。

2016年01月28日

続 フランジ

 実物の鉄道関係者にはフィレットなんて関係ないと言う人が多い。どうして図を見ないのだろう。実物のフィレットのRは小さい。レイルヘッドの丸みの1割増し程度である。テハチャピ・ループで見ると、車輪の形がレイルに転写されて、完全に一致している。レイルヘッドが多少狭くなっているのだ。塗油器でべとべとで、鉄粉を塗り固めたようになっている。
 それを見れば誰でもフランジで曲がると思う。

 一方、Low-Dでは丸みの比率が2倍はあるだろう。場合によっては数倍にもなるかもしれない。模型の線路は平型のゴム砥石でこする場合が多く、レイルの角は丸くなりにくい。その場合、比率は大きくなる。新品のレイルをスライスして顕微鏡で見たが、0.25から0.3 mmRほどである。
 半径比が大きいと上記リンクのP点まで行っても、当然一点接触である。現実にはそこまでは行かない。これは先回の写真でも明らかである。

 Low-Dの材質はSUS303である。摩擦係数が3/4ほどである。良く滑るから、まずP点まではいかない。試作の段階で0.4 mmで切り落としたものを作り、それでエンドレスを一周させた。全く問題なく走った。その車輪は吉岡氏のところに送ったのだが、戻ってきていない。それを見れば、「カーヴはフランジで曲がる」という実物屋さんも、納得戴けるのだろうが。
 実験がすべてだ。模型と実物は違うのである。

 フランジは推進運転の時の座屈防止には役立っている。あの高さがないと、とても持ちこたえることができない。先日、100輌の推進運転の実験をした。平面では何の問題も無いが、登り勾配の曲線を押し上げるのはむずかしい。微速後進で数メートル進んだのだが、2輌が同時に脱線した。

 来週は2輌の機関車で前牽き後押しをやってみる。DCCならではのゲームだ。半分くらいを押し上げるのなら、行けると思う。
 

2016年01月26日

フランジ

 修正したフログの部分のバックゲージ(back to back) が当たる部分を正確に28.45mmにした。これは意図的な操作である。Low-Dは29.0mm、機関車はすべて28.5mmに統一してあるので問題ない。とは言っても中にはハズレもあるだろうから、それをあぶり出すための方策である。

 108輌の長い貨物をゆっくり走らせて、そのフログの部分で観察する。どの車輛も静かに通過する。すべて合格だと思った瞬間、SPのカブースの台車がゴンと持ちあがった。そのカブースは韓国製で、車輪を替えてなかった。25年前から走っていたが、台車をばらすのが面倒で、そのまま使っていたのだ。
 車輪を見ると、踏面のめっきは半分剥がれて浮き上がり、フランジがかなり擦れている。彼らがRP25であると言っている怪しいフランジだ。バックゲージは28.32から28.42程度のばらつきだった。ホンの僅かだが、狭いので乗り上がる。
 早速外して、Low-Dのジャーナルにモリブデン・グリスを塗って嵌め替えた。もちろんこれで、なんの問題もなく走るようになった。(家に帰って、他のカブースも点検したところ、狭いのがもう1輌見つかった。カブースに対する注意力がなかったことが明らかになって、反省した。)

RP25 worn out 外した車輪を見て驚いた。フランジ全周が擦れている。二点接触の証拠もある。 なんという間抜けな設計だ。フランジでカーヴを曲がるという説もあるようだが、これはひどい。めっきが残っているということは、摩耗してこうなったというわけでもなさそうだ。 コンタ(形)が間違っている。今まで何も考えずに自宅のレイアウトを何千周もさせてきたのだ。たまたまフログのバックゲージがかろうじて通るほどの広さだったのだろう。フランジの背面には、ガイドレイルに当たることがあったので擦過痕が見える。

Low-D 15 years old 別の車輛を整備するために、Low-Dの汚れを拭いた。仙台に送って、カメラを搭載する専用車を作って戴くのだ。この車輪は裏を削って軽量化してあるから、5年前に作ったものだ。手で廻して塗装してある。毎日1時間ほど走っていたが、ほとんど磨り減っていない。フランジには何の跡もないと言ってよい。フィレット部の立ち上がりまでには多少の摩擦痕が認められる。裏にも接触痕は見当たらない。
 この車輪は一点接触しかしていないことは証明された。

 フランジが擦るような車輪は損失が大きいから避けるべきだ
。筆者は、これを言い続けている。しかし驚いたことに、「二点接触は問題ではない。」という反論があるそうだ。ライオネルだってそうなっているが誰も問題にしない、ということらしいが、論点が違う。条件が全く異なるものを比較出来ない。
 百歩譲って、ライオネルが効率を考えているのなら、それもありかもしれない。しかしライオネルは単なるおもちゃで、効率という概念はこれっぽっちもない。ガラガラ、ギャーギャーという音を立てて走る。音がするということはそれだけでアウトだ。ライオネルの付随車の車輪は左右が別回転するものもあるが、そちらの方は考察されていないようだ。

 博物館にお手伝いに来られた方は、どなたも走行の静かさに感動される。長い貨物列車が音もなく走るのだ。転動面の滑らかさが大きく貢献している。このカブースを最後に、めっきした車輪は一つもなくなった。めっきされたものは明らかに平滑性が劣るから、転動音がするのだ。 

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2016年01月04日

摩擦を減らす

 例の動画を見た友人からの連絡が多い。 単純に褒めてくれる人と、何かあると疑っている人が半々だ。何もない。英語で言うと、"Nothing up my sleeve(袖の中には何もないよ)."だ。これは手品師が言う常套句である。
 ステンレス車輪で、フィレット半径を大きくしてある。フランジの円錐面は決してどこにも触らない。 単純な話なのだが、フランジでカーヴを曲がると信じていて、お分かり戴けない人がいる。筆者はLow-D車輪のフランジ円錐面から先をすべて無くして走らせたことがある。何の問題もなく、半径2800 mmの線路を周回させることができる。実験がすべてだ。これについて異論がある方は、ご自分で実験されて報告されたい。「いや、こうなるはずだ」というご意見は、正直なところ迷惑である。模型には模型の理屈があるのだ。実物業界の方はその理屈が模型にも使えると信じている人が多いが、正しいとは言えない。特に遠心力が絡むものは、全く使えないのだが、それが分からない人が大半だ。

 外国からの連絡は、ボールベアリングが使ってあるのだろう、というのが多い。ちゃんとピヴォット軸受だと書いてあるのに、である。 現物を持っていて、こちらの指示通りにモリブデン・グリスを付けている人は、「すごいね」の一言で終わりだ。「うちのは線路が良くないからこんないい音はしないよ。」というのもある。良い耳を持っている人だ。確かに、博物館の線路はナイロンタワシで磨いてある。走らせてもほとんど転動音がしない。それと大きなファクタは、エラストマの貼り付けである。接着剤をあまりたくさんつけないで、かろうじて留まっている程度にする。flex trackを留めるのは釘を用いるが、枕木を貫通する部分の穴は大き目にしておく。軽く留まっているようにするのが骨(コツ)である。こうするととても静かだ。コルク道床を信じている人はまだ多い。無いよりはマシという程度で、効果があるとはとても言えない。比較実験をされたい。

 機関車の回転部にはボールベアリングを入れる。高回転、重荷重のところには不可欠だ。スラストは専用のスラスト・ベアリングを入れるとギヤボックスの設計が楽になる。ラジアルベアリングでスラストを受けるときは、アウタ・レースが広がらないようにハウジングの剛性を高め、はめ合い誤差を小さくせねばならないから、素人には難しい。モータ軸にフライホイールを付けた機関車を押すと、はじめは押しにくいが、手を放すとそのまま、しばらく走るのが面白い。


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2015年12月13日

Low-D wheelset の効果

 先回の動画を、別の角度で写したものがある。三脚にカメラを付けて写したのだが、少々パンする速度にムラがあり、見苦しいところはご容赦を願いたい。
 レイアウトの全貌がお分かり戴けるだろう。今、配線作業に掛かりきりだ。たまにショ−トするので、そのたびに大騒動だ。経験上、ポイントの隙間に何らかの導体が嵌まり込んで起きるのが普通だ。撚り線の一本が落ちていたりする。丹念に掃除機で吸いながら、隙間を刷毛で掃除する。今回もダブルスリップがショートしていることがわかり、何人かで見たが、原因がわからなかった。2時間くらい努力して、ようやく解決した。原因不明であった。こういう時は、荒っぽいがショートさせるという方法がある。
 大電流を流すと、その部分が融けたり、燃えたりして解決する。鉛蓄電池(内部抵抗が小さい)をつないで、スイッチ代わりの金属棒を一瞬接触させると、バチッと音がして、赤熱したものが飛び上がる。一瞬で解決だが、火事に気を付けねばならない。霧吹きで水を吹いておく。

 現場にやってきた友人にこの滑走を見せると、みな感動する。車体を裏返して、動力が付いていないことを確認する人もいる。模型としてあり得ない滑らかさであるからだ。台車はAthearnのデルリン台車で、sprungである。だから、ポイントを通過してもほとんど揺れない。これがイコライジングだけだと、高速では多少飛び跳ねて、脱線するかもしれない。

 実物の1/48の滑走距離なのだが、かなりインパクトがある。フランジが全く触っていないところには、みな驚く。この車輌も長年走っているが、フランジには多少の汚れが付いている。要するに接触したことがないわけだ。全てフィレットの範囲で解決し、フランジは走行時には機能していない
 摩擦係数の小さな材料であるステンレスを使用した効果がはっきりと出ている。実物の理論は全く通用しない。 

2015年12月11日

線路を敷く

 しばらく博物館のことに触れなかったが、着実に工事は進んでいる。

 現在は本線の電気配線をしている。友人たちが手伝いをしてくれるのは、本当にありがたい。一人で作業するのに比べて3倍以上の速さで仕事が進む。勾配線が完成したので、貨車を置いてみたら、40 m近く滑走した。勾配の上の平坦線が本当に平坦であるかは重要な問題で、この貨車が転がって行かないことを確かめねばならない。

 Youtubeに動画をアップロードしたのでご覧戴きたい。この撮影は先週行った。現在は複線がほとんど完成している。始めは平坦線なので少し押してやる。右手に黄色の家が見えてきた辺りから、下り勾配である。そこからぐんぐん加速して、最高160 km/hほど出ている。ポイントを渡る手前から平坦線である。

work car 工事に当たっては、必要な道具をひとまとめにして、作業が終われば2 mほど移動する。工具を箱に入れて動かしていたが、T氏が、「貨車に積もう。ワークトレインにしよう。」と言い始めた。なるほどと思った。しかし、
「斜面では滑って行ってしまうから、車止めを置かねばならず面倒だ。」と言うと、
「性能の悪い台車を使えば良い。」と言う。それはそうだ。
 古い台車を持ってきて、箱の下に付けた。油も切れているので、ブレーキがかかった状態だ。押せば動くが斜面でも安定している。思えば、昔はこんな車輛しかなかったのだ。10輌牽いても機関車がスリップした。現在の車輛は斜面には止まれない。


 一つまずいことが起こった。地盤沈下である。鉄骨の台のオウヴァ・ハングの大きいところに、二人が立ってしまったのだ。さすがに150 kg近く載るとまずい。アングルが微妙に曲がったらしく、5 mmほど下がったところがある。たまたま梁を継ぎ足して飛び出し量を200 mmほど増やした場所であって、要注意箇所であった。
 来週はそこの修理をする。自動車用の油圧ジャッキで持ち上げておいて、ブレイスを熔接する。おそらくそれで解決だ。
 その地盤沈下に気が付いたのも、この貨車のおかげだ。いつもそこで止まってしまうからだ。低抵抗車輪付き車輛は十分に水準器として機能する。 

2015年09月22日

Bob を訪ねて

 Bob はLow-D車輪を愛用してくれている。数十輌の貨車、客車に付け、運転しているのだ。

 Bobは、もう退職しているが、写真学の教授であった。サン・フランシスコの東岸の閑静な住宅街に住んでいる。たびたびお招きに与っていたのだが、 チャンスがなかった。今回の訪米の話をすると、「ぜひ寄ってくれ。泊まって行け。」と連絡があった。
 Bobは、アメリカ人にしては長い列車を運転している。50輌以上ないと面白くないと言う。

汽車が来る。初めは遠くに見える。だんだん近くなって機関車が通り過ぎる。機関車は大きい。そして列車は通り過ぎる。振り返るとだんだん小さくなって見えなくなる。これがやりたい。」
 芸術家である。それには長い直線が必要だ。

Low-Dwork shop storage 訪問しても、どこにレイアウト・ルームがあるのかわからなかった。この辺りは海岸なので、地下室は無い。
 工作スペイスを見せてくれた。車庫の片隅にある。車輪を台車にはめるために、tunerで加工している。どれも慎重な工作で、素晴らしい転がりだ。

 「裏庭に行こう」と言うので外に出た。すると、そこにレイアウトがあった。


 

2015年05月28日

truck tuner

 Low-Dはかなり売れていったが、いくつかの御不満も戴いている。それはピヴォット軸が短い場合があると云うものだ。

 本来はAthearn用として開発されたのだが、他の台車(Weaver など)の中では踊ってしまうとのことである。解決法としては、長短二種を作ることだが、それは避けたい。最小ロットを考えると、発注数を引き上げねばならないからだ。すでにAthearnの台車は少数派で、手に入りにくい。それなら長い方を作って、Athearnの台車の軸穴を深くするのが楽である。

 その目的の工具はtruck tunerと云って市販されているが、アメリカから取り寄せるのは最近はあまりにも高くて避けたい。その工具の刃は1本で、喰い込みを小さくするような作りである。深くするのはできないと云う意見もあるが、そうでもない。ただ、深くするのには多少時間がかかるのは事実である。気が短い人には具合がよくない。

truck tuner ホームセンタでガラス用ドリルと云うものを見つけた。新潟精機の製品だ。700円台であった。 3、4、5、6・・・最大12 mm が市販されている。これには超硬の刃が4枚ついているから、穴を深くするのは簡単である。
 指で回す部分を旋盤で作り、軸にロレットを掛けて、押込む。

 穴を1 mm程度深くするのは簡単である。左右均等に彫込み、モリブデングリスをほんの少しつけて車輪を嵌めれば完成だ。

 アメリカの客が欲しがったので、作って送った。
「あなたの知恵(wisdom)には感服する。」と書いてきた。大した工夫でもないが、作るのが簡単で効果が大きい。 

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2015年05月16日

歯車、車輪についての問い合わせ

 最近、昔の記事を読まれて車輪や歯車を希望される方が増えてきた。とても嬉しいことではあるが、すべての部品をストックしているわけではない。設計変更で新しい規格へと変化したものもあるし、用途に応じて、頒布させて戴いている。

 最近作のLow-Dは素晴らしい造形である。裏面も実物風に削り、精度が一段と良くなっている。おそらく機械が更新されたのであろう。走行音が一段と良くなった。
 軸の長さを微妙に長くした。各社の規格のうち、一番長いものを基準にしたのだ。その代わり、台車の軸受を少し彫り込む必要が出てくる。その作業をする tuner を作って頒布している。これは別項で紹介する予定だ。以前のタイプは高価であるし、アメリカから取り寄せるのも面倒だ。

  tuner は穴を深くすることができる。市販の物も同様だ。できないという記述をどこかで見たことがあるが、否定の証明は難しい。やってみればわかるが、深くできる。今回作成の物はその彫り込む能力を大きくした。アメリカに何本か出て行ったが、大変評判が良い。

 歯車は、難しい問題に直面している。昔頼んだ工場が廃業してしまったのだ。蒸気機関車用には小さいが、ディーゼル用は売るほどある。これはHOにも使える大きさである。

 先日3条ウォームを欲しい方がいらしたので、スラストベアリングを含めてお売りした。すぐに「動かない」と文句を言ってきた。案の上、有鉄心モータを付けていた。
「それは無理ですよ。」
「あっ、そうか。すまん。」で済んだが、このコッギング(米口語ではteething)の件は、あちこちで同様のことが起きている。コアレスでないと意味がないのだが、なかなか難しいようだ。

 さてこのteething と云う言葉であるが、辞書に載っていないという指摘を受けている。辞書に載っていないから怪しいというのは短絡的な発想で、メディア・リテラシィ(新聞、放送などの情報を受けて、正しく理解する力)に問題があるかもしれない 。
 この言葉は正しい。

 10年ほど前カリフォルニアで、この件について講演をした。その時、coggingと云う言葉を使ったら、ほとんどの人が不思議そうな顔をする。近くの人が小声で、「teethingだよ」と言うので、言い直したら皆が納得した顔つきになった。
 コッギングは書き言葉らしい。これが気になっていたので、次のシカゴではわざと、「書物には使ってあるが、あまり通用しないらしいコッギング」と言ったら、全員が爆笑した。
「その通り!」との声があった。
 ニューヨークの会合でも確かめたが、teethingが何の問題もなく通用した。

 言葉は生きている。辞書に載るまでにかなりの時間がかかりそうだ。使われて通用している言葉であるから、辞書に載っていなくても正しいのだ。
  現地で集めた情報を書くと、それをいろいろな方法で検索して関連情報を集める人がいる。どういうわけか、「この情報はおかしい。調べたけどどんな本にも載っていない。ウェブ上でも調べたが載っていない。」と言って来るのだが、ことごとく外れている。足で稼いだ情報には多少なりとも敬意を払ってほしい。こちらも英語は不自由しないので、それ程ひどい間違いはないはずだ。

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2015年03月13日

Clinic

 今年のクリニックは2コマ用意するからと言われていたのだが、講演希望者が多かったらしく、「1コマでやってくれ。」ということになった。二つの内容を1時間でやるのだから、中途半端ではある。
 どういうわけか、前評判が高く、何人かがテーブルに来て、「今日の話は一昨年と同じか、進歩があるか。」と聞く。
「もちろん進歩はあるよ。」と言うと、来てくれた。
 人数は10人ほどであったが、皆熱心だ。
 Low-D車輪は、会場ではサンプルとして何個か売れただけであったが、そのあとで電話があって、100個単位で売れて行った。後で連絡を貰うと、「友達に自慢している。」とか、「Oゲージの未来を切り開いてくれた。」という賛辞が寄せられた。
 例の80輌以上牽く動画と、押してやると一巡り半する動画を皆喜んで見ている。潜在的には、皆長い列車を牽きたい気持ちがあるのだ。それと、たまたま今は円安で、買いやすいことも大きい。

等角逆捻り機構試験線路 そのあとで、等角逆捻り機構 のサンプルは、パンタグラフ式だけ持って行った。これは理論的に、全く突っ込まれる心配がないからだ。ロンビックは2軸車だと面白いのだが、アメリカには二軸車はほとんどない。


SATR Mechanism and Alf Modine 今回はぐにゃぐにゃの線路を作って持っていた。これが大人気で、テーブルの上に置いておくと、友達を連れてきてゴロゴロと転がす。シカゴでは見せたが、カリフォルニアには初めて持っていったのだ。
 皆、引込み線のぐにゃぐにゃ線路を見た記憶があるので、レイアウトの片隅でやりたいのだ。

 これを作ってくれという申し出もあったが、同じ貨車を用意するのが面倒で、断った。この貨車は、Athearnのブラス製外皮だけを使って作った。製品では、木製箱組みにブラスを貼るのだが、これは骨をブラスで作って、それに貼りつけた。正直なところ、スクラッチビルトに近い。ブラス製既製品は床を外しても妙な所に骨があって、ヤジロべエが入りにくい。骨を切ると、それを補強せねばならず、めんどうだ。



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2014年08月10日

続々 吉岡精一氏の死去

 Low-D車輪の開発も、吉岡氏の助言に負うところが大きい。
 当初、出来の悪いプラスティック製のRP25車輪をステンレス製に置き換えようということになって、筆者が図面を描き、旋盤屋に1000軸ほど発注した。それを見本として送ったところ、逆鱗に触れた。
 
 「RP25が正しいと思っていたら、それは大間違いだよ。正しい知識を身につけるまで、車輪の発注をするべきでない。」
 それ以降、ナダルの式の勉強をさせられ、MRの記事の間違いを教えられた。フランジ角を何度にするか決めるのに半年ほどかかった。摩擦係数の小さい材料を用いた車輪は被牽引車では有利であることも、その時認識できた。
 フランジウェイの寸法や、チェックゲージの決定に、さらに半年くらい掛かった。その間に来た手紙が、たちまち10 cmほども溜まった。当時、返事を書く暇がないほど忙しかったので、電話で返答した。
 手紙でないと叱られるかと思ったら、逆に褒められ、「君は偉いよ。全ての手紙を読んで、必要な返答を寄こしている。電話も掛けて来ない奴が大半なんだから…」
「先例に捉われず、全てを洗い直し、最高のものを作る」ということを繰り返し言われて、かなりの重圧であった。 図面はこの間に20回ほど往復した。

 そして、ついにLow-D車輪発注の承認が得られて、工場に注文した。図面は全てに吉岡氏の手が入っていて、それを見た工場の人が言った。
「こんな図面は初めて見ました。全ての点に座標が入っています。これを手で計算するのは大変だったでしょうね。おかげで入力は楽ですよ。」

 その後、CNC旋盤の入力の仕方が分かり、簡略化した図面になった。
 Low-Dの性能を測定するのは難航し、たくさんつないだ状態でカーヴを通し、その抵抗の変化を測定した。それはかなり大雑把な実験であったが、吉岡氏は大変満足そうであった。
 「車輪の抵抗なんてのは、1輌では分からないし、分かる必要もないんだ。たくさんつないでどうなったかが大事なんだよ。」

 その後のLow-D車輪の売れ行きにはいつも目を配って戴き、3万軸を越えたという報告をすると、大変御満足そうであった。Low-Dの設計をご自分でされる代わりに、筆者に設計をさせ、それを監修されたことになる。きっと御自身でされた方が早く出来たはずだと思うが、「良いチャンスだからこいつに勉強させてやろう」というお気持ちがあったのだろう。

 氏は筆者のことを管理型模型人と名付けられたが、吉岡氏はどの様な分類になるのであろうか。
 多分、監督型模型人というのが適当ではないかと思う。

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2014年02月03日

Low-D wheel contour 総括

 筆者は、色々な分野の専門家と共同して仕事をすることがよくあった。専門家の皆さんは非常に的確な推論を出して問題を解決する場合が多かったが、たまに完全に外れる場合があった。
 それを筆者なりに分析すると次のようになる。

推論





 未知の事象が過去の経路からそれほど大きく外れていないときには、専門家の皆さんの推論はたいてい当たっている。しかし、未知の事象は必ずしも微分可能な関数の上に載っているわけではない。急な曲がり方をしているかもしれないし、完全に折れているかもしれない。あるいは連続性がないのかもしれない。
 工学は演繹的な推論と帰納的な推論を組み合わせて出来ている。前者は連続的な関数の時には非常に大きな効果を与えるであろう。またその結果が今まで全て当たっていると、その演繹性がこれからも全て正しいはずという帰納的な推論をもたらす。ここに大きな落とし穴がある。

 条件設定が変わると、「今までどの変数がどの範囲で正しい結果をもたらしたのか?」という検証が必要になるのだが、専門家の皆さんは、過去の成功体験から逃れられない場合が多い。
 筆者は成功体験などないので、物理の基本原理だけから考えることしかできない。
 いわゆる公式というものも、元の関数だけから調べれば、近似の結果であることが大半だ。近似という操作をするときも、近似できる範囲は条件によって大きく変化する。

 自然科学は観察の学問である。何が起きているかは机の上では解決しない。実際に模型を作って、多数の例を観察して結果を出すべきである。都合のよい例だけを分析すると間違える。

 この連載記事が始まった途端、「個人攻撃を始めたのですか?」というご意見も戴いたが、そうではない。もっともっと客観的な話である。全てを本物の理論で解決することが出来ないことを伝えたいのである。Proto48や、本物縮小主義に対しての筆者の意見表明である。

 先日も「旧型EF電気機関車を本物通りに作った。」というのを見せてもらったが、車体の剛性が大き過ぎて、線路のひねりに追随できない。本物の車体は細い梯子フレイムにへなへなの箱車体が載っているだけであるから、簡単にひねられる。台車と台車は牽引力を伝えるように結び付けられていて、車体には牽引力は伝わらない。そのあたりがあやふやで、非常に残念であった。

2014年02月01日

Centipede Tender

 Big Boy、 Challenger、 Mighty 800についているテンダは、いわゆるセンティピード・テンダである。4-10-0の車軸配置で、後5軸の軸は固定であるが、バネは利いている。
 このテンダをつけた機関車を後退させるのは、難しい点がある。最後軸が極めて脱線し易いのである。ウェイトを余分に積んだり、左右動を利かせてみたり、出来る工夫は全てした。しかし後退時にポイントで脱線し易かった。だから、後退でなるべくポイントを通らずに機関区に行けるように、線路配置を工夫したこともある。

 Low-Dが開発されて、33 in.(17.5mm)、36 in.(19.0mm)の車輪が行き渡ったころに40 in.(21mm)の車輪を作った。大半はディーゼル電気機関車の非動軸用のものであった。当初は機関車を全て動力化する予定であったが、Low-Dの実用化で、機関車1台で100輌以上の貨車が牽き出せることが分かった。勾配があっても50輌は牽けるので、動力車の数が半減してしまい、かなりの機関車がダミィとなったからである。
 余分の21mm車輪をセンティピード・テンダに取り付けたところ、後退時の脱線が皆無になった。今までの苦労がウソの様に、脱線しなくなった。

 比較してみると、同じ軸重でも、フランジがポイントの尖端軌条に辷り上がらないのである。明らかに摩擦係数が小さいことが寄与している。軸が左右に振れるようにもしていないのだが、すんなりと転向する。1 kg以上ある重いテンダだが、ボールベアリングのおかげで非常に軽く動く。
   
 芦屋の御大もBig Boyのテンダが脱線することで悩んでいた。
「考えられることは全てやりましたよ。でも脱線するのです。バックさせないようにしてます。」
と仰ったことを覚えている。

 やはり摩擦係数が小さいことは、非常に大きなファクタであることは間違いない。模型と本物は違うのである

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2014年01月30日

推進運転

 長い列車を推進運転するのは勇気が要る。脱線したときの被害は甚大だ。特に高架線では転覆して落下すると修復不能な被害を被る可能性がある。
 友人が来るとたまに80輌列車の推進運転をして見せる。心配する人は多いが、急加速しないようにすれば、うまくいく。列車の編成時に、重い車輌を機関車に近い位置に置くのは当然必要なことである。

 全体がLow-Dで摩擦が少ないので、推進時に掛かる力も少ない。緩やかな加速であれば、物理の法則通り、必要な力が少ないから、脱線の心配はない。以前はピヴォットでない車輌が存在したので、転がり抵抗が大きく困難であった。

 ポイントを渡っての入れ替え作業は楽しい。トングレイルの浮きさえ気をつけていれば、まず脱線はありえない。側線の平坦度は大事なことである。下手をすると流れてしまい、接触限界標を越えれば即事故である。

 アメリカでは、そこを突っ込んで来る。「側線に停めて置くことができないような車輌は役に立たない。」
レイアウトに見に行くと、車軸に油が注してないので、キーキーと音を立てる。「油を注すと動いてしまうから、入れ替えが楽しめない。」と言うのだ。
 何か間違っているのだが、直そうとしないから、話しても無駄だ。以前KadeeのNゲージ用のカブース台車には軸端にコイルスプリングが入っていることを知った。軽くブレーキを掛けておいてDU ディレイド・アンカプリングを成功させるためと聞いた。一つのアイデアではあるが、筆者にはなじめない話である。要するにKadeeのNゲージ車輌は、類まれなる転がりを示すという自信の表れと解釈した。

 伊藤英男氏のところで車輪を見せて戴いて驚いた。Low-Dに似た、大半径のフィレットを持っている。その理由を聞くと、「こうすると曲線での抵抗が減るのです。実験もしてみました。」と仰る。Low-Dを作ってしばらくしての訪問時であったので、時間的には伊藤氏の方が多少早かったのかもしれない。一緒に訪問した吉岡精一氏も非常に驚いたが、同じ実験結果を得たということで、納得した。 

2014年01月28日

低摩擦、高効率の鉄道模型を追求する

 このブログの副題である。趣味の方向性を宣言しているのであるが、はたしてどの程度の方が、その意義を汲み取っていらっしゃるのだろうか。つまみ食いは感心しない。全てを改善しないとよい走りは実現できない
「適当に走ればよし」という時代は高校生の時に卒業して、そのあとはひたすら高効率の実現に邁進した。手に入るものは何でも使ってみたが、最終的に3条ウォーム + コアレスモータに落ち着いた。 
 スパーギヤはより高効率だが、使いにくいし、密閉ギヤボックスを作るのが大変だった。3条で逆駆動は完璧にできる。横浜の博物館には、「ウォームギヤは逆駆動出来ない」と書いてあるそうだ。ウソはいけない。

 1987年からは吉岡精一氏の指導のもと、RP25の研究を始めた。当初はそれでうまくいくものと思っていたのだが、走らせると不具合が見つかった。NC旋盤屋を見つけて、なだめすかして仕事をさせた。当時は景気が良かったので、なかなか仕事を引き受けなかった。 

 ボールベアリングの導入もそのころである。いったい何個買ったのだろう。トータルで数万個買ったのではないかと思う。国内外に原価であっせんした。しかし、貨車はピヴォットに限るということがわかった。

 Low-Dは一発で成功したので、その後3万軸以上作った。とにかく数を作って、原価でばらまき、国内の市場を席巻してデファクト・スタンダードにすることに専心した。利益はないが、皆さんの車輌の性能向上に役立った。
 持っていたRP25は、「あまりたくさん走らせない」とおっしゃる方に差し上げた。アメリカの友人で、性能向上に興味がない人に渡したのだ。10輌しか牽かない人達には、それで十分だからだ。
 そういうわけでRP25はもう手元にないので、さらなる比較実験が出来なくなった。

 やはり、「80輌編成をやりたい。」という人はたまに居て、大量に買ってくれる。評判は上々だ。最近は円安なので多少安くなって、買いやすいようだ。送料、関税を節約するために、アメリカまで持っていって、送ってやる。
 直線を走っている時と、押し付けられてフィレットの最下端に来た時を比較する。そこまで来ると、脱線抗力の最大値に達したわけだから、そのまま辷り上がって脱線するはずである。しかし全軸sprung, equalizedであるから、そういうことはまずない。
 スケールスピードで時速100マイルでも、全く脱線しないし、80輌の推進運転でも、幾つものポイントをくねくねと渡れる。

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2014年01月26日

フィレット

jpg 曲線上で2軸台車をつけた観察用の車輌を転がすと、台車は曲線の接線より外を向こうとする。すなわち、第1軸の外側フランジがレイルヘッドに当たろうとする。
 第2軸は内側に入ろうとするが、半径2800 mmの上で観察すると、ちょうど中央付近である。1800 mmではやや内側に寄るように見える。

 さてこの時、第1軸の実際にレイルヘッドに触れている部分(フィレットの裾に乗り上がった部分)の半径を計算すると、大半径の線路上では、行路差を十二分にキャンセルするほどの半径比になる。第2軸では踏面勾配が小さいので左右に寄ってもあまり影響を与えず、行路差がほとんどそのまま出る。すなわち、Low-D車輪を装備すれば、2軸台車では行路差に基づく損失の半分は、取り戻せる可能性がある。
 上記の計算では、19 mm車輪より17.5 mm車輪の方が、フランジの裾を踏んだ時の行路差キャンセルの効き目が大きいことになるだろう。何度も書くが、この時、フランジの円錐台面はレイルヘッドと接触していないすなわち見掛け上、フランジは輪軸の転向に寄与していない。大きいフィレットがフランジの代わりとして機能し、車輪半径を大きくして摩擦を減らすように働いている。また、フィレットの肩が輪軸を転向させている。
 車軸は曲線の接線に垂直ではないので、多少は回転方向に対し斜めに滑りながら動くことになる。その時もステンレスの摩擦係数が小さいことが有利に働く。

 このあたりの接触状況は、3D設計の専門家にシミュレイションをお願いして、色々な角度から覗いて見た。当然のことながら、フィレットを大きくすると、線路半径を小さくしてもフランジに当たりにくくなることが分った。
 市販の模型の車輪の精度は低い。マイクロメータで測ってみると、直径が  3/100 mm 程度のばらつきならば極めて優秀で、ひどいものは 0.5 mmも違うのがある。車輪踏面にはテーパが付いているので、転がせば多少片方に寄って走ることになる。そうすると、 場合によっては、2軸台車の車軸が進行方向に垂直にならずに、斜めになって走ることもある。こうなると、当然、摩擦損失が生まれ、抵抗が増す。Low-Dは1/100 mm以下のばらつきである。
 精度の高い車輪は、装着するだけで抵抗が小さくなるのである。

 筆者はLow-D採用時に、あまりにも摩擦が減少したので驚いたことを、覚えている。それは、ステンレス製RP25車輪をつけた列車が、当鉄道のエンドレスを一周繋いで(95輌)走るのは限界ギリギリであったのに、Low-Dにすべて取り換えたら、途端にらくらく牽けて、電流が70%になったことである。潤滑条件は同一であった。模型を実際に作って測定している人が得たデータは尊重すべきであろう。
 反論するには、独立した実験をしてその結果を示すのが自然科学の常識である。

 このような問題を解決するには、複数のファクタの解析をしなければならない。この条件で、どのファクタが一番大きく効いているかを、調べるのだ。今回の条件での実験観察でわかったことは、摩擦係数が小さいことが一番効き目があったということである。 これでは実物とは全く異なる理屈によると言わざるを得ないであろう。 

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