2020年09月08日

続々 模型を作ると…

 模型と実物の違いは何度も扱ってきたが、果たしてどの程度の読者がそれについて理解しているか、また興味を示すかは不明である。しかし、レイアウト上を列車を牽いて走らせている人は、すぐに理解し、改善策があればすぐ実行に移すだろう。
 故人となられたが、閑林憲一氏はその素晴らしい実例であった。すべての車輌を sprung で equalized とし、自宅レイアウトでポイントをくねくねと渡らせてご満悦であった。走行性能を上げることは、外観をいじくり回すことよりはるかに大切である、ということをクラブ員にいつも語っていらした方であった。

 さて、読者の方から長文のメイルを戴いた。少し短くして掲載する許可を得たので転載する。理論と現実のギャップについて書かれている。 

 16番以下のモデルを中心に遊んでいる人には、丁寧に説明されても大スケールや実物での素材強度や挙動を想像するのは難しいのではと思います。

 TMSは、ほぼ16番模型趣味工作専門誌としてやってきて、一般実用機械工学的な知識情報からのアプローチは、編集部としても読者の要求からもあまり顧みられなかったということがあるのかもしれません。

 私の場合もイコライザやバネには興味を持っていろいろと試してみたりもしましたが、絶対的に質量が小さなHOスケール(16.5mm、9mm gauge)Nスケールでは、実用上殆ど意味が無いということを感じて、私のスクラッチの動力は、欧州型模型製品のように縦軸方向に少しガタのある固定軸方式に決めています。もちろん集電のためにできる限りウェイトは積みますが、挙動に影響を与えるような質量では全くありません。影響が出るようなスピードで走らせることもありませんから。

 16番の世界で精巧なイコライザーを組み込んだ作品を作られている方々はたくさんおられますが、それは特殊な世界のように感じます。
 最近は、小さなスケールでもフライホイールを採用する製品が増えてきたことで、質量、慣性に関心を持つ人は増えてきているのではと思いますが、それでも車輌自体の走行性や挙動と結びつける人はまだまだ少ないでしょうし、実際のところそれを理解する必要性も実用性もないのだから、それでいいのではとも思っています。すこしさみしい気がしないでもないですが、ここで指摘してもあまり良いことがあるような気がしません。
  

 これには返事を差し上げたが、その要旨は、下記の通りである。
 誰も興味がなさそうに見えても、この種の主張は必要である。模型誌が書かない以上、誰かが理解し実際に作ってみてその効果を確かめることができるように、最大限の改善の実例は発表しておくべきである。軽便列車ではその違いはあまり感じられないだろうが、本線上を機関車に牽かれて走る長大列車では、その差は極めて大きいのである。



コメント一覧

1. Posted by ゆうえんこうじ   2020年09月09日 08:51
 質量の小さなHO以下のスケールのモデルでは、バネやイコライザーの効果がはっきりしないというご意見もあるようですが、バネについては数両機関車に組み込んでみましたが、確かに走行時のジョイント音がよくなるぐらいしかメリットはないように思います。
 しかしイコライザーについては、集電がよくなるというメリットが重さが軽い車両ほどあると思いました。また軽い二軸貨車では、フカひれイコライザー組み込むことにより、ポイントのフログや少し段差のある線路接続部で跳ね上がるという現象がなくなったといわれる方が多いように思います。
 というわけで、最近はバネ組込はお休みしていますが、イコライザーはできるかぎり入れています。
 ただTMS誌などにも実物のイコライザーをそのまま縮小して動作させるような機構の記事が載っていますが、あれは疑問に思います。HO以下のスケールでは模型は模型なりの構造を考えるべきだと思います。
2. Posted by Tavata   2020年09月09日 19:10
趣味ですから、各人が自分の価値観で好みを追究するのが当然です。
ただ、鉄道模型が、実物に似せて小さな動力機械として再構成したものである限り、普遍的な物理現象(特に力学)が付きまといます。
dda40x氏の模型は、大きく重く長い列車をOスケールで再現するので、実感的な走行のためには、慣性質量の疑似、壊れないための構造やバネ懸架、車体剛性を疑似的に小さくする手法などが重要になっていると思います。
一方で、より小さいHOやHOナロー、Nになると、確実な集電や低速走行能力などの鉄道模型としての機能自体の成立が難しく、ゆうえん氏のおっしゃるようにイコライザを集電性能向上のために用いるなどの工夫が大切になるでしょう。
このように、物理現象自体が普遍的であっても、各縮尺に落とし込む際に違いが出てくることや、各人がどの要素を重要視するかで判断が異なるのも必然的だと思います。
その普遍的な物理現象から縮尺模型への重要な架け橋の一つが「二乗三乗法則」であると私は考えております。
物理現象の影響をどの様に受けるか、そしてどの程度考慮するかで模型の作り方は変わるので、HO以下で固定軸とする、またはバネを併用しないイコライザとするのは、選択肢としては間違ってはいないと思います。
ただし、単一の方法論しか知らずに一択で選択するのと、物理現象などの背景を知った上で、工作の容易性や力学的な影響の多寡を踏まえて、選択肢を選ぶのは意味が違うと思います。
なお、Nなどのフライホイールは慣性質量の疑似よりも集電補助の面が大きいように思っています。
3. Posted by dda40x   2020年09月10日 11:10
 ゆうえん氏のコメントに返答を書こうと思っていたところ、その内容をほとんどTaveta氏が書かれたので、驚いた次第。
 衝撃に耐える作りは、本文に書いてあるように、2乗3乗則により、大きさによって変えねばならない。だから、ゆうえん氏の作られているような大きさの模型であれば、バネが無くても壊れないだろうが、雑誌にそのことしか載っていない現実を見ると、今回のようなことを書くべきだと判断した。
 ある程度大きいものをバネ無しイコライザのみで作る人が居るが、短い試走線路をゆっくりと往復させる限り、壊れることはないはずだ。ところが、スケールスピードで連続運転すると、徐々にヘタってくる。ほとんどの人はそういう経験がないから、(すべてのスケールの模型で)バネは要らないという暴論が独り歩きしてしまう。「フログを渡る音が良い」とご満悦の人が居るが、その音が出る瞬間に、あちこちが疲労し壊れていくということに気付かない。
 模型の寿命は意外と短いものである。特にハンダ付けした部分の疲労は進みやすい。

 今回の3回の記事の要旨は、「すべて大きさの関数である」ということであって、「私はこれでやってきたが問題はなかった。そんなことを言う必要はない。」というのは、客観的には間違った結論である。大きなものは壊れやすいのである。
5. Posted by M.K   2020年09月11日 19:08
私は以前、9ミリゲージで遊んでいましたが、その際に気になっていたのは走行時の音や揺れの軽薄さや、車体が小さくプラスチックの完成品が主体であり自分の工作力ではそれをどうやって実物に近づけるのか方法がよく分からなかった点です。
このブログのように、論理的かつ工学的にさまざまな問題提起をして、それを解決する方法を提示できるような記事を読んでいて、自分がかつて不満に思った事がより明確になった気がします。
これからも良い記事を読めることを楽しみにしております。

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