2020年09月24日

修理・修復・復元・改修

 最近戴いたコメントについて考えた。

 伊藤 剛氏の長浦軌道は新しいメカニズム・電気方式で改修されるだろうという予測を書いたところ、そういうのは修復ではないのではないか、というご意見であった。

 これについては以前、亡くなられた吉岡利隆氏とは、ある程度の合意ができていた。氏は4人が働く線路工夫のカラクリを大変高く評価して、是非とも修復を任せてほしいと名乗りを上げられた。伊藤 剛氏が存命中のことで、その内容については、剛氏自身がそれしかないと認めたものであった。

 剛氏の作られたメカニズムとリレー、フォト・トランジスタ、タイマを組合せたものは、再現性が悪く、剛氏自身の調整後でも、3時間ほどしかまともには動かなかった。あちこち調整しながら見せてくれたが、やはり不具合が多かった。
 吉岡氏がお得意の、”シーケンスで動かし、メカ部分は半分程度は作り直す”ということで、”確実に20年間は間違いなく作動するものを作ろう”ということになった。その打ち合わせの最中に、吉岡氏が急死された。剛氏は電話を掛けてきて、「吉岡さん死んでしまいましたねぇ。もうこれで動かす方法が無くなってしまいましたよ。」とつぶやいた。

 剛氏のメカニズムの真髄であるイコライザを使用したツルハシ持ち上げ機構とその振り下ろしタイミング装置はオリジナルを使用し、全体を制御するのは、マイコン化することになっていた。形状記憶合金で出来たレイルを通電で元に戻すというアイデアも、研究課題に入れることにしていた。


 それから7年、剛氏の長浦軌道が見つかり、復元作業が始まった。
 当事者のNG氏からは、「あくまでも剛氏のオリジナルを後世に伝えるべきであると考えます。剛氏の作品を勝手に改造するのは”冒涜”と考えています。」と連絡があった。この点においては、コメントを戴いた方の懸念は払拭されたことになるが、調子よく動かそうと思うと、困難な点がいくつか出て来ると思う。


 話は変わって、筆者のコレクションは自作を除き、様々な人の作品である。大半はカツミ製(祖父江製)であったり、アメリカ人の作ったものである。そのすべての下廻りは新製に近い程度まで作り替えられている。祖父江氏自身が改造したものもあるが、筆者自身が作ったものもある。筆者は機能を第一に考えるからである。まともに走りもしないものを鉄道模型と言うことはできない。実物と同程度の走りを見せるように作り替えることに対しては、コレクション蒐集の何倍かの金を掛けている。これはスクラッチ・ビルディングの材料として完成品を利用しただけであるという解釈もできる。自前のメカニズムを搭載するための機材を購入していると考えるのである。そうなると見かけは似ているが、中身は完全な別物である。
 こういう楽しみ方をする人は少ない。コレクタの人たちは、買ったままで、箱の中の詰め物まで元のままに保存するそうだ。筆者のようなやり方は「とんでもない話だ」と攻撃を受けているくらいである。

コメント一覧

1. Posted by Tavata   2020年09月25日 12:38
復元のレベルについての悩みは常に存在すると思います。
実物も当時の技術や社会的背景の伝承に苦慮していますね。
例えば英国のバトルオブブリテン級の特徴的なチェーン駆動弁装置は失敗設計で、戦後は普通のワルシャート式に換装されました。しかし、私が保存鉄道を訪ねた所、なんと失敗設計に再換装していたのです。曰く「調整に失敗するとバババンバンと不規則な排気音になるが、それも歴史だ」と。どうやら軽負荷低速なら安全という判断のようです。
一方で別の保存鉄道では「ありふれた」産業用0-6-0サドルタンク機を溶接構造のサイドタンク機に改造中でした。「トーマスにする。これで保存活動の資金源が増える。」とのこと。
また、大陸ではBR52の8055番を高性能化改造してオリエント急行牽引などをさせていますね。
そもそも、動態保存の安全性確保には近代化が必須な部分もあり、古典機などでは根本的に動態であるべきかにも判断が分かれてしまいます。
いずれにしろ、プロジェクト毎に復元においてどこに重点を置くかの議論がされているのだと思います。

模型の場合は、戦後すぐの焼けた廃材からモータまで自作した物などは、材料を含めた価値を皆が認めると思います。一方で「こういう姿や動きを再現したい」という作者の意図であれ制御装置を最新鋭に作り替えても問題ないと判断されるでしょう。ただ、本人不在の状況では、どの程度までの作り替えを良しとするかは難しい判断に思えます。

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