2011年09月06日

続 フラックスの役目

 塩化亜鉛飽和水溶液の沸点は極端に高い。薄くても加熱によって水が蒸発するから、飽和溶液になる。この時、沸点は300℃を越える。これは、化学実験で反応容器を高温に保つ時の熱媒体としても使われた歴史があるくらいなのである。もちろん、その中では多少の加水分解が進み、塩酸が生じ、それが銅などの酸化物を溶かす。
 すなわち金属容器は溶ける可能性があるから、ガラス容器中で実験を行うというのは常識である。
 
 ハンダ付けの最中は300℃ほどであろうから、その加熱時間中に母材表面がきれいになるというわけである。
 昔から建築板金職人は塩酸を使っている。人により、その中にトタン板の切れ端を放り込み、表面の亜鉛を溶かす人もいた。要するに塩化亜鉛と塩酸の混合溶液である。この時、地金の鉄板はイオン化傾向の差で溶けない。そうして作った液を、竹の串で相手に塗りつける。竹の串は先を潰して細かく裂き、液が保持されるようになっている。

祖父江氏の塩酸入れ 祖父江氏は希塩酸を湯のみに入れ、それが倒れないようにブラス板で作った支えを付けていた。やはり竹串を使うのだが、節を利用して上まで塩酸が滲みて来ないようにしていたのが興味深い。

 日本ではあまり採用例がないが、塩酸から生じる塩で熱分解しやすいものなら何でもよく、塩化アンモニウムでも良い。これは200℃くらいで分解して塩酸とアンモニアになる。アンモニアは多少臭いが、分子量が小さいのですぐ拡散するし、どこにでも多少はある物質なのでさほど気にならない。残る塩酸は酸化物を溶かす。

 いわゆるペーストの中には酸性ペーストもあって、塩化亜鉛、塩化アンモニウムを大量に含む。それでは普通のペーストでは何が働いているのであろうか。松脂の中にはいくつかの有機酸が含まれ、融けた状態ではそれが酸化被膜を溶かす。獣脂は加熱によって分解し、グリセリンと脂肪酸になる。脂肪酸も弱いながら多少の溶解力を持つ。

 大気中に酸素がなければ、一度磨いた金属は錆びないから、フラックスなしでハンダ付けできる。伊藤剛氏がクラブ内での会報に興味深い漫画を描かれた。宇宙服を着て、月面で機関車のハンダ付けをしている絵だ。
「何もここまで来てやることもないだろうに…」とつぶやく同僚飛行士を尻目に楽しんでいる誰かさん。

 一度使ってみたいのは、超音波を発するコテである。それを母材に当てると、酸化被膜が壊れて母材が露出する。すなわちフラックスなしでハンダ付けが完璧にできる。どこかの研究室が捨てるときが来れば、声を掛けてくれるよう頼んである。難しそうだ。

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