2017年12月23日

逆駆動

 押して動くか、すなわち逆駆動出来るか、ということは、ウォーム歯面の勾配と摩擦の大小に依って決まる。歯面の摩擦は避けられない。効率を上げるには摩擦係数を小さくするしかない。摩擦関係の本を数冊読んでみると、いくつかのことが分かった。

 まず、潤滑を良くすること。これには極圧剤が不可欠ということも書いてあった。次に材質を異にすると摩擦が小さくなるとあった。これは常識らしい。確かに同じ材質なら、圧力が掛かった時にくっついてしまうかもしれない。先人の経験から、快削鋼とリン青銅の組み合わせがベストということになっている。

 斜面で、摩擦によって静止できるのは角度が4度以下ということになっているらしい。それ以下でも、振動を与えると動き出すとあった。そうかもしれない。ネジが緩むのはそれが原因だ。

 ふつう我々が斜面の効果を実感するのは、ネジや楔(くさび)である。ネジ込めばネジは締まるし、楔を叩き込むと隙間が無くなる。
 逆に、押すとネジが廻ったり、楔が飛び出すのを見ることはまずない。3条ウォームでは、それをやろうというのだ。風車を考えてみよう。風は平行に動き、その中で風車は回転する。
 難しい流体力学はすべて無視して、ただ斜面の効果だけを考えれば、大体同じである。羽根の角度が90度に近ければ廻りにくい。45度付近が一番廻りやすいだろう。

 亡父が話したことで印象に残っているのは、「大砲の砲尾の閉鎖機(弾と火薬を詰めて蓋をする装置)は、5条か6条のネジになっている。半回転以下で締まるが、爆発時の圧力には十分に耐える。逆回転しないようにラッチが掛かっている。」であった。そんなネジがあるのかと興味を持った。それが小学校高学年の頃だ。

 3条ウォームを最初に設計する時は、そのようなことを思い出していた。ネジの進む角度は径が小さいほど大きい。しかし、角度が大きいとウォームホィールの歯に当たることもわかった。そういうわけで17度という角度が決まった。
 歯車屋に行って注文すると、大将はむかっとした顔で、
「あんたねえ、俺が何年こんな商売やっていると思ってんの。ウォームは逆には廻らんよ。廻ったら、逆立ちしてやるよ。全部タダにしてやらあ。」
と啖呵を切った。

 電話があって受け取りに行き、
「逆に廻ったら金は受け取らないんだね。」
と確認した。
「来週ギヤボックスを作って見せに来るから、金はその時でいいか。」
と聞くと、大将は、
「もちろんだ。持って来い。出来るもんか。」
と胸を張った。

 約束の日にギヤボックスに付けて見せに行くと、大将は愕然とし、へなへなと土下座した。
「こんな商売を30年やってても、気が付かなかった。俺はバカだった。考えてみりゃあ、斜面が急なんだから廻るよな。あんたは天才だよ。金は受け取れねえ。次もタダでいいよ。あんたの注文はどんな注文だって聞いてやるよ。」
と言った。
 結局最初に20セット作り、次に300セット作った。本当にタダにしてくれた。その歯車屋とは仲良くなって、いろいろな歯車を作ってもらったが、そのうちに大将は病気になり、廃業した。残念だった。


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