2019年01月28日

よく走るためには

 たびたびこのブログで書いたことだが、走らなければ意味がない。みかけが多少良くできていても、脱線するようでは零点だ。 
 ポイントを滑らかに渡り、直線はまっすぐ走るだろうか。曲線を出て直線になっても首を振ったまま、斜めに走る機関車がたまにある。

 正しい規格に基づいて作られた線路であるなら、脱線は起こらない。もちろん、車輪も正しく作られているべきだ。
 
 こんな事は当たり前なのだが、実際に車輛を見るとそうでもないことが多い。先輪の厚みを見ればよく分かる。薄くする人の気が知れない。車輪のフランジが薄ければ、それは脱線機であって、脱線しないほうがおかしい。

 高性能な車輪を作ろうと思って、線路規格を読み込み、ある程度の試作品ができたので、吉岡精一氏のところに見せに行った。彼はこわい顔をして、
「新しい車輪を作るときは覚悟がいるぞ。万単位の車輪を作る自信があるか?そういう製造所はあるか?」
と問うた。
「あります。懇意の量産旋盤屋がやってくれます。」
と答えると、
「金が掛かるぞ。高級車が買えるほどの金を投資しなければならない。しかもそれをみんなが買ってくれなければ、何の意味もない。一挙にマジョリティになるしか方法はないのだ。」
「そのつもりです。私自身1千軸必要です。とりあえず3千軸の買い手はあります。アメリカにも2千軸ほど売れますし。」
と言うと、
「それなら良し。俺も500軸買おう。」
ということになった。

 それから、10年ほど経ち、
「2万軸を超えました。」と報告したところ、吉岡氏は満面の笑顔で、
「よくやった」
と褒めてくれた。既に日本ではde facto standard になったのだ。デファクトスタンダード(事実上の規格)になれたのはJORCのクラブ員が大量に買ってくれたからである。価格は安く、利益など無いも同然だ。その価格では模型店が手を出したくないからである。その後市場はほぼ飽和し、売れ行きは落ちたが、時々注文がある。アメリカからは「2000軸欲しい」などと言ってくる。
 祖父江氏の機関車にはこれが採用されている。

 その後売れ続けて3万軸を超えた。このLow-Dは新規格ではない既存の規格の中で、必要な条件を完全に満たす車輪だ。最高の性能を出すことができる。

 相も変わらず能天気な人たちは、筆者にProto48の車輪を作ってくれとか、タイヤの薄い車輪が欲しいと言ってくる。救いがたい人たちだ。

 新しい規格を話題にする方は、上記のことを思い出して戴きたい。覚悟が要るのである。たくさんの人が買わねばならない。


コメント一覧

2. Posted by Tavata   2019年01月29日 19:34
dda40x氏のお話から改めて強く感じるのは、「模型は実物と全く違う」「その実物と違う模型を実感的に動かしたい」「そのための方法論を実践して示す」という姿勢です。
走らなければ意味がないというのは全くその通りで、実感的な重々しい列車の姿、挙動を動態で再現したい、この「動態」というところにプラモデルやラジコンと違う鉄道模型の魅力を感じます。(ラジコンも「動態」と言われそうですが、あれは実感的な挙動の再現というよりは「動作」を楽しむものだと解釈しています。その中で動作が速くない大型船のラジコンは鉄道模型と近いかもしれません。)
重量問題はスケールの三乗で体積が決まってしまう模型の宿命ですが、実感的な挙動のためには最低限、脱線しないことが必須でしょう。
私はNからOナローまでやっていますが、最近の日本型N製品の軽さ、速さ、速度の不安定さは嫌です。欧州製品は蒸機の上周りがダイキャストの塊で重く、そして、せいぜいスケールスピードの1〜2割増程度の速度しか出ません。中低速で速度が極端に変化せずに走るのは気持ちよいものです。もちろん小スケールでは物理(力学)的な制約から、高効率、低摩擦、大慣性の再現は難しく、Nやナローはそれ相応の楽しみ方になります。

さて、Low-D車輪は規格内でベストな方法をデファクトスタンダードにすることに成功した素晴らしい例だと思いました。吉岡氏の「覚悟が要る」という言葉も納得です。
3. Posted by Tavata   2019年01月29日 20:36
ちょっと舌足らずだったので補足です。

ベストなモノがデファクトスタンダードになるとは限らない世の中で、自分がベストと信じるものに注力し、投資して、普及に尽力するのは、覚悟がいることだと感じました。
キーボードの配列から、VHSとベータマックス、DVD規格の乱立、メモリーカードのSD規格へ集約、これらが果たして技術的にベストだったかは疑問です。
Low-D車輪では、Oゲージ鉄道模型界という個人でも市場全体をギリギリ相手にできる市場規模、商売の思惑から外れた価格、それに既存規格との完全な互換性が上手く作用した結果、デファクトスタンダードとなり得たのではないでしょうか?
5. Posted by 一式陸攻   2019年01月30日 02:35
適材適所という言葉がある通り、常にプラが、ダイカストが、或いは真鍮が1番である、ということはないかと思います。
それぞれ得意分野があり、また密度の差、耐久性の差などを正しく知った上で使い分ける必要があると考えています。

6. Posted by dda40x   2019年02月03日 22:03
「模型は実物の一次近似である」と信じている人が居ますが、模型は小さいので、実物のようなわけにはいきません。飛行機などは極端に動きが狂ってきます。船も電車も同じです。ヤング率は一定ですから、小さなものは堅くなります。遠心力なども明らかに縮尺により、狂ってきます。
また、線路半径が極端に小さい模型で、実物の完全な縮尺模型が、調子よく動くと考えるのは無理だということは分かるはずです。
模型人は長年の経験でうまく行く線路、輪軸規格を作って来ました。その両方を同時に変えれば、うまく行くこともあるのでしょうが、片方だけでは無理なことはすぐわかることでしょう。
Low-Dを発表した時、Oゲージの重鎮と言われた人たちが、「テストする」と言って、何十軸かを持って行きました。その結果は「問題なし」だったそうですが、テストすると言った本人は、鉄道車輛会社にいた方でした。図面を見ればOKと言えなければおかしいはずです。いまだに不思議に思っています。

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