2020年03月02日

Max Gray のギヤボックス

MG gear boxes (1)MG gear boxes (2) ジャンク箱の中のギヤボックス中、一番古そうなのは、このFM Erie-builtの推進軸を下げるギヤボックスだ。ブラスの砂型鋳物を、大きなヤスリで削って平面を出し、孔をあけてギヤを入れてある。鋳物をフライスで削るのではなく、すべての面を手で削ってあるのには驚いた。大した腕である。普通の人が平面を削り出すことは、まず無理だ。よく見ると合印があって、番号も振ってある。その字は祖父江氏の筆跡ではないか!「8」の字に特徴がある。
 このハンダ付けも見事である。100 g以上もある塊りを一発で付けてある。しかもハンダが光っている。そう簡単にできる技ではない。

 40年ほど前、祖父江氏は筆者にヤスリ掛けの指導をしてくれた。四角のブロックを削って、真ん中を凹ませよと命じたのだ。そんなことが出来るわけがない、と思ったが、彼はちゃんとやって見せた。30 mmのスパンで、真ん中が 0.2 mmほど低くなった。定規を当てると光が通るのである。そうやっておいて周辺を削ると、平面になると言う。
 真ん中を凹ませるのはヤスリを少し反らせて、その反りに従って動かすのだ。もともとヤスリは腹が膨らんでいるものである。それをさらに反らせてやるのである。そんな馬鹿なと思う人が多いだろうが、彼はいとも簡単にやった。これは仕上工の必須技能だそうだ。腕に自信のある方はやって見られるとよい。これをやるには姿勢が大切なのだ。万力に向かって立つ位置が決め手だ。もちろん高さも重要である。
 のちに筆者もできるようにはなったが、もうそんな必要もない。フライスで一発である。

 ギヤ比は14 : 16 : 28であった。シャフトはスティールであるから滑りが良い。歯数が偶数であるのはまずいが、14枚という数字が祖父江氏らしい。12枚とは明らかに音が違う。他社製のギヤボックスがうるさいのは、歯数が足らないのである。少ない歯数で行こうと思えば、ホブを替えなければならない。そんな単純なことも出来ていないのが、この国の模型である。韓国でさえホブを替えたのに、どうしてできなかったのだろう。この国の模型雑誌で歯数に言及した例があっただろうか。
 
MG gear boxes (3) グリースが、固まって石鹸のようになっていたので動かなかったが、灯油で洗ってスピンドル・オイルを注したら、軽く動いて、音も静かであった。肉が厚いので油が保たれるから、摩擦が少ない。


MG gear boxes (4) 一つ110 g 近辺だ。捨てるには忍びない。そのまま使うことはないので、この半分を加工して新たなギヤボックスを作ろうと思う。フライスで彫れば、いかようにもできる。
 要するに単なるブロックであると考えて作るわけだ。あいている孔には、ブラスの棒を突っ込んでハンダ付けして塞ぐ。両側を鋳物にする必要はないので、片方をブラスの板にする。そうすると数が2倍になる。もちろんボールベアリングを入れる。使える機種を探している。この合わせ目に見えるハンダは、二つを合わせて軸穴、ネジ穴をあけ、ヤスリがけするために仮付けした時のものだ。うまく付いているものだと、改めてじっくり見た。


コメント一覧

1. Posted by 元工員   2020年03月03日 20:39
初めて投稿します。
ヤスリを反らせる話は本当に久しぶりです。
私が工場に就職した頃は、年配の職人さんたちは腕自慢で、よくこれをやっていました。大きなヤスリですから、そう簡単に反るわけではありませんが、押し方一つで真ん中を凹ますことが出来ます。
書いてあるように姿勢が一番大事です。
もう40年も経ちますから、出来る人は少ないと思います。
しかし技能オリンピックに出られるような達人は出来る筈です。dda40xさんがそれをできるとはすごいですね。
2. Posted by dda40x   2020年03月05日 13:35
コメントありがとうございます。
このヤスリを反らせる話を書きましたところ、いろいろな人から問い合わせを戴きました。何かの間違いだろうというものばかりでした。
決して間違いではありません。ヤスリがほんの少し撓むことを利用しているのですね。
自分が知らないことも世の中にはあるのだということを、知る必要があります。妙な自信家が多くて当惑しています。プロの世界があるのですが、自分がその中にいると勘違いしてしまうのでしょうか。

3. Posted by ゆうえん・こうじ   2020年03月08日 22:17
ギアが厚いと油が保たれるので摩擦が少ないというのは気がつきませんでした。
4. Posted by dda40x   2020年03月10日 08:35
ここでの「肉」はギヤボックスの壁を指していました。もちろんギヤの厚さも関係しています。
それよりも、ギヤの歯のメクレを無くすことが最も大切だと思います。
切削した歯にはわずかのメクレがあります。ダイヤモンド・ハンドラッパ(砥石の一種)で一枚ずつ角を仕上げます。時計職人になったつもりで拡大鏡のもとでやります。ダイヤモンド・ホーンとも言います。
色々な形があります。私は2000番くらいのを多用します。これはダイヤモンド・ヤスリとは異なるものです。仕上げると明らかに静かになります。ウォームはメクレを弾き飛ばしてしまう構造ですが、スパーは噛み込んでしまいます。
仕上げた後はよく洗うのは言うまでもないことです。

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