2020年02月11日

慣性

 昔は駅ごとに貨物取扱があって、何輌かの貨車が止まっていた。日通の倉庫もあり、貨物用に起重機(古い言い回しだ)もあった。貨車移動機もあって、入替をしていた。押された貨車は切り離され、200 mほど先まで滑って行った。途中で係員が飛び乗って、足でブレーキを踏んだ。
 子供のころ、それがやりたくて同じような線路を敷き、軸受に油を注して押したが、全く走っていかない。父に聞くと、「はずみ車を入れれば何とかなるが、お前にはまだ無理だ。」と言われた。

 おもちゃの自動車を押した。いわゆるフリクション・ドライヴである。床に押し付けて前進させると、ぴゅーと走っていく。なるほどとは思ったが、これを全ての貨車に付けることができるとは思えなかった。

 要するに、模型の慣性はとても小さい。1/48なら、慣性による滑走距離も1/48になるということは、以前示した通りである。小さな体積に詰め込んだものにエネルギィを蓄え、見かけ上の慣性を表現するのは、このはずみ車以外ない。DCC運転では、ある程度の慣性表現ができるが、それは電気的に作られた見かけの慣性である。物理的な慣性の方がはるかに実感的である。
 幸い、高効率のウォームギヤの逆駆動により無音で増速でき、チェインでさらに増速できたので、比較的軽く、また、小さくまとめることができた。

 テンダはオリジナルで1.3 kgある。砂鋳物の台車であってかなり重い。それに丈夫な支持台とはずみ車が付いているので2.4 kgほどである。補強には材料を100 gほど使った。重くないと摩擦力が稼げないが、重過ぎると摩擦力が増え、チェインに負担が掛かる。

 テンダの先台車は、2軸から動力を採取している。一方、5軸台車の方は4軸から動力を採取しているので、後者のトルクは2倍である。後部のチェインには前部の2倍の張力が掛かる。ここにはスペイスがあるので、いずれスプロケットを増設して、2本掛けにする。そうしないと、加減速の時のチェインの音を小さくできない。

 こんなに小さなフライホィールなのに、回転速度が大きいので、蓄えられるエネルギィは大きい。機関車の起動時、テンダ無しなら1.3 V、75 mAで動き出すのに、4 V 0.80 A必要だ。非常に重い列車を引っ張っているかのようだ。もちろん動き出したら、ほとんど電流は喰わない。
 このフライホィールは570 gほどしかないが、170 kgほどの錘と同等の慣性を持つ。大人の男性2人強の静止質量が、摩擦の無い台車に載っていると思えば良い。出発時、ある速度に到達するまでの間、かなりの時間、力を入れて引張り続けなければならない。高校で物理を習った時、F = ma を実感させる実験を見たことがあるかもしれない。重い物を早く加速するには、大きな力が必要である。細い紐で引張ると、切れてしまう。
  
 この模型で、その紐に相当するのはチェインである。初めの作例よりフライホィールを小さくしたのは、全体を軽くして摩擦力を減らし、トルクを制限する必要があったからである。元のままではチェインは、いずれ切れると予測された。それほど、この慣性は大きいのだ。

 慣性モーメントの計算は久しくやったことがなく、 かなり手間取った。
S氏やT氏の助けもあり、慣性の値を確定させることができた。当初の筆者の計算値は、10%ほど小さめであったが、加速時のチェインの張力は、見当が付いたので質量を小さくした。作品が戻ってきたら、チェインの補強をするつもりだ。ここを歯車にすれば良かったのに、との能天気なご意見も戴いたが、それでは事故時に修復不能なダメージを受ける。工作機械にベルト伝導が用いられているのと同じである。チェインは、電気器具で言えば、フューズの役割も持っていることになる。 

 走行状況を Youtube にUPした。とりあえず英語版だけである。 

コメント一覧

1. Posted by Tavata   2020年02月12日 00:26
実物では重量:慣性質量=1:1ですが、模型で実物と同じ挙動をさせたければ重量:慣性質量=1:48(Oスケールの場合)にしなければならないことを改めて感じました。模型を無闇に重くしても、挙動が実物に近づく訳ではないのでしょう。
もちろん、重力(加速度)を局所的に1/48にすれば全く問題ありませんが、22世紀の某猫形ロボット以外、こんなことできるとは思えません。(なお特撮の破壊シーンはスロー再生して使うようです。)

実物と模型(フライホィールなし)の挙動の違いは坂道で顕著に現れるはずです。Oスケールの場合、実物換算の約7倍(48^0.5倍)という高速で坂を転げ落ちますし、逆に麓でスケールスピードで発車しても実物換算の1/48の高さまでしか駆け上がれません。

このフライホィールは、これらの問題に対する解、つまり重量と慣性質量の比を変更する装置として、模型の挙動を実感的にする画期的なものだと感じております。フライホィール で慣性質量が自重の48倍になるようにすれば、坂道も含めて実物の様な挙動をするはずです。

動画を拝見しました。テンダーに押されていくシーンが特に楽しいです。小型の入替機でもやってみたいですね。
「タネも仕掛けもございません」を”Nothing up my sleeve"と言うのですね。
2. Posted by skt   2020年02月12日 19:12
今更ながらですが、実物でも、重い列車牽いているのではなく、テンダーだけの単機でも、ああいう風に動輪をスリップさせていたのでしょうか?
タンク機関車単機でも十分な瞬発的パワーと機関車自体の質量が有れば、模型でも実物でも動輪スリップ出来そうですね。
3. Posted by dda40x   2020年02月12日 21:22
>>1
坂を登らせることは当然やりましたが、動画撮影を失念しました。4月になれば返ってきますので、改めて撮ります。
タネも仕掛けもあるのですが、一応そういう風に書きました。外国でこれを見て何を感じるかが楽しみです。

>>2
もちろんスリップしていましたよ。その現場を見たことが無い人が大半の世の中になりました。機関区では、仕業に着く前に小手試しによくやっていました。スロットルの動きの確認だと思います。
タンク機関車ではなかなか難しいですよ。動軸上の重さをうんと減らして、先従輪に軸重を増やしておけば簡単でしょうが、それでは役に立ちません。

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