2020年12月

2020年12月31日

長浦軌道の動画 公開さる

 修復成った長浦軌道はクラブで公開され、その時の動画が公開された。

 運転者側から見た様子
 伝導部構造

 

NMRC Jan.1966 この機関車の動力装置を作った時の、実験に基づくギヤ比の決定手順の記事が見つかった。クラブの会報である。発行は昭和41年だ。
 モータ軸と同軸に出力軸があるのは珍しい。のちにSG氏が増速フライホィールを付けた例とは、裏返しにすれば似ている。歯車は時計部品屋で買ったというところが面白い。現在はそういう店はまずないだろう。 時計の歯車はインボリュート曲線を使っていないので、音は大きい。

NMRC Jan.1966(2) モータの回転数を測定する手順が面白い。実際に無負荷でエンドレスを走らせて、1周2.81 mのラップタイムを調べている。実験を基に考察しているのだ。簡単に出来ても、こういう基礎実験をする人は稀である。実験もしないで分かったようなことを言う人は多い。剛氏の姿勢に学ばねばならない。測定ということは、すべての基本である。当時はセレン整流器の時代である。電圧降下は大きい。

 最近はマグネットモータしかないので、分捲特性と言っても誰もピンと来ないだろう。ギヤ比が適切なので、走りは素晴らしい。低速でトロッコをぐいぐいと押す。ゴムタイヤを使っているところも、考慮に入れているはずだ。


2020年12月29日

双方向クラッチ

 双方向クラッチのことを書いたところ、何人かの方から連絡を戴いた。モータと動輪を切り離す機構の存在価値について、全員が疑問を投げかけている。
 切り離すと手で押せるというのは面白いが、ボールベアリングで摩擦を減らした機関車では、わずかな傾斜でも動き出して卓上からの落下の心配があるという指摘を受けた。全くその通りで、筆者もあわや、という経験がある。

 祖父江氏から最初の1輌を受け取った時に、父に見せた。陸軍の…という話はその時のものだが、筆者が、
「中はどうなっていると思うか。」
と問うと、さらさらとスケッチを描いて、
「こうなっているんだろうな。外と中の速度差があれば、摩擦で爪が動いてひっかかるだけのことだろう?」
 
 驚いたことに、その図は祖父江氏の試作品と全く同一であった。
「手で廻すなら良いが、モータで廻すと寿命は短いだろうね。」とも言った。

 実際に80坪の仮設レイアウトで長大編成を牽かせてみると、シャフトに彫った、爪がひっかかる溝は徐々に拡大し、爪のピンの入る穴もガタつくようになってきた。その後、その種の機関車はほとんど稼動させていない。ガラス棚に飾るときも、前後に車止めを挟み、注意書きも置いてある。

 ”押して動く”件は、考え得るすべてのパターンを祖父江氏と共同して試作したが、蒸気機関車に関しては3条ウォームが最適解であることが分かった。

 ちなみに、その英語訳は"Free to Roll"としたい。”Free Rolling"では勝手に転がることを意味する。前者は「押せば動く」ということで、このメカニズムの意味をよく表している。これは native の英語を話す人に聞いたことで、間違いはないだろう。


2020年12月27日

続 自動操縦自動車 

TMS #6 この車は小菅製作所というおもちゃメーカの”ダンディ”という製品らしい。だいたい1/42サイズくらいだとある。1947年型キャデラックである、と01175氏からお知らせ戴いた。

 ブリキ板をプレスしたものだったそうだが、モータの界磁が近いので、磁気回路が外に出来てしまい、モータの力が出なかったそうだ。界磁に近いところを切り取って捨て、その部分をブラス板から叩き出してハンダ付けしたそうである。その継ぎ目が全く分からないので、磁石を近づけて境界を判定した。この工作は素晴らしい。

 70年以上経ってもその価値が減じない模型というものには、なかなかお目に掛かれない。どんなに細かく出来ていても、塗装が美しくても、工学的な裏打ちがあり、模型人の心を揺さぶる模型というものは稀である。

 博物館が開業すると、伊藤剛氏の作品を間近で見るチャンスがある。手に取ってという訳には行かないが、目の前で動きをご覧に入れることができるだろう。

 肺炎禍のせいで、何もかもが遅れているが、なんとか来年には開館できるめどが付いた。維持費は安いので、開業が遅れたからといって赤字がかさむわけでもない。筆者も、開業していないほうが工作に時間が取れてありがたいと言えば嘘ではない。
 信号機の完成実用化のめどが立ち、後は転車台を取り付けて、防護ガラスを付けるだけとなった。 

(TMSの旧い号は傷んでいるものが多いが、この椙山氏からお預かりしたものは全く傷んでいない。左上にサインが見える。椙山氏のご子息の意向で、蔵書をかなりお預かりした。)


2020年12月25日

自動操縦自動車

 伊藤剛氏の作品で、鉄道車輛でないものは、これら以外にもいくつかある。

TMS6 これはTMSの6号の記事である。自動操縦とは何だろう?と思う人は多かろう。今でいうスロット・レーシングカーである。ただし、極めて高級なものである。ステアリングは本物のように動く。アッカーマン機構のステアリングで誘導する模型は、当時なかった。これは実用新案を取得している。図はすべて剛氏作成のものである。
 記事を読んで少々驚いたことがある。その中に松田恒久氏の名前が出て来る。TMS 3号に自動クラッチの記事を書いた人だ。今まで何回もこの模型を触っていたが、自動クラッチ付きであることを失念していた。ウォーム駆動だから動かないはずの車輪が軽く廻るのにそれに気づかなかったのだ。また、ディファレンシャル・ギヤも搭載されているし、3点支持で極めて滑らかに作動する。伊藤剛氏は車庫で手押しで動かせなければいけないと思ったらしい。

Dandymechanism この自動クラッチは、1978年に祖父江氏によって改良されたものが出来、筆者の模型にも4輌搭載されている。1983年に筆者の運転の車に井上豊氏を乗せて祖父江氏宅に行き、それを見て記事を書いたのだ。本当は祖父江氏の名前を出したかったのだが、
「松田さんのを改良しただけだよぉ、俺のアイデアではねぇからさー。」と辞退されたので、井上氏が作ったように紹介されている。祖父江氏は松田氏を知っているような口ぶりだった。井上氏の作例は小さいので、作動の確実性はやや劣った。祖父江氏のは2倍の大きさで、円周の外側に摺動子があって確実に作動するが、Oスケールの長大貨物列車を起動する時のショックに耐えるようにするには数度の改良が必要だった。最終的には、爪をS45Cで作り熱処理をしたが、滑らかな運転が出来る3条ウォームには、到底、敵わなかった。惰力が利くのは面白いが、快適な運転はできない。
 下り坂で、重い荷物を積んだブレーキ無しの自転車に乗るようなものである。逆転すると瞬時に噛み合って急ブレーキが掛かるが、列車は脱線する。またその瞬間に、爪が噛む相手がヘタる。松田氏のように電車に付けて手押しを楽しむのは良い利用法とは思うが、機関車には向かない物である。
 という訳で7輌ほどの試作で、双方向クラッチは廃案となった。摩擦の少ない車輛からなる列車を牽いて、勾配での運転をしない人には分からないのだろうが、実用性は無いと言うべきだろう。

 この件は以前にも書いたが、この双方向クラッチは珍しいものではない。陸軍の手廻し発電機にも、これが搭載されていたと、亡父が言っていた。よくある工夫で、特許にもなっていないようである。これを高く評価するのは間違いだそうだ。

2020年12月23日

side dump car

side dump car パワーショべルの近くにあったサイド・ダンプ・カーである。1輌しかないが、実によく出来ていて驚く。幅は広く、O scale の建築限界一杯である。工事用の車輛だから、そういう点では制約がなかったのであろう。

side dump carside dump car パワーショべルで掬って、この貨車に積むのだろう。台車が一つしかなかったので、仮台車を付けて撮影した。数字から判断するに昭和27年製である。DLというのはDream Land Centralという鉄道名から来ている。面白いことに、このあたりのTMSには模型鉄道の会社名が毎号2ページほど載っている。その中に剛氏の鉄道も掲載されているわけだ。高校生が沢山登録しているのは、ほほえましい。

side dump car このサイド・ダンプには床下に巨大な空圧シリンダがある。油圧ではないから、かなり大きな面積で押さないと持ち上げられなかったのだろう。実際には、どのように空気を入れたのかは興味深い。急に最大圧を掛ければ、荷台は折れるかもしれない。また土砂は飛び跳ねるだろうし、貨車の下半分は反作用でめり込み、その反動で脱線するかもしれない。何らかのガバナーでゆっくりと入れる筈だ。

 この貨車は左右どちらにも傾けることが出来るが、細いエナメル線で、動かないように縛ってあった。おそらく正立させた状態でないと、荷台を起こしたときに、ばらばらになってしまうのだろう。

 友人が来たので、パワーショベルとこの貨車を見せたところ、驚嘆していた。板金加工で肉厚の鋳鋼製を模しているところや、巧妙なリミット・スウィッチの工夫、薄型ソレノイドによる底蓋開放装置には恐れ入ったようだ。
 彼もDCC化には賛成である。多重制御化は剛氏の意思であり、事情が許せばやっていたことなので、いわゆる復元ではなく、発展的な再構成となるであろう。これについては、異論はないと信ずる。

 これらの模型に関する資料を探さねばならない。NMRC名古屋模型鉄道クラブの会報を丹念に見ている。きっと剛氏が細かく書いているはずだ。あるいは日本車輛の資料の中にあるかもしれない。 

2020年12月21日

続 伊藤 剛氏の Power Shovel

 TMS の何号に載っていたかを探すのは大変な手間であった。ようやく見つけたところ、railtruck氏からコメントでお知らせ戴いていて、悄然とした。1959年の伊勢湾台風のころである。

 この時期のTMSはとても面白い。様々な工夫の発表が多く、現在のように「綺麗に作ってある」ということを強調する記事は少ない。自作記事が多く、しかもそれらの中で高校生の作が目立つ。この時期の高校生は既に80歳近い。ご存命であれば、いかがされているのだろうか。


 当博物館に現存する作品は、発表当時とはかなり異なる。セレンはシリコン・ダイオードに更新され、下廻りのモータは鉄道模型用のモータに取り換えられている。その他、内容は発表された写真とは大いに異なる。

 当初は1/30で設計されたようだが、Oスケールでも通用する(大型の機械を1/45にしたと考える)と書いている。1/48でも似たようなものだ。このショベルは、自分よりも高いところを削るのが目的だとある。崖を崩すようなシーンだ。海外の露天掘りは、そのような方法を採る場合が多い。
 昔アラバマ州で見た鉄鉱石の採取はまさにそれで、土砂の層10 m 程を取り除き、その下の5 mの鉱石の層 を掘ってトラックに積んでいた。剥がした土砂は、鉱石を取り除いたところに積み上げる。見渡す限りの荒野を剥がし取るのである。
  TMSの記事には”ジッパー”とあるが英語は”dipper"のはずだ。ひしゃくのことで、掬い取るものである。こんなことを伊藤剛氏が間違う訳はなく、元原稿には”ヂッパー”とあったのではないかと推察する。 


 動作部分の行程はリミッタを付けてあるので自然に止まり、極性反転すると戻って来る。ロープのたるみ止めの装置は床下にある。様々な工夫があり、とても書ききれない。

 この制御回路には、いかにも剛氏らしい工夫が沢山ある。電線の数を減らすことを考えていたのだ。剛氏はこれを貨車に積んで、動かしたかったようだ。最終的には2本の線で動かしたかったとある。多重制御については、大変興味をお持ちで、筆者のアイデアをよく聞いて下さった。DCCの前の段階の時期のことである。
 筆者がDCCをお見せすると、「これが使えるならクレーンを自由に動かせますねー。」とおっしゃったので、何の事だろうと、思ったことを記憶している。
 2本の線による多重制御の可能性をずっと考えていらしたのだ。

 現在の技術なら、ギヤード・モータを用いて、コンパクトにまとめることができる。工作は難しいことではないが、実物の作動原理が理解できていないと、設計は難しそうだ。

2020年12月19日

伊藤 剛氏の Power Shovel

 所属クラブで伊藤剛氏の鉱山鉄道の復元のお披露目があったが、その席上パワー・ショべルの話題が出た。それは当博物館に来ていたので、探し出して写真を撮った。一部をお見せする。ボディは見つからなかった。

loading shovel Power Shovelはコマツの商品名だそうだ。本来は loading shovel と呼ぶらしい。掘って貨車やダンプトラックに積み込むのが仕事である。最近は油圧式の機械が増えて来たので、ワイヤ・ロープ式のものはわざわざ rope shovel と言うらしい。巨大な、ひと掬い数十トンのタイプは、すべてロープ式である。ショベルの底が開く様になっている。油圧式は、ロープ式に比べると寿命が短いそうだ。ロープ式は何十年も使える。  

crawler 剛氏の話によると、職場で顧客に説明する時、
「模型があったほうがいいね、ということになったので、作っちゃった」そうだが、とてもそんな程度の模型ではない。6モータで非常に複雑な動きをする。ショベル部分は伸縮する。本物は、ここの裏がラックになっていて、ピニオンの回転で伸縮する物が多い。これはロープで出し入れする。 

chasis これは剛氏のその他の模型に比べると、かなり保存が良くない。履帯も、片方が行くえ不明だ。履帯は蝶番をたくさんつないで構成されている。履帯内側の脱線防止爪が細かく出来ていて驚く。駆動輪、転輪は鉄道模型車輪を貼り合わせて出来ている。ロータリィ接点もある。現在ならDCCで2本の線でコントロールできるし、無線操縦も簡単だ。
 床板は劣化して割れている。作り直すなら、床板を分厚い金属板から作る必要がある。クラブ員の中で、これを作り直す、という意思を持つ方が出て来ないかと楽しみにしている。

2020年12月17日

またまた天秤棒…

 できれば触れるのを避けたかったのだが、コメントでぐさりと刺されてしまったので触れない訳にはいかなくなった。その通りである。コメント主は鋭い方だ。

 例の天秤棒ナントカはイコライザではないのである。この台車は弾性のある材料でできているので、かなり自由に捻られる。ただしボルスタが撓んだりしないように設計してある。

 奇しくも、筆者の愛車の前輪スタビライザ・リンクが傷んで、異音がし始めたところである。交換せねばならない。試しに右前輪だけを、整備用の斜面を登らせ、最大限持ち上げてバネを底衝きさせてみると、スタビライザは限界まで捻られた。その時、タイヤに掛かる力は右前と左後が極大値に達し、残りの2輪の輪重はかなり減る。これを「イコライズされている」と言う訳にはいかないのは、当然だ。スタビライザが無いと、左前のタイヤにはほとんど力が、掛からなくなるはずだが、それを多少緩和しているに過ぎない。

 この試作台車の一輪の下に何かを挟んで、キングピンに錘を載せると、同じようなことになる。ボルスタのキングピンは僅かに傾く。もっとも、線路の不整は極めて小さい量なので、輪重変化は少なく、ほとんど同一であろう。その範囲ではイコライザと言っても良いのかもしれないが、それは単なる言葉遊びである。

 この件については解決済みであるが、いまだにくすぶっている人も居るようだ。要は定義域の問題で、身勝手な定義を振り回しているということだろう。


2020年12月15日

3Dプリントによる国鉄型台車

 S氏にお願いし3D-printed (1)3D-printed (2)た国鉄型台車が到着した。この写真はかなりの近接撮影であってざらつきが気になるが、実際の鑑賞距離ではほとんど見えない。Oスケールでの鑑賞距離は50 cmほどだろう。HOゲージならば、滑らかさを追求した別の出力方式を採る必要があるだろう。本物の図面から描き起こし、模型化の手順を経ているので、走行性能は抜群である。 実物をそのまま縮小した訳ではない

 稲葉氏の遺品である昭和29年の客車列車を保管することになり、その台車を交換する必要に迫られた。OJに改軌する必要があるのかもしれないが、とりあえずOゲージの台車を履かせて、12輌編成の特急、急行列車としたかった。機関車はEF58をお預かりしているので、その下廻りを新規に作れば一応の体裁は整う。その部品は揃った。

 OJ長軸が作ってあるから、車輪を嵌め替えればOJ用にもなるが、ブレーキ位置が異なる。しかし台車自身それほど高価なものでもないので、OJ用のも作ってもらった。こうすれば台車ごと嵌め替えれば対応でき、楽である。
 もちろん、ブレーキ装置は車輪踏面に当たるような位置に来ている。

  TR47、TR23を作ってもらったので、ピヴォット軸を嵌めれば走らせることが出来る。軽い車体なので、それで十分だ。ただ、床下器具は接着剤が劣化しているので、全部剥がして優秀な接着剤による再接着が必要だ。今のままでは、走行中に落下する。

 車輪はスポーク輪心ではないが、TR47では全く目立たない。TR23には、新設計のスポーク輪心を再利用するプロジェクトの完成を待ちたい。このスポーク車輪の再生は新年には出来るだろう。今、ネジ太さの微妙な調整で手間取っている。

 この新台車は、素材の性能を生かしたひねりの利く設計を採用している。すなわち、台車そのものが線路の凹凸に追従するから、バネ装置を省略できて経済的で、しかしながら走行性能は抜群である。端梁は、180度屈曲させ、ひねりに対応する。イコライズされているわけではないが、弾性のある素材を使っているからこそできる技である。走りは静かで、脱線も少ない。
(左の写真ではその180度ひねりの部品を、仮に上に載せて撮影している。実際には右のように上面が面一になる。)

2020年12月13日

続々 Sofue Joint

 1本ピンのSofue Jointはトルクを伝えているのではない。変位を伝えているのだ。この説明をどのように書けば一番わかりやすいか、といろいろ考えた。

 早い話が、クランクを手で廻していることと同じなのである。フライス盤のZ軸高さを決めるネジのクランクは、本体が重くないと廻せない。小型のフライスでは押さえつけないと、本体が踊ってしまうだろう。
 いつも有用なコメントを送って戴くTavata氏も、「氷かきのクランクと同じ」という解釈を送って来られた。確かにこれも、本体を押さえ込んで足を踏ん張って廻さなければならない。

 頑丈な構造体の中に、ある半径のクランクがあって、他方の腕でそれが廻されているわけだ。沢山の腕で廻すと考えると、多気筒の星形エンジンも似ているだろう。
 丈夫な構造体を作る余裕があれば、製作は容易で、動作は確実である。微妙な芯ずれが許されるのは、製作者にとってはありがたいことだ。

 今回製作中の機関車に組み込むかは思案中である。

2020年12月11日

ステンレス容器 塩水漬け

removing broken drill bit in stainless steel bowl この方法を編み出したのは筆者である。しかし10年以上前にやったきりで、そのチャンスがしばらく無かった。それは通称 ”ガラ”を使うようになったので、タップを折ることが無くなったからだ。しかし、今回は少し違う事案だ。

 台車枠の鋳物に、軸箱護をネジ留めするための下孔をあける時に、折ったのだ。高速ボール盤を使っているので孔は簡単にあくが、中に鬆(す)があったようで、がくんと中に落ち込んだ時に折れた。高速ボール盤といえども、送りは無造作ではいけない、という良い例だろう。(写真の左上の部分の裏側に折れて刺さっている。)

 当時の韓国製の鋳物は見えない鬆がある場合があった。おそらく、熔湯を入れる速度が大き過ぎるのだろう。埋没材が削れて落ち込むのだが、それが浮力を得て上がって来るが、途中で引っ掛かってその分が空洞になる。もっとも埋没材はそこに残っているが、脆いのでドリル刃は一瞬で通過し、その先の金属に当たる。

 今回の失敗例をよく観察すると、ドリル刃は穴の中で斜めに刺さっている。すなわち、空洞を通過した後の向こう側の金属が斜面だったのだろう。それに乗り上げて、ドリル刃は横這いし折れた、と解釈した。

 ステンレス塩水漬けの方法は、「蒸機を作ろう」にも掲載され、利用する人が多くなったのは喜ばしい。しかし、相変わらず「溶けない」という文句が来る。
 ステンレス容器を使わない人が居るのには驚く。これはステンレスを使うことに意味があるので、プラスティック容器ではうまく行かないのは当然だ。書いてある通りにやらないと意味がないということを理解しない人は少なくない。
 また超硬のドリル刃を折り込んだという相談も時々あるが、それは諦めて戴く以外ない。切り取って埋め金をするしかないだろう。相手がブラスであれば、超硬を使う理由は見つからない。

2020年12月09日

続 veranda GTEL を作る

 スパン・ボルスタを持つ車輛は比較的少なく、その構造をじっくりと考えるチャンスは、今までほとんどなかった。今回はアジン製のGTEL を観察して、その問題点を洗い出した。衝突時に力がどのように掛かるかを考えると、弱いところは2箇所のキングピンの周りである。台車にはほとんど力は掛からない。

 連結部からの衝撃力は2箇所のキングピンを剪断するように掛かる。キングピン周りの構造体は折り曲げられるだろう。祖父江氏はそこに角材を貼り付け、補強していた。しかしキングピンだけは細いままだったので、
「ぶっつかったらさー、キングピンが切れっちまうからね。」
と言っていた。筆者はそのキングピンをスティール製に替えた。しかし、その周りが弱いので、どうなるかは不明だ。

 速度を出すつもりは全くないが、なにかの間違いで追突することは、考えておかねばならない。長大編成での連結器切れは起こりうる。一編成45 kgほどあるので、置き去りにされた貨車にぶつかるとかなりの被害が出る筈だ。貨車は壊れても機関車は温存したい。

lap joint 主台枠中心にはチェインを通すので、角穴が開いている。だから、そこが弱くなる。その部分は 3 mmの厚板を用い、縦の部材を追加している。一方、前後の床板は薄い1 mmを使っている。3 mmの板と1 mm板は、祖父江氏の手法で欠き取って重ね継ぎをしている。ハンダが廻ると、最初から一枚板だったような剛性がある。

 今回設計の主台枠とスパン・ボルスタ2本の質量は、約 1 kgである。ジグを作って押し込み、ガスバーナで焙ってハンダ付けした。そう簡単には壊れないものが出来たが、やや過剰品質ではある。  

2020年12月07日

veranda GTEL を作る

 長年放置してあったヴェランダ・タービンを完成させるべく、とりかかった。台車は30年以上前にAjinで調達したものだった。
 どうしようもない部分もあるが、台車の側面のディテールだけは秀逸で、 手を入れれば十分使えた。問題は、彼らが実物の図面からそのまま作っていたことだ。ペデスタル部には必要以上の凹凸がある。実物通りに作ったのだ。上下の滑りを確保しつつ軸受の距離(枕木方向)を保つのは良いが、台車ボルスタがへなへなで何の意味もない。ボルスタを補強し、重い本体が載ったときにもへたらないように、せねばならない。強度が不足しているし、また模型として作りやすい構造にすべきである。

 久し振りに鋳物に細孔を開けた。下穴ドリルを折り込んでしまい、ステンレス塩水漬けで3日待った。うまく錆びてくれたので取り出し、ネジを切った。ネジはあまり使わないM1.7で、タップの予備が無いのでヒヤヒヤであった。

 スパン・ボルスタは衝突に耐えるようにした。祖父江氏がAjin製GTELの剛性のなさを指摘していたので、材料置き場をひっくり返し、厚さ4.2 mmのnaval brass (ネーバル黄銅)の大きな板から切り出した。この長さを糸鋸で切るのはとても自信が無いので、ジグソウに金工用刃を付け、時間をかけて切り出した。自宅のフライス盤で直方体に仕上げ、台車の嵌まる部分を少し彫り込み、前後端のバッファを削り出した。
 ネーバルは海水に耐える材料である。廃金属商で入手したものだが、粘りがあって加工は大変だ。フライス刃は喰い込みやすく、難削材用の刃を用いる必要がある。さらに、切削油をたくさん使って削らねばならない。また、ネジを立てるのは一苦労であるが、とても丈夫である。

GTEL span bolster スパンボルスタの中央部はさらに1 mmと2 mm の板を貼り重ね、全面ハンダ付けをした。ここの部分には孔が開いているので弱く、本物も丈夫に作ってあるのだ。

 本体の骨組みは9.5 mm角のアングルで3 mmの板をはさみ込み、スパン・ボルスタのキングピンはΦ8である。ここが弱いと衝突時に剪断されてしまう。 
 中心部は高さを稼いで撓みを防ぐ。トラス橋と同じである。


2020年12月05日

rotary tippler

 本物の rotary dumper(人によってtippler とも言う)  は各種の構造がある。貨車を回転させ、傾けて積荷を出すのだが、1輌ずつ切り離すのはかなり面倒である。切り離したものを押し出して、向こう側で止めなければならない。しかも再連結するのは、速度管理が大切だから面倒である。

 現代のアメリカの大規模な積み下ろし施設は、連結を開放せずに平坦線で作業する。巨大な施設で、貨車を丸ごとひっくり返すが、連結器を軸として回転する。連結器がねじ切れるといけないので、連結器は回転出来るようになっている。もちろん貨車の両端の連結器が自由に回転すると、あらぬ方向に回転した状態のまま列車が運行されてしまうので、それを回避するようにせねばならない。貨車の片方は回転不能で、もう片方が自由回転になっているのだ。
 これらの貨車を正しくつないであれば、何の問題も無いが、ドジを踏んで回転できない方同士をつなぐと、ロータリィ・ダンパ上でねじ切れるだろう。それを防ぐために、貨車の連結器回転側は、黄色またはオレンジ色に塗ってある。遠くから見れば、正しくつないであるかどうかは一目でわかる。
 機関車の次位につなぐ貨車では、機関車側も回転しなければならない。それを忘れるとこうなるという写真がある(写真23)。


 この模型はSスケール(1/64サイズ)3.5フィートゲージ(HOゲージ)である。
 これは、3Dプリンタを駆使したものである。連結器は自由回転できるものを作ったようだ。貨車を押す装置がややオモチャっぽいが、よく出来ている。
 本物は機関車の移動量がすぐわかるように、線路わきに停車目印が貨車の数だけ用意されている。もちろんダンパの脇には、目視で安全確認する要員が配置されている。 

 ライオネルには製品がある。面白い。この会社の製品は少々お高いが、良く出来ている。つまらぬ機関車を買うより、楽しそうだ。

2020年12月03日

伊藤 剛氏の長浦軌道の修復成る

Nagaura kidorotary tippler box N氏の尽力で剛氏のロータリィ・ダンパの修復が完成した。原則として、オリジナルに戻すという方針であるので、55年前の状態を見ることが出来る。
 車輪は現在のものを用い、ピヴォット軸受にはモリブデン・グリースを少量入れてある。滑走性能は良く、”飛び出さないかと思わず手を出した” という状況が再現された。 

 今回手直しをしたところは、スピードが出過ぎるのでリターダを付けたことだけだそうだ。長いリボン状のバネによって車輪の内側を擦り、減速する。

 機関車のタイヤはゴム製であったので劣化していた。それを現代の材料で再生した。集電はレイルを直接擦るスプーン状ブラシが4個付いている。集電は完璧で、いかなる場所でも起動不良になることがない。5輌のトロッコを軽々と押して登る。

 ロータリィ・ダンパの回転する枠は缶詰の蓋部分を切り取ったもののようだ。鉄の色が出ているところが実感的である。丸みはもともと完全であるし、作りやすい。元はビールの缶ではないかと思われる。当時はビールは薄鉄板の缶で売っていた。三角の孔を開ける道具も酒屋でくれた。2箇所に孔を開けて中身を出したのだ。直接口に付けて飲むと、妙な味がすると不評であった。

 おそらく、剛氏はその缶詰を手に取った瞬間に閃いて、全体の構想が出来たのではないだろうか。図面無しで、あっという間に作られたような気がする。

 全体を1800 mmに収めたかったようで、最終端は少し曲げて長さを短くしている。

 組立式なので、滑りの良い机の上では徐々に位置関係がずれてきて、脱線してしまう。大きな板の上に固定するのが良いだろう。クラブでのお披露目のあと、当博物館で永久保存の予定である。もちろん動態で公開する。その場所も確保した。

 クラブで動画を撮影したので、編集後、公開される予定だ。

2020年12月01日

カビのこと

 木製キットを組んで塗装したものが、カビ始めた。不思議なことにガラスケースに入っているものがひどい。

 当博物館は24時間空調をかけているので、湿度は60%以下を保っている。かなり乾いているはずだ。それなのに、一部の車輌がカビだらけになった。分析すると、次のようなことになる。

1. Quality Craftのようなバスウッド(シナノキの亜種)に細い溝を切ったものの、溝の中からカビ始める。それは木造貨車を再現する縦溝が細かく切られたものが多い。

2. 滑面の塗装は大丈夫である。塗膜が薄く、木材に薄く浸み込んだだけの部分はカビ易い。

3. オイルステインを浸み込ませて固めたものは、その上に塗膜が無くても、全く大丈夫である。

 レイアウトの線路上を走っているものは全くカビていない。どうやら空気が循環していると良いらしい。空気清浄機が設置してあり、カビ防止に寄与するオゾンを発生するからかもしれない。

 対策としては殺菌剤の次亜塩素酸ナトリウム(キッチンハイターの類)を含む洗剤液を噴霧して、歯ブラシでこすり落とす。次は、よく水洗して乾かす。エアコンが効いているので、扇風機で良く乾く。カビは塗膜を明らかに侵す。一部はタッチアップが必要だった。組立の接着剤はエポキシが多いので、水で洗っても問題ない。
 外に持って行って、カビ止めスプレイを噴霧する。アルコールベースの薬剤であるから、濡れているうちに触ると塗料が傷む可能性があるので気を付ける。乾くとわずかに風合いが変化した。微妙に艶が増したような気がする。

 以前気が付いたオイルステインは、大変効果がある。中まで浸み込んで固まっているので、カビの胞子が取り付く場所がないのだろう。現在組立て中のものはすべてオイルステイン漬けにした。どうせ塗るのだから、下地に色がついていても何ら問題ない。

 ガラスケースの中も、何らかの対策が必要だろう。それまではガラス戸を開放しておかねばならない。置いておくだけでカビ止めになる薬剤があれば試してみたい。昔は臭素を含む薬剤があったが、最近はある理由で売っていない。

 Bass Woodはアメリカの東部、中西部にいくらでも生えている木で、日本では榀(シナ)と呼ばれる。ヨーロッパではリンデンバウム(菩提樹)である。
 軟かく、木目のほとんどない材が採れる。木彫り、家具その他の安価な工作材として使われる。模型材料としての適性があり、床板、屋根板などに使われている。

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