2011年12月19日

ハンダ付けを避ける

 昔、父に電線をハンダ付けするのはなぜかと聞いたことがある。おそらく小学生高学年のころだ。その答えは単純であった。それは、「電気がよく流れるように」であった。その答えに、非常に驚いた記憶がある。
 それまでハンダ付けはブリキ板を組み立てる方法の一つであるくらいにしか認識していなかったからだ。

 当時、電線を接続するときは双方をよく磨いてねじり合わせ、松脂を塗って焼き鏝でハンダ付けするのがが普通だった。高い電柱の上で、威勢よく電気工が働いていた。それを下で見ていると、「コラァ、下に居ると融けたハンダが目に入るぞ!」と怒鳴った。確かに、ぽたぽたとハンダが落ちてきた。それを拾って家に帰り、ハンダ付けして楽しんだ。

 力学的な強度を期待してハンダ付けしているわけではない。電線は、ねじり合わされた時、すでに十分な強度で結合されている。接触だけでは足らないのでハンダを導体として使っているわけだ。距離が小さいので、多少電気抵抗があっても問題にはならない。

 さて、細い撚り線からなる電線をほぐし、丸い輪を作ってハンダ付けし(これをハンダ揚げと言った)、それをネジで端子に締め付ける工作を中学校の技術家庭でやった記憶がある。ところがその方法はあまり良くないことが分かった。ハンダが滲み込んだ部分は硬く、曲がらない。一方、そうでない部分の撚り線は柔らかい。電線を曲げると、その部分に曲げ応力が集中する。プラグから出た電線の、ちょうど手に触れる部分にハンダの滲み込んだ部分があると、そこで電線が折れてちぎれてしまい、導通しなくなる。

 これを英語では、”wicking"という。電気製品のほとんどの故障はウィッキングによるとまで言われた。NASAをはじめとする航空宇宙産業では、このウィッキング撲滅作戦を行っていた。
 圧着端子の採用、ラッピングという線を巻きつける方法の採用が大きな柱だった。日本に入ってきたのは70年代であったが、アメリカでは60年代にすでに実用化されていた。

 圧着端子を使うと、撚り線は先端まで柔らかく、折れることがない。その時、スズめっきを施しておくとさらに電気伝導性が良くなることに気が付いた人は偉い。こうして電気屋さんがハンダ付けをしなくなったのだ。現在電機業界では、ハンダ付けはプリント配線基板くらいしか使われない。
 ハンダ付けをすることなく、電気伝導性を同等以上にすることができるのは圧着端子のおかげである。ネジを締める瞬間にも、スズは働いて電気伝導性を高める。

 当レイアウトの配線にはほとんど圧着端子を用いている。故障が減ることは間違いない。

001 (2)追記 先日、電燈のスイッチを買ったところ、ハンダ付けした芯線をネジ留めするなという指示があった。当然ではあるが、これを表記してある例を初めて見た。
                                      2012年1月23日追加

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コメント一覧

1. Posted by 初瀬春日   2011年12月19日 14:52
ハンダ付けの際のペーストやフラックスが残存していると、
腐食性のフラックスでなくてもホコリなどを付着させて
端子や線の劣化につながると聞いたことがあるのですが、
それは正しいのでしょうか?
2. Posted by dda40x   2011年12月19日 16:41
腐食性の全くないペーストはあり得ません。強いか弱いかの違いです。
ペーストを用いたら必ず溶剤で洗っています。
今年の9月4日,6日の記事をお読みください。
3. Posted by 森井義博   2011年12月20日 21:45
プリント基板などでも、不具合の多くはハンダ付けにまつわるところですね。
ハンダ付け自体の不備もありますし、振動や経年劣化で問題が出てくることもあります。

模型の場合も、真鍮等で作るときはハンダ付けが便利ですが、やはり振動や力の加わるところや、経年劣化により外れてしまうこともたまにあります。(フラックスの除去が不充分なことも一因としてあるかもしれません)
でも、ハンダ付けには、接着剤には無い高速な接着(?)性があり、容易に分解可能なことも非常に便利で使い続けています。
4. Posted by northerns484   2012年01月03日 11:15
> 圧着端子の採用、ラッピングという線を巻きつける方法の採用が大きな柱だった。

大学在学中にワイヤーラッピングという技法を教えてもらったとき、「はんだ付けより信頼性が高いといわれている」というような話を先輩に聞いて不思議に感じたのを思い出しながら、この一連の記事を興味深く読ませていただきました。

今回改めて考えたのは、はんだ付けの問題点として、dda40xさんが書かれているWickingと同時に、はんだ付けする人の腕に左右されて信頼性がばらつくこともあったのでは、ということです。

大規模なシステムでは、一箇所の信頼性の低い接続が、全体の信頼性を大きく損なうことになりますので、誰でも簡単に接続ができ、個々の接続の信頼性が一定の範囲に収まる圧着という方式を採用したと考えました。

さらにアメリカらしいと思うのは、端子の規格を決め、適合する工具を用意し、全体としてシステムとしたという点です。日本だったらどうしたでしょうか。はんだ付けの上手い人を育てるという方法に走ってしまい、大規模なシステム構築時に配線の量が増えたときに腕の立つ人を揃えることができず、破綻してしまったのでは、とか思ってしまうのですが、これは意地悪すぎる見方でしょうね。

信頼性の問題は、航空宇宙産業という大げさなものでなくても、一定以上の大きさのレイアウトでは必ず出てくる問題だと思います。私が米国で在籍していたクラブでも全面的に圧着を採用していました。下記の私のBlogの記事に関連することを書きましたが、その時に考えたことの意味を再確認できたように思います。

http://blog.goo.ne.jp/northerns484/e/a084c50f93e542fcdab9d04f41904eb2
http://blog.goo.ne.jp/northerns484/e/144bdc3f5a05963717f94faa24d6712d
5. Posted by dda40x   2012年01月08日 08:22
コメントありがとうございます。
NASAがハンダ付けを全廃し、ラッピングや圧着端子にしたことは当時の新聞報道などで知りました。父が、「信じられない。」と言っていたことを思い出します。
「かしめてハンダ付けすればより軽くできる。」と言いました。これもうまい人がやれば、の話ですね。
northerns484氏のおっしゃる通りです。
彼はウィッキングには困ってました。撚り線の可撓性を保証しつつ、折れない工夫を必要としましたから。

70年代にNASAに見学に行くチャンスがあり、配線の工夫を見てきました。
当然ですが、爆撃機B17やB29の配線とは随分異なっていました。

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