2010年10月15日

続 ”まねる”ということ

 1912年にアンモニア合成法が開発されて、早速日本にも輸入された。

 その装置は水素と窒素の混合気を数百気圧まで圧縮し、加熱して触媒に接触させるというものであった。反応容器は二重構造で、内側は低炭素鋼管、外側はそれに密着する無数の穴を開けた高炭素鋼管であった。
 この構造は実にすばらしく工夫された造りで、高温高圧の水素が鋼管にもぐりこんで、内部の炭素と反応してメタンになるのを承知した工夫であった。炭素が抜ければ鋼管はただの鉄管になる。圧力には耐えきれない。
 外側の穴あき鋼管は、内部から漏れ出した水素を素通りさせて、耐圧性能を保持するための工夫であった。内部の鋼管を定期的に取り替えていれば、破裂の心配はない。鋼の水素脆化という概念がなかった頃の話である。
 日本の担当者は穴あき鋼管を見て、それを穴の開いていない鋼管に取り換えればより丈夫になると思ったのである。
 早速そのように改造し、爆発事故が相次いだ。それが元の様に戻されたのは、それから何年も経ってからのことである。しかも、それはその担当者が居なくなってからのことであったそうな。

 この事案は、基礎研究がいかに大切かということを雄弁に物語る。「やり方」では済まないものがあるということが、基礎研究をしていないものには分からない。
 最近ノーベル賞が日本にも多くもたらされている。それは2,30年前の業績に対してである。日本が基礎研究に力を入れ始めたのは、その頃からである。その後、日本人の精神構造はかなり変化している。ほとんど不自由ない生活を国民の大半が享受できるようになった。あるものを利用していれば不満はない。
 これからも、基礎的な分野の研究に力を入れ続けられるだろうか。


 模型と関係ない話をしたが、上のことは模型の分野にもそのまま当てはまる。正しいものを作った人がいるのに、それを能力に欠けた人が改造して製品化する。購入者は迷惑するのである。
 模型は小さな機械である。表面的なものを適当に再現してあれば喜ぶ客も居るのだが、性能を考えた模型はそうはいかない。

 また、こうすると良いという記事は時々見るが、データがない。「測定」という最も大切な部分が抜け落ちている。客観性のない記事にはお付き合いしかねる。測定すなわち客観という概念がないのだ。
 測定もデジタル機器を使えばそれで良いと思う人が多い。較正をしているのだろうか。測定器が正しいかを調べなければ意味がない。 
 機関車の効率測定には斜面を使う方法がある。実に簡単な方法なのだけれども実行している人はまずいない。

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コメント一覧

1. Posted by 鹿ヶ谷   2010年10月15日 16:32
穴あきパイプの件はいかにも日本の社会ではありそうなことですね。穴をやめちゃった人って多分その会社の権威みたいな人で誰も反対意見を出せなかったんでしょうね。日本人て反対意見を出されると人格を否定されるように感じる変なところがありますから。
ところで、私のライブ・スティームでも真似に関する失敗が有ります。教科書では真鍮になっていたブタンガスのタンクを銅で作ったんです。銅の方が内圧をかけたとき真鍮より強い(ねばる)のでいいと思ったんですが、銅の熱伝導が良すぎて、ボイラーからの熱が伝わり、暖まってしまい、ガスの充填がうまくできなくなってしまうことが判明。真鍮を使う理由はあったようです。
前回のコメントに書いたアンドレ・シャプロンに関しては上記URLに記事を少し追加しました。
2. Posted by harashima   2010年10月17日 01:41
>較正をしているのだろうか。
これは耳が痛いですね。
会社では信用に関わりますから、較正は義務にしていますが、自分ではせいぜい二つの機器で確かめるくらいです。
しかし、ものさしで測るだけでもおかしなことに気づくことがありますから、できる範囲でも測定は大事です。
3. Posted by dda40x   2010年10月19日 08:09
鹿ケ谷様
興味深いお話をありがとうございます。
素材の熱伝導率というのも模型界ではあまり話題になりませんね。種々の物理的、化学的な定数は模型雑誌で扱うべきことのように思います。
 TMSの初期のころにはちらりと載っていましたが、その後見ません。

harashima様
デジタル機器は数字が出るので、ついそれを信用する場合が多いのですね。
活字を信用する人が多い、というのと根っこは同じように思います。 

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