2019年06月30日

Signal Red

UP cabooseSignal Red カブースの手摺り、はしご等は赤の警戒色に塗られている。この色が、日本で売っている塗料の中には見つからない。
 20年ほど前、赤の塗料をいくつか買って、条件を整えて色見本を作った。ある程度の面積を持つもの、線に塗ったものなどの見え具合を調べた。どれも不合格であった。昔撮ったコダクロームのスライドと比べると、その色は微妙に違ったのだ。
 この色は単純な赤より、僅かに橙色に寄っている。黄色を混ぜると、明らかに彩度が落ちるのが分かるから混合色ではだめだ。単一物でこの色を持つものは、一つしかない。

 Floquilの Signal Red という色がある。この色はずばりである。30年前、本物のカブースの廃車体から、塗料を削り取って、分析に掛けたところ、カドミウムが入っていた。カドミウム・レッドだ。カドミウムの硫化物 カドミウム・イエロゥ は黄色で、道路の追い越し禁止表示に使われていた。カドミウムと、硫黄の同族元素のセレンとの化合物は、この特徴的な赤を作り出す。陽に当っても褪色せず、その顔料がある限り、鮮やかな赤を示す。このフロクイルの塗料はカドミウム・レッドを含み、貴重なものであったが、もう手に入らない。

brake handlebrake handle24017_Backhead_20040426 UPの蒸気機関車のあちこちのハンドル類にはカドミウム・レッドが塗られていた。筆者が所蔵しているBig Boyのブレーキハンドルにも、塗られている。5枚目の写真はWikipedia からお借りしている。日本でも明治・大正期の一部の機関車には赤いハンドルがあったそうだ。

 最近はドイツを中心に広がった下らない環境保護団体の活動のせいで、カドミウムを使うことが禁止されてしまった。カドミウムは摂取してはならない、と主張している。本当にカドミウムが全く入っていない物しか食べなければ、人間は発育不良になる。カドミウムは人類にとって、微量必須元素である。あちこちで使われたものは、少しずつ溶けて現在の日本がある。
 道路の黄色の線の色が、最近は少し変わってきたことに気が付かれた人も居るだろう。有機物になったのだ。そうなると、徐々にカドミウムの不足が顕著になるだろう。筆者はいずれ、「カドミウム強化米」というものが発売されるとみている、というのは悪い冗談だが、決して起こりえないことではない。カドミウムは骨の中のカルシウムの代謝には必要なのである。多すぎるといけないが、なくては困るものなのだ。

 シグナル・レッドの残りが少ない。アメリカの市場でも枯渇している。なくなれば自分で顔料から作るしかない。あるいは油絵具から抽出することになる。

dda40x at 06:30コメント(5)化学 | 貨車 この記事をクリップ!

コメント一覧

1. Posted by 愛読者   2019年06月30日 23:53
これ本物ですか。すごいですね。

カドミウムは毒性しかないと思っていました。ごく微量は必要なのですか。海水中には存在するようです。ということは海産物には含まれているのですね。

2. Posted by dda40x   2019年07月01日 07:06
 このブレーキハンドルは35年前、UPの機関士Tom Harvey から貰ったものです。珍しいものであることは間違いないです。展示します。

 カドミウムは亜鉛と非常によく似ていて、酵素の中心で働きます。
もちろん多いといけませんが、魚介類には含まれていますし、土壌の中に自然に存在しています。もちろん米の中にも当然のことながら微量含まれています。普通の生活をしていれば何ら問題にはなりません。害のことはよく知られていますが、亜鉛とのバランスの問題は、殆ど誰も知らないようです。繰り返しますが、カドミウム強化米というのは、悪い冗談です。
3. Posted by Tavata   2019年07月01日 08:16
イギリスや欧州のBuffer beamに使う赤も元はこのカドミウム・レッドだったのだろうと思います。
耐候性が抜群なのでしょう。ボロボロの廃車体でもバッファー周りの赤は残ってました。
最近の保存車両は環境規制が厳しいために違う塗料を使っているのではないかと推測します。
4. Posted by 一読者   2019年07月02日 06:19
ガイアノーツの基本カラー015ピュアオレンジあたりはいかがでしょうか?
プラモデル用塗料ですが、ミッチャクロン等の適切なプライマーを使えば真鍮等にも模型用途としては必要十分な強度で定着します。
6. Posted by dda40x   2019年07月25日 22:57
>>4
有用な情報ありがとうございます。早速購入してみます。

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