2021年07月

2021年07月31日

吊掛け駆動

吊掛け駆動 非常に明快な、吊掛け駆動のさし絵があった。TMSの100号の記事に8号の絵が再録されていた。これは素晴しい絵だ。モータは自作なのだろう。軸を伸ばして、先にも軸受があれば、言うことはない。いわゆる棒型モータの原型だ。
 8号はあるが、紙が劣化しているので、あまり開きたくない。 早くデジタル化せねばならない。
 
 吊掛け駆動、トルクアーム、トルクチューブの区別が難しいという話を聞くので、新刊にその解説をすることにした。
 要するに、吊掛け式ではモータの重さの一部が車軸に掛かっている。後の2つはいわゆるカルダン駆動である。カルダン駆動では、モータは車体に固定され、ギヤボックスは自由に動く。カルダン軸は、ユニヴァーサル・ジョイントによるトルク伝達軸である。ギヤボックスに発生する反トルクは、いろいろな方法で押さえ込まれて、その結果として牽引力を生み出す。 

チューブはよじれる ゴムチューブによる接続はよく用いられているが、正しいところがない。ギヤボックスの反トルクを、ゴムチューブで承けることは出来ないから、妙なよじれ方をして、効率は下がる。前後進で調子が異なるものが大半だ。雑誌にはこの方法がいまだに載っている。全く進歩していない。

閑林式吊掛けモータ 30年ほど前、閑林氏は面白い吊掛け法を開発した。それはモータ軸を延長して、それをそのまま吊掛けの支持装置にしてしまう方法だった。すなわち、モータ軸を反トルクの伝達に使うわけだ。
 モータ軸にピッタリ嵌まるパイプを用意し、ギヤボックスから生えている駆動軸に挿し込んで、5分間型エポキシ接着剤を流し込む。モータを回転させながらエポキシ樹脂が硬化するのを待つと、心が出たまま固まる。ギヤボックスを台枠に嵌めて、動軸をセットし、軸箱の底蓋を留める。モータの後ろを台枠に半固定すると完成である。シリコーン・シーラントなどを使うと良いらしい。

 この方法には弱点がある。衝撃に弱いのだ。長くて細いものに、折る方向の力が掛かる。

2021年07月29日

貨車を完成させる

 台車を組み立てたので、未完成だった貨車に手を付けた。九割方できた状態で放置してあったものを集めて、完成しやすいものから手を付けた。

 どれも3時間程で完成し、塗装を待つだけとなった。博物館のヤードにはあと15輛分しか余裕がない。飽和すれば、自宅のレイアウトに逆戻りするものも出てくる。凝った作りのものは、ガラスケースに飾るという手もある。

GS gon これは随分前に紹介したものである。その後3Dプリントで下廻りを作り、今回は細かい工作をして、連結器高さの調整をしただけだ。
 3Dプリントで梁を作ったが、鏡像の部品ばかりだ。2回に分けて出力して、組み合わせた。染色して色を変えたので、わかりやすい。正確に出来ているので、無調整で組めた。これもS氏の設計である。これをブラスで作ることは、あまりにも大変で避けたかった。 

 角線に通す4 mm角の細かい部品は3Dでは作りにくい。厚さが足らなかったりして、何回か作り直した。この部品は、無理に押し込むと割れてしまう。内寸を正確に出力してくれないと手直しが大変で、しかも角度が狂うとみっともない。
 大きなものは間違いなく作れるが、細くて小さなものは難しい事がわかった。

 天気図をよく見て、塗装の日取りを決める。同時に塗る何輛かの下地処理も行っている。塗装の準備は楽しい。 

2021年07月27日

続 枕梁を更新する

 この枕梁は、快削ブラスの角棒から削り出したものを作ったことがあるが、上の3つの峰の部分を作るのが面倒で、一つ作ってやめた。

 その後10年も走らせていると、破損台車が20台以上溜まってしまい、なんとかせねばならなかった。もう供給が少ないので、修理する以外無いのだ。
 この製品は昔は安かったが、今はバネ入れの人件費が高いらしく、完成品は手に入りにくい。バラの状態では売っていたが、買う人がなく、それも消えてしまった。折れるから、枕梁だけは売っていたが、それも見なくなった。唯一の入手法は、コンヴェンション会場のスワップミートで、台車目的で中古貨車を買って、車体を捨てることだ。

 こういうものこそ、ナイロンで3Dプリントすべきである。見かけ上大切な、3つの峰と嵌め合い寸法だけは気を付けて、他は強度第一の設計にした。
 枕梁が割れるのには、もう一つのファクタがある。キングピンの頭だ。もともとは4-40 (2.8 mm径) というインチネジのはずだが、日本ではM3のネジがちょうど良い太さで、それを使うように車体にメネジを立てる。このM3の頭は、台車枕梁の穴にぎりぎり入るので、ねじ込むと抜けることがないから便利だと思った。しかし、ねじ込むことによってストレスを与え、ヒビを生じさせるのだ。枕梁の穴には抜き勾配があって、ネジを締めると食い込んで広がるのだ。筆者はそれに気が付いて、その工法は止めたが、その後遺症が出ているのだろう。この方法は、直ちにやめるべきだ。
 もう一つ、光による影響がある。塗装してない台車は劣化が早い。 中古貨車の部品は劣化していることが多い。

fixed bolster  例によってバネを嵌めるのは大変だが、デンタル・フロスを使った。台車は古く、埃が積もっているのはお許し願う。 

 一部の台車にはボールベアリングを仕込んである。車重が1 kgもあるような貨車にはそうせざるを得ない。3本のバネは中くらいまで撓んでいる。浮いている状態だから、ポイントを渡るときの動揺が実感的である。

2021年07月25日

枕梁を更新する

 貨車の台車は、 Athearn のデルリン台車に敵うものはない。その低摩擦は、Low-Dと組合わせると無敵である。ピヴォット軸受であるが、軸重100 g重までなら全く問題ない。しかし、長期に亘って使用していると、たまに事故もある。

Athearn truck bolster 台車枕梁が破損するのである。一番多いのは黄色矢印の部分のひび割れである。徐々に疲労し、脱線などの衝撃で折れてしまう。折れなくても片側が開いて、枕梁が曲がる。すなわち、車軸が外れ、脱線する。この設計はまずい。力のかかるところの肉厚が、一番小さいのだ。ネジによる応力割れもある(後述)。
 二番目に多い事故は、赤色矢印の爪状部分の破損だ。これが赤の線で欠けてしまう。脱線などで、衝撃があると欠けるのだろう。これが無くなると台車枠は外れ、脱線転覆する大事故につながる。

 台車枠は、デルリン(いわゆるポリアセタール)であるのに、枕梁はポリスチレンである。とても弱い。リモネンを使って接着しても、他のところが割れてしまう。
 こんなところにポリスチレンを使うのは間違いだ。こういうところこそ、結晶性プラスティックを使うべきだ。どうしてデルリンを使わないのだろう。 

2021年07月23日

続 直角カルダン駆動

 最近、電車の動力をすべて入れ替えたいという要望が、友人からある。
「今までは外見を素晴らしくすることには努力してきたが、走りは今ひとつだ。このままでは面白くない。」と言う。

 友人たちは、筆者の車輛が音もなく走り、押して動き、なおかつ滑走するのを見ると心を動かされるようだ。
 博物館の線路には、ギヤボックスがない車輛の進入は禁止であるから、その本線上を走らせてみたいというのもある(油を撒き散らされては困るから、未整備車はお断りしている)。


D-21 by Mr.H この台車を見せられた。外見は素晴らしい出来である。作者のH氏はもともと本物の電車を作る会社に居た。押さえどころがしっかりしているので、シャープで実感的である。もちろんイコライザは可動である。キングピン位置が高いので、軸重移動はかなりある。

 モータ軸を延長して2軸に吊り掛けている。この模型では、油が飛ぶので、ウォームの寿命は短い。頻繁に取り替えねばならない。これを3条ウォームでやりたいそうだが、スペイスが足らない。
 1軸駆動なら出来るが、それでは嫌だと言う。乗越カルダンで2軸駆動でも嫌なのだそうだ。実物にもこの種の配置のカルダン駆動はある。さりとて、先回の動力を付けると、床下器具をなぎ倒すことになる。

「全軸ボールベアリング装荷にすれば、動軸が少なくても十分走りますよ。」と言うと、やる気が出たようだ。おそらく合葉式直角カルダンになるだろう。その方式ならば、駆動軸がおとなしいので、床下の改造は最小限で済む筈だ。

 New O gauge, New OJ gauge の時代は来るだろうか。 

2021年07月21日

直角カルダン駆動

 直角カルダンの電車を組立てている。もちろん友人のものだ。3Dで台車およびギヤボックスを作り、3条ウォームで駆動する。S氏の設計である。

直角カルダン2直角カルダン この電車の台車は、かなり低いところに台車ボルスタがあるので、駆動軸を通すには適する。何の邪魔もない。2軸を駆動し、その駆動軸は台車の外側で、アサ電子工業という会社のユニヴァーサル・ジョイントでモータヘとつながる。非常に単純な駆動方式である。設計が完璧なので、組立ては容易だ。ジャーナルにはボールベアリングを入れ、非常に滑らかに走る。
 このジョイントは等速とカタログに書いてあったが、訂正を申し入れた。等速に近いが等速ではない。但し、対称に曲がっているときは等速にかなり近くなるであろう。

Meitetsu trucks このギヤボックスには需要があるので、注文があれば頒布するつもりだ。上部の角状のものは、反トルク承けの取付け用だ。不要な時は切り落とす。
 HO蒸機用のギヤボックスも試作している。歯車はたくさん用意した、と言うと聞こえが良いが、要するに大量に発注しないと引き受けないのだ。歯車屋は新しいホブを作って加工してくれた。極めて出来が良い、ツルツルピカピカのウォームである。効率は一段と良くなる。

 この台車に、合葉氏のアイデアの乗越カルダンを考えている。この方式は駆動軸の曲がりが少なく、効率が良い。両軸モータを使えば、2軸駆動になり、牽引力は上の写真のものと同等だ(スプリングベルトは使わない)。

2021年07月19日

続 クラウンギヤ

 クラウンギヤは、径が十分大きければラックと同等とみなせるが、20枚歯程度では歯型がでたらめである。点接触をしているから、摩耗がひどく、徐々に崩れていく。ピニオンが硬い材料なら、クラウンギヤが適度に減ってそれなりの形で、ある程度の時間使える。しかし、音がするし、効率も良くない。要するに、減ることを前提にしている。

 ところが以前見たものは、大きな40枚歯を硬質クロムめっきしてあった。これはまずい。そもそも、歯車をめっきすると歯型が狂うから、常識的にはしてはいけないことである。光っているから滑らかだと思うのは、勘違いである。顕微鏡で見ると、表面は粗雑だ。(自動車のエンジンのシリンダ内壁はクロムめっきしてから研磨してある。そうすると、その粗雑面の突起が削り落とされ、無数のクロムの金属結晶の隙間に潤滑油が満たされて摩擦を減らしている。)
 
 ところがそれを使っている人は、嬉しそうに「クロムめっきしてあるから減らない」との”効果”を謳うのだ。大ギヤが硬いと、ピニオンがどうなるか、である。そこで見たピニオンは8枚歯のブラスであった。小さいものを軟らかい材料で作れば、たちまち寿命が尽きる。潤滑油が飛び散る開放されたギヤであったから、あっという間であろう。ギヤボックスを付けない人は大半である。密閉式にして油溜まりがあれば、かなり違うはずだ。

 ギヤ比は、8:40=1:5 であった。割り切れるし、ピニオンが小さ過ぎて、歯型がおかしい。走らせるとギャーという音がするが、本人たちは至って無関心で、静かだと言う。重負荷を掛けると音がひどくなるが、そういう走らせ方はしていない。勾配がない線路しか走っていないのだ。また、各動輪が個別に駆動されるから、牽引力が大きいとは思えない。

 こういうことに注意を払わない人は多い。いわゆる腕の良い模型人にも、この種の人はいる。合葉氏の言う「正しい鉄道模型」の実現は遠いと感じる。

2021年07月17日

クラウンギヤ

 前回紹介した記事ではクラウンギヤが用いてある。これは意外だ。合葉氏に見せてもらったものはすべてウォームギヤであった。作られた時期によって違いがあるのかもしれない。

 合葉氏宅で話をした時、
「貴方はどうしてウォームを使うのか?」
と問われた。答は単純であった。
「静粛であることは、この上ないのです。効率も、工夫すればかなり上げられます。潤滑剤の進歩があり、他のギヤに勝るとも劣らないものができるはずです。」
と言うと、
「それでは、クラウンギヤについてはどう思う?」
と聞かれた。筆者は思い切って挑発的な表現をした。
「クラウンギヤは嘘で固めたギヤです。どこにも正しい部分がない。」
 合葉氏は腹を抱えて笑った。
「その通りなのだけど、そこまで言うかって感じだね。」

 こういうやりとりがあって、合葉氏は筆者のウォームギヤに傾倒していった。合葉氏と会う頃までには、筆者自身もウォーム・ドライヴの歴史については勉強して、実車にも使ってあったことを知っていた。
「初期のPCCカーにも使ってあったのです。」
と言うと、驚かれた。
「よくそんなことを知っているね。伊藤 剛氏は、名古屋市電800型で、それを近代化したのだね。名工大の先生にお願いして、より効率の上がる歯型を計算してもらったのだよ。PCCはその後、グリーソンのハイポイドギヤに切り替わったのだけど、そのギヤが精度高く出来るようになってからだ。」 
「軍用6輪トラックにも多条ウォームが使ってありました。」
と言うと、
「うーん、参った。我々はウォームギヤを再評価せねばならないわけだ。山崎氏は『ウォームは逆駆動出来ない』と、昔のミキストで断言していたので、それは間違いだと指摘したが、わからなかったね。モリコーのギヤも逆駆動できる細い2条ウォームだったのだけど、彼は全く理解しなかった。」
という会話があった。この時点で合葉氏は、
「貴方のウォーム・ドライヴこそOゲージの未来を切り開く。」
と述べた。


2021年07月15日

走行試験

 先日の記事を読んだHOの友人から、メイルを戴いた。

 ブログの合葉氏の記事は興味深く拝見しました。
 読んでいて思ったのは 日本のモデラーは日常的に走らせないから走行性能に関心が無い、というより判らないのではないかという事です。私の周りには、組線路でも良いから常設に近いエンドレスを持っている人はいません。出来た模型をせいぜい1、2メートル往復させるだけで、試運転完了です。

 やはり環境は大切だと思います。
 私は現在の家を建てる時に、多少お金をかけて、物置の名目で屋根裏部屋を作りました。もちろんレイアウトが欲しいと思ったわけですが、車輛作りの方が面白いので、組線路を敷いただけで30年経ってしまいました。でもすぐに試運転出来るのはありがたいと感じています。
 現在、左右どちらのカーブ上でも不具合が判るように、600Rを90度クロスを入れて8の字に敷いています。


 
確かに往復だけの試運転では、意味がない。この方のように8の字の形に敷くのは良い考えだが、筆者はそれにもう一つのファクタを入れたい。
 それは勾配である。3%程度の勾配があると、機関車の実力がよく分かる。もちろん負荷を掛けての試運転である。単機では意味がない。高校1年の物理の教科書を参考にすると、効率も計算できるだろう。

 読者の方から、合葉氏の指導を受けた方の記事を教えて戴いた。乗越しカルダンで、棒型モータではない。反トルク受けの様子が見たかったが、この写真でははっきりしない。
 合葉氏はスパーギヤによる平行伝動は好みではなかったことは先述の記事にもある。  


2021年07月13日

M10000の座席

3D print M10000の座席をアルミニウム板と木片から作り始めたが、形が揃いにくく、たくさん作ってそれから選る必要があった。その準備を始めたが、しばらく放置されていた。
 3Dの師のS氏から連絡があって、お願いすべきものを頼んだ。座席の話を出すと、空きスペースがあるからそこに突っ込めば安上がりだと教えてもらった。

 早速、簡単な図面と写真を送ったところ、たちまち図面が到来し、承認した次の日には造形が始まったようだ。あっという間に届いて、床板に付けられた。実は貼り足したアルミ板の厚さの分だけ高さを減らすのを忘れて、底面をベルトサンダで擦り落としている。

M10000 スーパーXで貼り付けて、塗装した。すぐ出来上がり、人形をごく適当に乗せた。例によって人形の足は切断したり、背中や尻を削ったりしているので、車内を覗き込まれると、具合が悪い。この種のあまり見えない造作は、3Dプリントで十分だ。簡単で、安価である。S氏には感謝する。

  例の「はと」編成の座席を作らねばならない。3Dプリントで作るに限る。参考になる図面を探している。  

2021年07月11日

直角伝導

 合葉氏は筆者の開発したギヤを、次のように分析した。

1. 直角伝導であるので、より大きなモータを搭載できる。
2. 密閉型ギヤボックスを作れるので、保守に手間がかからず、静かである。
3. 比較的大きなギヤ比が一段で得られるので、トルクの小さいモータでも使いやすい。効率は70%以上あるから、他の多段ギヤより勝ることもある。
4. 蒸気機関車にも電気機関車、電車のいずれにも使える。
5. カルダン・ドライヴが容易に実現できる。 

 筆者はこれを蒸気機関車用として設計したので、直角伝導は当然ではあったが、合葉氏はカルダン・ドライヴに拘った。やはり電車屋さんであるから、バネ下質量の小さなドライヴがお好きなのだろう。
 電気機関車などにはチェインを使う方式を示したところ、大変驚かれたようだ。サンプルを進呈すると、いくつか使う予定を示されたが、その実現の前に体調を崩されたようだ。 

Cardan Drive TMSの102号(1956年12月)に乗越カルダンの記事がある。これを読むと、合葉氏の気持が分かった。
 1軸しか伝導せず、ベルト駆動で他方の車輪を廻している。ドライヴ・シャフトはキングピンの下をくぐっている。ユニヴァーサル・ジョイントを介して、モータへとつながる。
 当時は小さなモータがなかったので、HOのモータを使っている。Oゲージのモータと異なり、慣性モーメントが小さいので、急に止まるのが気になると書いている。

 ユニヴァーサル・ジョイントの曲がる点は、実質的に1つしかないので、2つの位相を考慮する意味がない。台車は、剛氏の発案のスナップで留まっているので、台車は工具無しで、ドライヴ軸から外れる。台車内のジョイントはカップ型であり、前に抜けるようになっていて、反トルクはカップの中のボールで承けるようになっている。
 ベルト伝動は筆者はやらないが、ジャーナルにボールベアリングを用いれば、効率は少しは上がるだろう。伸びる材料でトルクを伝えることは期待できない。むしろ、ギヤボックスを2つにするほうが楽であるが、カルダン軸の振れ角は大きくなる。先日のM10000は、その方式を採った。

2021年07月09日

”New O gauge”

 最近、遠方からの見学者が2組あった。どちらも2線式Oゲージを見るのは初めてということだった。彼らは、列車が走るのを見て、愕然とした。もっとつまらないものだと考えていたらしい。ガーと走ってギッと止まるものだと思っていたと言う。

 サウンド装置の音が消されると、全く無音で蒸気機関車が走るというのは、かなりの衝撃だったようだ。また電源を切っても、貨物列車が慣性で走り、下り坂ではそのまま下って行くのには、かなり驚いた。また、列車全体の走行音が静かなのは、信じられないとのことだった。
「何が違うのですか?」
という質問を受けた。
 答は、
「すべてが異なるのです。」
である。見ているのはOゲージには違いないが、昔のOゲージとは根本的に異なるものであることを、昔の部品と比較しながら現在の部品を見せた。輪軸、軸受、歯車、モータ、レイル、道床、連結器のすべてが、60年前とは根本的に異なることを納得して戴いた。

「今のHOとも違いますね。」と聞く。
「もちろんです。精度の高い機械で作られた部品のみを用いて構成するとこうなります。歯車は無調整で所定の性能が出ます。音がしないというのが、その高性能の証明です。下廻りは精密機械と言えますが、忘れてはいけないのが、大きさの効果ですね。」と説明した。

「HOでは、これと同じことは出来ませんか。」と聞く。
「大きさの効果は如何ともし難いので、頑張っても同じ結果は出せないでしょう。」と言うと、理解した。
 やってみたいと仰るので、車輪と歯車、ボールベアリング、モータをいくつかお世話し、専用工具も渡した。線路も新規に購入するように勧めた。また、ゴム板の上に線路を敷くことも念を押した。一つでも手を抜くと失敗することは、強調しておいた。

 合葉氏の仰ったNew O gauge" が、60年遅れでやってきたのだ。鉄道の持つ特性が模型にも現れると、その素晴らしさがより感じられるようになる。本物を縮小しようとすることしか考えない人たちには、到達できない目標である。 
 筆者自身は、合葉氏のこの記事は読んだことがなかったので、全く独立に同じ結論を出していたことになる。吉岡精一氏もその結論を模索していたので、筆者と意気投合したのだ。

 既存の3条ウォームとコアレスモータ、ボールベアリングを組み合わせて高性能を得たのは筆者だが、合葉氏によれば、それは模型観を塗り替える程の世界的大発明だったそうだ。その割には普及率は低いのは知らない人が多いからだと思ったが、合葉氏の判断では「走らせている人が少ない」という、単一の原因なのだそうだ。
 だからこそ、走らせて見せるということを主眼に置くべきだと言ったのだ。博物館の建設の最初のきっかけはそこにある。

2021年07月07日

続々 合葉博治氏の記事

 合葉氏はOゲージを再興するつもりだった。その呼び水に筆者のメカニズムを使うことにしたようだ。二回目にお会いした時は、京王プラザホテルの会議室に呼び出され、ご馳走になりながら、その構想を聞かされた。その時、開発中のステンレス製車輪、高性能な動力台車の見本などを渡した。合葉氏は一つ一つ確認して、たいへん驚いた。その時、慣性増大装置についても話した。
「貴方はすごい。どこまで先の事を考えているんだ。すぐには実現できなくても、その構想を書くだけでも、模型界は進歩する。」
と言われたが、実現するまで30年以上掛かった。

「10年前に出会っていれば、世の中は大きく変わっただろうね。でも今からでも遅くない。やってみよう。」
と言う。
「京王百貨店の中の特設会場で、60輛編成の列車がゆっくり動いて止まる、ということを見せれば、分かる人は分かる。山崎氏に見せつけてやるんだ。」
と言った。合葉氏は山崎氏に、「Oゲージの時代は終わった」と言われて癪にさわったようだ。
「精密機械としてのOゲージを見せれば、彼はきっと動く。」と言って、ニヤリとした。 

 その後、筆者は再度渡米し、滞米中何度か手紙を差し上げたが、返事が全く無く、帰国後大変な病気であることを知った。ご本人にもお会いしたが、大変お気の毒な状態だった。

 今回は、合葉氏の”New O gauge”という記事に触発されて、30年以上前の事を思い出した。当時の合葉氏の記事には正しいことが書いてある。他の外見だけの模型とは、一線を画した記事ばかりである。
「模型と工作」という雑誌にもたくさん図解入りの記事を書かれている。子供向けだが、真理を書いているのはすごい、と今でも思う。
 伊藤剛氏と双璧をなしていた。この二人が居なかったら、かなりあやしい状態になっていたのではないかとも思う。 

2021年07月05日

続 合葉博治氏の記事

 筆者は、自分の経験を話した。5歳のときから、3線式Oゲージを楽しんだが、中学生の頃、こんなのでは駄目だと思った。車輪の形、線路の構成、バネが利かないこと、モータの設計がおかしいこと、軸受の構成が間違っていることなどである。
 品揃えの良い模型屋に行ってバネ付き台車を手に入れたが、軸受はどうしようもないほどひどかった。全部自作する以外ない、と覚悟を決め、旋盤を買った。と筆者の模型歴をかいつまんで話した。

 父親から聞いたことを基に少しずつ実現していったが、それは決して平坦な道ではなかった。70年代初頭にアメリカの模型を見て、日本との違いを考えたのが大きな転機になった。車輪が鋼製の物が多かった。黒染めし、塗装してあるので錆は少ない。形が良かった。また踏面の錆は走らせれば落ちる。軸は鋼製で細かった。日本の半分の太さだ。 
 動力は、All-nationのは秀逸だが、その他はあまり感心しなかった。日本製の輸出品はよく出来ているが、走りは今ひとつだった。「モータが良くない」と、アメリカ製のモータに取り替える人が多く、歯車装置ごと取り替える人も居た。それらはとても良く走った。
 帰国後、祖父江氏と知り合って、動力改造で協力することが出来た。アイデアが形になるのは楽しく、様々な工夫を実現したが、3条ウォームに敵うものは無かった。Model Railroaderに発表したら、世界中から問い合わせが来た、という話をしたら、
「そりゃ当然だ。大発明だからね。しかも、貴方のには反トルク承けが簡単な方法で付けてあるが、こういうものも付けてない模型が大半なのだよ。有名な模型人が作ったものでも、合格点が与えられないんだ。力学の基礎なんだが、模型には関係ないと思っているのだろうね。そんな模型を雑誌に載せてしまうというのが、根本的に間違っている正しい鉄道模型というものを広めるべきだったのだよ。」
と述べた。

 モータを開放するクラッチの話題も出た。
「あれは駄目。1輛しかなくて、手で押すなら良いけどね。編成では事故の元以外の何物でもない。だいたいね、下り坂でどうするの?レイアウトで走らせたことのない人の発想だね。」
ということだった。当時は軸受にボールベアリングを入れる人は居ず、摩擦が多い時代だったが、さすがは電鉄会社の技術屋であって、見抜いていた。
「3条ウォームは押せばモータが廻るし、それで発電してもう1輛が動くところが素晴らしい。」
と、奥さんを呼びに行って見せていた。 

 筆者の電流制御のコントローラも持って行ったので、それを使った運転は、合葉氏の知的好奇心をいたく刺激したようだ。
「貴方の発想は素晴しい。鉄道模型界のノーベル賞だ。」と激賞された。 

2021年07月03日

合葉博治氏の記事

 TMSの100号あたりの記事を見ると、様々な試行錯誤が載っていて楽しい。あまり良いモータが無かった時代で、歯車も良くない。車輪はブラスの地肌で、車軸も軸受も同じ材料を使っている。フランジの先端は曲線でレイルに当たっている。車軸も太い。これではろくな走りは期待できない。

 合葉氏と初めて会ったのは1985年である。筆者の3条ウォームの開発記事を見て、興奮して電話を掛けていらした。呼び出されてお宅に伺った。機関車 2輛と線路10メートルほどとポイント1台を持って行った。廊下に敷いた線路を機関車が往復した。その時の合葉氏の興奮状態は、動画に撮ってあれば、Youtube で100万回の視聴が望めるほどだった。
「これだよ!これでなくっちゃ。」
と、惰行するのを楽しんだ。全軸ボールベアリング装荷のOゲージ蒸気機関車を見るのは初めてのようだった。しかも三条ウォームで軽く押せて、発電によって前照燈が点く。合葉氏は子供のように何十回も押して、楽しんだ。先台車の復元装置が本当に作動するのを確かめ、テンダの重さと摩擦の少なさを確認した。

New O gauge「昔ね、”New O gauge" というのを提唱したんだ。ほとんど反響がなくってね、10人くらいの人が賛同を表明したが、それっきりになった。Oゲージにはそれ以下の模型とは異なる魅力があるんだけど、走らせる線路の確保が大変ということがあるからね。」
 と切り出した。(写真はTMS97号1956年6月号) 

「良い線路、良い車輪、良いギヤ、良いモータ、良い軸受の5つが揃えば、怖いもの無しだったのだ。今のHOに、果たして、それがあるだろうか?無いんだよね。それじゃHOの魅力って何だろう。狭い場所でも走らせられる?HOでも自宅のレイアウトで走らせている人なんて、ほとんど居ないよ。それならOゲージのほうが良い。Oゲージの大きさ、質量は、鉄道模型の最大の魅力だよね。HO以下では、逆立ちしたって、できゃしないんだからね。」
と、大きさの効果(2乗3乗則)をまくし立てた。
「原さんのはスパーギヤでよく走るけど、工夫がない。貴方のは直角伝導で、より実用的だ。こちらのほうが良い。」と言った。

「今まで誰もできなかった。でも貴方はやった。将来語り継がれるエポックメーカだ。」
と、お褒めの言葉を戴いた。


2021年07月01日

「二人の模型人」を読んで

 先に発表した伊藤 剛氏の「二人の模型人」について、コメントやメイルで多くの方から、様々な感想をお寄せ戴いた。

 筆者としては、外観重視主義者と、筆者のような走行性能第一主義者との対比を考えていたのだが、殆どの意見が、16.5 mmと12 mmの対比に絡む内容であったのは、意外であった。筆者にとってはその問題はすでに過去のことで、意味がない。
 ゲージ(線路幅)よりもスケール(縮尺)が早く決まったなどという荒唐無稽な話を、根拠なしで流布する人たちとは対話できない。サイエンティフィックではないからだ。語学力の欠如の問題ではなさそうだ。

 それはさておき、ある友人から興味深い手紙を戴いた。部分的に公開の許可を貰ったので、紹介しよう。


 今回の「二人の模型人」を、興味深く拝読しております。一部の人々はHO/ 1:80をガニマタなどと誹謗し、12ミリ 1:87の需要を喚起しようとされているようですが、反発を買うばかりで、ますます12ミリ 1:87の未来を閉ざしていると聞いております。そもそも人様の財産にケチを付けること自体、品性や徳性といったものが疑われるわけですが、人体の欠陥になぞらえてあげつらうというのも、昨今はやかましくなった「コンプラ」的に、いかがなものかと思います。

 日本各地で問題になっている限界集落・その原因のひとつは、移入者に対する住人の偏狭な攻撃性だと聞いておりますが、どこの鉄道模型運転会の写真を見ても、OやHOの場合、参加者の方々の年齢構成から、限界集落ならぬ限界道楽という、つたない造語が脳裏をよぎります。

 今回「二人の模型人」を拝読し、70年以上も前に伊藤 剛氏が偏狭な価値観の押し付け合いに警鐘を鳴らされていたことを知りましたが、この言葉を我々が真摯に受け止めていたならば、現今の限界道楽的な状況はなかったかもしれませんね。


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