2015年11月29日

直捲電動機

 模型のモータは全てマグネット・モータになってしまったと言ってよい時代になった。筆者がボールベアリング、三条ウォームにのめり込み始めた頃、伊藤 剛氏とモータについて論議したことがあった。文中、dは筆者のことである。

剛 最近は直捲電動機の模型はなくなりましたね。
d  実は今一つ作っているのですよ。
剛 ほう、それは珍しい。どんなモータを手に入れたのだい。
d  Braunの髭剃りを分解して出てきた交流用のモータです。直流なら20Vくらいで回ります。それをさらに改良して12Vで動かないか、調べようと思っています。
剛 それは面白いね。直捲電動機はその中にオートマティック・トランスミッションが内蔵されているようなものだから、出来の悪い模型に搭載しても、よく走るんだね。直流モータの時代になったら、途端に走りが悪くなっちゃったんですよ。
d 今開発中の摩擦の少ない機関車に直捲モータを搭載すれば、グワーンと走ってぴゅーっと滑って行かないかと思っています。
剛 そりゃ面白い。重い列車を牽かせると実感的だろうね。

 その後、筆者の直捲モータの改良は頓挫し、コアレスモータを採用することになった。

d コアレスモータにしましたら、調子が良いのですよ。電源を電圧制御にしたのですが、それが良かったみたいです。以前は電流制御でしたから、このような低電流では速度調節がむずかしかったのですよ。
剛 おお、それは素晴らしい。マグネットモータは分捲特性だから、本来は模型には向かないものだと思っていたけどね。
d いや、本物と同じ動作をさせることが可能ですよ。『下手な工夫より電圧制御』かな。
剛 あなたは電気も強いから、あなたがそう言うならその言葉には重みがあるね。

 その後クラブの会報にはこの話が引用された記事が載った。剛氏の瀬戸電の記事が出たのは、その直前である。あれが日本の模型雑誌に直捲モータの記事が載った最後の号である。瀬戸電には自作の巨大な直捲電動機が装着され、ピヴォット軸受で慣性モーメントが損なわれないようになっていた。12 Vを印加して電流を止めても、「山口さんちのツトムくん」を歌い終わるまで廻っていた。剛氏は、「駆動系というものは慣性モーメントを最小にするように設計されるものです。これはとんでもない天の邪鬼(あまのじゃく)だね。」と言っていた。 

 ちなみに筆者はそれほど電気に強いわけではない。父親から聞いた話を覚えているだけである。

コメント一覧

1. Posted by popoakao   2015年11月29日 18:36
4極界磁11溝の直捲モーターですね。数年前に3極直捲モーターを自作して「EB」を走らせました。電源を切っても少し走るのが実に楽しく、剛さんの4極モーターを思い出し、瀬戸電の記事を読み返したことがありました。波型捲線とはなんだろう、11溝のたすきがけはどうやるのだろうと、古いモーターの本を古本屋で探しましたが、その記載のある資料は見つからなかったですね(記事にあるハンドブックなる資料が剛さんの遺品にあればぜひ拝見したいものです)。
ちなみに、脱線しても車輪が回り続けるという情景は、大容量キャパシターを入れて電気的には実現させましたが、邪道ですね。
2. Posted by YUNO   2015年11月29日 21:45
瀬戸電の車体幅いっぱいに垂直に装架されたモーターは強く印象に残っています。本棚を探したらTMSのNo.400、1981年4月号でした。
当時は、どうして手間を掛けてモーターを自作したのだろう、買った方が工作時間が節約できるだろうに、と思ったのを覚えています。そういう理由があったんですね。30余年目にしてようやく合点が行きました。
3. Posted by dda40x   2015年12月14日 07:33
摩擦の少ない車輛に優秀な直捲電動機を取り付けるとどうなるかという話を、剛氏としたことがあります。
剛氏はにこにこして、「そのうちにね。」と言っておられたのですが、それがこんな形になって出てくるとは思いませんでした。

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