2021年01月

2021年01月30日

圧着工具

 最近は電気工事ばかりしている。信号機周りはハンダ付けが多いが、路盤下の配線は圧着端子が多い。
 以前、この工具が原因で拇指の脱臼が始まった。それ以来なるべく使わないようにしていたが、使わざるを得ない時がある。そういう時は床に立てて、体重を利用して押していた。そうすると、不安定でなかなか難しい。

crimping tool 台を付けてハンドルを太くすれば楽に押せるし、体重を掛けても問題ないだろう。自分で熔接しようと思ったが、体重を掛けるものを下手に熔接すると、外れたときに大けがをする。ここはプロの腕に頼ろうと、友人の鉄工所に行き、図面を渡してお願いした。
 すぐにやってくれたので、さび止めの黒い塗料を塗っておいた。

 安定が良く、使いやすい。どうしてもっと早く、こうしなかったのだろうかと、悔やまれる。整形外科の先生は、工具の現物を見て、
「これは良くない。こんなに手を開いて力を入れれば、関節が壊れるのは当たり前だ。」
と言った。圧着工具はもう一つあるので、それは小物を付けるときに使う。どうしても手に持ってやらねばならないこともあるからだ。細い端子なら取っ手の開きも少なく、安全な範囲にある。

2021年01月28日

しなやかな太い電線 

woven wire 大型の変圧器により、大電流のハンダ付けができるようになった。しかし炭素棒を保持する手元のテフロン被覆電線が固くて、取り廻しが難しい。置くと弾力ではね返り、落ちてしまうことがある。熱いものが落ちるのは絶対に避けねばならない。アース線は多少固くても困ることはないが、しなやかな太い電線が欲しい。

 電線の断面は、5.5平方mm欲しい。3.5では熱くなって、どうかなりそうだった。電線のカタログを順に見ていて、平編線に行き当たった。この線は厚さが1.4 mm、幅が9.6 mmで、細いΦ0.12 の線480本で出来ているから、しなやかである。
 被覆をどうするかが問題だ。柔軟な素材でないといけない。この編んだ保護チューブは見かけは細いが、長さを縮めると太くなり、先の編み線を入れることができた。

 細かな穴があるから完全な電気絶縁はできないが、使ってみてショートすることはないから十分だ。結線は圧着端子で行う。その時、末端を折り曲げて細くし、端子に押し込む必要がある。

 ほかにもしなやかな電線はあるようだ。Dr.Yのお勧めは、これだ。
細い線を使っている。普通の線はΦ 0.17程度の線を使っているが、これはΦ 0.08だそうだ。概算で1/16以下の剛性しかないことになるから、柔らかいだろう。 

2021年01月26日

クラブの新年会

 所属クラブの新年会があった。広い部屋を借り、ゆったりと線路を敷いた、少人数の集会だ。無観客である。窓は開けっ放しで涼しい。みな上着を着ての参加だ。
 
 いつもなら大きな声でワイワイやるのだが、今年はきわめて静かだ。HOの人たちは新レイアウトでの走行を楽しんだ。その中で名古屋地下鉄の一群を作られたK氏の作品はなかなか良い。色がズバリで、レモンイェロゥがまぶしい。既製品のラッカ・スプレィを使ったそうだ。
 車体は市販されていないものなので、どうやって作ったのかを聞くと、ブラス板をレーザで抜いたものだそうだ。手際よく作られていて、感じをよくつかんでいる。いよいよレーザ・カットが身近なものになったのを感じる。

Rotary Dumper 伊藤 剛氏のロータリィ・ダンパの実演があった。電源装置を新しくしたので、運転しやすい。組立式なので、滑らかな机の上では徐々に滑って位置関係が狂う。厚い布の上に敷くと摩擦が大きく、具合が良い。クラブ員は順に運転して楽しんだ。こういうモデルが60年前に存在したことは、驚異的である。

 他に、例のパワーショベルも持って行った。伊藤剛氏の頭脳と腕には、みな感服した。残念ながら、「僕が直す」と手を挙げた人は居なかった。その場での結論は、直すよりもこれを見本に、もう一つ作る方が良さそうだということであった。

FEF4 UP850 テイブルが余っているので、筆者も直線の線路を敷き、運転をした。例の慣性増大装置付きのUP850 4-8-4だ。この写真を見て気が付いたが、先台車の外れ止め鎖を付けていくのを忘れていた。あまりにも透けていて良くない。
 試しにクラブ員にも、交代で運転してもらった。止まらないところが怖くて、楽しいそうだ。現在はDC仕様だが、間もなくDCCに改装する。

 意図的にスリップさせるアイデアがあるので、それをやってみる。DCCだからこそ簡単にできる。さて、どうするのだろうか。

2021年01月24日

側線分岐部の信号

 当博物館のレイアウトには側線に入るための信号機が2つある。一つは、ダブルスリップで対向する線路も跨がねばならない。下り本線から分岐して上り本線を跨ぐので、上り線の出発信号機を赤にする必要がある。ここの論理回路をどうするかは、なかなか面倒であった。

signal system and route control 今回の試運転をしているうちに、ある簡便な方法を思い付いた。
 センサ部の赤外線を遮断すれば、その信号は赤になる。すなわち、赤外線LEDにスウィッチを付けて消しても同じことだと考えたのだ。設計者に聞くと、何ら問題は起こらないとのことであったので、回路を開いてポイントマシンで動くスウィッチで開閉するようにした。この図の複線部分は左側通行である。


 配線をやり直してみると、その信号は赤になり、その前の信号は黄色になるから、実感的である。もちろん対向列車がすでに止まっているときも問題は起こらない。上り線のダブルスリップの場合はポイントマシンが2つあるし、下り線では分岐のポイントマシンがある。これらの動きをよく考えて事故が起こらないようにスウィッチを連動させねばならない(この図のスウィッチの結線はまだ未確定であるので、追及しないようにお願いする)。
 
 これで良いと思ったが、実際には不都合がある。赤信号から抜け出せないのだ。本線側に切り替えても緑が出ないのである。2つ先の信号を赤にすると、この信号が緑になるので、その手も考えたが不自然でもある。製作者に問い合わせると、その対策をしたものを作ってくれたそうで、間もなく送られてくる。

 細かなことで、意外と面倒なことがあるものだ。いずれ、この信号機回路はあちこちのレイアウトで使われるようになるだろうと思う。優れた装置である。


2021年01月22日

続 自動信号機の設置工事

automatic signal センサ部を列車が通過して光を遮ると、その信号が赤になると同時に、一つ後方の信号は黄色に、もう一つ後方は緑になる。これを順次繰り返していく。(コメントを戴いたので補足すると、これは閉塞区間よりも短い列車を運転している。)

 4区間なので、一つの線に2列車入れることも可能である。いつも黄信号であるから徐行せねばならないが、そういう運転も面白いだろう。また、赤信号ぎりぎりまで詰めていくと、緑の区間が一つできる。
 この方法は、危険な運行である。本物と同じで、全体を見ていないと追突が起こる。ATSは付いていないのだから。博物館レイアウトは全体を見渡すことができる場所があるので、見ている限り追突は起こらないだろう。

 1列車の場合、たとえ長い列車が2つの閉塞区間を跨いでいても、問題なく作動する。この博物館のレイアウトでは、1つの信号の閉塞区間は22 m強である。120輌編成の列車は34 mほどある。(これも補足すると、信号は前から、赤、赤、黄、緑・・・・となる。)

 論理モヂュールは非常に信頼性が高い。最高電圧さえ気を付けていれば、壊れることはないそうだ。5 Vが必要なので、USBの電源を用いた。いくつかの電源を順次、負荷をかけてテストし、安定して5.0 Vが出るものを選んだ。何かの間違いで7 V以上になると壊れてしまうので、それだけは気を付けねばならない。

 自動信号機は、かねてから採用予定者が見学を要望している。今回の工事で実際の設置状況を見ることができるようになったので、来訪が増えるだろう。

 順次色が変わるのを見るのは楽しい。立体交差の下のセンサで検出されると、その信号が赤になると同時に、すぐ上の線路の信号(2つ前の閉塞区間)が緑になる。当然ではあるが、感動的である。

 このレイアウトでは配線が長く、末端では電圧降下がある。と言っても一番遠いところで4.92 Vである。下り線も配線されると電流が2倍になるから、もっと下がる可能性がある。
 4.76 Vでも間違いなく作動することは確かめてあるが、饋電線があると、より信頼性が増すだろう。太い線を引き廻すより、LANケーブルの残余線2本を使うと良さそうだ。(これも補足すると、現在では4つをループと短絡線で結び、電源回路の抵抗を減らしている。) 

2021年01月20日

自動信号機の設置工事

 信号機の工事をしている。この工事は、博物館レイアウトの最も手間がかかる部分である。信号機の部品を作るのに3箇月を要し、信号橋の中の細かい配線だけでも3週間かかった。センサの取り付け、調整をしてから、論理モヂュール周りの配線準備をした。複数の手でやれば、かなり省力化できるが、一人では難しい。
 この種の仕事に比べると、車輛工作は手離れが良く簡単である。

signal modules 論理モヂュールの設計製作は、電子工学のエキスパートのNS氏にお願いした。素晴らしい動作を見せてくれる。

 細かい配線を一人で進め、残りの大規模な配線を助っ人を頼んで複数人でやるという方法で進めている。年末にNG氏とF氏が駆け付けてくれて、上り線だけの工事を終えた。下り線は今月中に施工予定である。 配線よりも、事前の準備の方が大変である。信号橋の中を、目立たないようにたくさんの線を通さねばならない。観客側からは殆ど見えないようにしたいので、気を遣う。

sensors at signalbridge 赤外光の送受装置の間を列車が通ると感知される。光には暗号がかけてあるから、混信は起こらない。
 信号機周りの線は細い。床下に付けたモジュールにつないでも断線しないように、熱収縮チューブで保護しなければならない。モジュールは計8台あり、普段は畳んで見えないようになっている。点検時はパタンと降りてきて、パイロットランプを確認できる。格納時には、手を触れられない形になる。

 配線はかなり複雑だ。NG氏がうまく配線を整理して下さったので、ターミナルは8端子で済んだ。当初、あと2端子増設するつもりであったから大助かりだ。 LANケーブルは8心であるが6本だけを使う。
 
 一応結線は完了したが、一つの信号が赤で固まって動かない。トラブル・シューティングには5日ほど掛かった。動作を表にして、電圧変化を追いかけ、故障個所を特定できた。なんとLANケーブルの断線であった。細いところを無理に通して引張ったので、角スタッドの鋭利な角で切り裂かれたのだ。外のシースが裂けていた。ハイテクであっても、最も基礎の部分をおろそかにした報いである。
 新しく電線を張り直した。今度は、別経路でゆったりと通した。


2021年01月18日

続 むすこたかなし氏の実験 

 動画の撮り方が上手で、説得力がある。また、前車輪がフィレットに乗り上げていると、軸が傾くというのは、非常にうまい写真である。こういうのを見て、「個人的見解」に賛同する人は、もういないだろう。

 車輪については過去にいくつかの論評があるが、どれも実験とは言えないレヴェルのものばかりだ。実験とは何を調べたいのかを考えて計画されるべきものである。

 車輪にマジックインキを塗り、剥げた場所を確認するというのは、筆者も何回もやったことである。また10年も毎日運転していれば、どこが当たっているかは、光ってよくわかるようになる。大半径のフィレットの効果は非常に大きい。ブラス製車輪はすり減ってコンタが変化するが、硬いステンレス車輪では摩耗は無視できる。

 アメリカの富豪は大量に買ってくれて驚いたが、日本でもすべての車輛を Low-D にするという目標で、すでに数百輛を交換された方もいる。レイアウトで走らせている人は、既存の車輪ではとても満足できないのだ。

 高梨氏が今後どのような展開をされるかを、期待したい。低抵抗車輪を付ければ、長いフル編成をユーレイなしで楽に牽けるだろう。しかも旋盤の精度が高ければ、きわめて静かだ。それを運転会で見せることができれば、訴求力は大きい。

 模型雑誌を見ると、技巧をこらした細密車輛が毎回載っているが、走行性能については疑問だ。走らせていない人にとっては、それで充分なのだろうが、高度な運転性能を持つことを見せれば、大きなインパクトを与えることが可能だろう。
 また、細密度について言えば、どんな細密車輛でも、時計細工に比べれば一桁粗いと感じる。そういう意味では中途半端なものである。時計旋盤を持っていると自慢する人は居るが、作品をじっくり拝見したいものだ。

 高梨氏の研究により、HOゲージの世界にも、新しい光が射す可能性が高いと見ている。

2021年01月16日

むすこたかなし氏の実験

 ブログでの連載記事が始まってから、毎回の更新がとても楽しみであったと同時に、異なる結果が出るのではないかという、期待と不安があった。
 すべての段階で、筆者の歩んだ筋道を全く同じように歩まれた。なかでも、旋盤を使って旋削していく様子は、緊迫感があった。

 高梨氏はサイエンティストであるから、実験の手順が正しい。この報告は、今後いろいろな場面での模範となるべき例である。意味のない実験をしても気が付かない場合もあるから、参考にされたい。

 基礎実験は手間がかかる。その多大な手間を惜しまず、丹念に一つの次元を少しずつ変化させ、データを取っている。先の伊藤剛氏の実験も、簡単なことなのだが、やらない人が大半だ。
 データ取りの仕事は単調でつまらない。やらねばならないことではあるが、それをしない人は多い。この場面で二つの次元を変化させるようでは、何の価値もない

 筆者も30年前、かなりの時間を掛けてデータを取った。サンプルを作るのが大変であった。サンプルはたくさん作って、所定の寸法のものを選り出し、実験の再現性を高めた。

 車輪を均一に作るのはなかなか難しい。総型バイトを使うのは駄目である。負荷が大きく、組んだ車輪など挽けるわけがない。
 小型の旋盤ではうまくいかない。フィレットは、先を調整した剣先バイトで作る。拡大鏡と特殊なスケールが必要だった。高梨氏は先端Rの決定に、スローアウェイ・バイトの丸みを利用している。これはうまい工夫だ。
 踏面の勾配を決めて、フィレットまで一気に旋削している。これは筆者と同じである。基本を守ったやり方で、負荷が小さく、削り面がきれいである。

 総型バイトを過信する人は多いが、結果は見えている。失敗例はアメリカでもよく見た。挽き目が残るようでは、車輪として用をなさない。総型バイトを特注したと自慢する人は居たが、挽き目を見せてもらったことはない。
 そういう筆者も1つだけ、細いヤスリから総型バイトを作った。削ってできたフランジの角を落とすためのものである。この部分は適当で良く、表裏両面を早く旋削できることに価値があった。

 旋盤作業は熟練が要る。高い旋盤を欲しがる人が居るが、要は骨(コツ)であって、価格はあまり関係ない。うまい人の作業を横から見ていないと、進歩できない。最近は、youtube で素晴らしい例がたくさん見つかるので、見るべきである。それと、旋盤を買ったままで使う人が多いが、一度ばらして整備すべきである。それと、どんどん改造して、自分の”工具”として使えるようにした方が良い。筆者の機械は殆ど原型を留めていない。

 車輪を挽くのは大変だ、と述べた。機関車の動輪8枚を挽くくらいは、やるかもしれないが、貨車の車輪を1000軸挽くのは不可能である。こういうところでケチるのは間違いで、量産屋に発注するべきだ。昨今は不景気で、引き受けてくれるところはあるはずだ。最近の機械の精度は驚くべきものがある。
 今回の発注でできた車輪の径、厚みは1/100 mm以下の誤差範囲である。マイクロメータでも測定できない程度のばらつきしかない。精度の高い車輪を装着すると、それだけで走行抵抗が減少する


2021年01月14日

scientific であるということ (7)

「実物通り」という言葉は、ある種の魔力を持っているように感じる。客観的にものを考えられない人にとっては、あこがれの対象であり、崇拝したい考え方のようだ。


 先日某所の組立式レイアウトを更新するということで、古いものを引き取ってきた。実は、当博物館3階の空きスペースに試験運転場を作ろうということになって、有志が動き始めたのだ。(博物館の本線上では試験運転はできない。ギヤボックスのない車輛は油を撒き散らすから入線できないので、より気楽に運転できる周回線路の設置を要望されていた。)

 見ると、曲線の部分のゲージがかなり広い。軌間31.75 mmのところ、33 mmほどもある。どうしてかと聞くと、
「スラックが付けてあるんだそうだ。」と言う。
どんな基準で付けたのだろうと訝しげに見ている友人に、誰かが答えた。
「国鉄の技師の〇〇氏が、本物の計算式で付けたと言っていたから、完璧なんだそうだよ。」

 こうなると、もうパラノイアとしか思えない。技師氏はどんなデータを入力してこの数字を出したのだろう。国鉄に半径94mの本線があったのだろうか。軌間は31.75 × 45 = 1429 ≒ 標準軌となるが、それを考えたのだろうか。模型のフランジの形、高さを考慮したのだろうか。模型の線路の数値を実物の計算式に入れたようだ。何もかも虚構であって、めちゃくちゃであった。ここまで軌間が広いと、はまり込む車輪もあったようだが、Low-Dはタイヤ幅が狭くないので、かろうじて助かっている。 

 模型の軌間はスラックを内包しているということが、分からないらしい。車輪ゲージとの差を”ユルミ”というらしいが、これはかなり大きい。Low-Dではそれをかなり減らしている。その結果チェックゲージを保ちつつ、バックゲージ  (back to back) を広くでき、フランジウェイを狭くできる。当然、走りも安定する。

 この結論を見せても、「素人は黙っていろ!」という態度であった。本物縮小主義者は、大体似たような傾向を持つ。しかし、どちらが素人なのかはすぐにわかってしまい、Low-Dは売れ続けた。一方、模型は実物とは異なるのだが、技師氏は最期まで非を認めなかった。
 
スケール効果MCB TMS誌21号(1950年)には、MCB台車の製作記事が伊藤剛氏によって書かれている。揺れ枕の話が出ているが、そこには、模型の揺れ枕は手で押すと動くのが良いが、「實物と同じ揺れ方はしません。(これをスケール効果といゝます)…」と書いてある。現代でも「揺れ枕を本物のように作った」、とご自慢の車輛を見るが、単なる自己満足の域を出ない。伊藤剛氏は揺れ枕吊りを天井まで伸ばしたものを作ってみたそうだが、それでも全然足らないと言っていた。この時代から、実物を縮小しても動作は異なると書いてあるのに、学習しない人は多く存在する。
 
 現代においても「実物通りに作られている」と言うと、平伏する人は多い。運転性能は怪しい。車輪規格を実物に合わせた(つもり)かもしれないが、模型の軌間は実物通りではない。摩擦係数も異なる。どうするのだろう。 


2021年01月12日

scientific であるということ (6)

 次元という概念は難しいと思われがちで、敬遠する人は多いが、そんなことはない。日常生活では、時間という次元を含む概念は多く存在する。

 速度は時間当たりの距離変化で、加速度は時間当たりの速度変化である。月給という概念も、ひと月という時間当たりの給金と考えれば、そう難しい話でもない。しかし、昇給があると加速度を感じるかどうかは、微妙である。

 しばらく前の天秤…の件も、剛体の組み合わせでの変位を考えているときに、弾性梁を入れると言い始めたわけだ。弾性があると時間当たりの変位は遅れが生じ、その変位の遅れは、のちに放出されたエネルギィで面倒な動きになる。それを何らかのダンピングを利かせた機構で緩和せねばならない。そういうことを総合的に考えるのは人間の頭ではとても無理だから、とりあえず弾性体を分離し、時間の次元を外して、剛体だけでコマ送りのいくつかの場面での釣り合いを考えるのである。それを最初から弾性梁を導入しようというのであるから、これまたファンタジィに取り込まれているのである。

 議論を始める前に、この話はどの次元での話か、を決めない人とは議論ができないというのはこういうことである。相手が知らない概念を出して、こけ脅しする人も居るが、それは古い手である。実際には、自分自身も理解していない場合もあるようだ。 


 牽引力を測定すると機関車の出力がわかると信じていた人が居た。1950年のModel Railroaderの記事に、それがあった。
 情けないことに時間の次元が抜けていて、全く意味不明の記事であったが、情けないことに、TMSにはその受け売りがそのまま書いてあった。高校一年の物理の教科書レベルの理解ができていない。当時の伊藤 剛氏のクラブ会報での対応は実に見事であったが、TMSには訂正記事は載らなかったように思う。訂正は必要なことだが、尻ぬぐいをしない人たちが雑誌を作っている。

 これは遠い昔の話だと思っていたが、最近もウェブ上にその種の記事があるそうで、進歩が無いことに驚いている。

2021年01月10日

scientific であるということ (5)

 誰がやっても同じ結果になることを、「再現性がある」と言う。再現性がないものはサイエンティフィックではない。それはマジックかもしれないし、錯覚かもしれない。

 筆者は、サイエンティフィックでない人とはお付き合いできない。それは、物理や化学をしっかり勉強していない人とは付き合わない、という意味ではない。「正しいことは何か」を追求し、なおかつ物事の論理性を大切にし、客観性のある人でなければ、議論しても噛み合わないからだ。例えば、ある話をしているときに、それとは異なる次元の話をしようとする人がいる。


 しばらく前にこういうことがあった。石炭の燃焼熱は、無煙炭(anthracite アンスラサイト)のそれが一番大きく、瀝青炭(bituminous coal ビチューミナス・コール)のそれはやや小さい。燃焼熱の定義は、完全燃焼のプロセスで得られる熱量である。そこには時間の次元は入っていない。酸素を十分に与えて、ゆっくり燃焼させたときの値だ。

 ところが、蒸気機関車での燃焼はそういうものではない。どんどんくべると揮発分が出て、それに火がついて大きな明るい炎を作り、その輻射熱で加熱している。そのためには煉瓦アーチで炎を大きく曲げることが必要で、燃焼室が大きいほど有利である。当然煙も出て不完全燃焼しているが、早く燃える燃料は機関車の出力増大に直結する。出力(仕事率)の次元は、時間当たりのエネルギィであるから、多少燃焼熱が小さい瀝青炭であっても、燃焼速度が大きければ出力が大きくなるのである。それなのに、その人は「無煙炭を燃やす機関車の出力が小さいのは、燃焼熱が小さいからだ」と言って聞かない。燃焼熱は最大であることぐらい、理科年表を見れば載っている。含まれている炭素分が多いからだ。データを読み、何が問題かを正しく捉える姿勢が無いと、議論の入り口まででさえ、たどり着けない。

 これは極めて客観的な話であるのに、先入観に左右されている。次元というものに対する理解がないため、聞く耳を持たない状態であって、大変疲れた。多分、その方は今でも自分の間違いには気付いていないだろう。不思議なのは、その方が実物業界(もちろん技術系)の方であったことだ。


2021年01月08日

scientific であるということ (4)

 先回の4つのファクタは、35年ほど前、吉岡精一氏から与えられた課題の答である。整理して提出すると、「よし、合格!」と言われた。吉岡氏は、絶対に答を言わない人である。問題を出して答えさせ、そのプロセスを検証するのが趣味であった。これは、取りも直さず、ご自分の答を確認していたのだ。
 その中で異なる材質の組み合わせによる摩擦係数の低減は、氏も気付いていなかったことで、「知らなかった」と正直におっしゃったのには敬服した。そういう点でも客観的な方であった。知ったかぶりは決してしなかったのだ。

 その後フィレット半径、フランジ角の選定のプロセスを黙ってごらんになって、決定版ができたときに、「俺のと同じになった。」と言われた。
 これこそが、サイエンティフィックなプロセスである。誰がやっても同じ結論に到達するのである。吉岡氏は自分の理論が正しいかどうかを、筆者に証明させたのである。その間、ヒントは全く与えず、遠くでニコニコして見ていたのであった。
 また、車輪直径公差を2/100 mm以下にできたので、転がしても左右に偏ることは無くなった。それも抵抗の低減に大いに寄与している。これは吉岡氏の考えた範囲をはるかに超えていた。

 最初の1万軸の頒布以降、これに関する論議は全くなく、採用してとてもうまくいくという賛同者と、根拠無く批判する人の二つに分かれた。前者が圧倒的に多いのは、当然である。使ってみればわかることなのである。

 しかし自分で実験もせずに批判する人が居るのは、理解しがたい。実験して、良い結果が出ることを確かめてあるのだから、口先だけで否定できると思うのは、無理筋である。いまだにLow-Dの大きなフィレット半径の効用を、「個人的見解」と書いて否定しているサイトがあるのには、驚きを禁じ得ない。 すでに3人が独立に証明しているのだ。否定するならそれなりの実験結果が必要であり、それが無ければ単なる知ったかぶりのホラ吹きであろう。模型は実物の一次近似であるというファンタジィに取り込まれて、酔っているのだ。
 2点接触についても、重い実物における損失と、軽い模型での損失を比べれば、模型では無視できない。しかも線路の曲率を考慮していない。

 今回の高梨氏の研究着手に際して、筆者は吉岡氏の態度をそのまま踏襲した。導いてはいけないのだ。
 着実に同じプロセスをたどって、三回目の証明に至ったのはご覧のとおりで、感動した。


2021年01月06日

scientific であるということ (3)

 低抵抗を得るというのは、いくつかのファクタを小さくすることである。

1.フランジがレイルを擦ることによる抵抗
2.行路差による摩擦
3.摩擦係数
4.2点接触による速度差から生じる損失

 これらの中で一番大きいのは、1.である。NMRAのRP25は実物の形態を少しでも真似すべきという幻想にとらわれた結果であって、中世ゴシック建築のアーチにある ogive(オーヂャイヴと発音)をとり入れている。形にこだわって性能を落としているのだ。プラグマティズムとは正反対の方向にある。
 示されている数字はでたらめで、絵が描けないものがあるが、それすら無視して強行している。描けるものについては、筆者の作図によればフランジ角は、79度である。この角度は大きい。描けないものについて、彼らは間違いを認めない。情けない限りである。こんな部局は潰すべきだ。

 2.の行路差は、意外に大きい。模型の線路の曲率が大きい(急カーヴ)ので余計に影響が大きくなる。踏面のテーパでは賄いきれないから、行路差を補償するのは別の要因(フィレット)の効用が大きい。また、2軸台車では後ろの車輪は外周レイルには接触しないから、行路差は殆どそのまま出る。

 3.の転がり抵抗は静止摩擦抵抗の関数である。静止摩擦係数が大きいものは転がり抵抗も大きい。なるべく堅い材質のレイルと堅い車輪との組み合わせが、良い結果を生む。さらに異なる材質の組み合わせが、ベストの結果をもたらす。
 行路差の損失は、摩擦係数が小さいほど小さくなるのは自明だ。 

 4.の 2点接触は、二つの意味を持つ。最初は1.のフランジの接触である。フランジの先が触るような車輪は脱線機そのものであるから、全く考慮に値しない。捨てるべきである。次はフィレット付近の接触(RP25で見られる)である。レイルヘッドの半径と比べて相当に大きな半径のフィレットを与えておけば、いつも1点接触になり、抵抗は大幅に減る。
 このあたりのことについては、実物形状を縮小することにのみ価値を認めている人、また、実物理論を出して来る人は、引き下がらない。このあたりの2点接触は、速度差が小さいから無視できるなどと断言している人まで居る。1点接触にする工夫ができれば、はるかに勝るものができることを否定するのである。全くもってサイエンティフィックでない。実物では無理でも、模型なら1点接触は可能なのだ。レイルも車輪も十分に堅く、潰れることがないからだ。 

 「フィレットは接触圧でレイル・車輪が破壊されるのを防ぐためのものである。」という主張には参った。この種の知識を振りかざして模型に対しても適用すべきだと言う人は、模型作りをするべきではなさそうだ。

 我々は模型を走らせたいのであって、実物を走らせたいのではないのだ。このように現実とファンタジィの区別がつかない人とは、話ができない。ここで言うファンタジィとは、実物を縮小した世界に縮小された自分も存在し、実物の理論が100%適用される世界に生きているという妄想の世界である。縮小模型は本物とは異なる挙動をするという常識が欠落している人の生み出す幻想だ。

 実物理論を模型に適用するというのは、ほとんどの場合において、サイエンティフィックではない。

2021年01月04日

scientific であるということ (2)

 開発から25年を経て、Low-D の追試が行われている。高梨氏とは何回かお話したが、意図的に内容については話さなかった。予断を与えるといけないからだ。高梨氏もサイエンティストなのでその点はわきまえていて、答を聞くということは一切無かった。そういう意味でも、極めて客観的な実験である。

 結論としては、筆者のLow-Dと全くと言ってよいほど、同じになった。これは何を物語るのだろう。

 今まで、筆者の実験結果を否定する論調の記事がいくつかあった。自称技術者なのに、実験をしていない。摩擦係数すら測定していない。そこにあるのは、否定せねばならないという感情だけである。どうやら実物業界の方は、実物理論が模型に適用されると信じているらしい。線路の曲率も、質量も、材質も異なるものにも、同じ理論が完全に適用されると思っているのだ。Low-Dの車輪断面では乗り心地が悪い、とまで書いた人が居て、失笑した。

 O scaleの世界では、もうそのようなことを言う時代はとっくに過ぎ去って、無風ないし僅かの追い風状態である。むしろ、他の車輪を手に入れることが難しく、かつそれが高価であるから、この車輪が欲しいのだそうだ。安くて性能が良いので、注文が多い。国内では、すでにデファクト・スタンダードになっている。

 HOの人たちは、「HOでは実現が難しい」と思い込んでいた人が多かった。実験してみれば良いのに誰も手を付けない。観察は難しいことではないが、やる人が居なかった。この国の教育では、観察から始まる考察によって、正しい推論を得る訓練が少ないのではないか。答の出し方しか興味のない人が多い。しかも、それは必ず答が用意されている問題を解くことである。

 高梨氏が、
「やってみたい。」
とおっしゃったので、
「どうぞご自由になさってください。私の記事は、ある程度参考にはなるかもしれませんが、HOではまた別の解があるかもしれませんね。」
 と答えた。先入観を植え付けるといけないので、それ以上、何も言わないことにしたのだ。 

2021年01月02日

scientific であるということ (1)

 先日のコメントでサイエンティフィックという言葉を出したら、反応した方が何人かいらした。どなたも肯定的で、もっと詳しく書いたらどうかということであった。(太字を強く発音する)

 筆者は、サイエンティストのはしくれである。客観性のあるもののみを追求してきた。世の中にはいろいろな人が居て、主観的なことをゴリ押しして恥じない人が居る。また歴史を無視して捏造したり、自称専門家でも、サイエンスを無視する人が居る。


 例えばこういう例を考える。ある人がAを見て、それに対する評価がXであったとする。その人がAをもう一度見せられた時に、Yという評価をするならば、そういう人とはお付き合いしかねる。その2回のチャンスに大きな時間的距離があった場合は、持っている知識の理解度が変化しているからそういうことはありうるが、1週間で評価が変わるのは理解しがたい。その変化の説明を求めると、たいての場合、支離滅裂だ。
 何回でも同じ評価をする人が、サイエンティストだ。しかも他のサイエンティストに聞いてみても、同じ答えが返って来る。同じでなければならないのだ。
 実験をしても、その結果はいつも同一でなければならない。再現性の無い実験では意味がない。


 筆者は低抵抗車輪の開発に数年掛けている。その間、様々な仮説を立てて実験し、どの方法が最も良い結果を生むかを調べた。各国の車輪、規格を調べて表を作り、現物を入手して全く同じ軸受で試験した。車輪は快削材で出来ているので、フランジ形状の変更は簡単だ。摩擦係数もいろいろな組み合わせで調べた。レイルとの当たり具合を望遠鏡で覗き、フランジが当らないフランジ角を、曲線半径ごとに確認した。

 旋盤屋をなだめすかして仕事をさせ、300軸作ったのが最初のロットである。それを使って走行試験をして、吉岡精一氏、魚田真一郎氏らに配り、使用感を聞いた。結果は「極めて優秀」であった。その後、何度か再生産され現在までに4万軸程出ていった。利潤は無い。工場は3箇所目である。工場は相次いで倒産して蓄積されたノウハウが失われたが、工作機械の進歩で、より素晴らしい仕上がりのものが得られるようになった。同じ図面を持って行くと同じものが出来るのは、サイエンティフィックである。昔はそうでもなかった。”腕”が必要な仕事であったのだ。


Recent Comments
Archives
Categories
  • ライブドアブログ