2019年07月02日

エア・コンプレッサの出口

 梅雨時は湿度が高い。当然のことながら、空気を圧縮すると、その中に含まれる水が凝縮する。この記事を読んで心配になって、連絡した。理屈はよくわかっていらっしゃる方なので、問題はなかったが、もう少し広く知らせておかねばならないと思い、記事を書くことにした。水滴を含む空気が噴出すると、塗装面は悲惨な状態になるだろう。

 ほとんどの方は、飽和蒸気圧という概念をよく理解していないだろうと思われる。飽和蒸気圧は温度のみの関数で、その数値以上の蒸気圧は存在しないから、それ以上では、水は凝結する。これは梅雨時だけではない。真冬でも十分に凝縮する。

 例えば、大気圧で 27℃、湿度92%の空気には 25 mmHg の水蒸気が含まれる。それを圧縮して4気圧(圧力計の読みでは、最初が0気圧だから 3気圧)にすると、仮定される水蒸気圧は 100 mmHgになる。そのような状態は許されないので、27℃ での許される値、27 mmHg になるまで凝縮する。
 こう書くと、何だ簡単じゃないか、水滴ができて水が取り除かれたんだ、と思う人は多いが、実際にはそれ程単純ではない。

 気体を圧縮すると熱くなる。物理の時間にその理屈は習うだろう。分子の運動エネルギが増大するのだ。即ち、温度はかなり高いので、凝縮する量は僅かである。
 蒸気機関車の空気溜めの前の蛇管は、その熱い空気を冷やすためである。空気溜めの温度はなるべく低いほど良い。こうして、中には水が溜まる。仕業検査の時には、空気溜めのドレン・コックを開け、水を抜くのは当然である。凝縮水は、油とともに噴出する。

 塗装をされる方は、コンプレッサは買ってもエアタンクを持たない人が多い、と聞く。それは決して良くない。エアタンクは圧力の脈動を防ぐためと思っている人が多いが、実際は、水を分離するために必要である。
 連続使用するとタンクも熱くなるので、扇風機で冷やすのも手だ。途中のパイプを水冷(できれば氷冷)すると完璧だ。

dda40x at 07:02コメント(3)塗装 | 化学 この記事をクリップ!

コメント一覧

1. Posted by Tavata   2019年07月02日 19:26
飽和水蒸気圧や分圧のイメージを人に伝えるのは難しいです。例えば、湿度100%を「水中」と思っている人も居ますが、実際は湯気が漂う風呂場は湿度100%です。不正確な表現と承知の上で「空気に溶ける」水蒸気の最大値が飽和水蒸気圧と説明したりします。

さて、梅雨時に塗装面が「曇る」現象について飽和水蒸気圧の観点から考えてみました。
湿度が高いとき、コンプレッサから出た圧縮空気の湿度はほぼ100%、ギリギリまで水分が空気に「溶けている」状態です。
それがノズル先端から放出されると温度降下とともに飽和水蒸気圧も下がるので、高温空気に「溶けていた」水が「溶け込みきれず」に細かな水滴となって、塗料と一緒に飛んでいきます。(減圧で雲ができる実験と同じです。)

この時、周りの湿度が高いと水滴がなかなか蒸発せずに塗装面に残り、油性塗料と馴染まないので塗装面が荒れてしまう、これが「曇る」現象だと思います。

つまり「曇り」を避けるには、
1. 圧縮空気内の水分量を下げる
2. 塗装面に紛れ込んだ水滴を早く取り除く
3. 水滴が入っても塗装面が荒れないようにする
という方法が考えられます。

1.は圧縮空気の温度を下げて、ノズルに達する前に水分を減らすことで、dda40x氏の仰るとおりタンクと放熱管が有意義です。室温以下まで冷却すれば、かなりの水分が取り除けます。

2.はワークを暖めるなどで水滴を早く飛ばしてしまう方法です。塗装前にワークを暖めるのも効果があります。
減圧乾燥も効果的でしょう。チャンバが要りますが熱風乾燥よりホコリは付きにくいと思います。

3.は水性塗料の使用です。塗料そのものが水和なので多少の水分が紛れ込んでも曇りませんが、塗料のタレには注意が必要です。
私はスペイン製の水性塗料を多用していますが、雨の日でも色味に影響を感じません。

色々考えながら塗装しないといけない季節ですね。
2. Posted by むすこたかなし   2019年07月03日 23:18
Tavata様、
説明の中の「曇る」は、いわゆる塗膜の「かぶり(白化、blushing)」と同義と考えて良いでしょうか?

スペイン(地中海性気候)でピンと来ましたが、カラッとした気候こそラッカー塗料と相性が良いのですね(有害成分は別として)。翻って日本や東アジアが高温多湿で漆塗りに向いているのも納得できます。
3. Posted by dda40x   2019年07月25日 22:15
>>1
圧力という概念を濃度の一種と考えるのは、非常に良い考え方です。この考え方ができない人は「分圧」という概念を理解できません。
p=(n/v)RTですから当然なのですが、殆どの人が苦労するところです。
エアブラシ(霧吹きの一種)から飛び出した空気は断熱膨張により温度が下がりますから、飽和(おそらく過飽和)していた水蒸気の一部は凝縮してしまいます。だからこそ、事前の冷却で落とせるものは落としておくべきなのです。

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