2021年02月03日

完全直流デコーダ

 ゆうえん氏は先回の記事で納得戴けたのだろうか。次いで、完全直流デコーダによる駆動についての質問があるが、これは高効率低摩擦の機関車、列車を動かしたことのない人には、なかなかお分かり戴けないと思う。

 筆者のOスケールの機関車は、どれも3 kg以上あり、すべての回転部分にはボールベアリングが入れてある。ギヤボックスを外せば、どれも0.5%以下の坂を下り降りる。モータと連結しても1.5%弱で下り降りる。単3電池一つでゆっくり起動し、毎秒数ミリの速度で動く。このような機関車であるから、電池をたくさん用意して1.5,3.0,4.5 Vと電圧を上げるだけでも、滑らかな運転ができるほどである。伝達効率は50%を下回らない。

 一方大半のHO以下の模型では、モータの出力の大半は動力伝達装置内や、車軸の摩擦で消費され、最終伝達効率は10%もいかない。 NMRAのレポートによると、あるHOのシェイの実測値は0.25%であった。こうなると負荷の大小は問題ではなく、どうすれば一定速度で走らせれるか、が最大の目標になる。昔はギヤ比を大きくする以外の方法はなく、モータは高速で回り続けて凄まじい音を出していた。
 Back emfフィードバックができるようになると、かなりギヤ比を小さくしても、見劣りしない走りをさせることができるようになった。これが現実の世界であろう。
 
 もし、HOでも”全くひっかかりのない滑らかな運転ができるようなボールベアリング装着の高性能機関車”ができれば完全直流デコーダが使えるだろうが、牽かれる車輛すべてが、低抵抗車輪と摩擦の少ない軸受で統一されている必要がある。その実現は、かなりハードルが高い。しかも、小さなものは大きなもののようには動かないのは、何度もここで採り上げた通りである。


 ゆうえん氏は、考え方には優劣が付けられないというのが持論のようだが、それは同じスケールでの比較の場合である。大きさが異なるものは同じ考えでやってはいけない場合もある。アメリカで、韓国製の機構のあやしい模型にBack emfを効かせて無理やり一定速で走らせてモータを焼いたという実例をよく聞く。優劣は明白だ。
 HOに向いたやり方があるだろうが、それがほかのサイズの模型にも通用するわけではない。BEMFは動きが今一つの模型を、見かけ上調子よく動かす機能であるが、かなり無理をしている部分がある。

 ちなみにこの永末氏のデコーダは、氏が筆者の地下室のレイアウトでの走行を見て、実現したいと感じられたのがきっかけで作られた。残念ながら、筆者と土屋氏以外には売れなくて、大半を筆者が購入した。音声用デコーダと別にしてあるので、全く相互干渉がなく、きわめて静粛な運転ができる。蒸気機関車には最適である。この製品の概要に、
 DC駆動については、BEMF駆動とは対極の位置にあり、高品位のコアレスモーターと駆動伝達装置により効果を発揮いたします
とある。これはメリット・デメリットの話ではなく、用途目的が異なると言っているから、比較はできない。

 要するに無理やり一定速で走らせるのが目的ではなく、負荷が掛かれば遅くなり、スロットルを開けば出力が増大する。開き過ぎればスリップする。スロットルを戻せば電圧は出力はゼロとなって電気的に切り離されるから、勝手に惰行する。本物のような運転を楽しみたい人はこの方式を採用するが、その性能を持たない動力車には使えない。

コメント一覧

1. Posted by ゆうえんこうじ   2021年02月03日 23:51
詳細なご説明ありがとうございました。直流デコーダーの存在意味がわかりました。通常の伝動装置をもったHOモデルには不向きなデコーダーのようですね。車両搭載デコーダーのスピードテーブルに細工して空転させるというのは、加速時はよいが、減速時はマズいのではないかと思ったのですが、実用上は問題がないと理解しました。
私は個人的には、DCCの加減速のモーメンタム機能は車載デコーダーではなく、コントローラー側に実装すべきではないかと思っています。
2. Posted by ゆうえんこうじ   2021年02月04日 11:09
もう一つ質問させてください。「音声用デコーダと別にしてあるので、全く相互干渉がなく、きわめて静粛な運転ができる」とのことですが、蒸機のサウンドデコーダーは動輪の回転数に同期して音を出す機能が必要になると思います。直流デコーダーの出力電圧は動輪の回転数には比例しないと思いますので、どういう仕掛けで動輪の回転数情報を音声用デコーダーが取得しているのか教えていただけないでしょうか?モーターか動輪に回転数取得のためのエンコーダがついているのでしょうか?
サウンドトラックスの蒸機用サウンドデコーダーには空転音も入っているようですが、アレは音だけで実際動輪が空転するわけでもないです。

3. Posted by dda40x   2021年02月04日 12:52
 きわめて単純なことです。動輪のコンタクトは音声用のデコーダにつながっています。動輪は直流デコーダで駆動されます。二つのデコーダは電気的には独立しています。

 先日のコメントの最後の「DCCの加減速のモーメンタム機能は車載デコーダーではなく、コントローラー側に実装すべき」の意味が不明です。車載側には何ら変更したところはありません。音声を発するデコーダのモータ出力は遊んでいます。
4. Posted by Tavata   2021年02月04日 21:13
縮尺によって、慣性、質量あたりの出力、走行抵抗の主要因、相対的な曲線半径などが全く違います。
それを理解した上で、実物の動き(慣性など)の再現を目的とするならば、縮尺によって手段が異なるのは必然的に思います。
別の見方をすれば、実物と同じ部材配置や形状自体を目的とした模型は、縮尺が小さくなるほど実物の動きから乖離していきます。
Back EMFはアクチュエータ(モータ)が無駄に強力でソフトウェアによってごり押しできる小型模型では有用ですが、O以上ではハードウェアの性能が利いてくるため有効性が薄いように思います。
ゆうえん氏の「モーメンタムのコントローラ実装」とは走行中に設定変更可能の意味かと思います。なお、私はDCCには走行中でも音量を簡単に変更できる様にしてほしいです。
5. Posted by 一式陸攻   2021年02月05日 22:43

Tavata様
ESUのLokSoundにはファンクションで音量を随時五段階変更できる機能がありますがいかがでしょうか?
6. Posted by ゆうえんこうじ   2021年02月06日 09:05
dda40xさま 曖昧な表現ですみません。
「DCCの加減速のモーメンタム機能は車載デコーダーではなく、コントローラー側に実装すべき」
現在のdccでは加減速機能が、デコーダーに搭載されているために、集電不良があってデコーダーがリセットされる?と直前のスピードには戻らず、また最初から加減速を始めることがあるので、モーメンタムをなしにしてコントローラー側で、加減速情報を管理して逐次速度コマンド送った方がよいという意味です。
Oゲージの大型車両では上記の現象はおきないと思いますが、HO以下の小型車両では瞬発的な集電不良は避けられないですし、瞬断対策のコンデンサー積むスペースがないことも多いです。
7. Posted by 愛読者   2021年02月09日 07:51
永末さんがdda40xさんの機関車の走りを見て、作ろうと思ったというくだりがすごいですね。
それだけインパクトのある走りだったのでしょう。まさか模型が慣性を見せつけて走るとは思わなかったのでしょうね。
静岡のショーで走りを拝見したことがあります。重々しい走りでした。納得します。 

8. Posted by 私も愛読者   2021年02月12日 17:06
コメントでのやり取りを見ていると、史記の「嗟呼、燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」を思い出します。
dda40xさんのされてきたことが、ほとんどの人には理解されていないというよりも理解できないのでしょう。
最近はTavata氏が解説されているので、多少は分かる人も出てきましたが、大半の人には分からないと思いますね。小さな模型しか触っていない人は、その世界から外を見られないのだと思います。
9. Posted by dda40x   2021年02月18日 09:40
 確かに、私は慣性があるのが当然だと思っていますが、HO以下では慣性というものは微塵も現れてこないのですね。軸受けの摩擦とかそういうものをすべて解決したとしても、質量が小さく、速度が小さいものでは小さくなってしまいます。全て物理の法則通りなのですが、それをBEMFで克服したのは素晴らしい工夫です。
 私は15年ほど前BEMFのデコーダを見て、驚きましたが、それと同じ動きをすでに実現していたので、興味が薄れました。それを永末さんに伝えたところ、わざわざ見に来てくださって、かなり感動されたようです。
 そういうわけで、このデコーダが完成しましたが、我々以外誰も買わなかったというのは残念なことです。

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