ヤスリ

2020年03月18日

真ん中を凹ませる

 先日の記事で、ヤスリで平面を出す方法について述べた。コメントそのものは少なかったが、コメント欄を通じた<私信>はかなり来た。私信であるから、公表はできない。知っている人も多かったが、未知の人からも来た。連絡先は書いてない。

 かなりの調子で、「ありえないことを書かないほうが良い」と言って来た。自信家と見える。「あの固い鉄のヤスリは曲がりません」と書いてあるのだ。鉄という言葉が間違っているのは、ここでは追求しない。どんなものも、力を入れれば曲がる。

 こういうことを言う人は、ご自分の見聞きしたことが世の中のすべてである、と信ずるタイプの人であろう。いわゆるスクラッチ・ビルダの中には多く居る。自分がアマチュアであることに気が付いていない。世の中は広いのだ。過去のTMS の記事はこういうタイプの人が書いた記事が大半である。だから進歩が殆どない。プロの世界を紹介する記事、プロから見た見解を書いた記事が必要なのである。

 この件をクラブの掲示板に書き込んで、経験のある方はご披露下さいとお願いしたところ、年配の会員がこのように書いて下さった。
 その通りです。R加工のときは反りを大きくします。小生は63年前、仕上の授業で習いました 余談ですが平ヤスリには片面にRが付いており、反対面はストレートです。手持ち(200 mm)を確認したところ、1本は両面ともRが付いていました。(フラットな面も先端は細くなっています)R加工の反りは、スェイさす事です。

 
確認したところ、スェイとはスウェイ(sway)揺動させることである。

 また今野氏から、これまた年配のフライス工の方が、
手作業なら出来るよ。フライスが無かった時代は、そうやって平面を出していたもんだよ。」
とおっしゃっていた、と伝えてくれた。 

 ヤスリを反らせるにはコツがある。筆者の習った方法は、下記のようなものである。まずヤスリのわずかに丸味のある面を下にする。左手の親指を中央に当て、中指と薬指を先端に掛ける。押す瞬間に力を入れると撓む。丸味をなぞるように押す。
 できないと言っている人は、プロの世界を知らないのである。筆者はそういう世界が好きで、覗くのが趣味であった。もうすでに、そのようなテクニックは殆ど世の中に存在しないが、特定の場所にはまだ存在している。


 大きな会社であれば、技能五輪に出場するための部署がある。某企業の担当者とは親しいので聞いてみた。それは当然という感じで教えてくれた。
 ヤスリだけで定盤を削り出せるそうだ。そういうところでは高級なヤスリをまとめ買いして、選り出して使う。残りは廃棄する。それを筆者のところにも、時々廻してもらっていた。余談であるが、日本の選手は優秀だそうだ。
 時として課題に間違いがあるそうだが、それを指摘するという。他の国の選手は出来なくて困っていた。出題側は、間違いを認めて問題を修正したそうだが、その時点で日本の入賞は決まっていたらしい。


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2020年03月02日

Max Gray のギヤボックス

MG gear boxes (1)MG gear boxes (2) ジャンク箱の中のギヤボックス中、一番古そうなのは、このFM Erie-builtの推進軸を下げるギヤボックスだ。ブラスの砂型鋳物を、大きなヤスリで削って平面を出し、孔をあけてギヤを入れてある。鋳物をフライスで削るのではなく、すべての面を手で削ってあるのには驚いた。大した腕である。普通の人が平面を削り出すことは、まず無理だ。よく見ると合印があって、番号も振ってある。その字は祖父江氏の筆跡ではないか!「8」の字に特徴がある。
 このハンダ付けも見事である。100 g以上もある塊りを一発で付けてある。しかもハンダが光っている。そう簡単にできる技ではない。

 40年ほど前、祖父江氏は筆者にヤスリ掛けの指導をしてくれた。四角のブロックを削って、真ん中を凹ませよと命じたのだ。そんなことが出来るわけがない、と思ったが、彼はちゃんとやって見せた。30 mmのスパンで、真ん中が 0.2 mmほど低くなった。定規を当てると光が通るのである。そうやっておいて周辺を削ると、平面になると言う。
 真ん中を凹ませるのはヤスリを少し反らせて、その反りに従って動かすのだ。もともとヤスリは腹が膨らんでいるものである。それをさらに反らせてやるのである。そんな馬鹿なと思う人が多いだろうが、彼はいとも簡単にやった。これは仕上工の必須技能だそうだ。腕に自信のある方はやって見られるとよい。これをやるには姿勢が大切なのだ。万力に向かって立つ位置が決め手だ。もちろん高さも重要である。
 のちに筆者もできるようにはなったが、もうそんな必要もない。フライスで一発である。

 ギヤ比は14 : 16 : 28であった。シャフトはスティールであるから滑りが良い。歯数が偶数であるのはまずいが、14枚という数字が祖父江氏らしい。12枚とは明らかに音が違う。他社製のギヤボックスがうるさいのは、歯数が足らないのである。少ない歯数で行こうと思えば、ホブを替えなければならない。そんな単純なことも出来ていないのが、この国の模型である。韓国でさえホブを替えたのに、どうしてできなかったのだろう。この国の模型雑誌で歯数に言及した例があっただろうか。
 
MG gear boxes (3) グリースが、固まって石鹸のようになっていたので動かなかったが、灯油で洗ってスピンドル・オイルを注したら、軽く動いて、音も静かであった。肉が厚いので油が保たれるから、摩擦が少ない。


MG gear boxes (4) 一つ110 g 近辺だ。捨てるには忍びない。そのまま使うことはないので、この半分を加工して新たなギヤボックスを作ろうと思う。フライスで彫れば、いかようにもできる。
 要するに単なるブロックであると考えて作るわけだ。あいている孔には、ブラスの棒を突っ込んでハンダ付けして塞ぐ。両側を鋳物にする必要はないので、片方をブラスの板にする。そうすると数が2倍になる。もちろんボールベアリングを入れる。使える機種を探している。この合わせ目に見えるハンダは、二つを合わせてヤスリ掛けするために仮付けした時のものだ。うまく付いているものだと、改めてじっくり見た。


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2013年07月05日

Bob Longnecker氏のこと

 内野日出男氏はBob Longnecker氏とは1968年くらいからの知り合いだった。お互いに趣味のことであるから十分意思疎通は可能であったので、筆者が間に入る必要もなかった。
 Bobは内野氏の腕をとても高く評価し、内野氏はBobの頭脳に惚れ込んでいた。

 ボブは東京の下町の工場を内野氏と歩いて、ヤスリ工場を訪ねている。名前は失念したが、あるヤスリ職人の腕をとても高く評価していた。身振り手振りを交えて、機械が上下し、手で送りながら歯を付けて行く様子を再現された。また、焼き入れをするとき、味噌を塗るとか泥を塗るとかという工夫について色々考察をされていた。

 日本刀を焼き入れするときには特別な泥を塗るということは知っていた。欧米では硝石とか食塩を混ぜたものを塗るらしい。馬糞を塗るという話も出てきた。
 直接水に接するより、泥や塩を介して接する方がよく冷えるというのは面白い現象である。水蒸気の膜が出来にくいのだそうだ。

 ボブは筆者の3条ウォームの記事については良くご存知で、「理屈は分かっていても誰も作らなかったのだ。コアレスモータを使うという発想がなかったんだね。そこが最大の発明だよ。」と仰った。
 同じ線路に2輌の機関車を置き、1輌を押すともう1輌も動くという話をすると、「想像するのは簡単だが、実際に動くと興奮するだろう。」と言った。その通りであると思った。

 ボブとは、2003年にSeattleで再会している。その時は内野氏夫妻を案内しての旅で、御自宅にお邪魔した。Sam Furukawa氏には大変にお世話になった。

2011年07月21日

続 糸鋸の達人

how to cut long with short-frame coping saw 伊藤氏は、ノギスを使ってブラス板に0.40mm間隔で線を引いた。その隙間を0.23mmの厚さの糸鋸が進む。いかに達人とは言え、多少の蛇行はあるだろうと思っていたが、糸鋸はどちらの線にも触れずに真っ直ぐ進むのである。この時、照明は裸電球一つである。光の反射を使って鋸の進む道を確認している。

 奥まで切り込みたいときは、糸鋸の刃をペンチで挟んでねじる。上端と下端は焼きが入っていないので、簡単にねじられる。これで準備は完了だ。図のように弓を板の外に出して切り進む。図は蛇行を誇張している。
 これの実演を見せられた時は愕然とした。昔雑誌で見たのは、弓を曲げる方法だ。それでは弓の剛性が大幅に減少してしまう。弓は堅くなければならない。最近はアルミ合金あるいはチタン合金製のはしご状の弓がある。軽くて剛性が極めて高いらしいが、値段も素晴らしい。この弓は、刃の方向を45度ねじって留めることができるようになっているから、上記の方法が簡単にできる。
 
 話は元に戻るが、筆者が懸念したのは、弓の張力でねじりが戻るのではないかということだ。それは全く問題なかった。1m近く切った後でもねじり角は保たれていた。
 この方法は、筆者もときどき使わせて戴いている。懐がせまい弓なので、ちょっと奥まったところはこれに限る。色々な作業をしようと思うと、弓は何本か必要だ。

 さて、このように切り離した大きな板を大きな油目ヤスリで2回なでると、ちょうどケガキ線まで削ることができる。伊藤氏は、このように仕上げた板を定盤に立てた。完全に密着して、向こうからの光は漏れなかった。恐るべき技量である。かなり練習したが、その域には到達できそうもない。
 もっと長い板が必要な時はこれをつなぐ。ネジを立てて小ネジを数本用いて当て金を留め、ハンダ付けする。ネジ頭はヤスって落とす。このような方法で伊藤氏はたくさんの船を作られたのだ。

2006年09月02日

ヤスリをカスタマイズする

53c1f6af.jpg 鉄砲鍛冶という仕事は、簡単に言えば鋼を削ることである。機械加工した後、ヤスリで削る。そのあと砥粒を油で練って磨き上げる。
 Billの工房にはありとあらゆるヤスリが、おそらく数百本は揃えてあった。買い置きの1ダースの封を開け、一本ずつ検査する。そりがないか、ねじれていないかを調べて、駄目なのはその場で折って捨てる。柄の方はキサゲ用として取っておくが、目の立てられた方は使い道がないという。2本は捨てられた。使える10本にグラインダを当てて、目が立てられてない面を削り落とす。この面を"safe edge"という。
 
これで終わりかと思ったら、「そこのアーカンソーを取ってくれ」という。何のことかわからず戸惑った。それはアーカンソー・ストーン(目の細かい砥石)のことであった。油をつけて丁寧に研ぐ。10本研ぐのに30分近くも掛けた。研ぎあがったヤスリは虹のように光った。

 両面のヤスリ目を片方だけにしたり、隣り合う2面を削り落としたりしていろいろなパターンを作った。Bill曰く、「買ったばかりのヤスリはcrude file(粗なるヤスリ)だ。石油だってcrude oil(原油)から、ガソリンその他を作り出す。原油はそのままでは使えないだろ?」

 工房にはBillが手を掛けた特製ヤスリばかりが並んでいた。先の曲がったヤスリも何本かあった。これらはRiffler Fileというそうで、鉄砲鍛冶の現場で握りを波状にへこませるときに使われ始めたものらしい。
 2本だけ記念に貰ってきた。現在手持ちのヤスリはBillの教えに従って加工してある。写真の下にある2本はグラインダーで削り落としただけのもの。上の2本は研ぎ上げたものである。Billのヤスリのように虹色には光っていないが、#1000の砥石で研いだものである。

 傷をつけたくない面にsafe edgeを当て、そこにほんの少しの油をつけてヤスリを動かす。実に滑らかに滑って、目的の面だけが削れていくのを見るのは快感である。 

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