2018年10月12日

ブレーキ

 鉄道のブレーキは自動車に比べれば効きにくい。摩擦係数を考えれば自明だが、それが分からない人が居た。

 川端氏の体験談だ。関西線八田駅近くで、単機回送のC57を運転していたところ、踏切にトラックが入り込んでエンストしたらしい。すぐに急ブレーキを掛けたが間に合わず、トラックをはねた。そのトラックはばらばらになり、運転手は即死した。

 処理は終わったと思ったが、検察庁から二度も呼び出しが来た。そのトラックを見つけてからブレーキを掛けるまでの時間を問われたそうだ。すぐに掛けたと言っても信用しない。
「列車を牽いているならまだしも、単機回送なのだから直ちにブレーキを掛ければ、急停止できるはずだ。ぶつかっても仕方がないと、漫然とした運転をしていたに違いない。」
とその検事は嫌疑をかけ、主張を曲げない。
「どんなに急ブレーキを掛けても、止まれないものは止まれない。」
と言っても聞かない。話は平行線をたどり、実際に運転して現場検証をすることになった。

「はいそうですか、どうぞ。」
とやってみたところ、絶対に停止出来ないことが分かり、そのまま”嫌疑なし”で不問となったそうである。

 その検事は当時の県知事の甥であることをひけらかしたそうで、「腹の立つ奴だったなぁ」という感想であった。
 機関車が急ブレーキでつんのめるように止まることを想像すると、漫画のような珍妙な光景が思い浮かぶ。どうしてこんなことが分からないのか、筆者には理解できない。 

コメント一覧

1. Posted by booklet   2018年10月12日 14:29
法務省では司法試験に合格者を対象に裁判官、検事、弁護士になるための「司法修習」という集合研修を行っていますが、全国の現場に配属して行う地方修習で、修習生を機関車や電車の運転台に添乗させて運転を見せるというプログラムが場所によって1980年代まで存在しました。名古屋では関西線や近鉄で行っていたようで、事業者側は、まさにこのような事故処理の際に理解してもらおうという意図があって協力していたようでした。加減弁とかマスコンハンドルを握らせて運転させていたのを誰かに新聞に投書されたかで、この催しは中止になったようです。
2. Posted by 宮崎 繁幹   2018年10月12日 17:33
事故が起きたとき、乗務員に対し、法曹界の人が鉄道を理解していない為、厳しい判断が下されることが多いことは、昔から指摘されています。その為、判事・検事・弁護士と云った人たちを、組織的に機関車に添乗してもらい、体験によって理解を深めてもらうことは、随分と実施されてきた筈です。お話の検事さんは、そういう体験を経ずして、最初の判断を下したのでしょう。
3. Posted by たづ   2018年10月12日 23:16
私が習ったのはあくまで私法関係のみですが、法律・裁判等の話を受講したことがあります。判例・学説に沿って最終的に自説(とするもの)を答えるわけですが、判例自体がトンデモ事案なものがあり、伝統的に叩きます。講師の先生曰く、「私法は最終的に利益衡量だから」まあそれでもいいのですが、公法関係、とりわけ刑事事案はそれでは困ります。
しかしここ15年位の裁判でも、専門家、それも医師や会計士といった専門家に意見聴取して、「結局何聴いてたんだ?」というような判決を出す裁判官がいるので、全く嘆かわしい限りです。
4. Posted by Tavata   2018年10月13日 11:23
法律関係の専門家が沢山いらっしゃるようので、逆に技術側からの見解です。

技術屋にとって物理法則は絶対的存在で、そこに至る思考過程も「自明な」道筋ですが、法律関係の方は「はじめに物理ありき」ではないので、話は最初からズレています。
川端氏の例では、検事側の発想は
「単機回送」→「荷物がなく軽い」
→「判例や経験則から、単機ならすぐ止まる」と推定したと予想します。
厄介なのは「判例や経験則」で「空荷のトラックはすぐ止まる」「過積載でブレーキが利かなかった事故」など自動車の例が予想できます。
列車の場合、まず技術的な前提条件として、
「列車は全部の車両にブレーキがある」
→「編成長に比例してブレーキ力が強くなる」→「編成の長さによらず、重量あたりのブレーキ力はほぼ一定」
→「制動距離は編成の長さにほとんど依存しない」というロジックがあります。
このように自動車での経験則と異なることを示さないと摩擦係数の議論にすらたどり着けません。(私もこの手の話の食い違いで、説明に時間をとられた経験があります。)
そして、摩擦係数の制約から制動距離は自動車よりずっと長くなる、だから単機回送でも衝突前に止まれないという結論にようやく辿り着きました。

言葉で書くと長くなりますね。
結局は「百聞は一見に如かず」ですが、再現実験の結果が思考過程として一般化されるかはわかりません。

技術的には、物理法則の範囲内で機関車のブレーキ力を改善する余地があったのではないか?という疑問が残ります。
日本の蒸気機関車は先輪や従輪にブレーキがありませんので、これらの軸へのブレーキ追加によって、技術的に制動距離を短縮可能だったはずです。
5. Posted by たづ   2018年10月13日 19:32
そういえば、ドイツの蒸気機関車は先輪・従輪ともブレーキが付いてますね。
日本の蒸気機関車の場合、戦後の2軸従台車だと付くかどうか怪しいですが、1軸従台車及び先台車は付けられそうです。
長年従来どおりの構造で100km/h運転してきたものの、今の構造規則だとC61は積車ブレーキ率を満たさず(43/100)、75km/h止まりだそうです。多分C62も抵触するでしょう。
今更ですが、付けられないのでしょうか?
6. Posted by dda40x   2018年10月24日 07:38
確かに先従輪にブレーキを付ければ、ブレーキ力はかなり改善されるでしょうね。アメリカ型は大半がそのようになっています。先輪にはない場合もありますが、従輪にはついていますね。

コメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価:  顔   星
 
 
 
Recent Comments
Archives
Recent TrackBacks
Categories
  • ライブドアブログ