2014年05月

2014年05月31日

続 レイルの電気抵抗

 鎮目氏の測定値を次に示す。


ブラスレイル     30 m     1 Ω  カツミ製
鉄レイル        30 m     2 Ω   House of Duddy 
洋白レイル       30 m    5.3 Ω   House of Duddy
洋白レイル         30 m     10 Ω    PECO

比較のために
ビニル被覆電線 30 m    0.8
Ω (協和電線 断面積1.25 mm sq  

 鎮目氏の参考にされた文献(化学便覧ハンドブックとある)のデータである。おそらく、単位は10^-7 Ωmである。

銅           0.47
真鍮          1.0
リン青銅       1.6
洋白          5.3
鉄           1.8
SUS 303, 304  11〜12.7

 合金はロットによって電気抵抗は異なる。この文献によれば電気抵抗は、ブラスの値の、鉄は2倍、洋白は5倍というところだ。合金の電気抵抗率は文献によって、とんでもなくばらつきがあるものである。鉄とあっても、炭素鋼とは違う。洋白は洋銀とも言うが、その組成は千差万別である。一番信用できるのが、抵抗材を売っている会社のデータである。製品別に組成が示され、温度による変化率も書いてある。

 また模型の場合、製品によってレイルの断面積には差があるが、それを考慮しても、上の値は興味深い。PECOのレイルは異常に大きな電気抵抗を示している。
 さらに、鎮目氏はそのレイルの材料を化学分析にかけられたのである。


2014年05月29日

レイルの電気抵抗

 鉄道模型のレイルは洋白材が多い。銅合金だが、ニッケルを含むので電気抵抗は大きい。

 ニッケル合金は、例外なく電気抵抗が大きい。ニクロム(ニッケルとクロムの合金)は高温に耐えるので、電熱線に用いる。マンガニン(ニッケル約4%マンガン12% 残り銅)は物理実験に用いられる抵抗線で、温度変化による抵抗値変化が極めて小さい。また、モネル(ニッケル約70%、残り銅 の合金)は耐食性が良く、海水淡水化装置などの材料である。

 最近各種のフレクシブル・トラックを使用しているが、ポイント作成には古いカツミ製のブラスのムク・レイルを使っている。50年ほど前の製品だが、かなりの量の中古を手に入れたので、尖端レイル、フログをそれから作る。ウェブ(レイル断面の中央の垂直部分)が厚いので、尖端レイルが作り易いからだ。
 ブラスの電気抵抗は小さい。カツミのレイルは太いからということもあって、電気が通り易い。昔のAtlas製品は、ブラスにニッケルめっきを掛けてあったので、電気抵抗がかなり小さかった。最近の製品は洋白製であるからあまり感心しない。

 そのことを鎮目泰昌氏と話していたら、「House of Duddy Flex Track は良いが、PECOは極端に電気抵抗が大きくて、話にならない。」とのご宣託であった。詳しく聞くと、彼のご自宅のレイアウト建設時に、各種のレイルをある程度の数をつないで、電気抵抗を測定したということであった。客観的なデータを記録してあると仰るので、それを送って戴いた。 その結果は驚くべきものであった。

 鎮目氏はレイアウトルームにレイアウトの台枠が完成した時点で、各種レイルの電気抵抗を測定しようと思い立った。しかし、一本では抵抗値が小さく、普通のサーキット・テスタでは測りきれなかった。
 そこで30本直列につないで先端を短絡し、すなわち60本のレイルを直列にして電気抵抗を測定したのだそうだ。もちろん、各レイルはレイルボンドで接続してある。その結果は次のような値になった。


2014年05月27日

管理型模型人

 吉岡精一氏と知り合ったのは30年ほど前である。その時、彼は筆者の模型趣味を見て、「珍しいタイプの模型人だ。」と仰った。「管理型模型人というのに初めて出会った。」

 彼は、「模型人はスクラッチ工作型模型人コレクター型模型人、評論家型模型人の3つに分けられると思っていたが、あなたは新種だ。こんな人がいるとは思わなかった。」と仰るのだ。
「外注先をいくつか持っていて、様々な部品を発注する。大量に注文しないと高く付くから、仲間をたくさん持っていて、出来た部品を配給している。アイデア商品をいくつか持っていて、外国にも顧客がいる。でも利益を得ている様にも見えない。ここに利益さえあれば、それはすでに模型会社だ。」
 
 まさにその通りである。これは道楽であるから、儲けても仕方がない。本業で稼ぐ方が効率が良いので、それで楽しんでいるのである。数が必要なので一度にたくさん作る。買う方も心得たもので、たくさん買って、それに利潤を乗せて再販売していた。それはそれで良い。

  そういうわけで、当家にはOスケールの部品は商売できるほどたくさんある。最近は行く末を考えて在庫を随分減らした。

2014年05月25日

続 土地の輸入

 土地を輸入できるわけはないので、土地を輸入したのと同等の効果がある経済活動という意味である。
  
 この言葉は19世紀のイギリスで使われ始めた。イギリスでは狭い痩せた土地を耕作して食料を作っていたが、植民地の発展に伴い、食料、衣類、建材等を輸入して使うことが当然になった。すると、今まで耕作していた畑が不要となり、森林は温存され公園になった。イギリスのあの広い庭園、公園はその時から始まったのである。
 
 農地を外国に持って、本土の土地は美しく手入れされた。また、工場も大半が外国に移され、製品を輸入するようになった。結果として、これは土地を輸入したのと、全く同じ効果をイギリスにもたらしたのである。

 実際に時間を買うということはできることではないが、時間を買ったのと同等の効果を生み出す経済活動は可能だ。模型人で言えば、部品、キット、完成品を買うことである。
 経済学では当然過ぎて採り上げられることがないが、この活動は全ての人がしていることである。
 模型人が買う時間は、賃金という性格のお金で買うのではなく、技能を買っているのである。自分より優れた技能を短時間で発揮してくれる人に払うお金である。自分でやれば何回も作り直しをしなければならない困難な仕事を半日でやってくれる人には、十分にお金を払う価値がある。早く上手にやってくれる人には頼みたいのである。そういう意味でも、我が家の増築は、日本の大工には頼みたくなかった。

 土地の輸入という概念と、時間を買うという概念は、とてもよく似ているのだ。

 前にも書いたが、筆者はキットを組み立てる時には、素材としてしか見ていない。説明書をざっと読んで、概略を頭に入れ、どの部品がどこに付くかを確認する。作りながら、合わない部品は修正せずに捨てる。横にゴミ箱を置いて作業し、すぐにその代替品を作ってしまうのだ。その方が早いし、良いものができる。せっかく買った時間を無駄にしたくない。皆さまもお試しあれ。とても気持ちの良い工作ができる。

<追記>
 コン氏のブログのコメントに興味深い一文がある。楽しい時間を買うというお話だ。 

2014年05月23日

土地の輸入

 先頃、「時間を買う」という表現をしたところ、若輩者氏からコメントを戴いている。ほとんど見当外れのコメントではあったが、引っ掛かる部分があるので、多少の説明が要る。

 人間は一人で生きているのではないので、全ての面で分業がなされている。
 筆者の場合、食料は農家で得られたものを商業的経路を通じて買い、衣服は工場で作られたものを買い、家は大工に建てさせた。自前の土地があれば、畑を耕したいのだがそうも行かない。裁縫は全く自信がない。
 しかし、家だけは自分でも建てられる。実は増築した部分は、フル・スクラッチ・ビルドである。春の暇な時期を中心に半年くらい掛かったが、既存の部分と同じ材料で一人で建てた。息子たちにも多少は手伝わせた。近所の人は最初は冷ややかな目で見ていたが、完成が近付くと手伝いに来てくれたりした。アメリカに居るときに、建設業の友人のところで修業をしたおかげである。

 模型作りも同じであって、得意なところを専門に受け持つ人がいるのであるから、任せてしまった方が時間の節約にもなる。しかもプロの仕上げには、素人では思いつかない繊細さがある。祖父江氏にフレーム加工を頼むと、ヘアライン仕上げになって返って来る。ちょっとしたことなのだけれども、素人の工作ではまずお目に掛からない。本物はshaper (日本語ではセーパー) で削っているので、水平に線が入っているのだ。
 また、こちらの工夫したところを図解して依頼すると、彼のその後の製品にそのアイデアが使われている。これは嬉しかった。
 動輪の嵌替えも専用の剛性の高いジグを持っているので、頼むとすぐやってくれた。しかし、彼の死後、自前でやる必要が出てきて、現在新開発のジグを作っている。剛性の高い構造のものを設計した。
 いろいろな方から、動輪嵌替えの相談があるので、引受けて差し上げたいと思ったからだ。

 筆者は必要な機械類は持っているし、ノウハウもある。今までは仕事が忙しく、自分でやっている暇もなかったし、頼んだ方が安上がりであった。それを「時間を買う」と表現するのは、全く間違っていない。しかし今は自由な時間を多少は得ることができるので、自前でやることが増えた。場合によっては、時間を売ることもできるかもしれない。

 経済学の勉強をしていた時に、「土地の輸入」という概念が出てきた。

2014年05月21日

ハンダ付けした模型

 ブラスの板を切り、曲げてハンダ付けする。これが鉄道模型の作り方だと中学生のころから思っていた。筆者は、紙や木製の作品は少ない。過去20年くらいはプラスティック製の車輌がかなり入線したが、それまではほとんどがブラス製だった。運良く、安く手に入れたものばかりだった。

 ここへきて、ハンダ付けの記事が増えて様々な人からご意見を頂戴している。
「プラスティック車輌があるから鉄道模型が発展したのに、このブログではブラスのことばかり書いているのは云々」と仰る方もある。逆に、
「このブログでブラス工作に踏み切って、今ではかなりのことができるようになった。」というご意見もある。

 最近、吉岡精一氏とお会いした。吉岡氏はブラス工作の先輩である。今までに、色々なアイデアを頂戴した。氏は、このように仰った。
「真鍮で工作したことがない人が大半になれば、それは鉄道模型の死です。買って来たら、それでおしまいというのは鉄道趣味ではないでしょう。やはりある程度は、自分で切ってハンダ付けの工作ができるようにするべきです。それにはかなりの修練を積まねばなりませんが、やる必要のあることなのですよ。内野(日出男)君みたいにできる人はまずいないが、それに向けての修練は必要です。
大体ね、プラスチックの模型が、時間が経つにつれて脆くなっていくというのは、皆知らないわけじゃあないんだ。まあ、それを考えたくないんだろうね。」

 筆者も同意見だ。数百年の実績のあるブラスをハンダ付けした模型と比べると、60年ほど前に現れたプラスティック模型は信用できない。おそらく、世界中の博物館の中で、プラスティック製品を収蔵しているところはほとんどないのではないかと思われる。

 ブラス工作は絶えることはないと思うが、やや下火であるので、それを盛り立てて行きたい。 

2014年05月19日

銅ブロックのハンダ付け

 ちょうどタイミングよく、甥から問い合わせがあった。仕事のことなので詳しくは書けないが、世界最先端のある装置に付ける電力供給端子だそうだ。

「伯父さんはハンダ付けうまいですよね。ひとつ教えて欲しいんですけど、厚い銅の電極と、ある銅合金を隙間なくハンダ付けするにはどうしたらよいのですか。」

 聞くと、その二つの金属塊(一つが筆箱くらいの大きさだそうだ。)を磨いてクランプで締め、ヒーターでくるんでハンダを押し当てたということだ。いくらフラックスが塗ってあっても、それでは駄目だ。

 何回やっても真ん中にハンダが入っていない空間ができ、電気抵抗が 数ナノオームくらいあるそうだ。それを何とかしないと先に進めないと言うのだ。どうやら、その職場にはハンダ付けの名人がいないらしい。

 早速次のような方法を伝授した。

Soldering thick copper electrodes1 磨いた銅塊にキサゲで「めくれ」を付ける。
2 二つの塊りに塩化亜鉛の飽和溶液を塗り、クランプで軽く締める。
3 ヒータで温めて、ハンダの融点以上になったところでハンダを押し当てる。全体を立て掛けて、ハンダを当てれば良い。ハンダは横からでも下からでも全体に廻る。

 要はほんの僅かの隙間がないとハンダが入り込めない。おそらく0.03 mm程度の隙間がベストであろう。合金層を作って固着する。それより厚いと、合金ができていないハンダ層が残るから、弱いし、長い時間経つと多少変化するであろう。タガネでも良いし、ポンチでも良い。多少のめくれがあれば、その隙間を容易に保つことができる。

 理屈を話すと良く理解してくれて、早速作業をやり直すと言っていた。そのうち報告があるだろう。

2014年05月17日

「銅喰われ」という現象

 最近使われるようになった言葉である。世の中のハンダが、突然無鉛ハンダに切り替わってから出てきた言葉だ。

 ハンダ付けがなぜできるかということの、根本原理について触れた本はあまりない。以前このブログで扱ったアマルガメイションがそれである。水銀、スズ、インジウムなどは他金属と接触すると拡散し、合金を作り易い。他の元素では起こらないかと言うとそうでもないが、目に見える顕著な例を作りだすのがこれらの3元素である。水銀を使う人はいないが、インジウムを主体とするハンダは使われている。1000年以上も、鉛とスズの合金であるハンダは金属接合材として使われてきた。専ら銅合金を接合している。1000年以上前の遺物のハンダ接合がほとんど変化しているように見えない。それは鉛が入っているからであろう。

 鉛を含まぬハンダはこの15年くらいの間に業界を席巻してしまったが、果たして安定性はどうなのであろうか。まだ問題が顕在化していないが、そのうちに世界中で恐ろしい事件が起こりそうな気がする。コンピュータの暴走などが起こりうると思う。どうして1000年もの実績を捨てて、怪しい無鉛ハンダを使う方向に走ったのだろうか。ぬれ性も良くない。

 製造上では、コテの異常な消耗が報告されている。無鉛ハンダは銅を溶かすのである。それを「銅喰われ」と呼ぶのである。しかし、普段鉛ハンダのみを使う筆者は銅のコテ先が顕著に減った経験がない。Oスケールだから、HOの人の4倍ほどハンダを使っているはずだ。大半は炭素棒だが、たまには銅のコテも使う。ポイント作りには欠かせない。ハンダの中で銅がすぐ飽和するとも思えないが、次々と新しいハンダを大量に供給しないと溶けないだろう。HO以下の方がそれほどハンダを使うであろうか。筆者は年間500 g以下である。1年で棹状のハンダ1本を消費できない。

 鉛ハンダが銅を喰うのなら、銅の風呂釜などすぐに駄目になってしまうのであろうが、実際には長持ちする。 空釜さえ焚かなければ、数十年持つ。筆者の実家にあったのは、家を取り壊すまで30年ほど無事故であった。近所にあった職人の仕事場で、友人のお爺さんが丹精込めて作ってくれた美しい釜だった。筆者は幼稚園児であったが、その工作を横で毎日見ていた。リベットを打って留め、炭の上で加熱し、コバを丸めてカシめる。そしてハンダを流して隙間を無くすのだ。炭の上で予熱しておいて、焼きゴテでジュンと付けた。

 銀は鉛ハンダとよく反応することは、学生時代から知っていた。無線マニアはよく知っていることだが、銀を厚くめっきした銅線で高周波コイルを作る。それをハンダ付けすると、約1年で割れて来る。銀がハンダに移って来るのだ。それを防ぐために、予め銀を飽和させたハンダを作った。2%が良いと文献にあったので、その配合のものを作って、友人たちに分けたことがある。しかし銅についてはそのような話は見たことがない。十分長持ちしている。また、アマルガメイションは液体でないと起こらないというのは、勘違いである。
 アマルガメイションは鉄に対しては起こりにくいから、水銀の容器には鋼板を使う。最近のハンダゴテの先は鉄をめっきしてからハンダめっきしてある。鉄の層はハンダによるアマルガメイションを防ぐためである。無鉛ハンダが出てくる前から存在するから、その防止には多少の効果があることが確かめられたからであろう。
 

 ネット上の文献らしきもの(決して文献ではない)には諸問題があり、信用できないものが大半である。書いている人は専門家ではなく、思い違いなども多い。  

2014年05月15日

ハンダゴテの手入れ

 昔、ハンダゴテはアカエというブランドのものを使っていた。剣先型の鏝であって、使っていると先の方のハンダが付いているところはよいが、その直後の部分が極端に錆びて細くなった。仕方がないのでそこで切り落し、全体を成形して使った。その時、虫眼鏡で見て驚いたことに、鏝には無数に細かい穴があった。

 父が言うには、「安物のコテは銅鋳物のコテ先だから巣(鬆)が入っている。それを叩き潰さねばならない。」ということで、「貸してみろ。」と取り上げられた。

 火鉢の炭で焼いて還元し、金槌で丁寧に叩いた。そしてまた加熱して叩いてを繰り返した。その処理をしたコテは長持ちした。
「プロ用のコテは銅の角材から作っているから、持ちが違う。」と父は言った。「しかも炭壺に突っ込んでいるから、いつも還元されているんだ。」

 その後塩化亜鉛をフラックスに使うようになると、またもや尖端のハンダが載っているところは良いが、その直後が錆びやすかった。キノコのような形だ。どうやら保管中に錆びるようだった。塩化亜鉛の溶液が付いているからだ。塩化亜鉛は潮解性であって、湿気を寄せ付けいつも湿っているから、錆びてくるのだ。
 しかし水洗すれば簡単に取れる。試しに洗ってみたところ、錆びはほとんど完全に防がれて、コテ先が細くなることもなくなった。

 ハンダゴテは抽斗にしまいたいのだが、熱いと待たねばならない。水道の流水で洗うとたちまち冷えて、すぐにしまえるのが具合良かった。水気があると良くないので、尖端を完全に冷やし、ヒーター部は多少温かい状態でしまうと、水気が完全に飛んでちょうど良かった。

 叩くと加工硬化して腐食しやすくなるという説が出てきたが、それは常温で電解液に浸した時のことで、ここでは関係ない。加工硬化の効果は、釘を海水程度の食塩水にひたひたに浸すと頭と先だけが錆びるという現象を説明できる。しかし高温で水のないハンダゴテには適用できない。しかもハンダゴテの使用温度ではすでに焼き鈍されている。
 一方、釘の頭と先はカッタで切り、ハンマーで打たれているから、加工硬化しているのだ。

 他にもいくつかの説があるようだが、長持ちさせる効き目としてはを無くすこと、良く洗うことが大きく、他のファクターは無視できる。 

2014年05月13日

続々 またまたスクラッチ・ビルディング談義 

 プロの模型製作者は別として、スクラッチ・ビルディングの名手はどのような人なのかを、筆者は長年観察してきた。ただし、Oスケールの話である。  

 答は、「実物の知識がある人」である。実際の機関車に攀じ登った経験があり、ロッドの隙間から体を入れて、ボイラ下を見た人である。ある程度の図面があって、正しくボイラを丸め、CNCで切り出したフレームに載せたとしよう。すると、ある程度の形になる。問題は補機類の配管である。どのような角度で飛び出して、どんな支え方をしているかを正確にとらえた模型の実感味は素晴らしい。
 しばらく前に紹介したHarmonの模型はまさにそれだ。
 
 ロッドの納まりも、重要なポイントだ。模型の動輪は本物より厚いので、多少ごまかす必要があるが、そのごまかし方のさじ加減が素晴らしい模型がある。全て実物どおりでは、動輪が急カーヴで脱輪する可能性が否定できない。
 フランジレスの動輪では、タイヤを外側に向かって少しせり出させないとカーヴで脱輪する。そこに事前に気が付いて、手当てした模型があった。その走りは素晴らしかった。 

 テンダとの接続部の補機類の配置も大切である。車体の外側部からどのくらいの深さにあって、メンテナンス時にどの方向から工具を入れるかを考えなければならない。実物を見るとき、そういうところに興味を持って、写真を撮る人の模型は素晴らしい。高価なロストワックス鋳物をちりばめながら、配管が怪しい模型を見ることは避けたいものだ。

 先の2回のアクセス数が、このブログ始まって以来の数字である。普段の3倍以上だ。拙記事を色々な方が引用されて、そこからのリンクが多い。ご意見もたくさん戴いているが、匿名での無責任なコメントは削除させて戴くことがある。

2014年05月11日

続 またまたスクラッチ・ビルディング談義

 スクラッチ・ビルド至上主義の方々は、自分たちの優秀性を人に認めさせたがるように感じる。優秀さの次元は一つではないので、こちらとしてはどうでも良いと思っているのではあるが、ある会合で露骨に嫌味を言われたことがある。

「ここにはスクラッチでないものを持って来られては困る。」

 ここまで来ると常軌を逸していると筆者は思うのだが、読者の皆さんはどうだろう。その方は最近お亡くなりになったそうだが、その会合には足が向かない。 

 日本のクラブによくある閉鎖的な雰囲気を感じる。自分たちはこうしているから、そうでないものは来るべきではない、という考え方だ。人間の能力の次元は極めて多いから、色々な人と出会わないと、人生を無駄にするように思う。排除しておいて、工具、パーツの外国から取寄せの依頼だけはよくあった。変な話だとは思ったが、断る理由もないのでどんどん引受けた。彼はその工具を随分自慢していたらしい。ロストワックス鋳物もいくつか取り寄せたが、それを使うことには何のためらいもないというのは、理解しがたい論理ではある。


 ゆうえん氏がキット改造の愉しみという一文を発表されている。その中に筆者も登場するが、まさにおっしゃる通りなのである。筆者は、随分以前に、”Scratch Building”という記事を発表した。3回の連載になっている。それを指していらっしゃるのだろう。

 これだけ各種の製品が発売されているご時世に、市販されているものを作ることはない、と思うのは間違っているのだろうか。完成品、キット、パーツを買う瞬間、我々は時間を買っているのである。
 もちろん不完全なところはある。しかしそれはすぐに直せる。スクラッチ・ビルドする能力があればこそ、なのだ。

 最近ポイントをいくつか作ったが、これもスクラッチ・ビルディングである。フログの鋳物を買えば早いが、機械があれば訳なくできるので、自作してしまった。これを持って行ったら、その会合に入れてくれるのだろうか。


2014年05月09日

またまたスクラッチ・ビルディング談義

 昨年ある会合で、スクラッチ・ビルド至上主義の人に会った。その人の作品はあちこちで見る。かなりの腕自慢の方だ。その人が筆者に話し掛けてきて、「たまにはスクラッチの車輌を持って来ないか?」と言うのである。

 このブログもたまにご覧になるらしいが、全てを読んでいるわけでもなさそうだ。「3条ウォームとか、低抵抗車輪の話やイコライジングの話は読ませて戴いた。でもスクラッチしてないだろう。たまにはやらないと、あんたのことを疑っている人もいるよ。
 少々驚いたが、彼は正直な人なのだろう。人が言ったこと、自分の思ったことをそのまま伝えてくれたのだ。
 筆者は、「うんと暇になって、やることが無くなるまではスクラッチ・ビルドはしません。」と答えた。彼は不思議そうに筆者を見て、「できないわけないことは俺は知っているよ。でも他の人がどう思うかだ。」 

 他の人にどう思われているかはどうでもよいが、時間の使い方が問題だ。人生は短い。筆者もあと20年あるかどうか怪しい。やることは山積である。自宅のレイアウトを完成させなければならない。仕掛かり品の動力車が30輌ほどある。貨車は少し減って26輌になった。また、その時点ではまだ構想が無かったが、新規に建設するレイアウトを完成させねばならない。これは60坪もあるし、線路総延長は400 mほどもある。シーナリィは最小限にするが、色々なことを考えるとかなり大変な内容である。

 筆者は、長年完成品の改造を主としてやってきた。いわゆるニコイチ(2輌を切り継いで1輌にする)、サンコイチは得意中の得意だ。世界に一台の機関車もある。
 安く買ったブラス機関車をまっぷたつにするのはなかなか快感である。中には高級品もある。祖父江氏の4-10-2 SP5000を手に入れたが気に入らないのでUP8000に改造中である。煙室に凹みがあったので、修理するよりも取換えてしまえということになった。
 たいていの場合は、下廻りは新製である。もちろん祖父江氏の作品では温存した。スクラッチ・ビルドは多大な時間が掛かり、その時間を他のことに向けることができれば、人生は有効に使えるというのが筆者の結論である。筆者のところにはあまりにもたくさんの車輌があり、またそれらは性能試験上、必要であったからだ。規模の小さい鉄道を経営していたら、おそらくスクラッチ・ビルドをしていただろう。  

2014年05月07日

孔をずらす

 Brass_Solder氏のブログを拝見していて面白い事例を見せて戴いた。ブラス板の孔を少しずらす方法である。板は十分厚いので、ポンチで片方を叩いて延ばし、反対側をヤスリで少し削るのである。0.3 mmくらいずらすときはこれは便利である。この方法は時計の修理法のひとつであって、一般人は知らないテクニックである。
 
 柱時計の歯車が減って噛合いがおかしくなってくると、この方法で歯車を近づけるのである。子供のころ、近所の時計屋のお爺さんが、こうしているのを見た。実にうまいもので、あっという間に直った。当時は時計の寿命は30年くらいのようで、歯車が滑るようになると二箇所ずらして直していた。ゼンマイの力が掛かるところは減り易いのである。

 さらに伊藤剛氏はこういう方法もあると教えてくれた。これも時計修理の常套手段であったそうだ。

shifting a hole slightly
 1 孔の周りを「コの字」に糸鋸で切る。その時、ずらす方向を考えて、バーサインを吸収するように切り方を決める。

 2 休み孔は片方で良い。向うに行って戻って来る時に隙間を切る。切り終わったら、刃を抜いてしまう。 

 3 細いネジ廻しのようなものでコジて、想定した量、孔をずらす。平面性を確認する。

 4 隙間にハンダを流して出来上がりである。

 やり方を工夫すれば 5 mm くらいずらすのは訳ない、とおっしゃった。そこまでやったことはないが、何回か助けられたことを思い出す。

2014年05月05日

DCC化

 日本ではDCC化への移行速度が小さいと感じている。色々な機会に運転会に出かけると、一部の人達は当然のようにDCC化しているが、大半はDC運転である。その違いを考察すると次のように感じる。

 レイアウトを持ち、日頃運転をしている人はDCC化している場合が多い。車輌工作至上主義の人は、DCC化には全く無関心である。DCC化するとウォーク・アラウンドをやってみたくなるのは必然である。レイアウト規模がある程度大きくなると、ワイヤレスでやってみたくなる。ワイヤレス方式はたくさん出て来て選べるようになったので、色々なところで採用例をみるようになった。

 2008年にこのブログでウォーク・アラウンドをあまり見ないと書いたら、コメントでKMCの方からそんなことはないという「ご忠告」を戴いた。それも昔の話になった。
  
 現在計画中の新レイアウトは60坪あり、複線である。複線の片方はDCC専用にする。もう一方は本線のみ、DC, DCCを切り換えられるようにし、その側線はDC専用とする。どちらもウォーク・アラウンドにする。DCのウォーク・アラウンドは30年前に完成させてある。ただしテザード(スロットルのケーブルを順次差し替えて行く方式;要するに「ひも付き」のことである)である。
 魚田真一郎氏に長らく貸してあったが、震災の直前に返してもらって難を逃れた。当時もう一台作ってくれと頼まれて居たが、もうそういう時代ではなくなった。魚田氏はウォーク・アラウンドの価値を認めた最初の日本人であったような気がする。彼が生きていたら、様々な試みがなされていただろうと思う。

 ヤード部分は全てDCC化する。そうでないと配線が面倒だからだ。今回の記事に書いた6回路用のをいくつか使って見よう。何も考えずにヤードと渡り線ができるというのは、ありがたい。


2014年05月03日

続々 Frog Juicer

822_double_crossover_wiring 2Aしか電流が流せないと書いたが、説明書を詳しく読むとそれで殆ど問題がないそうだ。と言うのは機関車には車輪がたくさんあって、いくつかの車輪から集電しているから、フログ一つに電流が集中することはないそうだ。 
 この図はDouble Crossover 、シザース・クロッシングである。4つの区間にFrog Juicerから供給している。確かにこの方法なら、配線に頭を使うことが無くなる。ただ繋げば完成である。

 今まではポイントがあるとそこで頭を使って、動作パターンを絞り、無電区間が無くなる最適な方法を見つけ出した。タンデム三枝ポイントなどは意外と難しい。
 この方法ならあっと言う間だ。

400_Crossing_Wiring_Diagram_400px クロッシングの場合も、何も考えなくて済む。以前発表した方法など、どうでも良くなってしまった。
 
 操車場などのポイントが連続した部分(ladderと言う)のフログも、6出力のジューサを買えばあっという間だ。

 技術の進歩はとどまるところを知らない。より簡単になっていく。

 最近、DCCの記事が少ない、と色々な人に言われている。実は、アメリカではあまりにも普遍化してしまい、既製品には最初から付いているので、何も書くことがない。 日本はまだまだ遅れている。 


2014年05月01日

続 Frog Juicer

 Juiceは飲むジュースと同じ綴りである。アメリカの口語では電源のことを指す。
 講演などではコンピュータを持って行って、プロジェクタで映写するのがふつうである。その時、当然のように「ジュースは用意してあるから…」 ( juice provided ) という案内が来る。行ってみると、氷水は用意してあるが、オレンジジュースはない。そこで「話が違う!」などと怒ってはいけない。

 壁に付いているいわゆるコンセントのことを、"juice"と言うのが普通になった。70年代は半分くらいの人が使う言葉であったが、最近はまず100%の人が使う言葉になった。
 Juiceは果実の絞り汁、ビーフステーキなどの肉汁のことだが、エネルギーの源という意味があり、それが流れ出してくるものという意味で、電源を指す言葉に転化したのだ。しばらく前は、ガソリンもジュースと言っていたが、最近はあまり聞かない。

 Juicerは文字通り、電源を供給するものである。瞬時の短絡によるDCC電圧降下を検知し 、左右のレイルからのどちらを給電するかを判断する。最大 2 A まで通過させることができるから、HOクラスでは全く問題ない。一部のOゲージ車輌は数アンペアも喰うものがあるらしいので、それには対処できない。つまりHO以下専用であろう。

 ポイントマシンには補助接点があり、それを使えば極性切替えは簡単である。電流容量も大きい。筆者は自作のギヤード・モータによる転換を採用しているので、補助接点はマイクロスウィッチを使っている。

 このようなDCCディヴァイスが登場したのは、おそらく、HO以下ではポイントマシンを内蔵しているポイントが増えてきたからであろうと思う。マシンは付いているが接点がない、あるいは足らないのではないかと思う。筆者にはその方面の知識がないから確証は持てないが、それ以外には思い付けない。
 ややこしい渡り線や、搾線(ガントレット)などでは役に立つかもしれない。

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