2020年07月12日

続 3D プリンタで用いる樹脂

 ポリエチレンはどうだろう。柔らかく、しなやかな買い物袋を想像すれば良い。流れて役に立ちそうもないが、意外なことにポリエチレンは結晶性なのである。結晶性の物は、高分子鎖のあちこちで、同種の分子鎖が寄り添い、固まって動かなくなっているのだ。そう言えば、ポリエチレンシートは、僅かに白く濁っている。原則的には、分子鎖が近づきやすく、横に大きな突起がない高分子が結晶性を持つことになっている。

 ポリエチレンのフィルムを切って短冊にし、それをゆっくり引き延ばしてみよう。白くなって、引っ張っても切れにくくなるはずだ。引っ張られて長い分子が整列し、分子間距離が小さくなって結晶し始めたのである。結晶化が進むと白く濁るのだ。その時、熱くなる。自由な分子運動ができなくなるので、エネルギィを捨てざるを得ないからだ。荷造り用として売られているプラスティックの薄いテープ状のギシギシした紐は、まさにこれである。ほとんど伸びない。長さ方向には極めて強いが、縦裂きは容易だ。長さ方向にずらすには、結晶構造内の分子間力を全長に亘って同時に切る必要があるが、縦に裂くと、一つづつ切れば良いからである。この紐状のものを加熱すると、くちゃくちゃと縮む。エネルギィが与えられ、分子が束縛から解き放たれて自由に動いたからだ。結晶化すると密度は大きくなる。包装用紐の巻いたものは、意外に重いことに気が付くだろう。 

 ポリエチレンは何もしなければ結晶化しにくいので軟らかいし、軸受部分の摩擦による発熱にはとても耐えられない。無理やり伸ばさない限り(これを延伸という)結晶化しない。また、耐熱性がなく、塗装、接着の困難さにより、模型材料には使われることはない。

 他にはポリプロピレンがある。これは形が異なるものが3種あり、その一つは極めて優秀な結晶性を示し、身の周りにたくさん使われているが、模型用には適さない。接着塗装が難しいのだ。ポリプロピレン製のコンテナなどは、重い物を載せても形が崩れない。

 さて、模型用として実用的な結晶性プラスティックの例を挙げよう。POM(デルリン、ジュラコンなど)、ナイロンなどが有名である。これらはある温度で急に融けるように見える。それまでは、形はほとんど変化しない。隣の分子と固く結びついているからである。即ち、常温では流れにくい。歯車、カム、リンクなどに適する。

 台車の材料は結晶性プラスティックであったほうが良い。Oスケールの場合、軸重は5 N(約500 gw)を超える場合がある。放置されていても台車がヘタることがあってはならない。もしこれがポリスチレンなら、徐々に歪み始めて、20年もすれば、あらぬ形になる可能性がある。


 いわゆるPETボトル(これをペットボトルと言うのは正しいとは言い難く、外国では通用しない場合が多い。英語では、ピー・イー・ティー・ボトルという)は透明だが、ある温度に保つと白く濁って堅くなる。結晶化したのである。一部のボトルのネジ部が白いのはこの方法による。ネジが内部の圧力によって抜けないようになっている。

 3Dプリンタでは、ナイロンが適する。ナイロンはとても堅く、摩擦も少ないから台車に適する。ただ、ナイロンは水に濡らすと、流れる可能性がある。要するに、濡れた状態で極端に大きな力を掛けると、塑性変形する可能性があるのだ。水に対する親和力が強く、水和により分子間力が弱まってしまう。高分子どうしを結び付けていた水素結合が水との結合に振り向けられるからだ。
 染色は容易だ。染料は水と同じく、この高分子に電気的引力で付きやすいからである。


dda40x at 07:12コメント(1)材料 | 化学 この記事をクリップ!

コメント一覧

1. Posted by Tavata   2020年07月13日 19:11
化学屋さんの面目躍如ですね。
レーザーカットや3Dプリントで歯車を作ろうとも考えているので参考にします。
「こういう用途にはこの樹脂が適する。そのココロはこのような分子構造」という記載はなかなか無いのですね。(学術界と産業界の分化が原因でしょうか?)

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