2010年12月

2010年12月30日

続々々々 慣性を増大させる装置

 増速装置をどんな構造にするかは少々悩む。
 各軸同じように取り付けられたギヤボックスの上にギヤボックスを重ねてつけるのは、せっかくイコライズしているのに意味がなくなる。なるべくバネ下質量を小さくしておきたい。たいした質量ではないはずであったが、試作してみるとかなりの質量で驚いてしまった。
 駆動軸から平行にユニヴァーサル・ジョイントで動力を取り出し、床上に固定した増速装置につなぐ。
 スパーギヤで増速すると大きい方の歯車の収納に頭を悩ます。筆者は「全ての歯車は密閉式ギヤボックスに収める。」という主義であるので、大きな防塵ケースの取り付け空間を探すのは難しい。

 遊星ギヤのシミュレイタがここにある。この作動は小学生のころから興味があった。これを画面上で確認できるのは嬉しい。
 
 以前から気になっているものに、タミヤの遊星ギヤのキットがある。定価は1500円であるが、カーボンブラシ付きモータが付属していて、それにも興味があった。
 購入して内部を調べた。歯車の材質はエンジニアリング・プラスティックとあるので、油をつけても大丈夫なのだろう。
 子供のおもちゃとしてはよく出来ているが遊星ギヤの保持をしているキャリアがゆるい。3つの小さな遊星ギヤが完全な円運動をするとは思えない。ジャラジャラと音がするのは、その結果のような気がする。これを採用するのなら、その部分を作り直す必要がありそうだ。
 また大きなエネルギ伝達をするので、遊星ギヤ軸にもボールベアリングが必要であろう。
 
 このキットには1/4のセットと1/5のセットが2個ずつ入っているので全部を組み合わせると1/400というギヤ比も可能である。その1/4のセットの遊星ギヤが正三角形の頂点にはないことに気が付いた。
 多分サン・ギヤ(中心の歯車)とのかみ合わせの問題で遊星ギヤを保持する三角形のキャリアが変な動きをしたのだろう。3つのギヤに同じ力が掛かる位置を探してこうなったのだと思う。あまり賢明な設計とは思えない。歯数が少ない(14枚以下)であるから、通常の歯形では駄目である。

 実物は車の自動変速機の中にあり、はす歯歯車を使っているので噛合い率が一定でこのようなことは起こらないはずだ。普通の歯車では、噛合い率が低ければ歯を蹴飛ばす音がし始める。平行軸ドライヴならそれだけのことであるが、遊星ギヤの場合は、キャリアに不等な力が掛かって踊り始める。このようなことが分かったので、遊星ギヤホルダは別途ボールベアリングで二重軸にして支える必要が出てきた。改造は大変だ。根本的な設計変更が必要である。 

2010年12月28日

続々々 慣性を増大させる装置

 この5軸イコライザの基本概念は長年温めてきたものである。主釣り合い梁を二つに折れるようにして衝撃力を緩和するのであるが、撓むと軸距離が縮む。それでは、支点を最初からやや高めにしておくとどうなるか。
 実は、今回のレーザ・カットの不具合で、いくつかのイコライザ部品を手作りした。そのときに一つの部品をやや長めにして支点を上げたのである。

versine伊藤剛氏 近影 図をご覧戴くと分かるが、折れたイコライザはまっすぐになると伸びる。その差は僅かではあるが軸を平行に出来なくなる。この伸びを"versine"と呼ぶ。この言葉は伊藤剛氏から教わった。日本の設計現場では「バーサイン」と言うのだそうだ。
 ほんの僅かな差であるが軸距離を伸ばすことが出来る。この不具合を良い方向に持っていけないかと考えた。(右の写真は伊藤剛氏近影)

Challenger's 5-axle truck equalizedSelf Stearing 5-axle Truck この重いテンダは横向きの加速度が与えられれば、外に傾くだろう。何しろ 大きな質量のあるフライホイールがかなり高いところに取り付けてあるので、重心は高い。すると外側の軸距離が少し伸びる。もうあとは書かなくてもお分かりと思うが2軸と3軸が操舵する。5軸の固定台車ではなくなるのである。この方法を採用することによって、摩擦が減り、センティピ-ド・テンダの走行性能は大幅に改善されるであろう。バネを分散させて、全てのイコライザ・バーをこの方法で伸びるようにすると、面白い動きを示すであろう。

 軸の上下によるバーサインは無視できる範囲にあるが、車体からの荷重変化は無視できないので、有効に働くものと思われる。イコライザが折れるのに対抗するバネは、当初の設計値よりやや強くして釣合い点を上げてある。この引きバネは、もう30年も前からこのアイデアを温めつつ保管してきたものである。アメリカで飛行機の整備をしていた友人から貰った物で、何の部品かは分からないが、へたらないバネである。

 ボールベアリングはイコライザの孔の中に接着剤Super Xで埋め込んである。左右の片方の車輪が持ち上がると、ボールベアリングは微妙にこじられる形になる。これを複列にしてキャノンボックスにすると構造はあまりにも複雑になるから今回は割愛した。
 いくつかのメーカのボールベアリングを購入して一番ガタの大きい物を使った。某国製のラジコン用と称するものである。安価で驚いた。異常を感じたら差し替えるようにする。取り外しの容易な場所だから問題はなかろう。

2010年12月26日

続々 慣性を増大させる装置

Lifting 2 Axles of a Challenger's Tender Challengerが就役した当時は、各地に大きなターンテイブルが用意されていたわけではなかった。しかし、これは使い勝手の良い機関車で本線上のみならず、支線にまで入っていく。デルタ線で廻すのだが、どうしても機関庫に入れたいこともある。その時にはテンダの後ろ2軸をはみ出させる位置に停車させ、少し前進し、後部5軸の中央に楔状のものを噛ませる。そしてバックするのだ。するとイコライザの可動範囲を超えると動かなくなるので、そこで無理に持ち上げることになる。ゆっくりだから壊れない。こうすると、後ろ2軸は宙に浮く。そこでターンテイブルを廻す。この写真はLou Schmitz著 "Union Pacific Trackside" の p.13からお借りしている。原本は天然色である。UPの機関士Tom Harveyは「インチキな方法」と言っていたが、極めてゆっくり行うのだから壊れることはない。
 Big Boyは専用区間以外、出なかったので、このようなことはしていないはずである。

inertia tender さて筆者の模型は7軸中6軸、しかも軸重を考えると6/6.5で動力採集し、それを増速して慣性モーメントとして蓄える。
 ラフな計算であるが、質量が40倍以上増えたのと同じ効果を作り出すことが出来ることになる。摩擦力がほとんど変化せずに慣性が増えるので、実物の1/2位は楕行出来るはずだ。

 テンダの設計質量は約4.5kgで機関車と同等以上である。おそらく、巡航速度で走っている状態で電源をOffにしても、筆者のレイアウトを1周以上するだろうと推測する。機関区での単機のスリップも見事に再現できるだろう。 
 機関車は不整な線路上をある程度の速度で走り、カーヴを曲がり、脱線や軽度の衝突もする可能性がある。そのときにこの巨大なフライホイールが壊れないような設計が必要だ。
 前回ディーゼル機関車に取り付けたときは、少々大きめのスラスト・ベアリングを用いて、衝突に耐えるようにした。実は、当初ラジアルベアリングだけで作ったところ、連結時のショックで玉が抜けてしまったことがある。
 その後スラストベアリングをつけた。普段は力が掛かっていないので、無くても良いように感じるが、非常時には確実に働いている。

 問題はもうひとつあって、この程度の速度ではジャイロ効果が出てくるので、単一回転体ではカーヴを曲がりきれない可能性もある。同程度の慣性モーメントを持つ二つのフライホイールを反転させることも必要かもしれない。上記の図ではその概念を示しているが、反転装置を作るかどうかは後半を作ってみての判断となる。また、反転装置は遊星ギヤ装置でもできるのでそれにするかもしれない。
 テンダの中身はブラスの円筒でぎっしりだ。この種の材料は非鉄金属回収業者(クズ屋)で調達する。行きつけの業者はこちらの好みを知っているので、使いそうなものを脇に除けて置いてくれるので助かる。

2010年12月24日

続 慣性を増大させる装置

5-axle Equalizing 軸重は700 g重を超えるだろう。固定軸ではすぐ壊れるだろうことは自明だ。個別のスプリングでは、重い車体が勝手な動きをするのを止められない。この解決法はやはり3点支持のイコライジングしかない。もちろんバネ懸架でないと壊れる。

 動力採取用のギヤボックスは2軸ずつを結ぶのは合理的であるが3軸目は難しい。線路の不整によって車軸が上下しても推進軸は曲がらないからだ。5軸のうち離れた2軸ずつを互いにユニヴァーサル・ジョイントでつないで、中間の1軸からの動力採取は、諦めてしまえばよい。軸重を減らしておけば、損失は少ない。この設計では他軸の半分にしてある。
 
Equalizing Mechanism 前部の2軸台車は、揺れ枕で懸架して復元力を稼ぐと同時に、三点支持の支点として機能する。落ち着いた走りを期待できる。

 実物のChallengerのテンダはなぜこのような三点支持の設計手法を取ったのかという解説は読んだことが無い。
 実物の超大型テンダ、例えばSanta Feの4-8-4などのテンダは箱型テンダである。それに4軸の台車が付けられているが問題が無いわけではない。不整線路面でねじられると、車体の剛性が大きく脱線の可能性が指摘された。この構造では三点支持にできないからである。実物は車体が柔かいというのが前提になっている。電車などは、脱線すると車体がねじれているのが目で見て分かる。
 旧型電気機関車の車体など剛性がほとんどないペラペラの箱である。だから前後の台車はそれぞれ三点支持になっていて、その台車の上に四点支持で車体が載っていても、全く問題なくねじれに対応する。ところが模型は肉厚の材料で作られた車体を持ち、剛性が大きい。すなわちねじれないから、実物どおりに設計すると、線路のねじれには対応できない。この辺りのことは無理解な人が多く、「本物通りだからすばらしい」と思う人が大半だ。

 さて、Challengerのテンダは超大型で剛性が高い構造を採ったので、どうしても懸架装置に工夫が必要であった。一番簡単なのは、蒸気機関車の懸架装置をコピィすることで、この前部台車で一点、後部台車で二点の方式に落ち着いた。
 本線上はともかく、機関区、側線などの保線のしてないぐにゃぐにゃの線路を踏破する能力の大きいのは、さすがである。さらに、小さなターンテイブルで廻すことが出来るのも、この懸架方式の隠れた大きな利点であった。

2010年12月22日

慣性を増大させる装置

equalizing plan この図面をご覧になれば、軸重配分がお分かり頂けるはずだ。均等配分ではない。例によって、作図はnortherns484氏にお手伝い戴いた。
 この5軸のうち1軸は脱線しない程度の軸重しか掛かっていない。残りの2軸ずつには均等荷重が掛かる。それらにはギヤボックスが付く。ギヤボックスは動力伝達用ではない。慣性増大装置へ運動エネルギを出し入れするためのものである。

uneven weight distribution これは古いLobaughのChallenger 4-6-6-4のテンダ台車である。軸配置は4-10-0とでも言うべきである。古いLobaughのキットを3台同時に組んでいるが、1台だけオリジナルのテンダがあった。そのテンダには砲金鋳物製の台車が付いていた。その台車は非可動で、速く走らせるとポイントで飛び上がる。またジャーナル(車軸の末端部分)も折れる。(現実に1本折れていた!)この側面の鋳物を可動にしようと思うとかなりの加工をせねばならず、なかなか良く出来ている鋳物を壊すのは少々忍びなかった。外観を保存して、なおかつイコライジングしたいので、内側台車にするしかなかった。この鋳物は製造後60年も経つのに、塗装されたものを見るとなかなか味がある。造形として優れているのだ。

 この重いテンダの中に高速で回転するはずみ車を付け、車輪からの回転力を伝える。はずみ車は直径50 mm弱の砲金の連続鋳造の肉厚円筒である。長さ 180 mm で 1.8 kgある。これを車軸の回転数の数倍で廻すと、かなり大きな慣性を持たせることが出来るだろう。

 以前にも述べたが、機関区で単機の機関車がスリップしながら走り出したり、止まる時に動輪を逆回転させているのを見た。本当はやってはいけなかったらしいが、よく見た。模型ではそのような芸当はできない。列車を牽き出す時はそれは可能であるが、単機では出来るわけがない。
 しかしこの方式を採用することにより、この模型のテンダがその質量の数十倍の慣性を持てば、実物のような慣性のある動きを再現するはずである。筆者は高校生の時からこれを考えていた。
 先日、ライヴスティームの平岡幸三氏にお会いするチャンスがあったので、この話を持ち出したところ、「それは面白い、是非やってください。」と背中を押して戴いた。

2010年12月20日

続々 慣性を考える

Duplicating some equalizersDuplicating an equalizing lever   丸い穴にはボールベアリングが嵌まる。その外周の丸みは、中心の穴にはまる軸を固定しておいて、刃物を高速回転させて工作物を廻して削る。簡単である。
 これを見て「危ない」と仰った方があったが、決して危なくはない。
 ただし、回転方向を間違えると喰い込んで致命的な失敗になるから、刃が喰い込まない方向に回転させ、さらに回転限界を決めておく。絶対に逆回転してはいけない。この写真の状態では、工作物は上から見て時計回りに廻す。小さなVise Pliers(固定できるプライヤ)で軽くはさみ、くるりと回転すると出来上がりである。

 このブラスは快削材ではないので、喰込みにくいラフィングエンドミルという刃物を使用している。さらにその刃先を殺して使う。要するに刃先角を大きくするのだ。これは近所の工場で教えてもらった。ダイヤモンド砥石で、そっとひとなでするだけで安全に使える。
 削った部品を外して、油目ヤスリで滑らかにして出来上がりである。
 最近は板材を含めて、材料を全て快削材で揃えている。レーザ・カットの工場はそんなことに無頓着で、普通のブラスを注文してしまったのである。使い切るまでは、しばらく我慢せねばならない。

Equalizer layout これを作っているのだ。このようなイコライザは全く見えないところで機能するので、寸法と穴の仕上げだけを丁寧にしてある。外見はどうでも良いのだ。


 さて構成をご覧戴きたい。図面でないので少々分かりにくいかもしれない。もっとも大きなイコライザにはピンが差してあり、それが折れるようになっている。黒い線は引きバネで引っ張る部分である。赤の矢印は荷重が掛かる点である。

 さて、軸重の配分はどうなっているだろうか。また、機種および目的は何であろうか。
 唐突な質問であるがメカニズムの設計についての久しぶりのクイズである。コメント欄を通じてお答え戴きたい。

 2.6 mm厚を中心にして、外側は 1 mmの板二枚で挟んでいる。仮組みすると、くねくねとよく曲がるが左右にはぶれない。

2010年12月18日

続 慣性を考える

 昔遊んだおもちゃの自動車のはずみ車は、車輪の回転速度の大体10倍から12倍位で廻っていた。全く怪しい構造のギヤボックスと、鉄板をプレス打ち抜きしたギヤの組合わせであったが、よく走った。しかしそのうちブラスのピニオンが擦り減って、御陀仏となった。小さい方の歯車が軟かい材料で作られているので、すぐ歯が無くなってしまう。そうすると、父は「ひどい設計だ。」と憤慨して、歯車を減っていない方に少しずらしてくれた。そうすれば、またしばらくの間走るようになったことを覚えている。このこともあって、歯車の組合せには人並み以上の注意が向くようになった。
 軸受も0.5mm厚以下の鉄板で、軟鋼の軸が嵌まっていた。摩擦が大きくてキーキー言った。しかし父にミシン油を注して貰うと、廊下の端から端まで、調子よく走った。エンジンオイルを使うと抵抗が大きくなることも分かった。
 
 回転体の慣性モーメントの計算は積分を使う数学の問題で出会った。工学を修めた方なら結果の式を暗記しているはずだ。筆者は覚えていないので、計算して求める。
 大事なことは角速度の2乗で効くことだ。2倍の速度で廻せば4倍になる。実はそれを現実のものにするために、現代の材料で、合理的な機構の試作を行っているところだ。運動エネルギを溜め込む装置が付けば、実物並みの慣性を持つ模型が出来る。これは筆者の高校生の時からの夢であった。いよいよその実現が近付いてきた。

duplicating a lever さてこの写真は、先日のレーザ・カットの失敗で挫折した部品を、手作りで増産しているところである。穴を開けてリーマを通し、シャフトを通して卦書く。ざっと荒取りしてシャフトを通し、ハンダで貼り重ねて周りを削り落す。
 久しぶりにフライス盤の前に立って数時間の作業である。最近はレーザに頼っていて、コツを忘れてしまったので時間が掛かるようになった。



2010年12月16日

慣性を考える

 栗生氏の撮影された動画をご覧になっていろいろな方から御意見を戴いている。
 一番多かったのは、「あの貨車はとても重いのでしょう?」というものである。重い貨車はよく転がるのだろうか。重ければ摩擦力が増えるから、重さで慣性の増した分は完全に相殺される。すなわち、重くても軽くしても、意味がないのだ。
 
 今、実物と同じ材料で貨車を作り、軸受の摩擦係数も同じであるとしよう。スケールスピードで転がすと、実物と同じ距離(スケールで同じ距離)を転がるだろうか。
 
 これは高校2年生程度の物理の知識があると簡単に導き出せる。結論を言うとサイズが1/48なら実物の1/48の距離しか転がらない。1/87なら1/87しか転がらないのだ。

 一定速度で動いている物体があるとしよう。運動エネルギが摩擦によって消耗することにより停止する。走る速度が1/48になると、運動エネルギはその2乗で効くので1/48×1/48になる。このことを模型に当て嵌めてみる。もちろん空気の抵抗は無視するものとする。

 今、貨車が実物と同じ密度の物質で作られ、同じ動摩擦係数を持つとする。スケールスピードで転がすと、運動エネルギが小さくなり、サイズが1/48なら 1/48 × 1/48の距離しか転がらない。しかし、観測者も1/48に縮んでいることを忘れてはならない。結局、その48倍の距離を走るように見える
 すなわち、

    1/48 × 1/48 × 48 = 1/48

の距離になる。

 この式を見れば、逆立ちしたって実物のように転がすのは無理であることが分かる。そうなると、あとは摩擦係数を実物の1/48にすれば実物の様に転がるはずであるが、これは不可能である。

 お一人だけ、「あの貨車には、はずみ車が付けてあるのでしょう。」とお聞きになった方があった。なかなか鋭い感覚の持ち主である。しかし、残念ながら何も付いていない単なる貨車である。軸受はピヴォットで、モリブデングリスが少し付けてある。
 昔よく遊んだはずみ車の付いた自動車のおもちゃは、実物並みの慣性を持たせるための賢い工夫である。内部に高速で回転する慣性モーメントの大きな物体があり、それに運動エネルギを溜めこんでいるのだ。


2010年12月14日

続々 Pantera氏の工房を訪ねて

Dan's Workshop5Dan's Work Bench 左の写真は塗装ブースの方を撮っている。天井の梁の隙間には客車の屋根材、床材をたくさん置いてある。左の棚にも沢山の屋根材が入れてある。長さ21インチ(約50cm強)の材料を端面が見えるように置くということは日本ではあまり見ない。こうしないと在庫の量を間違えるのだそうだ。
 工作台の向うの壁には工具をぶら下げたり磁石で付けてある。ヤスリを磁石で付けると、磁化してしまって鉄粉が付くのではないかと思ったが、ブラスしか削らないヤスリだから良いのだそうだ。鉄用のヤスリは別のところにしまってあるそうだ。よく使う道具を引き出しにしまうのは、効率を考えるとよくない。Garyの作業台もそうだが、必要な道具は目の前に置くべきである。最近、筆者も作業台の配置をGary風にした。
Diner InteriorDiner KitchenPullman Interior 組み立て中の食堂車の中である。重要なことは椅子と人形の配置だそうだ。細かいものを作っても見えないから意味がないそうだ。特にキッチンの中は省略せよとのことである。ただし皿をたくさん置くと良いそうだ。出来れば料理もあると良いという。皿はパンチで抜いたプラスティック板で十分である。
 プルマンの内装はこのようにモヂュール化したものを作って置くのだそうだ。
この程度で必要にして十分であると断言する。「誰も窓に目を着けて覗いたりしないよ。」と言う。「もしいたら偏執狂だよね。」
 そうだ。列車は走るところを見るもので、手にとって矯めつ眇めつするものではないのだ。そう考えればよいのだ。
UP Turbine どういうわけかUPタービンの塗装依頼も来ていた。

2010年12月12日

続 Pantera氏の工房を訪ねて

Dan's Workshop 地下の工作室に入る。せいぜい12畳くらいの大きさだ。O scaleの工作室としては小規模だ。しかも客車を100輌単位で仕上げるのだから、仕掛品の保管場所としても狭すぎる様に思う。



Dan's Workshop2Dan's Workshop3 今回は平積みであるが、先回は沢山の車輌が一山24輌の井桁積みになっていた。6輌ずつ直角に積むのである。地震のない国ならではの保管法である。


Dan's Workshop4 プライマは自動車用のものである。1ガロン(約4L)の缶がたくさんあった。




Dan's Paintshop2Dan's Paintshop これは塗装ブースである。宅地が広いので庭に排気を吹き出しても、どこからも文句が来ない。おそらく隣家はここが塗装工場であることすら知らないはずだ。



2010年12月10日

Pantera氏の工房を訪ねて

Dan Pantera聖地 3月にシカゴのO Scale Meetがあった。その時に旧知のPantera氏を訪ねた。現在のアメリカで最も実力あるカスタムビルダである。静かな住宅街にあり、誰もここがO Scaleの聖地だとは気が付かない。

 氏は歓迎してくれ、地下室の工房を見せてくれた。Back Orderが5年分くらいあって、もう注文の受け付けは出来ないと言う。Custom buildingをやめて、Easy Orderにするという方針転換をしたのだそうだ。
「この客車列車を12編成作るから、希望者は申し込んでくれ。」という形にしたという。「そうでなくては生きているうちに終われないよ。」とまで言う。
 超人気のカスタムビルダであるが、決して驕らず、淡々と仕事をこなす職人である。こちらのつまらぬ質問にも誠心誠意をもって答えてくれる。
 筆者がWalthersのキットを沢山持っているのを知り、いろいろなアドヴァイスをくれた。おかげで10台を同時進行で作っている。もう7割近く進行した。
 
Pantera Cars 彼の仕事ぶりを見ていると、手際が良いということに尽きる。長い時間かけてひねくり廻して作るのは素人で、プロは短時間にベストの形に持っていく。そのために部品を標準化して、一回の塗装で仕上がるような方法を採っている。
 それにしても仕上がりは美しい。思わずため息が出るような仕上がりである。このレベルに到達できる人は少ない。細かく見れば、あちこち省略してあったりするが、全体を見ると素晴らしい実感である。

 倉庫にはいろいろな製品のキットや完成品、ジャンクが山のようにあり、一つずつの箱を開けて見せてもらった。「希望すれば分けてあげる」と言ってくれたが、手持ちのキットの状況を考えると怖くて言いだせない。

Before and After Swap Meetでジャンクを買って来て仕上げるとこうなるという実例を、いくつか見せてくれた。この写真では$65とあるが20ドル足らずで入手したという話である。
 



Library 資料が無くては出来ない仕事である。資料室には図面集、写真集が山のようにある。この写真は半分も写っていない。 

2010年12月08日

Walthers の Diaphragm

Walthers' Working Diaphragm O scaleを始めた頃、Walthersの幌を見て感動した。実物のように折ってあり、伸縮する。しかし、Striker Plateが時々噛みあうので、その部分に透明なプラスティック板を貼って誤摩化さねばならない。MHPのような爪をつけて何とかならないかと思ったが、絶対にうまくいかない。

Striker Plate  この材質はなんというのか分からないが、横ずれに抵抗するのはゴムのように撓むことはないからだ。左のStriker Plateは横ずれしやすいように丸みをつけている。


HINODE MODEL Diaphragms このような材質の場合に横ずれを容認するような方法は襞の数を極端に多くする以外ない。
 HINODE MODELの和紙製の幌は、その点優れている。以前、サンプルを戴いたがもったいなくてまだ使用していない。これをアメリカで見せたら、みな仰天していた。

 HO以下の車輌で幌が密着して作動するのはまず見ない。車輌の重さが不足して脱線の原因になる惧れが大きいからだろう。せっかく精密に作っても幌に隙間があるのは残念だ。MHPの方式でしなやかな幌が出来ないものだろうか。

 いろいろな方からゴムの情報を戴いているが、残念ながらMHP方式に適するものがない。フィルムを貼り合わせる方法ではその部分の厚みが出るのでうまくいかない。やはりチューブ状でシームレスのものがよいのだ。

 半透明のものでは実感が無く、それに塗装すると剛性が出てうまくいかない。厚みが0.2mm程度、直径が25乃至30mmのネオプレンのチューブか風船があればよい。

 ネオプレンは紫外線、オゾンに対して抵抗力があり、劣化しない。普通のゴムは光が当たるとひび割れてボロボロになるが、ネオプレンはいつまでもしなやかだ。宍戸氏は化学者であったから、特にそこを強調したのである。

 MHPを使えば、多少突張っているので、Kadee連結器を使っても、遊間が無くなり、多少はスムーズな運転が出来るであろう。

2010年12月06日

続 Vestibule Diaphragms

MHP on #8 switch この写真は8番ポイントでの食い違い状況である。この程度のずれなら支障なく通過する。8番渡り線では単純に計算してこの倍である。やや苦しいが通過できるだろう。
 連結器はMonarchである。Kadeeに比べて左右のガタは許されないが、腕が長いので、ずれは吸収できる。

 幌が適度の弾力で押しあっていて、列車が一本の棒のような感じになる。貨物列車とは異なり、旅客列車は連結器のガタが許されないのでとても好都合である。

 Walthersの客車は妻板部分から屋根を留めているのでこのゴム幌の上の部分は指で捲れるようにしておく。普段は隠れていて都合がよい。
 Walthersの幌はやや腰が強く、また底が抜けているので、形が崩れやすい。要するに連結器と干渉する部分を無くしてしまったのだ。

 他にもいくつかの会社から、極端に軟らかいゴム製品が出ているが、MHPには到底かなわない。

 このゴムは一体どこで手に入るのか、随分探したが良いものが無い。一番近いものはアート・バルーン(子供のおもちゃの長い風船)の黒である。残念ながら天然ゴムのようで一月程度しか持たない。どなたかが、クロロプレンゴムの風船を探し出せれば、商品化も可能である。特許はすでに切れているから販売は自由だ。
 

2010年12月04日

Vestibule Diaphragms

 その昔のTMSに「宍戸博士の旅行カバン」という記事があった。氏は軟らかい連結幌を見つけて、興奮した文調でそれは伝えられた。「くねくねとよく曲がる。」とあったのだ。ネオプレン製と強調してあったことを覚えている。
 ヴェスティビュールとはデッキ付近(昇降口)のことである。ダイアフラムは横隔膜のことであるが、ここでは幌のことである。
MHP DiaphragmsMHP Diaphragms squeezed 長年その現物を探し求めていた。数年前の O Scale West でついに見つけた。たくさん入っている箱ごと、ごっそり買うことに成功した。
 これがその箱である。1組入っている。「MHPの幌」とあり、Patent2568684と誇らしげに書いてある。ネオプレン製と表記されている。ネオプレンゴムはデュポンの耐候性ゴムで、雨ざらしにしても割れたりしない。
 調べてみると1947年出願で、1951年に特許が降りている。ちょうど宍戸氏が渡米された頃である。20年ほど前宍戸氏にお会いした際、このことを聞いてみた。「あれはよろしいですな。しなやかでよく曲がりましたわ。」と嬉しそうに語られた。それから50年以上、この幌は素晴らしい弾力を保持している。

 極めて薄いネオプレンゴムのチューブを拡げて、枠を押しこんだものである。このゴムは直射日光にも耐え、長もちする。端面には薄いアルミ枠が付いていて、相手にはまって弾力で押しつけられ、抜けない。ポイントを通すと、本当にくねくねと曲がって気分がよい。ゴムはかなり長持ちするが、物理的に破れてしまうこともある。枠の角にはかなりのストレスが掛かっているから、そこが擦れると破れてしまう。すると破れは全周に拡がり、幌はちぎれてしまう。

 この方法はゴムの弾力を最大限に活用しているので、圧縮にもバネとして機能する。かなり軟らかく実に具合がよいが、HOには弾力が強すぎて難しいかもしれない。金属製で重い客車ならよいが、昨今のプラスティック製客車には適合しない惧れがある。
 当時の資料を見せてもらったことがあるが、一応 HO,OO用というサイズもあった。もちろんSゲージ用もある。

 この黒いネオプレン・チューブさえあれば、再生産は可能だ。組立て済新品を売っているところを探すのだが見つからない。 

2010年12月02日

続々々 Walthers の客車キット

Interior Layout 室内の様子を見るために椅子などを並べてみた。図面で見るのとは随分違い、楽しい作業である。
 椅子の色は深紅、紺、深緑などがあるので、それぞれに調色して塗装する。
いわゆるプルマン型開放寝台では、上部からも寝台が降りて来るので、その保持のために壁が必要である。上部寝台を作った例はさすがに見ない。

 室内は彩度を高くするというのがコツなのだそうだ。窓を通して見るので見える範囲が狭く、彩度を上げないと薄汚く見えるという。

 食堂車は厨房の内部を再現するのが難しい。当時は石炭を燃料としていた。Broilerと呼ばれる一種のオヴンとホット・プレートが主な加熱機器で、輻射熱で内部はさぞかし暑かっただろう。屋根には大きな煙突が付く。いわゆるコンロはない。鍋は鋳鉄のホットプレートに上に置いて加熱する。
 床はスノコ張りで、天井からは清水タンクがぶら下がる。食器戸棚が巨大だ。食器を洗うのは蒸気のジェットを使う。流し台は小さい。洗い終った食器は熱いからすぐ乾いて再使用できる。

 Coffee Pot は背の高いものが作り付けである。この燃料だけはガスのようだ。
 1930年代から、厨房の内装にはステンレス板が使われている。冷蔵庫は氷冷却で、天井から氷を投入する。その氷は1つ40キロもあり、力自慢の連中が一人で持ち上げて入れていたそうだ。その写真を見たことがあるが、大きな塊を氷挟みでぶら下げて、梯子を登っている。4つ入れるのだそうだから大変だ。

grab iron for ladder 屋根についている手摺は両端が曲がっている。それはこの人たちが梯子を掛けるためのものであることも教えてもらった。戦後になっても手摺は曲がっているが、それは点検用に梯子を掛けるためである。機関車の運転室前のフッドにも曲がったのが付いている。

 食堂車は美しい。食卓には花が飾られ、テーブルクロスは純白だ。銀器、陶器の皿、料理が並び、客はもちろんのことウェイタが立ち働く様子が再現される。

 名古屋鉄道模型クラブの会長であった荒井友光氏は、1950年ごろOゲージの食堂車を作り、床下にハンダコテのヒ―タを巻き直したものを付け、そこにベーコンを載せて走らせた。会場にその香りが広がり、観客は「進駐軍の食堂車だ!」と叫んだそうだ。時代を物語るエピソードである。

 この話をアメリカで紹介したら、「こちらでもそれをやった人がいる。」と言う。ポタージュ・スープに入れるベーコン風味の小さな塊を加熱するのだそうだ。「インスタント・コーヒーを温めると良く匂う。」と言う人もいる。考えることは皆同じだと思った。

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