2020年07月

2020年07月30日

特急”はと”編成を預かる

椙山氏のレイアウト移設に関連して、稲葉元孝氏の遺品の客車群をお預かりすることになった。国鉄型車輌は初めて入線する。
 K氏から、「お宅しか、お願いするところがない。」と電話があったので、受け取って来た。緩衝材入りの箱であって、さすがに20メートル車を20輌と機関車1輌を運ぶのは大変な作業だ。乗用車の車内、トランクにぎっしりだった。

JNR passenger cars (3) Oゲージのフル・スケールモデルの列車を見ることは、稀である。窓はすべてガラス板で、意外と重い物である。一部の接着剤の剥がれは、修正が必要であるが、可能な範囲にある。室内側から、粘度の低いエポキシ樹脂を少量流し込んでみる。浸み込ませて、剥がれを押さえるつもりだ。この方法は旧い貨車の修復に使ったことがある。
 床下器具の補修は3Dプリントの出番だろう。一部の車輌には室内が完備されている。驚いたのは屋根板の内側が丸ノミで彫ってあり、天井が丸いことである。デッキ部分、トイレなどの仕切りも正確に再現されている。床板が簡単に外れないように、4つの留め金がある

 展示してあったものは、埃をかぶっているのできれいに掃除し、屋根だけは艶消し塗料を再度塗ってやれば、修復できるだろう。

JNR passenger cars (1)JNR passenger cars (2) 稲葉氏は、地元では教科書に載っている偉人の孫であった。高校の大先輩でもあり、椙山氏と共にご指導戴いた方である。
 東京の大学に行っていたので、帰省時にはカツミの製品・部品を大量に担いで帰ってもらったと、椙山氏には聞いた。毎回の往復時に乗った列車をくまなく記録した写真帳、メモ帳を拝見したことがある。非常に几帳面な方で、細かい字とスケッチがぎっしりと書き込まれていた。


2020年07月28日

メルクリンの失敗

maerklin UV joint コメントの中にメルクリンにも間違いがあったという情報があり、詳しく調べてもらった。もう当該の模型は手元には無いそうだが、その組立図が見つかったのでリンクを送ってくれた。

 これはまずい。現物もこの通りであったという。スプラインを外して差し替えることができない構造だったそうだ。
 その後の製品にはまともなものが出て来たようで、その一群がおかしいということらしい。

 メルクリンがまともな会社ならば、これを本社に知らせると直ちに応答があって、改良品を送って来るだろう。あるいは最寄りのサーヴィス・ステイションで交換に応じる筈だ。筆者にはその資格がないが、お持ちの方は連絡してみて、その応答をお知らせ戴くと有難い。

 角速度変化は挙動にはっきりと表れる。 

2020年07月26日

Blue Star Pacific RR の移設

 椙山 満氏のBlue Star Pacific RRが解体、移動された。

Blue Star Pacific RR  (3)Blue Star Pacific RR  (2)Blue Star Pacific RR  (1) レイアウトの甲板の厚さには驚いた。約32 mmもあった。古くなって多少膨らんでいるようなので正確な厚さはわからないが、26 mm程度の厚さのパーティクル・ボードの上に5.5 mmの合板を全面に接着剤で貼り、その上に線路を敷いている。筆者が手伝ったのは、その甲板が完成した後であったので、構造はよくわからなかった。この甲板部分はすさまじく重い。

 たいていのレイアウトでは薄っぺらな音がしたが、ここの走行音は重々しかった。椙山氏が、「合板が薄いのはいけません」とおっしゃっていたのはこれだったのだ。ようやく合点がいった。過去に数回の小規模レイアウトを製作した経験から、厚さを決められたのだろう。

 甲板の切り離しには電動レシプロソウを用いた。ジャッキで2 mmほど持ち上げて隙間を作り、鋸刃を差し込んで、ホゾごと釘を切った。直径が3mmもある釘が3本づつ打ってあったので、手間取ったが、切り外すことに成功した。梁には細い釘しか刺さっていなかったので、それは一瞬で切り落とせた。延数百本の釘を切り外して甲板を持ち上げた。アメリカ製1種、日本製3種の鉄鋼用刃物を使って切れ味を比較したところ、日立の特殊鋼で出来た刃が一番よく切れた。

moving the layouttenon その下部構造は想像を絶するものであった。家を建てるような太さの柱を6本立てた上で、小柱を20本立て、梁を載せている。梁はほぞを組んで、さらに釘で抜け留めをしている。上で相撲を取っても大丈夫な構造である。分解するのに大変苦労した。腕の良い大工に、十分な手間賃を取らせて作ったことが分かる。全く狂いが無いので、嵌めたガラス戸は、滑らかに動いた。

helperson the truck bed 若い助っ人が何人か来てくれたので、土台から切り離した重いレイアウト本体を運び出してトラックに載せることができた。これで約1/4 である。トラックが2台あったので、2往復である。 
 上物だけで約120 kg、土台は360 kgほどあった。

2020年07月24日

メルクリンのuniversal joint

 知人に古いメルクリンの機関車の整備を頼まれた。B型台車を二つ付けたディーゼル機関車である。今までメルクリンは眺めていただけで、手に取るのは初めてであったが、興味があって引き受けた。綿ボコリを噛んでいるのを取り、上下バラして注油するだけの事だと思っていたが、意外な展開であった。

 開けて見て驚いたのは、モータが、車体に固定されている。台車は派手に首を振るので、そこには何らかのしなやかに曲がる動力伝達装置が必要である。

Maerklin (4) モータからスパーギヤで減速されるのだが、途中のギヤはかなり大きい。そのギヤには大きな穴が二つ開いている。グリスが詰まっているのが、固まっているようだ。
 台車を抜くネジを外すとパラリと部品が落ちた。それは、H字型の板であった。スティール製で、4つの角を丸くしてある。 

Maerklin (1)Maerklin (2)   バラバラになった状態では機能がわからなかったが、再組立てしてみるとなるほどという構造であることが分かった。そのH型板がユニヴァーサルジョイントの中間軸を構成していて、4つの角は2つのスパイダの代わりをしている。部品の数を大幅に減らして、ほぼ同等の機能を得たわけだ。これを見ると角度はほぼ等しく、十分に等速であると推測する。
 これらの写真をご覧になると、その機能がお分かり戴けるだろう。

Maerklin (3) そのH型の部品は硬いスティール製で、2つの孔の中で動く。この部分を掃除して、新しいグリスを詰めた。モータ軸には保油装置が有り、そのスポンジに注油すると、スパーギヤの方にも油が広がっていくようになっている。このあたりの設計思想は素晴らしい。ただし油は撒き散らされる。それが集電の突起あたりにも付いて、滑りが良くなっているのかもしれない。ダイキャスト鋳物は出来がよく、緻密である。直捲3極モータは回転が意外と滑らかであってトルクは十分だ。軽くはないが、押して動く。自動逆転器の作動は確実である。歯の数は、ちゃんと互いに素になっている。また、あちこちにコンデンサが入れてあって、雑音防止に寄与している。


 ライオネルも、メルクリンも、よく出来たおもちゃである。学ぶべきところはたくさんあるが、いわゆるスケール・モデルにはほとんど採り入れられていないように見える。

 電源と線路一巻きを借りてあったので、完工検査をしてお返しした。以前よりずっとよく走るそうで、安心した。


2020年07月22日

unversal joint の角速度変化

 northerns484氏のブログで展開されているユニヴァーサル・ジョイントの角速度の変化が興味深い。
 どういうわけか、模型界ではこの部分の間違いが多い。数で言えばラジコンの方がずっと多いだろう。市販されているパーツはほとんどが間違っている。これは数年前の調査結果だが、今もさほど変化していないと思う。
 ラジコンではタイヤがスリップしているのが普通で、めちゃくちゃなドリフトをさせるのが目的だから、等速であることにそれほどの価値があるとも思えないのだろう。 だから、分かっている人も声を出さないのではないかと推測している。

 翻って鉄道模型ではどうだろう。高価なブラス製の機関車、電車がゴリゴリと音を立てながら走ったら、腹が立つはずだ。模型製作工場では急曲線を通さないのだろう。直線を往復させて合格ということにしているのではないか。

 今回、部材の長さを測定した結果から計算した結果が発表されている。角速度の変化はかなりある。我慢できる状態とそうでない状態の境目がはっきりしたように思う。
 模型メーカはその後改善されたのだろうか。店頭にある部品を回収するか、どうすれば改善されるかを説明する紙を添えるべきであるが、それはなされているのだろうか。

2020年07月20日

続 3D print についてのコメント

 コメントでYoutubeを紹介してあったので、見た。大変面白い。出来たものを加熱している。"annealing"という言葉を使っているのも興味深い。これは本来の意味から離れて、別の概念を紹介するためにわざと使っているものである。正しい用語とは言えない。丈夫になることを言っている。本来の意味は、金属が様々な原因で硬くなったのを、加熱して軟らかくすることである。原子の再配列をすることだ。ここでは高分子の再配列により、堅くしている。
 ちなみに、”annealed” という言葉は、中村修二氏の青色LEDの特許に関する紛争で、「これはすでにannealed ideaであって…」と相手側が反論しているのを見た覚えがある。突出した考え方ではなく、時間が経って既にありきたりの方法だと主張しているのであった。結果としてそれは認められなかったようだが、面白い用法だと思った。 

 シャツをくしゃくしゃと箱に詰めるよりも畳んで詰めるとたくさん入るという実例を示している。これは筆者もよく使う説明の方法で、結晶化によって密度が増大することを理解しやすくする。この動画をご覧になるとよい。英語は平易で、字幕も出るからわかりやすい。

 筆者の記事にもあるが、ポリエチレンが結晶化すると、密度はかなり増大する。結晶化という現象は、目の前で起こるとなるほどとは思うが、ほとんどの人はそれを見たことはない。
 インターネットなどでそれを知ると、”それが最初から自分の頭の中にあったように勘違いする”人が多い世の中になったと、昔のコメントに書いてあったが、本当にその通りである。拙ブログのコメントにも、まさにその実例がたくさん来る。

 今後AIが進歩すれば、機械が瞬時に探し出してくれるようなことを、さも「自分はこの分野には詳しいのです」、と言わんばかりにコメントを送って来る。こちらは長年の経験でそういうことはすぐわかる。そういうことを理解している人の数は極めて少ないものなのだ。 

 話は元に戻るが、この動画はなかなか面白い。経験したことの中の、使える部分をうまく抽出している。寸法を保つということを放棄して、強度増大を主眼にしているのだ。

 PLAとはポリ乳酸である。一時期、生分解性があると売り込んでいたが、それはそれほどでもなく、最近は別の観点での売り込みがなされる。

 筆者のアメリカの友人からは、「台車を3Dプリントで作ったから、お前も買え」という話が時々来るが、正しい材料を使ったものはほとんど無い。


2020年07月18日

3D print についてのコメント

 過去数回3Dプリントについて書いてきた。コメント、私信が大変多く、注目されている内容であることが分かった。

 筆者は職業柄、材料を見ればどのような性質であって、長時間の後にはどうなるかは大体見当がつく。模型を作る人はそういうことには無頓着で、形ができれば満足するのだろう。3Dプリントが現実のものになってくると、様々なものが出て来る。10年後にはどうなるかなどとはだれも考えていないのではないか。

 アメリカの話だが、絶縁車輪の製法が変わったのは1960年代である。それまではベークライトが主体であった。その後ナイロンになった。ナイロンは優れた素材であるが、ただ一つ具合の悪いことがあった。それは削った時のクズが切れないのである。カミソリ状のものでそのクズを切り落とさないとみっともない。大変な手間がかかった。
 次に出て来たのはDelrinである。これは射出成型で作りやすく、そのスリーヴを嵌めて圧入するのは簡単である。また、それによってスリーヴが割れることもない。微妙に塑性変形して圧力を保ち、抜け止めに貢献する。要するに press fit が容易である。
 これに成功して鉄道模型界ではデルリン製(通称POM製)の歯車がたくさん作られたが、かなりの部分で応力割れが見られた。デルリンの歯車に無造作にシャフトを圧入したのである。5年位で割れてダメになった。

 現在ではこの方法は避けるべき方法として、かなり知られている。筆者はどうしてもこの部品を使わねばならないところには割れるボスの部分に金属製の環(タガみたいなもの)を嵌めている。こうすると殆ど場合助かる。以前紹介したチェイン・ドライヴのスプロケットではそうしている。要するに、中外から圧力がかかっていると、大丈夫だということだ。


2020年07月16日

ギヤボックスを作る

 3条ウォームが少し残っていたが、ギヤボックスがない。図面を描いて自分で作る算段をしたが、凄まじい時間が掛かるし、精度のあるものが沢山できるかは疑問があった。一つだけ作るのなら喜んでやるが、ディーゼル電気やタービン電気機関車の動力は数十個を必要とする。CNC加工の外注という手も考えたが、外注先はそう簡単には見つからない。
 3Dプリントで樹脂型を作って、それを金属置換するのもアイデアとしてはあるが、鋳縮み測定の実験を数回せねばならないであろう。また決して安くはない。

 悩んでいたところ、S氏が焼結ナイロンでやってみようと言う。寸法安定性は十分にある。ただ、X,Y,Z軸の各方向の寸法再現性は、全くのデータ無しの状態であった。
 無調整で一発で組みたい。噛合い調整は絶対に避けたいのだ。時間の無駄であり、また効率が一定にならないから、惰行の仕方にばらつきが出る。工業製品としてのギヤボックスを目指すべきであるのだ。
 
Nylon gearbox 3軸のどの面が一番正確に再現されるかを調べるために、3通りの方向に試作品を並べて、積層の向きを指定して印刷した。常識的には、XY平面のお絵描きが一番正確であろうことは分かる。Z軸が問題なのだ。
 実験の結果は予想通りであった。Z軸の数字を調整して再度試作した。素組みしただけで、最高の性能が出るものを発注して、染色した。

 ボールベアリングを収めるスリーブが入る部分はリーマを通したが、ざらつきを取る程度の抵抗しかなかった。ネジ孔も印刷形成で良い筈であるが、M2のためにΦ1.6をあけておいて、ガラでタッピングした。切粉が大匙一杯ほど出た。この種の作業は楽しい。モリブデン・グリースをマイクロブラシで薄く塗り、ぱちぱちと組んで、あっという間に出来上がった。ギヤの噛み合いも均一で素晴らしい物であった。

 ナイロンは数十年以上問題なく使える筈であるし、重負荷で温かくなったとしてもその程度ではクリープは起こらない。たとえ壊れたとしても、データはあるので再現は簡単である。写真は二次試作品である。

2020年07月14日

続々 3D プリンタに用いる樹脂

 ナイロンにはいろいろな種類がある。普通は6,6-ナイロンである。この6は、単位物質の炭素数による。作りやすい物が良いので、ベンゼン環の炭素数が保存される6から始まった。今はもっと安いものが原料に使われるが、6という数字は変わらない。現在では、8とか10という数字を含むナイロンもあるが、強度は6,6には敵わない。ナイロンを作ったのはCarothersという天才だが、最初に作られたものが、最終的に最も優れたものであったというのは、凄いことである。カラザースは立体構造を考え、分子間に働く水素結合が最も無理なく形成されるのは、6,6の場合であることに気が付いたのであった。今でこそ、分子設計という概念があるが、1930年代にそれを実現したのは、素晴らしいことである。

 これは実質的に流動し始める温度が268 ℃であり、とても高い。3Dプリンタではもう少し低い温度で融けるものが良い。炭素数の多いナイロンの中には、200 ℃近辺で流動するものもあり、それを使っている。

 粉体にレーザを当てて、瞬間的に融かして固めるので、どうしても多孔質になる。即ち、表面がざらざらし、油が浸み込みやすい。ざらざら感を無くすには、サーフェサを塗って研ぐしかない。大物で表面に平面があれば楽だが、そうでないとなかなか大変である。つるりとした感じを与えるものは、また異なる造形法であるが、高価格である。
 そういう点ではOスケールは鑑賞距離が大きいので有利である。遠くからしか見ないので、台車のざらつきなど、ほとんど見えはしない。  



   台車にナイロンを使う理由を聞かれたので、答えようと思った。基礎から説明する必要があり、3回分を充てた。 この手の話は化学に縁のない人には非常に説明しがたく、何回も書き直した。3Dプリントはかなりあちこちで使われているが、その説明を見ると首をかしげるものが多い。
 決してABSは万能ではなく、クリープの起きにくい材料を使うことの重要性を強調しておきたい。

 筆者は、本質的にプラスティック製車輛は避けたい種類の人間である。長い時間の後にも製造時と変わらぬ性能を持つ模型を作りたい。車体がプラスティックの機関車は僅かにあるが、下廻りはすべて金属で作り直してある。車重が2 kgもあれば、プラスティックだけでできていると徐々にクリープしていく。下廻りに用いる材料はブラスが主体で、熱硬化性の樹脂(3次元網目構造を持つ)のみを絶縁材に用いている。

 車輪の絶縁に用いる材料はPOMである。これがABSであると恐ろしい結果を招くだろうことは、お分かりかと思う。筆者は、接着剤も永く持つもの以外は絶対に使わない。エポキシ か スーパーXである。塗料も、より長持ちするエナメル系を用いている。

2020年07月12日

続 3D プリンタで用いる樹脂

 ポリエチレンはどうだろう。柔らかく、しなやかな買い物袋を想像すれば良い。流れて役に立ちそうもないが、意外なことにポリエチレンは結晶性なのである。結晶性の物は、高分子鎖のあちこちで、同種の分子鎖が寄り添い、固まって動かなくなっているのだ。そう言えば、ポリエチレンシートは、僅かに白く濁っている。原則的には、分子鎖が近づきやすく、横に大きな突起がない高分子が結晶性を持つことになっている。

 ポリエチレンのフィルムを切って短冊にし、それをゆっくり引き延ばしてみよう。白くなって、引っ張っても切れにくくなるはずだ。引っ張られて長い分子が整列し、分子間距離が小さくなって結晶し始めたのである。結晶化が進むと白く濁るのだ。その時、熱くなる。自由な分子運動ができなくなるので、エネルギィを捨てざるを得ないからだ。荷造り用として売られているプラスティックの薄いテープ状のギシギシした紐は、まさにこれである。ほとんど伸びない。長さ方向には極めて強いが、縦裂きは容易だ。長さ方向にずらすには、結晶構造内の分子間力を全長に亘って同時に切る必要があるが、縦に裂くと、一つづつ切れば良いからである。この紐状のものを加熱すると、くちゃくちゃと縮む。エネルギィが与えられ、分子が束縛から解き放たれて自由に動いたからだ。結晶化すると少し密度は大きくなる。包装用紐の巻いたものは、意外に重いことに気が付くだろう。 

 ポリエチレンは何もしなければ結晶化しにくいので軟らかいし、軸受部分の摩擦による発熱にはとても耐えられない。無理やり伸ばさない限り(これを延伸という)結晶化しない。また、耐熱性がなく、塗装、接着の困難さにより、模型材料には使われることはない。

 他にはポリプロピレンがある。これは形が異なるものが3種あり、その一つは極めて優秀な結晶性を示し、身の周りにたくさん使われているが、模型用には適さない。接着塗装が難しいのだ。ポリプロピレン製のコンテナなどは、重い物を載せても形が崩れない。

 さて、模型用として実用的な結晶性プラスティックの例を挙げよう。POM(デルリン、ジュラコンなど)、ナイロンなどが有名である。これらはある温度で急に融けるように見える。それまでは、形はほとんど変化しない。隣の分子と固く結びついているからである。即ち、常温では流れにくい。歯車、カム、リンクなどに適する。

 台車の材料は結晶性プラスティックであったほうが良い。Oスケールの場合、軸重は5 N(約500 gw)を超える場合がある。放置されていても台車がヘタることがあってはならない。もしこれがポリスチレンなら、徐々に歪み始めて、20年もすれば、あらぬ形になる可能性がある。


 いわゆるPETボトル(これをペットボトルと言うのは正しいとは言い難く、外国では通用しない場合が多い。英語では、ピー・イー・ティー・ボトルという)は透明だが、ある温度に保つと白く濁って堅くなる。結晶化したのである。一部のボトルのネジ部が白いのはこの方法による。ネジが内部の圧力によって抜けないようになっている。

 3Dプリンタでは、ナイロンが適する。ナイロンはとても堅く、摩擦も少ないから台車に適する。ただ、ナイロンは水に濡らすと、流れる可能性がある。要するに、濡れた状態で極端に大きな力を掛けると、塑性変形する可能性があるのだ。水に対する親和力が強く、水和により分子間力が弱まってしまう。高分子どうしを結び付けていた水素結合が水との結合に振り向けられるからだ。
 染色は容易だ。染料は水と同じく、この高分子に電気的引力で付きやすいからである。


2020年07月10日

3D プリンタで用いる樹脂

 3Dプリンタでいろいろなものを作ってみた。細かい造作を必要とするものはアクリル樹脂で作ったが、台車はそうはいかない。台車にはいつも力が掛かっている。要するに車重を支えているし、走行時は様々な角度から加速度が与えられるから、瞬間的にはかなり大きな力が掛かる。へたらない材料で作る必要がある。



 合成樹脂は熱可塑性熱硬化性に分かれる。前者はいわゆるプラスティックであり、加熱すると流動する。後者はベークライトで代表されるような加熱しても融けない樹脂である。元々は、plasticとは、こねて形を作れるという意味である。漢字の塑という字に相当する。

 さらに熱可塑性樹脂は、非晶性結晶性とに分かれる。
 
 非晶性のものは、力を入れると少しずつ伸びていく。伸びたものは元に戻らない。塑性変形するのだ。また温めてやると徐々に柔らかくなり、形が変わる。融点がない。即ち、ある温度で急に液状になるということはない。冷やすとその形を保ちながら収縮する場合が多い。
 普通の人が想像するプラスティックはこれに類する挙動を示す。これを「流れる固体」と称する場合がある。常温では固体のようにふるまうが、大きな力を掛けると少しずつ変形する。温度を上げると見るからに流体であるが、低温ではその粘性が極端に大きく、固体に見える。このようなものを台車に使うとどうなるだろう。長い年月が過ぎると、台車は少しずつ撓み、ボルスタは線路面まで下がるだろう(いわゆるクリープが起きる)。
 常温でその粘りけが無視できるくらい固いもので作ったものが、いわゆるプラスティック・モデルである。これは夏の暑い日でも垂れてくることはない。しかし力を掛けていると徐々に変形するはずだ。80 ℃以上ではくたくたになることがある。それには、ポリスチレンという樹脂が使われている。
 軽い物なら良いが、重い物を支えると変形するわけである。また、温度を上げて200 ℃以上にすると極めて流動しやすくなり、ポンプで型に押し込むことができる。これが injection mold 射出成型 だ。非晶性のものは高分子の側鎖が大きく、お互いに近づきにくいものが多い。たとえば、ポリスチレンでは大きなベンゼン環が飛び出していて、邪魔をしている。より耐熱性を持たせたものはABSである。

 ここまでを読むと、不思議な気がするに違いない。HO、N のプラスティック車輛にはABSが使ってあるが、へたっているようには見えない。
 それは車重が小さく、目に見える変形を起こすほどの力が掛かっていないからである。しかし、何十年何百年も経てば少しずつ変形するはずである。しかし、人間の寿命はそれほど長くはないかもしれないから、それで良いことになっているわけだ。しかし、早く変形する模型もあるだろうし、長生きする人もいる。また、エアコンのない部屋に放置するということもあるかも知れない。

2020年07月08日

古い車輪を再利用する

 3線式の時代の車輪はかなり捨てたが、まだいくつかある。厚みがあるのでこれを削ったら、OJ用のスポーク車輪になるかもしれないと思い付いた。19 mmのサンプルで試してみる。
 
19mm wheel on collet (1)19mm wheel on collet (2) ネジは旧JISのM4で、ピッチが0.75 mmだ(現在の並目ピッチは0.7 mmである)。筋の良い車軸を選んでヤトイとする。車輪裏の根元がきちんと平面になっていないと振れが生じるので、まずそこを削り、フランジ内側を削り落とす。これでよいかと思ったが、多少の振れがある。昔の製品の精度はこんなものだ。この方法では、最初に根元を削った部分が垂直であるとは限らないからだ(大きなコレットでタイヤを掴むのが良いことが分かった)。ヤトイから外して、前後嵌め替え、今度は表面を厚さ 3.5 mmになるように削った。

 タイヤ厚み(法線方向)が1 mmだから、輪心径17.0 mmのものと、それから絶縁材の厚み×2を引いたもの、の2種を削り出すのだ。

 
 ネジ込み車輪というものは根本的に「振れ」からの脱却は困難である
筆者が圧入にこだわるのはそこである。
 この工場で作ったネジ込み車輪のネジの精度には誰しも驚く。ぎゅっとは締まらない。コツンと締まる。ガタが、事実上ないネジを作ってくれるのだ。だからこそ、Low-Dにもネジ込み車輪が登場したのである。最初はすべて圧入するしかなかった。


 タイヤはステンレスだから伸びやすい。無茶に締めると、径が左右で異なることになる。定盤の上でエポキシ接着剤を塗ってそろりと嵌めるべきだろう。

19mm wheel centers (1)19mm wheel centers (2) 軸はバックゲージが21.5 mmのものを作る。今どきM4-P0.75と聞いたら、工場の人は驚くはずだ。久しく作っていないだろう。 
 当時の製品はネジがガタガタで、心が出にくい。
 
 今回の発表で、細かいものを少し作ってくれと言ってくる人があるが、そういうものは請けられない。この工場は量産工場である。極めて精度の高いものを大量に作る技術を金に換えているのである。こちらで用意した仕様以外のものは、相当数の注文がないと動き出せない。

 タイヤだけを作っておけば、いろいろな使い方が見つかるだろう。昔は旋盤工作ができないと加工は無理だったが、今回はそのまま嵌めるだけというものもできるかもしれない。ある人は、車輪内にボールベアリングを仕込んではどうか、というアイデアもある。左右自由回転になる。出来ないことはないだろうが、ガタがあるので、複列にして多少の予圧を掛ける必要がある。かなり面倒な構造だ。ガタを見越して使うのなら簡単だが、Oスケールでは避けたい。 

 見かけだけはよくできた車輛を見せてもらうことがあるが、車輪が振れていると、思わず天を仰いでしまう。優れた走りには、どうしてもこだわりたい。

<追記>
 このM4-P0.75のネジを持つ車輪、車軸は全て廃棄した。Φ3のストレート穴のあいた車輪を入手したからだ。これは、ある人がカツミに特注したものらしい。それが300個ある。正しい設計で作り直すことにする。
                (2022年2月5日)


2020年07月06日

Low-D 再生産

 しばらく枯渇状態が続いていたので、希望された方にはご迷惑をお掛けしていた。本来は順調に供給できるはずであったが、製造所の都合で受注できなくなっていた。
 製造所は航空機産業の拡大で多忙になり、仕事を受け付けてもらえなかったが、最近のCOVID19で航空機不況に陥り、干上がりそうな気配になっていた。この製造所の技術力は、航空機製造に参入する試験に通っているので、間違いはない。いくつかの製造所で作ったのを比べたが、最も高品質で、是非ともここで作りたかった。いつも不況に陥ると筆者が注文するので、彼らにとってはありがたい客ではある。そのうち好況になると、またはじき出される可能性はないわけでもない。

 今回はアメリカの富豪たちからの注文も溜まっていたので、一気に片づける。持って行ってやることはできないが、貨物で送ってやれば良いことである。

 同時にOJゲージ用の注文が来ていた。25年ほど前、吉岡精一氏の設計の試作を行っている。500軸しか作らなかったが、仲間内で捌けたようだ。それを再生産したいのだ。バックゲージは21.5 mmである。OJ用の車輪は厚みが少し薄い。#137 (3.5 mm)である。フランジの規格はLow-D と同じで 1 mmx1 mmである。フランジ厚みの基準点は、吉岡方式でP点を採っている。こういうところに実物知識を持ち出して批判する人がいるが、勘違いも甚だしい。模型は実物とは違うということを、理解できない人は多い。Low-Dは、模型として最高の性能を出すことしか考えていない。 
 
Low-D OJ用長軸型 (4)Low-D OJ用長軸型 (3)Low-D OJ用長軸型 (2)Low-D OJ用長軸型 (1) 長軸のサンプルが残っていたので寸法を示す。軸端部は Φ2.0であったが、Φ1.5にする予定だ。そうすると小さな軸箱にも入る。

 スポーク車輪は作らない。今専門家が検討しているが、3Dプリントという方法もありうる。これなら、スポークも波状の輪心も思うままだ。


2020年07月04日

続 Kemtronの台車 

turned anchor bolt ボルスタ・アンカを快削ブラス材から削り出した。よく切れるバイトと高回転の出せる旋盤さえあれば、こんな楽しい作業はない。つるつるの丸棒である。ごく適当にゴムブッシュに相当する部分を表現して、それをハンダ付けするわけだ。

 大きなものに小さなものを付けるのは難しいことになっている。こういう時は炭素棒に限る。接合面にハンダめっきしておいて、位置決めして押さえ込む。つなぎ目に先を尖らせた炭素棒を当て、やや高めの電圧を短時間掛ける。先端がほんのり光るくらいでやめるのだ。ハンダがきらっと光って、滑らかな面が出現する。それでおしまいである。隙間なく、完全に付いている。この時のハンダはeutectic(共晶)であるべきだ。要するに液体と固体しかないのであるから、付いているか、付いていないか、のどちらかしかない。非常に簡単にできる。

 ハンダの性質について無関心な人は多い。特別に上手な方以外は、皆苦労されているはずだ。この際、炭素棒ハンダ付けとeutectic solder を導入されてはどうだろう。完璧なハンダ付けが可能になると、世の中が違って見えるようになるはずだ。  

 ともかく、部品の間違っていた台車はすべて満足に組み上がり、車体への取り付けができる状態になった。
 問題は、客車車体が一つ行くえ不明であることだ。かれこれ2年ほど行くえ不明である。困った。

 〔10年前の自宅レイアウトでの貨車行くえ不明事件〕
 それは思わぬことで解決した。自宅レイアウトの一番奥に点検用の 45 cm角の孔がある。その脇で発生した脱線事故で1輌だけが、どういうはずみか、転落したらしい。その下には毛布が畳んで置いてあって、そこに軟着陸したのだ。そこに2年ほど寝ていたようだ。破損無しで助かった。気が付いたのは、運転中にまたもや脱線事故があり、転落する場面を目撃したからだ。回収に行くと、枕を並べて寝ていた。偶然ではあるが、全くの無傷で助かった。

2020年07月02日

椙山 満氏のレイアウトの移設

レイアウト移設 かねてより告知していた椙山氏のレイアウトが移設されることになった。K氏と共に、引き受けて下さる方に会った。その方は四日市市内の方であった。
 1日昼頃に現場で落ち合い、打ち合わせをした。レイアウトには10年前の断層あとがある。それは活断層で、今回もそこから切り離す予定だ。
 事前に、電源やいくつかの車輛も付属品としてお渡しした。今後大切に使われるはずだ。


 K氏は椙山氏より8歳若く、戦後すぐからの椙山氏の片腕であった。知り合ったきっかけは、電柱に貼ってあった一枚の紙切れの広告であった。椙山氏の字で、「鉄道模型の運転を楽しみましょう」とあったそうだ。それを見て会場に行って知り合ったのが始まりであったそうだ。
 椙山氏は中学生のK氏を、付きまとうチンピラどもから、身を挺して守ってくれこともあったそうで、「椙山先生がいなければ、自分はどうなっていたかわからない」と述懐する。
 鉄道趣味、8mm映画、シトロエンを共通の趣味としていた。古いTMSを探すとK氏の近鉄2200の紹介記事が見つかるだろう。シトロエンは走行可能なDSをお持ちであり、いろいろなところから声が掛かるそうで、貸し出している。
 工作はとてもお上手である。今でもその2200は走行可能である。この動画の2分23秒あたりには、若き日の椙山 満氏も写っている。

  思えばちょうど50年前、椙山氏が駐車場の上に、看護婦の寮を建てるのがきっかけだった。ついでに3階を載せてしまえばレイアウト室になると思い付いたのだ。設計は椙山氏だが、当時国鉄に勤めていた電気技師のH氏が製作を陣頭指揮し、筆者もお手伝いした。完成時には慰労会を開いて戴いた。
 このレイアウトにはPECOのフレクシブル線路が全面的に採用されている。事前のテストで各種の線路を直列につなぎ、高速で長時間の試運転をしたのだ。一月ほど連続で走らせると、PECO以外はレイルヘッドが磨滅して脱線するようになったのだ。

 耐久性について筆者の目を開かせてくれたのは、椙山氏である。以来筆者は”Ready to Run”でなければならない、”Durability"を持たないものは模型ではない、という信念を持つに至った。
 塗装済みであること、窓ガラスが入っていること、ディカールが貼ってあることは大切な要素である。これも椙山氏の教えである。

 椙山氏のレイアウトは運転本位で平面上に作られているが、一箇所5%の急勾配があり、本線を乗り越している。これは勾配がなければ性能が分からないということと、内側から最も外の線に移行できるようにして、各種ポイントをくねくねと渡る長距離の走行試験ができるようにしたものである。外部の人が得意げに持って来た車輛を走らせると9割以上はどこかで引っ掛かる。一発で無事故で周回したのは井上豊氏の機関車くらいのものである
 若かった筆者はそれを見て、よく走る機関車製作を目標とすべしと心に誓ったのであった。

 その後Model Railroader への投稿をすることになり、筆者もお手伝いした。 

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