2011年09月

2011年09月30日

炭素棒ハンダ付け装置のその後

 ようやく見積もりが上がってきて、価格交渉の最中である。当初は1万円を切る価格でと思っていたが、とてもそれでは収まりそうにない。トランスは二次線まで巻かない状態で納品ということはできないと言う。トランスの外形が大きくなったので、ケースも大きくなり、それが意外に高い。
 5V 20A の定格なので短時間なら30A程度流れても問題ない。1次タップを4段に切り替えるのでそのロータリィ・スウィッチが必要で、足踏みスイッチもある程度の高級品を使わないと踏む頻度が高く、壊れてしまう。
 出力端子も30Aに耐えるものを使用することにした。圧着端子で8φ用のを使うと、耐久性がある。

 トランスの二次巻線をテフロン線で細く仕上げようと思っていたが、十分な余裕があるので普通仕様の線を使うことにした。出力端子から先はテフロン線を使いたいところだ。

 ざっとであるが、今のところの積算金額は1万6000円弱である(ブラスの敷板は別途)。こんな価格では辞退したいという方は早めにお知らせ願いたい。
 これには炭素棒を保持する部材も含まれている。それは筆者が材料を加工中である。ブラスの丸棒を旋盤で切って穿孔し、ネジを切った。
 握りはヤスリの柄にちょうど良い大きさのものがあるので、その中を電線が貫通するようにした。圧着端子の締具を持っていない人が多いはずなので納品時に、それだけは締めて差し上げたい。

 PL法の適用外になることを承諾して戴く必要があり、それを念押しされている。事前に承諾書に署名して戴く必要があるので、2台申し込まれた方は、使用予定者の住所とお名前をお知らせ願いたい。文案は準備中である。

 使用する炭素棒は5mm径のもので、仙台の今野氏からの御提供である。筆者のプロジェクトに賛同されて無償で提供戴いた。感謝している。

2011年09月28日

続 Cheyenneへ

2445 シャイアンに行ったら、見なければならないものがある。
 それはBig Boy 4004である。駅から10ブロック弱、東に行けばホリディ・パークがあり、そこに鎮座している。
 1985年にここを訪れた直後に大雨が降り、公園が 2 m ほど水没した。その時、この機関車も水没した。良く見ると、公園はもともと窪地だったところを造成した様子で、周りの土地よりはるかに低い。この写真を御覧になれば、どの程度低いかはお分かり戴けるだろう。

24162415 以前は機関車はむき出しで置いてあり、中にヒッピィが寝泊まりしていた。そのせいで、キャブ内の計器、機器類は全て壊されていた。水害後、修復作業が行われ、塗装された。 周りにフェンスを作ったので、機関車に触ることができなくなった。あちこちに吹かれている赤褐色の塗料は錆止め剤である。

 この機関車はもともとシャイアンの機関庫に在ったもので、そういう意味では程度がよい。デンヴァの4005は、機関車自身は「調子が最高」(Tom Harvey氏談)であったが、廃車して使い切った状態で運ばれてきたので、動輪は擦り減り、悲惨な状態である。

24262434 しかし良く見ると部品が欠落している。コールド・ウォーター・ポンプ、インジェクタがない。チャレンジャ3985を走らせるために、補修用として共通部品を外したのだ。

2429 テンダはとても美しい。最後部の放水スプレィも原型を留めている。これは飛ぶ火の粉で後続の貨車が火災を起こすのを防ぐためという、にわかには信じられない目的のために付けられている。増炭板も健在である。

2011年09月26日

Cheyenneへ

2220 デンヴァでレンタカーを借りていたので、近いシャイアンに行った。1時間半くらいで到着する。途中の景色は特にない。祖父江氏を案内してTom Harvey氏に迎えに来てもらった時も、祖父江氏は「一時間寝ても同じ景色だ。」と言った。単なる草原が続いていて、牛がところどころに居る程度だ。石油の井戸もたまにある。

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24832482 シャイアンの駅は、何度行っても立派であると感じる。意匠が素晴らしい。すでに旅客駅の機能は全てとりはらわれ、一部を博物館にしている。 プルマンの展示があったのでじっくり見てきた。

25002504 駅の西の方に行くと、旧Colorado and Southern(現BNSF)の高架橋がある。この下で撮ったBig Boyの写真はたくさん発表されている。
 その高架橋の西で順光になるように、西行き列車を待った。待つこと10分、「今日は来ないな。」と思った瞬間、汽笛が鳴り響き、4重連がダブルスタックなどを120輌牽いて突っ走ってきた。突っ走る、というのが非常に妥当な表現である。時速80キロほどで通過して行く。地響きがしてかなりのインパクトがあった。もしここで何かの間違いで脱線したら、線路の周り100メートル幅で車輌が散乱し、筆者も巻き添えをくらってまず助からないだろうと思えるほどの勢いであった。
 シャイアンの駅構内は平坦なのでここで、勢いを付けて、シャーマン・ヒルを登ろうというわけだ。その点、この駅から出発する列車は大変である。

2011年09月24日

続々々々々 Caboose Hobbies

2211 これはブラス製HOディーゼル電気機関車のセクションである。たくさんあるが筆者には見当もつかない機種が多くなった。蒸気機関車のセクションは撮ったのだがブレているので割愛する。


2204 レイアウト用品のセクションである。奥にある水槽のようなものはレイアウトで、柱に付けられた大きな赤いボタンを押すとしばらく走る。



2203 ここはスクラッチビルディング用の素材売り場である。天井からは本物の機関車パーツがぶら下がる。



2210 Gゲージの木橋である。ときどき列車が周回して来る。




 カブース・ホビーズには2時間強滞在したが、本を何冊か買っただけで模型関連の商品はまたく買わなかった。店の一番奥ではブラス機関車の修理部門があって、顧客の持ってきたHOの蒸気機関車を修理していた。
 筆者が見ていると、その客が「難しい手術だ。彼は脳外科医より優秀だ。」とウインクしながら言った。この店が繁盛するのはこのあたりのことが大きいのではないかという印象を持った。

2011年09月22日

続々々々 Caboose Hobbies

2205 これがrailtruck氏御所望のレイアウトの写真である。
 「筆者の好みの対極にある」とは、よくおっしゃったものである。まさにその通りで、通り過ぎたのだが、誰か興味のある人もいるだろうと思って写真を撮りに戻った。ガラス越しなのでオート・フォーカスを切って撮った。
 一番下にあるのはまさにrailtruckである。その他色々なものがこれでもかと詰め込んである。これは有名なレイアウトであるそうな。

2206 これはそのレイアウトの隣のレイアウトである。このレイアウトは先のレイアウトに比べるとやや普通である。上空にある黒い影は飛行物体である。


2207 これもガラスの影響で写真を撮るのは難しい。右の方に反射が出てしまった。手で覆うのを忘れたのだ。
 彩度が低く、好感が持てる。日本の模型屋のレイアウトにはほとんど見られない色調だ。

2208 この写真には上の飛行物体が写っている。 




2209 この説明によると、このレイアウトは特別な道具を使うことなく、店内にあるものだけを使って出来ると書いてある。また下の図の説明は、どの商品かということを示している。

2011年09月20日

続々々 Caboose Hobbies

219121942193 正解はPlymouthの2ftガソリン機関車である。タイプCL Friction Driveである。railtruck氏は何でもよくご存じで驚く。
 この摩擦駆動の現物を見るのは初めてで、じっくり見てきた。20分も身動き一つしないで中を覗き込んでいたら、「大丈夫か」と声を掛けられたほどだ。動作する様子の動画は何度か見たことがある。 

21982200 この円盤はエンジンの軸に付けられていて、こちら側にある被駆動軸の円盤に接触すると動き始める。起動時は中心近くに押し付けると減速比が大きく、大きな駆動力を出すことができる。走り始めたら、徐々に円周近くに接触点をずらしていくと速度が大きくなる。もちろん駆動力は小さくなる。前後の軸の連動はチェインである。中心に近いと接触部の円周差が大きくなるので多少効率が下がるだろう。

2202 無段変速であって、この被駆動軸を左の方に動かせば、それは逆転することになる。単純明快な構造である。被駆動軸を圧着する力の掛け具合で半クラッチ状態になり、滑らかな起動になる。
 回転部分が露出しているので巻き込まれないかが心配だが、それはこのめっきされたカヴァで克服してきたのだろう。被駆動軸の材質は綿のような感じであるが、石綿かも知れない。駆動側は鋳鉄のような感じである。

 プリマスという発音だが、日本では「プリムス」という綴りをよく見る。これはたぶん自動車の名前からきているはずだ。戦前に輸入されたとき「プリムス」という呼び方が定着したのだ。
 筆者はこの車にはあまり良い印象がない。1970年代のpolice carはほとんどPlymouthだった。大きなエンジン(7.2L)を付けていて、すごい加速で追いかけてきた。

2011年09月18日

続々 Caboose Hobbies

2196 これは塗料売り場を反対側から見たところだ。この扉が昔の入口である。この画像の左端に何か写っている。これは何だろうか。



2212 この種の図面集は、日本では全くと言って良いほど刊行されない。製鉄所、選鉱所などの鉱山施設、製材所、製油所などの工場の図面集である。これらを見てそのレイアウトを作るのだ。興味深いものがいくつかあって、時間が経つのを忘れて見入った。

2188 さらに次の通路に行こう。この通路には最終番号12が付いている。12本も通路がある模型屋は珍しい。
 ここには、雑誌、比較的薄いノウハウ集、ポスタ、カレンダの類がある。この奥のガラスケース内にはブラスの機関車類がたくさんある。その左にあるものは何だろう

21892190 これらはOスケールである。珍しくないものしかない。しかも展示数が少ない。筆者にはあまり興味がないものばかりだ。価格は高くなく、安くもない。たまたまその機種を探し求めている人にとっては良い価格であろう。このあたりの値付けを見ると、かなりの経験を積んだ人が値段を付けていることが分かる。傾向としては、アメリカ製の車輌は安く、韓国製は高い。日本製は相対的に安い。

2011年09月16日

続 Caboose Hobbies

2183 さらに順に奥の通路(isle)に行こう。 最初の写真ではロストワックスパーツの展示である。一応、カタログに載っているものは全て並べることにしているらしい。かなりの数である。この「アイル」という語はもともとは教会の座席の通路を意味した言葉で、列車や飛行機の通路になり、スーパーマーケットの通路を表すようになった。まさか模型屋でこの「アイル」という言葉に出会うとは思いもしなかった。

2184  この壁が旧店舗の境界であった。要するにここまでが半分で、昔の店舗はこの壁より右手であった。当時は大通り側には狭い入口が一つしかなかった。通りから店内を見ることができなかったように思う。
 ロストワックスと機関車などの機種別の資料集である。初めて見る資料がたくさんあり、思わず買ってしまった。 
 

2185 この店に来て良かったと思ったのはこのセクションである。ずいぶんと沢山の書籍があり、どれも開いて見ることができる。ここでもいくつか買ってしまった。
 この通路の一番奥にはアクリルガラスのケース内に小さなレイアウトがある。railtruck氏が御所望なのでいずれ詳しく紹介する。

2187 この通路には塗料、塗装用品がたくさんある。日本には入っていない種類の塗料があってうらやましい限りだ。特にフロクイルの缶入りスプレイは欲しい。
20年ほど前大量に買って帰ったが、ほとんどが封を開けないままガスが抜けてしまった。仕方なく、孔を開けて出し、エアブラシで吹いた。

2011年09月14日

Caboose Hobbies

2178 話を元に戻そう。カブースホビィの店の話である。
 店に入るとレジがあって、「中に入るには全てのカバン類をここで預けよ。」と大書してある。仕方がないからそこに居たおばちゃんに預けた。彼女は「ようこそ」と言い、「日本人か。」と聞く。
 「そうだよ。」と言うと、「日本にはお客さんがたくさん居る。通信販売でたくさん買ってくれるよ。わけの分からない英語を書いてくる人もいるが、いいお客さんだ。ところで、前にも来たことがあるか?」と聞く。
 「26年前に来たことがある。広くなったね。」と言うと嬉しそうに、「私たちのビジネスは好調だ。」と言う。

 色々と話を聞くと、ブラスエンジンに詳しいスタッフを揃え、在庫を増やしたことが成功につながったと言う。「よそにはこのスタイルの店がないからね。」ということだ。ただし、それはHOの機関車であり、Oスケールの在庫はほとんどない。しかしライオネル、MTHなどのOゲージはたくさんある。

2179218021812182 「日本に行ってみたいが仕事が忙しい。」とか、「日本の模型界の様子を教えて欲しい。」とかいう話が進んで、店内になかなか入れない。一通り話が済んで中に入った。もちろん写真撮影の許可を得た。「どうぞ、日本の人たちに宣伝してね。」とのことだ。
 入口から各通路を順に撮影して行く。3番目の写真はMTH,AtlasなどのOゲージである。 一番ゲージの商品の面積が非常に大きい。商品が大きいので当たり前かもしれないが、良く売れている。ちょうどレイルを山のように買っていく人が居た。
 話を聞くとレイアウトを作っているという。広さは家の周り全周と言っていたので見当がつかない。
 

2011年09月12日

Denverの空港

 話は前後するが空港について書こう。
 デンヴァの空港に行ったのは26年ぶりである。祖父江氏を案内して出掛け、UPの機関士Tom Harvey に迎えに来てもらったのだ。その時の空港はStapleton空港であった。比較的小さな空港で、迷うことなく会えた。それ以来、車で通ったりしているのだが、空港には行ったことがなかった。郊外の農地の中に引っ越し、遠くなったがとても広い空港になった。ダウンタウンから45分も掛かる。移転前の空港は取り壊されて住宅地になった。

 この空港は標高が高いので、飛行機の離着陸の角度が小さい。また滑走路がとても長い。空気の密度が小さく、揚力が小さいからだ。特に夏は気温が上昇するので空気の密度はますます下がる。
 旅客ターミナルのいたるところに酸素ボンベが置いてある。高山病で倒れる人がいるからだ。標高が高いと言っても1600 mほどである。荷物を受け取るBaggage Claimにはスキー専用の長いものを縦に入れて回転するキャラセル(ベルトコンベア)がある。
 
2215 相変わらずTSA(運輸保安局)の検査は厳しく、筆者のように金属製品を多量に持っているとスーツケースは開けられる。検査に便利なように、全ての細かい部品をポリ袋に入れて外から見えるようにしてあるのにナイフで一つずつ底を切ってぶち撒ける。スーツケースの中には衣類にまぎれて細かい部品が散乱している。困ったものである。苦情を書いたが、紋切り型の返事しかよこさない。
 身体検査は厳重を極める。ポケットの中のものは全て出させ、ベルトを外し、靴も脱いでボディスキャンをする。六角形の大きな電話ボックスのような機械がそれである。試しに胸ポケットにデンタルフロス(歯の隙間の清掃をする糸)を入れておいたら、見事に検出され、「胸ポケットに何か隠している。」とスピーカが怒鳴った。出すと「なーんだ。」というわけだ。あんなに軽いプラスティックの箱まで検出するのだから、大した性能ではある。

 この「なーんだ」というのは勝手な訳で、現場では”No wonder”(どうってことない)と言ったのだ。この言葉は筆者には昔から「なーんだ」に聞こえる。意味も似ていて、日本語と英語が同じ音に聞こえる珍しい例である。

 機関車は機内持ち込みの小さいバッグに入れ検査を通す。ダラス・フォートワース空港では暇な時間帯だったせいか、「おい機関車だぜ、見てみろよ。」と職員が寄ってたかって見ている。縦横から透視して遊んでいるのだ。アメリカから引っ越して来るとき、同じようにみんなで見て、ちっとも通してくれず、家族で飛行機に乗り遅れたことを思い出す。あの時は家族全員の機内持ち込みバッグに機関車を一台ずつ入れたのである。時間がかかるわけだ。

 この空港のトイレは妙な構造である。入口がつぶれたS字になっていて、急いで入ろうと思っても時間がかかる。Tornade(竜巻)に襲われた時に逃げ込むシェルターの役割を果たしているからだ。と言うのは天井は合成繊維のフィルムで剛性がない。竜巻が来たときには破れるかもしれないということを予測しているのだろう。鉄筋コンクリートの建物でないと竜巻の被害は防げないのだ。もちろん、トイレはとても頑丈に作ってある。 

2011年09月10日

テキサスでの予定

 テキサスではいくつかの予定があったが全てキャンセルされてしまった。いつもデニスの家に行ってロストワックス三昧なのだが、今回は、「それではつまらない。あちこちの友達のレイアウトを泊まりがけで見に行こう。」ということになっていた。Austinという町にはSanta Feを題材とした素晴らしいレイアウトがあるとのことで、それらの訪問を楽しみにしていたのだ。ところが、先方から、「妻が入院することになった。」「体調がすぐれないので明日から検査入院する。」などと次々と連絡が入った。
 Dennis曰く、「我々はこの趣味の世界ではむしろ若い層なのだ。素晴らしいレイアウトは、我々より上の世代が持っている。いずれ見ることができなくなる。」と言うのだ。世代の高齢化というのは日本だけではない。
 しかし、そのレイアウト付き住宅はいずれ誰かが買い取ると見ている。日本でもそうなると良いのだが。

 仕方なく、ギヤボックスの調整などをした。スラスト・ベアリングにはワッシャ状のものが二枚ずつ入っている。それらは同寸法ではない。片方の孔が1/100 mmほど大きい。軸が摩擦なく回転しなければならないからだ。
 デニスはそれに気付かず、できたギアボックスの動きが渋くて困っていたのだ。マイクロメータで測定すると微妙な差があり、納得した。二枚を識別する何かの印でもあればよいのにと思う。
 デニスは進呈した6個のギヤボックスをディーゼル機関車に取り付けた。押して動くのは素晴らしいと大喜びだ。

2177 テキサスを発ち、Denverに向かった。人と会って仕事をした後、久し振りにCaboose Hobbiesという模型屋に行った。26年ぶりである。以前とは場所が変わっているような気もした。店はずいぶん広くなっている。

 筆者は模型屋という場所にはあまり行かない。行っても仕方がないからである。欲しいものはそこにはほとんどない。今回も何も期待はしていなかったが、有名な模型屋であり、たまには行こうという気になった。デンヴァの旧市街の中心近くにある。メインストリートであるBroadwayの500番地である。 

2011年09月08日

津波被害の機関車の修復

 津波で海水に浸かった機関車を修復するプロジェクトがクラブ内で進んでいる。捨て去るにはあまりにも惜しい記念碑的な機関車をなんとか救いたいと、クラブ員が努力されているのだ。頭が下がる。
 筆者も、アドヴァイスを求められている。

 モータはまず駄目である。というのは海水に浸かっているうちに、イオン化傾向の差で鉄が急速に溶け出し、錆になる。銅と鉄が組みあわさっているので、全体が電池を形成することになる。コイルは絶縁してあるのだが、水につかれば絶縁紙が膨張し、あちこちでショートして部分的な電池を形成してしまうからである。真水であれば洗って乾かせば何とかなるが、塩水ではどうしようもない。伊勢湾台風の時、水につかった機械の修復を父が指導していたが、海水に浸かったモータは全部ばらしてコイルを巻き替えていた。模型用モータのコイルを巻き替える人はおそらくいまいし、より高性能なモータに取り換えるのが普通だろう。

 ブラス部分は物理的に錆びを落とせばよいが、問題はダイキャストである。これは亜鉛合金を高圧で型に入れたものである。亜鉛のイオン化傾向は大きく、銅合金と接触した状態で海水という電解液に入れられたので、亜鉛は急速に溶けていく。尤も、中性条件なので反応速度は多少小さく、溶けだしたイオンは水酸化物として析出する。亜鉛は両性元素なので、その水酸化物は酸にも塩基にも溶ける。酸で洗えば他の金属が溶けるが、塩基なら水酸化亜鉛だけが溶ける。
 
 強塩基は危険で一般家庭にはない。その代わりになるかなりの強さの塩基の作り方を紹介する。炭酸水素ナトリウム(いわゆる重曹)を水に入れて3分間煮沸すると炭酸ナトリウムに変化し、pHは12程度になる。この操作はステンレスなべ中で行う(アルミの鍋は反応するおそれがある。)
 
 はたして錆を落としただけでよいのかどうかは分からない。亜鉛ダイキャストは、粒間腐食割れという現象が起きて体積が膨張して割れる。腐食によってそれが助長される可能性もある。それは何年後に起こるのかは分からない。しかも、一部の亜鉛合金の中にはマグネシウムを含むものもあるので、それは海水中ではかなりの速度で溶け出す。
 もし筆者が「どんなことをしても良いから何とかせよ。」と言われたら、真空電気炉で加熱し、中に潜り込んでいる水、気体を排除し、そのまま真空樹脂充填する。しかしあまりにも高度な処理で、それを一般人が行うのは無理だ。

 クランクピンが鉄であると、その部分は電位差の影響で錆びやすい。これはブラスにねじ込まれた場合である。
亜鉛ダイキャストにねじ込まれている場合は亜鉛が犠牲電極になって、ピンは錆びにくい。
 ダイキャストは、色々な意味で不安定である。筆者がブラスにこだわるのは、それが一番安定であり、1000年以上の寿命を持つからである。ダイキャスト部品は外して、ブラスのロストワックス鋳物にするのが筋であろう。

 錆を落とす物理的方法は、サンドブラストが一番楽である。これは最近ホームセンタで安く売っている。少々埃が出るので、屋外でやるのがよい。そのあと超音波洗浄機で良く洗って注油する。

2011年09月06日

続 フラックスの役目

 塩化亜鉛飽和水溶液の沸点は極端に高い。薄くても加熱によって水が蒸発するから、飽和溶液になる。この時、沸点は320℃を超える。これは、化学実験で反応容器を高温に保つ時の熱媒体としても使われるほどなのである。もちろん、その中では多少の加水分解が進み、塩酸が生じ、それが銅などの酸化物を溶かす。
 すなわち金属容器は溶ける可能性があるから、ガラス容器で加熱を行うというのは常識である。
 
 ハンダ付けの最中は250℃ほどであろうから、その加熱時間中に母材表面がきれいになるというわけである。
 昔から建築板金職人は塩酸を使っている。人により、その中にトタン板の切れ端を放り込み、表面の亜鉛を溶かす人もいた。要するに塩化亜鉛と塩酸の混合溶液である。この時、地金の鉄板はイオン化傾向の差で溶けず、水素を発生させる触媒として機能する。そうして作った液を、竹の串で相手に塗りつける。竹の串は先を潰して細かく裂き、液が保持されるようになっている。

祖父江氏の塩酸入れ 祖父江氏は希塩酸を湯のみに入れ、それが倒れないようにブラス板で作った支えを付けていた。やはり竹串を使うのだが、節を利用して上まで塩酸が滲みて来ないようにしていたのが興味深い。

 日本ではあまり採用例がないが、塩酸から生じる塩で熱分解しやすいものなら何でもよく、塩化アンモニウムでも良い。これは200℃くらいで分解して塩酸とアンモニアになる。アンモニアは多少臭いが、分子量が小さいのですぐ拡散するし、どこにでも多少はある物質なのでさほど気にならない。残る塩酸は酸化物を溶かす。

 いわゆるペーストの中には酸性ペーストもあって、塩化亜鉛、塩化アンモニウムを大量に含む。それでは普通のペーストでは何が働いているのであろうか。松脂の中にはいくつかの有機酸が含まれ、融けた状態ではそれが酸化被膜を溶かす。獣脂は加熱によって分解し、グリセリンと脂肪酸になる。脂肪酸も弱いながら多少の溶解力を持つ。

 大気中に酸素がなければ、一度磨いた金属は錆びないから、フラックスなしでハンダ付けできる。伊藤剛氏がクラブ内での会報に興味深い漫画を描かれた。宇宙服を着て、月面で機関車のハンダ付けをしている絵だ。
「何もここまで来てやることもないだろうに…」とつぶやく同僚飛行士を尻目に楽しんでいる誰かさん。

 一度使ってみたいのは、超音波を発するコテである。それを母材に当てると、酸化被膜が壊れて母材が露出する。すなわちフラックスなしでハンダ付けが完璧にできる。どこかの研究室が捨てるときが来れば、声を掛けてくれるよう頼んであるが、難しそうだ。

2011年09月04日

フラックスの役目

 帰国して3日目だが時差調整が、なかなかできない。どうしても朝早く目が覚め、夕方から眠い。以前は2日で何とかなった。これも老化の一つの形なのであろう。
 炭素棒ハンダ付け装置はたくさんの申し込みを戴いたので、電気屋の社長にも頼み易くなった。これで申込は締め切らせて戴く。

 留守中に戴いたコメントに興味深いものがあった。アース板に鉄板を使うというものだ。これは一理ある。鉄の電気伝導度は比較的大きく、厚い板でしかも距離が近いから、電気伝導性ということでは全く問題ない。磁石が付くからそれで押さえるのは良い考えかもしれない。問題は錆びである。
 
 日本の模型人でブラスのハンダ付けにいわゆる油性ペーストを用いる人はほとんどいないだろう。筆者はたまに使うが、塩化亜鉛水溶液の方が楽である。接合部をあまり磨かなくても必ず付くからだ。すなわち、塩化亜鉛は表面の酸化被膜を溶かす力がある。塩化亜鉛の水溶液は酸性が強く、金属酸化物を溶かし金属面を露出させる。そこに融けたハンダがその表面をぬらし、金属結合を形成する。ペーストは磨いた母材金属面を覆い、酸化されないようにするのが主目的で、積極的に酸化被膜を取り除くわけではない。
 日本では松脂を使うことが多いが、昔、他国では獣脂を使うこともあった。すなわち、油気を取らねばならないというのは説得力がない説明であり、むしろ良く磨くべきというべきである。

 さて、鉄でも油性ペーストでハンダ付けができるが、かなりきれいに磨かないと付きにくい。塩化亜鉛であれば、一瞬でハンダが母材をぬらして滲み込むのが観察される。塩化亜鉛は鉄の表面も溶かしているのである。

 「鉄は錆びにくい金属である」と書くと、正気を疑われそうであるが、事実である。磨かれた鉄の表面には水を含んだ酸化被膜(不動態膜)が形成され、そう簡単には錆びない。現実には大気中の硫黄酸化物、海塩の微粒子などが結合し、その酸化被膜を破るので錆びが進行する。
 例えばこのような実験が可能である。鉄板を磨き、机の引き出しなどに入れて十日ほど待つ。たぶん錆びていない。その一部に塩化亜鉛水溶液を付け、5分経ったら、水で洗い落とす。乾燥してから、また引き出しに入れ、十日ほど経ってから観察する。
 不思議なことに塩化亜鉛水溶液が付着したところだけ、錆びが発生する。塩化物イオンが不動態膜を壊したのである。全体をよく磨けばまた錆びにくくなる。ハンダ付けの時に押さえに使うペンチなどは、いくら洗っても赤さびが発生するのはこのせいである。
 筆者は高級な鋼製工具はハンダ付けの現場周辺には置かない。押さえには、某国製の安物しか使わない。また、発生する煙霧(fume)は全て強制的にフィルタでろ過する。塩化物イオンを含む霧が拡散すると、機械、レイル、車輌、配線が腐食されるということである。

 要するに塩化亜鉛を使うハンダ付けを常套手段としているアマチュアは敷板として鉄板を使うことは避けるべきである。毎日多量のハンダ付けを行うプロであるなら、錆びる暇がないだろうから、それはそれで価値があるかもしれない。亜鉛めっきした鉄板は錆びにくいが、いずれ亜鉛が擦り減るので同じことである。

 アルミ板を敷板にするのはどうかという質問もあった。利点としてはハンダが付かないということであるが、厚いブラス板は、熱容量が極端に大きく、そう簡単にはハンダが流れることがない。そこまで加熱すると、ワーク(工作の対象物)がばらばらになるであろう。また、アルミ板の表面は透明な酸化被膜で覆われていて、電気伝導性が良いとは言えない瞬間がある。その時火花が散って、ワークにキズが付くこともあるだろう。

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