2013年09月

2013年09月29日

Jimの友人たち

 ジムが、「今日の昼飯は汽車の仲間と喰うことになっている。お前も来るか?」と言う。こういう時の答えは決まっている。
 ”By all means!” (ぜひとも!)

 セント・ジョージの新しい街の中心部にあるレストランに行った。集まっていたのは70代の模型人7人だ。自己紹介をして昼飯を共にした。3人は退役軍人だった。日本に行っていたそうで、天賞堂、鉄道模型社の話が出た。

Terry Schram's 3-rail layoutTerry Schram's 3-rail layout 2Terry Schram's 3-rail layout 3

 そこで2人からレイアウトに招待された。一つ目はTerry Schramの3線式レイアウトである。地下室にライオネルのコレクションがある。全米でも屈指のコレクションだという。
 建物はporcelain(陶器)のものが多く、珍しい物が50以上あるそうだ。

 クリスマスがテーマになっている。どうしてクリスマスなのかと聞くと、「クリスマスが好きなんだ。いつもクリスマスの気分が味わえるだろう?」と言うことであった。暑いセント・ジョージの地下に、このような別天地があるとはほとんど誰も知らないことだろう。

 近所の小学校の子供がスクールバスで見学に来ると言う。地元では有名なのだそうだ。

2013年09月27日

続々々々々々々 Jim を訪ねて

 ジムのレイアウトは美しい。しかし、車輌は良く走るわけではない。驚いたことに、貨車を手で押しても 30 cm も走らない。油が差してあるかどうかも分からない。

 摩擦について聞いて見ると、「良く走らない方が良い。」という。留置線に置いてある貨車が動いてはいけないからだと言う。要するに、貨車は全てブレーキが掛かっている状態である、と言っても間違いではないということだ。連結するとき、相手が止まっていないと連結できないから、「お前の車輪のような滑らかに動くものでは具合が悪い。」と言われたことは過去に何度もある。特にカブースは動きが良くない方が良いらしい。そう言えば、KadeeのNゲージのカブースは軸受にコイルバネが入っていて、軽くブレーキを掛けている。そうしないとDUがうまくできない、という話は知っている。DUとはDelayed Uncoupling である。

 実物では、側線は本線よりも低く作ってあるから、流れ出すことは無い。このレイアウトもそうすればよいのだが、それは無かった。

 ジムはビジネスマンである。何を企画すれば売れるかということには非常に敏感だ。proto48は、客の様々の不満を集めて、それを新しい方向に導くビジネスである。それはなかなかたいしたもので、そこそこに客も付いている。
 しかし、アメリカの鉄道ファンは、大型機により長大編成を牽くことが好きな人が多い。proto48で小型機ばかりの鉄道を楽しむには良いだろう。前にも書いたが、工学的な素養がある人が何人か参入して、ベイシックな部分を検討すれば、発展の余地はいくらでもある。しかし、今のままでは心もとない。

 



2013年09月25日

続々々々々々 Jim を訪ねて

Jim Harper figure 5
 走らせて見せてくれた機関車は、2-8-0コンソリデイションである。動輪が小さく、固定軸距離が短いので、ぎりぎりで走る。これがこのレイアウト上の限界であろう。
 走行可能な最小半径の計算は、本物と同様に計算して、スラックを付けるべきだろうが、そういう話は一切出てこないところが不思議だ。以前にも述べたように、貨車の台車を手で持つと、平行四辺形になるものもある。技術的に検討している形跡はなさそうだ。今話題のJR北海道の線路幅は、蒸気機関車が走っていた時の固定軸距離が大きかった時代のものだ。

Jim Harper coupler
 連結器のピンを抜くのに、面白い方法を採用している。ブラス製のピンの上端に鉄の針金の小片を挿してある。磁石でそれを引き付けると、肘(knuckle)が開く。磁石を遠ざければピンは落ちる。
 簡単そうだが、意外と難しい。ピンはそう簡単には落ちてくれない。かなり気を付けて仕上げないと思うようには行かない。塗装すると果たして動くのかは分からない。

Jim Harper layout
 未完成部分である。先日御下問のあった、ひも状のLEDが付いているのがよく分かる。夜の風情を出すときに用いる。



2013年09月23日

続々々々々 Jim を訪ねて

Jim Harper resistance solderingJim Harper overhead sliding door
 Resistance Soldering のトランスである。99%の仕事はこれで行う。コテは電気配線用の40Wのものだけである。日本でも、もう少し普及するとブラス工作への躊躇が減少するはずだ。筆者が原価で頒布したが、実際には組み立てていない人が複数あることが判明した。せっかくかなりの労力を掛けて製作頒布したので、有効利用してもらいたいものだ。

 これは車庫のドアである。上のレイルに沿って引き上げられる。コイルバネでドアの重さをバランスさせているので、小さな出力のモータで巻き上げることが出来る。この家は既存の設計の住宅の一部を変更したので、隣の 2‐car garageとは壁で隔絶されている。小さい扉は3台目用なのだが、レイアウト・ルーム専用にしている。大きな材料を楽に運び入れることが出来るので具合が良い。
 我が家にも付けたが、ドアを熱絶縁性の高いものにしているので、空調時に熱が漏れにくい。気密パッキンを付けているので隙間風が入ることもない。閉めた時は、事実上の壁となる。 

Jim Harper backdrop

 バックドロップ(背景の下地)は石膏ボードで、目止めしたのち、単一色で塗る。薄い建物を貼り付けた後、空の部分には多少のウェザリングが施される。建物は1インチ(25 mm)しかないが、紙よりははるかに実感的である。
Jim Harper license plate
 ネヴァダ州のナンバープレートである。こんなのを申請するのは居ないから、すぐに認められたそうである。




2013年09月21日

続々々々 Jim を訪ねて

Jim Harper figure 2Jim Harper figure 3Jim Harper figure 4Jim Harper figure 1

 Jimのレイアウト上で特筆すべきものはこれらのfigure(人形)である。カスタムメイドの素晴らしい作品が並んでいる。どれも表情と動作がある。実際にしゃべり掛けられそうな雰囲気である。
 これらのフィギュアは、彼の義理の息子が作ったものだそうだ。せいぜい37mm程度のものをプラスティックの小片から削り出して作ってある。細かい造作は省いて、絵具で色をつけ、模様を描いてある。この程度の大きさになると、絵でも実物の凹凸を表すことができるという実践例である。

Jim Harper D&H pacific
 
 この機関車はHOである。1950年頃彼がスクラッチ・ビルトしたものだそうだ。彼がスクラッチから(素材から)作ったのはこれが最初で最後だと言う。非常にバランスよく作られている。
 ピンボケをお許し戴きたい。筆者はHOには縁遠いので、その小ささを過小評価していた。絞りをあと二段絞るべきであった。マクロレンズを使って失敗しているのは情けない。

2013年09月19日

続々々 Jimを訪ねて 

Jim's layout
 24 mmレンズしか持っていなかったので、あまり広い範囲は写っていないが、様子はお分かりだろう。日本でいくつかのレイアウトを見たが、今まで見た範囲では、天井部分の処理はどなたもされていない。今後はこのような手法が取り入れられるのであろうか。

 このような手法が有効なのはウォーク・アラウンドの場合だけではないはずだ。いずれにせよ、エンドレスを俯瞰するタイプのレイアウトは、すでにアメリカの新作レイアウトでは全く見られなくなった。
 レイアウトのベース高さは54インチ(約137cm)である。日本でも120cmの作例が見られるようになってきた。今後は、高いレイアウトが徐々に浸透していくであろう。
Jim Harper ducking underJim Harper road bed

 高さがあるとその下をくぐることが簡単になる。アメリカ人はかがむことが不得意なので、低い椅子に車輪を付けたものに座ってごろごろと移動する。この路盤は初めて見た。薄い合板で縦方向の力を受け、発泡ポリスチレンでその曲がった合板がバックリング(座屈)を起こすことを防いでいる。軽量化とある程度の剛性確保という、相反する要求をうまく満たす、力学的に巧妙な構造である。

Jim's workshopJim Harper DCC

 線路は廻り込んで工作室に入り込んでいる。この工夫は筆者も取り入れている。試運転に便利である。
 DCCの機材は仮に置いてある程度だ。いずれ、収納場所が決まるであろう。

2013年09月17日

続々 Jim を訪ねて 

Jim Harper tunnelJim Harper 2-8-0Jim Harper depot

 レイアウトを見せて貰った。正直なところこれほど美しいレイアウトは稀だ。背景、地形、ストラクチュアどれをとっても一級である。貨車も素晴らしい出来で文句の付けようがない。

Jim Harper bridgeJim Harper tavernJim Harper turntable

 このあたりは半径1800 mm程度である。実物で86 mである。曲線の内側なのでそれほど違和感を感じないが、接線方向から見るとかなり急である。
 草は、マニラ麻のロ−プの繊維でできている。ほぐして捩り、接着剤で固めて植えるのだ。それに細かいスポンジを付けてある。
 ジーンズの布をほぐして捩ると亀の子たわしを伸ばしたような形になるので、それを固めて散髪し、葉っぱの材料を振り掛けて木にしている。

 Tavern(居酒屋)には明りが燈り、内部からは音が聞こえている。天井の処理は最近のアメリカではやっている手法による。

 現在50%の仕上がりで、残る部分の製作に勤しんでいる。

2013年09月15日

続 Jim を訪ねて

 Jim Harper 氏はネヴァダ州リノで模型店を開いていた。2度ほど行ったことがある。模型職人としての腕は一流で、貨車を細かく作ったり、ストラクチュアのキットを売っていた。模型屋は繁盛し、それを売ってここに引っ越してきたのだ。

 彼はproto48の提唱者の一人でもある。前にも書いたように、筆者はproto48には懐疑的である。過去にproto48の滑らかな走行を見たことがない。貨車数輌を牽いてごろごろと走るだけである。
 過去に素晴らしいレイアウトを見せてもらったことがあるが、どれも走行性能は芳しくない。せっかくやるのだから、ぴかぴかつるつるの車輪を使って、実物のような大編成を滑らかに牽く場面が見たいものである。

Jim Harper's home
 さて、彼の家はここである。新興住宅地の一角で、看板もないから、ここに名だたるproto48の大家が居るとは分からない。僅かに車庫のあたりの屋根が不連続なので、何かあるかもしれないと気付く程度だ。家を建て始める前に、車庫の小さい方のドアの右で切れていたのを延長させたそうである。そこがレイアウトになっている。
 大工は機械的に延長したらしい。屋根が不連続である。こういう構造の屋根は雨漏りしそうで心配ではあるが、この辺は雨が降らない。

 電話をして、指定時間ちょうどにドアベルを押した。朝の9時であった。まだ食事中で、「朝は食べたか?良かったら食べてくれ。」ということであった。ジュースだけをご相伴して、色々な話を聞いた。

 ジムは日本に4年ほど居たらしい。沖縄と立川に居たのだそうだ。空軍の士官である。「日本の模型屋は良く行ったよ。テンショウダとかカツーミに行ったな。テツドモケイシャというのもあった。カスタムオーダも引き受けていたけど、いつも仕事が遅れて、帰国に間に合わないのがいっぱいあった。」
「誰か日本の模型人を覚えていらっしゃいませんか?」と聞くと、
「顔は覚えているが名前まではね。でも立川基地によく来た男が居た。彼の名前はヒローシである。とても有能な男だった。」
 その人は多分水野宏氏であろう。
 
 ジムの奥さんの前夫は三沢基地で殉職した空軍軍人であった。墜落するジェット機を人家の無い方向に向けているうちに、脱出が遅れたのである。当時は緊急脱出装置があまり優秀でなかった。

2013年09月13日

Jim を訪ねて

 ユタ州の南のはずれの州境にセント・ジョージという町がある。40年前にそこに行って泊まったことがある。
Saint George (4)
 街道の北に赤い崖があって、そこが街の中心でレストランが4軒とモーテルが3軒あった。それだけしかなかった。当時の人口は7000人ほどであった。もともと住んでいた人たちは牧畜業を営み、あとから来た人たちはほとんどがリタイアした人たちであった。
 夏は暑いが冬は冷え込まないので、年寄りには良い場所だ。エアコンが出来て急に人が住み始めた町だ。それまでは、だれも引っ越そうとは思わないところだったのだ。


 この20年でセント・ジョージは急速に大きくなり、当時の10倍以上になった。高速道路のインターチェンジは3つもある。そう言えば、昔はここには高速道路が無かった区間だ。I-15が工事中で制限速度が55マイル/時の2車線の街道しか無かった。

 50年代にはここで甲状腺ガンが多発したと言われている。すぐ西に原爆の射爆場があり、時々西の空が明るくなったそうだ。夏でも雪のようなものが降ることもあったと言う。それがいわゆるfallout(放射性降下物)で、大きな問題となった。しかし、ユタ州は西部の砂漠の中であって、当時のアメリカではほとんどだれも知らない場所であったから、当時の政府は知らぬ顔をして蓋をしてしまったようだ。そのような放射性物質は半減期が短いので、現在はほとんど影響がない。

 カリフォルニアに住んでいた人が、リタイアした後、家を売ってその金でこちらに引越すのがはやりだ。3倍の広さの家に住めるそうだ。ここからラスベガスに車で1時間で行けるのも、大きな魅力なのだ。

 そこにJimが引っ越したと聞いて、訪ねて行かねばなるまいと思った。ソルトレークから車で5時間だ。日本から到着したばかりで、時差ボケがひどい中、気合いを入れて出掛けた。安いホテルを探すサイトで調べて予約した。到着してわかったことは、昔泊まったホテルの隣のホテルだった。昔通りの最低限のサーヴィスのホテルだ。しかし、エアコンさえまともに効いていれば、文句は無い。



2013年09月11日

続 N gauge C62

 スティーム・ヴァルヴとシリンダの潤滑については問題は起こらないと思っている。もう40年以上昔になるが、井上 豊氏にその話を聞いたことがある。
「蒸気を使うから、潤滑油が流れてしまうのさ。圧搾空気なら給油機は要らないよ。排気管から油を差して、手で押して逆転させれば、良いんだ。作った機関車をエアコンプレッサで廻したことがあるが、10分くらいなら平気さ。」
とのことであった。最近の低粘度のエンジンオイルあたりが良さそうだ。その後潤滑油はかなり進歩している。
 余談であるが、精度高く作られた機関車は、前進位置でバックさせるとボイラに空気が溜まり、手を放すと前に走るそうだ。

 今回の N gauge C62 もほとんど注油していないようだ。CRCあたりを吹いているように見えた。コーティング技術もかなり進歩しているし、潤滑油については、あまり考慮しなくてもよいかもしれない。

 UP FEF-3が何台もあるので、そのうちの一台を振り向ける予定である。シリンダブロックはワイヤカットで抜いてリーマを通せば出来そうである。フライスと旋盤でも加工するのは難しくは無い。楽な方法でやるつもりである。砲金の塊は手当てしてある。一番難しいのはグランド部分だ。摩擦が少なく、なおかつ、漏れを最小にせねばならない。出力に余裕がないから、軽く動く必要がある。

 コントロールはRadio Controlが一番楽であろう。プロポーショナル(比例制御)だからだ。DCCでは完璧な操作は難しそうだ。
 カットオフは最初は考えないことにするつもりだ。井上氏の意見は、
「素人はすぐそれを持ち出す。あれは 過熱水蒸気だからうまく行くんだ。飽和水蒸気だと水滴が出来て、ろくなことは無い。煙突から水が出るよ。しかも、精度の高くない模型でカットオフなんて考えると走らないよ。トルクも減るし、変動も多いから、走りにくくて結局はフルギヤで走る。それでいいんだ。完璧に走ったら、次を考えても良いけどね。」
である。
 今回は水滴のことは考えなくても良いが、精度のことを言われると考えてしまう。エクスパンション・リンクあたりは、ワイヤカットを頼んだ方が良いかもしれない。
 煙突から潤滑油が飛ぶのを防ぐよう、ボイラの中に迷路を作って、油をトラップするつもりだ。

2013年09月09日

N gauge C62

N gauge C62 livesteam 3N gauge C62 livesteamN gauge C62 livesteam 2 先日のJAMで目を奪われる展示があった。Nゲージの圧搾空気を動力とするライヴ・エンジンである。
 ライヴスティームとは言えないところが辛い。


 素晴らしい着想と実行力である。アマチュアとして活動されているようだが、商品化すれば世界中に売れるであろう。時計の部品を作る機械で作っているという話だ。ガタの無い構成が必要である。そう簡単には出来ない。

 いつかはやりたいと思っていることがそこにあった。しかも超小型模型である。室内で楽しみたいので、火を焚く本物の蒸気機関車は避けたい。外でやるにせよ、小型になると炎の大きさが縮まないので難しくなる。ガスを燃料とするときは、酸素を足して燃焼速度を大きくしないと狭い火室の中では燃やしきれない
 そういうわけで、ライヴスティームは半分諦めている。

 金魚の水槽に空気を送っているダイヤフラム型コンプレッサの仕事率で、Oスケールの機関車が走ることは計算上明らかだ。小さい車載型コンプレッサを探して何年か経つ。家庭用血圧計のコンプレッサは、小さいが出力が足らない。たくさん並列にする必要がある。
 それなら、タンク車を圧力容器にして数輌つなげば、エンドレスを何周かは廻るだろうと見当を付けている。

 当分先の話だが、ぜひやってみたい。ライヴは、まさに機構学の世界で、理屈どおりにしないと動かない。楽しみである。

 奇しくも昨日のコメントでその話が出て、ネタを明らかにしてしまった。

2013年09月07日

機構学

 機構学というのは工学の一分野で、英語ではMechanismという。
 鉄道模型とは何か、という問いに対する答で、筆者が一番高く評価しているのは、「鉄道模型から、色々なものを外して最後に残る本質はメカニズムである。」というものだ。若いときはそれほどでもなかったが、歳をとると、その意味が良く分かるようになった。
 実物を理解し、模型のサイズまで小さくすると何が起こるかも理解できなければならない。実物の動きをまねできる模型の構造に到達するのはかなりの修練が必要である。それが出来るとその走りは素晴らしい。

 先日のJAMでのクリニック(講演)の参加者から、いくつかメイルを戴いている。その中で、筆者の気持ちを代弁してくださったご意見を紹介する。

 

 今回の「等角逆捻り機構」にとどまらず、機構学的要素を模型造りに展開されているdda40xさんの取り組みには、大いに共感を覚えます。

 

 動くことを重要な要素としている、鉄道模型においては動かすための構造(機構)は重要です。ただしそれは、サイズの違いで実物と同じ構造がとれないが故に、模型独自のものでありましょう。車体全体を使った「等角逆捻り機構」も「三条ウォームによる可逆伝動」も然りだと思います。これらの機構を考案・実現することが模型造りを「科学」に昇華させる手段であると思います。かつてそう認められていたように。

 

 先輩諸氏が鉄道模型に取り組まれた時代は、動力や伝動装置を一から造り上げねばならなかったと思います。そんな中でも凝った大作が数多く生み出されてきました。翻って現状を見てみますと、模型雑誌の記事には、市販量産品に対してチョッと手を加えて見栄えを良くした程度のモノが取り上げられ、それとて「科学」の対極にある「アート」の域には程遠い、なんだか中途半端なモノが溢れております。


 伊藤 剛氏をはじめとする先輩諸氏のアイデアが現代の模型の根本にある。それらはまさにメカニズムの工夫なのである。最近模型雑誌を読まなくなったのは、その種のアイデアを紹介する記事がほとんどないからである。姿型のみに興味がある人が増えている。走らせてみると素晴らしいとは言い難い。
 最近は youtube などで動画が見られるが、素晴らしい走りを見せるものには、なかなかお目に掛からない。

2013年09月05日

続々々 「等角逆捻り機構の工夫」

片持ち台車 筆者には縁がないが、2軸車ならば片持ちロンビックの製作が最も楽であろう。支持点3点の高さが多少違っても、不具合は全く生じない。
 もちろん片方の軸に、押す引く両方の力が掛かって、その軸に対する依存度が増す。それを心配される方もいらっしゃるが、走らせてみて不具合を感じるほどでもない。

3 samples 23 samples 2台車の場合、作動が一番確実で、作るときに難しい手加減が不要なのは、第二の作例のパンタグラフ式である。見掛け上難しそうに感じるが、実際は一番楽に作れる。主要部分のスライド式の滑り込みの角棒と、リンク、関接ピンさえあれば、1台1時間くらいでできるはずだ。
 どこかの模型店が簡易キットを売り出せば、きっと売れるであろう。残念ながら、筆者はHOの知識が無く、標準となる寸法を知らない。どなたかHOの達人が、汎用性のある寸法を割り出されると良い。前にも述べたが、このメカニズムは車体の中心にある必要はない。車端に置けば、車室内部の造作を完璧に作ることが可能だ

 第三の作例は簡単そうに見えるが、バネの固さと長さが意外と難しい。最適値を見つけ出すのに苦労されるはずだ。しかし、一度その最適値を得れば、工作は楽かもしれない。

 2台車の車輌ではさほどの利点は感じないかもしれないが、2軸車では等角逆捻り機構の利点は大きい。集電が飛躍的に良くなるのである。
 
 筆者の鉄道では、これで貨車3輌が完成したので、レイアウトの片隅のぐにゃぐにゃ線路を走らせてみたい。その前にそれに対応する機関車も作らねばならない。

 クリニックの最後に正しい鉄道模型という言葉を出した。聴衆の中には「えっ」という顔をされた方もいらっしゃったが、これは大切なことである。模型を見る人の中には、たとえ趣味者でなくても、その道の専門家が居るかもしれない。
その方が、「なんだ、これは…」と感じてしまうような模型ではいけない。
「さすがだね。」という言葉が出るような模型を目指したい。これは、この趣味の社会的な地位を向上させる大きなポイントである。
 このような工夫をすることに冷ややかな態度を示す人もいるが、それはこの模型趣味の価値を下げることになるのだ。「貴方の趣味はその程度のものですか?」と言われて、嬉しい人はいないはずだ。

2013年09月03日

続々 「等角逆捻り機構の工夫」

図1 この写真で、大体の見当が付くと思う。曲がったバネはリン青銅の薄板で、前後同時に曲げて、弾力を揃えてある。硬いウレタンゴムのブロック上で尖ったセンタ・ポンチで押して、凹みを付けた。
 台車は自由に傾斜できるブロックに取り付けられ、それから上方に伸びた腕を付けた。ピヴォットはブラスの棒で、旋盤で削った。

horizontal swing motion 水平振子が振れると、バーサインによって、図のようにアームの実質的な長さが短くなる。もし、凹みを付けたバネを外から押し付ける形にすると、アームが振れた時の方が、アームが中心にある時より安定になってしまう。すなわち動作が不安定になる。だからバネは、中心に向かう力を生み出すように配置しなければならない。
 この図の方式では、赤で示す状態になると復帰できなくなる可能性もある。だから、外から抱きかかえるようなバネを作り、それに尖ったピヴォットが嵌る凹みを付けたのだ。台車のボルスタの振れを伝える部分は、キングピンの前後で支えるから、バネによる推力が与えられても軸重に変化は無い。この台車の振れを伝える腕が左右に振れると、多少のバーサインが生じて高さが変化するが、変位の角度が小さいので、それはバネの撓みで吸収されるはずだ。
 その点についてはN氏から質問があった。「まあ、問題ないでしょう。」と答えたが、それで間違いではないと思う。

図2 曲がった板バネは左右方向にはかなりの剛性を持つが、前後、上下には剛性が弱くなければならない
 板厚、曲げ半径を工夫して、一応満足できる形にした。たまに運搬中の衝撃でピヴォットから「脱線」するので、自動復帰できるように左右を曲げ、V溝にした。単純な形だが、意外と手間取った。

 この貨車はLobaughの薄板製で、車体は0.25 mmしかない。1/100インチである。衝突すると床板が原型を留めないほど変形するので、1 mm 板を貼り重ねて補強した。
 根本的解決のためには、他の2輌と同様、床板全体を厚板で新規作成すべきであった。いずれ作り直す予定だ。

2013年09月01日

続 「等角逆捻り機構の工夫」

 「いわゆるロンビック・イコライザとして紹介されている事例を詳細にチェックすると、4つの支点が完全に同一の平面には存在していない場合が多くあり、根本原理の理解が望まれる。」と述べたところ、何人かの方ががっくりと肩を落とされた。申し訳ないが、それは事実なのである。
 ロンビック・イコライザは、製作が難しい。アメリカで講演した時も、「そんな難しいものが出来るか!」と言った人が居る。工作の達人ほど難しいことが分かるのだ。だから、片方を略した「片持ちロンビック」の人気が高かった。こちらの方の特許を取るべきだと言ったのもその人だ。あとで考えると、全くその通りであると思った。

 筆者の作例を順に披露した。

 第一の例は交差フカひれ型の改良案であった。これは部品の重さをキャンセル出来ていないから、動きの均等性にやや欠けるところがある。

 第二の例はパンタグラフ式である。これの動きは皆さんに触って戴いたが、どなたも滑らかな動きに驚かれた。
これはHO用に基本部品のキットを作れば採用が増えるものと思うが、いかがだろう。エッチングで簡単にできるはずだ。

 第三の例は、3月末には作ってあったのだが、誰にも見せてなかった。水平振子であって、伊藤 剛氏の発案に近いが、多少の工夫を施してある。
 これについては、この記事とコメントおよびこのコメントをご覧戴くと、大体の見当が付くだろう。実はこの時点で、逆バネ機構はすでに完成していたのであるが、動作が不完全で、3回ほど作り直している。完璧な動作が確認できたのは5月である。
 バーサインの吸収はなかなか難しい。

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