2020年01月22日

鳥羽給炭所

 もう60年以上昔の話だ。親戚が居たので、志摩半島に年に一回は行った。
 名古屋から亀山までの湊町行き快速列車は、たいていはC51と C57の重連だった。快速は、亀山までの60 kmがちょうど1時間で、表定速度は60 km/hである。単線での蒸気列車としてはかなり速い。快速用の機関車は磨かれて、輝いていた。
 亀山からはC51の単機が牽いた。それも快速列車だった。姫路から来る快速もあった。伊勢を過ぎて鳥羽までは、平坦線であって軽やかに走った。当時は伊勢まで行くのでも、国鉄の方が近鉄の中川乗り換えより、ずっと早かった。


 筆者の世代は、蒸気機関車が全速力で走るのを見た最後の世代であろう。蒸機はノロいと思っている人が多いだろうが、決してそんなことは無かった。速い乗り物の代表だった。筆者の父親の世代はもっと速かったのだ。蒲郡駅で上り下りの特急がすれ違うのを見るのが楽しみだったそうだ。どちらもC53で100 km/hをはるかに上回る速度であったと聞いた。蒲郡駅はどちらからも下りで谷のようになっている。 
 

 参宮線の六軒駅で大事故があり、機関車が証拠物件なのか、長く放置してあった。ブレーキの構造が重連仕様でなかったのが原因らしい。アメリカの機関車は重連用のブレーキ管を持っている。 

 当時の国鉄鳥羽駅はそこそこに大きな駅で、貨物も扱っていた。三重交通志摩線では貨物も扱っていたし、鳥羽港で陸揚げした砂利置き場もあった。プラットフォームは1本しかなく、到着列車は海側に着くことが多かった。その窓からは転車台が見え、給水タンクも目の前であった。接続電車まで時間があると、客車の窓から機関車の動きを見ることができる。
 切り放された機関車は軽やかに走って転車台に向かい、転向する。水をたくさん呑んで、前後に走り、ポイントを渡って先頭に着く。

 ちょうど目の前に機関車が来た時、機関士が大きな声で叫んだ。
「おーい坊主!見てろよ。」
 機関士はスロットルを少し強めに引き、動輪をしゅるしゅると一回転させて発進した。それは禁止されているはずであったが、見せてくれたのだ。単機でも動輪がスリップするのは初めて見た。単なる格好つけであるが、少年の眼には焼き付いた。その後、機関車は列車の先頭に行って停止するが、その時もブレーキを使わずに、動輪を逆回転させて停めた。実に見事なスロットルさばきで、機関車が止まる瞬間に動輪も止まった。機関士は満面の笑顔で、どんなもんだい、という顔をした。こちらは飛び上がって喜んだのは言うまでもない。

 その時の情景は鮮明に思い出される。いつかあんな動きをする模型を作ってみよう、と思ってから50年以上経つ。今それが完成したのだ。
 列車を牽いている時にスリップさせることは容易だが、単機では不可能だったのだ。

 当時の写真を紹介するウェブサイトもある。懐かしい風景だ。近鉄が鳥羽に乗り入れて、志摩線も買収された。標準軌が賢島まで続いたので、貨物は廃止された。以前は電車が貨車を牽いていたのを見たことがある。

19670224tobaekimeikanban 国鉄の旧鳥羽駅には真珠と海女の看板があったのはよく覚えている。日和山(ひよりやま)のエレベータにも乗った。天気が良ければ富士山が見えるとあった。しかしそれは、鳥羽駅が火事になって延焼してしまった。
 写真は藤田憲一氏のサイトからお借りした。

コメント一覧

1. Posted by Tavata   2020年01月22日 19:34
関西本線、参宮線の話で、川端新二氏の「大和」牽引の話を思い出しました。
日本の蒸機はスロットル後に過熱管があり、相当に応答性が悪いはずなので、スロットル捌きだけでピタッと止めるのは至難の技でしょう。

欧州の保存蒸機はかなり飛ばします。英国蒸機の本線運転の制限速度は75 mph (120 km/h)ですが申請すれば90 mphまで許可されるようです。訪英時に乗ったBlack 5もロンドン都市圏を出ると表定速度は60 km/h以上でしたし、A1トルネードが100 mphテストをしています。ドイツの特別列車もBR23とBR50の重連で80 km/h巡航 (牽引機の常用最高速度)でした。もっとも、現在の向こうでは200 km/h運転が日常茶飯事なので、蒸機が相対的にノロく扱われるのは仕方ないです。
2. Posted by skt   2020年01月22日 19:36
その方面には詳しく無いので、よくわからないのですが、動輪をスリップさせるとブレーキの代わりになるのでしょうか?
静止摩擦の方が滑り摩擦より大きいと習ったような気がするので、もう一つよく理解できません。
3. Posted by dda40x   2020年01月22日 21:31
>>2
この場合、ブレーキ力を期待しているわけではありません。単なる見世物です。また、ロックさせると動輪に傷が付くので避けるべきです。
しかし、逆回転はブレーキ力が増したという実験結果をどこかで見たことがあります。眉唾モノですが、実験結果は尊重したいと思います。


4. Posted by dda40x   2020年01月22日 21:36
>>1
昭和40年代になると急行は殆どがディーゼル化され、鈍行列車と貨物列車しか蒸気牽引でなかったので、「蒸機は遅い」というイメージが定着してしまったように思います。
昔の急行列車、快速列車の速さは子供心には、飛び切りの速さとして映りました。特に遅れを回復するときの頑張りようは、素晴らしい光景でした。10‰の築堤カーヴ上で、火の粉をまき散らしながら走って行ったのを思い出します。

5. Posted by M.T.   2020年01月23日 12:57
鉄道の粘着力に関する記事として、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B2%98%E7%9D%80%E5%BC%8F%E9%89%84%E9%81%93 
から引用します。

レールに対して車輪が滑らずに力を伝達できている時は、摩擦の現象でいう静摩擦力にあたり、滑っている時には動摩擦力にあたります。 また、車輪を駆動している時に粘着が失われると空転となり、ブレーキをかけている時に粘着が失われると滑走となります。
これら空転・滑走時はレールと車輪との間は、相対的に滑っている状態なので、静摩擦ではなく動摩擦状態です。
注目は、粘着力とすべり率の関係のグラフです。

この滑っている状態を示すスベリ率と粘着力(摩擦力)との関係を示すのは、μカーブと呼ばれている特性を示し、鉄の車輪とレールの関係にある鉄道と、ゴムタイヤと路面との関係にある自動車でも同じ傾向にあります。

鉄道関係では、空転・滑走を止めて再度正しく駆動・制動力がかかるように粘着状態に戻す制御を空転滑走再粘着制御と呼ぶそうで、今ではすべての電車に採用されているそうです。
また、自動車分野ではABS(アンチロック・ブレーキシステム)と呼ばれ、今では殆どの車に標準採用されている大切な装置なのです。
その制御のねらいは、スベリ率を100%にしない事です。 空転(トラクション制御)や空走(アンチロック制御)をさせずに、最大摩擦力が得られるスベリ率に制御するものです。

動輪をロックさせてブレーキを掛けるよりも、車輪を回転させてスベリ率を与える方がブレーキ力が大きなると思われますし、まして、逆回転させるとブレーキ力としての効果は倍増するように思いますが、机上の空論かもしれません。
6. Posted by YUNO   2020年01月23日 13:03
現代の観光列車は、様々な理由によって速度を出さないのも原因の一つでしょう。
記録映像はフィルムの搬送速度が怪しい物も多いですから、当時の様子を知るのは意外と難しいものです。
7. Posted by dda40x   2020年01月24日 19:40
>>5 なかなか難しいものです。逆転による制動にはそこそこの効果があったようですね。
8. Posted by dda40x   2020年01月24日 19:42
>>6 確かに送り速度は厳密に一定ではありません。映写時の送り速度もこれまた違いますからね。

9. Posted by 小栗 彰夫   2020年01月24日 22:52
蒸気機関車が全速力で・・・
映画ではよく出てきます。
特に好きなのは、以下の2作。
「逢引き(1945年、英)」冒頭
https://www.youtube.com/watch?v=HCt8S-Aio5M
「獣人(1938年、仏)」冒頭(走行中給水あり)
https://www.youtube.com/watch?v=xGGOKmYGBwM
10. Posted by 01175   2020年01月26日 00:30
フィルムの搬送速度のせいかわかりにくいですが、動輪を逆転させて停止させるシーンがあります。

https://www.youtube.com/watch?v=Z3yR0aNriPM

また、私が子供の頃にやっていた「ケーシー・ジョーンズ」というTVドラマではやたらに蒸機の動輪を逆転させて停止させるシーンがあり、つぼみ堂のBタンクでマネをすると脱線するだけだったという残念な記憶があります。
11. Posted by YUUNO   2020年01月26日 19:42
>>10 せっかく紹介していただいた物に茶々を入れてすみませんが、この動画は娯楽映画の一場面なので、動輪をロックしたり逆回転させるのは誇張された演出表現だと思われます。
12. Posted by Tavata   2020年01月27日 15:21
逆回転での停止で盛り上がってますので、もう一件。

私はディズニーの「大列車追跡」のティンバートレッスル上での4-4-0による逆回転シーンが好きです。
逃げている列車(4-4-0+ボックスカー数両)が最後尾車両を切り離して突放し、追跡を妨害するのですが、追跡機関車(4-4-0逆行)がティンバートレッスルの所で逆リバーを使い、辛うじて衝突を避けます。(もちろん娯楽映画なのですが、さほど嘘っぽくはありません。)
これを模型でやりたくて、バックマンHOの4-4-0からゴムタイヤをワザと外してタイヤの溝をパテ埋めし、テンダーに錘を積みましたが、やはり慣性質量が足りず、再現までは至りませんでした。
この慣性質量増大装置は、各台車懸架の縦軸×2とすれば低い4-4-0のテンダーにも納められそうです。
13. Posted by dda40x   2020年01月29日 21:40
 動輪の逆転はCasey Jonesだけでなく、広範囲の映画で見られます。当時はブレーキの性能が今一つだった時代であり、ロックさせて動輪に傷がつくのを避けるために逆回転させたのではないかと思います。 
 当然ある程度の実験をして、逆回転の効果を確認したに違いありません。

 私も直流運転で逆転可能になったので、ひたすら逆回転ブレーキに励んだものです。Oゲージはある程度重いので、逆回転してブレーキを掛けることが出来ました。
14. Posted by dda40x   2020年01月29日 21:53
>>9
なかなか良い映画ですね。この頃は古い映画はタダで見られる世の中になったのですね。大平原(原題Union Pacific)も全編無料ですからありがたく見せて貰っています。この映画は椙山満氏が連続50日間、毎日見に行ったそうです。すべてのセリフをそらんじていましたね。

コメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価:  顔   星
 
 
 
Recent Comments
Archives
Categories
  • ライブドアブログ