2022年08月03日

定常状態

 機関車の効率測定には、まともな勾配線を導入することを薦めたい。列車全長の2倍程度の均一な勾配を用意して、定常状態のドローバー・プル(牽引力)を測定し、速度を測定すれば、機関車の出力はすぐ出る。
 この「定常状態」の意味をよく噛み締めたい。勢いを付けて「ほら登った」というのは小学生の発想である

 長くて均一な勾配を用意する、というのは意外に難しいことかもしれない。過去に見た勾配線は、どれも勾配が不均一であった。
 当博物館の複々線は、精密に出来た勾配線である。その内側の見えないところに、HOの勾配線を作り、定常状態の運転をして出力測定し、効率を求める、ということは考えられないことではない。安定な電源と光電式のタイマがあれば、測定は容易である。希望者が多ければ、その線路を敷くことには、やぶさかではない。その勾配は精密にできていて、誤差が殆ど無いから出力測定には適する。
  
 定常状態と言うべきところを、平衡状態であると勘違いして使われている事が多い。平衡というのは見かけ上の釣り合いではない。エネルギィの出入りのない状態を考える必要がある
 例えば電車が均一な坂を登るとき、あるノッチでその電車が一定速になると平衡速度と言う人もいるが、正しくはない。エネルギィは投入され、その大部分は位置エネルギィとして蓄積されている。均衡速度と言うべきだ。

 ハンダ鏝に通電すれば加熱され、一定温度になる。平衡温度と言う人もいるが、正しくはない。エネルギィは投入され、周りの空気を温めて逃している。
 これらは定常状態 steady stateである。平衡はequilibriumであって、密閉系の中でしか考えられない。一定温度の瓶詰めの内部の蒸気圧は平衡圧である。そこでは物質、エネルギィは外界とやり取りされていない。

 面倒なことを省いて書けば、定常状態での測定は、こういうことだ。
 列車を牽いて斜面を登る機関車の、機関車と炭水車を結ぶ連結棒にバネ秤を付けた状態で、炭水車と列車とを牽き上げる。その時、電流値に増減があってはならない。速度も電流値も一定である時、引張力と速度を測定し、その積を求めれば出力は求められる。それを電源の出力で除せば効率が出せるが、日本でこれをやったという人を他には知らない。正確で十分な長さの勾配があればできる。


コメント一覧

1. Posted by YUNO   2022年08月03日 21:05
実物の話題で「均衡速度」という言葉をよく目にしますが、これは正しい使われ方なのでしょうか?
言葉の意味も正しく理解できているかどうかとあらためて問われると、正直、自信がありません。
2. Posted by dda40x   2022年08月03日 21:25
 均衡は単なる釣り合いのことですから、問題ないはずです。釣り合い速度というのはよく聞きます。
 しかし一部の国語辞典には「平衡のこと」と書いてあります。これは自然科学を理解する人からは攻撃されるでしょうね。明らかな間違いです。
 平衡というのは極めて限られた条件内で成立することで、一般の生活とはほとんど無縁のものです。しばらく前、生物学者を自称する人が生命は動的平衡であるというおかしな説を発表していましたが、大方の科学者は苦笑していました。平衡なら可逆的です。人は死んだり生き返ったりしているのでしょうかね。
3. Posted by 稲一   2022年08月04日 10:01
ブログ、大変興味深く、拝見しております。KKC会員の稲一と申します。HOの蒸機作りを楽しんでおります。
牽引力試験の件、大変勉強になりました。有難うございます。機関車は牽いてなんぼと思っています。小生は文系で、単純に何輌牽き上げたかで把握しようしてきましたが、理論的に正しい牽引力を求めようとするとこうなるのでしょう。ただ仰るように、毎回、均一な勾配線を用意するというのはお座敷レイアウトでは至難の業ですね。
4. Posted by dda40x   2022年08月04日 10:38
 コメントありがとうございます。おっしゃるように均一な勾配というのはなかなか難しいものです。しかし、測定用と割り切って、厚めの合板を組み合わせて3.6 m程度の試験線ならできるのではないでしょうか。クラブに持って行って何人かで測定してはいかがでしょう。しかし、スリップさせないようにコントロールするのは、既存のギヤやゴムジョイントでは難しいと思います。
 勾配が作れないときには、I田氏の公開している定常状態の近似法(6月25日号)が良いと思います。この分野に強い人と協力すれば、正しい測定は可能と思います。

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